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きょうの潮流 2023年7月31日(月)
おととい東京の夜空に色とりどりの大輪の華が咲きました。コロナの影響で4年ぶりの開催となった「隅田川花火大会」。主催者によると100万人をこす観客が訪れ夏の風物詩の復活を楽しんだといいます▼いまの名称としては1978年から46回を数えますが、成り立ちは古い。江戸時代にあった大飢饉(ききん)と疫病のはやりによる犠牲者の供養と悪疫退散を祈った「両国の川開き」。そこで打ち上げられた花火が始まりといわれてきました▼これまでは徳川吉宗の頃の話として伝わってきましたが、両国花火資料館によると近年新たな記録が見つかり、開始時期がさかのぼりました。1628年に浅草寺にきた天海僧正が舟遊びの際に観賞したのが隅田川花火の最初だと▼いずれにしてもおよそ400年の間、人びとを魅了してきた花火の文化。そこには追悼や納涼とともに国威発揚に使われた歴史も。明治期には天皇の行事の際や景気づけにたびたび打ち上げられ、日露戦争時には祝勝用の花火の注文が殺到したそうです▼幕末の混乱や関東大震災、太平洋戦争などで中止される期間もありました。戦後再開されたときには、この日を心待ちにしていた人波がおしよせ、平穏な空を見つめていたといいます▼「花火が見られることは、世の中が平和であることの証しだった」。東京大空襲で多大な犠牲者を出した墨田区の開催にあたっての資料にはそうつづられています。この夏、各地の夜空を彩る花火大会。あなたは、なにを思って見上げますか?
きょうの潮流 2023年7月30日(日)
連日の猛暑。各地で熱中症警戒アラートが頻発するこの夏、聞きなれないもう一つのアラートを耳にしました▼救急車ひっ迫アラート。東京消防庁が救急車の適時・適切な利用を求める目的で導入しました。7月から運用を開始し、救急出場率が90%を超えた10日、初めて発令。その後も熱中症の急増に伴い繰り返されていますが、救急車を呼ぶか迷った場合は#7119などの専用ダイヤル利用を促しています▼熱中症予防には適切な水分摂取とエアコン利用が不可欠ですが、電気代の値上げもあり利用をためらう市民も少なくありません。大阪民主医療機関連合会の昨年の調べでは、801件の調査のうち、自宅の冷房使用について「ほぼつけない」「不所持」が合わせて1割強にものぼっています▼「暑く感じない」「もったいない」などの理由が挙げられ、熱中症の背景には「貧困と孤立が」との指摘も。電気代の高騰だけでなく、生活苦や低福祉などが絡み合っています▼救急外来で熱中症の治療にあたる谷川智行医師(東京衆院候補)は自身のツイッターで、救急医療ひっ迫の実情とともに、自宅にエアコンのない高齢者ら熱中症患者の生活実態に言及。「若い人も熱中症で運び込まれてきます。屋外作業で過酷な働かせ方をされている影響がある」とも▼「地球沸騰の時代」とまでいわれる昨今、この暑さは生命の危機に直結します。政治と暮らし、生命は地続きです。二つのアラートから日本の社会が抱える深刻な姿が見えてきます。
きょうの潮流 2023年7月29日(土)
なぜ、どうして―。疑問に思ったことを納得できるまで聞くことができる。戦争の理不尽さを味わったひとりの若者にとって、それが民主主義でした▼自由な問いかけは人間や社会の根源に向けられ、のちの活動につながっていきます。現実の生活について討議し、考え、行動までも推し進めた「山びこ学校」のつづり方教育。どんな質問も子どもの心になって一緒に答えを探した「全国こども電話相談室」▼ほんものの教育とはなにか、私たちはいかに生きるべきか。教育者として、宗教者として、戦後のあゆみのなかで追い求めてきたのが無着成恭(むちゃくせいきょう)さんでした。一貫して訴えたのは国家の教育から人間の教育へ。そして、反戦平和の思いでした▼「和をもって貴しとなす」。聖徳太子が定めた十七条憲法の第一条は仏教の根本にある考え方で現行憲法の9条に結実していると語っていました。ほんらい和を大事にする国が二度と戦争はしないと誓った憲法をとことん守らねばと▼「武器は人間にしあわせをもたらさない」と軍拡や核に固執する動き、沖縄の米軍新基地には反対の声をあげてきました。一方で人権やくらしを守るメッセージも。そこにあったのは権力に対する不信感と人間への信頼でした▼無着とは、物事に執着しないという禅語だといいます。山形の寒村にある寺で生をうけ、ひょうひょうとしながらも戦争で生き残った意味を問い続けた96年の人生。その人の死後は生きている人の心のなかに生きている。生は死で完結すると。
きょうの潮流 2023年7月28日(金)
「小さな政府」、新自由主義経済など米国の保守政治を象徴したのがレーガン大統領(在任1981~89年)でしたが、同氏は、歴代大統領で唯一、労働組合の委員長経験者でした▼レーガン氏がかつて委員長を務めた全米映画俳優組合が14日からストライキに入っています。脚本家組合との同時ストは63年ぶり。当時、俳優組合を率いたのがレーガン氏でした。ただ大統領就任後は、連邦航空管制官のストに介入し、1万人以上を解雇するなど「20世紀で最も反労組の大統領」と評されました▼レーガン時代に押し込められた労働運動が今、再び盛り上がりを見せる米国。ハリウッドをはじめ輸送、自動車業界でも労働協約の改定時期を迎え、労組はストも辞さない構えに、「熱い労働運動の夏」と注目されています▼映画テレビ業界の俳優たちは、ネット配信時代にふさわしい賃上げ、人工知能(AI)の規制と、生活保障の抜本改善を求めます。俳優たちの生き残りを懸けたたたかいです▼ハリウッドと聞けば、きらめくスターを連想しますが、それはほんの一握り。ひとたびストとなれば、多くはアルバイトで食いつながなければなりません。わずかな貯金を取り崩すことに▼それでもスト実施を決めた俳優組合のドレシャー委員長は力強く訴えました。「俳優たちが直面する問題は今、あらゆる労働現場で起こっている」と。富を労働者に還元しない強欲な経営陣は「歴史の流れに逆行している」と喝破しました。たたかう者の誇り高い言葉です。
きょうの潮流 2023年7月27日(木)
韓国ドラマ「愛の不時着」が日本でも大ヒットしたのは3年前でした。韓国の財閥令嬢と北朝鮮の軍人男性が真実の愛にたどりつく物語。南北を断ち切る軍事境界線を越える場面が象徴的に描かれていました▼放送前に南北の首脳が3度の会談を重ねていたこともあり、当時は北朝鮮にむける韓国内のまなざしにも変化があったといいます。ドラマの視線も温かいと分析した社会学者も▼いまはどうか。北朝鮮はミサイルを撃ち続け、韓国軍は米軍とともに過去最大規模の実弾演習を断行しています。北朝鮮からの「全面攻撃」を想定して。核をめぐる互いの動きも緊迫を増し、不信と不安をいっそう募らせています▼大国の思惑によって同じ民族どうしが争い、数百万人が犠牲になった朝鮮戦争が休戦となってからきょうで70年。協定で設けられた軍事境界線はいまも分断と対立の最前線となり、戦争はなお続いています▼朝鮮半島の対立激化やロシアによるウクライナ侵略は、軍事や同盟強化の動きを地域だけでなく世界中にひろげています。日本でも岸田政権が大軍拡にふみだしていますが、それで平和がつくれないことは歴史が物語っています▼お互いを排除するのではなく、対話と合意をつみ重ねながら、少しずつでも不信感をぬぐっていく。大国の思惑に左右されない国づくりとともに。分断された半島に和解の機運が表れたとき、多くの人々が抱いた思いを現実とするためにも。
きょうの潮流 2023年7月26日(水)
スリランカの民話に、親を失った子ネズミたちが猫の一家に引き取られる物語があります。種の違う生きものの共生がうかがわれ、興味深い▼中島京子の小説「やさしい猫」はこれに着想を得たもので、現在NHKでドラマを放送中です。一人娘を育てるシングルマザーのミユキがスリランカ人のクマさんと出会い結婚へ。ところが、クマさんはオーバーステイ(超過滞在)を問われて、入管施設に収容。偽装結婚と決めつけられて▼強制送還を恐れるクマさん。病気を訴えても医者に診てもらえない。「人間として扱ってほしい」。クマさんの叫びは悲痛です。演出の柳川強ディレクターは「世の中で何が起こっているのか? ぜひとも皆さんにご覧いただきたいのです」とツイートしました▼実際に一昨年、名古屋入管に収容されていたスリランカ人のウィシュマさんが必要な医療を受けられず命を落としています。07年以降、少なくとも18人が収容中に亡くなりました。17年にベトナム人が死亡した事例が、中島さんが小説を書く動機にもなりました▼まかり通るのは、在留資格がない外国人を原則として入管に収容する「全件収容主義」。入管の裁量で無期限にも及びます。人権無視に国連から是正勧告が出されています▼ドラマは29日が最終回です。ミユキはクマさんの退去強制処分の取り消しを求めて裁判に立ち上がりました。家族のささやかな幸せを願う訴え。それは国の姿勢を問うものでもあったのです。さて、どんな結末を迎えるか―。
きょうの潮流 2023年7月25日(火)
結党の理念に掲げています。「私たち日本国民にはこれまでの慣習を打ち破り、新しい政治の実現によって日本の未来を豊かにする、新たな政治勢力が必要である」と▼地域政党から出発し合流や抗争、分裂をくり返してきた日本維新の会です。「我が国が抱える本質的な問題の解決に真正面から取り組み…」。いまや国政政党として一定の地歩を築いていますが、本質的な問題も「国民生活を豊かにする」道筋も見えてきません▼「第1自民党と第2自民党が改革合戦をして国家国民のために競い合うべきだ」。維新の馬場代表がみずからの党を「第2自民党でいい」と認めました。これでは自民党内の派閥争いとどう違うのか▼しかも競い合うのは悪政の推進です。これまで改憲や核の共有をはじめ、自民党でさえ踏み込めなかった領域に押し入る先兵としての役割を果たしてきましたが、さらに立場を鮮明に▼自民政治と対峙(たいじ)し新しい政治をめざしてきた共産党のことを、馬場代表は「日本から無くなったらいい政党で、言っていることが世の中ではありえない」と。百年余の歴史があり全国に党員や支持者をもち、社会に根ざす公党を無きものとする。まさに戦前ばりの暴言です▼憎悪と排斥の感情をあおりたて敵をつくり徹底的にたたくことで支持を集めようとする。関西学院大の冨田宏治教授らの共著『日本維新の会をどう見るか』が維新政治の特徴を表しています。対するのは、寛容とリスペクトに基づく市民の共同と連帯の発展だと。
きょうの潮流 2023年7月24日(月)
各地の小学校で夏休みが始まりました。子どものころ、長い休みがすぐに終わってしまう感覚がありました。おとなになると、1年が短く感じるという人も多い▼あっという間に過ぎる時間と、ゆっくりと進む時間があるのはなぜか? 時間には計測できる物理的な時間と、心の中の時計で計る心理的な時間があると一川(いちかわ)誠・千葉大教授はいいます。感じる時間は身体の代謝や空間認識、体験の違いなど、さまざまな要因で伸びたり縮んだりすると▼大量の情報と商品に囲まれる現代。いま時間当たりの効果や満足度を示す「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する人が増えているそうです。NHKのクローズアップ現代でもとりあげていました▼短時間で栄養がとれる食事、ながら聴きや倍速視聴で節約した時間を「推し」とかかわったり、癒やしや大切と思ったことにあてたり▼日本時間学会の会長も務める一川教授は、現代人の時間が速いのは忙しすぎるせいもあるとします。過去をふり返る時間もなく、出来事が記憶にも刻まれず時が過ぎてゆく。そこには時間を厳密化、高速化、均質化していく経済効率最優先の資本主義の弊害があると指摘しています(『「体感時間」は変えられる』)▼一生を90年とし三分の一が睡眠にあてられると仮定すると、活動している時間は53万時間に。自分の時間をとり戻し、人生を豊かにするために、限りある時間をどう過ごせばいいのか。それは、どう生きていくかということにもつながるでしょう。
きょうの潮流 2023年7月23日(日)
仕事が終わらないから働き続けているのに、「本人が自主的にやっていること」だとして残業代も払われない―。そんな理不尽なことが教員の世界では長年にわたってまかり通っています▼その元になっているのが52年前に自民党政府が野党の反対を押し切って成立させた「教員給与特別措置法」。いわゆる「給特法」です。公立学校の教員には残業代を支給しないと定めるとともに、特別な場合を除いては教員に残業を命じないことになっています▼しかし教員が深刻な長時間労働を強いられていることは多くの人が知るところとなっています。文部科学省の調査でも公立の小中学校教員は1日平均11時間半の勤務をしています▼残業を命じていないはずなのに長時間労働しているのはなぜ? 「本人が自主的に仕事をしている」というのが行政側の答えでした。そうやって残業代もなしで働かせ放題にするという現状を放置してきたのです▼先日、長時間労働の末に亡くなった富山県滑川市の中学教員の遺族が損害賠償を求めた訴訟で、富山地裁が県と市に計約8300万円の支払いを命じました。教員は土日もテニス部顧問として勤務していました。「部活動の指導は教員の自主的な活動」と主張した市に対し、地裁は「全くの自主的活動とはいえない」と断じました▼ようやく当たり前のことが通ったといえます。いま教員不足が深刻です。教職を目指す若者たちに希望を届けるためにも、異常な働かせ方をただちに改めなければいけません。
きょうの潮流 2023年7月22日(土)
東京電力福島第1原発事故をめぐり損害賠償を求め賠償が確定した裁判の原告に、東電が社長名の文書で公式に謝罪しました。今週、南相馬訴訟といわき市民訴訟の各原告に相次いで行われました▼社長は「取り返しのつかない被害および混乱を及ぼしてしまったことについて、心から謝罪いたします」と。同様の集団訴訟で最初の謝罪が、昨年6月の福島原発避難者訴訟の原告に対してでした▼その団長の早川篤雄さん(故人)がよく語っていました。「これまで東電に『真摯(しんし)な謝罪』を求めてきましたが、『ご迷惑をかけた』『お詫(わ)びします』という態度。加害者としての謝りがない」と。加害責任を認めての謝罪を拒否してきたというのです▼謝罪は原告が求める一歩でした。謝罪文にはこんな一文も。「高裁判決の判決文のご指摘について…真摯に受け止めており」と。今年3月の判決では、津波対策を先送りした東電の対応を次のように指弾しています▼「経営上の判断を優先させ、原発事故を未然に防止すべき原子力事業者の責務を自覚せず、周辺住民の生命身体の安全や環境をないがしろにしてきたというほかはない」。しかし、こうした指摘の一部も入っていない謝罪文。原告は「真摯な態度と言えない」と語りました▼東電の真摯な対応が問われるのはこれにとどまりません。「アルプス処理水」の海洋放出問題では、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と福島県の漁業者と約束しています。反故(ほご)にすることは許されません。
きょうの潮流 2023年7月21日(金)
炎天下、走って階段を上り下りする学生の集団を見かけました。運動部のトレーニングでしょうか。くたくたの姿をみていると心配になります▼この暑さでスポーツの場でも病院に運ばれるケースが相次いでいます。熱中症の対策をとっても倒れたり具合が悪くなったり。そんななか世界的な陸上競技選手だった為末大(ためすえだい)さんがこんな提言を。「夏季期間において10―17時は18歳以下のスポーツ大会を禁止する」▼日本スポーツ協会は「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」で、35度以上では原則運動を禁止する(特に子ども)とのガイドラインを示しています。今の日本は気温の上昇が著しく、それに従えばすでに大会もトレーニングもできない状況が続いていると▼昔とはちがう危険な暑さ。実際、東京周辺で30度以上となる時間数は80年代前半には年間200時間程度でしたが、2000年代に入ると約2倍に増え、時間も範囲もどんどん広がっています▼命や健康を脅かす暑さは働く人たちにも。熱中症による労働災害は増加傾向にあります。ギリシャのアテネにある世界遺産アクロポリスでは、従業員らが猛烈な暑さを理由にストライキを決行するといいます。観光客だけでなくスタッフの健康を守るために▼これまでとは異なる対応が求められる暑さ。しかし現実には、エアコンをつけてと呼びかけられても電気代が高くてちゅうちょしてしまうという声も。気候危機とともに目の前に迫る危険への対処を国は真剣に考えるときです。
きょうの潮流 2023年7月20日(木)
昔から依存症のことを“男らしさの病”“女らしさの病”と呼んでいます―。精神保健福祉士の斉藤章佳さんは、近著『男尊女卑依存症社会』でこう書いています。アルコール依存症は男性、万引き依存症は女性が多いなど、男女差が大きい背景に何があるのでしょうか▼50代のAさんは、若い頃から業務と接待に没頭し、順調に昇進しますが、接待漬けでアルコール依存症に…。ついには仕事中にも隠れて飲むようになりました。いつの間にか依存症になってしまうサラリーマンのリアル▼ワーカホリック(仕事中毒)はアルコール、痴漢、性暴力、DVなどさまざまな依存症のトリガー(引き金)になっている、と斉藤さん。そこにあるのは、「勝つために努力する、弱音を吐かずにひたすら仕事、というのが男性のあるべき姿」とされ、誰もがワーカホリックに一歩一歩近づくしかない社会状況です▼“男は仕事”と対になるのが“女は家”。女性が無償でケア労働を担わされる現実です。そのことが男女の賃金格差に反映しています。「男らしさ」「女らしさ」への過剰適応が生きづらさとなり、さまざまな依存症につながるのです▼先日公表された「国民生活基礎調査」によると、子どもの貧困率は11・5%となりました。とくに、ひとり親世帯の貧困率は44・5%もあり、その9割が母子世帯です。男女賃金格差が母子世帯の貧困に重くのしかかっています▼「らしさ」の呪いともいうべき日本が抱える病。処方箋はジェンダー平等です。
きょうの潮流 2023年7月19日(水)
ryuchell(りゅうちぇる)さんの突然の訃報から1週間がたちました。喪失感が日ごとに募ります▼インタビューしたのは一昨年末。著書の『こんな世の中で生きていくしかないなら』というタイトルと、キラキラしたイメージとのギャップに、ぜひ会いたい、と思いました。トランスジェンダーであることを告白する前でしたが、本当の自分を隠して生きる苦しさを率直に語ってくれました。沖縄出身で平和への思いも特別でした▼自身にとって「この世はつらいことばかり」でした。「争いは多いし、理不尽なことも多い。だとしたら、自分がどうありたいかを軸にした方がラク」。しかし、誹謗(ひぼう)中傷はやむことがありませんでした▼「自分の生き方を見せることでマイノリティーの人を励ましたい」とも。それがメディアに出る唯一の理由でした。今年1月には、YouTubeで同じ悩みを持つ人に「あなたが見ている世界がすべてじゃない。信じてほしい」と。涙をぬぐい、自分を鼓舞しているかのようでした▼認定NPO法人「ReBit」の調査(2022年)では、10代LGBTQの48%が過去1年に自殺を考えたことがある、と回答。14%が自殺未遂を経験しています。驚きの数字です▼トランスジェンダー訴訟で前進が見える一方、アメリカの州では性的少数者の権利を制限する反LGBTQ法の動きも。世界は大きく揺れています。みんなにとって柔らかくて安心できる社会を望んだryuchellさん。後退があってはなりません。
きょうの潮流 2023年7月18日(火)
第169回芥川賞があす発表されます。事前に候補作を一気読みして受賞作を予想するのが、恒例の楽しみになりました。今回の5作も現代の重い課題を突き付けます▼己の浅はかさを痛感させられたのが市川沙央『ハンチバック』(「せむし」の意)。先天性の筋疾患を持ち人工呼吸器と電動車椅子を使って生活する著者が、生きるほどに壊れていく身体を活写し、健常者の無知と傲慢(ごうまん)を暴きます▼児童ポルノの社会的要因を告発したのは児玉雨子『##NAME(ネイム)##』。小学生時代にジュニアアイドルの活動をしていた主人公は、自身が性的搾取の被害者だったことに気づきます。性的対象物として消費された日々、自分を取り戻す祈りのような呼び名がありました▼千葉雅也『エレクトリック』は、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件の起きた1995年の地方都市を舞台に、同性への性的指向を自覚する少年の精神の彷徨(ほうこう)を描きます▼石田夏穂『我が手の太陽』は熟練の溶接工が主人公。熱炎に魅入られ、肉体労働者とさげすまれても仕事が自分の価値そのもの。しかし腕が鈍り始め、人間の誇りも存在意義も崩れていって…▼乗代(のりしろ)雄介『それは誠』は、複雑な家庭で育った高校生の僕が、生き別れのおじさんに会うため同級生たちの協力を得てある計画を実行する冒険物語。人の悲しみを思いやる気持ちの宝石のような美しさを見せてくれました。受賞作に限らず、自分にとっての大切な一冊が見つかるかもしれません。読んでみませんか。
きょうの潮流 2023年7月17日(月)
空があって、山や川があって、森や花々があって、その風景にとけこむ人びとのくらしがある。ときには鳥が空から見下ろすように、あるいは虫が間近で観察するような世界が広がります▼北海道から沖縄まで全国をめぐり、失われゆく「ふるさと」を描いた原田泰治さん。昨年3月に81歳で亡くなりましたが、その名を冠した長野・諏訪市の美術館でいま追悼展が催されています。開館25周年をむかえ、1周年記念に開催した「鳥の目・虫の目 日本の旅」を復刻しました▼原田さんは生後すぐに小児まひにかかり両足が不自由に。それが鳥の目と虫の目をもつことにつながったといいます。同じ作風で映しとってきた自然の美しさやそこに生きる人たちの姿。ひたすら一本の道を歩みつづけた画家でした▼今年5月にはしのぶ会も開かれ、足跡や叙情ゆたかな作品に改めて光が当てられています。それぞれの思い出や懐かしい情景とともに▼戦争や環境破壊、気候危機。人間の手によって様変わりしていく「ふるさと」。原田さんの絵からは原風景やみずからの原点に立ち返ることの大切さが伝わります。「日本のよき部分を未来の子どもたちへのお土産として描き残しておきたい」と▼彼の作品には、もう一つの特徴があります。それは温かみを感じさせるほおの赤みこそあれ、人の顔に目や鼻、口が描かれていないこと。その理由は、見る人が心の目で自由に想像してほしいとの思いから。人びとが心のなかで描く、あるべき風景を信じて。
きょうの潮流 2023年7月16日(日)
トラブルが相次ぐマイナンバーカード。「『誰一人取り残さない』デジタル化の実現」と岸田自公政権は宣伝します。実態はどうなのか―▼証明写真に頭部を支える車いすのヘッドレストが写りこんでいた、全盲のため黒目が写っていない…。そうした理由で写真の撮り直しを求められた障害者ら。カード作成からはじかれてしまいます▼重度障害のため意思表示ができない人に代わり、家族が作成にかかわるのも厄介です。健康保険証と一体化するなら、医療が欠かせない重度障害者への保障こそ必要なのではないか。「障害者を排除する政府の姿勢は許せない」と憤りの声が上がるのも当然でしょう▼幼少期にポリオを発症し手足にまひがある女性(72)は「デジタル化でかえって不便になっています」と。スーパーで支払いをするとき、車いすからはセルフレジの精算機タッチパネルに、手が届きません。周りの人にタッチパネルを操作してもらうには数回頼む必要が。デジタルバリア(障壁)だと訴えます▼視覚障害者の場合、タッチパネルに手が届いてもタッチする場所がわかりません。視覚障害のある山城完治さんは「デジタル化で、やれることが遠ざかっています」。そこには多くの人を取り残しながらすすめられている現状が▼1981年の国際障害者年にちなんで、国連決議文は指摘しました。「ある社会がその構成員のいくらかの人々をしめ出すような場合、それは弱くもろい社会なのである」。岸田政権にこのことばを届けたい。
きょうの潮流 2023年7月15日(土)
地球を取り巻く環境や、この星に息づく命のことをもっと知りたい。志を抱いて新天地をもとめた18歳の青年は、いま社会の仕組みを学ぶ機会を得たことを喜んでいます▼いままで政治に感じていた「漠然とした不満」。その源はどこから来ているのか。日本の政治のおおもとにある二つのゆがみから生じているという指摘に頭が整理されたといいます。ことし大学進学とともに、日本共産党に入りました▼9条をもつ国の政権が軍拡に走る。非正規が増えて格差が広がる一方で大企業ばかりが潤う。アメリカいいなり、財界いいなりの政治でいいのか。疑問から、現実を変えたいという思いへ。それを周りの人たちと共有したいと話します▼ひとの命が優先されていない―。将来は高齢者の施設で働きたいという大学生は資本主義の仕組みを学ぶなかで、人間らしい生き方を模索します。教職をめざす学生は教員不足や教育の内容がゆがめられている現状に、政治とのかかわりを▼ともに民青同盟から党へ。みずからの生き方を社会進歩と重ねる若者の姿はいつの時代もまぶしい。人権や人間の尊厳を守ろうとする意識、他者に寄り添う気持ちも強くなっています。そんな新入党者を迎えた支部も活気づいて▼先日93歳で亡くなった詩人の小森香子さんは戦争を体験し、戦後は共産党員として歩んできました。「いのちとくらしに光/人びとに平和と愛を/未来に生きるよろこび/その胸にくれないのばらを」(ばら断章)。きょう党創立101年。
きょうの潮流 2023年7月14日(金)
子ども時代から両親にこう言われ育ったと自伝にはありました。「いじめには立ち向かえ」「正しいことをせよ」。後に「モノ言う選手」と評される根っこがここにあります▼サッカー女子米国代表のミーガン・ラピノー選手(38)。20日開幕のワールドカップ(W杯)を前に今秋の引退を表明しました。足跡はフィールドを超え広がります。2012年ロンドン五輪、2度のW杯を制覇。19年W杯はフォワードとして得点王と最優秀選手に輝きます▼このとき米国代表は、「もう一つのたたかい」を挑んでいました。男女間の格差是正です。優勝後、スタジアムからは「平等な報酬を」という後押しのコールが何度も響きました。当時のW杯賞金総額は男子の約8%だけで、選手は代表の男女同一報酬を求め、米国連盟を提訴していたからです▼たたかいは足かけ10年余り。何度もはね返されつつ、その度に励まし合い、戦略を立て、任務を分担し、粘り強くたたかう。いつもその中心でした。昨年、ようやく平等な報酬の枠組みを勝ち取ります。「勝利とは、ほかの誰かを踏みつけることではなく、他者を支援するために全力を尽くすこと」。これらを経て培った哲学です▼同性愛を公表し、性的少数者の権利を守る活動をし、反人種差別でも先頭に立つ。「人のために立ち上がって。大きな理念や目標のために声を上げて」。その呼びかけは、自身の生き方そのものです▼まだまだ厳しい女子の環境。最後のW杯でどんな勇姿、言葉を残してくれるのか。
きょうの潮流 2023年7月13日(木)
アメリカでは以前、トイレが四つに分けられていました。男女それぞれと白人用と黒人用。その頃、日本から出張した会社員がどのトイレに入ればいいのか迷ったという逸話も▼「トイレは、社会の平等達成の水準を示す立派な尺度である」。さまざまな差別問題を研究する韓国の大学教授キム・ジへさんが著書『差別はたいてい悪意のない人がする』のなかで説いています▼すべての人に必要な空間であるトイレがどのように設計され、どう区別されているかを見れば、その社会が人びとをどのように区分し、だれが主流でだれが排除されているのかが一目でわかると。そして、みんなにとって平等なトイレとはどのように設計されるべきなのかと問いかけています▼出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人が職場のトイレを自認する性で使えるべきだ―。戸籍上は男性ながら女性としてくらす経済産業省の職員が省内の女性トイレの使用を長く制限されたことをめぐり、国の対応は違法だと最高裁が判断しました▼「上告人にとっては人として生きていくうえで不可欠ともいうべき重要な法益」。判決は性的少数者への尊重や十分な配慮を促すとともに、共生社会をつくるための議論や合意形成を呼びかけました▼みずからの尊厳をかけて訴えた職員は「大事なのは社会生活。トイレに限った話ではなく、ほかの職員と差別がないようにしてもらいたい」と。トイレからみえてくる社会の平等。今回の判決がその一歩となるように。
きょうの潮流 2023年7月12日(水)
高気圧ガール、悲しみのJODY、さよなら夏の日―。山下達郎さんの夏の定番ソングがラジオから流れていました。曲にのせてよみがえる思い出。それさえも色あせてしまう…▼「数々の才能あるタレントさんを輩出したジャニーさんの功績にたいする尊敬の念は今も変わっていません」。山下達郎さんのジャニー喜多川氏への発言がSNSなどで炎上し、批判の声が広がっています▼きっかけは音楽プロデューサーの松尾潔さんが長く業務提携してきた芸能事務所から契約を解除されたこと。松尾さんは喜多川氏の性加害やジャニーズ事務所の対応をメディアで批判。それが理由で、当の芸能事務所に設立からかかわる山下さんも今回の方針に賛同したといいます▼山下さんは9日放送のラジオ番組で「松尾氏がジャニー喜多川氏の性加害問題にたいして臆測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因だった」と話しました。自分は性加害の事実を知らず、本当にあったとすれば許し難いことで第三者委の調査も必須だと▼一方で、縁も恩もあるという喜多川氏について「プロデューサーとしての才能を認めることと、社会的・倫理的な意味での性加害を容認することとは全くの別問題」だとして「作品に罪はない」とまで▼重い口を開いた被害者たちは周りが目をそむけてきた性暴力とともに芸能界の闇を告発しました。功績と性加害を分けて評する大物ミュージシャンの言動は罪をかばい、被害者をさらに傷つけることにならないか。
きょうの潮流 2023年7月11日(火)
もはや支離滅裂―。マイナンバーカードとの一体化で来年秋の廃止を政府が決めた健康保険証。相次ぐトラブルで国民の不安が高まる中、河野太郎デジタル相はマイナカードの名称変更まで言いだしました▼一方、松本剛明総務相は、認知症の人たちを対象に暗証番号不要のマイナカードを交付する、と。しかし手続きは誰がするのか。なりすましのリスクは…。被害に遭ってもデジタル庁は責任を負ってくれません▼政府は、現在指摘されている課題への対策を盛り込んだ新マイナンバーカードを2026年度中に導入する方針も打ち出しました。不完全なものを見切り発車で進めてきたことを、自ら証明するようなものです。まともな政権なら、ここで一度立ち止まるのが道理でしょう▼そもそもカードの作成は国民の自由だったはずです。法律にもそうあります。世論の大半が「延期・撤回」を求める中、なぜ、やみくもに健康保険証廃止を急ぐのか。テレビのキャスターが決まって首をひねるのは、このことです▼背景に財界の圧力があったと本紙日曜版(7月9日号)が伝えています。マイナンバー制度は最初から巨大利権の温床でした。マイナンバー検討委員の企業7社が、関連事業の8割を独占していました(本紙2015年10月15日付)▼事の本質は、膨大な個人情報が財界の食い物にされようとしていることです。特に個人の病歴などは究極のプライバシーです。脅かされているのは国民皆保険制度だけでなく人間の尊厳そのものです。
きょうの潮流 2023年7月9日(日)
献金のしかばねの上に築き上げた城―。元2世信者がそう呼ぶ豪華施設が韓国の清平(チョンピョン)にあります。統一協会が聖地とする場所に今年5月、総工費500億円ともいわれる「天苑宮」が完成しました▼本紙取材班によると、リゾート開発も進行。日本の信者に1家庭あたり183万円もの献金が呼びかけられ、協会の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁は「伝道」を10倍化するよう指示しました。多くの人びとを破滅に追い込んだ組織の実態は今も変わりません▼安倍元首相の銃撃事件から1年を前にして、最近の韓総裁の発言をメディアがとりあげています。「日本は原罪の国。賠償すべき」「日本の政治家と岸田をここに呼びつけ、教育を受けさせなさい」。巨額の吸い上げや日本の政治を支配する欲望がありありと▼この組織の反社会的な活動とともに、長きにわたる自民党との深い関係が明らかになった安倍氏への襲撃。しかし被害者の救済をはじめ多くの問題は未解決のままです▼関係を断つことを党の基本方針として徹底すると公言していた岸田首相も、本人任せのおざなりの対応に終始。協会の違法性を追及してきた全国霊感商法対策弁護士連絡会は、協会と政治家の癒着を明らかにして関係を断絶するよう改めて求めています▼事件発生から1年となった8日には、各地で献花や追悼する姿が見られました。決して許されない行為にまで至った、つよい憎しみとは…。暴力による悲劇をくり返さないためにも、社会に巣くう闇を解き明かさなければなりません。
きょうの潮流 2023年7月8日(土)
感染症とのたたかいはやはり一筋縄ではいかないようです。日本医師会は新型コロナウイルスの「第9波」に入ったとの見解を示しました▼とりわけ深刻なのは沖縄県です。定点報告数が5月中旬から今月はじめにかけて4倍以上に急増しました。全国的にも倍増している状況です。多くの人が移動する夏休みを目前に不安が広がります▼筆者のまわりにも新型コロナの「5類」移行後、初めて感染した人は少なくありません。世界保健機関(WHO)の6月末報告によると、この時期に感染が急拡大している国はほとんどありません。では、なぜ日本で急拡大しているのか▼ある専門家は、日本には夏前に梅雨があり、屋内ですごす時間が長く、人の間隔が密になりやすく、飛沫(ひまつ)感染が起こりやすいからだと指摘します▼政府の責任も問われます。新型コロナは深刻な後遺症など未解明の部分も多く、「ただの風邪ではない」と多くの専門家が指摘しているにもかかわらず、一方的に「5類」へ移行。全数把握も中止し、既にコロナは存在しなくなったかのような対応が、警戒感を緩める要因になっていることは明らかです▼一人ひとりのところでは、定期的に窓を開けての換気、こまめな手洗い、密になりやすい場面でのマスク着用、体調が悪いときは休むという基本を徹底することは言うまでもありません。政府には、必要な検査・医療体制を整える責任が。それを怠れば、事実上、コロナ失政で倒れた過去の政権の二の舞いになりかねないでしょう。
きょうの潮流 2023年7月7日(金)
きょうは七夕です。子どもの頃、ササに飾った五色の短冊に何を書いたか、もう覚えていませんが、いくつになっても願いごとはあるものです▼もとは織姫にあやかり裁縫や詩歌といった手習いの上達を宮中行事で願っていたそうです。七夕が庶民に広がった江戸時代には願いごとも多様になり、いまでは何でもありの感がします▼実際、役所や商店街に飾り付けられた昨年の短冊には、コロナや戦争の終わりを願うものが多く見られました。今年の同じ場所のそれには、家族の幸せとともに世の行く末を案じるものが目につきました▼きょうは暑さが本番にむかう小暑でもあります。このところ世界の一日の平均気温が初めて17度を超え、観測史上最高に達しています。地球温暖化が原因とみられ、世界各地で記録的な熱波や異常な高温が続いています▼7月7日は国交省が「川の日」と定めていますが、近年の危険な暑さは川も人も干上がるほど。一方で、豪雨による被害も相次いでいます。こんな気候危機も平穏な日常を脅かしているのも、人間自体がもたらしたもの。そう考えると、天に願うのではなく、自分たちの手で変えることができるはず▼5日付本紙「すいよう特集」。米国では近年、労働運動が力強く発展していると。最賃引き上げを勝ち取り、大企業で労組が結成される。各職場で待遇改善を求める姿を生き生きと伝えています。よりよい生活や社会をめざす人々は世界中に。たたかいこそが人類や地球の前途を開いていきます。
きょうの潮流 2023年7月6日(木)
公園や庭園、家々に広く植えられ、名所も各地にあるアジサイ。色合いや品種も多彩で、古くから親しまれてきました▼いま見頃を迎えているのが、福島・須賀川市の長沼地区にある藤沼湖自然公園に咲く「奇跡のアジサイ」です。ここは水不足に苦しんできた住民が農業用の貯水池として築き、後にダムが建設されました。しかし東日本大震災によって堤が決壊。下流地域に大きな被害をもたらしました▼内陸の津波といわれ7人が犠牲となり1人が行方不明になりました。その後、追悼の意味を込めて地元の人たちが湖底を歩く会を実施。そのときヤマアジサイの群生を発見したのです▼近くの畑に移植すると花が開き、いまは公園を彩るまでに。ダムの完成から数えれば、60有余年も湖の底で眠りについていたアジサイの復活。それは復興のシンボルとして、地域にとどまらず全国の人びとを勇気づけてきました。いまや北海道から沖縄まで、およそ3000本の「奇跡のアジサイ」が株分けされています▼植樹祭やコンサートも開き深めてきた交流。京都・亀岡市ではかつて決壊して多数の犠牲者を出した平和池のダム跡に植えられました。今秋には、同じ地名の長野市長沼の有志が持ち帰ったアジサイが“里帰り”するそうです▼こうした活動を支えてきた深谷武雄さんはいいます。「奇跡のアジサイは震災の伝承とともに、希望の象徴にもなってきた。結んだ輪を大切にしたい」。たくさんの心をつないできたアジサイに込めた思いです。
きょうの潮流 2023年7月5日(水)
「記事を読んで、第三者委員会って何なのか知りました」。読者の方からこんな電話がありました。わが子への長期にわたるいじめ体験の告発とともに▼いじめで重大な被害を受けたり、自殺したりした時などに、専門家らによる第三者委員会が設置されます。もっと早く学校や教育委員会が対応すれば、こんなに傷つくことも、命が失われることもなかった…。やり切れなさが募ります▼「指導死」で次男を亡くした大貫隆志さんは、遺族の立場から各地で委員を務めてきました。なかなか設置されない、せっかく設置されても不十分な調査で終わることも多い現状に、警鐘を鳴らします▼子どものことをきちんと調べてこそ、その姿が見えてくる。何が原因か、あるいは原因と思われるかに迫る。そこまでしてようやく遺族は「気持ちがわかってもらえた」と“とば口”に立てる。大貫さんはこう語ります▼せっかくの委員会も人選が偏っている場合があります。佐賀県鳥栖市の佐藤和威さんは、中学時代の激しい暴力や恐喝行為などで重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいます。事件から10年以上をへて、市教育委員会が第三者委員会を設置。和威さんは、公正な調査を保障しない委員を外すよう要望しましたが、市教委は応じないまま1回目の会合が開かれました▼形だけ整えても、子どもは救われません。気づいた時にどうすればすぐ対応できるのか。命が守られる学校へ、そのヒントとなる調査が進むよう願うばかりです。
きょうの潮流 2023年7月4日(火)
あんたはだめだ!。迫りくる惨事のなかで唯一の日本人乗客だった男性は乗組員に道をふさがれました。「ボートデッキは1等と2等の乗客だけだ」▼1912年4月に沈没したタイタニック号に乗っていた細野正文(まさぶみ)氏です。鉄道官僚で留学の帰りだった同氏は2等船室の客でした。しかし当時の慣習では非白人は歓迎されず、船員が下層の人種だとみなしたのだろう―(『タイタニック 百年目の真実』)▼圧壊したという潜水艇「タイタン」の事故で、ふたたび注目された悲劇。日本では26年前に大ヒットした映画「タイタニック」がこのタイミングでテレビ放映されました▼映画のために何度も潜水してタイタニック号を調べたジェームズ・キャメロン監督は、今回と過去の事故は似ているといいます。安全上の懸念を指摘されながら無視した潜水艇。氷山の警告を受けながらスピードを上げて衝突した豪華客船。どちらも、人間のごう慢さが破滅へ向かわせたと▼もう一つ共通しているのが、人に等級をつけるような格差のゆがみです。恋物語が中心の映画も貧富や差別を描いています。悲劇の残骸を見学する潜水艇のツアーは1人3500万円といい、豪華客船は今も世界の海を優雅に回っています▼一方で移民や難民をぎゅう詰めにしたおんぼろ船の相次ぐ悲惨も。先月も数百人を乗せた移民船がギリシャ沖で沈没し、多くの命が失われました。深海に眠るタイタニック号。その姿は過去だけでなく、未来についても多くを語っています。
きょうの潮流 2023年7月3日(月)
土砂に押しつぶされ泥にまみれた家々。その前でぼうぜんと座り込む、お年寄りの姿が目に浮かんできます。28人が犠牲になった熱海・伊豆山の土石流災害からきょうで2年となります▼いまは、9月の警戒区域解除にむけて整備が進められていますが、すぐに戻ることができる被災者は少ない。盛り土が崩落した責任を追及する裁判や捜査がつづく一方で、この災害を教訓にした「盛土規制法」も動き出しました▼この時期になると、記録的な大雨が甚大な被害をもたらすケースが近年相次いでいます。2017年の九州北部豪雨、翌年の西日本豪雨、そして球磨川が氾濫した20年の九州豪雨とつづき、今年もまた九州や山口県を中心に土砂崩れや浸水被害が起きています▼なぜ7月上旬に集中するのか。気象庁は大雨になりやすい条件が重なるためだといいます。梅雨前線の北上で大気が不安定となり、積乱雲が発達しやすくなる。海面の水温が高くなる「エルニーニョ現象」で大量の水蒸気が流れ込むと▼頻発する豪雨には地球温暖化の影響もあります。このままではさらに雨量が増え、被害地域も広がっていくと予測する専門家もいます。気候変動に対応した流域治水や、街の雨水処理能力をこえる内水氾濫への早急な対策が求められています▼熱海土石流の被害者の会の1人は同じ思いの被災者を代弁するように。「こういうことはもうなくなってほしい。再発防止までしっかりやりたい」。それは、この国の政治にも向けられています。
きょうの潮流 2023年7月3日(月)
土砂に押しつぶされ泥にまみれた家々。その前でぼうぜんと座り込む、お年寄りの姿が目に浮かんできます。28人が犠牲になった熱海・伊豆山の土石流災害からきょうで2年となります▼いまは、9月の警戒区域解除にむけて整備が進められていますが、すぐに戻ることができる被災者は少ない。盛り土が崩落した責任を追及する裁判や捜査がつづく一方で、この災害を教訓にした「盛土規制法」も動き出しました▼この時期になると、記録的な大雨が甚大な被害をもたらすケースが近年相次いでいます。2017年の九州北部豪雨、翌年の西日本豪雨、そして球磨川が氾濫した20年の九州豪雨とつづき、今年もまた九州や山口県を中心に土砂崩れや浸水被害が起きています▼なぜ7月上旬に集中するのか。気象庁は大雨になりやすい条件が重なるためだといいます。梅雨前線の北上で大気が不安定となり、積乱雲が発達しやすくなる。海面の水温が高くなる「エルニーニョ現象」で大量の水蒸気が流れ込むと▼頻発する豪雨には地球温暖化の影響もあります。このままではさらに雨量が増え、被害地域も広がっていくと予測する専門家もいます。気候変動に対応した流域治水や、街の雨水処理能力をこえる内水氾濫への早急な対策が求められています▼熱海土石流の被害者の会の1人は同じ思いの被災者を代弁するように。「こういうことはもうなくなってほしい。再発防止までしっかりやりたい」。それは、この国の政治にも向けられています。
きょうの潮流 2023年7月2日(日)
映画やフィギュアスケートでおなじみの曲を作ったロシア出身の音楽家、セルゲイ・ラフマニノフが生誕150年。いま各地で記念コンサートが開かれています▼没落貴族の家系出身のラフマニノフはロシア革命を機に亡命。その不安定な体験から「音楽というものは平和で平穏なところでないと成立しない」との言葉を残しています▼1901年に作曲された「ピアノ協奏曲第2番」は、ロシア革命前の時代の空気を感じさせます。ラフマニノフの音楽に憂鬱(ゆううつ)な印象が多いのは、当時の情勢が影響しているとの指摘も▼社会は音楽に影響を与え、時代と共に作品の解釈も変わります。例えば120年前に初演の、長崎を舞台に米軍人と現地妻との悲恋を描いたオペラ「蝶々夫人」。今では新しい視点の登場で解釈が広がり、性差別、DV、児童虐待といった要素やシングルマザー、同性愛にまで光が当てられます▼音楽は時に社会にメッセージを与えます。オーストリア帝国に支配されたチェコを、音楽を通して抑圧から解放したスメタナ作曲の「わが祖国」はその一つ。音楽の研究者らは「社会の窓として芸術作品を見る」「世界をよりよく見るための想像力の道具」と音楽と社会の関係性を解き明かします▼再び祖国の土を踏まなかったラフマニノフ。晩年に残した「交響的舞曲」でロシアへの郷愁を感じさせ、ナチスに侵攻された祖国救済活動にも参加、望郷の念を抱き続けました。彼が今のロシアを見たら、どんな音楽を作るのでしょうか。
きょうの潮流 2023年7月2日(日)
映画やフィギュアスケートでおなじみの曲を作ったロシア出身の音楽家、セルゲイ・ラフマニノフが生誕150年。いま各地で記念コンサートが開かれています▼没落貴族の家系出身のラフマニノフはロシア革命を機に亡命。その不安定な体験から「音楽というものは平和で平穏なところでないと成立しない」との言葉を残しています▼1901年に作曲された「ピアノ協奏曲第2番」は、ロシア革命前の時代の空気を感じさせます。ラフマニノフの音楽に憂鬱(ゆううつ)な印象が多いのは、当時の情勢が影響しているとの指摘も▼社会は音楽に影響を与え、時代と共に作品の解釈も変わります。例えば120年前に初演の、長崎を舞台に米軍人と現地妻との悲恋を描いたオペラ「蝶々夫人」。今では新しい視点の登場で解釈が広がり、性差別、DV、児童虐待といった要素やシングルマザー、同性愛にまで光が当てられます▼音楽は時に社会にメッセージを与えます。オーストリア帝国に支配されたチェコを、音楽を通して抑圧から解放したスメタナ作曲の「わが祖国」はその一つ。音楽の研究者らは「社会の窓として芸術作品を見る」「世界をよりよく見るための想像力の道具」と音楽と社会の関係性を解き明かします▼再び祖国の土を踏まなかったラフマニノフ。晩年に残した「交響的舞曲」でロシアへの郷愁を感じさせ、ナチスに侵攻された祖国救済活動にも参加、望郷の念を抱き続けました。彼が今のロシアを見たら、どんな音楽を作るのでしょうか。
きょうの潮流 2023年7月1日(土)
降り積もる見えない暴力。なにかを削り取られていく感覚。誰もが見て見ぬふりをする闇の中でもがく姿が、静かに、ひりひりと伝わってきます▼あこがれの映画業界で働く新人女性の1日を描いた米映画「アシスタント」。雑務や厄介な仕事を押しつけられ、大物プロデューサーの会長からは理不尽な暴言を浴びせられる日常。ある違和感から会長のおぞましい行為に気づき、立ち上がろうとしますが…▼ひとりの権力者ではなく、それをうみだす組織の支配構造。すぐ隣にある差別や暴力を許容し、見逃す人たち。あなたはそれにどう向き合いますか? さまざまな職場の現実から見えてくる光景を通して映画は問いかけてきます▼2017年に米映画界の告発から始まった「#MeToo運動」。それに触発されてこの映画を撮ったというキティ・グリーン監督は、私たちは声を上げること、声を上げた人を支えることを学んできて、いま大きな変化を感じているといいます▼日本でもハラスメント調査が進み、ジャニーズの性被害をはじめ告発も相次いでいます。本紙6月20日付で報じたように表現の現場でのレイプ被害やセクハラ、パワハラの実態はすさまじい。今春から本格的に始動した「日本映画制作適正化機構」のように、安心して働ける職場環境をつくる動きも表れています▼グリーン監督は訴えます。運動の中で言葉がうまれ、議論がうまれ、問題を共有することで、社会は変わっていく。あなたは、決して傍観者にならないで。
きょうの潮流 2023年6月30日(金)
帝政ロシアの勲章は十字架をあしらったものが多かったといいます。たとえば、将兵の武勲を顕彰する「聖ゲオルギー勲章」は十字の部分が白いエナメルで塗られていました▼この勲章はプーチン大統領によって公に復活されています。しかし彼らに与えられている黒い十字架の勲章は何を意味するのか。ロシア当局が存在自体を否定し、影の傭兵(ようへい)部隊といわれる「ワグネル」です▼「仕事は敵とたたかうこと。殺される危険も大いにある」。採用の際に、はっきりいわれたと元隊員が語っていました。ワグネルの実態を追った仏テレビ局制作の番組で。彼はシリアに派遣され、黒十字の勲章をもらっていました▼番組は、ワグネルがロシア国家の「道具」として使われてきたという関係者の証言も引き出していました。必要な物はすべて政府から与えられ、移動手段も後方支援も国防省が手配する。プーチン大統領も「運営費の全額を国家が賄っていた」と明らかにしました▼これまで各地で裏の仕事を担い、ウクライナ侵略の最前線で戦闘してきた部隊が引き起こした今回の反乱。それは、ロシア軍とプーチン政権の混乱ぶりをあらわにしました。ワグネルを率いたプリゴジン氏は侵略の「大義」を否定し「国防省が国民と大統領をだまして戦争を始めさせた」と▼ロシアが国の隠れみのとして利用してきた軍事組織との内部対立。その姿はプーチン政権の矛盾のひろがりとともに、力に頼る支配者のなれの果てをも示しているような気がします。
きょうの潮流 2023年6月29日(木)
生への発露でした。いつもそこに居た人がいなくなった悲しみ。日常やつながりが突然断たれた苦しみ。でも私は生きていく、人生のどこかにそれを置いて―▼東日本大震災で甚大な被害をうけた石巻市で先日、地元の市民や被災者ら100人が舞台に立ちました。「心の復興13回忌ミュージカル 100通りのありがとう」。全員素人の老若男女が力強い歌声と踊りを披露しました▼構成したのは数多くのミュージカルを手がけてきた音楽家・演出家の寺本建雄さん。昨夏から一人ひとりの体験を聞き取り、台本をつくり直したといいます。十三回忌の節目にあたって、亡くなった方への供養とともに新たな出発の意味も込めたかったと▼けいこではセリフのたびに泣いてしまう人や、声が詰まって歌えなくなる人も。しかし励まし合うなかで次第にためていた思いをはき出せるように▼震災翌年に石巻地方の被災者が東京・銀座で演じたミュージカルが続けられ、今回が4年ぶりの公演でした。「震災で起きたことを後世に伝えていきたい」「自分をさらけ出すことで、これまでとはちがった足取りを記していければ」と参加者は口々に▼出演者それぞれが新しい関係を築いているというプロデューサーの祖父江真奈さんは、心のケアの大切さを改めて。声をそろえた幕引きの歌は心のさけびでした。「心つながるこの土地/この土地ちゃんと生きてる/思い寄せ合うこの土地/この土地ちゃんと生きてる/力を合わせ助け合う/それが人間だ」
きょうの潮流 2023年6月28日(水)
LGBTQ(性的少数者)の権利獲得のたたかいの前進を祝うニュースを目にする6月です。アジア初の同性婚法制化から4年を迎えた台湾からの本紙特派員のリポートから、当事者の苦難や喜びがひしひしと伝わります▼54年前のきょう、LGBT権利獲得運動が盛り上がる契機となる「ストーンウォールの反乱」が起こりました。当時は同性愛行為の誘いが「犯罪」とされていたニューヨーク。ゲイの人々らが集う「ストーンウォール・イン」という酒場に警察が踏み込みました▼抑圧と差別に耐えてきた人々の怒りは頂点に達し、抗議は6日間続きました。声をあげ、たたかわないと虐げ続けられると悟った人々は、翌年、同地から「プライド行進」を始めました▼「大きな声で言おう。ゲイであることは誇らしい」と唱和して始まったプライド行進。いま、世界各地に広がります。米国では、大統領が6月は「プライド月間」だと宣言するまでに▼バイデン大統領自身は、上院議員時代に同性婚法制化に賛成しなかったことも。政治家の態度を変えさせたのは、当事者たちの世論を動かす運動です。この一方、各地の州議会では保守系団体の働きかけで反LGBT法案が相次いでいます▼逆流は日本でも。先の国会ではLGBT「理解増進法」をめぐる改悪や同性婚実現への抵抗が。差別のない社会へ、逆流を押し返すのは私たち一人ひとり。声をあげれば社会は変えられる。たたかうことの大切さを「ストーンウォールの反乱」は教えてくれます。
きょうの潮流 2023年6月27日(火)
小学校高学年の算数で習った「最大公約数」。辞書などには「二つ以上の整数のどれをも割り切れる整数のうち、最大のもの」とあります▼16と24の最大公約数はいくつでしょうか? 16と24の公約数(共通して割り切れる整数)が、1・2・4・8だから、最大公約数は8ですね。L字形の式を思い出して、答えを求めた人もいるでしょう▼最大公約数は、比喩的にも用いられています。5年生の算数の学習参考書(文理)では「テレビのニュースや新聞で、いろんな意見の中の共通部分という意味で『最大公約数』ということばが使われることがあるよ」と▼『サンデー毎日』(7月2・9日号)で、倉重篤郎氏が「最大公約数」をキーワードに、日本共産党の提言「日中両国関係の前向きの打開のために」を読み解きました。「日中両国政府が同じ卓に座れる最大公約数は何か、が重要である。それがあって…対立点ばかり強調される両国関係の真の共通益を炙(あぶ)り出すことが可能になる」▼日本共産党は、2008年以来日中両国政府が結んだ「互いに脅威とならない」という共同声明や、尖閣諸島問題での合意、平和の枠組み構想に両国の一致点、共通の土台があることに着目しました。それが今、生きた力を発揮しつつあります▼「最大公約数探しに挑戦したのが志位共産党であった」「貴重な外交提言」(倉重氏)。最大公約数は、立場や考えの違いを超えて、政治や社会を前に進めることができる大事な視点、着眼点だと教えられました。
きょうの潮流 2023年6月26日(月)
ドアをあけると「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」と元気な声の女性店員に迎えられました。大阪市の繁華街で偶然見つけた喫茶店▼よく利用する駅の近くでしたが、初めて歩いた路地にその店はありました。レンガづくりの古風なたたずまい。テーブルと椅子は年季もの。流れる曲も掛けられた絵画もセンスがいい。焙煎(ばいせん)も本格的▼コーヒー好きにはたまりません。会話がまた面白い。おじいちゃんと孫娘のように年が離れたマスターと店員の話が止まらない。メニューのこと、値段設定、お客さんの反応▼「ねえマスター、これとこれをセットにしたらどうですか」「フレッシュジュース出したことあるんですか」と店員。「あるよ。でも組み合わせが、いまいちなんだよなあ」とマスター。「じゃあ、これは」と次の提案。どちらが店主かわからない。テンポのよさは漫才を聞いているよう▼気になるのはコーヒーの値段。豆代も電気代も上昇しなじみの店は、かつて400円だったのに、いまや530円。250円に据え置いている店やモーニングセットを400円で提供する店に入ると「大丈夫かな、店やっていけるのかなあ」と心配になる。「安いといわれると値上げできなくて」とある店主▼賃金は上がらないのに物価は上がり負担は増える。33年ぶりの株高や過去最高の売上高なんて、どこの世界の話なのか。先の「喫茶店漫才」も、よく考えたら、高物価をどう乗り切るかの真剣な「知恵だし会議」だったのかもしれない。
きょうの潮流 2023年6月25日(日)
有吉佐和子さんの小説『恍惚(こうこつ)の人』が世に出たのは1972年でした。すでに日本は高齢化社会へ。認知症をテーマにした本は大ベストセラーとなり、これまで家族の問題とされてきた介護に光があてられました▼それから半世紀。認知症をめぐるとりくみはどれほど進んできたか。認知症の行方不明者は増え続け、昨年は1万8千人余りと過去最多に。統計をとり始めた2012年のおよそ2倍になっています▼さらに行方不明者のうち491人が死亡。現状は深刻、社会全体で変えなければならないと専門家は指摘します。声かけなどのサポートとともに行政がとりくみを強める必要性を▼先の国会では認知症の人が尊厳を守り希望をもって暮らせるよう国や自治体に施策をもとめた「認知症基本法」が成立しました。すべての認知症の人が自らの意思で日常生活や社会生活を営める、社会のあらゆる分野の活動に参画する機会を確保する。そんな理念を掲げて▼「共生社会の実現を推進する」との文言が付けられた法律。当事者は「認知症への差別や偏見が低減し、『認知症の人』ではなく『ひとりの人』としてかかわることが当たり前になる社会を願う」と▼国をあげてとりくむ課題という岸田首相。ならば軍拡に血道をあげているときか。2年後には高齢者の約2割、700万人に達するとされる認知症の人をどう支えるか。いったい人間の最後とは、どういうものなのだろうか―。『恍惚の人』が問いかけたもの。それは人の生き方です。
きょうの潮流 2023年6月24日(土)
「このままでは日本の学校はもたない」と教育研究者有志が教員の長時間労働解消のための署名活動を始めています。教員にも残業代を支給すること、学校の業務量に見合った教職員を配置することを求め、そのための教育予算の増額を訴えています▼文部科学省の調査では小中学校の教員の労働時間は1日平均で11時間半になります。部活の指導などで土日も休めず、中学校では4割の教員が過労死ラインを超えて働いています▼深刻なのは、現在の制度では公立学校の教員はどれだけ働いても残業代がでない仕組みになっていることです。働かせる側にとってはいくら働かせても財政的負担は増えない。労働時間に歯止めがかからない大きな要因です▼過酷な労働は教職希望者を遠ざけ、「教員不足」を招いています。文科省が最近発表した調査結果によると、今年4月の学校開始時点で全国の都道府県・政令市の教育委員会のうち4割を超える29の委員会が、教員不足が悪化したと答えました▼先日政府が決定した「骨太の方針」は「(教員の)働き方改革のさらなる加速化」を掲げています。しかし具体策はなく、働かせ放題の「残業代ゼロ」を改める姿勢はありません▼健康を害する教員も増えています。教員不足解消にはほど遠い状況。このままでは本当に日本の教育はもちません。署名活動では、日本教育学会の会長や前会長も呼びかけ人になっています。その危機意識が政府にはあるのか。子どもたちのために運動を広げるときです。
きょうの潮流 2023年6月23日(金)
奇妙な軍隊が、人目を避けるように名護の町に入りました。重油まみれでやけどや傷を負った兵士。太平洋戦争末期の1944年、日本軍をのせた船が沖縄にむかう途中、米潜水艦の攻撃で撃沈。その生き残りでした▼この年の3月、大本営は南西諸島の防衛強化や航空基地の整備を任務に陸軍第32軍を創設。日本軍の部隊が相次いで沖縄入りしました。その数は10万ともいわれ、島を「不沈空母」とするため住民は飛行場や陣地づくりに駆り出されました▼翌年4月に米軍上陸。第32軍の目的は本土を守るため、沖縄に米軍を足止めさせて戦争を長引かせることでした。県民には「軍官民共生共死の一体化」を指示。激しい地上戦にまきこみ、犠牲者を増やしていきました▼盾とされ、捨て石とされた沖縄・南西諸島。それは今も。安倍政権による安保法制の強行後、自衛隊の大増強が始まり、ミサイル部隊が各地に配備されています▼「雪崩を打って自衛隊が宮古や八重山に押しかけている。今の状況は戦争前夜そのもの」。沖縄戦を体験した「元全学徒の会」共同代表の瀬名波栄喜さんが地元紙に語っていました。岸田政権がすすめる米国追従の敵基地攻撃能力の保有。ふたたび戦場にされる危険は高まっています▼きょうは沖縄戦の犠牲者を追悼する「慰霊の日」。第32軍が司令部を置いた首里城の地下壕(ごう)を平和発信の場として保存・公開を求める会は訴えました。「軍隊は住民を守らなかった」という史実を改めて思い起こす日でもあると。
きょうの潮流 2023年6月22日(木)
この国の選挙に必須とされてきた3バン(地盤、看板、かばん)を持たず、支える組織もない。そんな状況で立候補した女性を追った番組がありました▼子育てや仕事をしながら、SNSを中心に政策などを発信。タテの関係よりもヨコのつながりで当選を果たしていきます。こうした新しいスタイルで議員をめざす動きは女性や若者に広がっているといいます▼先の統一地方選で女性議員が半数になった東京・武蔵野市議会で今月定例会が開かれました。議会の景色は変わり、新人の女性議員は「意思決定の現場に普通に女性が半分いるということが当たり前になっていくきっかけになればいいと思う」と話しました▼ただ全国をみれば、女性が半数以上の市区町村議会は1741自治体のうち11。わずか0・6%で男女均等には程遠い現状があります。それは政治や経済の分野で顕著に表れています▼今年のジェンダーギャップ指数で日本は過去最低の125位となりました。とくに政治分野は相変わらず世界最低レベルで、女性の権利を制限しているサウジアラビアよりも下回っています。経済分野も評価は低く、所得格差や女性管理職の割合の低さが指摘されています▼いっこうに改善されない男女の格差。なによりも意思決定の場が圧倒的に中高年の男性で占められている現実を変えなければ。同じく女性議員が半数をこえた杉並区では議会がカラフルになったと。それぞれの「色」がつくりだす、差別のない多様で豊かな社会にむかって。
きょうの潮流 2023年6月21日(水)
映画にもなった米国防総省の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」はベトナム戦争の真実を暴いたことで知られます。しかし公表されなかった「もう一つのペンタゴン・ペーパーズ」がありました▼それは核戦争の計画や核兵器の指揮統制、そして核危機にかんする調査や研究でした。隠していた文書は失われましたが、それを持ち出したダニエル・エルズバーグ氏はのちに著書『世界滅亡マシン』で、みずからもかかわった米国の核戦略を明らかにしています▼いわく、必要とされる能力はつねに“第一撃”のためのもので、抑止が目的だったことは一度もない。核戦力の発動権限を手に持つのは大統領だけでなく、最高位の軍事当局者に限られてさえいない―▼歴代政権が踏襲してきた核のシステム。その運用がいかにリスクに満ち、世界を破滅に追いやるか。先日92歳で亡くなったエルズバーグ氏は、それを解体するのは一般市民の力だと▼自身も反核運動の先頭に立ちました。以前、核兵器廃絶を訴えて断食したとき、本紙記者にこう話していました。「断食をすると、私たちの命がどれほど他の命、他の種に依存しているか、空気や水や植物に依存しているかがわかります。それらが核兵器に脅かされているのです」▼今も核の恐怖にさらされる人類。エルズバーグ氏はキング牧師の言葉で著書を結んでいました。「さあ始めようではないか。新たな世界をめざす、長く苦しくとも、美しいたたかいに、再び身をささげようではないか」
きょうの潮流 2023年6月20日(火)
顔全体で笑いかけるスーダンの子ども。はにかむようにほほ笑むアフガニスタンの少女たち。切り取った無邪気な表情やしぐさに心が和みました▼田沼武能(たけよし)さんの回顧展「人間讃歌」が東京都写真美術館で開かれています。93歳で亡くなるまで120をこえる国や地域をまわり、世界の子どもたちを写し続けました。レンズは冷徹な現実も見つめます。ゴミの山から何かを探す少年、栄養失調で骨が浮きでた幼子、内戦の国から逃れてきた家族…▼きょうは世界難民の日です。国連によると、紛争や迫害などで家や故郷を追われた人は先月までに1億1千万人に達し、過去最多を更新。ウクライナやシリア、アフガニスタンやスーダンから多くが逃れているといいます▼一方で難民や避難民を受け入れる負担が近隣の途上国などに偏っていることから、国連はより公平な負担が必要だとして国際社会に協力を呼びかけています。もはや受け入れは地域にとどまらず、世界の問題になっています▼日本はどうか。入管法の改悪は、いかにこの国の政権や一部の政党が難民受け入れに冷たく、ここでくらす外国人の人権を無視しているかをくっきりと。このままでは、日本に何かあったときに手を差し伸べてくれる所はあるのか不安です▼戦火の絶えない場所や難民キャンプをめぐって悲惨な状況にカメラを向けながら、田沼さんは、人間の生きる力を信じてきました。きずなを深め、平和をつくりだしていく力もまた、人間にはある。そう希望を込めて。
きょうの潮流 2023年6月19日(月)
6月の味覚といえばサクランボ。赤いかれんな実に、かめば弾ける食感と程よい甘さが人気です▼イランからヨーロッパにかけて自生し、有史以前から食べられていました。栽培の歴史も古く、紀元前のヨーロッパにさかのぼるといわれています。日本に入ってきたのは明治時代になってから▼今年の収穫量は平年並みだとか。一昨年は4月の低温が影響して25年ぶりの不作でしたが、回復しました。なんと500円硬貨大の大粒のブランド品種も本格的に出回るそうです。そうでなくとも高価な果物。おいそれと口に入るのかどうか▼太宰治の短編にも登場します。題名はズバリ「桜桃」。サクランボの別名です。家族のささやかな幸福を願いながら、身勝手な行動を取る主人公。家を飛び出し、飲み屋へ。そこでサクランボが出されます。幼い3人のわが子に食べさせたいとは思っても、自分で食べてしまう…▼主人公の心の葛藤を示したのが桜桃でした。人びとの喜怒哀楽を交えて身近に存在していることがわかります。そんなサクランボにも受難の時代が。TBSラジオの「今晩は吉永小百合です」の中で語られました(5月21日)▼吉永さんがひとこと。戦時中に「不要不急の果物」の木としてサクランボが伐採されたこともあったと明かします。「そんなことが二度とないように、穏やかな心で味わえますように」と吉永さん。同感です。いま、岸田政権が急速に進める大軍拡に思いが及びます。衣食住が制限される時代の到来はごめんです。
きょうの潮流 2023年6月18日(日)
89式5・56ミリ小銃。先日、岐阜市の陸上自衛隊射撃訓練場で、自衛官候補生が教官ら3人を殺傷した際に使用した銃の名称です▼「小銃」と言いますが、その威力はすさまじい。有効射程500メートル、銃口初速は秒速920メートルに達し、連射も可能です。空包でさえ分厚い雑誌を貫通できるといいます。至近距離で急所を撃たれたら、まず助かりません▼この候補生がなぜ殺人におよんだのか。動機の解明はこれからですが、人間が手にする以上、何らかの意図で他者に銃を向ける可能性は排除されません。こうしたリスクを避けるための最大の担保が、銃と弾の分離だとされています。訓練では、射手が銃を構えた段階で弾を渡され装填(そうてん)する規則になっていました▼ところが候補生は射撃の順番を待っている間に弾を手にしており、自分の銃に装填していたのです。なぜ、それが可能だったのか。銃弾の管理が規則通りに行われていたのか。徹底的な解明が必要です▼こうした重大事案が発生する背後には、最悪の事態の一歩手前だった事例があったはずです。実際、ここ数年、自衛官が銃で自殺する事案が発生しています。その銃口が他者に向かうリスクは十分にあったのです▼この問題は自衛隊内部にとどまりません。1984年に山口駐屯地の射撃場で発生した小銃乱射事件で、犯人の自衛官は銃を持って逃走しました。武器の管理のずさんさは住民の安全を脅かすことに直結します。自衛隊は、殺傷兵器を保有する資質そのものが問われています。
きょうの潮流 2023年6月17日(土)
原発の再稼働や新増設、運転期間延長など原発回帰の姿勢を鮮明にした岸田文雄政権。原発が抱える問題は何ら変わっていません▼関西電力が福井県の原発の使用済み核燃料をフランスに運び出すという計画も、それを浮き彫りにしました。県外への搬出を求めていた福井県に対し、関電はこれまで、今年の年末までに使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外地点を示すと説明していました▼2021年には、それが示せない間は老朽原発を運転しない「不退転の覚悟で臨む」といっていたほどです。同県にある関電の原発は大量の使用済み核燃料を敷地内に保管し、貯蔵できる容量の8割以上に及んでいます。置き場所がなくなれば、炉心から核燃料を取り出せず、運転を停止しなければなりません▼もともとの運び出し先に予定していたのが、政府の核燃料サイクル政策の中核施設、青森県の六ケ所再処理工場です。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し核燃料として利用しようという、この政策はすでに破たんしています。トラブルなどで完成時期は26回も延期し、稼働すればプルトニウムを大量に抱えることになるのです▼今回、フランスに運び出す量は福井で抱える保管量のわずか5%。それを「中間貯蔵と同等」だという関電の言い訳が、通用するのか▼関電はこれからも再稼働を進め、使用済み核燃料はさらに増え、将来世代に大きな困難を押しつけることになります。原発推進が何をもたらすのか。声を上げ続ける必要があります。
きょうの潮流 2023年6月16日(金)
成長できる舞台―。自衛官募集のホームページをみると、こんな文言が飛び込んできます。いくつかの職種に分かれる中に自衛官候補生があります▼応募資格は18歳から32歳。3カ月間、基礎的な教育や訓練に専従し終了すると任期制自衛官になれます。将来どんな状況にあっても役立つさまざまな経験を積むことができ、安定した生活と処遇が保障されるとも▼岐阜市の射撃訓練中に発砲し、3人を死傷させた18歳の男はこの春に入隊した候補生でした。「教官に叱られた」「教官を狙った」などと供述しているそうですが、詳しい事情はまだわかっていません▼今回が最後の実弾訓練で今月中には訓練を終える予定だったといいます。入隊からこの間に何があったのか。教育係の隊員との関係はどうだったのか。陸上自衛隊に任せるのではなく、第三者による透明な調査で国民に明らかにする必要があるでしょう▼陸自は1984年にも山口駐屯地で乱射事件を起こしています。同僚4人を死傷させた自衛官は過去に入隊しながら無断欠勤で停職処分となり辞職。それを隠して再入隊していました。ずさんな採用とともに教育や訓練の改善が求められてきました▼いまだパワハラやセクハラが絶えない自衛隊。不祥事や事故も相次ぐ中で軍拡がすすめられようとしています。人に銃口が向けられた恐怖におののく周辺住民。「武器を扱う組織として、決してあってはならない」行為をどう防ぐのか。試されているのは、自衛隊だけではありません。
きょうの潮流 2023年6月15日(木)
あの時のことを思い返しました。6年前の総選挙。直前まで解散について「まったく考えていない」と口にしていた安倍首相が臨時国会の冒頭で強行しました▼森友・加計問題をはじめ政権への疑惑が相次ぐなか、ようやく開会となった途端の解散。あまりの大義のなさとともに一国の首相が平然と国民にウソをついたことにあきれ果てました。のちに安倍氏はあの判断が「一番当たった」とふり返っています▼国民に信を問う民主主義の根幹にかかわる解散権を党利や私利でもてあそんでいいはずがありません。今国会中で解散風を吹かせている岸田首相は「情勢をよく見極めたい」と。それは有利なタイミングを見計らうとの意味では▼少子化対策を示した13日の首相会見。年3・5兆円を投じるとしますが、財源確保は年末に先送り。43兆円もの大軍拡にあてる増税も25年以降に先送り。すでに政権の財源論は破綻していますが、国民への負担増を隠したままで選挙をやろうというのか▼個人情報の漏えいが相次ぐマイナ・トラブル、人権侵害をさらに深刻化する入管法改悪、当事者が理解増進ではなく差別増進と憤るLGBT法。この国会で自公と維新・国民が推し進めてきた法案は反対や批判がひろがったものばかりです▼増税を選挙の争点にされたくないのか、これ以上ぼろが出ないうちに解散に持ち込もうというのか。いずれにしても、国民をばかにしているとしか思えません。いくらこじつけても、そこに大義のかけらもないことも。
きょうの潮流 2023年6月14日(水)
ぼくはできる。ぼくならできる。いつも自分にそう言い聞かせてきました。それは厳しい境遇から身につけた心構えでした▼車いすテニスの全仏オープンで、四大大会優勝と世界ランキング1位を史上最年少で達成した17歳の小田凱人(ときと)選手。9歳のときに骨のがんである骨肉腫と告げられ、左足の股関節と大腿骨の一部を切除。車いすでの生活が始まりました▼プロのサッカー選手にあこがれ、自分もそうなることを夢見ていた少年にとって、つらく残酷な現実。寝たきりで足が痛くて泣いていたという日々。そんなときにめぐり合ったのが、車いすテニスの国枝慎吾さんでした▼世界の強豪を相手に躍動する姿、みなぎる気迫。絶望のなかで見いだした光でした。そこからはリハビリに励むとともに車いすを操り、ラケットを振り続ける毎日。周りが驚くほどの速さで頂への階段を駆け上がっていきました▼これまで2度にわたりがんが転移。「うまくいかないのが、ぼくのなかで普通。そこでくじけたりっていうのは全くない」。テレビでさらっと口にしていた言葉には、何度も困難を乗り越えてきた自信がうかがえます。その挑戦心は車いすテニスの常識を打ち破る大胆なプレーにも表れています▼プロになるとき「病気とたたかっている子どもたちのヒーロー的な存在になれるような選手をめざす」と語っていた小田選手。障害者スポーツの普及をはじめ、いろんな活動をしてこそアスリートだと言い切る若きエースのこれからが楽しみです。
きょうの潮流 2023年6月13日(火)
郵便投票―。外出がままならない人の選挙権を保障するためのものですが、対象範囲が限定的なため、希望しても認められない人が多いのが実態です▼2020年の岡山県知事選で郵便投票を認められず投票権を奪われたとして、肢体障害4級の女性が国に賠償を求めた裁判に、支援の輪が広がっています。郵便投票の対象拡充を認める判決を求めた署名には、短期間で千人近くが応じました▼困難を抱える人たちが声を上げ、投票しやすい仕組みに取り組む自治体も出ています。「障害をもつ人の参政権保障連絡会」によると、先の統一地方選では5県知事選、214市区町村長の選挙で、候補者名に○をつける記号式投票を実施。「自分で○を書いて投票できて、誇らしげでした」と40代のダウン症がある人の母親▼同会作成の「知的障害者・家族・支援者のための選挙のしおり」が好評です。宮崎県日向市の女性は、障害者の家族に「しおり」を手渡しました。自宅で何度も書く練習をし、その紙を持ってしっかりひらがなで投票用紙に記入し、初めて投票できた―。県議選後に母親から女性に喜びの報告があったそうです▼投票時に自分で候補者名を記入するのが難しい人に向けて、「しおり」は代理投票での注意事項をわかりやすく紹介しています。高齢者のために参考にするという人も▼障害者の参政権保障に関する取り組みは一歩ずつ。岡山の郵便投票裁判の控訴審判決は9月5日です。制度改正につながる判決を、と注目が集まります。
きょうの潮流 2023年6月11日(日)
昔から「複眼」という言葉をよく耳にしました。複眼のすすめとか、複眼的思考とか。いろいろな立場や角度からものごとを見て考える大事さを説いた本もありました▼「単一のせまい範囲内に限定されたものの考えかたや価値観を越えて、もっと広い視野で自分や世界を多元的にとらえる能力」。以前、作家の片岡義男さんは「複眼とはなにか」にそうつづっていました▼歴史や世界をとらえるときに欠かせない複眼。それは日常の出来事にも必要ではないか。公開中の映画「怪物」はそんなことを問いかけてきます。小学校で起きたトラブルをシングルマザーや教師、子どもたちの視点から描いていきます▼見えない怪物というものを、映画を見た人たちがどこに見つけていくのか。是枝裕和監督は、言葉にできないことについての映画なので、簡単に言葉にできないという感想が一番うれしいと話しています▼複雑な社会のありようや人間の内面を映し出してきた是枝監督。ものごとを単純化する傾向にある今のメディアに苦言を呈しています。「本来は事件や事故が起きたときに、どういう社会的な背景があるのか考えていくのが報道の役割だと思うんですが、社会的制裁をメディアが一緒になって加えていく」状況が一般的になってしまったと▼自分にとっての正しさや価値観が他者への押しつけになってはいないか。人間同士が理解するためにはどうすればいいのか。複眼がいっそう求められる時代の中にあって考えさせられる作品です。
きょうの潮流 2023年6月10日(土)
きょう6月10日は「薄桜(はくおう)忌」。作家・宇野千代(1897~1996)の忌日です。由来は、作家が岐阜県本巣市にある樹齢1500年の「淡墨(うすずみ)桜」を愛し、小説のテーマにもして保護活動に取り組んだことから▼98歳で亡くなるまで執筆をはじめ着物デザイナーや実業家としても活動し、「何だか、私、死なないような気がするんですよ」は有名な台詞(せりふ)。人生100年時代と言われる今、再注目され箴言(しんげん)集の出版が相次いでいます▼いわく「いくつになっても人生は今日がはじまり」「難しいことは、愉(たの)しいこと」「逃げずに、ただ中へ進め」「自分はどうしたいと思っているか」「95歳には95歳の美しさがある」「私は前にしか興味はない」▼記者が作家を知ったのは学生時代、自伝的小説「生きて行く私」が原作のテレビドラマでした。十朱幸代扮(ふん)する千代が、郷里の山口県岩国市の小学校で代用教員となるも恋愛沙汰で職を追われ、「泥棒と人殺しのほかは何でもした」と振り返る人生が始まります▼愛読書はドストエフスキー。文学への志を埋(うず)み火のように燃やしながら、尾崎士郎、東郷青児、北原武夫らと出会い、引かれる気持ちに正直に突き進んで関係性の中で成長し、去ろうとする相手からは潔く離れて前へ。その自由闊達(かったつ)さに励まされました▼奔放に見えて、仕事の積み重ねの大切さを身に染みて知っている作家でした。こんな言葉も残しています。「小説は誰にでも書ける。それは毎日、ちょっとの時間でも、机の前に坐(すわ)ることである」
きょうの潮流 2023年6月10日(土)
きょう6月10日は「薄桜(はくおう)忌」。作家・宇野千代(1897~1996)の忌日です。由来は、作家が岐阜県本巣市にある樹齢1500年の「淡墨(うすずみ)桜」を愛し、小説のテーマにもして保護活動に取り組んだことから▼98歳で亡くなるまで執筆をはじめ着物デザイナーや実業家としても活動し、「何だか、私、死なないような気がするんですよ」は有名な台詞(せりふ)。人生100年時代と言われる今、再注目され箴言(しんげん)集の出版が相次いでいます▼いわく「いくつになっても人生は今日がはじまり」「難しいことは、愉(たの)しいこと」「逃げずに、ただ中へ進め」「自分はどうしたいと思っているか」「95歳には95歳の美しさがある」「私は前にしか興味はない」▼記者が作家を知ったのは学生時代、自伝的小説「生きて行く私」が原作のテレビドラマでした。十朱幸代扮(ふん)する千代が、郷里の山口県岩国市の小学校で代用教員となるも恋愛沙汰で職を追われ、「泥棒と人殺しのほかは何でもした」と振り返る人生が始まります▼愛読書はドストエフスキー。文学への志を埋(うず)み火のように燃やしながら、尾崎士郎、東郷青児、北原武夫らと出会い、引かれる気持ちに正直に突き進んで関係性の中で成長し、去ろうとする相手からは潔く離れて前へ。その自由闊達(かったつ)さに励まされました▼奔放に見えて、仕事の積み重ねの大切さを身に染みて知っている作家でした。こんな言葉も残しています。「小説は誰にでも書ける。それは毎日、ちょっとの時間でも、机の前に坐(すわ)ることである」
きょうの潮流 2023年6月9日(金)
学生は怒りを込めました。「人の生き死ににかかわる法案を数で押し切っていいのか」。女性は訴えました。「人権を守らない政治はすべての命を脅かす」▼入管法の改悪と強行採決に抗議するため国会前に集まった市民の声です。これだけ多くの問題が噴出している法案について、なぜ審議を尽くさないのか。いま国民の多くは結論ありきの国会に疑問を抱いています▼成立した改定マイナンバー法しかり、狙われている軍拡財源法案しかり。さまざまな課題が明らかになりながら、腰をすえた議論もないまま、ところてんのように押し出されていく。国会を形骸化させている自公の与党と、それに協力する維新や国民の責任は重い▼「国会中継を見るのはいつも骨が折れる」。亡くなったコラムニストの小田嶋隆さんが、安倍政権時の国会の様子を取りあげたことがあります。質問のヌルさに腹を立てたり、回答する官僚や大臣の言葉の使い方のデタラメさにいらいらしたり。平常心で視聴し続けることができなかったと▼うそをついたり隠したり。たしかに、あのときから説明責任は放棄されてきた気がします。いまはそれが加速され、反対意見には耳をかさず、国のかたちを変えるような法案を押し通す。国会をその装置のようにして▼入管で命を奪われたウィシュマさんの遺族が見守る前でくり広げられた強行採決。「数だけで決めてはならないものがある」。共産党の仁比議員が議場で放った一言は、政治のあり方をも問い直しています。
きょうの潮流 2023年6月9日(金)
学生は怒りを込めました。「人の生き死ににかかわる法案を数で押し切っていいのか」。女性は訴えました。「人権を守らない政治はすべての命を脅かす」▼入管法の改悪と強行採決に抗議するため国会前に集まった市民の声です。これだけ多くの問題が噴出している法案について、なぜ審議を尽くさないのか。いま国民の多くは結論ありきの国会に疑問を抱いています▼成立した改定マイナンバー法しかり、狙われている軍拡財源法案しかり。さまざまな課題が明らかになりながら、腰をすえた議論もないまま、ところてんのように押し出されていく。国会を形骸化させている自公の与党と、それに協力する維新や国民の責任は重い▼「国会中継を見るのはいつも骨が折れる」。亡くなったコラムニストの小田嶋隆さんが、安倍政権時の国会の様子を取りあげたことがあります。質問のヌルさに腹を立てたり、回答する官僚や大臣の言葉の使い方のデタラメさにいらいらしたり。平常心で視聴し続けることができなかったと▼うそをついたり隠したり。たしかに、あのときから説明責任は放棄されてきた気がします。いまはそれが加速され、反対意見には耳をかさず、国のかたちを変えるような法案を押し通す。国会をその装置のようにして▼入管で命を奪われたウィシュマさんの遺族が見守る前でくり広げられた強行採決。「数だけで決めてはならないものがある」。共産党の仁比議員が議場で放った一言は、政治のあり方をも問い直しています。
きょうの潮流 2023年6月8日(木)
「この図を見れば、そういうふうに見えるかもしれませんが…」。浜田靖一防衛相の国会での答弁です(5月30日)。日本共産党の山添拓参院議員に「文字通り日米一体ではないか」と追及され、そう認めました▼図とは、防衛省内部文書に描かれていたもの。「反撃能力について」と題し、米軍と自衛隊が共同して攻撃計画の立案から目標の分担、実際の攻撃、戦果情報の共有、計画の再立案、再攻撃を繰り返す敵基地攻撃作戦のサイクルを図示しています。本紙日曜版(同28日号)が報じていました▼攻撃目標の分担といっても、攻撃先は他国領土です。どの基地を攻撃すればいいのかという情報を独自に確認できない自衛隊は、その情報を米軍に頼らざるをえません▼敵基地攻撃でどれだけ被害を与えたのか、さらに再攻撃が必要なのかなどといった情報も同様です。日曜版で元航空自衛隊幹部は「米軍の判断に引きずられ、反撃に際限がなくなる」と語っています▼「台湾有事」想定の机上演習で話題になった米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書(1月)は、中国本土への攻撃には「核保有国とのエスカレーションという深刻な危険」があると強調します。敵基地攻撃は核戦争すら引き起こしかねないというわけです▼戦争の「抑止」どころか、国土の壊滅を引き寄せかねない敵基地攻撃。その能力保有などへ軍事費を5年間で43兆円も確保するため、軍拡財源法案の国会成立まで急ぐ岸田政権。まさに亡国政治です。
きょうの潮流 2023年6月7日(水)
「私たちは、新しい医療活動の型を創造している」。70年前のきょう開かれた、全日本民主医療機関連合会の結成大会は熱気に満ちあふれていました▼病める患部を、患者の生活全体として診る。同じように生活とたたかっている人たちと力を合わせ、その合作した力で一人の患者を治療し、健康と、健康が支えられる生活を守ろう―。初代会長の出発宣言は民医連の原点とされてきました▼戦前の無産者診療所から受け継いだ「いのちの平等」。医療の社会的な責任を問い続けながら歩んできた戦後の歩み。その土台となってきたのは人権でした。それは戦争をはじめ、いのちと健康を奪うものとのたたかいでもありました▼結成時は117病院・診療所だった組織はいま全国にひろがり、民医連に加盟する事業所は1700をこえています。人びとの困難あるところに民医連ありと、それぞれの地域で多くの仲間たちが医療や介護、健康づくりにとりくんでいます▼活動は世代をこえています。京都のあすかい病院では若い職員らが「憲法カフェ」を毎週開催。岸田政権の大軍拡のために生活の財源が削られようとしていることを話しながら、憲法を守り生かす賛同者を増やす姿が昨日の本紙にも▼平和か戦争かをめぐる緊迫した情勢、コロナがうきぼりにした日本の社会保障のぜい弱性。そのもとで、いのちの平等をめざす新たな決意と団結を固め合う節目にしたい。人びとのいのちとくらしに光をあててきた創造の歴史はこれからも続きます。
きょうの潮流 2023年6月6日(火)
「あたいはやっちょらん」。無実を訴え続けて44年。またも再審の扉は開きませんでした。人生のすべてをかけたたたかいとまともに向き合う覚悟もないのか―▼原口アヤ子さん。1979年、鹿児島県大崎町で義理の弟を殺したとされる罪で懲役10年の刑が確定しましたが、捜査段階から一貫して無実を主張。裁判のやり直しを求めてきた「大崎事件」です▼出所後に再審を請求。それを認める判断を地裁や高裁が3度出しながら、いずれも検察の抗告で取り消されるという異例の経過をたどりました。共犯とされた親族の自白頼みで物的証拠もないにもかかわらず、審理を尽くそうとしない司法や検察の態度に怒りは広がりました▼再審請求の段階で真実の究明に意欲的な裁判官に当たるか外れるか。それに左右される「再審格差」という言葉さえうみだした事件。喜びと失望をくり返す残酷な仕打ちは、再審法改正の切実さを示しています▼国家による最大の人権侵害、えん罪をなくすために証拠開示の制度化や検察による抗告の禁止を求める声は大きい。血の通った法の必要性は、再審開始が認められながらいまだに検察が公判を先延ばしにしている袴田巌さんの例をみても明らかです。ドイツでは半世紀以上も前に再審開始決定にたいする検察の抗告を禁じているといいます▼もうすぐ96歳になる原口さんは認知症が進み入院生活を送っています。話すことはできなくても心の叫びはいまも。殺人犯にされたままで人生を終えてなるものか。
きょうの潮流 2023年6月5日(月)
「蝉(せみ)鳴くな正信ちゃんを思い出す」「弟の真白いシャツが眼に残る」。10歳で被爆し亡くなった女の子の俳句です。その母は「原爆忌母呼ぶ声の耳になほ」と。1955年発行の『句集 広島』に収録されています▼「俳句は戦場のにおいさえも伝える」と語ったのは、俳人の黛(まゆずみ)まどかさん。「『はだしのゲン』もすごく伝わりますよね」とも。その漫画が広島市の学校教材から外されました。「まやかしの時代に入ったのではないか」と危惧します▼50年前の6月、「はだしのゲン」の連載が始まりました。主人公のゲンは国民学校2年生。作者の中沢啓治さんは被爆当時6歳でした▼学校の門前で被爆し、家に戻ろうと走りますが、火の海にさえぎられました。路面電車の大通りでガクガクふるえ、「お父ちゃーん、お母ちゃーん」と半狂乱に泣き叫ぶ6歳児。たまたま隣家のおばさんが、顔に無数のガラスが突き刺さった状態ながら声をかけてくれて、母の居場所がわかり、生き延びたのです▼「六歳だったぼくは、おこったことをありのまま、フィルムのように脳裏に焼き付けました」と書いています。おとなびたゲンの姿には、こんなふうに母を支えたかった、周りの人を助けたかったという思いが込められたのでしょう。リアルな場面を想起するたび、死体の臭いや残酷な光景がよみがえるフラッシュバックに苦しみました▼それでも悲劇を伝えるためにと描き続けた中沢さん。広島市教育委員会は、その思いを踏みにじるのでしょうか。
きょうの潮流 2023年6月4日(日)
アカミミガメとアメリカザリガニが1日から、条件付き特定外来生物に指定されて、販売が禁止されるようになりました▼黄色が鮮やかなオオキンケイギクなど特定外来生物は、栽培や飼育が禁止されています。“条件付き”の場合、飼い続けることはできても野外に放したり、逃がしたりしてはダメ。飼い続けられない場合は、責任をもって飼える相手を探すようにとされています▼アカミミガメの子どもは「ミドリガメ」として売られ、家庭や学校で飼われてきました。「亀は万年」といわれるように寿命は40年程度にも。手に負えなくなったり、「自然で生きる方が幸せ」と悪気なく考えたりした結果、池や川、野に放たれてきました▼日本に古くからすんでいた、穏やかなニホンイシガメにとっては大きな災難です。繁殖力の違いから競争に敗れ、各地で数を減らします。同じく外来のアライグマに食べられ、生息地の減少もあり、日本全体として準絶滅危惧種に指定されています▼くらし家庭面で5月に連載された「ニホンイシガメと生きる」。体の特徴や暮らし、人とのかかわりなどを紹介しました。ある朝、読者から「これはイシガメでしょうか」と写真が送られてきました。執筆者に転送すると「ミシシッピアカミミガメの年老いたオスでしょう」とすぐ返信が。身の回りで出合うことはやはり難しい▼人間によって生きる場を得てきたアカミミガメと、人間によって生きる場を失ったニホンイシガメ。私たちにこれからできることは。
きょうの潮流 2023年6月3日(土)
「81」という数字は将棋の世界では特別の意味をもっているといいます。盤上の9×9の升目に由来し、81歳を迎えた棋士を「盤寿」と呼んでお祝いします▼その数字がついた第81期名人戦で新たな歴史が刻まれました。藤井聡太さんが20歳10カ月の史上最年少で最高峰の座につき、羽生善治さんに続く2人目の七冠を達成。「とても重みのあるタイトル。今後はそれにふさわしい将棋を指さなければ」と思いを語りました▼考えて、考えて、考えぬく、読みの深さと速さ。これまで最年少記録を保持してきた谷川浩司永世名人が著書『藤井聡太はどこまで強くなるのか』で説いています。つねに最善手を求め、相手の得意な戦法を避けたりせずに正々堂々とたたかう。その姿勢は将棋の理想であるとも▼AI(人工知能)の評価値が描く右肩上がりのグラフは「藤井曲線」といわれます。ベストな手を指し続けてつかむ勝ち方。それはAIを駆使するだけでなく、地力でたどり着いた地平といえるでしょう▼なぜ強くなりたいのか。「自分が強くなることで、いままでと違う景色をみることができたら」と答えていた藤井さん。トップ棋士との対局やタイトル戦を重ねることで高みをめざす景色はさらに広がっています▼江戸時代から連綿と引き継がれてきた名人の系譜。その歴史は人間の知力を示す証しでもあるでしょう。藤井新名人の初めての揮ごうは「温故知新」。故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る。盤上の真理を探究する無限の旅を楽しみながら。
きょうの潮流 2023年6月2日(金)
“グルーミング”という言葉は英公共放送BBCの番組(3月放送)に触れるまで知りませんでした。もともとは「毛づくろい」。性犯罪の文脈では、わいせつ目的で子どもを手なずけ、心理的にコントロールする行為を指します▼故ジャニー喜多川氏のジャニーズJR.(ジュニア)たちへの性虐待がそれでした。絶対的権力を持つおとなが、デビューへの夢をちらつかせながら13、14歳の子どもを自分の性欲のはけ口にする。衝撃で親にも話せない。地獄絵図です▼中には一生のトラウマになるほどの傷を負いながら、ジャニー氏への感謝を口にする元ジュニアも。虐待を虐待と認識できない、そこにグルーミングの特徴があります▼ジャニーズ事務所が先日「外部専門家による再発防止特別チームの設置」などを発表しました。「再発防止」といいつつ、今なお性虐待の事実は認めていません。藤島ジュリー景子社長の「知らなかった」発言については、元所属タレントの近藤真彦氏が取材陣の質問に「知ってた、知らなかったではなく、知っているでしょ」と。徹底した解明が必要でしょう▼いま国会で刑法改正案が議論されています。内容は、性行為の同意年齢の13歳から16歳への引き上げ、公訴時効の延長、経済的・社会的関係上の地位利用を要件に追加、子どもにわいせつ目的で近づく罪の新設など。ほとんどがジャニー氏のケースにあてはまります▼おとなの性欲のえじきになる子どもたちを、どう守るか。社会全体が考えるべき時です。
きょうの潮流 2023年6月1日(木)
「社会の混乱など何も起きていない」。アジアで初めて同性婚が認められてから4年。台湾では1万組をこえる同性カップルが婚姻届を受理され、支持する人たちも大幅に増えています▼当事者の喜びの声が本紙「すいよう特集」(24日付)で紹介されていました。「誰も損害をうけていないし、多くの人に利益があった」。道を開いたのは市民の運動。いまや同性婚を認める国と地域は34を数え、欧州や北・南米を中心に広がっています▼日本でも画期的な判決がありました。愛知県の男性カップルが国を訴えた裁判。名古屋地裁は法の下の平等を定めた憲法14条とともに、婚姻の自由を定めた24条の2項に違反すると初めて判断しました▼「同性カップルに対し、その関係を国の制度として公に証明せず、保護するのにふさわしい枠組みすら与えていない」。判決は同性カップルへの理解が進んでいる現状をふまえ、結婚制度から排除することで大きな格差が生じているとして「もはや無視できない状況に至っている」と▼司法の矜持(きょう じ )を示した判決に法廷は喜びにわいたといいます。原告側は「現状を放置することは到底許されない」と、古い家族観や価値観にしがみつく政治を批判。それは、同性婚を制度化すれば「社会が変わってしまう」と発言した岸田首相にも▼幸せになる人が増えたという台湾の様子はテレビのニュースでも取り上げられ、同性カップルが声をそろえていました。「社会は変化していくもの。それを恐れてはいけません」
きょうの潮流 2023年5月31日(水)
物事の境目や差別。守るべき規範や道徳などにより、行動や態度につける区別。辞典を引くと、「けじめ」にはそんな語訳がついてきます▼語源については囲碁用語の「結(けち)」からきた、「分目(わかちめ)」が転じたと諸説ありますが、いずれにしても古くから使われてきた言葉です。源氏物語にもたびたび登場。「けぢめ見せたる」「けぢめ見えわかれぬ」など区別を視覚的にとらえることに多く用いられています▼この人の場合は、仕方なく目に見える「けじめ」をつけなければならなくなったか。岸田首相が息子の翔太郎・首相秘書官を更迭しました。昨年末に首相公邸で忘年会を開き、会見や組閣のまねごとまでしていたことに批判が高まるなかで▼翔太郎氏は今年1月の外遊同行時にも公用車を使用した観光や土産購入が問題になっていました。はなはだしい公私混同にもかかわらず、首相はかばい続け、今回も厳重注意で済まそうとしていました▼「適材適所の観点から総合的に判断した」。身内びいきと批判されながら息子を秘書官に起用したとき、岸田首相はそう答えていました。それがいかに的外れの人事だったか。公的な場での常識からかけ離れたありさまが物語っています▼己の権力欲と、取り巻くものだけを優遇する政治の私物化。安倍首相のときから鮮明になったモラルの崩壊。その姿勢は、身内にも周りにも特権や差別の意識をはびこらせることに。こんな恥ずべき政治に「けじめ」をつけるのは私たち国民です。
きょうの潮流 2023年5月30日(火)
レジ袋が有料化されてからまもなく3年がたちます。今ではほとんどの人がマイバッグを持ち歩いています。ごみや環境にたいする個人や家庭、企業の意識も変わってきました▼一方で、環境省によると日本のごみ総排出量は年間4095万トン。東京ドームの約110杯分に相当します。リサイクル率も横ばいで減少しているとはいえ、ごみをめぐる問題はいまだ大きな課題となっています▼きょう5月30日は「ごみゼロの日」です。ご(5)、み(3)、ゼロ(0)のごろ合わせから定められましたが、530運動の始まりはある登山家の呼びかけでした▼だんだんと暮らしが豊かになり車も普及していった1970年代。郊外に出かける人が増え、愛知・豊橋市の丘陵地にも自然歩道が整備され多くが訪れました。ところが大量のごみが残される現状に、豊橋山岳会の会長だった夏目久男さんは「自分のごみは自分で持ち帰るのが登山者のルール。それは社会全般にも通じる」と熱心に訴えました▼山だけでなく身近な生活の場のごみにも目を向け、住みよい美しいまちづくりをめざした運動は全国へと広がっていきました。環境への高い意識とモラルを持った未来人の育成こそがこの運動の使命だとして▼深刻な環境汚染を引き起こしているプラごみについて、国連は各国や企業がとりくみを強めれば2040年までに80%削減できるといいます。使い捨てではなく、循環型の社会へ。それを政府に求めていくことも、530運動の役割でしょう。
きょうの潮流 2023年5月29日(月)
みんなが「恐竜」になりきって走ろう。最近、おとなから子どもまでティラノサウルスの着ぐるみで駆けっこをする不思議なイベントが広まっています▼この「ティラノサウルスレース」は米国が発祥とされ、楽しげな様子が日本にも伝わり各地で催されるように。笑いにつつまれた空間には、恐竜へのあこがれとともに滅びたものへの哀愁も漂います▼それぞれの着ぐるみもそうですが、最強の肉食恐竜ティラノサウルスといえば、歯をむき出しにして迫りくるイメージ。ところが、最近の研究発表では歯は唇に覆われていた可能性が高いと結論付けました。肉食恐竜の口はワニよりトカゲに似ているといいます▼以前からそのことを指摘してきた爬虫(はちゅう)類学者の青木良輔さんは、あごを閉じると歯が見えるというワニの特徴が復元の過程で入り込み、間違ったイメージがつくられてしまったと(『ワニと龍』)。そして、ワニのような口唇の退化は水陸両生の生活のなかで生じたものであるとしています▼恐竜が生きていた時代から今日に至るまで連なっているワニに、人類は失ってきたものの姿を重ねてきたという青木さん。想像上の動物である龍も、ワニとは深い関係にあることを先の著書でひも解いています▼いまそのワニをふくめ、世界に生息する爬虫類の5分の1が絶滅の危機にひんしています。なかには生きた化石といわれるムカシトカゲも。先のレースには、人類が多種多様な生物とともにありたいとの思いも込められているはずです。
きょうの潮流 2023年5月28日(日)
日本の卒業シーズンは桜の開花とともにやってきますが、米国では青葉が輝く今がその時期です。例年、どの大学にどの著名人が招かれ演説したかが話題になります。今年は、米東部マサチューセッツ州のボストン大学に注目が集まりました▼同大学出身で、米映画大手ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの最高経営責任者ザスラフ氏がブーイングで迎えられたからです。記念演説のさなか卒業生たちから「脚本家たちに賃金を支払え」の唱和が沸き起こりました▼ハリウッド映画やテレビドラマの屋台骨である脚本家が2日からストライキに入り、映画撮影や番組作製が次々に休止しています。全米脚本家組合(WGA)のストは15年ぶりです▼映画やテレビシリーズのネット配信など業界が大きく変わる今、著作権料などをめぐり組合と制作スタジオの大きな溝は埋まりませんでした。番組などのネット配信拡大に伴い、制作現場も一変しているといいます▼これまで7人ほどで担当していた脚本づくりは、短期間で少人数での作業を強いられ、過重労働に。さらにスタジオ側は人工知能(AI)を導入した脚本作製も提案しますが、組合側は阻止へたたかう構えです▼賃上げと公平な契約を勝ち取ろうと、ハリウッドやニューヨークのスタジオ前で連日ピケが張られています。小さな子どもを連れて声を上げる組合員の姿も。夏まで続く可能性も指摘されています。生活をかけた脚本家たちの覚悟に、日本からも熱いエールと連帯を送りたい。
きょうの潮流 2023年5月27日(土)
唱歌「ふるさと」の舞台にもなった地でした。長野県北部にある中野市。見渡せば里山の風景がひろがり、田畑と住宅が混在する地区で、その陰惨な事件は起きました▼この地区の民家に住む30代の男がナイフと猟銃で4人の命を奪い、自宅に立てこもりました。犠牲になったのは警官2人と近くに住むという女性2人。避難した住民らは恐怖におののきながら一夜をすごしました▼容疑者の男は両親とともに果樹園やジェラート店を営み、父親は中野市議会の議長を務めています。犯行の動機や猟銃を手に入れた経緯はまだ不明ですが、男は容疑を認めているといいます▼なぜ、こんな残虐な行為に至ったのか。現時点では立てこもった際の要求なども伝えられず、計画性もみえてきません。いくつもの疑問だけが募ります▼同じ25日、福岡・筑後市で20代の男が警察署の駐車場に車で突っ込み、車を炎上させる事件を起こしていました。人通りの多い日中に銀座の高級時計店に押し入った強盗事件といい、どうも最近はあと先を考えない短絡的、衝動的な犯行が目につきます▼たやすく悪の道に転げ落ちていく投げやりさ。人の命や財産を奪いとることへのためらいのなさ。それはどこから来るのか。孤立感や生きづらさ、社会に漂う閉そく感が影響しているかどうかは計り知れませんが、こうした犯行をうみだす土壌になっているとすれば不安はつきません。この国を覆う先行きのみえない暗さ。それが相次ぐ事件を、いっそう陰うつとさせます。
きょうの潮流 2023年5月26日(金)
今年4月の時点で公立中学校の4校に1校で教員不足が起きている―。大学教授などでつくる「#教員不足をなくそう緊急アクション」の調査で、そんな深刻な実態が明らかになりました。公立小学校でも5校に1校が教員不足です▼定員通りに教員が確保できない状況が常態化しています。自治体が少人数学級を実施しようとしても、教員が足りず進められない。そんなことも起きています▼「担任が不在でプリント中心の学習にせざるをえない」「教師1人で2クラス合同授業」。緊急アクションの調査への回答からは各地で子どもの教育への弊害が起きていることが分かります。病休の教員の担当する教科が実施できなかったり、免許外の教員が教えたりというのは普通の光景になりつつあります▼教員のなり手がいない大きな要因の一つが勤務実態の深刻さです。4月に文科省が公表した調査結果によると、1カ月の残業時間が45時間を超える教員は小学校で約65%、中学校では約77%に上ります。学生が教員志望を諦める大きな要因となっています▼こんなことになったのも政府が教育予算を低く抑えて、教員を減らしてきたから。しかも現在の制度では、公立学校の教員はどれだけ長時間残業しても、残業代がまったく支払われません。これでは働かせる側に労働時間を減らさなければという意識が働きません▼教員不足は長年の教育政策が大破綻した結果です。未来を切り開く子どもたちのために、抜本的な予算増が求められています。
きょうの潮流 2023年5月25日(木)
寒風の河原に、大声で演説の練習をする若者の姿がありました。時は1928年1月。貧しい人たちの生活を少しでも良くしようと、大阪府三島郡にあった吹田町で、労働農民党の支部を再建した青年たちです▼彼らは社会の仕組みを学びながら、やがて日本共産党の活動に参加していきます。ファシズムが吹き荒れる中、労働争議や庶民のための診療所づくりに奔走。人びとの幸せ、平和な世を実現するために体を張ってたたかいました▼しかしその多くは権力に弾圧され、若き命を奪われました。歴史に埋もれた無名の青年たち。それを掘り起こしたのが『井戸貞三物語 戦前吹田の灯をかかげた人々』です。両親が診療所の開設にかかわった著者の柏木功さんは「反戦平和、自由とまともな暮らしを求めてたたかった原点」だと▼ともしびは、戦後すぐの生活防衛と日本の独立・平和のたたかい、革新統一の市民運動、71年の革新府市政の誕生、現在の市民と民主勢力の世論と運動の発展に連なっている―。長く吹田市議を務めた松本洋一郎さんはいいます▼先の大阪府議選で党の議席を守り抜き、市議選でも7人全員の勝利をかちとった吹田。いまも引き継がれる革新の息吹、政治を変えたいとの思いは脈々と流れています▼きのう本紙にのった石川多枝府議のインタビュー。一人ひとりの生活への願いが訴えとかみあい、共感と支持が広がっていった様子が伝わってきました。そして最後にきっぱりと。「全力で維新府政に立ち向かいます」
きょうの潮流 2023年5月24日(水)
「大成功だ」「首相のリーダーシップが評価された」。G7で内閣の支持率も株価も上がったとはしゃぐ岸田政権。自民党内では早期解散のムードも高まっているそうです▼洪水のような報道でした。朝から晩までサミット一色。しかも、政府の広報かというほどの無批判たれ流し。とくにNHKは岸田首相や各国首脳らの動きを延々と中継し、政府と一体でG7を盛り上げました▼「総理、逃げるんですか」。自画自賛の閉幕会見を終えようとした岸田首相をネットメディアの記者が呼び止めました。広島で核を認める宣言を出したのは間違いだったのではないかと問いただしましたが、首相は一方的な見解だけを述べて立ち去りました▼核兵器の存在を正当化した「広島ビジョン」には、被爆者をはじめ国内外から怒りや非難する声が相次いでいます。地元紙の中国新聞も「実効性を伴わぬまま、核廃絶への姿勢だけをPRする『貸し舞台』に広島を利用されても困る」▼核の問題だけでなく、世界を覆う危機に対して、G7は展望を示すことができず分断を深めただけでした。それを礼賛する大手メディア。権力にすり寄り、権力を批判する勢力には爪を研ぐ。その姿勢はいっそうあらわに▼誰のため、何のため。ジャーナリストの斎藤貴男さんは近著『「マスゴミ」って言うな!』で問いかけます。権力のチェック機能としてのジャーナリズムは民主主義社会に不可欠。間違っても「マスゴミ」などとののしられる存在であってはならないと。
きょうの潮流 2023年5月23日(火)
今年は童話作家で詩人の宮沢賢治没後90年です。晩年の賢治が過酷な朝鮮人労働者の状況に胸を痛めて書いた詩があります。短い二連の文語詩「いたつきてゆめみなやみし」で、題は重い病気で夢もまったく見なくなったという意味です▼「その線の工事了(おわ)りて、あるものはみちにさらばひ、あるものは火をはなつてふ、かくてまた冬はきたりぬ。」病床で聞いた朝鮮人行商人の太鼓の思い出に続く二連目です▼下書き原稿によれば、賢治は新聞で朝鮮人労働者の状況を知ってこの詩をつくりました。賢治の読んだ記事は1932年5月に矢作(やはぎ)村(現陸前高田市矢作)で起きた朝鮮人虐殺事件の記事ではないか。そう教えてくれたのは盛岡市の元中学校教師、高林勝さんです▼当時、大船渡線の工事で500人以上の朝鮮人労働者が酷使され、工事が終わると一方的に解雇されていました。朝鮮人たちは待遇改善を求めてストライキを決起。請負会社は暴力団を組織してツルハシやマサカリで朝鮮人の宿舎を襲い、死者3人、重軽傷者20人超の犠牲が出ました▼「賢治は文語詩のぎりぎりまで削った表現で朝鮮人に対する日本人の仕打ちの不正義を告発した」と、高林さんはいいます▼公開中の映画「銀河鉄道の父」は、家族思いの優しい賢治像を描きます。しかし賢治は、この詩以外にも白象を酷使した資本家に反撃する「オツベルと象」のような童話を残しました。「静かに激しく正義の怒りを燃やす賢治をもっと語るとき」。高林さんの言です。
きょうの潮流 2023年5月22日(月)
G7の会場となったホテルは、広島湾に浮かぶ宇品(うじな)島にあります。かつて、この一帯には旧陸軍の船舶司令部が置かれ、ここからあまたの若者が戦地へと送り出されました▼日本軍最大の輸送基地となった宇品。そこには無謀な戦争に突き進み破滅した国の足跡が刻まれています。その場所に各国の首脳が集まり話し合った内容をみると、強い違和感を覚えます▼ゼレンスキー大統領の来日によってウクライナへの支援が改めて強調されました。とくに欧米による軍事協力が強化され、米国製の戦闘機を提供することも。戦争当事国がそれを訴えたいのは理解できますが、戦況が激しくなればなるほど犠牲者は増え続けます▼侵略したロシアにこの戦争の責任があることは言うまでもありません。それを許せば国際社会は成り立たないでしょう。今回のサミットでも参加国を拡大して「平和で安定し、繁栄した世界」をテーマに議論したといいます。それは軍事ブロックを固めて対立と分断を先鋭化させることと矛盾しています▼なによりも政治の役割というのは、協調の道筋を探し、戦争を起こさせない努力を尽くすことにあるのではないか。最も戦争のむごさを伝える被爆地で、帰らぬ人たちを見送ったこの地で、一部の国々が結束を誇示する姿がふさわしいのか▼『暁の宇品』を著した堀川惠子さんは「宇品には、この国の過去と未来が凝縮されていた」と記しました。世界の人びともこの地で誓ったはずです。過ちは決してくり返さない、と。
きょうの潮流 2023年5月21日(日)
突然つかまれた足首の感触は今も残っています。足元から聞こえてきた「水…」の声。走って家にもどり井戸水をくんで飲ませると、その人はがっくりと息絶えました▼目もくらむ閃光(せんこう)、すさまじい爆風、黒い雨。火の海に包まれた街、皮膚が垂れ下がった血まみれの人びとの無言の列。毎日遺体を焼く煙とにおいが流れ、焼け跡のむこうの海が近く見えた―。8歳になったばかりの少女の、あの夏の記憶です▼広島で被爆した小倉桂子さん。原爆資料館でG7の首脳たちに自身の体験を語りました。ここで起きたことを追体験してほしいと。「地球上から早く核兵器をなくして」。その訴えを、どう受けとめたのだろうか▼核兵器廃絶を求める声がうずまく被爆地での開催。ところが、G7が出した核軍縮に関する「広島ビジョン」では、核兵器には役割があると存在を肯定しています。なくすための努力も決意もなく、核兵器禁止条約にも触れないで▼広島開催にこだわったという岸田首相はバイデン米大統領との会談で核の「抑止力」や「核の傘」にしがみつく姿を明らかに。沖縄に核攻撃の能力をもつ米軍戦闘機が配備され、広島には「核のボタン」が持ち込まれる。恥ずべき欺瞞(ぎまん)をさらしながら▼独学で学んだ英語を生かし、通訳としても被爆者の声を世界に発信してきた小倉さん。各国の外相にこう呼びかけたこともあります。「私たちは絶対にあきらめない。いつの日か、私たちの夢、核のない世界が実現する」。その思いをなんと聞く。
きょうの潮流 2023年5月20日(土)
世界の平均気温は上昇し続けると予測されています。国連の世界気象機関が今後の予測を発表しました。2027年までの5年間で少なくとも1回は、産業革命前と比べて1・5度を超える確率が66%に及ぶというのです▼5割を超えるのは初めて。すでに約1・1度高くなっています。この上昇が何をもたらしているのか。世界のすべての地域で熱波や豪雨、干ばつ、熱帯低気圧などの極端現象に影響を及ぼし、穀物収穫量や健康、生態系などで損失と損害を与えている―▼国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書の指摘です。温暖化が続けば、これらの極端現象の変化はさらに大きくなります。ただ、気候変動の行方の鍵はまだ私たちが握っています▼報告書は、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の目標である1・5度に抑えるには、温室効果ガスの排出量を35年までに19年比で60%削減する必要があると。大きな責任を負うのが温室効果ガスを大量に排出してきた先進国です▼主要7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、気候危機対策の強化を求めて活動している22歳の若者がこう話していました。「気候変動はより若い世代が影響を受ける。どうして、こんな問題を上の世代は放置してきたのか」「サミットが気候危機対策や核兵器廃絶へ大きな一歩になるよう、声を上げる」と▼議長国・日本の政策は、原発推進と石炭火力の延命策です。緊急に必要な気候危機対策への逆行、その対応が問われます。
きょうの潮流 2023年5月19日(金)
このごろの国会では奇怪な「論法」が横行するらしい。わざと論点をすりかえる「ご飯論法」は安倍元首相の得意でしたが、こんどは妄想論法、あるいは臆測論法とも呼ぶべきか▼「事実ではないが、可能性はある」。そうくり返しながら、死者を汚し、命を救おうとした人たちを中傷する。日本維新の会の梅村みずほ議員が、事実ではないとしながらも自身の当て推量をまくしたてました▼入管でウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件について。彼女はハンガーストライキで亡くなったかもしれない、支援者のひと言が「病気になれば仮釈放してもらえる」という淡い期待を抱かせた―。そんな悪意を次つぎと▼これには入管側もそうした事実はないと否定しました。収容中に弱りはて、まともに食事もできず医者や点滴を哀願するウィシュマさん。助けをもとめる姿をあざ笑う職員。それは監視カメラの映像からも明らかになっています▼命を奪い、人間の尊厳をふみにじった事件は日本の入管とその法律のひどさを改めて世に知らしめました。いま国会の内外では岸田政権から出された入管法の改悪案を阻止するたたかいが続いています。そのさなかにとびだした梅村議員の暴言は、維新がいかに悪政推進の先兵としての役割を果たしているかをまざまざと▼ウィシュマさんの遺族らは心を深く傷つけられたと抗議。姉は必死に生きようとしていたと、妹は怒りを込めました。「国民を代表する議員が人の苦しみがわからなくていいのか」
きょうの潮流 2023年5月18日(木)
たこ焼きとお好み焼き。グルメ番組ならばともかく、NHKの夜のニュース(12日)で大々的に取り上げられるのはいかがなものでしょうか▼外国人旅行客がたこ焼きに行列をつくって、活気がコロナ前に戻ったといいます。なんのことはない。東京証券取引所で企業の決算発表がピークを迎えたというニュースの導入として使われただけ。長々と報じる必要があるのか疑問です▼お好み焼きの方はG7広島サミットの参加国に引っかけて、7種類のお好み焼きが作られているというもの。核兵器廃絶を進めるサミットになってほしいと多くの人々が求めているにもかかわらず、お好み焼きで片づけられては…▼ニュースが放送されたこの日は、入管法改悪案の廃案を求める4千人の市民が国会正門前で集会を開いていました。しかし報道は一切なし。それまでも外国人の命や人権が脅かされる入管法について、立ち入って伝えられたことはありません▼国会では、岸田自公政権のもとで国の針路を左右する重大法案が審議中です。大軍拡のための財源、原発回帰、健康保険証をマイナンバーカードに置き換える。ところがニュースは法案の中身や国会の動きを検証することがないままできました▼「確かな情報の、先頭に」というNHKのモットーが空々しい。権力を監視し、市民に議論の場を提供するのがジャーナリズムの役割のはず。沈黙したままでは悪法成立に加担することにもつながりかねません。公共放送として本来の姿を見せてほしい。
きょうの潮流 2023年5月17日(水)
「LだってGだって法律に守られているという話になったのでは、足立区は滅んでしまう」。3年前の東京・足立区議会。少子高齢化をめぐる議論のなかで飛び出した自民党議員の発言です▼性的少数者への深刻な差別発言。「安心して。渋谷区は滅んでいない」「私たちは生きている」。ひと足先にパートナーシップ制度を取り入れた渋谷区民や全国から非難の声があがり、謝罪をもとめる署名は3万3千人にも▼当の議員は謝罪に追い込まれましたが、後に居直り。みえるのは自民党の古い価値観です。社会を分断する、女性を守れないなどという、LGBT法案をめぐる党内議論の混迷と同質です▼G7を前に各国大使が性的少数者の権利を支持し、差別に反対するメッセージを日本に送りました。差別ではなく尊厳、制約ではなく自由、不寛容ではなく包摂を求め、誰ひとり取り残さない社会を実現する時だと▼足立区では21年からパートナーシップ・ファミリーシップ制度を開始。第1号カップルは別の自治体で生活していました。「生まれ育ったのは足立区だけど、この街は理解がないからあまり好きではなかった」といいながら、制度の制定が新たな希望となって居住を決意しました▼いま足立区では区長・区議選が争われています。西山ちえこ区長候補はジェンダー論を専門にした大学非常勤講師。先の差別発言に抗議するスタンディングにも立った行動者でもあります。大軍拡よりくらしへ、差別のない社会へ。ここから発信したい。
きょうの潮流 2023年5月16日(火)
グループサウンズが全盛だった60年代。ひとりの人物が日本の芸能界に新風を吹き込みました。歌って踊れる少年グループの誕生。それが多くのファンを巻き込みながら成長してきたジャニーズです▼創業者は米国のショービジネスを学んだジャニー喜多川氏。4年前に亡くなるまでタレントの発掘や育成の全権をにぎり、事務所を運営してきた姉のメリー喜多川氏とともに一大勢力を築き上げました▼長年ジャニーズを取材してきた作家によると、ジャニー氏には口癖がありました。「ぼくはどんな少年でもスターにできる。ただし、ぼくが好きになった子でなければダメ」。所属の少年たちを「うちの子」と呼んではばからない関係は「性的な好き嫌い」とも結びついていたと(『異能の男 ジャニー喜多川』)▼絶対的な権限をもつ創業者から所属タレントが性被害を受けたとされる問題で、ジャニーズの現社長がおわびを表明しました。事実と認めることは容易ではないとしながらも▼ジャニー氏による性加害は、これまでも一部メディアや海外の放送局で取り上げられてきました。週刊誌との裁判でもセクハラ行為はあったと認定されています。しかしジャニーズ事務所は顔を背けてきました▼性加害の検証と謝罪を求める署名を集めたファン有志の団体は、どのような方法で被害者と向き合っていくのか続報を待ちたいといいます。重い口を開いた性被害者の告発。華々しさの裏で少年たちの夢を食い物にしてきた罪は決して消えません。
きょうの潮流 2023年5月14日(日)
まばゆいカクテル光線のなか、無数の応援旗が翻り、チアホーン(応援用のラッパ)の音が鳴り響く―。熱気あふれる旧国立競技場で、新時代を体感しつつ開幕戦を見つめていたことを思い出します。1993年5月15日、日本初のプロサッカーが産声を上げました▼Jリーグが30周年を迎えました。世界的な選手がプレーし、名勝負も生まれました。クラブ数も当時の10から60へ。選手の技術レベルが上がり、ワールドカップでドイツやスペインを破るまでに。その進歩は著しい▼リーグはスポーツ界に変革をもたらします。地域密着はその一つです。当時、どの競技もチームは企業名が当たり前。企業の管理下で、その広告宣伝費がチームの運営費でした▼Jリーグはそこから脱却し企業名を排して地域名とし、自立を目指します。「空疎な理念」と抵抗する企業もある中、当時の川淵三郎チェアマンは「チームが根差しているのは企業ではなく、地域だと示す」と信念を貫きました。以来、クラブは増え続け、理念は他競技にも広がっています▼フェアプレーを浸透させる努力も興味深い。ある年のリーグ表彰式、フェアプレー賞受賞選手がスピーチしました。「サッカーに必要なのは相手を思いやる心。いつも僕はレフェリーや相手選手をリスペクト(尊重)し、ともにゲームをつくっている」。リーグの追求する信条を選手が体現しています▼日本のスポーツ界を突き動かし、共鳴し合った30年。新たな歩みを、この後も目に焼き付けたい。
きょうの潮流 2023年5月13日(土)
ロシア語を学び始めて1年になります。昨年3月にロシア軍がウクライナの子どもたちのいる建物を爆撃したのがきっかけです▼東部マリウポリの劇場に避難していた子どもの存在をロシア軍に知らせるため、ロシア語で書かれた「子どもたち」。建物わきの地面に大きな字で。ロシア軍が無視した文字の読み方を知りたくて、4月からのNHKラジオ講座を聞き始めました▼6カ月間の初級編で、「ロシア語は文法が難しいといわれますが、仕組みを理解してしまえば、とてもわかりやすい」とは講師の言葉。単語の変化の多さに途中からついていけず、録音で聞き直しているうちに1年経過。ロシアのことわざ「遅れても、全然やらないよりはマシ」に救われました▼始めたころは、電車の中でテキストを開くのもはばかられる雰囲気。テキストの投稿欄「うたごえ」には「こんなご時世だから」とロシアの人や文化を知り、勉強したいと声があり、共感しました▼講座の最終回は「~でありますように」と願望を表す学習でした。例文として「いつも平和でありますように!」「戦争がなくなりますように!」とありました。平和はミール。「世界」と同音異義の語です▼3月のNHK全国俳句大会の「自由題」では、ロシア語学習者の句が特選に入りました。「ロシア語を学び続けて春を待つ」(小峯千枝子さん)。選者の一人は「反戦の思い、平和を希求する思いがこういうことで表せる」と評価。語学は、私たちの世界を広げてくれます。
きょうの潮流 2023年5月12日(金)
おとなへの不信感が原点でした。それまで「死して護国の盾となれ」と教えていた先生が敗戦とともに一変。「みんな、民主主義ってのはいいもんだな」。恥ずかしげのない態度に、あぜんとするやら、頭にくるやら▼子どもがおとなにだまされた。疎開先で空襲にもあったノッポ少年が生涯もち続けた思い。子どものことを、敬意を表して「小さい人」と呼んだのも、その裏返しでした▼小さい人たちの洞察力の鋭さはおとなの比ではない。人間のずるさに対する正義感とか、物事に対してフェアであろうとする気持ちは子どものほうが絶対に上。訃報が伝わった高見のっぽさんが著書のなかで語っていました(『ノッポさんの「小さい人」となかよくできるかな?』)▼いつも子どもたちに注いできた温かいまなざし。それを脅かす戦争に通じる動きや、自然を壊す原発には反対の声をあげてきました。「平和な日本を、小さい人に残したい。大きな人の責任ですね」▼1964年から読み続けていると話していた本紙にもたびたび登場。権力の横暴にあらがう人びとの姿を伝えてほしいと期待を込めていました。幅ひろい世代やさまざまな価値観をもつ人たちに向けた新聞になることを期待しながら▼長く子ども向けの番組をうけもち、本気で向き合ってきたノッポさん。自分本位のおとなたちが増えたと嘆く一方で、小さい人たちの未来を信じていました。どこまでも優しげな笑顔で、いまもどこかで呼びかけているでしょう。「 できるかな 」
きょうの潮流 2023年5月11日(木)
「ものの始まりなんでも堺」という言葉を聞いたことはありませんか。堺は中世に貿易都市・商業都市として栄えました。戦国時代のドラマにも堺の商人・職人がよく登場し、鉄砲づくりなどは有名ですが、意外なものもあります▼堺観光ガイドによると自転車、傘、金魚、線香、三味線、銀座、学生相撲、医書大全、私鉄も堺がはじまり。新堺音頭でも「物のはじまりゃ なんでも堺 三味も小唄もみな堺」とうたわれています▼いまも政治の世界で注目されているのが堺です。統一地方選で知事・大阪市長選で維新の現職・新人候補が勝利し、府議会に続き大阪市議会でも維新が過半数を占めました。維新政治に席巻されているかにみえる大阪ですが、堺はちょっと様相が異なります▼定数48の堺市議選で維新は過半数には遠く及ばず、18議席にとどまりました。一方、日本共産党は1増の5議席に▼大阪市も堺市もつぶす維新の「大阪都」構想に市長選でノーを突きつけたのも堺市民でした。4年前に維新市長が誕生しましたが、まやかしの「財政危機宣言」で住民サービスを次々と切り捨てる手法に批判が広がり「おでかけ応援制度」の改悪は2度ストップ▼21日告示の市長選に名乗りをあげた元堺市議の野村ともあきさんは、住民サービスの復活・充実、カジノのためのベイエリア開発でなく命と暮らし優先の市政への転換を訴えています。日本共産党も加わる「住みよい堺市をつくる会」は自主支援。維新政治の終わりの始まりも堺から。
きょうの潮流 2023年5月10日(水)
夏も冬も2日に1度のシャワー。食事は1日2食だけ。上着は10年以上買っていない。香典と旅費が捻出できず、近親者の葬儀に参列できない…。これが、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の」暮らしの実態です▼厚生労働相が生活保護費を2013年から段階的に平均6・5%、最大で10%も引き下げることを決めました。生活保護を利用しない低所得世帯との比較で保護利用世帯の方が、消費が上回っていたとして。加えて、厚労省独自の指数を使い「デフレ調整」の名目で▼黙っていられないと全国で1万人余りが審査請求し、29都道府県の千人近くが訴訟に立ち上がりました。これまで19地裁、1高裁で判決が出ています。うち9地裁で原告が勝訴▼4月の大阪高裁判決は、この原告勝訴の地裁判決を覆しました。保護費減額による生活環境の苦痛は、経済状況悪化の中で「国民の多くが感じた苦痛と同質のもの」と切り捨てました。原告34人は泣き寝入りせず、上告しました▼生活保護制度は、ナショナルミニマム(最低生活水準)として、わたしたち市民の暮らしの土台になるもの。保護費の減額は、最低賃金や就学援助、住民税非課税限度額などに大きな影響を与えます▼「食べて寝るだけ。生存しているだけで、人間らしい営みができない」。保護利用者からは、悲鳴ももれてきます。非人間的な土台のうえで暮らすのか。生活保護費の削減は、利用者だけの問題ではありません。多くの市民にも突き付けられています。
きょうの潮流 2023年5月9日(火)
「加害の歴史を含めて、さきの戦争の真実を次世代に伝えたい」。この思いで1991年から長野県飯田市で開催してきた「平和のための信州・戦争展」▼戦争展飯伊地区実行委の取り組みが実を結んで昨年5月、飯田市立の「平和祈念館」が開設されました。目を引く展示は「石井部隊図書」のゴム印が押された書籍『人体解剖学』や古びた医療機器類です。元731部隊員、胡桃沢正邦さんの遺品です▼「石井部隊」とは、石井四郎軍医中将のもと、中国東北部に建国した傀儡(かいらい)国家「満州国」で生体実験と細菌兵器攻撃をした731部隊のこと。同実行委は、91年の戦争展に招いた胡桃沢さんの証言(当時78歳)も撮影し、保存しています▼証言の録画を視聴すると、よどみなく質問に答えていました。「スギでもヒノキでも丸太は素材でしょう。マルタは研究の素材です。素材を使って病原菌を研究する」「マルタは人間で、中国人、蒙古人、ロシア人もいた」。“人体実験は、常識では考えられない”との質問には、軍人勅諭をそらんじて「軍隊では黒いものであっても、上が白だといえば白だと逆らえない」とも▼祈念館で残念なのは、731部隊の説明が全くないことです。同実行委は飯田市に対し戦争展での証言などの成果を生かすように求めています▼「戦争の悲惨さを伝えるには侵略・加害の事実に目をつぶることはできません。市民と行政が連携する平和の発信拠点として充実させたい」。同実行委の唐沢慶治委員長の抱負です。
きょうの潮流 2023年5月8日(月)
「すべてが終わったとき、本当にぼくたちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか」。人類が危機に直面し始めた頃、イタリアの作家は、この時代に生きる人びとにそう問いかけました▼消えた人影、閉じられた学校、静まりかえった街。日常のリズムが止まり、生活の変化を強いられ、空白となった時間。この3年余の間、私たちは計り知れないほどのものを失ってきました。命の重さと向き合いながら▼世界保健機関(WHO)が新型コロナの緊急事態は終わったと宣言しました。日本ではきょうから季節性インフルエンザと同じ「5類」の位置づけに引き下げられます。これまで追われてきた対応が節目をむかえています▼WHOに報告された死者は692万人ですが、テドロス事務局長は実際にはその数倍で、少なくとも2千万人にのぼるとの見方を示しました。後遺症に苦しむ人も多く、引き続きの警戒とともに国民の命と健康を守る政府の姿勢が問われます▼ところが、いまだ大流行の懸念があるのに、岸田政権は検査代や治療費の自己負担を求め、医療機関の経営をさらに圧迫しようとしています。自己責任の押しつけと支援の縮小は、ふたたびの危機を招きかねません▼大切なものを失い、人生さえ変えられるなかで社会の仕組みが問われ続けてきました。「ウイルスが歴史の行方を決めることはない。それを決めるのは人間である」。3年前に著名な歴史学者が発したメッセージは、今も私たちに投げかけられています。
きょうの潮流 2023年5月7日(日)
胸のすくような民主主義の実践記録。テレビ番組から映画になったドキュメンタリー「ハマのドン」(松原文枝監督、公開中)です。2019年から21年までを舞台に保守の重鎮が横浜市民と「カジノ誘致」をはね返した軌跡を追います▼主人公は藤木幸夫さん(92)。港湾の元締めで菅義偉前総理の後ろ盾でもあった裏の権力者です。なぜ反旗を翻したのか。「(博打=ばくち=は)必ずおけら(一文無し)になる。親子別れ、夫婦別れができる」。背景には、博打が唯一の娯楽だった時代の港湾労働者の苦難の歴史がありました▼カジノ反対は「死んだおやじ、港の先輩たちに言わされている」とも。政治学者の中島岳志さんの言葉を借りれば「死者との共闘」です▼藤木さんは戦争の犠牲者とも“共闘”します。横浜空襲で兄のように慕っていた教師が死んだ時、15歳の彼は脳みそを拾い、空き缶に入れて遺族に届けました。いまの時代の空気はモノが言えなかった戦前と似てきた、とも▼映画は藤木さんの言動が海外在住のカジノ関係者まで動かしたことを伝えます。「リスクを背負ってたたかっていたからこそ、人の心を動かした。その連鎖を描きたかった」と松原さん▼監督自身、安倍一強の時代、テレビ朝日「報道ステーション」のチーフプロデューサーとして、圧力に抗して権力を監視してきました。「主権は官邸にあらず、主権在民」(藤木さん)。「健全な民主主義の発達に資する」ことが放送の目的なら、こういう番組がもっと増えていい。
きょうの潮流 2023年5月6日(土)
観光や帰省中の人たちも多く、この日は地域の春を深紅に彩る「のとキリシマツツジ」をめぐる催しも開かれていたといいます▼大型連休さなかの行楽気分を一変させました。石川・能登地方を震源とするM6・5の地震。半島先端の珠洲(すず)市は最大震度6強の揺れに襲われました。その後も余震がつづき、犠牲者や建物の倒壊、土砂崩れの情報が相次ぎ、被害のひろがりが心配されます▼以前から地震が頻発してきた地域。最近も活発な地震活動がみられ、昨年6月には震度6弱を観測していました。30年前の能登半島沖地震でも大きな被害をうけた珠洲市は、65歳以上の割合を示す高齢化率が50%をこえています。安全の確保とともに手厚い支援が求められます▼一時は原発の誘致が進められた同市。住民らの反対運動で計画は凍結されましたが、能登半島には志賀(しか)原発があり、一帯を見渡せば新潟の柏崎刈羽原発や若狭湾沿岸の「原発銀座」も。もし事故が起きたらと思うと、ぞっとします▼その不安や怖さは地震列島のどこにも。にもかかわらず、岸田政権は原発の再稼働や運転延長、新たな増設にかじを切っています。福島第1原発の反省も地震による危険も顧みることなしに▼大地が揺れるたび、直接の被害とともに原発事故の恐怖がつねにつきまとう現実。そんな状況にありながら、原発回帰に突きすすむことがいかに愚かな選択か。反対の声をさらに大きく。こちらは自然相手ではなく、国の無謀からわが身を守ることにつながります。
きょうの潮流 2023年5月5日(金)
4月から高校生になった姪(めい)が制服姿の写真を送ってくれました。記者も通った高校ですが、制服のデザインはすっかり様変わり。時の流れを感じました▼制服への思いは人によってさまざまです。着るのが楽しい子もいれば、制服が苦痛で学校に行けなくなる子も。近年、多様な性自認への配慮から制服の選択肢を広げる学校が増えています▼ある高校では「スカートをはくたびに自分を否定されるようで学校生活がつらい」という生徒の訴えを機に、女子の制服にもスラックスを導入しました。裾が分割されたキュロットスカートを男女ともに選択できる学校も。動きやすさや寒さ対策を理由に選ぶ生徒もいます▼そもそも制服って必要?と制服そのものを見直す動きも増えています。ある高校の生徒会は、制服でも私服でも通える「お試し週間」を実施。試行錯誤しながらルールを作りました。「生徒が主体的に考える良い機会になった」と校長は言います▼わが子が通う高校には制服がありません。時間割に応じてブレザーとスカート、シャツとズボンなど、見た目と活動のしやすさを考えて選んでいます。場所や状況に合わせてふさわしい服装を考える、そんな力が子どもたちにも身に付いているのです▼誰かが決めた「高校生らしさ」「女らしさ」「男らしさ」を押し付けるのではなく、多様な選択を尊重し「自分らしさ」を発揮できる学校であってほしい。子どもをルールで縛るのではなく信頼してまかせる。おとなの姿勢が問われます。
きょうの潮流 2023年5月4日(木)
「戦争反対!」の声をあげるべき時に来てしまいました―。岸田政権が推し進める敵基地攻撃能力の保有に反対する女性識者の声を、雑誌『通販生活 夏号』が紹介しています▼教授や作家、ジャーナリストなど、幅ひろい分野で活躍する人たちが批判。「人々の生活が切り捨てられ77年間戦死ゼロの暦が変わろうとしている」(澤地久枝さん)、「積み上げてきたこの信頼を、政府は自らの手で粉々に砕こうとしている」(安田菜津紀さん)▼同じ過ちはくり返さないと誓った戦後日本の歩み。その道しるべとなってきた憲法を投げ捨て、ふたたび戦争国家につくりかえようとする選択が、いかに愚かで間違っているか。この特集からもよくわかります▼施行76年のいま、岸田首相は改憲に意欲を示しています。ロシアのウクライナ侵略や北朝鮮のミサイルを口実に、自衛隊の憲法明記や歯止めのない軍拡に道をひらこうとしています▼憲法記念日を前にした各紙の世論調査では、危機があおられるなかでも改憲反対が賛成を上回ったり、9条は変えないほうがよいとの答えが多かったところも。緊迫する情勢とともに、日本の行く末への、こみあげる不安がうかがえます▼私たちの選択肢は「全力で外交努力をすることで戦争を回避する」以外にない。先の特集で法政大前総長の田中優子さんが断言しています。憲法大集会では志位委員長がきっぱりと。「戦争を絶対に起こさない、そのためにありとあらゆる知恵と力をつくすのが政治の責任です」
きょうの潮流 2023年5月3日(水)
8000万人とも言われる犠牲者を出した第2次世界大戦。二度と惨禍を繰り返さないために、1945年10月に発効した国連憲章は武力行使を禁じ、「戦争違法化」を宣言しました▼残念ながら、戦後も米国や旧ソ連、その同盟国などが違法な侵略戦争を繰り返し、戦禍が絶えませんでした。現在、進行中のロシアによるウクライナ侵略も、厳しい現実を突きつけています▼民族対立や内戦を含めると、世界196カ国のうち、ほとんどが戦争当事国になってきました。筆者も以前、赴任していたインドで多くの戦死体を目の当たりにしたことがあります▼第2次世界大戦後、一度も戦争していない国は、わずか数カ国とされています。その一つが日本です。自衛隊は世界有数の軍事力を保持しながら、54年7月の発足以来、1人の外国人も殺さず、1人の戦死者も出していません。こうした奇跡的な状況をもたらしたのが、戦力不保持・交戦権否認を明記した憲法9条です▼戦後の歴代政権は、自衛隊は「戦力」ではなく、「自衛のための必要最小限度の実力」だとして「合憲」としましたが、9条との矛盾を埋めるために、「専守防衛に徹する」など多くの“歯止め”をかけてきました。その結果、「誰も死なない、誰も殺さない」軍隊となったのです▼海外での米軍の戦争への参戦を望む改憲勢力は、憲法9条の下で歩んできた戦後史を「恥」だと感じています。しかし、「戦争違法化」の先駆けである9条は、日本が世界に誇るべき宝です。
きょうの潮流 2023年5月2日(火)
これでは定額働かせ放題ではないか―。先生たちの怒りの声がこだましました。中学校教員のほぼ4割が依然として過労死ラインをこえる長時間の労働を強いられていました▼文科省が昨年度の勤務実態を調べたところ、上限の「月45時間」を上回る残業をしている教員が、小学校で64・5%、中学校では77・1%にのぼりました。しかも残業代は支払われず、休憩時間もほとんどとれない深刻さです▼「子どもたちの笑顔かがやく学校に。それが私たちの何よりの願い」。学校でも歌われる「翼をください」が新緑の三多摩メーデーの会場に響きました。職場や地域から集まった働く人びとが活動と要求を持ち寄り交流しました▼物価が上がっても賃金は上がらず、実質賃金は11カ月連続のマイナス。世界から取り残されている、この国の労働条件や環境。そのうえ異常な物価高にみまわれ、働くものの団結で生活と権利を守ろうとの訴えはますます切実に▼フランスやドイツではこの間、最低賃金が何度も引き上げられ、時給1700円をかちとっています。そこには労働者や市民のたたかう姿が。日本でも、非正規雇用の労働者らが賃上げをもとめた初の「非正規春闘」、女性たちが担ってきた家事やケア労働の価値を認めよと開いた「おんなたちのメーデー前夜祭」など、新たな動きがひろがっています▼岸田政権による大軍拡、世界的な軍備増強のなかで開かれた今年のメーデー。くらしの危機、平和の危機に立ち向かう連帯のときです。
きょうの潮流 2023年5月1日(月)
「あなたの人生の大事な瞬間には、いつも子どもがいましたね」と聞くと、「ザッツライト(その通り)」と繰り返したアレン・ネルソンさん(故人)。何年か前の取材でのことです▼ベトナム戦争に従軍した元米海兵隊員。銃撃戦から逃げた防空壕(ごう)で、ベトナム人の出産に偶然立ち会うことに。帰国後、学校の教室で女の子から「人を殺しましたか」と問われ、苦しみながら「イエス」と。号泣するネルソンさんを子どもたちはハグしてくれました▼子どもとのふれあいを通じて人間として回復していきます。それでも、戦場の悪夢は見続けました。死体の山で母を見つけ、しがみついて泣き叫ぶ子…▼「2人目はつくらないの?」と記者に逆質問も。「欲しいのなら、諦めない方がいい。子どもとの出会いはすべて宝物だから」。その言葉に背中を押され、1年後に出産しました。縁とは不思議なもの。ネルソンさんに会わなければ、次女はこの世にいなかったのですから▼出生数が80万人を下回った日本。働く人と女性に冷たい政治の結果です。「異次元の少子化対策」を掲げる岸田内閣が、その一方で進めるのは大軍拡と戦争準備。軍国主義時代の「産めよ殖(ふ)やせよ」を彷彿(ほうふつ)とさせるのは不幸です▼ベトナム帰還兵たちが最も苦しんだのは子どもを殺してしまった記憶でした。「僕のように、非暴力の生き方を求める人間にとって、憲法9条は生きるための基盤なんだ」。アメリカの戦争加害を語り続けたネルソンさんの言葉をかみしめたい。
きょうの潮流 2023年4月30日(日)
活動のきっかけは、学校行事中に目の前で子どもがおぼれたことでした。“ライジャケサンタ”森重裕二さんは、元小学校教員。子どもたちにライフジャケットを手渡そうと、発信を続けます▼危険だと思っていたのに意見を言わなかったことを反省し、勤務校で水辺の安全やライジャケの必要性を訴えました。そんな矢先、近隣の小学校の児童2人が川で死亡する事故が。「もっと早く知らせていれば…」。涙が止まらず、自分の使命として声を上げ続けようと決意しました▼「おぼれてしまってから何かするというのは無理なんです」。バチャバチャ騒ぐこともなく、シュッと一瞬で水の中に入ってあとは出てこない。水が濁っていたら、姿は消えて見えなくなってしまう。そんな危険性を動画で伝えます▼過去の判例では学校や園、子ども会などが水辺に子どもを連れていく時は、着用義務があるとされたことがあります。必要な時すぐに準備できる環境を整えるため「全ての自治体でレンタルステーションを」とクラウドファンディングも実施しています▼効用は安全面だけではありません。体が浮くことで安心して遊べるため、遊びの可能性が広がる道具だということも、声を大にして伝えたいと。「“楽ちん、楽しい、安心”を体験すると、ライジャケなしはあり得ません」。森重さんもここ20年、ライジャケを相棒に川や海での水遊びを楽しんできました▼思いはただ一つ、「子どもたちの命を守ること」。おとなの本気度が問われています。
きょうの潮流 2023年4月29日(土)
その昔、地中海沿岸のアラブ人たちは、サハラ砂漠のかなたに広がる土地をビラード・アッスーダーン(黒人の国々)と呼びました。一帯には早くから王国が形成され栄えた歴史があります▼ナイル川の上流にあるスーダン共和国はその名に由来します。19世紀からエジプトやイギリスの支配下に置かれ、第2次大戦後の1956年に独立。しかし軍事クーデターが相次ぎ長く内戦状態に▼1989年、クーデターによって成立したバシル政権は人権を抑圧する強権政治を続けました。2003年には「最悪の人道危機」といわれたダルフール紛争を招き、11年には南部が南スーダンとして分離独立。民主化運動もありバシル政権は19年に崩壊しました▼その後、国軍によるクーデターが起きましたが、昨年末から、ようやく市民勢力と民政移行にむけて合意。新たな政府へとふみだしたところに正規軍と準軍事組織の勢力争いによる衝突が起きました▼スーダンにはすでに数百万人もの国内避難民がいるとされ、人道危機はさらに深刻に。首都ハルツームでは医療施設の6割以上が閉鎖されているといいます。あまたの女性や子どもが栄養失調に陥り、支援を必要としている人たちが激増しています▼停戦合意にも爆発音や銃声が響いているという報告も。他国の支配や介入によってアフリカ諸国は長く混乱してきた歴史があります。これ以上スーダンの戦闘が拡大し、犠牲者を増やさないためにも、国際社会は手だてを尽くす責任があるはずです。
きょうの潮流 2023年4月28日(金)
ずいぶん増えたな。選挙中、ビラを配っていて感じました。空き地や空き家が。都心から電車で1時間ほどの地域。朽ちていく家屋、荒れ放題の庭があたりのさびれた印象をいっそう際立たせていました▼わが町だけのことではないでしょう。政府の発表によれば、空き家は全国に850万戸以上あり、間もなく1千万戸に達するそうです。所有者が不明の土地はすでに九州の広さを上回り、数年後には北海道と同じぐらいの面積になると▼問題の背景には行き当たりばったりの国の都市政策や住宅政策が、大本には人口減少があります。日本の総人口は明治維新から終戦をはさんで右肩上がりに急増し、ピークとなった2008年までの140年間で9400万人も増加しました▼しかし1億2808万人を数えた08年以降は一転して右肩下がりに。26日に公表された厚労省の推計では33年後に1億人を割り、およそ半世紀後には現状の3割減となる8700万人まで落ち込みます▼人口減少時代を迎えたいま、空き地・空き家問題をはじめ、国のかたちが見直されるときです。『土地は誰のものか』の著者で都市政策学者の五十嵐敬喜氏は、土地は個人や国家のものではなく、公的なものだといいます。そして「土地の共同利用こそ、今後求められる真の土地所有のあり方ではないか」と▼進む少子高齢化や過疎化。縮んでいく国の姿。軍拡などにかまけてないで、将来をみすえ、早急に対策を打っていくことが政治の果たすべき役割のはずです。
きょうの潮流 2023年4月27日(木)
平和なくらしが一変したのは20年前でした。クルドの祭りに参加してトルコ当局から目をつけられた父親が身の危険を察し、日本へ。後を追って母親とともに来日したのが、当時11歳のハッサンでした▼しかし在留資格もとれず医者にもかかれない不安な日々。学校でのいじめや父親の収容、入管職員からは心ない言葉を浴びせられました。勉強に励んでサッカー選手への夢も抱いていたのに「どんなことをしても意味ないから国に帰りな」と(『ぼくたちクルド人』)▼日本に住みつづけ、まじめに学び、好きな仕事に就きたい。人間として普通に生きたい。そんな当たり前のことさえ、この国は許さないのか。そのうえさらに差別と迫害を助長し、命を危うくさせるのか▼「家族みんなで日本に住みたい」「私たちを追いださないで」―。岸田政権が強行しようとする入管法改悪案を阻止するため、国会前に集まった多くのクルド人の子どもたちが訴えました。難民として認められず、強制送還される恐怖を抱えながら▼国連からも「国際的な人権基準を下回る」と指摘されている法案。ただでさえ、日本の難民認定率はけた違いに低く、待遇も冷たい。入管収容所の劣悪さは、亡くなる人が相次ぐほどです▼ハッサンはいま、大学で人権について学んでいるそうです。自分が置かれている状況へのいくつもの「なぜ」。将来は国連の職員になって人権が保障されるような仕組みに変えたいといいます。誰もが人間らしく生きられる社会を願って。
きょうの潮流 2023年4月26日(水)
「天文学の父」とも呼ばれるガリレオは地動説を主張したことを理由にカトリック教会から弾圧され、異端審問で有罪とされました。ローマ教皇が裁判の誤りを認め、謝罪したのは彼の死後350年たってからでした▼権力者が学問の自由を踏みにじる例は古今東西、枚挙にいとまがありません。日本では90年前の滝川事件が有名です。京都帝国大学の滝川幸辰(ゆきとき)教授の学説が「赤化思想」とされ、教授は文部省から休職処分を受け退官。著書は発禁になりました▼戦前の日本には学問の自由がありませんでした。実証的な歴史学は学校では教えられず、皇国史観に基づく歴史が真実とされ、国民を侵略戦争に駆り立てました▼その残滓(ざんし)は、今の政権にも受け継がれています。政府は一片の閣議決定で教科書から「従軍慰安婦」の「従軍」を削除させ、「強制連行」の言葉を変えさせました。多くの人たちの粘り強い研究で明らかになった日本の犯罪行為という事実を、政治の力で隠そうとしているのです▼軍事研究に否定的な日本学術会議を、政権の意にそったものに変える法改悪も狙いました。批判が噴出し、学術会議は総会で法案提出をやめるように求める勧告を議決。改悪案の今国会提出は見送られることになりました▼学術会議の変質を狙う動きはまだ続いています。学問を権力者に従わせる道はどこにつながるのか。第2次大戦中にドイツでも、アメリカでも、そして日本でも、核兵器開発に科学者が動員された歴史を忘れてはなりません。
きょうの潮流 2023年4月25日(火)
知らなかった、なんとかしてほしい―。市民と対話する中でなんども不安の声を聞きました。自分たちの住む地域に、あの統一協会が広大な土地と建物を手に入れていたなんて▼東京の多摩を走る尾根幹線沿い。周りには大学や高校、団地や公園が集まる一角です。以前は菓子会社があった場所で6300平方メートルもの広さがあります。3月の多摩市議会で共産党の議員が質問し、統一協会による購入が明らかになりました▼さんざん人びとをだまし、いまも苦しめている団体。その反社会的な活動の拠点にされてもいいのか。こんどの選挙でも争点となり、周辺の地域には反共ビラが集中的にまかれました▼こうした妨害をはねのけ、多摩市や隣接の稲城市では共産党の議員が全員当選を果たしました。住民のくらしにとっても、全国の人たちにとっても重大な問題。それを託された議員には市民の運動とともに解決に向けた努力が期待されています▼それぞれの地域で住民の要望やねがいを背負ってたたかわれた統一地方選挙が終わりました。激戦の末、わずかな差に喜び、泣いた選挙区も。いずれにしても、1票に込められた思いを生かしたい。全体をみると若者や女性の健闘が目立ち、政治の現場にも変化を感じさせます▼「がんばって」「期待しています」。投票日の翌朝、かけられた声を背に駅頭などに立った当選者たち。選挙戦を通じて寄せられた、たくさんの望みや期待を実らせるのはこれからです。政治への希望をつなげるためにも。
きょうの潮流 2023年4月24日(月)
屈託のない笑顔を見せる秋山大輝くん。長崎県諫早市在住の17歳、高校3年生になりました▼5年前、長崎放送のディレクター宮路りかさんが取材で初めて自宅を訪れました。大輝くんはあおむけになったまま、両足で床を押して背中を滑らせ、いざって玄関に現れ出迎えてくれました▼骨形成不全症という難病でした。骨が折れやすく変形も起こる病気。幼いころはくしゃみで骨折。50回以上も骨折を体験してきました。一人では座ることも歩くこともできませんでした。小学3年まではバギーで寝たきり。いつも空を見ていたから「将来の夢は気象予報士」▼12歳のとき、電動車いすに一人ですわれるように。16歳で歩行器を使って歩けるようになって、足が床や地面に着く感動を味わいます。少々、おとなびた口調。現在、地元のFM局で番組のパーソナリティーにも。目指すのはアナウンサーに変わります。「体がちょっとだけ不自由な分、口だけは達者なんで」▼天性の楽天家に見えますが、人一倍の努力家でもあります。一人でトイレができるようにとトレーニングも続けてきました。いつも明るく接してくれた両親、妹は頼もしい支援者です。4人で囲む食卓はにぎやか、ぬくもりが詰まっています▼宮路さんは大輝くんを追ってこれまでに5本のドキュメンタリーを制作。「大輝、15の春」は英語版にも。その日本語版はユーチューブで見られます。「幸せのカタチはさまざま。幸せは日常の中にある」。宮路さんがたどりついた境地です。
きょうの潮流 2023年4月23日(日)
坂本龍一さんの遺影を前に、たくさんの人が思いをつなぎました。「社会にたいする憂いと愛を持って、彼の姿勢と意志に連なるように」▼きのう、神宮外苑の再開発見直しを求める集いが現地で開かれました。坂本さんが共同主宰をつとめた有志によるもので、ミュージシャンらも参加。反対署名には長蛇の列ができ、先人が100年かけて守り育ててきた貴重な森や樹木を犠牲にすべきではないと抗議しました▼大手不動産会社によって建てられようとしているのは営利目的の高層ビル群。そのためにイチョウ並木をはじめ、都民の憩いの場所が奪われようとしています▼「外苑の再開発は東京五輪の悪(あ)しき副産物。むしろ、そのためにオリンピックを誘致したのではないか」。再開発差止訴訟の原告団長で実業家のロッシェル・カップさんはいいます▼もともと、この地域は自然環境を守るための風致地区に指定され、高さ15メートルまでの建物しかつくれませんでした。しかし新国立競技場の建て替えを口実に、外苑全体の高さ制限まで緩和されました▼招致のときから開催の目的や意義が問われ続けた東京五輪。国民の多くが反対したコロナ禍での強行、有罪判決も出ている底なしの汚職事件。そのうえ将来にわたる負の遺産を、さらに増やそうとするのか。亡くなる直前まで反対していた坂本さんは、一人ひとりの市民に、選挙でみずからの意向を投影することは可能だと呼びかけていました。この国の将来がどんな姿であってほしいのか、と。
きょうの潮流 2023年4月22日(土)
「前事不忘・後事之師」。過去を忘れず未来の教訓にするという、中国の故事です▼岸田政権が中国を口実に戦争準備をあおるもと、私たちが教訓にすべき前事は、中国の東北部に幻の「満州国」を建国し、27万人を送り込んだ満蒙開拓団の侵略・加害の事実でしょう▼長野県南部の阿智村にある満蒙開拓平和記念館で元開拓団の語りを聞きました。語り部は、愛知県の東三河郷開拓団の一員として7人家族で満州に渡った、87歳の橋本克巳さんです▼“水のみ百姓”の家族に、「20町歩をただでくれる」という約束でした。「実体は、日本向けの食料増産と北方防衛という国策に従うことでした。ソ連への“人間の盾”として、ライフル銃を一軒一丁ずつ渡された。開拓は名ばかりで、日本軍が周りの農家の土地を取り上げて開拓団に渡した。青田接取といって、実った作物ごと取り上げ、恨みも買った。これは侵略で、侵略者の子どもということを終生忘れられないし、忘れてはいけないことだ」と▼日本が無条件降伏し満州国は消滅。開拓団は現地に棄民状態に。「現在私がいるのは、満人や蒙古の部落に泊めてくれ、助けてくれたから。人種、国、民族…違うけど仲良くするのが人間の使命だと思った」▼戦争の愚かさと平和の大切さを伝えたいと語る橋本さん。「人類は、地球規模の食料問題につき当たります。軍事ではなく砂漠を緑にするなど世界の食料確保に、お金を使ってほしい。互いに助け合う人類の大義の前に、戦争は無用です」
きょうの潮流 2023年4月21日(金)
誰でも、いつでも、どこでも。赤ちゃんからお年寄りまで、私たちは生涯にわたって健康保険証をもち続け、一定の負担で医療のサービスを受けられます▼国民すべてが保険証をもつ皆保険制度が始まったのはおよそ60年前。それ以前は農業や自営業者、零細企業の従業員を中心に、約3千万人が無保険者となっていました。症状があっても耐える、診療も検査も受けていない。そんな状況が社会の大きな課題でした▼根本から変える一大事業。その努力の末にできた日本の医療保険制度は、いまでは世界に誇れるものに。自公政権による負担増が重ねられてきましたが、保険証1枚で医療を受けられる姿は当たり前のようになってきました▼ところがいま、それが手元から失われようとしています。岸田政権は保険証を廃止して、マイナンバーカードに置き換えようとする改定案を今国会で審議入り。共産党の塩川鉄也議員は「保険証の廃止は国民皆保険制度を揺るがす」と撤回を迫りました▼任意のマイナンバーカードを強要するために国民の命綱である保険証を“人質”に取る。カードを取得しない人には「資格確認書」を発行させる嫌がらせのような仕打ち。国会前では連日怒りの声があがっています▼これまで築いてきた生きる支えを奪ってまでのやりたい放題。大軍拡に原発推進、高齢者の保険料引き上げや入管法改悪と、平和とくらしを脅かす悪法を次つぎと審議入りさせている岸田・自公政権。列島中からNOを突きつけるときです。
きょうの潮流 2023年4月20日(木)
20回目となる今年の統一地方選挙も大詰めです。町村長・町村議選が告示され、23日の投票日にむけて1票を争う短期決戦が各地でくりひろげられています▼一方で、今回の町村長選では半分をこえる70の町村で無投票になりました。これは記録がのこる1955年以降、2番目の高さだといいます。町村議選でもおよそ3割が無投票当選。こちらの割合は過去最高で、20の町村では定員割れとなりました▼日本海に面した北海道初山別村(しょさんべつむら)では村長選が13回連続で無投票に。半世紀近く選挙戦がなく、村議選も2回連続で無投票となりました。政策を競うこともなく、住民は行政をただす機会も失っています▼地方議員のなり手を増やすためには何が必要か。当事者へのアンケートでは、子育て世代が参加できる環境や報酬の引き上げ、議員の仕事についての理解をひろげることを多くの議員があげていました。いかに住民が政治に関心を持つかも重要だと▼実際、激しい選挙戦が展開されている区市町村でも票の掘り起こしに苦心しています。選挙活動が縛られ、争点そらしが横行するなかで、住民の要望やねがいを政治に反映させようとして▼戦後、新憲法の施行直前から始まった統一地方選。投票日を全国で同じにすることで、国民の選挙にたいする関心を高めることを一つの目的にしてきました。それぞれの地域で政治とのかけ橋となり、地方自治を担う議員を選ぶ。草の根の活動は、この国の民主主義の土台を守ることにつながっています。
きょうの潮流 2023年4月19日(水)
米公民権運動の指導者キング牧師が首都ワシントンのリンカーン記念堂前で「わたしには夢がある」と演説してから今年で60年です。公民権法はその翌年に制定されましたが社会正義のたたかいは今も続きます▼銃乱射事件のニュースが絶えない米国。銃規制を求めて人々が立ち上がるなか、逆流も。南部テネシー州では、3月末の小学校での銃乱射事件を受け、若者が州議会に詰めかけ銃規制強化を要求していました。そこで“事件”が起きました▼議場から住民とともに声を上げた民主党議員が、多数をとる共和党に懲罰動議にかけられ議席をはく奪されたのです。追放されたのが2人の若い黒人議員だったことから全米から批判が集中しました▼2人は選出区の行政機関から全会一致で暫定議員に任命され、ふたたび州議会に戻りました。議会に続く道を、多くの若者たちと歩いて議会に戻ったジャスティン・ジョーンズ議員(27)。「民衆の議会から人々の声を追放することはできない」と議場の第一声で語りました▼この復帰劇の直前、ジョーンズ議員は、フォーク歌手のジョーン・バエズさん(82)と空港で遭遇し、「われわれは打ち勝つ、いつの日か」と歌いました▼バエズさんと言えば、60年前のワシントンの大聴衆の前で「ウィ・シャル・オーバーカム(勝利を我らに)」を歌ったレジェンド。キング牧師の友人でした。「リスクを恐れない行動が社会を変える」―バエズさんは、未来をつくる若者たちに熱いエールを送りました。
きょうの潮流 2023年4月18日(火)
東日本大震災のわずか3日後でした。ときの首相が「事故の以前と以後ではまったく違う状況になった」と、脱原発に足をふみだします。稼働延長策から転換し老朽化したものを停止。安全なエネルギー供給に関する倫理委員会を設けます▼そこでは原子力の倫理的な問題や気候変動に直面するなかで代替エネルギーを検討。将来のビジョンも話し合いました。そして、福島原発事故から5カ月後、政府は脱原発法を成立。22年末までに全原発を閉鎖することを決めました▼当の日本ではなく、ドイツの動きです。ロシアのウクライナ侵攻で予定はのびたものの、今月15日にすべての原発が停止されました▼「社会として脱原発を達成するのは大きな成功」。ドイツ・レムケ環境相の喜びの声を本紙特派員が伝えています。一方、事故から12年が過ぎても収束の見通しさえたたず、いまだ荒れ果てた故郷を追われた人びとの苦しみや悲しみがつづく日本では再び原発への回帰が強まっています▼これまでの政策をなげすてた岸田政権は原発の新増設を地方に押しつけ、さらなる運転延長にも前のめりです。再生可能エネルギーの普及には、後ろ向きのままで▼「日本には理想がないとは思わないが、企業が利益を追求する力が非常に強く、理想の力を弱めているのではないだろうか」。倫理委員会の委員だったミュンヘン工科大のミランダ・シュラーズ教授はいいます。そして3・11後のいまこそ、政治に倫理を導入することが求められているのだと。
きょうの潮流 2023年4月16日(日)
またか。一報を知ったとき、あの凶行が頭をよぎりました。岸田首相の演説会場で筒状の物体が投げ込まれ、爆発音とともに白い煙があがりました▼現場は和歌山市の雑賀崎(さいかざき)漁港。支援者らと交流し、試食を終えた首相が演説にのぞむ直前に起きました。あたりは騒然となり悲鳴や怒号がとびかい、物体を投げ込んだとみられる24歳の男性がその場で取り押さえられました▼昨年7月、参院選のさなかに銃撃された安倍元首相。その惨劇はいまだ記憶に生々しく残っています。同じく選挙期間中で遊説先に多くの聴衆が集まったなかでの蛮行。それがくり返されたことに、衝撃とともに空恐ろしさを感じます▼物体は首相の至近に落ちたといいます。犯行の動機や狙いはわかりませんが、選挙の場が利用され、首相の身が危険にさらされたことは事実です。こうした卑劣な妨害行為が社会にあたえる影響ははかりしれません▼選挙は私たち国民が政治に参加し、主権者としての意思を政治に反映させることのできる最も重要な機会です。実際に行われている政治にたいして審判を下し、変える好機にも。それを奪うような暴力行為が続いたことに、この国の行く末が案じられます▼こうした直接的な暴力をふくめ、演説の妨げや候補者への嫌がらせ、ポスター破りなど、選挙運動を妨害する行為は後を絶ちません。謀略ビラもその一つです。どれだけ自由な言論や民主主義を危うくしているか。暴力では何も解決せず、憎しみが連鎖していくだけです。
きょうの潮流 2023年4月15日(土)
わたしたちの暮らしに大きく影響する選挙。福祉を使い生活を送る障害者にとって、“近くて遠い”存在です▼目が見えず耳が聞こえない人が、投票所で通訳・介助者の同行を認められなかった。自閉症と重度の知的障害のある息子と期日前投票に行ったところ、息子の意思確認のやり方を投票所職員に理解してもらうのに時間がかかり、息子がパニックになり投票できなかった…▼障害者の参政権をめぐっては裁判も。肢体障害4級の女性が郵便投票を希望するも対象が等級1~2級のため認められず、投票する権利を奪われたとして国を訴えました。岡山地裁は1月、女性の訴えを棄却▼車いすを使う自閉症の娘に代わって投票した大阪市の母親は、公選法違反で有罪判決を受けました。障害の特性が伝わらない間に職員が娘の意思確認をはじめたため、母親は娘がパニックに陥るのではとの焦りから、白票のまま娘の投票用紙を投票箱に入れてしまいました▼知的障害のある人たちが安心して投票できるようにと編んだ「障害をもつ人の参政権保障連絡会」のしおりが好評です。18歳になったばかりの知的障害の息子と選挙に行くか迷ったけど、親ができること、本人ががんばることを事前に知ることができて投票できた。代理投票時に、投票先として公報の切り抜きを渡し、確認されたときにうなずいて無事、投票できた▼あすから統一地方選の後半戦。安心して一票を投じられる投票所が必要です。だれにとっても身近な選挙になるように。
きょうの潮流 2023年4月14日(金)
青、赤、ピンク、黄色の鮮やかな弁士紹介の垂れ幕が東京・錦糸町駅前に並びました。荒川の流域に位置する墨田、江東、足立、北の各区長選に挑む女性4予定候補の共同宣伝。無所属で市民派の4人がマイクを握ると、足を止める通行人も。合言葉は「物語は、下町からはじまる」です▼「4人がここにそろったのは、偶然でも奇遇でもなく、必然」と北区の橋本やすこ予定候補。理由は明快です。墨田区のさねふじ政子予定候補はいいます。「生活苦や平和が脅かされる危機感から、普通の女性が挑戦する流れをつくった」▼東京23区の中で地震や水害に弱いなどの共通点がある、昔ながらの庶民の町。足立区の西山ちえこ予定候補は、貧困や災害の犠牲になりやすい女性ら社会的弱者に優しくあたたかい街に、と訴え。江東区のあしざわ礼子予定候補は「平和は生活の一番の基盤」と力を込めました▼ほとんど接点のなかった4人は「女性区長の誕生で生活と平和を守るとりでに」との思いで固く結ばれています。昨年6月に当選した杉並区の岸本聡子区長がジェンダー平等を進める姿にも刺激を受けました▼統一地方選前半戦の結果をみても、道府県議選で女性の当選者が過去最多となりながら、いまだ全体の1割台。共産党は道府県議、政令市議ともに5割をこえましたが、自民党はそれぞれ5%、9%台という低さでした▼後半戦も、引き続きジェンダー平等を推しすすめる機会です。東京・下町からの機運を全国のうねりにして、「必然」の流れを広めたい。
きょうの潮流 2023年4月13日(木)
資料の不備が続発し審査が中断する事態に―。原発の安全上、重要な地質関連の資料です。担当する原子力規制委員会の委員が「審査に耐える資料を出して」と求めたのを聞き、あきれました▼原発専業の日本原子力発電が所有する敦賀原発2号機(福井県)の審査です。規制委は資料の不備をいちいち訂正する対応では間尺に合わないと、申請書の補正を8月末までに求める行政指導を行い、審査の中断を決めました。中断は2回目。これ自体、尋常ではありません▼この原発では、原子炉建屋の直下を通る断層が将来動く可能性のある活断層かどうかの検討が優先課題です。2013年に、活断層の可能性があるとする専門家チームの報告を規制委が認定しました。活断層の真上に原子炉建屋など重要施設を造れないとされ、評価が確定すれば廃炉が迫られます▼しかし、原電は活断層ではないと審査を申請しました。その主張を証明しようと提出した地質データに1000カ所以上のミスが。ボーリング調査の記録を無断で80カ所書き換えていたことも発覚し「倫理上の問題」と指摘されたことも▼審査は2年以上中断し、昨年12月に再開したものの資料のミスが繰り返し見つかりました。申請からすでに7年以上、うち4年近く審査ができない状態です▼原子炉等規制法は、事業者に原発設置に必要な「技術的能力」を求めています。ましてや原子炉建屋直下に活断層の疑いがある原発のこと。ならば危険な原発を動かすのは、やめるのが当然です。
きょうの潮流 2023年4月12日(水)
あらゆる文章には、文体がある。それはどこから出てくるかというと、どういうときに書いているか、どういう気持ちで書いているか、そして、どういう読み手に向けて書いているか、その3点から表れてくる―▼亡くなった大江健三郎さんがそう話していたことがあります。時には書かれている内容よりもっとはっきりと、どういう人間が書いているかということを表現してしまうのが文体だと。戦後の憲法や教育基本法に記された「希求する」という言葉を例にしながら▼いま人間のように文章をつくり、対話もできる人工知能(AI)の「チャットGPT」が話題になっています。米国の企業が昨秋に公開すると、世界中で利用者が急増。一方で使い方や安全性を危ぐする訴えも相次いでいます▼膨大なデータの収集が個人情報保護に反する疑いがあるとして、イタリアでは使用を一時禁止に。欧州では規制を強める動きも現れています▼リポートなどが簡単に作成できることから、日本でも教育現場から懸念の声があがっています。名古屋大の学長はAIでつくった文章を卒業式で紹介しながら、「もっともらしいけど空虚」とのべ、「人は人にしかできないことに挑んでいくことが求められる」と呼びかけました▼進化を続けるAIの領域は、人間社会のなかにどんどん浸透しています。それと、どうやって共存していくか。倫理や規範もなく欲望や権力のために利用されれば人類の脅威にも。問われているのはわれわれ人間のあり方です。
きょうの潮流 2023年4月11日(火)
その日は朝から大雨だったといいます。忙しく立ち回りながら、口々に言っていたそうです。これはみんなの涙だね。うれし涙か、かなし涙か、どっちかねって▼沖縄の糸満市に「ひめゆり平和祈念資料館」が開館した日のことを設立者たちが語り合いました。最初は沖縄戦を体験した同窓生が多く集まり、つらい記憶を思い出す場に。展示の説明係も涙声になったり、言葉に詰まったり▼それから34年、いまでは入館者が2300万人をこえる平和の一大発信地に。訃報が伝えられた本村つるさんは設立の準備段階からかかわり、館長も務めました。生き残った者の使命だとして▼当時、師範学校女子部を卒業する寸前に動員され、泥まみれの戦場を逃げ惑いました。至近弾でけがを負った後輩を残してきた悔恨。それを設立の原動力として、同じような痛みを抱える仲間と支えあいました。「戦争は絶対にしてはいけない」という信念をもち続けて▼いま、宮古島沖で消息不明となった自衛隊ヘリについて「中国軍が撃墜した」「外国の攻撃」などとの言説がSNS上でひろがっています。根拠もなく緊張や対立をあおる風潮は、戦争を招く危険な道へと導きかねません▼戦争を知らない世代に、いのちの大切さを伝え継ぎたい。本村さんは、資料館の展示を時代の変化にあわせ、語り部の育成にも力を入れてきました。「戦争は過去の歴史ではない。身近な問題としてとらえてほしい」。平和への変わらぬバトンが、受け継がれることを願って。
きょうの潮流 2023年4月10日(月)
関西で約1カ月、家を失って車上生活に追い込まれた4人家族がいました。足が悪くて運送会社を辞めた父、専業主婦の母、小学生と保育園児の姉妹です▼家族を保護したとき、所持金はほとんどなかった、と児童相談所の元職員Aさんはいいます。父母は満足に食べられず、姉妹は学校と保育園に通い、給食で命をつないでいた、と。「キャラメル食べたいよ」「ごめんね、食べさせてあげられないのよ」。後部座席の母子の会話を、胸を痛めながら聞いていました▼「子どもの7人に1人は給食が命綱」と指摘されますが、姉妹にとってもまさに命綱でした。いま、その子どもの栄養源が物価高騰によって、質を落とすか、値上げかの選択を迫られる事態に直面しています▼一方、運動の広がりによって、給食費の完全無償化へ254自治体が踏み出しています(本紙調べ)。無償化は、就学援助が届かない世帯もふくめて、すべての子どもに行き届く施策だと、跡見学園女子大学の鳫(がん)咲子教授はその意義を強調します。国の責任による完全実施が急がれます▼内閣府の2021年の調査で、コロナ禍にあった「過去1年間に必要とする食料が買えなかった経験」が「あった」とする世帯は11%。「ひとり親世帯」が30%、「母子世帯」のみは32%と、とくに顕著でした▼コロナ禍が鮮明にした給食の重要性。前出のAさんはいいます。「親のネグレクトもたしかに問題ですが、本当に深刻なのは、政治が子どもをネグレクトしていることなのです」
きょうの潮流 2023年4月9日(日)
戦後70年余り、地方都市の商店街に構えてきた本屋が店をたたみました。アダルト雑誌やヘイト本のたぐいは一切置かず、郷土文化や社会科学にかんする本の普及にとりくんできました▼店売りだけでなく外販にも力を入れ、学校や役所をはじめ幅ひろく地域をまわっていました。知や情報の発信地として親しまれ、根づいてきた街の本屋。地域の発展に果たした役割は大きい▼いま、各地の市町村から書店が次つぎと消えています。出版文化産業振興財団の調査によると、地域に書店が一つもない自治体は全国で456もあり、26・2%にのぼります。「無書店自治体」の割合が最も高いのが沖縄で56・1%、長野や奈良も50%以上で続いています▼厳しい背景にあるのは、人口減少やネットの普及による売り上げの落ち込み。とくに雑誌やコミックの販売は急減しています。そのうえ日本では、書店を文化向上の大切な拠点とする観点から保護する政策はなきに等しい▼書店に限らず、それぞれの街や地域を支え、そこでくらしてきた人たちの「糧」がなくなっていく―。そんな疲弊した姿が地方からみえてきます。土台が崩れていくような危機。それを招いた重い責任は、地方を冷たく切り捨ててきた歴代の政権にあります▼安心して住みつづけられるまちづくりを進め、国の悪政の防波堤となって、地域を活性化し生活の足場を守る議員を選びたい。いま生きている場所から声をあげ、政治を社会を変えていくチャンスです。あなたの1票で。
きょうの潮流 2023年4月8日(土)
新年度を迎え、真新しいスーツや制服を着た人たちの姿が目につきます。通勤や通学で電車を利用し始める人が多くなるなか、痴漢や盗撮への注意が呼びかけられています▼痴漢は重大な犯罪であり、個人の尊厳を踏みにじる行為で断じて許すことはできない―。政府が初めて「痴漢撲滅政策パッケージ」をまとめました。国会や地方議会で対策を求めてきた共産党議員や市民からの要望が実ったかたちです▼具体策のなかには痴漢防止や被害者を支えるとりくみとともに、加害者への再犯防止プログラムの実施が盛り込まれています。性的な犯罪や問題行動がやめられない人たちの「治療」は大きな課題です▼法務省のデータによれば、痴漢の再犯率は執行猶予者で3割以上、出所受刑者では5割超にも。盗撮とともに群を抜いて再犯率が高いのが特徴です。そうした性的依存症の「病」にむきあい、「処罰に加えて治療を」と主張する専門家も少なくありません▼「犯罪に対して罰を与えれば済むという時代は過去のものになりつつある。犯罪の予防、再犯の抑制のためには科学の力で闘うべき時代が到来している」。『痴漢外来』の著者で依存症の治療や研究にとりくむ原田隆之さんはいいます▼共産党都議団の調査でも、人権や性教育とともに加害者対策(再犯防止のための更生プログラム)が必要とした人が3割をこえました。被害者に寄り添う支援はもちろん、性犯罪をなくすためには、罪を犯した人たちにくり返させない。そんな社会へ。
きょうの潮流 2023年4月7日(金)
絶対に目を合わさず目の端っこで見る。あそこにだれかいるな、っていう気配が感じられるギリギリの視角。そして相手の動きに全神経を集中する。その気配がどんどん出ていって、両者がパッと一緒になるんです▼好きな人に思いを伝えるみたいに―。キリンの仲間で警戒心の強いオカピと仲良くなったときの話を本紙日曜版で紹介したことがあります。相手と親しくなるには心構えやテクニックが必要。それは経験によって積んできた技だと▼動物とのふれあいをお茶の間に発信してきた「ムツゴロウ」こと作家の畑正憲さんが亡くなりました。北海道に「動物王国」をつくり、テレビや映画でもおなじみに。動物たちとの交流をテーマにした著作を数多く残しました▼いつも心にとめていたのは同じ星に生きるものとの協調でした。知床の原生林伐採や諫早湾の干拓事業には愚かな行為だと批判の声をあげ、自然を壊さないことは人間が生きのびる道でもあると訴え続けました▼日本各地の豊かな自然を壊し、税金をつぎ込んでコンクリート列島にしてしまう。彼らがやっていることは犯罪ではないか。大手ゼネコンと手を組んだ自民党の土木行政を、悲しみや怒りを込めて告発していました▼「人類が抱えている大きな問題の一つは、地球の健康をどう保っていくか、ということ」。温暖化をはじめ地球規模の自然破壊はますます深刻に。生きとし生けるものへの畑さんの親愛の情。それは私たちの進むべき道を示していたのかもしれません。
きょうの潮流 2023年4月6日(木)
琵琶湖の北にのびる滋賀・長浜市。自然に富み、戦国の舞台にもなった地で意を決して県議選にのぞんでいる候補者がいます。「みすみす共産党の議席を失うわけにはいかない」▼2期8年務めた県議が健康上の理由で引退。後継者探しが難航するなか、最後に引き受けたのが、中山かずゆきさんでした。先月の初めに家族で話し合い、翌日の党の会議で決定。これまで裏方として支えてきた中山さんには強い思いがありました▼「教え子を戦争にいかせない」。中学校教員38年、成長を願いながら子どもたちから学ぶ姿勢で教育活動にとりくんできました。平和で明るい未来をつなげたい。その願いに党派をこえた支持が寄せられています▼埼玉県議選の所沢市区から立つ城下のり子さんも平和への思いはひとしおです。沖縄の石垣島で育ち、幼い頃から聞いてきた戦争の悲惨さ。所沢市議6期。日々のくらしに身を削る人たちの切なる声を背に市政を動かしてきました▼「軍備にかける財源があれば、どれだけ生活や福祉を充実するために使うことができるか」。全国各地でたたかう仲間たちがここでふんばって大軍拡を推し進める勢力を押し返し、地方から平和の大攻勢をかけようと訴えます▼戦争をさせない、人間らしく生きられる社会を。同じ決意を胸に、それぞれの地域で奮闘する日本共産党の候補者たち。さあラストスパートです。城下さんの選挙事務所にはこんな言葉が飾られていました。「根っこふんばり たくさんの花咲かそう」
きょうの潮流 2023年4月5日(水)
「こどもまんなか社会を実現しよう」。深刻な少子化を背景として、1日に発足した「こども家庭庁」のキャッチフレーズです。岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げています。しかし、政府が打ち出した「少子化社会対策大綱」の「たたき台」を見る限り、あまりにも部分的といわざるをえません▼何より、子育て世代や若者の最大の願いである、高すぎる学費の無償化に一言も触れていません。親の年収に関係なく、誰でも高等教育を受けられることは社会全体の利益にもなるはずですが、いまだに政府は「受益者負担」の考えにとらわれています▼粘り強い運動が成果を結び、学校給食無償化が全国の自治体に広がっています。こうした動きを受け、政府・自民も「学校給食無償化」の提言に動いています。ところが一部の地方議会では、自民・公明が無償化を求める請願に反対している実態があります▼驚いたのは、子どもの医療費無償化への見解です。3日の参院決算委員会。日本共産党の吉良よし子議員の質問に対し、岸田文雄首相は「子どもにプラスになるとは言えない」と明確に否定しました▼子どもの医療費無償化は年間5000億円、学校給食無償化は4600億円、高等教育の完全無償化で1兆8000億円。吉良議員は「異次元の少子化対策と言うなら、思い切った政策を」と迫りました▼軍事費は5年で倍増なのに、子ども予算は出し渋る。こんな「日米同盟まんなか社会」からの転換が、今こそ求められています。
きょうの潮流 2023年4月4日(火)
電子楽器とコンピューターを操ったサウンド。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の登場はテクノ・ポップと呼ばれる新たな領域を開きました▼はじめは機械がつくった音楽などと批判する向きも。そんななかで「すごく自由な世界」と話していたのが、メンバーの坂本龍一さんでした。楽器やジャンル、伝統や民族音楽。その垣根をこえて演奏することは快感であり、「歓(よろこ)び」であったと▼映画音楽をはじめ多様な作品をうみだし、近年は自然の音をとりいれることが増えていました。「人間は自然の一部。人がつくった楽器の音にこだわる必要がないんじゃないか」。そう考える大きなきっかけとなったのは東日本大震災でした▼3・11後、原発反対や国会前の集会に姿をみせるように。21世紀のキーワードは「共生」と語っていた音楽家は「フクシマのあとに声を発しないことは野蛮である」と、みずからの胸の内を積極的に示してきました▼共生から最も遠い戦争や核兵器、テロに対して「非戦」の信念を貫きました。人を殺すな、生き物を自分の利益のために殺すな、子どもたちの生きる権利を奪うな。本紙のインタビューでは「資本主義のあり方を根本的に見直さなければ人類の未来はない」とまで▼「こういう時代だからこそ、がんばってほしい」。自分の考えに近い政党だと、共産党の政策に共感を寄せてくれました。どんなくらし、どんな社会を望むのか―。思考し行動することの大切さを坂本さんは訴えていました。
きょうの潮流 2023年4月3日(月)
黒澤明はよく、ヨーロッパの名作をもとに映画をつくりました。シェークスピアの「マクベス」を戦国時代におきかえた「蜘蛛巣城(くものすじょう)」。ゴーリキーの原作と同じ題名の「どん底」▼最近になって、黒澤映画「生きる」がゲーテの「ファウスト」を下敷きにしていたことを知りました。映画は、がんで余命幾ばくもないと知った主人公が生きた証しを求めてさまよった末、下水で水浸しだった土地を公園に変え、満足して死んでいきます▼ファウストは余命を知る話ではありません。でも満足できる人生を求め、最後は海辺の土地の干拓事業を完成させて安らかに死んでいきます。たしかに「生きる」と重なります▼ノーベル賞作家のカズオ・イシグロさんは、「生きる」を11歳の頃にテレビで見て、深く感動したそうです。「うつろで浅い人生になるか、実りある人生になるかは、自分の選択だというのが『生きる』から受け取ったメッセージです」(本紙日曜版3月19日号)▼人びとのための行動こそ、人生を意義あるものにするというファウストから受け継いだテーマが、カズオ少年の胸にも響いたのでしょう。彼が発案し、脚本も担当したのが、黒澤版をリメークしたイギリス映画「生きる LIVING」(公開中)です▼黒澤映画を尊重しつつ、「いっそう希望のある物語」をめざしたというイシグロさん。若者の成長や恋も織り込みました。新しい「生きる」を通して、ヒューマニズムのDNAは、若い世代へと確かに手渡されています。
きょうの潮流 2023年4月2日(日)
11・8%、17・5%、11・7%。何の数字かおわかりか。都道府県、市区、町村議員における女性の割合です。全国1741市区町村のうち女性議員がゼロの議会は275もあります▼内閣府の全国女性の参画マップ(地方議会編)によるもの。いかに政治の場が男性によって占められているか、くっきりと。国会もそうですが、とくにジェンダー平等の遅れた分野。選挙のたびに各政党が問われる重要な課題です▼「私自身1年365日24時間、寝ているときとお風呂に入っているとき以外、つねに選挙を考えて政治活動をしている。それを受け入れて実行できる女性はかなり少ないと思う」。維新の馬場伸幸代表がそう発言しました▼女性の優先枠を設けることは、国政でも地方議会でもわが党としては全く考えていないとも。女性議員が増えないことを選挙制度や環境のせいにしますが、これほどの格差を前にして政党代表としてのみずからの責任は不問とするのか▼告示された41道府県議選の各党の候補者をみると、女性の割合が最も高いのが共産党で48・4%。維新は18・1%で、最も低かったのが自民党。最多の候補者を出しながら女性の割合は6・0%という異常さです▼だいたい家事や育児、介護といった日常の生活を脇におき、選挙のことだけを考えるのが政治に携わる者の役割なのか。ともに大軍拡には熱心な自民と維新。いつまでも男性優位の価値観にしがみつき、くらしに背をむける人たちを政治の世界から退場させなければ。
きょうの潮流 2023年4月1日(土)
「新しい御本、新しい鞄(かばん)に。新しい葉つぱ、新しい枝に。新しいお日さま、新しい空に。新しい四月、うれしい四月。」▼金子みすゞの詩「四月」です。入学や進級、入社に新生活。うきうきわくわくのときめきを感じさせます。明治期の途中から年度替わりとなった4月。春の訪れとともに日常が変化することへの期待や不安が詩や歌に込められてきました▼きょうからはどうか。くらしを取り巻く状況は相変わらず厳しい。食料品の値上げは2月に続き5千品目をこえ、宅配便や車タイヤの価格も上昇。物価高はおさまる気配もなく、値上げラッシュの春に失望感さえ漂います▼光熱費の値上がりも生活を苦しめているなか、電力各社の不祥事が伝わってきました。電力の小売り自由化に伴い大手が談合し、公正な競争を制限したとして巨額の課徴金を。公取委は収益の確保や電気料金の引き下げを防ぐねらいがあったとみています▼ときめくどころか、閉そく感や停滞感が覆う社会。人びとが心の底に抱く変化への渇望をぶつけられる場が、いま各地でたたかわれている選挙では。政治を変え、経済を変え、くらしを変える―。希望へのわきたつ思いを託した、それぞれの投票が新たな世界を開いていきます▼今年は金子みすゞの生誕120年にあたります。「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい」と詠んだみすゞは、小さきものや名もなきものにやさしい目をむけてきました。めぐる季節に、万人の幸せをねがいながら。
きょうの潮流 2023年3月31日(金)
見る側の背筋がピンと伸びていく。きっぱりとした物言いと立ち居振る舞い―。どんな人物を演じても自身の人間性がにじみ出てくるような役者でした▼舞台や映画、ドラマ。戦後の演劇界で垣根をこえて活躍してきた奈良岡朋子さんが亡くなりました。めいで演出家の丹野郁弓(いくみ)さんは「冷静さと計算と感情を優れたバランスで持ち、表現できる」稀有(けう)な俳優だったと評します▼舞台で共演した仲代達矢さんは「繊細でこまやかな彼女の心理描写には学ぶことが多かった」。交流があった人たちは厳しくもやさしい芯の通った姿を口々に。生き方の指針にしてきたという後輩も▼「生き残りの十字架が私にはある」。15歳のとき空襲にあい、死体がごろごろと転がる焼け跡を感情もなく歩いた記憶。生と死のはざまを生き抜いて強く思ったのは、生きる権利は誰にもあるということ。それを脅かす動きには抗してきました▼晩年は、口を閉ざしてきた戦争体験を話しはじめ、声あるかぎり伝えていきたいと。ライフワークとしてきた「黒い雨」の朗読劇もその一つでした。本紙でも「核と戦争をなくすために、私は、私にできることを続けます」と語り、同じ反戦平和の志をもつ共産党に期待を寄せてくれました▼93年に及んだ人生の舞台に幕を下ろした奈良岡さん。生前に別れのメッセージを残していました。「新たな旅が始まりました。未知の世界への旅立ちは何やら心が弾みます」。戦争のない、自由で平等に生きられる世界を、あとに託して。
きょうの潮流 2023年3月30日(木)
がん治療の後遺症で以前のようには働けなくなり、退職。アルバイト代が治療費に消えていく日々を過ごしました。仕事と治療を両立させるお手伝いがしたい。それが株式会社を立ち上げるきっかけでした▼がん経験者の就労を支援する企業の社長、桜井なおみさん。16年前に仲間と2人で立ち上げました。治療を継続する社員や、在職中に亡くなってしまう人も。「でも、がんを体験した私たちだからこそできることがあるはず」と、その人がやりたいこと、できることで力を出し合います▼自身が乳がんになったのは2004年。仕事と治療を両立させる制度はほとんどありませんでした。2人に1人ががんになる時代。働き続けるためのしくみづくりや工夫が、大企業を中心に広がっていきました▼難しいのは中小企業。「まずは手厚い補助金を」と願います。さまざまな制度ができても情報格差も激しい。「でも、みんな医療とはつながっている。そこでの声掛けが大きなカギになるんです」▼就労は経済的な理由からだけではありません。「その人がどう生きていくのか」という尊厳にかかわること。「病気のことに立ち入ったら傷つくのではないかと案ずるより、まずは本人に聞いてほしい」。何ができるか、そのために職場ではどんな支援が必要か、“当事者の声から始めよう”と呼びかけます▼人手不足が叫ばれながら、がん患者が視野に入っていない国の姿勢もチクリ。「1億総活躍じゃなくて、“1億ちょびっと活躍”でいいじゃないですか」
きょうの潮流 2023年3月29日(水)
人生100年時代。60歳で定年退職しても、余生というにはあまりにも長すぎる人生を、どう過ごすのか。何をやるかは、万人の関心事です▼生涯現役職業といえる農業に関わりたいと思う人が増えています。“半農半X”の生き方。時間に追われず、余裕をもって人生を楽しむスローライフです。シニア世代の筆者も、「始めてみよう!あなたらしい農ライフ」と題して長野県が飯田市で開いた「帰農塾」に参加しました▼14年間で約760人が受講し、今回52人が参加。「兼業の人も退職してこれから農業を始める人も、大切な新規就農者、多様な担い手です」とのあいさつが▼基礎講座の第1回は農薬の安全な取り扱い。農薬は、薬ではなく、毒だと知りました。虫や土中のミミズなどや菌を殺す殺虫・殺菌剤。草木を枯れさせる除草剤。ネズミやモグラなどを殺す殺そ剤。植物を太らせたり、痩せたりさせる植物成長調整剤まであります▼農薬は、私たちの食卓にとっても毒だと改めて学びました。だからこそ、農薬取締法で散布方法などを定め、食品の安全に関する法律で出荷された農産物に一定以上の農薬成分が残留してはいけないと規定されています▼化学肥料と農薬に頼らず、有機物をしっかり入れた土の力と自然の生態系を活用した農業。農民連が提唱するアグロエコロジーです。持続可能で循環型の地域づくりと、多様性のある公正な社会づくりのとりくみ。農と食の現状を変える共同です。初心者として、共に実践していきたい。
きょうの潮流 2023年3月28日(火)
放送のあり方を規定した放送法。1950年に制定されました。戦後、新憲法のもと放送の分野で民主主義を実現しようとするものでした▼戦時の大本営発表の過ちを繰り返さないようにとの意思が込められています。表現の自由の確保を掲げ、放送の政府からの「独立」と「自律」が最大のねらいで、政府の放送への介入を許さないこととなっています▼この放送法に攻撃を仕掛けたのが安倍政権でした。いま問題になっている総務省の行政文書にその顛末(てんまつ)が記されています。放送法4条の「政治的公平」を巡って、従来は「番組全体を見て判断する」としていたのを2015年に高市総務相が「一つの番組でも判断できる」と答弁し解釈を変更。翌16年、それが政府統一見解とされました▼首相官邸の執拗(しつよう)な圧力が総務省にかけられ解釈変更に至った―。一昨年、メディア研究者の松田浩氏が『メディア支配』で示した通りのことが裏付けられました▼しかし、岸田政権は官邸の圧力があったことを認めず、解釈変更や報道の自由への介入には「当たらない」と。政府統一見解の撤回とともに、放送法の精神に立ち戻り政府に介入させない仕組みにする必要があります▼現行では、放送が監視すべき対象である政府が放送を統括する。そんな矛盾した放送行政がまかり通っています。政府が放送行政の全権を握っているのは、「主要国の中で、日本とロシアだけ」「独立行政機構の設置は、今や世界の大勢」という松田氏の指摘を改めてかみしめたい。
きょうの潮流 2023年3月27日(月)
なんか変だと思いませんか。「福祉や教育を充実させるためにはお金がいる」。それはそうです▼でも、「増税はしたくない」。それもそうです。増税は困ります。だから、「経済を元気にして税収を増やします」。なるほどね。だから、「大阪にはIRが必要です」。えっ▼これが大阪維新の会の理屈です。IRとは、カジノを中核とする統合型リゾートのこと。大阪の維新府・大阪市政が、大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」に誘致しようとしています。カジノはIR全体の床面積の3%ですが収益の8割を見込んでいます。「IRで稼ぐ」ということは「カジノで稼ぐ」ということです▼カジノは賭博場。博打(ばくち)で稼ぐということは、それだけ負ける人、つまりお金を巻き上げられる人を賭博場に呼び込むということです。カジノ事業者はギャンブル依存症になる確率は入場者の2%だといいます。100万人入場すると2万人。これが少ない数でしょうか▼ギャンブル依存症は本人だけでなく家族の人生も狂わせます。人の不幸を踏み台にして稼いだお金で依存症対策をします、福祉や教育を良くしますなんて間違っています▼大阪府知事選(4月9日投票)で「IRだけが争点ではないが正面から必要だと訴えていく」という維新の吉村洋文知事。「子どもの未来に、カジノはいらない。私が知事になったらその日のうちにカジノ計画は撤回します」という「明るい民主大阪府政をつくる会」の、たつみコータロー候補。あなたならどちらを選びますか。
きょうの潮流 2023年3月26日(日)
彼らは少女の話を聞き、食事や宿泊場所を提供し、「衣食住と関係性」を与えるようにして近づきます。それは「セーフティーネット」ではなく、商品として扱い、性搾取するための手段―▼繁華街をさまよう若年女性に寄り添う活動を続ける「Colabo(コラボ)」代表の仁藤夢乃さんがSNSにつづっています。とくに新宿・歌舞伎町では性売買の業者や買春者が多く集まり、少女たちを狙って声をかける姿を毎晩確認していると▼家で安心して過ごせず、周りに相談しても助けてもらえず、居場所もなく夜の街に行き着く。そんな少女たちを危険から守る役割をコラボは果たしてきました。定期的に開く「バスカフェ」もその一つです▼昨年来この活動を妨害する行為がしつようにくり返されてきました。ひわいな言葉や暴言を浴びせる、利用する少女らを撮影する、スタッフを取り囲む。東京都の委託事業であるコラボへのデマや中傷も大量に流されています▼妨害行為の中心人物とされる男性に対して、東京地裁はバスへの接近などを禁じる仮処分決定を出しました。ところが都は、卑劣な妨害に毅然(きぜん)と対処しないどころか、コラボ側に活動の中止を要請してきました▼あきれた行政の対応。こうした支援活動を攻撃する側の根っこには女性差別がありますが、それを助長しようというのか。支えを求める少女らを虐待や性暴力から救いたい。嫌がらせに屈しないコラボへの連帯はジェンダー平等の社会をつくることにもつながります。
きょうの潮流 2023年3月25日(土)
国土の0.6%に、全人口の3割弱が住んでいる。若者や出生の数の減少割合は地方のほうが高い―。総務省が数年前に示した東京圏一極集中と地方の現状です▼人口減少と高齢化は依然として地方の深刻な課題。それが地域経済を縮め、さらなる人口減と少子高齢化の悪循環を加速させていると。そのうえで労働力や後継者不足、働き方や働く場所の多様性の低下、地域経済や社会の持続可能性の低下をあげています▼列島にひろがる過疎の町は人影もなく、商店街もさびれたまま。コロナ禍にくわえ物価や燃料費の高騰で地方からの悲鳴はさらに。住民の生活は悪化し福祉や医療、教育をはじめ、さまざまな問題に直面しています▼4年に1度の統一地方選挙が始まりました。首長や道府県、政令市、全国およそ3割の区市町村で争われ、結果は国政にも大きく影響します。先陣を切った知事選ではさっそく争点が鮮明になっています▼大型開発やカジノ、軍拡優先の政治か、くらしと命を守る政治か。地方をこわしてきた国の悪政の防波堤となる候補者はだれなのか。ジェンダー平等をどう前進させるか。みずからの1票で地方を変え、国を変える機会です▼これまでも住民の声で政治を動かしてきた実績は無数にあります。子どもの医療費や学校給食費の無償化のひろがりもその一つ。こうした動きに押され、後ろ向きだった党からも無償化の声があがるほどです。ひとにあたたかな政治。それを実現する候補者を一人でも多く当選させたい。
きょうの潮流 2023年3月24日(金)
ギリシャ神話の女神テミスは、法と正義の体現者として知られます。左手にもつ天秤(てんびん)は公平・平等を、右手の剣は裁きによって正義を実現するという強い意志を表しているといいます▼それを題名に入れた今期のドラマ「女神(テミス)の教室」は、法律家をめざす若者が通う法科大学院を舞台にした群像劇でした。主演の北川景子さん演じる裁判官の教員は、法で裁くことの意味を学生たちに問いかけ、人を知らなければいい法律家にはなれないと説きます▼他者に寄り添うことで自分にはなかった視点や考え方、感情を知ることができる。その豊かさは法律家としての「武器」になる―。ドラマを通じたメッセージは法に携わる者だけに限らない、大切なことを伝えていました▼自身や支援者らのがんばりで再審無罪の道を開いた袴田巌さん。無実を訴え続けて57年、いまだ死刑が確定している彼の裁判の経過をたどると、いかに日本の刑事司法が人間不在で人権をふみにじってきたかがよくわかります▼事件当初からえん罪をいわれながら、袴田さんの言い分に耳を傾けようともせずに犯人と決めつける。捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)の可能性さえ指摘される。公平や正義とは正反対の姿。検察側は過ちを省みて一刻も早く審理をやり直すべきです▼テミスの像は目隠しされたものが主流です。それは偏見をもたず、貧富や権力にも左右されず、日本の憲法14条に記されている法の下の平等を表すとされています。相次ぐえん罪に、司法の原点をかみしめたい。
きょうの潮流 2023年3月23日(木)
「ふだんと変わらない自分でいること。それを崩してしまうと、このようなタフな大会では自分を支えきれない」。14年前、日本を優勝に導いたイチロー選手は重圧の胸中をそう語りました▼2009年のWBC大会決勝。韓国の抑えのエースとの対決は今も名勝負として語り継がれています。大谷翔平選手をはじめ今回の日本代表の多くもその姿にあこがれたと口にしています▼あのイチローさんでさえ、平常心でプレーすることが難しかったという大舞台。苦しみながらも3大会ぶりに栄冠をつかんだ日本代表のたたかいは、たくさんの人びとや子どもたちの胸をゆさぶり、感動や夢をもたらしました▼WBCにたいしては、日本のように熱くなる国もあれば、冷めた所もあります。野球の本場、米国も力を入れてきたとはいえベストメンバーとは言えません。そもそもサッカーやラグビーなどと比べても野球は世界的にすそ野が狭く、今大会も予選をふくめ28カ国・地域の参加にとどまっています▼WBCの目的は野球の国際化を促し競技を普及させること。投打で活躍しMVPに選ばれた大谷選手も「日本だけでなく、ほかの国も、もっともっと野球を大好きになってくれることを願っています」と期待を込めていました▼2006年から始まったWBCはまだ5回目と若い大会です。育てていくためには、先進の米国や日本の関係組織のさらなる努力が求められます。選手たちの努力や奮闘によってまかれた種を広く大きく咲かせるために。
きょうの潮流 2023年3月22日(水)
「国に忖度(そんたく)した残念な結果」だが、「最高裁判決を克服する第2ラウンドの出発点として全力でがんばっていく」。東京電力福島第1原発事故をめぐって東電と国に損害賠償を求めた「いわき市民訴訟」の原告団長、伊東達也さん(81)は力を込めて決意を語りました▼仙台高裁が先日、国の責任を認めない判決を出しました。昨年6月に4件の集団訴訟で最高裁が国の責任を否定する判断を示して以降、国を被告にした最初の高裁判決でした。最高裁判決は、国が東電に対策を取らせても事故は避けられなかった可能性が高いというもの▼伊東さんは「事故がなぜ起きたのかという問いへの答えは永遠に閉ざされてしまう」と批判してきました。国の責任を認めなかった今回の高裁判決ですが、最高裁が明確に判断を示さなかったことに踏み込んだものがありました▼たとえば国の機関が公表した地震予測「長期評価」。高裁は、公表した2002年の末までに敷地を超える大津波を想定でき、国も対策を命じる義務を負ったと指摘します▼さらに防潮壁の設置や浸水を防ぐ水密化対策で「重大事故が発生することを避けられた可能性は、相当高いものだった」と判断。国が規制権限を行使しなかった不作為は「極めて重大な義務違反」と繰り返し指弾しました▼「大きな一歩をつかんだ」。原告団・弁護団は国の責任を明らかにする最高裁判決を勝ち取る一大市民運動を起こすといいます。「たたかいをあきらめるわけには絶対にいかない」と伊東さん。
きょうの潮流 2023年3月21日(火)
まもなく新学期。子どもたちに新しい教科書が配られます。新1年生は初めて手にした教科書のページをどんな気持ちで開くでしょうか。わくわく、どきどき? 興味津々? 中には学校での勉強に不安を感じている子もいるかもしれません▼さて、教科書を巡って最近ある事件がありました。大阪府藤井寺市の教科書選定委員だった元中学校長に、ある教科書会社の当時の役員らが現金提供や接待をして贈賄罪に問われたのです。文部科学省は、この会社の教科書を次の検定で不合格にする「罰則」を適用する方針だといいます▼自社の教科書を使ってもらおうと賄賂を渡す。本来は教育的な視点から教科書を選ぶべき選定委員がそれを受け取る。子ども不在で教育を食い物にする行為です。同時に、なぜそうした行為が起こるのかということにも目を向けたい▼政府は予算を抑えるため教科書の価格を低く設定してきました。出版労連発行の『教科書レポート』によると小学校の国語の教科書は1学年平均320ページで751円。家庭科にいたっては142ページで144円。全面カラーでこの値段は一般の書籍には考えられない安さです▼加えて、子どもが減り、デジタル教科書の発行も求められ、経営はどこも苦しい状況です。教科書の選定は4年に1回のため一度はずれると4年間使ってもらえず、各社は生き残りに必死です▼教育の場をけがす不祥事を繰り返さないためには、教科書出版を巡る施策や制度の在り方も問われなければなりません。
きょうの潮流 2023年3月20日(月)
トルコ南東の山岳地帯から始まりイラクを横断しペルシャ湾へ流れるチグリス・ユーフラテス川。文明のゆりかごの中心地、チグリス川のほとりに位置するのがイラクの首都バグダッドです▼20年前のきょう、米軍による首都への空爆で始まった戦争。大量破壊兵器保有をでっちあげ侵攻した米ブッシュ政権は、フセイン政権を崩壊させ全土を占領。その後の混乱がいまも同国に大きな爪痕を残します▼「バグダッドが燃えている」と題し、当時、イラクの若い女性がリバーベンドの名で書いたブログ(ネット上の日記)があります。占領者とその操り人形への軽蔑と怒りをこめて▼突然に日常を奪われた庶民の様子が、イラクを“解放した”とうそぶく占領の実態を暴きました。各国で書籍化され、日本でも女性たちが翻訳し『バグダッド・バーニング』に。戦争前はコンピュータープログラマーだった著者。治安悪化と経済混乱で女性たちは追い詰められていきました▼「心を癒やし、魂を再生させるチグリス・ユーフラテスの胸元で友と会える日まで」と書き始めたブログの最後の更新は2013年。近隣のアラブ諸国に逃れ、いつ普通に暮らせるようになるのか「悲観主義者でさえ答えがない」絶望をつづりました▼イラクの民間人犠牲者は27万~30万人と推計(米ブラウン大学)されています。その周りには、暮らしと故郷を奪われた膨大な数の人々。戦争は自然災害ではない。イラクの人々の苦境に責任を負っているのは米国の為政者です。
きょうの潮流 2023年3月19日(日)
絶好のタイミングです。この映画と今回公表された総務省の行政文書を併せると今起きていることが鮮やかに見えてきます。「パンケーキを毒見する」の内山雄人監督が、新作「妖怪の孫」で“本丸”安倍晋三元首相に迫りました▼安倍政権を「昭和の妖怪」といわれた祖父・岸信介氏の時代までさかのぼり、検証。その一つがメディア支配です。ネット戦略で若者たちを取り込む一方、言うことをきかないメディアには「電波の停止」をちらつかせ、強面(こわもて)で脅す。その結果、報道がどう歪(ゆが)められたかを事実で示します▼その舞台裏を生々しく示したのが、今回の文書でした。放送法の解釈変更をめぐり、「無駄な抵抗はするなよ」「首が飛ぶぞ」「俺と総理が二人で決める話」と官僚を恫喝(どうかつ)する首相補佐官▼映画では複数の現役官僚が匿名でインタビューに応えます。「官僚が政治に臆病になり、正しいことを直言する精神文化は全く失われた」「今の政権の方向性と違うことは一切考えるなと(上司に)説教された」。集団的自衛権行使容認のために内閣法制局長官を差し替えたことは「時の総理大臣によるテロ」と▼ルール破りの最たるものが自民党の改憲案です。本来、憲法は国家権力を拘束するものなのに「憲法が一般国民に対し、憲法を守れと命じている。世界の珍事ですよ」と憲法学者の小林節さん▼安倍政治を踏襲し、先をいくのが岸田政権だと映画は告発します。ラストは危機感を募らせる監督の異例の独白。ぜひ劇場で確認を。
きょうの潮流 2023年3月18日(土)
桜の開花とともに、花見シーズンの到来です。飲食の自粛が4年ぶりに解かれた各地の公園には、にぎやかな光景が戻っています。花見用の弁当が売られ、場所取りの姿も▼学校は卒業の季節を迎えています。中学や高校の生徒は入学したときからずっとマスクが欠かせない3年間。それがいきなり文科省から卒業式ではマスクなしが基本とされ、現場では戸惑いが広がっています▼今週から個人の判断にゆだねられたマスクの着用。しかし、街や電車でもほとんどの人がつけたまま。みずからを守るため、コロナの感染拡大を防ぐため、これまで徹底されてきたマスク。すぐに割り切れなくても当然でしょう▼感染そのものも、高齢者や基礎疾患を抱えた人が重症化し死に至る危険も、なくなったわけではありません。専門家も「マスクはいるかいらないかではなく、必要に応じて着用することが大事だ」とのべています▼政府は4月から学校でマスク着用を求めず、5月からはコロナ感染の位置づけを季節性インフルエンザと同様の「5類」に引き下げると、緩和することに前のめりです。人びとの不安をよそに医療機関や感染者への公的支援を後退させる姿勢も示しています▼政府に助言する専門家会合は、5類になっても流行がくり返し起きることが想定されるとして、医療や高齢者施設では感染対策を続けることが求められるとした文書を提出しました。桜の季節はめぐりますが、みんなが安心してマスクを手放すときの到来はまだ先です。
きょうの潮流 2023年3月17日(金)
奇抜な映画です。もしも、あのとき、別の選択をしていればちがった人生を歩んでいたかもしれない…。だれもが一度は思い描く世界が、物語の出発点になっています▼アカデミー賞の作品賞に選ばれた「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。なんでも、どこでも、いっぺんに、という意味で、この世界には無数の並行した宇宙があり、そこで私たちはそれぞれの人生を送っているという設定です▼ややこしい展開のなかに浮かんでくるテーマは家族の再生と人生の肯定。そこで重要な役割を果たすのが主人公の夫です。30年ぶりに俳優に復帰したキー・ホイ・クァンさんが演じました▼「私の旅はボートの上から始まりました」。助演男優賞を受けたクァンさんはスピーチで自身のルーツをふり返りました。幼少期にベトナム戦争の混乱から逃れるため、家族と国を脱出。難民キャンプでくらしたのちに米国へ▼一時は子役で人気を博しましたが、アジア系俳優ということで役に恵まれず長く不遇の時代をすごしました。久々の抜てきでオスカーを手に「こんなことが自分の人生に起きるなんて、信じられない」と▼映画では主役のミシェル・ヨーさんもアジア系として初の主演女優賞に。共同監督の1人も中国系移民の息子とアジア系が席巻、多様性を重視する近年のアカデミー賞の流れに乗っていました。米国社会や世界で人種差別や憎悪犯罪が続くなか、自分とはちがう人生を想像することの大切さを教えてくれます。
きょうの潮流 2023年3月16日(木)
87年の人生の大半を拘置所の中で過ごしました。いくら無実を訴えても犯人と決めつけられる。証拠をでっち上げられ、自白を強要され、死刑におびえる日々。どれほどの無念だったか▼1966年、現在の静岡市清水区で、みそ製造会社の役員の自宅が放火され、一家4人が殺害されました。事件発生から2カ月後、従業員で当時30歳だった袴田巌さんが逮捕され、80年に最高裁で死刑が確定されました▼長時間の尋問、脅迫や非人間的な扱い、無理やり自白させられる様子は弁護団に開示された取り調べの録音テープからも明らかに。『袴田事件・冤罪(えんざい)の構造』の著者でジャーナリストの高杉晋吾さんは「長期拘留、拷問、任意でない自白、証拠の捏造(ねつぞう)と冤罪強制の手法そのものであった」▼その後の裁判が二転三転したのも証拠が疑わしいから。今回、東京高裁が裁判のやり直しを認めたのも主要な証拠とされた、みそ工場のタンクから見つかったという衣類について「捜査機関の者による可能性が極めて高い」との疑惑からです▼袴田さんを支えてきた姉ひで子さんは「57年間たたかってきて本当によかった。巌に真の自由をあたえてほしい」と▼長年の拘禁生活で心を病み、いまは「妄想の世界」にいるという袴田さん。日常を紹介するブログには今月10日に誕生日を迎えた巌さんが夢見る世界のことを語っています。「平和な世界だね。悪のない世界になろうというんだがね。人間社会、善だけで生活できるようにしようということだね」
きょうの潮流 2023年3月15日(水)
大江健三郎さんは、言葉のひとでした。自宅の居間や書斎で寸暇を惜しんで本を読み、原稿を書く。残された巨大な言葉の森。その中で、忘れられない言葉が二つあります▼一つは2004年7月の「九条の会」発足記念講演会でのものです。「私は、人間が身近に死者を受け止め、自分の死についても考えざるをえないときに、倫理的なものと正面から向かいあうと考えています」。だから戦争直後こそ、日本人がかつてなく数多くの死者を抱え、もっとも倫理的になった時だったと▼そして憲法と教育基本法は「じつに数多くの死者の身近な記憶に押し出されるようにしてつくった」ものであり、「文体に自然な倫理観がにじみ出ていることにも注目したい」と語りました▼もう一つは05年7月、「九条の会」有明講演会での結びです。大江さんは若いひとたちにこの詩を贈りたいと、アメリカの詩人の詩の一節を、少しアレンジして紹介しました。「求めるなら変化はくる、しかし、決して君の知らなかった仕方で」▼続けて参加者にこう呼びかけました。「私たち古い世代の知らなかった形でこの国に変化がありうる、と。そして、その変化を求めていただきたいと私は願っております」▼戦後民主主義者であることを誇りとした大江さん。その小説は、現代の窮境を生きる人間の救済がテーマでした。現代日本の最大のテーマとして憲法とヒロシマと沖縄について語り続けました。その言葉はこれからも私たちとともに生きていくでしょう。
きょうの潮流 2023年3月14日(火)
「労働能力が制限されうる程度の障害があったこと自体は否定できない」。そう述べて大阪地裁は先月、交通事故で亡くなった聴覚障害のある女の子が将来得られるはずだった収入は労働者全体の平均賃金の85%をもとに算出する判断を示しました▼父親は「結局、裁判所は差別を認めたんだな」と肩を落とします。大阪聴力障害者協会は緊急声明を公表。「共生社会の実現を推進している国、司法が障害者差別をしてもよいと言っているのと同様の後退的判決内容です」▼障害にもとづく差別は人間固有の尊厳、価値を侵害するものだ―。障害者権利条約は、そううたいます。障害者が経済的にも障害のない市民と同様に社会参加できなければならないとも▼障害者それぞれの障害は、社会の側がどれだけ障壁を取り除いたかで重くも軽くもなります。障害者差別解消法は障害者の能力が制限されないよう障壁を取り除くことを要請します▼障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会事務局長の家平悟さんは、司法はいまだに人権条約を考慮していないと批判。低すぎる年金など障害者の実態を変えるよう運動を強めなければと力を込めます▼国連障害者権利委員会は昨年、日本の初審査を実施。障害者を排除しない包摂的な労働環境での同一労働同一賃金を保障するよう勧告しました。障害者の賃金は85%で良しとする社会なのか、障壁を除いて100%にする社会か。障害者権利条約はわたしたちのめざすべき社会のあり方を指し示しています。
きょうの潮流 2023年3月12日(日)
ふるまわれた新鮮な魚やシラスに舌鼓を打つ家族連れ。伝統の「浜焼き」を体験する子どもたちの姿もありました▼福島・相馬市の松川浦で開催された海の幸まつり。地元でとれた海産物をもっと知ろうと催されたイベントです。原発事故から長く苦しんできた風評とのたたかい。しかし国の基準よりも厳しく検査するなど、関係者の努力によって少しずつ解消されてきました▼ところが―。ここにきてまた風評被害への懸念が高まっています。原発事故によって今も増えつづけている汚染水。それを政府と東京電力は、この春か夏にも海に放出しようとしているからです▼「やっと収まってきたのにまた出直せというのか」「結論ありきのやり方だ」。福島や宮城の漁港を回ると、怒りに満ちた漁業者の声が聞かれました。難しい問題だからと口を濁したり、どうせ反対しても流すのだろうとあきらめ顔の漁師も▼関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないと約束しながら、時期を一方的に示して突き進む国と東電。そんな乱暴な進め方が理解を得られるはずもありません。「福島民報」の県民調査では9割超が「風評被害が起きる」と答え、全国の世論調査でも同様の結果が表れています▼いまだ終わりの見えない原発事故の反省も教訓も忘れた岸田政権にも不安は広がります。何十年も続くという海洋放出。年配の漁師は若い漁業者たちを心配していました。「彼らがやりがいや誇りをもって魚をとれるよう、安心安全な海を受け渡したい」
きょうの潮流 2023年3月11日(土)
歴史を今に受け継いで/未来を見つめ意気高く/鴎(かもめ)のごとく羽ばたかん―。沿革とともに刻まれた校歌。学校の入り口に建てられた真新しい閉校の記念碑です▼石巻市の牡鹿(おしか)半島にある荻浜(おぎのはま)中学校は今月、41年の歴史に幕を下ろしました。天然の良港に恵まれ漁業やカキの養殖が盛んな地域でピーク時には60人をこす生徒が学びました。しかし東日本大震災の後に激減。最後の在校生はわずか3人でした▼「震災がなければここまで生徒も減らず、もっと続いていたと思う」。荻浜中の教頭はそう話します。同じ地域の東浜小も今月で閉校。今年度で閉じる宮城県内の小中は10校をこえ、とくに人口減少が激しい沿岸部では学校の統廃合が進みます▼福島・富岡町のアーカイブ・ミュージアム。町の歴史や特徴、つみ重ねてきた営みを伝えます。しかし周りには朽ちた家が目立ち人影も見えません。原発事故で全町避難しましたが、戻りたいという町民は1割にも満たないのが現状です▼巨大な防潮堤、道路や宅地が造成されても人が減っていく被災地。それぞれの自治体や若者たちが魅力あるまちづくりに努めていますが、そこに冷や水を浴びせているのが生業(なりわい)の基盤を築けない地方切り捨ての国の姿勢です▼いわき市薄磯(うすいそ)海岸にある震災伝承館。そこに子どもたちの未来へのメッセージを込めた300枚の黄色いハンカチがはためいています。「大好きなふるさとをずっとずっと残して」。あの日から12年。被災地から発信された心のさけびです。
きょうの潮流 2023年3月10日(金)
軽快な音楽が流れるなか、日本の上空へと向かうB29。次々と投下される爆弾と焼夷(しょうい)弾。炸裂(さくれつ)音とともに舞い上がる炎と煙。その下でどれほどの人びとが逃げ惑っていたか▼公開中のドキュメンタリー映画「ペーパーシティ」は米軍機が撮影した映像から始まります。東京を拠点にするオーストラリア人の監督が追った、東京大空襲の記憶と生存者の活動。「歴史上最も破壊的な空襲」であったにもかかわらず、被害を伝え継ぐ公的な施設がほとんどないことに疑問を抱いたと▼78年前のきょう、一夜にして10万人もの命を奪った無差別爆撃。各都市にも及び、おびただしい市民が犠牲となりました。家族や家を失った人たちも、生活を再建するために必死でした。しかし政府は空襲被害者の調査も謝罪も救済もしていません。元軍人や軍属には補償があるのに▼老いてなお国の責任を問う被害者たち。映画で証言した3人もこの世を去りました。命あるかぎりの運動には、二度と戦争を起こさせないという固い誓いがあります▼過ちの忘却とのたたかい。江東区の戦災資料センターでは今年も犠牲者の名を読み上げる集いが開かれ、東京大空襲の体験記をまとめた『戦災誌』刊行50周年の企画展も行われています▼都民が編んだ惨禍の記録集。それを支援した当時の美濃部亮吉都知事は一文を寄せました。「底知れぬ戦争への憎しみとおかしたあやまちを頰冠(かぶ)りしようとするものへの憤りにみちた告発は、そのまま、日本戦後の初心そのものである」
きょうの潮流 2023年3月9日(木)
あがめた人と、自身をダブらせたのか。森友学園への国有地売却問題で「私や妻が関係していたということになれば首相も国会議員も辞める」と国会で言い放ったあの姿に▼安倍政権下の報道介入を克明に記した文書。立憲民主党の議員から国会で追及された当時の高市早苗総務相はまったくの捏造(ねつぞう)文書だと反発し、そうでなければ大臣も議員も辞職するかと問われると「結構ですよ」と開き直りました▼その後、総務省はすべて同省が作成した行政文書であることを認めて公開。しかし高市氏は、自分に関しての内容は不正確で捏造であると言い張っています。文書には大臣室での高市氏とのやりとりも残され、同氏が特定のテレビ局をあげて「公平な番組なんてある?」と問題視する様子も▼文書は政権に批判的な番組に圧力をかけるため、官邸が放送法の解釈変更を迫った記録です。政治的公平性についてこれまで政府は放送事業者の番組全体を見て判断するとしてきましたが、それを一つの番組でも判断できると圧力を強めました▼高市氏はその後の国会で電波停止を命じる可能性まで言及、安倍首相も追認しました。報道の自由を脅かす権力による言論弾圧。それに屈したのかニュース番組やワイドショーから政権を批判する報道やコメンテーターが次々と消えています▼戦争国家づくりの一方で森友問題をはじめ政治を私物化し、言論機関にも介入してきた安倍政治。この負の遺産を受け継ぐ岸田政権とメディアの姿勢も問われています。
きょうの潮流 2023年3月8日(水)
もしも将軍が女性だったら…。徳川幕府を舞台に男女を逆転させたNHKドラマ「大奥」が好評です。風変わりな設定のなかに、今の日本社会にも通じる問題を投げかけています▼ある病の流行によって男子の数が激減。男性は希少な「種馬」とされ、女性は男性の代わりに仕事や政治にかかわる。将軍職も女性がひきつぎ、大奥は城内に集められた男性から「種」をうけ、血脈をつないでいく場になるという時代劇です▼産むことに重きを置かれ、性別で役割を押し付けられる世界を描いたドラマは、いまだ根強い性差別の現実をも映し出します。男女を逆転させることで不平等さが鮮明になった、改めて女性の苦しみがわかったという反響も▼日本の女性に認められている法的権利は男性の8割弱にすぎない―。男女同権が法的にどの程度進んでいるかを示した世界銀行の指数で、日本は主に先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)のなかで最下位でした▼とりわけ男女の格差が大きい政治の分野では各国が改善に努めるなか、世界から取り残されています。『さらば、男性政治』の著者、三浦まりさんは、とくに自民党が政権に復帰してから「まるで時が止まったかのようである」と指摘します▼21世紀の今日、男性ばかりの見慣れた光景を民主主義と呼んでいいのかと三浦さん。きょうは国際女性デー。性差別に対して声をあげ、だれもが平等に生きられる社会をつくるために連帯する日です。性に縛られない多様な世界をめざして。
きょうの潮流 2023年3月7日(火)
「間違いなく談合ですね」。入居マンションの大規模修繕工事。業者を選定する際、建築士から告げられました。応札8社に同じ内容の誤記があり、入札額が2%刻みにきれいに並ぶ。10年ほど前、管理組合を襲った談合劇のことです▼結局、入札はやり直し。工事費は1億5千万円と当初の入札最低額より約3千万円安くなりました。損失は回避されたものの、あのときのことを思うとぞっとするやら、腹立たしいやら▼東京五輪・パラリンピックをめぐる談合はどれだけの損害をもたらしたのか。この入札談合で、広告最大手「電通グループ」など6社と組織委員会運営局元次長ら7人が起訴されました。テスト大会関連の入札リストを作成し、事前に受注調整をしていました▼広告・イベント業界が結託し五輪マネーの“甘い蜜”に群がり、もうけをむさぼりました。フェアプレーが求められる五輪を傷つけ、信頼をさらに失墜させた罪は重い▼公正取引委員会が過去の入札談合を分析したところ、想定受注額の約2割高く落札されていたと。これは先の個人的な経験とも符合します。今回の談合規模は437億円。多くは税金で、被害者は国民です▼五輪をめぐっては汚職事件も発覚しています。それでも国や東京都、スポーツ界に本格的な検証の動きはありません。組織委は公益財団法人のため、情報公開制度の対象外と清算法人は資料提供すらしていません。ここにも“談合”があるのか。徹底解明まで私たちにとっての東京五輪は終わりません。
きょうの潮流 2023年3月6日(月)
イチョウ並木が消えた、公園の大木が切られてしまった―。「身を切る改革」は維新の会のキャッチフレーズですが、これでは「木を切る改革」ではないかと批判が起きています。メディアや大阪市議会でも取り上げられました▼大阪市は2022年夏から街路樹の伐採をはじめ、大阪城公園など各地の公園樹7000本を含め計約1万本を24年度にかけて撤去する計画です。すでに18年から2年間で9000本の街路樹が伐採されています▼市側は「交通の障害」「安全に支障」などを伐採の理由にあげていますが、どの木を切るかは樹木に「撤去を予定しています」と通知文を張って知らせるだけでした▼「なぜそんなに木を切るのか」「木を保護し、緑を増やしてほしい」という市民の声にどうこたえるつもりなのか。「予算が抑え込まれて管理が不十分になり、伐採ありきで進めているのではないか」(「毎日」2月16日付)との住民側の疑いの目も報じられています▼では「身を切る改革」の方はどうかというと定数削減で多様な民意を切る。「知事の退職金ゼロ」といいながら月額の給与に上乗せする。税金は山分け。日本維新の会の23年の収入の81・5%(33億5300万円)は政党交付金を見込んでいます▼大阪市のホームページ上にこんな一文があります。「街路樹はこんなに役立っています」。季節感を演出、ヒートアイランド現象の緩和、生物多様性の向上や火災発生時の延焼防止など。維新は切るべきところを間違えています。
きょうの潮流 2023年3月5日(日)
「これまで経験したことのない規模の事業量」。日本共産党の小池晃書記局長が2日の参院予算委員会で明らかにした、自衛隊基地の「強靱(きょうじん)化」に関する防衛省内部文書の一節です▼防衛省・自衛隊が保有する全国2万3000棟を、核・生物・化学、電磁パルスなどあらゆる脅威に耐えられるよう、地下化や壁の強化といった改修をする計画。「日本全土の戦場化」(小池氏)を想定し、自衛隊の司令部だけは生き残ろうというものです▼防衛省は、こうした工事を今後10年かけてすすめ、予算規模は前半の5年だけで4兆円。本格的な工事が始まる後半の5年は、さらに膨張するのは確実です▼重大なのは、国会に来年度予算案を提出してもいない昨年12月23日、大手ゼネコンなどを集めて計画を説明していたことです。戦前、大手土建企業が「軍建協力会」などに組み込まれ、軍の工事で巨額の利益を得た歴史を彷彿(ほうふつ)とさせます▼防衛省自身が「未経験」と告白する規模の工事に道を開いたのは、岸田政権の大軍拡計画です。「43兆円という砂糖の山に群がるアリ」のようだという、香田洋二元自衛艦隊司令官の指摘(「朝日」昨年12月23日付)は正鵠(せいこく)を得ています▼そもそも、なぜ「強靱化」が必要なのか。日本が敵基地攻撃能力を保有し、米軍とともに他国に攻撃を仕掛け、その結果として、相手国からの報復攻撃が想定されるからに他なりません。日本がやるべきは、戦争準備ではなく、徹底した外交努力で平和的な環境をつくることです。
きょうの潮流 2023年3月4日(土)
かつては岩手の下閉伊郡に置かれ、いまは宮古市と合併した田老(たろう)町。復興とともに歩んできた第一中学校の校歌にこんな一節があります。「防浪堤を仰ぎみよ 試練の津波幾たびぞ 乗り越えたてしわが郷土 父祖の偉業や跡つがん」▼1933年3月3日、東北の太平洋沿岸をおそった昭和三陸津波。はげしい揺れの30分後に到達した津波は岩手、宮城を中心に3千人以上の命を奪いました。なかでも最も被害が大きかったのが当時の田老村でした▼住民の3割をこす千人近くが犠牲となり、村はそっくり波にさらわれました。その後、万里の長城と称された防潮(浪)堤が築かれる一方で、高台への住居移転は見送られていきます。侵略戦争の拡大に伴う資金や資材の枯渇も背景にありました▼しかし巨大な防潮堤は、東日本大震災で倒壊。ふたたび壊滅的な被害にみまわれました。いまはさらに高い防潮堤がつくられ、高台移転も進んでいます▼昭和三陸津波から90年。いま田老では伝承のためのイベントが開かれています。何度も甚大な被害を受けてきた町として何を伝えていくべきか。命を守る教訓を語り継いでいくのは、われわれの責務だと▼今年は関東大震災から100年でもあり、復興そのものを問い直す機会にもなります。もうすぐ12年となる東日本大震災では、人口も産業も拡大しているときの復興策を相変わらず踏襲しているとの批判もでています。教訓を引き継ぎながらも、時代の変化に応じた復興の姿が求められています。
きょうの潮流 2023年3月3日(金)
たまごには三大特性があります。熱を加えると固まる。ゆで卵や卵焼きに。混ぜると気泡ができる。メレンゲやお菓子づくりに。混ざり合わないものを混ぜ合わせる。マヨネーズやアイスクリームに▼身近な食材で価格も安定している卵はさまざまな料理や食品に利用されています。しかしいま、物価の優等生の値上がりがとまりません。1年前と比べてほぼ倍に。大手レストランをはじめ卵を使ったメニューの一部を停止するところも現れています▼世界各地で猛威をふるっている鳥インフルエンザや飼料高騰の影響で、しばらくは高値が続くといいます。殺処分の対象となったニワトリなどの数は一つのシーズンで初めて1500万羽をこえました。これは全国で飼われている採卵鶏の1割超にあたります▼いまだ収束の兆しはなく防疫対策にも限界があり、養鶏農家からは「このままでは続けられない」との声もあがります。畜産・酪農の危機をふくめ、この国の食をどうするのか。根っこのない政府の対応からは何もみえてきません▼月が替わっても食料や飲料の値上げラッシュ。加えて交通機関の運賃も引き上げられ、電気やガス、水道代も高騰したまま。賃金は上がらないのに、モノの値段だけが上がっていくという不条理です▼話を戻せば、栄養が豊富でおいしく安い卵は「生命のカプセル」と呼ばれてきました。しかし大規模化した採卵や供給に問題はないのか。いのちを育むカプセルから、人類の食のあり方もみえてくるはずです。
きょうの潮流 2023年3月2日(木)
「子どもが増えれば実現できる」―岸田政権が掲げる「子育て予算倍増」を報道番組で問われ、木原誠二官房副長官がこう答えました。“異次元”という少子化対策の中身は空っぽではないか。怒りが広がっています▼コロナ禍で子育て世帯の困窮はいっそう進み、真っ先に収入減や失業に見舞われたのが非正規雇用の子どものいる女性たちでした。子育てにお金がかかるのに、教育費をはじめ負担は重くのしかかり、「子育て罰」との言葉が頭をよぎります▼子どもを持つことに伴う所得減少を指す経済学の概念「チャイルド・ペナルティー」。各国と比べても日本の女性は子どもを産めば労働所得が大きく減ると指摘されています▼これを「子育て罰」と訳出したのは社会福祉学者の桜井啓太氏。共著『子育て罰―「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)では、訳語に込めた思いにも触れています。「子育て罰」ということで、政治や制度など罰を与えている側の責任が可視化できる、と▼親の低賃金や乏しい家庭支援策によって生み出されるのが「子どもの貧困」です。だからこそ、政治の役割が重要だと述べる同氏。子育てには「罰」ではなく、「ボーナス」こそ必要だと明快です▼高校無償化や児童手当に所得制限を導入し、親の所得によって支援を削ってきたのも自公政権です。そして今、軍事費倍増だけは即決し、危険な道へ突き進もうとしています。子育て・教育予算を圧迫する点からも、大軍拡は決して許せません。
きょうの潮流 2023年3月1日(水)
「戦争が廊下の奥に立つてゐた」。いつの間にか忍び寄る、不気味な影。そこに引き込まれていく不安がひしひしと。大戦迫る1939年に俳人の渡辺白泉がつくった句です▼「制服姿の隊員が孫を訪ねてきた」。住民から寄せられた声にこの句を思い起こしました。自衛隊員の募集のために札幌、旭川、帯広の北海道3市が6万人の個人情報を提供していたと本紙が報じました。市民への周知もないままに▼数人の隊員が家に来てなかなか帰らなかった、高校3年生がいる自宅のポストに手書きの手紙と募集リーフレットが同封された自衛隊からの「お知らせ」が入っていた―。知らない間に情報が握られていることに市民からは苦情や憤りも▼少子化や相次ぐハラスメントの影響もあって、応募者が減り続けているという自衛隊。あの手この手で誘っていますが、防衛省が自治体から募集対象者の情報を本人の承諾なしに入手しているやり方に批判が広がっています▼昨年度は全国1741の市区町村のうち、962の自治体が18~32歳の募集対象者の氏名や住所、性別、生年月日の情報を同省に提供したとの報道もありました。これには個人情報保護法や、プライバシー権を定めた憲法13条に違反していると専門家も指摘します▼先の句を詠んだあと、白泉は治安維持法によって投獄されます。しかしいまは戦争の影を払いのけ、岸田政権が突き進む大軍拡に反対をつらぬく市民や政党が健在しています。「子どもたちを戦争に巻き込むな」と。
きょうの潮流 2023年2月28日(火)
小林多喜二の「蟹工船」を読んだ時の衝撃がよみがえってきました。NHKのドラマ「ガラパゴス」を見た印象です▼織田裕二ふんする刑事が、非正規労働者の死の謎を追います。月収25万円をうたいながら、派遣会社が中間搾取するなどして、実際に手にするのは11万円。複数の人間が、部屋を仕切っただけのアパートで共同生活。派遣で働く人々の待遇は過酷です。人件費ではなく、「外注加工費」として処理されるに至っては、モノ扱い▼今や非正規労働者は全体の37%を占め、約2000万人を数えます。年収200万円未満のワーキングプア(働く貧困層)は約1200万人。日本の産業を支える一翼を担いながら、冷遇される現実があります。格差と貧困は深刻です▼なぜ、このようなことがまかり通るのか。契機となったのは、1985年に自民党が主導して成立した労働者派遣法です。当時、多くの労働者や労働組合が反対しましたが、安い労働力を欲する企業の求めに国が応じて、システム化しました▼その後も労働法制の改悪は続き、非正規労働者が激増。日本を「成長できない国」「賃金の上がらない国」に押し下げています。独自の世界に閉じこもった“ガラパゴス”状態です▼ドラマは、厳しい環境にもひるまず、仕事への誇りを持ち続けた派遣労働者の姿を鮮明に描き胸打ちます。普通に仕事して、食べて生活できる。働く人々の当たり前の願いが実現できるように。人間らしく働けるルールづくりが切実に求められます。
きょうの潮流 2023年2月27日(月)
「私たちの未来に、戦争も核兵器もいらない」。アニメ作家の有原誠治さんが作製したドキュメンタリー映画「声をあげる高校生たち」のなかでの訴えです▼東京、埼玉、沖縄など高校生平和ゼミの、コロナ禍にめげない街頭活動記録です。始まりは、核兵器の製造や使用、使うぞと脅すことも禁止する条約が批准・発効した2021年。被爆者からヒロシマやナガサキの惨劇を学んだ10代として、独自の「声をあげよう!高校生署名~日本政府は核兵器禁止条約に署名・批准を」を集めようと決めました▼若者たちでにぎわう原宿での初めての行動。どう声をかけていいか戸惑いながら励まし合う姿や「『がんばってください』といわれて『がんばっていける』と思った」などの感想がリアルに▼目標の1万人の署名を外務省に届けた高校生はこう要請しました。「核兵器によってもたらされる平和は本当の平和ではない」と。立ち会った日本被団協事務局次長の児玉三智子さんは「誰かのためでなく、自分自身のこととして、人類の未来のための行動です。核兵器では命も暮らしも守れません」とエールを送ります▼印象的な場面ごとに効果的に使われている曲は「ちいさなひとつぶ」です。安倍政権時代に安保関連法に反対するママの会の集会テーマ曲でした。「だれの子どももころさせない」の合言葉とともに、歌われたものです▼世代を超えて連帯し、平和の種をまき、勇気を出して声をかけ、世界に核も戦争もない、平和の花を咲かそう―。
きょうの潮流 2023年2月26日(日)
生まれながらにして「神の子」といわれてきたといいます。信者同士の集団結婚で組み合わされた両親から生まれた「祝福2世」。しかし周りとはかけ離れた環境や、洗脳のもとで次第に心はぼろぼろに▼統一協会2世だった小川さゆりさんが自身の体験を『みんなの宗教2世問題』のなかで語っています。とくに精神の危機をむかえるくだりはすさまじい。韓国の修練会で錯乱状態になって麻酔で眠らされたり、パニック発作が起きて毎日死にたいと考えたり…▼家を出ても染みついた教えが抜けず苦しむ日々。親は安倍元首相の銃撃事件についても容疑者のことをいっさい認めず、じつはスナイパーが撃った、共産党のもくろみだと陰謀論を信じ込んでいるそうです▼詐欺や高額献金で生活を壊し、家族を崩壊に追い込むカルト集団の被害は今も。しかし文科省は解散命令の請求をずるずると引き延ばしています。4回目の質問権を行使する方針で解散請求の判断は4月以降にずれ込むとの見方もあります▼いまさら永岡文科相は実態の把握と証拠のつみ重ねを強調しますが、統一協会の活動の違法性は数々の裁判でも明らかに。いたずらに時間をかけるのは政権が統一地方選挙への影響をにらんでのことか▼もう被害者を出したくない。小川さんら声をあげた元信者やこの問題を追及してきた人たちはこうした悪質な団体を規制・解散させる法をつくるところまでいかないと、解決も終わりもないといいます。政治との癒着を断ち切るためにも。
きょうの潮流 2023年2月25日(土)
「これ! これ! 私が悩んでいるのと一緒」「元気がもらえました」「こういう記事を待っていた」…。くらし家庭面の火曜連載「発見! 主体性の発揮できる会議と運動」が反響を呼んでいます▼一生懸命話しても「聞いただけ」で終わり「自分は何のためにこの場にいるのか」と感じていた青年。会議を主催する組合役員は「良い職場をつくりたいと思っているのに、思いを受け止め切れていなかった」と反省します▼どうすれば誰もが主人公になる会議になるのか。これは労働組合だけでなく、共産党の支部でも大きな悩みです。一人一人の思いを引き出し、力を寄せ合いたい。その切実さと願いが、文面から伝わってきます▼筆者で大阪府関係職員労働組合執行委員長の小松康則さんも、会議の運営に悩んでいました。「聞いてるだけで疲れる」「わからないなんて言える雰囲気じゃない」。そんな声を受けてワークショップに参加し、会議の仕方を少しずつ変えていきました▼時間は限りある資源であると意識してタイムスケジュールを示し、テーマ設定を明らかに。全員が話し合うよう心がけ、話し合いは少人数で。「〇〇したい」との思いが次々と引き出されるようになりました▼中身を皆で共有し、最後は良かったことや改善点を出し合う「振り返り」。「私が一番エンパワーメントされる(力を与えられる)瞬間かもしれません」と小松さん。双方向で思いを寄せ合い続けることが、組織をしなやかに強くしていくのかもしれません。
きょうの潮流 2023年2月24日(金)
燃える建物や戦車、助けをもとめて涙を流す少女。なかにはちぎれた手足から、鎖のようなものが垂れ下がるロボットみたいな人間の姿もありました▼ウクライナの子どもたちが描いた絵です。長引く戦火のなかで抱えてきた思い。色づかいや表情には、深く傷ついた心が投影されています。苦しみや悲しみを正直に表した描写とともに天使の絵も目につきました。ひたすらに平和をねがう気持ちを込めて▼すべてが変わってしまったあの日から1年。おだやかな日常とたくさんの幸せがロシアの軍事侵攻によってうばわれてきました。国内にとどまっている人も、難民となって国外にのがれた人も、母国が戦場と化した悲劇はつづいています▼いまだ終わりのみえない戦争。プーチン大統領は祖国を守るためと改めて侵略を正当化し、愛国心をあおり国民に団結を強いています。他国の主権と領土を力でふみにじる。もう、こんなことが通用する世界ではないのに▼いま国連総会ではこの問題についての緊急の特別会合が開かれています。グテレス事務総長は人道的にも人権的にも重大な結果をもたらしたとロシアの行為を改めて非難しながらこう訴えました。「戦争は解決策ではない。真の平和は、国連憲章と国際法に基づくものでなければならない」▼ウクライナの外相も各国に国連憲章や国際法の側に立ってほしいと呼びかけました。「ただ、平和にくらしたいだけ」。外相の言葉は、やすらかな日々を待ち望んでいる人々の切なる思いです。
きょうの潮流 2023年2月23日(木)
その漫画を目にしたのは小学生のころでした。同じ子どもの主人公に、ときに感情を入れ込みながら、はじめて実感しました。戦争や原爆というものが、いかに恐ろしく残酷か▼中沢啓治さんが実体験をもとに描いた「はだしのゲン」です。広島に原爆が落とされたあの日、中沢さんは6歳でした。自身は奇跡的に助かったものの、姉は倒壊した自宅で即死。父親と弟は家の下敷きになったまま焼け死にました▼おびただしい死体、全身にガラスが突き刺さり皮膚がたれさがった姿、腐った臭いや焦げた臭い、めちゃくちゃに壊れた街。地獄の光景をよみがえらせた漫画は被爆の実相や戦争の悲惨さを国内外に伝える役割を長く果たしてきました▼これまで広島市も平和教育に使ってきましたが、来年度から取りやめて別の教材に差し替えるといいます。漫画の一部を引くだけでは被爆の実態に迫りにくいとの理由で。これには現地の教職員組合や被爆者団体から撤回を求める声があがっています▼半世紀前に世にでた「はだしのゲン」には、今の子どもたちに理解しづらい話や時代の制約をうけた描写もあります。そうした点を含めどんな議論をしてきたのか。うなずけるような過程がみえてきません▼10年前にも過激で残虐だとして、子どもたちに自由に読ませない動きが起きました。「はだしのゲン」を貫く反戦平和への強烈な思いと、理不尽な権力にたいする怒り。いまこそ子どもたちをはじめ、たくさんの人びとに伝えるときではないのか。
きょうの潮流 2023年2月22日(水)
「新しい戦前になるのでは」の危惧、それが絵空事ではないという不安。八十年前、一人の青年学徒が近づく世界大戦の忌まわしい気配を感じつつ、「青春ノート」に思いをつづりました▼「一九一四年戦争を舞台とするある長編小説を読みながら…歴史は繰りかえすの感を強くした。一九四〇年はいかに一九一四年に似ていることか」。フランスの小説『チボー家の人々』を自ら翻訳しながら読んだ加藤周一です▼作家、野上弥生子は1937年の年頭に寄せた新聞コラム「一つのねぎごと」で「どうか戦争だけはございませんやうに」と。戦争だけは…の切実な思い。戦争前夜のひりひりした緊迫感が伝わってきます▼「反共は戦争前夜の声」と訴えた蜷川虎三京都府知事。1950年4月3日、知事選挙さなかの吉田内閣打倒大会で「彼らはその反動性を隠すために、反共を叫んでいる。歴史を振り返るまでもなく、反共は戦争前夜の声であり…戦争への道である」▼下山事件、松川事件…共産党を狙い撃ちにしたでっち上げ事件や「共産主義者は大学教授足りえず」などとレッドパージの波が職場や学園に吹き荒れた時代。朝鮮戦争の開始目前の、まさしく戦争前夜のことでした▼いま、岸田自公政権の大軍拡計画推進の動きと軌を一にするように、大手メディアによる共産党バッシングの嵐が。「戦争の準備より平和の準備を」(加藤周一)と大軍拡と対峙(たいじ)する共産党を攻撃して、どこに導こうというのか。その姿勢が厳しく問われています。
きょうの潮流 2023年2月21日(火)
人と人のめぐりあいは、二つの「宇宙」の出あい。一人ひとりの胸の内は、だれも手を触れることのできない大宇宙である。人の心の中の宇宙を大切にしてこそ、自分の内なる大宇宙を平和に維持できるのだ―▼松本零士さんが本紙日曜版に語っていたことがあります。「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」といった壮大なテーマの作品の中で夢や希望をはぐくみ、人の心の内面や命の尊さを描いた漫画やアニメをつくり続けました▼束縛のない自由な世界への渇望。そこには少年時代の戦争体験や戦後の貧しいくらし、漫画家としての苦悩や挫折がありました。そのすべてが創作の血肉となり、うみだしたキャラクターによって命のバトンがつながれていったといいます▼陸軍のパイロットだった父親から教えられた戦争の現実。戦場漫画シリーズや核兵器の恐ろしさを伝えてきた作品には、人類が手を携え、この地球を守ってほしいとの願いが込められています▼日曜版には「星の仲間たち」と題する漫画も寄せてくれました。ある惑星を見つけた人類。緑の宝石のように輝く自然豊かで文明も発達した星。しかし発せられた電波を解読すると、たたかいに血塗られた歴史をもつ地球人は凶暴なエイリアンだと警戒されて…▼「若者の想像力は未来をも動かす力を秘めている」。松本さんは子どもたちには無限大の可能性があると、いつもエールを送っていました。85歳の旅立ち。いまごろ夢だった宇宙から地球を眺めているかもしれません。
きょうの潮流 2023年2月20日(月)
きょう2月20日は、作家・小林多喜二の没後90年にあたります。節目に前後して今年も各地で記念の集いが開かれています▼先陣を切った1月の小林多喜二国際シンポジウム。中学生の子を持つ作家の梅村愛子さんが語りました。「中学校は校則でがんじがらめ。子どもたちは耐えて流して、反抗もしません。この子たちにこそ多喜二を読んでほしい」▼「母親はこんな偉そうなことを言っているけど、うちの子は本も読まず、ユーチューブばかり。矛盾を感じています」とも。客席の高齢女性から「子どもは親の背中を見ています。安心して頑張って」と励ましの発言もあり、会場は温かい拍手でわきました▼11日の「文学のつどい」では芥川賞作家の若竹千佐子さんがビデオメッセージを寄せました。昨年ドイツの日本文学研究者から「多喜二はドイツでも読まれています。お母さんが最後に多喜二にかけた言葉が忘れられません」と言われたそうです▼母セキは多喜二の遺体にすがり「もう一度立たねか、みんなのためもう一度立たねか」と泣き崩れました。この言葉はくしくも『蟹工船』のラスト「そして、彼等は、立ち上った。――もう一度!」と重なります▼今年初めて開催されるのが23日、日本橋公会堂での築地多喜二祭です。事務局の福田和男さんはこう話します。「大軍拡の危機にあるいま、多喜二終えんの地、築地でやらなければと。戦争に反対して殺された多喜二をよみがえらせることが軍国化阻止の力になると思っています」
きょうの潮流 2023年2月19日(日)
世界で初めてブラウン管に映し出された映像は、“いろは”の最初の「イ」の文字。1926年、電気工学者の高柳健次郎によるものでした▼テレビジョンの歴史は戦争と隣り合わせ。高柳は1940年の東京五輪のテレビ放送を目指しますが、戦争が激化し五輪は中止に。自身も電波兵器開発に従事することとなり、テレビジョン研究が中断します▼NHKがテレビ本放送を開始したのは、戦後の1953年でした。2月1日は「テレビ放送70年」に当たります。NHKのドラマ「大河ドラマが生まれた日」(4日)は、それを記念した一作。「映画に負けない大型時代劇」作りに懸ける、関係者の熱気があふれていました▼「テレビ女優」第1号の黒柳徹子さんは折にふれて「テレビを使って平和が来ればこんなに素晴らしいことはない」と発言。ドラマ「大地の子」の脚本・演出を手がけた岡崎栄さんは「戦争をやってよかったとテレビでいえますか、絶対にいってはいけない」と語っていました▼今年を「新しい戦前」と予測したのはタモリさん。多くの人々が反応しました。敵基地攻撃能力だの、軍事費43兆円だのと、岸田政権のもとで平和を脅かす動きが急です。が、テレビは一向にその危険を報じる気配がない。沈黙は政権の意向に沿うことになります▼かつて戦争に加担した苦い経験を持つメディア。ジャーナリズムであるなら、テレビ70年の機にその真価を発揮する時です。「新しい戦前」にしてはならない。テレビにも突きつけられています。
きょうの潮流 2023年2月18日(土)
いま将棋界で話題を集めているのが王将戦7番勝負です。史上最年少で五冠を達成するなど次々と記録を塗り替えている20歳の藤井聡太王将に、前人未到のタイトル獲得100期を目指す52歳の羽生善治九段が挑戦。双方2勝2敗の接戦に熱い視線が注がれています▼ところで、その羽生九段。入管に収容されていた外国人の救済を求めて、当時の小泉純一郎首相に嘆願書を送ったことがあります。助けようとしたのは元チェス世界王者のアメリカ人、ボビー・フィッシャー氏(故人)▼同氏は東西冷戦中、政府の命令に反してユーゴスラビアで対局したことから祖国に帰れなくなりました。各国を転々とし日本にも滞在。2004年、出国しようと成田に向かった時にパスポートが無効だとして逮捕され、茨城県牛久市の東日本入国管理センターに収容されました▼多くの人が救援に動き、同氏はアイスランドの市民権を得て解放されました。しかし「不法滞在」とされる外国人への日本での扱いは変わりません。裁判もないまま無期限収容され強制送還を恐れる日々。病気でもまともに診察を受けられません。「仮放免」になっても就職できず、移動も制限されます▼死亡事件も相次いでいます。フィッシャー氏のいた入管でも9年前、カメルーン人男性が体調不良にもかかわらず放置され、死亡しています▼政府は人権侵害と批判を浴びて廃案になった入管法改定案を再提出しようとしています。人権を守る方向での改革こそ求められています。
きょうの潮流 2023年2月17日(金)
プライドが始まった場所でした。ニューヨークのグリニッチビレッジにあったゲイバー。そこで起きた出来事は店名にちなんで「ストーンウォールの反乱」と呼ばれます▼権力による弾圧に立ち向かった性的少数者。1969年に起きた事件はLGBTQ運動の原点となり、のちの権利獲得に大きな影響を与えました。いまでは世界各地にひろがったプライドパレードにもつながっています▼「私がかかげる目標の一つは、性的少数者の人権が尊重、保護されるまで待たなければならない時間を短くすること」。来日した米国務省のジェシカ・スターン人権促進担当特使は50年以上前の「反乱」をあげながら、権利を法的に認めて実行することの重要性を説いています▼いまも差別に満ちた暴言が政権からとびだし、同性婚を法制化すれば「社会が変わってしまう」と首相が口にする日本。性的少数者の権利を守る法整備は主要7カ国で唯一遅れ、OECD(経済協力開発機構)の調査でも「最も消極的な国」に分類されています▼それでも法で認めることに反発の声があがる自民党。「いつまでに結論を出せという課題ではない」と先送りの姿勢をみせる岸田首相。多様な生き方を否定し、世界からも遅れていく元凶はここに▼権利が法制化されれば、彼らはより安全になり、国はより繁栄し、家族はより調和して強くなり、社会全体が恩恵を受けると、スターン氏。平等、誇り、希望、愛を込めたレインボーフラッグは今日も打ち振られています。
きょうの潮流 2023年2月16日(木)
背の高さの違う3人が塀越しに野球観戦をする2枚のイラストがあります。1枚には、それぞれ同じ高さの踏み台に乗る3人が。最も高い人は塀より背が高いため台に乗るとさらに見えやすくなりますが、一番低い人は塀より低いまま▼もう1枚は、一番低い人の足元には2段の踏み台があり、最も高い人にはなし。中の人は一つの踏み台の上で、3人がほぼ同じ高さで塀越しに観戦を楽しんでいます。2枚のイラストのどちらが平等・公平を表しているでしょうか▼障害者が社会参加するためには「踏み台」が不可欠です。一人ひとりの障害にあわせて社会の側が用意すべきですが、障害者の人権を守るにはぜい弱です▼障害者や家族らはことあるごとに、「踏み台」=社会福祉などの充実を行政に要請。「他制度との公平性・公正性の観点から」と前置きして、厚生労働省は障害福祉施策の改善に後ろ向きの姿勢を示すことがたびたびです▼「軍事費を増やさないで福祉を増やして」。脳性まひで肢体不自由の松本誠司さん(54)は年始に高知県庁を訪れ、訴えました。自民党県議は、こう応じたといいます。これまで福祉予算ばかり増やしてきたから戦争のための予算を増額しなければ―▼軍拡に向かってひた走る岸田自公政権。一方で公平性・公正性を口実に社会保障全体の圧縮を狙い、多くの市民の人権が脅かされつつあります。「踏み台」がないと障害のない人と同じ暮らしを送ることが困難な人たち。平和でこそ平等・公平は実現します。
きょうの潮流 2023年2月15日(水)
ユネスコの無形文化遺産にも登録された和紙。この伝統技術が、軍事兵器として使われた過去があることはあまり知られていません▼先の大戦末期、陸軍登戸(のぼりと)研究所で和紙をこんにゃくのりで貼り合わせた気球が開発されました。米国本土への攻撃を目的とし、実際に9300発もの「風船爆弾」が飛ばされました。そのうちの千発は北米大陸に届いたとされ、オレゴン州では6人の犠牲者が出ています▼軍事史に詳しい山田朗さんによると、気球は生まれたときから軍事に利用されてきました。18世紀末フランス人に開発された熱気球はフランス革命時に観測や偵察に使われ、日本でも西南戦争の政府軍や日清・日露戦争で使用されてきました▼いま、この気球をめぐって米中の緊張が高まっています。今月4日、米軍はサウスカロライナ州の沖合で中国の気球を撃墜。センサーや電子機器の残骸を回収したと伝えられています。一方、中国外務省の報道官は米国の気球が「去年の1月1日以来、十数回、中国の領空に侵入していた」と発表しました▼ともに偵察用とみなし強硬な姿勢を示しています。米軍の戦闘機は他にもアラスカ州やカナダ上空などで10日以降、3日連続で未確認の飛行物体を撃ち落としています▼偵察衛星に比べ気球はコストが安く、高度が低いので高精度の画像が撮れ、微弱な電波も拾える利点があるといいます。ふわふわと空を舞う物体におびえる大国。互いに冷静に対応し、対立を激化するような行動は慎むべきです。
きょうの潮流 2023年2月14日(火)
「蛇足」「漁夫の利」「虎の威を借る狐(きつね)」などの故事成語の由来で知られる『戦国策』。古代中国で諸国を巡って献策した人たちの知略を中国・前漢の学者、劉向(りゅうきょう)(紀元前77年~同6年)がまとめたものといいます▼「まず隗(かい)より始めよ」も、その一つ。現在の北京一帯にあった燕(えん)の昭王が、優れた人材の登用策を郭隗にたずねたところ、私を重用しなさいと説いた隗の言葉に基づきます▼自分のような平凡な人物を優遇すれば、優れた人も集まってくるという意味。転じて身近なところから行うことのたとえに。言い出した者から始めよという意味でも使われます▼「『法の支配』と(日本政府は)ロシアや中国を批判するときに使うが、隗より始めよだ。わが国は本当に立憲主義をやっているのか」。そう力を込めたのは、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏。沖縄復帰50年や安保3文書をテーマに都内で開かれた同県主催シンポジウムでの発言です▼玉城デニー知事らとともに登壇した阪田氏。「専守防衛に徹する」といいながら、敵基地攻撃能力保有という「明らかに憲法で否定してきたこと」(阪田氏)に突き進む岸田政権への怒りが伝わってきました▼「自分の頭で考え、おかしいと思うことを叫び続ける。それをやらなくなったら、かつてきた道になる」。そう語る阪田氏に「私も叫び続けていきたい」と応じたデニー氏。会場は力強い拍手に包まれました。米国の“虎の威”を借りて国民の叫びに耳を傾けぬ政権は代えるしかありません。
きょうの潮流 2023年2月12日(日)
アワ、ヒエ、キビ…などの雑穀には、かつては「貧しい食べ物」という印象がありました。しかし近年は、食物繊維やビタミンなどが豊富で栄養価の高い食品として見直されています▼ご飯と炊いたり、スープやサラダにまぜたりして、気軽に食べられます。プチプチ、モチモチした食感が人気で「肌の調子が良くなった」「便秘をしなくなった」などの効果も期待できそう▼さらに多くの雑穀は、やせた土地や乾燥した土地でも栽培できるという利点があります。こうした雑穀の魅力を広めて消費を増やし、持続可能な生産を奨励しようと、国連食糧農業機関(FAO)は今年を「国際ミレット(雑穀)年」と定めました。本紙日曜版1月22日号でも特集しました▼日本では雑穀の栽培者が減少しています。日曜版に登場した岩手県花巻市の農協職員は「いま栽培している人のほとんどが70~80代。その人たちがリタイアしたら作る人がいなくなる」と危機感を語っていました▼手作業での雑草とりなど栽培に手間がかかるため栽培面積を大きくすることができない。しかし政府は、コメからの転作を支援する交付金を削減するなど厳しい状況に追い打ちをかけていると指摘します▼農業の後継者問題は深刻ですが、一方では気候危機などへの関心が高まるなか、「農業をして暮らしたい」という若い世代も出てきています。必要なのは国が予算を増やして農業を支え、生活の保障や将来への展望を示すこと。それでこそ希望ある道が見えてきます。
きょうの潮流 2023年2月11日(土)
想像を超える、深刻な事態です。6日未明、トルコ南部で発生した大地震の死者数は9日現在、トルコとシリア両国を合わせて2万1000人以上に達しました。東日本大震災の死者・行方不明者約1万8400人を上回り、さらに増える見通しです▼生存率が急速に低下する「発生から72時間」が経過しました。2歳の男の子が倒壊した建物の中から79時間後に救出された事例もあり、希望を捨ててはなりません。しかし、氷点下を下回るような寒さの中、厳しい状況が想像されます▼生き残った人たちも困難に直面しています。世界保健機関(WHO)の推計によると、トルコの被災者は約2300万人。事実であれば、人口の約27%にあたります▼内戦が続くシリアでは、いまだ被害の全容はわかっていません。今回、大きな被害を受けた地域は政府軍、クルド人勢力、反政府派が入り乱れ、何万人もの人々が避難生活を送っていた地域であり、危機的な状況が懸念されます▼寒さにふるえる被災者の姿に、私たちは12年前の東日本大震災の苦難を重ね合わせます。そして、トルコを含む、全世界に広がった日本への支援の輪も。今度は、私たちが支援の手を差し伸べるときです。各地で広がる募金の輪。日本共産党も、全国で募金を開始しています▼国際社会は米中対立やロシアのウクライナ侵略など、深刻な分断にさらされていますが、今はそうした分断や対立を脇に置いてでも、国際社会が一致してトルコとシリアへの支援を行うべきです。
きょうの潮流 2023年2月10日(金)
原発の60年を超えた運転に対応した新たな制度案を決めようとした8日の原子力規制委員会。委員の一人が「私はこの案には反対いたします」と表明しました。このため、決定は後日に持ち越されました▼反対したのは地震や津波対策の審査を担当する石渡明委員。地質学者で日本地質学会会長を務めました。提案された制度は、「原則40年、最長60年」という現行ルールを改め、60年を超える運転を可能にする内容です▼原発の運転年数から審査などで長期停止した期間を除外して、60年を超えても運転ができるよう法改定をねらう岸田政権の、原発回帰の動きに呼応したものです。委員はこう発言しました。新たな制度は「科学的技術的な新知見に基づいた改変ではない」▼さらに運転期間の制限を法律からなくすことは「安全側への改変とはいえない」と言い切りました。現行ルールが定められたのは東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえ、安全にかかわる問題としてつくられたものです。老朽原発の原子炉は高エネルギーの中性子を浴び続け粘り強さを失いもろくなり、事故の危険が増すからです▼委員の心配は政府の法改定にも及びました。審査に時間がかかればかかるほど、その分だけ古い原発を将来動かすことになるというのです。現行制度では廃炉になるはずの原発があちこちで動く…▼制度案に対する一般からの意見に「規制委の責任放棄だ」とありました。世界有数の地震・津波国の日本。原発回帰への大転換は許されません。
きょうの潮流 2023年2月9日(木)
今月4頭のパンダが日本を旅立ちます。上野動物園のシャンシャンと、和歌山・白浜町のアドベンチャー・ワールドでくらす永明(えいめい)、桜浜(おうひん)、桃浜(とうひん)です▼中国側との取り決めによるもので、同じ時期に返還が重なったのはコロナの水際対策が緩和された影響とみられています。現在国内には13頭のパンダがいますが、一気に3分の1弱がいなくなることで、さみしいとの声が相次いでいます▼日本に初めてパンダが来てから半世紀がたちます。しかし、10年以上前から新規の受け入れは実現していません。その間、希望する動物園はあったものの、今日に至るまで。背景には、日中関係の冷え込みがあります▼外交の表舞台にパンダが登場したのは、日中の戦争がきっかけだったといいます。1941年、時の国民党政権は蒋介石の妻、宋美齢を通して米国に2頭のパンダを贈ります。その裏には米国の対日政策が中国に有利になるよう宣伝戦略があったと家永真幸東京女子大准教授は説きます(『中国パンダ外交史』)▼中国近現代史を専門とする家永さんは、パンダの贈呈や貸与には時代ごとの外交方針や戦略が表れているといいます。「パンダの温和で平和なイメージを国のイメージとダブらせ利用してきた」▼日中間に溝があるといっても、ともに欠かせない貿易相手国。コロナ前には訪日中国人の爆買いが話題になるほど人的往来も活発でした。パンダの話題だけでなく、互いに関心を高める。それがよりよい関係を築くことにつながるはずです。
きょうの潮流 2023年2月8日(水)
突然の腰の痛みで入院したのは9歳のとき。スポーツが大好きな少年を襲った脊髄腫瘍。歩けないと宣告され、「本当にショックだった」。7日、引退会見を開いた車いすテニスの国枝慎吾選手(38)が回想していたことがあります▼車いすで恐る恐る学校へ向かった最初の日。友達の一言に救われます。「しんご、バスケやろうぜ」。当時、アニメ「スラムダンク」が大はやり。知らぬ間にみなバスケットボールのとりこになっていました。見えない垣根を砕いた何気ない言葉。「あの一言があって、いまのぼくがある」と▼いつも友達はバスケで手加減なくぶつかってきました。何度も転倒しつつ、負けまいと練習した車いす操作。これが後の巧みなチェアワークにもつながりました▼「やりきった現役生活を送れたことは最高の幸せ」。引退会見での表情は晴れやかでした。パラリンピックで単複4個の金メダルを獲得、四大大会で50勝を挙げ、「生涯ゴールデンスラム」も手に。プロとして車いすテニスと障害者スポーツの価値を高める礎を築きました▼研究熱心でストイック。ひじのけがを克服するなど努力を重ねた28年のテニス人生。会見ではコート上と異なる優しいまなざしにあふれていました▼いじめをなくすプロジェクトで、自身の経験から「何気ない一言」の大切さを伝えていました。困っている子、元気のない子に「一言かけてみて」。深い悲しみを知るからこその優しさ。強いだけでないチャンピオンがラケットを置きました。
きょうの潮流 2023年2月7日(火)
〈勝たせたき党あるゆえに雨衝(つ)きて卒寿に近き身を起(た)たせゆく〉。昨年、90歳になった歌人の奈良達雄さんが最近、新しく冊子をつくりました。「党と党活動を詠(うた)う」と題して▼〈寝むずかる児(こ)の髪優しく撫(な)でし手がいま入党の決意を記す〉。奈良さんが地元の茨城県古河市で共産党に入ったのは25歳のとき。まだ地方にも党が分裂した傷痕が残っていた頃でした。そこからさまざまな苦労をのりこえ、党とともに成長してきたといいます▼〈新らしき同志を迎え帰り来るわが胸にのみ灯のともる路地〉。うまずたゆまず続けてきた党の活動。そのなかで社会変革をめざす仲間を得たときの喜びを込めた歌です▼〈こもごもに冬の党史を綴(つづ)りゆく或(あ)る者は杖(つえ)に身を持たせつつ〉。いま全党がとりくんでいる「130%の党」づくりにも、自分にできることがあればと歌や手紙を通して訴えています。若い人を励ましながら、かれらの思いにも耳を傾けて▼いまや反戦平和の党の真骨頂を発揮するとき。中央から全支部にあてた手紙には、みずからの初心やこれまでの活動を重ねた返信が届いています。以前のようには動けないが電話で対話している、孫を戦争に行かせないために支部の力を合わせてがんばりたい―▼〈自(おの)ずから気迫伝わる指揮せんと本紙十二部一気に増やす〉。党の歌人後援会代表世話人でもある奈良さんは、生きているかぎり、党と社会進歩のあゆみを歌に詠みたいと。〈目標遂げて虫の音の降る夜を帰る想(おも)い百万の党に馳(は)せつつ〉
きょうの潮流 2023年2月6日(月)
喜友名泉。「ちゅんなーがー」と呼ばれる湧き水は古くから集落の共同井戸として利用されてきました。飲んだり洗ったり、儀式や産湯にも使ったり。生活に欠かせない泉として▼沖縄・米軍普天間基地のすぐそばから湧き出るこの水が数年前から飲めなくなりました。人体に悪影響をおよぼす恐れのある汚染物質が高い濃度で交じっていたからです。有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))です▼水や油をはじき熱に強い性質をもち、フライパンなどの表面加工や泡消火剤まで、さまざまな用途で長く世界中で使用されてきました。自然界では分解されにくく蓄積されやすいことから、永遠の化学物質といわれています▼米国では以前から健康被害が深刻化。規制も厳しくなり、バイデン政権は対策に多額の予算を組んでいます。国内でも沖縄の米軍基地から泡消火剤や汚染水が流れ出していることが問題になり、各地の基地や工場周辺で検出が続いていますが、いまだに国や都は本格的な対策に乗り出していません▼『消された水汚染』の著者、諸永裕司さんは汚染が隠されてきたといいます。調査はされてきたが、健康への影響があるかないかの基準となる目安もないことから公表されてこなかったと▼日米地位協定によって米軍基地には立ち入ることもできず、汚染の源をつきとめることもできない。それを傍観する日本政府。そんな現状に市民が声をあげ、共産党の議員らも住民を守れと要請に立ち上がっています。命の水を安心して飲めるために。
きょうの潮流 2023年2月5日(日)
平安時代の末期に執政の座にあった藤原頼長は当時の風俗を記した日記を残しました。そこには自身をふくめ男性同士の性愛についての記述が数多くあります▼中世から江戸の時代にいたるまで、日本の歴史には多様な性が息づいていました。それを検証した三橋順子著『歴史の中の多様な「性」』は、歌舞伎の女形がもてはやされたように社会や文化にも影響を与えてきたといいます▼抑圧されたのは明治以降。男らしさ女らしさの押しつけとともに富国強兵のための「産めよ増やせよ」が国から求められていきます。いまの自民党に根強く残る道徳観や家族観も、性的少数者を敵視した戦前の色に染められています▼「見るのも嫌だ」「同性婚なんか導入したら国を捨てる人も出てくる」。またも首相の周辺からあからさまな差別発言がとびだしました。元をたどれば、同性婚を認めたら「社会が変わってしまう」とした岸田首相の答弁です▼秘書官の暴言はそれを問われてのもので、秘書官室も全員同じ考えにあると。性差別論者の政務官起用も同様ですが、そうした人物を重んじてそばに置きながら、多様性を認めあう社会といっても口先だけの言い草です▼時を同じく、国連の人権理事会は性的少数者への差別の解消や同性婚の合法化を日本に勧告する報告書を採択しました。人権の時代にあって変わりゆく世界や社会。日本にも多様な性を受け入れる土壌がありました。変わらないのは個人の生き方を否定する人たちの頭のなかだけです。
きょうの潮流 2023年2月4日(土)
美しかった都は死者の都と化しました。血で血を洗う、けたちがいの人的被害。「ネズミの戦争」と形容された凄絶(せいぜつ)な市街戦。もはや街でも戦場でもなく、そこは地獄でした▼ロシア南部の都市ボルゴグラードは、かつてスターリングラードと呼ばれました。この「スターリンの町」をめぐる攻防は独ソ戦の帰すうを決し、第2次世界大戦の決定的な転換点のひとつとなりました▼「われわれはふたたびドイツ戦車の脅威に直面している」。2日、攻防の地の80周年記念式典で演説したプーチン大統領。ドイツがウクライナへの主力戦車の供与を決めたことを念頭に「ナチズムが現代的な形を装い、わが国の安全を脅かしている」と強調しました▼1941年6月、ソ連に侵攻したナチスドイツの戦車連隊は驚異的な進撃でクレムリンの近くまで攻め込みました。ソ連が反転攻勢に転じ45年まで続いた激戦は、人類史上最もむごいたたかいとなりました▼ナチス側は対ソ戦を「世界観戦争」とみなし、ヒトラーは「みな殺しの闘争」と呼びました。一方の独裁者スターリンは、「大祖国戦争」と位置づけ、ソ連軍の機関紙には「ドイツ軍は人間ではない」の文字がおどりました(大木毅著『独ソ戦』)▼絶滅戦争の惨禍。いままた祖国を守るためと戦意をあおり、ウクライナ侵略を正当化するプーチン大統領は核兵器の使用さえちらつかせています。世界観や価値観が互いに異なることを戦争に結びつけない。悲惨な歴史の教訓がそこにあるはずです。
きょうの潮流 2023年2月3日(金)
2月1日は、国の制度として窓口負担が無料だった“老人医療”が有料化されて40年の日です。強行された75歳以上の医療費窓口負担の2割化を中止させる決意の日として、全国をオンラインで結んで高齢者が参院議員会館に集まりました。合言葉は「この日を忘れない」「年齢でいのちの差別は許さない」です▼全国保険医団体連合会の代表は窓口2割化アンケートの中間結果を報告。コロナの感染拡大と物価高騰、上がらない年金の三重苦のなかで、「過去半年以内に経済的理由で受診を控えている」との回答が2割近くに▼「学習と怒りの組織化が大事です。老人クラブや公団自治協と協力し、広域連合議会への陳情で神奈川選出の野党議員15人が紹介議員になった」との報告も▼もともと、“老人医療”無料化は幅広い都民要求の一つとして、美濃部亮吉革新都知事が公約して1969年実現。革新自治体の広がりと各地の住民運動で、老人医療無料制度を73年12月に勝ち取りました▼今も70歳以上の高齢者の医療費を自治体が負担しているのは東京都日の出町です。後期高齢者の場合、医療費を償還払いながら全額町が負担。町が負担する医療費は1人平均で4万1763円(2021年度)です。担当課は「日の出町の発展に貢献した高齢者に報いるために設けた制度です」と▼平和を何よりも大切にする日本国憲法の下、戦災復興と高度成長を支えた高齢者。それに報いるためにもいのちと暮らし守る政治実現へ、世代を超え共同したい。
きょうの潮流 2023年2月2日(木)
ある日、超能力者が王宮に招かれます。王は自分より力をもつ者の存在を憎み殺そうとしますが、超能力者は王の前で丸い輪を壁に描き、王にそれを消すことはできないといいます▼怒った王は輪を消しますが、その瞬間別の場所に二つの輪が現れます。それを消すと今度は四つの輪が、次は八つと、倍々で輪が増えていき、王宮のあらゆる場所が輪でいっぱいに。王はその力に圧倒されて絶望し、世捨て人になりました▼ビルマ=ミャンマーの民衆の間に残る「ボウボウアウン伝説」です。英国の植民地下にあった時代、反英の闘士たちは、この伝説を引用し、力を合わせれば支配者を倒すことができると訴えました(『ビルマ独立への道』)▼仏教とともに長く信仰されてきた超能力者の伝説は、いまも弾圧に抗する人びとを励ましているのか。国軍によるクーデターから2年。暴力はくり返され、ミャンマーの人権団体によると、これまでに2940人が死亡、1万3千人以上が拘束されています▼国連のグテレス事務総長は「現地ではさまざまな危機が悪化し続けている」。民主化への国際協調と支援が欠かせませんが、いまだに日本政府は背をむけています。軍事政権との関係を断てず、国連からも制裁網への参加や軍関係者の即時国外追放を促されています▼自由を奪われ、暗闇のなかで呼びかけられた沈黙のストライキ。ミャンマーのやまぬ抵抗は、待ち焦がれているはずです。抑圧する者を倒す、人びとの輪がいっぱいになることを。
きょうの潮流 2023年2月1日(水)
草の根の活動にアンテナを張り、小さな声を届ける取材スタンスが筋肉となっていて、お作法的な取材で終わらない。生活者の目線に立って報道をしてくれるメディアだと日々実感▼「STOP!インボイス」の呼びかけ人でライターの小泉なつみさんが「赤旗」創刊95周年に寄せてくれた談話です。小さな声を届ける―それは戦前の創刊時から受け継がれる本紙の存在意義でもあるでしょう▼天皇制支配のもと、非合法の出版物として出発した「赤旗」は真実をいかに伝えるかというジャーナリズムの根本をもって生まれた新聞でした。日本が侵略戦争につきすすみ、すべてのメディアが権力になびいていくなかで、「戦争に反対して戦え!」(1928年5月3日付)の見出しを堂々と掲げました▼戦後も武装した自衛隊を海外に派兵するPKO法をめぐり、先導役や及び腰のメディアにたいして、憲法の平和原則をふみにじるものと徹底した反対のキャンペーンを続けました▼当時、マスコミ論を専門とした塚本三夫中央大教授はこう語っていました。「『赤旗』は歴史の節目、曲がり角で弾圧のあらしに抗し、権力による反共宣伝に屈せず、民主・進歩の方向を主張して論陣を張ってきた」▼いままた歴史の転換点が訪れています。大軍拡か、平和の道か。展望はどこにあるのか。読者からはこんな声が届いています。「赤旗」は考えていく希望、理性のかがり火を消すな。小さな声は、やがて大きな声となって世を包み込む。歴史の証明です。
きょうの潮流 2023年1月31日(火)
妊娠を告げられた母はこういさめます。あんたが思っているほど簡単なことじゃないの。産んで終わりじゃない。子育てしながらだと、いまと同じようには働けなくなる…▼いわれたのは「妊夫」の息子。男性が妊娠、出産する世界を描いたドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」です。坂井恵理さんの同名マンガが原作。昨年有料動画で配信され、いま地上波で放送されています▼女性にかかる負担を男性が身をもって知ることで偏見や差別に気づいていきます。坂井さんは「少子化と騒ぎ立てながら、責任のほとんどを女性におしつけ、妊婦や母親に冷たい日本の社会を、マジョリティー(多数者)である男性に疑似体験させてみたかった」▼現実世界では産休・育休中の人たちのリスキリング(学び直し)を「後押しする」と答弁した岸田首相への批判が広がっています。子育ての大変さをまったくわかっていない、この人にこそ学び直してほしいと▼食事も睡眠もままならないのに勉強する暇があると思っているのか。産休や育休は「休み」ではなく、働くための準備期間でもない。相次ぐ怒りの声は口では異次元の少子化対策をいいながら、実情と次元が違う考え方をしている政権に向けられています▼出産や育児への無理解。そこには自民党の中に横たわる男尊女卑や性差別があります。日本の男性の政治家には、子どもを育てる親の目線をあまり必要とされていないようにみえると坂井さん。首相をはじめ、まず妊夫になってみてはどうか。
きょうの潮流 2023年1月30日(月)
その選挙を取材した地元紙の記者は当時こんなことを報告していました。「町民の意識の奥底には、停滞感、出口の見えないいらだちのような感情が強く流れていたのではないか」▼四半世紀前、山深い長野・木曽の町で行われた首長選。大方の予測を覆して選ばれたのは日本共産党の町議だった田中勝己さんでした。以来、合併前と合わせ4期16年。揺るぎなく掲げたのが「町民が主人公のまちづくり」でした▼地方を顧みない自民党政治のもとで過疎や高齢化が進むなか、住民自治と住民参加を徹底。ゆたかな自然や歴史、文化を生かしたまちおこしや独自の産業を育てました。その足跡は多くの地方自治体の手本にもなりました▼2013年の引退後はしばらく晴耕雨読の日々を過ごしていたという田中さん。85歳となった昨年、『神秘の音色』(文藝出版)と題した短編小説集を上梓しました。若い頃に情熱を傾けた文学を思い出し、つづってきた作品をまとめたといいます▼出馬をめぐる葛藤やオウム真理教とのたたかい、表題にもなった世界的なバイオリン製作者とのつながり…。小説とはいえ、そこには自身の体験や歩みがふんだんに織りこまれ、実践してきた町政の底流にある田中さんの熱い思いが伝わってきます▼地方きりすての政治が続くなか、いまも列島を覆う「停滞感」や「出口の見えないいらだち」。それを払しょくし、まちを変える力はどこにあるのか。歴史が示す道は「住民こそ主人公」を貫いた先にみえるはずです。
きょうの潮流 2023年1月29日(日)
「新聞やニュースを見るたびに、戦争が忍び寄ってきている気がします」。エッセイストの海老名香葉子さん(89)は、こう言って顔を曇らせました。29日号の日曜版にインタビューを掲載。戦災孤児としての痛切な思いを語っています▼16人ほどの親族を戦争で失いました。その一人に旧満州に渡った10歳年上のいとこ「お咲ちゃん」がいます。敗戦時の混乱期、弟の章吾さんと食料調達に行った帰り、ソ連兵に襲われます。妊娠し堕胎させられ、衰弱した挙げ句、中国からの引き揚げ船上で死亡しました。戦時性暴力の犠牲者です▼海老名さんが一連の出来事を知ったのは、戦後46年たってからでした。中国への旅の中で、章吾さんが初めて打ち明けてくれたのです。「襲われた時、『姉さんの足が天を突いていたんだ。僕に力があったら』と言って章吾さんは泣いていました」。そう語る海老名さんも泣いていました▼海老名さんは、「抑止力」という言葉のごまかしを鋭く見抜きます。「この抑止力が戦争のもとじゃありませんか。抑止力を使ったらどうなりますの。相手国を脅すことで戦争が始まるじゃないですか」▼テレビは連日、枕詞(ことば)のようにロシア・中国の脅威を語り、抑止力の強化を促します。そのため2113億円かけて米国から購入するのは巡航ミサイル「トマホーク」。まさに“戦争のもと”です▼戦争は怖くて悲しい。海老名さんは、戦争だけはなきように、との思いを込めた歌を制作。その歌が今、独り歩きを始めています。
きょうの潮流 2023年1月28日(土)
「密室政治」といえば永田町のことと思っていたところ、意外な「密室」が存在していました。NHKです▼トップである会長が交代、25日に新会長が就任しました。日本銀行元理事でリコー特別顧問などを歴任した稲葉延雄氏。この人事をめぐって選考過程は国民には明らかにされず、「密室」状態で決まったのです▼放送法では、会長は経営委員会が決めると規定されています。しかし、誰が稲葉氏を推したのか、ほかにどんな候補者がいたのかなどは不明のまま。その上、首相官邸の関与までメディアに指摘されています。「岸田首相が稲葉氏を口説き落とし、麻生副総裁や菅前首相らに根回し」と▼NHKでは、経営のスリム化の大号令のもとで組織の場当たり的な改編が進められ、とくに制作現場が影響を受けています。財界出身の新会長がさらに効率化を推し進めるのではないかと懸念されます▼元経営委員だった、小林緑・国立音楽大学名誉教授は本紙への寄稿で「経営委員会が執行部の追認機関でしかない」と手厳しい。今回、視聴者は「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」を結成し、候補に元文部科学事務次官の前川喜平氏を推薦。賛同署名は4万6千人にも▼戦争中に戦意高揚の一翼を担ったことを批判され、戦後、新たに出発したNHK。1946年に新生NHKの会長となった、社会統計学者の高野岩三郎は、着任にあたって「権力に屈せず、大衆のために奉仕する」とあいさつしました。ここに立ち返るべきです。
きょうの潮流 2023年1月27日(金)
どれほど、つらかったか。怖く、悲しかったか。耐えがたい苦しみと絶望のなかで、人生の最期をむかえることになるとは…▼両手を縛られ、全身にあざがあり、激しい暴行をうけていたといいます。東京・狛江市で90歳の女性が殺されました。自宅で1人の時に複数の人物に押し込まれ、無理やり金品を奪われる。白昼に起きた凶悪な事件に衝撃が走りました▼同じような手口の強盗傷害が全国で相次いでいます。事件の背景にSNSの「闇バイト」で集められたグループの存在が浮かんできました。ひろがる不安や恐怖。一連の犯行と裏でうごめく集団の全容解明が急がれます▼昨今、人間不信をあおる悪行が続いています。みえてくるのは、自暴自棄ともいえる浅はかな行動と犯罪へのためらいのなさ。コロナ禍や戦争、失業や貧困といった社会情勢とともに、暗く落ち込みそうな世に漂う嫌気やすさみを感じます▼外国へと移り住む人も増えています。外務省によると、昨年の10月1日現在で日本人の海外永住者は過去最高の55万7千人となりました。よりよい生活や仕事を求めて海外へ。「閉塞(へいそく)感が解消されなければ永住者の増加傾向は今後も続くだろう」と分析する専門家もいます▼あきらめや人心の荒廃。先行きのみえない状況に政治が輪をかけ、それに国民の多数は失望しています。希望のみえる、血のかよった暮らしをどうつくっていくか。それを実現するのは、こんな社会や政治を変えたいと心から望む人びとの意思と行動です。
きょうの潮流 2023年1月26日(木)
かつて参院の議長を務めた河野謙三さんは「大衆の心眼」を自身のよりどころとしました。大衆の良識から離れた政治をやろうとすれば、政治家はみすてられ国を誤る恐れさえあるとの信念からでした▼70年代初めに共産党をふくむ野党から支持され議長に就任。少数意見の方をむいて運営にあたり、自民党籍を離脱して参院の改革に尽力しました。「三権の長」の重みとその難しさを回想記につづっています。(『議長一代』)▼院は変われど、いま国会の議長の資格や責任が問題になっています。統一協会との癒着を再三指摘されながら衆院議長にとどまる細田博之氏。自民党内でもとくに関係が深い安倍派の会長を長く務め、自身も関連団体の会合に何度も出席し、あいさつしたことを認めています▼これまで逃げ回ってきましたが、与野党代表との質疑に応じました。しかし非公開のこそくさにくわえ、説明責任も果たさず、反省も示さない。安倍元首相と統一協会は大昔から関係が深いなどと人ごとのように話しました▼公の場で語るのは「議長の立場でふさわしくない」と。それこそが言論の府である国会の代表で、公正であるべき議長への信頼を失墜させていることがわからないのか▼人びとをだまし不幸に突き落としてきた団体と、中央でも地方でも密接につながってきた自民党。その代表格が細田氏です。かばうことは国民の苦しみに背をむけ、国会をおとしめ、みずからを免罪することになります。「大衆の心眼」からかけ離れて。
きょうの潮流 2023年1月25日(水)
「スキマ植物」を知り、この1年は他者(生き物)を気遣いながら過ごすことができました。これからも「しんぶん赤旗」を楽しみに読むことにします▼今月からカラー企画になった、くらし家庭面の連載「街のスキマ植物」への感想です。コンクリートや植え込みの隙間、フェンス沿い、公園・空き地など生活の範囲内で見られる植物が登場。あえて競争しない戦略を取ったり、葉を下に向けて猛暑をしのいだり、風任せで種を飛ばしたりと、生き延びる姿はなんともたくましい▼筆者である瀬尾一樹さんの植物観察のきっかけは「ぼくの歩く道に知らない草がある」と勉強を始めたことでした。友達の顔が遠くからでもわかるのと一緒で「花が咲いていなくてもだんだんわかるようになってきた」と。文章にいとおしさがあふれています▼その魅力を広げたいと、公式インスタグラム「赤旗制作中」とのコラボ企画もアップされています。1月は「瀬尾一樹さんと歩く街のスキマ植物 代々木・冬」。ヒメスミレ、キカラスウリ、ヘビイチゴ、オリヅルランなど、38種類のミニ植物図鑑です▼なぜ街中に多様な植物が?「それは工事や植木の移植、鉢植えなどで、いろいろな所から土が持ち込まれているから」と瀬尾さん。道一本違うだけで全然違う植物がいることも。環境への影響も考えさせられます▼普段は気づかない場所に、そっと息づくスキマ植物。気持ちがざわざわする出来事の多い昨今、ちょっと足を止め視線を落としてみませんか。
きょうの潮流 2023年1月24日(火)
「これで生まれ故郷に帰れる」。時代の大きな転換点を戦地でむかえた若者は、そのとき、からだが燃えるように熱くなったといいます。後に唯一無二と称された俳優の三國連太郎さんです▼今年は生誕100年、没後10年です。「人間の根源を問いあげる役者」として、その圧倒的な存在感は今もなお人びとの記憶に刻まれています。中国の漢口で知った終戦は人生の転機、そしてスタートラインとなりました▼「あと1年、戦争が続いていたら、生きていなかったかもしれない」。多くの仲間や同級生を失った三國さんは「歴史をゆがめたものには出ない」ことを生涯の信念としました。無数の足跡を消し去った理不尽な権力への抵抗でした▼「われわれは、ふたたび歴史の分岐点に立っています」。ようやく開いた国会で岸田首相が演説しました。近代日本の転換点となった明治維新と、その77年後の大戦の終戦。そしてまた77年たった今、新たな方向に足を踏み出さなければならないと▼その道は大軍拡と他国を攻撃する国になろうとしている逆戻り。世界に先駆けた憲法のもとで歩んできた平和の道のりから逸脱し、またしても戦火を呼び込もうというのか。まさに歴史の分岐点です▼戦争というのは、人間が人間を殺すことが許される、狂気の世界と話していた三國さん。孫には銃をかつぐことのない人生を、と言い残していました。戦後の日本にあふれた平和を守る決意。それを示すことが今を生きるわれわれの責任でもあるはずです。
きょうの潮流 2023年1月23日(月)
議会で女性が過半数を占める南太平洋の島国ニュージーランド(NZ)。同国のアーダーン首相(42)が辞意を表明しました▼同国で史上最年少の首相となって以来、モスク銃撃のテロ事件や新型コロナなど国を揺るがす難局を乗り越えた5年半。支持率が低下し「余力が底をついた」と語りました▼数少ない女性指導者として注目されました。在任中の妊娠・出産は世界で2人目。仕事や育児の「マルチタスクをこなす女性は私が初めてではない」と自然体での語りが、国外でもファンを増やしました▼男性へは向けられない質問はたびたび話題に。昨年、フィンランドのマリン首相との会談後に「年齢が近く共通点が多いから会ったのか?」との質問が飛びました。アーダーン氏は、同世代のオバマ米元大統領とキーNZ元首相を引き合いに「同じ質問をしたことがあるのか?」と問い返しました▼労働党党首となり妊娠の予定を聞かれた際には「2017年の今、女性が職場でそのような質問をされることは許されない」とぴしゃり。英BBCは辞任について「女性はすべてを手に入れられるのか」との見出しで業績を振り返りました▼男性なら“家庭と仕事の両立”を問う見出しは立たなかったのでは? ツイッターなどで批判を受け問題の見出しは差し替わりました。メディアの根深いジェンダー偏見も浮き彫りにした同氏。今のペースでは指導者レベルでジェンダー平等が達成するのは140年後になる―。国連が警鐘を鳴らしています。
きょうの潮流 2023年1月22日(日)
もとは庭で火をたいて邪気を払ったことに始まります。竹を焼くと、パンパンと音をたててはぜる。それが、爆竹を鳴らして旧年を送り、新年を迎える習わしとなりました▼きょうから中国は旧正月の春節に入ります。爆竹で祝い、大勢が帰省してギョーザを食べる。行動規制のない春節は久しぶりでのべ21億人もの大移動が予想されています。極端なゼロコロナ政策を一気に緩めたことで感染拡大が懸念されています▼日本ではこの春から新型コロナが季節性インフルエンザと同じ位置づけに引き下げられます。政府が決め、岸田首相はそれに伴い医療費の公費負担の見直しを指示。高齢者を中心に死者が増えている状況のなかでの転換です▼昨年末、都内で救急車が横転する事故がありました。運転手は17時間にわたってほぼ休みなく活動、眠気に襲われたと明かしています。消防庁によると今月9日からの1週間で救急患者の搬送先がすぐに決まらない事案が全国で8161件あり、4週連続で過去最多を更新しています▼治療にもたどり着けず、危機にさらされている多くの命。政府のコロナ対策にかかわる専門家有志も感染力はインフルエンザよりもはるかに高いと指摘し、同様な対応が可能になるには「もうしばらく時間がかかる」としています▼国内で初めて感染が確認されてから3年。いまだ収束の見通しが立たないなか、政府は「ウィズコロナ」を言い募り、自己責任に解消しようとしています。命を守る対策に終わりはないのに。
きょうの潮流 2023年1月21日(土)
「あなたは、いじめられてはいけない人です。あなたは、大切な人だから」。愛知県で子どもたちの幸せを願って研究活動をしている「あいち県民教育研究所」(あいち民研)が昨年12月に出した「いま、いじめで苦しんでいるあなたへ」と題するメッセージの一節です▼同県では、1994年に男子中学生が凄惨(せいさん)ないじめを受けて自ら命を絶つという事件があり、県民に大きな衝撃を与えました。その後もいじめ事件が繰り返し起きています▼あいち民研のメッセージには、何としても子どもたちを救いたいという思いが込められています。今年は「いじめ防止対策推進法」ができてから10年。いじめをめぐる事件は、いまも各地で相次いでいます▼文部科学省の調査によると、2021年度に小中高校・特別支援学校が認知した「いじめ」の件数は約61万5千件にも上ります。学校側が気づいていないいじめは、もっとあるはずです▼いじめに苦しむ子どもやその親から、学校に訴えてもきちんと対処されないという声が出ることが少なくありません。子どもの安全と命を守ることを何より優先した対応が求められます。しかし教師の多忙化がそれを妨げている現状もあります▼あいち民研は、いじめ自死を起こさないための提言も発表しました。教育条件の整備や社会全体での取り組みを呼びかけ、子どもが大切にされる社会の実現を訴えています。いじめ問題の解決のためにも、目指すべきはすべての人間の尊厳が大切にされる世の中です。
きょうの潮流 2023年1月20日(金)
大河のように流れる小説を書きつづけた作家は自伝につづっていました。「さまざまな物語は縦の時間軸と横にのびる空間軸とをもって、読者をひきつけ、楽しませなくてはならない」▼小説は自由な世界である。その自由のさなかに、小説家は、独自の物語と文体と思想で作品を書き上げる―。それを実践した加賀乙彦さんはフィクションの世界に制限をつけました。現実世界を独特のリアリズムで描き出す、と▼『帰らざる夏』『永遠の都』『雲の都』。創作の原点となったのは、みずから体験した戦争でした。最初の記憶は二・二六事件のころ。12歳の時に太平洋戦争が勃発し、陸軍幼年学校で敗戦を迎えました▼戦後の医学生時代にはセツルメント運動(貧困者支援活動)に参加。貧困を目の当たりにして社会の矛盾に目を開かされていったといいます▼「ぼくらが少年時代に教わった政治と軍隊の世界は、人間を幸福にするものではなかった。人間は自由に生きていいけれど、人を傷つける、殺すことはやめろという思いで小説を書いてきた」。本紙日曜版に語った思いです▼作家として精神科医としての発言は今の政治にも向けられて。「日本は戦後、戦争を卒業したはずなのに、最近の政治をみていると、それが怪しくなっています。戦争の準備のために、税金を湯水のように使うのは容認できません」。軍事費よりも文化にお金を使う国こそが、本当に強い国だとも。時代と人間に正面から立ち向かった作家の“遺言”をかみしめたい。
きょうの潮流 2023年1月19日(木)
「ホタルは、きれいな細流(せせらぎ)でみかけるが昔は田んぼのあぜで見かけた。農薬、化学肥料のせいで田畑の生態系が破壊されたから」▼農民運動全国連合会(農民連)の長谷川敏郎会長が、学習会でアグロエコロジー(生態系を生かした持続可能な農業)を説明する際のまくら話です。今年の大会で“農民連のアグロエコロジー宣言案”を採択しました。「未来世代のために工業的農業で失ったものや、破壊されたものを再生して、日本農業のあり方を見直す道標(みちしるべ)」です▼温暖化・気候変動と、新自由主義政策によって生物多様性が破壊されるもと世界は、戦後最悪の食料危機に。丸1日以上食事がとれない飢餓人口は3億2300万人。食を輸入で外国に依存する日本。お金を出せば何でもいくらでも買える時代は終わりを告げています▼38%の食料自給率さえ「砂上の楼閣」だと長谷川会長。食料だけでなく種子・肥料・農薬・燃油のほとんどを輸入に頼り、価格高騰だけでなく、入手自体が困難になっています。「農業生産に必要なものが調達できなければ作物はつくれず、農業危機は食料危機と同居している」と警鐘を鳴らします▼アグロエコロジーは、慣行農業の否定でなく、豊かな生態系を残していける農業を仲間と探求する社会運動だと。カギとなるのは、新日本婦人の会との産直をはじめ消費者と手を結んだ食と農の再生、疲弊する地域を守る運動です▼国民の食料を外国に依存し続ける農政を大もとから変える国民的な大運動を、各地で。
きょうの潮流 2023年1月18日(水)
例年、正月休みには、12月中旬に発表された芥川賞候補作を読むのが楽しみです。新人作家たちが、どんなことに問題意識を持ち、現象の核心をどう捉え、読者に何を届けたいのか。第168回芥川賞の候補は5作▼圧倒的な切実さが迫ってくるのは、安堂ホセ「ジャクソンひとり」です。ブラックミックスでゲイの日本人男性が主人公。容姿で職務質問される国で卑劣な差別を受けながら、それらを無化しようとする人々の欺瞞(ぎまん)を暴き、軽やかに〈復讐(ふくしゅう)〉を実行していきます▼鈴木涼美「グレイスレス」は、アダルトビデオ業界で化粧師として働く〈私〉が、女優たちに寄り添いたいと願いつつも越えられない境界線を痛感し、罪悪感と無力感にさいなまれます。両者とも、これまで見えていなかった世界を突き付ける作品▼切なくも甘美な共感を覚えたのは、井戸川射子(いこ)「この世の喜びよ」。ショッピングセンターの喪服売り場の女性店員が、子育てしながら働き続けてきた日々を追想します▼グレゴリー・ケズナジャット「開墾地」は、多言語社会を実感する作品。母親が話す米南部の英語とイラン人の義父のペルシャ語、東京の大学に留学している主人公の日本語の3言語を通して人間の普遍性を探ります▼東日本大震災から10年後の宮城を舞台に、喪失の苦しみから立ち直ろうともがく男を描いた佐藤厚志「荒地の家族」は、悲劇の忘却への静かな警鐘です。どの作品からも現代社会の姿がひりひりと伝わってきます。賞の決定は明日19日。
きょうの潮流 2023年1月17日(火)
信じられない光景が記憶からよみがえってきます。目の前に続く横たわった高速道路。その爪痕は地震のすさまじさとともに、防災のあり方を問うていました▼阪神・淡路大震災から28年を前に、阪神高速道路の「震災資料保管庫」で当時の橋脚や大きくゆがんだ鋼材などが公開されています。被災の継承と防災意識の向上が目的とされ、学びに訪れた見学者のなかには突然日常が奪われる恐怖を感じたという人も▼経験していない市民が増え続ける被災地では風化させないためのとりくみはさまざまに。きょう17日に神戸市で開かれる追悼のつどいでは、毎年灯籠を並べて描かれる文字に「むすぶ」を公募から選びました▼「人と人、場所と場所、思いと思いを結ぶことによって伝えていこう」と主催者。だれもが被災者になりうるいま、大きな災害を経験した場所やそこで生きる人びとを「むすぶ」ことで、知恵や教訓を伝えていこうという思いが込められているそうです▼実際に体験や復興への道のりを交流する被災地同士の学び合いも続けられています。自然災害といってもそこには必ず「人災」の側面があること、被災者や草の根の力で行政の支援をかちとってきたことも、大事なつながりとして▼災害列島といわれ、激甚化していくこの国で防災は政治の中心課題です。いくら大軍拡に財源を注いでも、国民の命を守るどころか危険にさらすだけです。被災地が伝え、発信し続ける合言葉は―。被災者を置き去りにしない、人間の復興を。
きょうの潮流 2023年1月16日(月)
出生数は過去最少の水準になった―。昨年末のニュースは衝撃的でした。新型コロナの影響があるでしょう。教育や福祉など子育てに関する費用負担が重いことも、大きな要因です▼前年は無償だった娘の都立高校授業料を、今期は負担しなければなりませんでした。わずかでも世帯収入が所得制限額を上回ったからですが、月額9900円は大きい▼その娘が受診した場合の窓口支払いは現在、3割負担。都の助成で、1回200円で通院できるのは中学生までだからです。都は4月から高校生まで対象を広げます。サッカーに励む中2の息子はケガが絶えません。中学卒業後の医療費負担を思うと頭が痛かったので、ホッと一息▼中学校の給食はありません。自宅から弁当持参か学校で予約した弁当です。体づくりのことも考えながらの毎朝の弁当づくりは手が抜けません。現在、全員が同じ給食を食べることのできない自治体は、都内で三つだけです。一方で、全国では学校給食の無償化をすすめる自治体が広がっており、大きな話題に▼どこに住むかで行政からの支援に格差が生じるのは、子どもの医療費助成でも。東京23区は4月から所得制限なしで高校生まで窓口負担をゼロに。うらやましいかぎりです▼ジブリ映画「となりのトトロ」の舞台となった八国山緑地をはじめ武蔵野のおもかげを多く残すわが街。豊かな自然だけでなく、経済的な心配をせずに子育てできるように―。統一地方選では、この願いを託せる人に、の声を広げたい。
きょうの潮流 2023年1月15日(日)
あの再現映像を見るたびに血湧き肉躍るファンは多い。いまや伝説となったバース、掛布、岡田のバックスクリーン3連発。時は1985年4月、場所はホームの甲子園球場、相手はライバル巨人でした▼勢いそのまま、阪神タイガースは21年ぶりのリーグ優勝、初の日本一を成し遂げました。そのとき、猛虎打線の中心となったのがランディ・バースさんでした。この年から2年連続で三冠王、86年の打率3割8分9厘はイチローも破れなかったプロ野球記録として今も輝いています▼日本球界を去ってから35年たった今年、ようやく殿堂入りを果たしました。とても名誉で、阪神でプレーできたことはすばらしい経験だったと喜びます▼もう1人殿堂入りしたのが、外国人選手として初めて通算2000安打を達成したアレックス・ラミレスさんです。ヤクルトや巨人、DeNAで計13年間プレー。明るい性格で親しまれ、監督も務めました▼まじめに野球にとりくむ日本選手の姿勢が好きで「ほんとうに学ばされた」。本紙のインタビューにそう答えていました。ふたりに共通するのは日本の野球や選手へのリスペクト。「助っ人」と呼ばれることを嫌い、チームに溶け込もうと努めました▼米大リーグから移り、日本で活躍した選手の殿堂入りは両者が初めて。そこには偏見や差別の壁も見え隠れします。プロ野球に欠かせない外国人選手たち。互いに敬意をもち多様性を認めあう球界へ。今回の殿堂入りが、その一歩となることを望みたい。
きょうの潮流 2023年1月14日(土)
だんだん隣りで友だちが亡くなっても、何とも思わなくなったと話す少年少女。母が死んだとき明日からご飯をどうすればいいかと、悲しみより空腹のことを考えていたという12歳▼78年前、人間が人間でなくなる戦場を味わってきた子どもたち。学徒隊や少年兵として鉄の暴風に放り込まれ、「お国のために」たくさんの若い命が犠牲になりました。その実態や孤児となった苦難の歩みは、いまだ不明とされています(『沖縄戦の子どもたち』)▼戦前の沖縄にあった21の旧制師範学校、中等学校すべてから生徒が戦争に駆り出されました。その元学徒らが5年前に結成した「元全学徒の会」がたまらずに訴えています。「再び戦争が迫りくる恐怖と強い危機感を覚え、むごい沖縄戦を思い出す」▼中国の脅威を盾にした南西諸島のミサイル配備や自衛隊の増強、沖縄をさらに軍事要塞(ようさい)化する動きに、みずから戦争を引き起こそうとしている状況が戦前と重なると断固反対の声明を▼二度と戦場にさせない、何よりも命を大切にする、それが沖縄のこころだとデニー県知事も改めて。日米がそろって突き進む敵基地攻撃についても、これ以上の基地負担が生じることはあってはならないと批判しました▼実際の戦争の悲惨、残虐さを体験してきた人たちの満身のさけびを沖縄の地元紙が伝えています。「美しい大義名分を掲げても、戦争には悪しかない。戦争は始まってしまったら手がつけられず、人の命が奪われる」。戦争はしてはならない、と。
きょうの潮流 2023年1月13日(金)
「まったく迷いはありません。ゼロ%です」。たつみコータロー(辰巳孝太郎)日本共産党元参院議員はきっぱり。記者会見場にどっと笑いが起きました▼たつみさんは、「明るい民主大阪府政をつくる会」から要請を受け4月9日投開票の大阪府知事選に無所属候補として出馬を表明。「迷いはありませんでしたか」との記者の質問に「正面から維新政治が問える。大阪を変えられる。ほんとにありがたい話です」▼国会議員として6年。安倍暴走政治と対決、なかでも国有地を格安で売却した「森友学園事件」での追及は有名です。最悪の自公補完勢力である維新政治に対しても大阪の教育問題、公立病院統廃合問題などを国会で追及してきました▼たつみさんの原点は8千件を超える生活相談です。格差と貧困の解消は待ったなしの思いは誰よりも強い政治家です。だからこそ、ギャンブル依存症を生み、人の不幸で成り立つカジノ誘致に熱中する維新政治は許せません▼大阪のコロナ感染死者数は人口比で東京の1・6倍と全国最悪です。国言いなりに急性期病床削減を進めるなど医療関係者からも「救える命が救えない」との告発が相次ぎました▼「カジノではなく、命と暮らし最優先の府政に」との願いはいま党派の違いを超えて広がっています。たつみさんの出馬表明に、大阪だけでなく全国から「心が震えた」「全力応援」「わくわくする」の声が相次いで寄せられています。「維新政治を一刻も早く終わらせたい」との思いをこめて。
きょうの潮流 2023年1月12日(木)
助ける準備、できていますか? そう呼びかけるポスターが都営地下鉄の駅や車内に掲示されています。14日からの大学共通テストを前に受験生の痴漢被害を防ぐキャンペーンの一環です▼東京都立大の学生たちの意見を取り入れて作成しました。スマホを使った方法や声かけなど、痴漢を目撃したときの対応をイラスト入りで紹介。被害者に自衛を求めるのではなく、防止のために周りの協力を促しています▼対処の仕方を知っておけば、いざというとき勇気を出して被害者を助けることができる。こうした意識を持った人が増えることで、痴漢行為を許さない社会づくりにもつながる。学生たちからはそんな意見が出たといいます▼卑劣な犯罪のうえに、大事な試験を前にした受験生には通報されないだろうと見込んだ、極まる悪質さ。しかもSNSなどではこの時期に痴漢をあおる投稿が増えるというのですから、怒りを通り越して空恐ろしさも▼対策には政治も動いています。共産党都議団は受験シーズンの防止強化と被害者の救済にとりくむことを都や警視庁に申し入れました。全国各地の党議員や市民団体も奔走し、対策を前進させています▼痴漢がなくならない背景には、この犯罪をいまだに軽くみる風潮が社会にあると専門家は指摘します。被害者に落ち度を求める向きさえも。日常の公共交通機関で起きている、深刻な性暴力、重大な人権侵害。私たちの社会がこんな異様にあることを認識し、肝に銘じなければ。絶対に許さない。
きょうの潮流 2023年1月11日(水)
多くの国民の理解を得て、評価していただいている―。岸田政権がまい進する軍拡と増税について、自民党の麻生太郎副総裁が胸を張って語りました▼直近の世論調査では「防衛費の増額」に賛成という人よりも反対が多く、「防衛費増額のための増税」には7割超が反対。国民の声に耳を傾けず、国会も選挙もすっ飛ばし、自分たちに都合のいい解釈で大事を決めていく。この間のゆがんだ政治の姿が現れています▼「いま、中国を念頭において軍事力を強化するみたいなことを政治家が平気で言っているけど、はっきり言ってそんなことはおかしい」。福田康夫元首相が『世界』2月号で、中国と敵対することの愚かさを強調しています▼習近平体制との向きあい方を説いたうえで、武力を持つのは他国とけんかをするため、けんかをする前にどうしたら仲良くできるのか考えてみたらいい。外交というのは仲良くすると同時に危機を防ぐという役割も持っていると▼戦後日本の国のかたちを変えるほどの安保政策の大転換に、自民党の重鎮からも批判が相次いでいます。元総裁の河野洋平氏は「七十数年前に日本は決心したじゃないか。尊い命を犠牲にしてわれわれは繁栄を得ている。決してあの過ちはくり返しませんと何十年も言い続けて、その結果がこの政策転換というのはあり得ない」▼歴史に刻まれた戦争の生々しい悲惨を知る世代が抱く危惧の念。たたかわないために、なにをすべきか。それを追い求めていくことが政治の役割です。
きょうの潮流 2023年1月10日(火)
丸2日も電車を止める大がかりでした。山手線渋谷駅のホーム工事。周辺再開発の一環で駅はまた新たな表情に変わりました▼渋谷駅は山手線の前身である品川線の駅として1885年に設けられました。開業当時は利用者が少なく、1日平均で十数人。まだあたりは田畑に囲まれ、いまの人混みからは考えられないほど閑散としていました▼やがて宅地が増えはじめ、大正期には半円の大きな窓と時計塔が特徴の駅舎が誕生。現在のハチ公前広場付近につくられたといいます。いまや多くの若者が待ち合わせ集う場所に。その移り変わりをみてきたのがハチ公の銅像でした▼渋谷のシンボルとなった秋田犬が生まれてから今年で100年。育った渋谷区と、生まれ故郷の秋田・大館市の両自治体が記念事業を進めるなど、いまも時代をこえて語り継がれ、人びとや地域に愛されています▼飼い主の上野英三郎農学博士が亡くなった後も、駅で帰りを待ち続けた姿。戦前の修身教科書には恩を忘れるなとして愛国心をあおるために利用されました。日本犬の研究家でハチ公の存在を世に知らしめた故・斎藤弘吉さんは「ただ自分をかわいがってくれた主人へのまじりけのない愛情だけだった」と話しています(『忠犬ハチ公物語』)▼地元の有志らが1934年に建てた銅像も、戦時中の金属供出で壊された過去があります。駅の変遷とともに日本の歴史を映してきた犬の像。それを詠んだ句があります。〈ハチ公を持つた町史の素晴らしさ 三太郎〉
きょうの潮流 2023年1月9日(月)
「子どもを愛している。それでも、母でない人生を想う」。社会に背負わされた重荷に苦しむ女性たちの声をイスラエルの社会学者がまとめた『母親になって後悔してる』。日本でも昨年発売され共感をひろげました▼3人に1人が「母親にならなければよかった」と思ったことがある―。この本を番組でとりあげたNHKのアンケート調査からは、後悔と子どもへの愛情という複雑な感情が浮かび上がりました▼良い母親になれない、子どもを育てる責任が重い、育児や家事の負担が大きい、母親らしさや母性が求められる…。口に出せなかった思いから見えてくるのは男性中心の社会や弱肉強食の経済、自己責任の政治が押しつける秩序です▼自分の時間の所有者になることを許されず、自分の人生を生きられていないと感じる多くの母親。加速する少子化には親になることを後悔させる社会のありようがあります▼待ったなしの課題として岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」。子育て支援の強化や働き方改革をあげましたが、異次元の言葉とはほど遠い。基礎からつくりかえるような変革が求められているのに。そのうえ財源に消費税の増税が出てくるひどさです▼今年の新成人を以前と比べるために20歳でみると、推計をとりはじめてから最も少なくなりました。今後も社会を支える人は減るばかりです。なにかの犠牲になるのではなく、ひとりの人間として、みずからの人生を自由に生きられる。そんな世の中を次の世代に渡したい。
きょうの潮流 2023年1月8日(日)
いよいよこの国は、正真正銘のアメリカの属国としての道を歩もうとしている―▼昨年末、敵基地攻撃能力の保有を明記した安保3文書と、10兆円規模の軍事費を盛り込んだ予算案を閣議決定した岸田首相。「自分の国は自分で守る」ためと説明しますが、果たしてどうか▼そもそもは2020年、当時のエスパー米国防長官が日本などに「GDP(国内総生産)比2%」の軍事費を要求したことが発端です。21年4月、菅義偉首相がバイデン大統領に「自らの防衛力強化」を公約。続いて岸田首相は昨年、GDP比2%を念頭に、軍事費の「相当な増額」を公約しました▼首相は物価高騰で苦しむ国民生活に目もくれず、「GDP比2%」の軍事費のために東日本大震災の復興税やコロナ対策積立金、さらに建設国債まで流用するなど、ありとあらゆる財源をかき集めました。そのお金で買うのは、アメリカ製の長距離巡航ミサイル・トマホークです▼首相は敵基地攻撃能力の保有、大軍拡予算という“成果”を報告するため、13日にバイデン氏と会談。これに先駆け11日、外務・防衛両大臣も訪米し、日米同盟の「抑止力・対処力」強化を協議します▼「自分の国は自分で守る」のではなく、「米国に守ってもらう」ためとして国家財政の相当部分を捧(ささ)げる。歴史上類を見ない“朝貢外交”です。しかし、米国が日本を守るどころか、逆に米国の戦争に巻き込まれ、日本の国土が戦場になるリスクを高めるだけです。亡国の道は止めるしかありません。
きょうの潮流 2023年1月7日(土)
年賀状に描かれた愛らしいウサギたち。とりどりのデザインに「飛躍」や「ジャンプ」の文字がおどります。干支(えと)に込めたメッセージに、懐かしい顔が浮かんできます▼十二支だけが話題になりがちですが、ほんらい干支は甲乙丙などの十干(じっかん)と組み合わせたもの。60通りでひと巡りすることから還暦の祝いとなります。今年は十干の最後にあたる癸(みずのと)と、十二支4番目の卯(う)が合わさった癸卯です▼癸は大地を潤す雨露や霧に例えられ、発芽を準備し待つ状態。卯は草木が地上にもえだし、地面をおおうことを表すといいます。厳しい冬が去って春の兆しが訪れるように▼年頭の記者会見でそれをもちだしたのが、岸田首相です。「去年までのさまざまなことに区切りがつき、次の繁栄や成長につながっていくという意味がある」として、新たな挑戦の1年にしたいと。昨年末までのわずか2カ月余で4人の閣僚が辞任に追い込まれた前代未聞の失態もなきことにして▼統一協会との根深い関係や政治とカネの問題、国政私物化のオンパレード…。何一つ、けりはついていません。そのうえ憲法破り、生活破壊の戦争国家づくりにまい進するとは。喜んでいるのは片棒を担いでもらう米国だけです▼話を戻せば、古来ウサギは神の使者とされ、予言する能力を持っていたとの言い伝えもあります。どんな年を描くのか。それをデザインするのは、明るい未来を展望し、歴史を切り開く、たしかな力です。癸卯は「きぼう」とも読みます。
きょうの潮流 2023年1月6日(金)
早川篤雄(とくお)さんは、福島県楢葉(ならは)町にある宝鏡寺の第30代住職でした。室町時代に開山した寺は、600年を超える歴史があります▼「春は山桜が美しく、秋は紅葉。ここに来れば、清々(すがすが)しいなと思えるように」。黒い作務衣(さむえ)姿で、境内の整備に丹精込める思いを語っていました。一角に2021年に建立した「原発悔恨・伝言の碑」、隣には「広島・長崎の火」を受け継いだ「非核の火」が▼東京電力福島第1原発事故に至る歴史などを伝える資料館「伝言館」も開設。碑には「電力企業と国家の傲岸(ごうがん)に/立ち向かって40年力及ばず」と無念の気持ちが。「起こるべくして起こった事故だ」と怒りを込めて話しました▼楢葉町での福島第2原発建設の動きに際し、1972年に住民運動の結成に参加。その後も代表を務める市民団体は、福島原発の耐震や津波に対する対策を求め東電に繰り返し申し入れるなど、事故前の40年近い間、原発の危険性を問い続けました▼その事故で着の身着のまま強制避難。東電に損害賠償を求めた避難者訴訟に加わり原告団長に。2020年3月の仙台高裁判決は、市民団体の申し入れがあったにもかかわらず東電が対策を先送りしたため事故に至ったと指摘、東電の対応を「誠に痛恨の極み」と断じました。裁判所前で「正義が通った」と涙を流した早川さん▼「不条理に対し行動する。それがたたかいだし、生きることじゃないの」との固い意志を貫いてきた83年。「核廃絶、原発ゼロ実現にできることを」と語り続けました。
きょうの潮流 2023年1月5日(木)
冒頭の文句「たたかひは創造の父、文化の母である」で知られた陸軍省発行のパンフレット「国防の本義と其強化の提唱」。「たたかひ」とは、当時「事変」とごまかしていた戦争のことです▼陸軍省は、満州事変が始まった1931年から日中戦争開始の37年まで、124種のパンフレットを発行し、広報活動を展開。事変開始年に発行した中には、“先制攻撃”論がありました▼満鉄線の爆破をデッチ上げ、中国東北部へ一気に侵略・支配を進めた日本軍。兵力優勢の敵に対する場合には、「敵に先んじて機を制し、これを圧倒する事が秘訣(ひけつ)」とし、「いたずらに自滅を待つに等しき運命に陥る」わけにいかないと正当化しました▼34年以降は、軍備や国防が重点になります。国防経費は、国民生活に脅威を与えず捻出できる経済組織を設けるとした構想は早々に立ち消えになり、国防に必要な経費は「国民臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」してでも捻出する決意が絶対に必要、と説きました▼意図的に中国の「暴挙」「列強の重圧」などと危機感をつくり出しては軍事費を毎年増額。37年度には財政全体に占める直接軍事費の割合が7割に、事変前の2・4倍になりました▼パンフレットを詳しく分析した歴史家・江口圭一氏は「日中戦争からアジア太平洋戦争にいたる時期に打ちだされた対外膨張正当化の論拠・論理のほとんど全てがすでに姿を現わしていた」と総括しました。日本を破滅に導いた同じ論理が、岸田内閣の大軍拡構想のなかに見え隠れしています。
きょうの潮流 2023年1月4日(水)
『文芸春秋』1月号の「続100年後まで読み継ぎたい100冊」に、意外な本が紹介されていました。イジー・ヴォルケル著『製本屋と詩人』(共和国)。1924年に結核のため24歳で亡くなったチェコの革命詩人の、日本初の作品集です▼翻訳した大沼有子さんは作家・松田解子さんの孫です。父は「赤旗」モスクワ特派員も務めた大沼作人さん。60年前、有子さんは父の仕事の都合でプラハで過ごしました▼その後、小学校の教師になった有子さん。30年前、子ども時代を過ごしたプラハが無性に懐かしくなりました。その時、父から渡されたのがヴォルケルの童話集でした。読んで、すっかりほれ込んだといいます▼表題作「製本屋と詩人」は、裕福な詩人が自分の詩集を、病気の妻を抱えた貧しい製本屋に製本させます。すると、喜びの詩は、貧しいものの「悲しみと苦しみが浸(し)み込んで」、まったく別の詩になってしまいました。落胆した詩人は詩作をやめ、詩を台無しにしたとして逮捕された製本屋は、獄中で貧しい人のための詩を書き出します。芸術と人生についての詩情豊かな寓話(ぐうわ)です▼ヴォルケルは裕福な一族の出身でした。ロシア革命の影響と貧富の格差への義憤からチェコスロバキア共産党に入党し、プロレタリア文学運動に身を投じました。彼の詩と童話は、チェコでいまも高校で教えられ、新しい絵本が出版されています▼100年の時を超え、国境を超えて届いた革命詩人の心。同じ志の人の縁がつないだ贈り物です。
きょうの潮流 2023年1月3日(火)
辞書に1羽、2羽と数えるのは鳥やウサギとあります。ウサギについては、鳥をとるように網をかけて捕るからとか、鳥のような味がするからなど、諸説あるようです▼真偽のほどは確かではありませんが、動物生態学者はかつてこんな説を紹介しています。「四足獣を食うことが禁じられていた徳川時代に、イノシシをヤマクジラといって食ったように、ウサギは“ウ”と“サギ”で、鳥の仲間だといいくるめたのだともいわれている」(宮地伝三郎)▼ところで日本列島に古くからすんでいるのはノウサギ。草原で単独生活する習性があります。小学校などで飼っているカイウサギとは違います。歴史をさかのぼれば、縄文時代の貝塚からノウサギの骨が出土するといいます▼縄文時代の大規模集落で有名な青森市の三内丸山遺跡にはその骨が腐らずに見つかっています。当時はどうやって捕っていたのか。秋田県などの豪雪地帯にワラダ猟という方法があるそうです▼それはこうです。ノウサギを見つけると、ワラダと呼ばれる藁(わら)などを輪っか状にした道具を投げる。するとノウサギはワシやタカと勘違いして雪に潜り込み、猟師がその穴に手を突っ込み掘り出すと。そのワラダに似た遺物が秋田県の遺跡から縄文時代の樹皮製品として発掘されています(『十二支になった動物たちの考古学』)▼縄文人もそうやって追いかけていたのでしょうか。唱歌「故郷」は「兎(うさぎ)追いしかの山」で始まります。自然の中で暮らす人々に思いが広がりました。
きょうの潮流 2023年1月1日(日)
酪農家の朝は早い。満天の星がきらめく夜明け前から牛床を整えて搾乳。一連の作業を終え、ひと息つくころに朝日が大地を照らしていきます▼北海道せたな町。渡島(おしま)半島の付け根にあり、日本海に面した漁業と農業のまちに新風が吹いています。「日本共産党」「住民こそ主人公」の看板をのせて走り回る車。今春の町議選で空白克服に挑む藤谷容子さんです。亡き夫と二人三脚で築いてきた牧場は息子に託し、今後の人生を考えました▼まわりの期待や応援の声にも押され、立候補を決意。さびれゆく町、住民の願いにこたえられない議会を変えたいと。実直で、くじけず活動する藤谷さんが選んだ新たな開拓の道。「生きていて良かった」と喜び支えてくれる年配の党員たちとともに、誰もが自分らしく安心してくらせる町をめざし支持を広げています▼若者が希望をもって生きられる名古屋へ。市議選の候補者として名東区で党の旗を掲げる鈴木絢子(あやこ)さんです。昨年の1月に入党。学費や奨学金、ジェンダー平等、気候危機、人権の問題。若い世代の要求を政治にとどけたいと、議席を引き継ぐ大役にのぞむ25歳です▼不屈のたたかいで歴史を切り開いてきた党の一員になれたこと。無力だと思っていた自分が社会を変えるために立ち上がれる喜び。それを心に刻み重圧と緊張の日々を駆けています▼統一地方選挙の今年。全国で政治の転換を求め、先頭にたつ挑戦者。平和やくらしがおびやかされるいま、新しい日本の夜明けを胸に抱いて。
きょうの潮流 2022年12月31日(土)
カウントダウンがはじまり、祝賀の花火が打ち上げられる。家族や友人らとシャンパンを飲み、食卓を囲む。そんなにぎやかな年越しの姿が当たり前のようにあったのに▼いま暗闇のなかで凍えるウクライナ。つづくロシア軍の攻撃によってたびたび停電が起き、家族もちりぢりに。暖房も水道もままならず、真冬の厳しい寒さがいっそう重くのしかかっています▼何百万人もの国民が異国で越年。難民を受け入れた国のなかには爆撃を逃れてきた人たちがおびえないよう、クリスマスや新年の花火の中止を呼びかけたところもあります▼ロシアの侵略はこの1年、世界を震わせてきました。エネルギーや資源、食料の高騰は経済に大きな影響を与え、対立の激化は各国の軍備や安全保障政策の転機にも。日本の岸田政権も大軍拡にふみだしました。力による抑止を口実に、いのちやくらしを犠牲にして▼「(来年は)新しい戦前になるんじゃないですかね」。今年最後の「徹子の部屋」に出演したタモリさんの言葉が話題になっています。ツイッターでも「新しい戦前」がトレンド入り。終戦の1週間後に生まれた人のひと言に「重い言葉」「時代の潮目が見えるのか」と反響が広がりました▼人類が決して後戻りしてはいけない道。ウクライナの現実は戦争がもたらす悲惨を改めて突きつけました。武力ではなく、対話と協調によって問題を解決する方向へ。それを求める市民の声は世界で響き合っています。「新しい平和」のかたちをめざして。
きょうの潮流 2022年12月30日(金)
冬の青空を突き刺すように凜(りん)と伸びる樹形。百を超えるイチョウの木々が整然と並ぶ美しさに思わず見とれます。いま、都心の自然豊かな憩いの場が危機に瀕(ひん)しています▼26日、東京都は神宮外苑再開発の環境アセス審議会を開きました。委員から批判が相次いだための異例の追加審議。年の瀬に突如開催を発表し、傍聴受け付けも3日間だけで会議を知らない記者もいたほど。都の姿勢がうかがえます▼事業者の説明もお粗末。反対の論陣を張る日本イコモスの石川幹子中央大教授は「何も答えていない。全滅です」。委員からも再度、厳しい意見が出たものの会議は淡々と終了しました▼再開発に住民の声は反映されていません。そもそも計画が知らされたときには約1千本の樹木がなくなる一方、190メートル級の超高層ビル2棟を新設し、神宮球場、ラグビー場を建て替える、巨大計画が既定路線のように進んでいました▼東京五輪での国立競技場建て替えと連動して進んできた開発には、森喜朗元首相の影がちらつきます。都議会で共産党が公開させた都の「取扱注意」文書(2012年)。そこには、都の幹部が五輪を招致できなくても再開発は進めるとし、森氏が「素晴らしいよ」と喜びつつ応じるやりとりがあります。国立競技場のためと見えた高さ制限の大幅緩和も再開発のためだったのか▼反対の声は広がり、国会でも超党派議連が結成され「再開発見直し」を求めています。無理が通れば道理引っ込む。そんな開発を許す訳にはいきません。
きょうの潮流 2022年12月29日(木)
「敵基地攻撃というが実際にやるのは難しい…」。元自衛隊幹部は厳しい表情をみせました▼岸田政権が推進する敵基地攻撃能力の保有に話が及んだときでした。日本には攻撃目標をつかむ能力が足りず、米軍に頼るしかない。だが、「米軍は必ず情報をくれるわけではない。くれるのは、米国が自分の国益にかなうと考えたときだけだ」▼彼が語る「困難」は、それだけではありません。「敵基地攻撃で日本への攻撃を抑止するというが、かえってエスカレートすることだってある」。敵基地攻撃は逆に日本へ危険をもたらすことになりかねない。軍事を現場で知る立場から投げかける根本的な疑問です▼敵基地攻撃をめぐる議論でとりざたされるのは「台湾有事」です。しかし、関係する中国、台湾、米国のいずれも戦争を望んでいるわけではありません。日本国民もそうです。世論調査では「台湾有事」の際、「自衛隊が米軍とともに戦う」ことに「反対」は74・2%に達します(新聞通信調査会、11月12日発表)▼とくに心配なのは、日本が攻撃されていなくても米軍が始めた戦争で集団的自衛権行使として敵基地攻撃に踏み出すこと。日本弁護士連合会は首相に提出した意見書で「壊滅的な打撃を受けるのは、米国でも、あるいは相手国として想定される軍事大国でもなく、最前線に位置する日本」だと警告します▼国民のなかで不安や批判が広がっています。こんな危険な大軍拡は許さない。新しい年をこの一点で共同を広げる年にしたい。
きょうの潮流 2022年12月28日(水)
日本で最初に開園して140年の東京・上野動物園。すっかり冬景色の園内は、寒さに負けない子どもたちの笑顔でいっぱいでした▼市民に親しまれるそんな動物園が好きで各地の園を訪ねるうちに、ある思いを抱くようになりました。喜ぶ子どもの向こう側にいる動物たちは、果たして幸せなのだろうか▼動物の肉体的・精神的幸福をめざす「動物の福祉」や、生きる権利を尊重し、人間による利用を否定する「動物の権利」―。こんな考え方が欧米を中心に広がったのは1970年代でした。近年、フランスでは人間のためのイルカショーを禁止する法案が可決され、イギリスでは動物園でのゾウの飼育がふさわしいのか議論を呼んでいます▼日本でも、札幌市で動物の福祉や保全の取り組みを支援する「認定動物園制度」がつくられたり、各地で保全活動の促進や飼育・展示の改善への努力が始まっています。しかし、多くの動物園では、資金難による飼育環境や労働条件の悪化に直面しているのが実態です▼今日、動物園に期待される役割は、教育、研究、野生復帰・繁殖、余暇と多岐に。とりわけ「動物と触れ合い、学び、保全を広げるのは動物園の役割」と専門家はその意義を強調します▼先日、カナダで開かれた国連の生物多様性条約締約国会議(COP15)は、多様性の回復へ保全区域を拡大する新たな目標を採択しました。子どもたちに親しまれる動物園は、保全への入り口でもあります。141年目を迎える動物園の役割は大きい。
きょうの潮流 2022年12月27日(火)
1年前、父親が入院しました。2泊3日の予定でしたが発熱して延長。もともと病気のため歩行や食事が困難なこともあり、想定外の長期入院となりました▼入院中は常に「家に帰りたい」と強く望んでいました。病院がその思いを尊重し、丁寧にリハビリなどをしてくれた結果、先月無事に退院することができました▼退院前には理学療法士やケアマネジャーなど5人が自宅を訪問。家の中の動線を確認し、必要な介護サービスなどを相談しました。在宅生活を支えるプロの仕事ぶりは、とても心強いものでした▼介護が必要になっても自宅で暮らしたい。そんな願いの実現に不可欠なのが介護保険です。介護を家族まかせにせず社会全体で支えるために始まりましたが、政府は負担を増やしサービスを削る改悪を重ねてきました。今も利用料2割負担の対象者を広げるなどの改悪を狙っています▼ある1人暮らしの男性(80)は右半身にまひがあり、週4回の訪問介護が命の支えです。生活は苦しく、「2割負担になったら回数を減らすしかない。どうやって生きていけばいいのか…」と不安を抱えます。何のための介護保険なのか、怒りがわきます▼利用者や家族、関係者らが改悪に抗議して、早くから署名運動などを行ってきました。反対の声が広がる中、政府の担当部会は年内に意見をまとめられず結論を先送りに。私たちの命と安全を守るには、軍事費の増額ではなく社会保障の拡充こそ。新しい年は、ぜひそんな政治にしたいものです。
きょうの潮流 2022年12月26日(月)
コロナ禍で3度目となる年末年始。感染拡大のなか、大勢の移動が予想されています。このままでは医療がひっ迫しかねないと、全国知事会はワクチンの促進や自宅療養者への支援強化を国に求めました▼インフルエンザとの同時流行もいわれ、気が抜けない日々が続きます。免疫学者の小野昌弘さんは『パンデミックの「終わり」と、これからの世界』で、感染爆発を終わらせるために重要な課題を三つあげています▼経済・社会的な不平等の解決。英国の調べでは死亡率の高かった人の多くが貧困地域に住んでいました。格差や不平等に起因する問題を放置してきたツケが多数の犠牲者となって現れているといいます▼持続可能で対応力のある医療体制の構築。重症患者の急増は医療の提供や従事者に深い爪痕を残しました。日本をはじめ、先進国の多くが医療費を削り余裕のない医療体制にしてきた結果でもあると専門家は指摘します▼免疫の働きが弱い「コロナ弱者」も安心してくらせる社会へ。免疫不全の疾患をもつ人は、社会が正常化しても感染症に用心しなければなりません。いまは健康な人も、いつ「ガラス」の向こう側に行くか、わからない。コロナ弱者が安心してくらせる社会は、健康な人たちにとってもそうだと▼コレラ大流行に直面したマルクス、エンゲルスが未来社会の展望を開いたように、人類の先駆者たちはパンデミックと格闘しながら、よりよい社会をつくるために力を尽くしました。その先にある希望をめざして。
きょうの潮流 2022年12月25日(日)
ニューヨークの小学校時代に感じた人種差別。学生時代の挫折や友情。銀行員のときに味わった社会の矛盾。そして、父親の選挙にかかわって目の当たりにした政治の現実▼政治家をめざしたいと思った岸田首相の経験です。世の中には理不尽なこと、おかしなことがたくさんある。変えなければならない、守っていかなければならないことも。国や社会にかかわるこうした事柄に自分は直接かかわりたいと(『岸田ビジョン』)▼このところ、なにか吹っ切ったように政治の方向を次々と転換していく首相。支持率低落や批判の声もお構いなしに大軍拡や原発推進へかじを切り、突き進む。その常軌を逸した姿をみて改めて著書を繰ってみました▼あきれたのは、いま実行していること、これから現実にしようとしている日本の行く末と、描いたビジョンがあまりにもかけ離れていることです。うわべだけの「信念」さえも投げ捨てみずからぶち壊そうとしています▼もっとも、政権が誕生したときから“安倍政治”のレールの上に乗っていたのですから、いまのむちゃくちゃな政治も彼にとっては既定の路線だったか。延命をはかるうえでも▼自民、公明が政権に復帰してからあすで10年。経済は冷え込み、平和が脅かされ、人びとの生活は苦しくなるばかり。それに深くかかわってきた首相が最近よく口にするフレーズがあります。「いまを生きるわれわれの責任」。その言葉を言うなら、自公政権を転換することこそ将来世代への責任でしょう。
きょうの潮流 2022年12月24日(土)
♪真っ赤なお鼻の/トナカイさんは―。街に響くクリスマスの歌。米国の音楽家が童話をもとにつくった「赤鼻のトナカイ」もその一つです▼原詞はトナカイの「ルドルフ」がサンタクロースから「君の明るい鼻でそりを案内してくれないか」と頼まれるという内容。実際に毛細血管が密集するトナカイの鼻は、いつも温かい血がめぐり極地での生活に欠かせない役割を果たしています▼北極圏周辺に生息するトナカイ。とくに野生のそれが数多くみられるアラスカではカリブーと呼ばれ、季節によって何万頭もの群れが長い距離を大移動します。その壮観さに魅了され、撮り続けたのが故・星野道夫さんでした▼山をこえて川を渡り、オオカミやクマ、蚊の大群に襲われながら行進するカリブー。ツンドラのかなたから現れ、ツンドラのかなたに去っていく姿を、大いなる自然とともに生きた写真家は極北の放浪者と名づけていました▼今年は星野さんの生誕70年。改めて足跡をたどった写真展が東京都写真美術館で開かれています。すべての生命の営みを慈しむようなまなざし。太古からの風景をきりとった作品は、死後26年たっても心に問いかけてきます。人間はどこへ向かおうとしているのか▼すさまじい勢いと速さで、あらゆるものが伝説と化していく現代。生物多様性の危機が叫ばれ、人類の基盤も崩れかけています。われわれをとりまく自然や命。星野さんが世に伝えたように、それこそが、かけがえのない天からの贈り物のはずです。
きょうの潮流 2022年12月23日(金)
会場に張り出された旗には「生徒も教師も生き生き元気 笑顔あふれる学校に」の言葉が―。東京都町田市にある私立鶴川高校の教職員組合が、同校を運営する学園側と和解したことを知らせる報告集会は喜びであふれていました▼同校では長年にわたって組合への激しい差別攻撃が繰り返されてきました。賃金差別、学級担任や部活の顧問からの排除、組合員だけ狭い第2職員室に「隔離」。「マナー指導当番」と称して、雨の日も厳しい寒さの日も、意味もなく学外に長時間立たされたこともあります▼教員への攻撃は生徒たちの教育を受ける権利の侵害ともつながっていました。組合員が顧問を外された部活は廃部に。授業以外で教員が生徒と接触することが禁じられ、放課後の補習もできなくなりました▼「生徒の笑顔を取り戻そう」。それが組合員の合言葉でした。学園側の不当な行為があるたび、組合は労働委員会や裁判所に訴え、救済命令や勝利判決を何度も得てきました▼不屈のたたかいは生徒、保護者の間に支援の輪を広げます。「先生たちが寒い中を外に立たされている」と娘に聞いた父親が支援する会に参加しました。何人もの卒業生が後輩のためにと行動しました▼今回の和解でついに学園側が非を認めました。雇い止めになった元講師の女性が正規の教諭として職場復帰に。組合を差別しない、不当労働行為を繰り返さないと約束させました。組合は、未解決の4人の継続雇用拒否問題でも勝利を目指したたかいを続けます。
きょうの潮流 2022年12月22日(木)
あれから30年。だれもが働きやすい職場が普通になっているでしょうか。1992年、日本で初のセクシュアルハラスメントを問うた裁判で勝利判決が出ました▼「セクハラ」という言葉さえなかった時代でした。この裁判では、個人の問題にとどまらない「力の不均衡」による「力の乱用」だと意味づけました。そして「職場に性差別があるから起こること」だとして、企業の安全配慮義務を問うたのです▼性的な嫌がらせである言動に苦しめられながら、声を上げられなかった女性たちが裁判を支援し、ともにたたかいました。「男性の目障りにならないように」と女性に求められた、働き方の枠の理不尽さも、考え直す機会となりました▼「弱いものいじめは恥ずかしい、という文化が日本にはあるはずです」。こう話すのは、弁護士として関わってきた辻本育子さん。権力を得たものがその力でハラスメントをするのは恥ずかしいこと。「そんな“美意識”をもってほしい、そして性差別を禁止する法の仕組みがほしい」と願います▼企業の研修に何度も招かれた辻本さん。一番多かった質問は「どうすれば訴えられずに済みますか?」でした。自分より強い相手にはできないのがハラスメント。自分の方が優位なら、その関係性を意識することがハラスメントを防ぎます▼たたかいの積み重ねが、だれもが安心して働ける職場を広げていきます。冷たくて長い夜を耐えたその先に、暖かな昼の時が少しずつ伸びていくように。今日は冬至です。
きょうの潮流 2022年12月21日(水)
一年を振り返る年の瀬です。恒例の「今年の漢字」は「戦」。ロシアによるウクライナ侵略が人々の念頭に。全国からの募集で最多の票を集めました▼英オックスフォード出版社が発表した「今年の言葉」は「ゴブリン・モード」でした。英語話者30万人による初のネット投票で選出されました。ゴブリンとは、欧州の民話に出てくる小鬼。「悪びれることなく気ままに、怠惰にふるまう」との俗語です▼使用頻度が上がったのは2~3月。新型コロナ感染対策が、欧米では徐々に緩和され始めた頃です。行動規制下では、家の中で惰性なゴブリン・モードになった人々。窮屈な“普通の生活”に戻ることを嫌う気分をとらえた表現だそう▼周りにどう映るかではなく“自分らしく”を肯定する言葉が支持されました。窮屈で厳格な制限にあらがう人々は、中国でも。火災事故を契機に、行動制限はもうたくさんだと各地で白紙を掲げる抗議が起こりました。政治体制への批判も出る異例の事態に、中国政府はようやく規制を緩和しました▼日本でも勇気ある行動が社会を動かしました。元陸上自衛官の五ノ井里奈さんはその一人。所属していた部隊で受けた性暴力被害を実名で告発し、防衛省に事実を認めさせ、加害者を謝罪へと追い詰めています▼声を上げれば社会に変化が起こせる。暗いニュースの中にも希望が見いだせます。みんながありのままに生きられる社会へ、さらに進める1年にしたい来年です。逆流や、声を封じる動きにも負けず前へ。
きょうの潮流 2022年12月20日(火)
大一番を前に、あるインタビューが世界中に拡散され人びとの胸を打ちました。それはアルゼンチンの記者が母国の英雄にと送った自身の思いでした▼「結果がどうあれ、だれも奪うことができないものがあります。あなたのユニホームを持っていない子どもはいません。あなたはみんなの人生に影響を与えてきました。それは私たちにとってどんなワールドカップよりも大きなものです」▼サッカーを通して、たくさんの幸せをもたらしてくれたことへの感謝と敬意。リオネル・メッシ選手の果たしてきた功績はそれほど大きい。しかし数々のタイトルに輝きながら、待ち焦がれた頂には届いてきませんでした▼その難しさを物語る壮絶なたたかいでした。フランスとの決勝は先行しては追いつかれる苦しい展開。延長戦でも先にメッシ選手がゴールを決めながら、またも同点に。PK戦までもつれ込んだ名勝負は歴史に刻まれました▼成長ホルモンの分泌異常と診断されながら、治療費を払うことも困難だった幼少期。それでも大好きなサッカーボールを蹴り続け、才能を開花していきました。一瞬にして得点に結びつける技術はもちろん、まじめで相手にも礼儀正しい態度はプロの見本にも▼W杯で躍動した選手の姿に世界中の子どもたちがあこがれ、何かに挑む勇気をもらいました。「本当に愛していることのためなら、どんなことでも乗り越えられる」。メッシ選手が送ったメッセージは、その思いを生かすべき社会にも向けられています。
きょうの潮流 2022年12月19日(月)
半世紀におよぶ運動の原点は、痛ましい交通事故でした。飲酒運転や暴走車によって家族を失った遺族がこうした事故の遺児を励ます会を発足。以来、親を亡くしたり親が働けない子どもたちを支えてきました▼寒風吹くなか寄付を呼びかける若者たちの姿。3年ぶりに再開された「あしなが学生募金」です。コロナ下で自粛してきましたが、今年5月から全国をリレー。最終日の17日には東京・新宿に学生らが集まり、総額6千万円をこえる善意への感謝をのべました▼活動には、のべ3千人以上の遺児学生やボランティアが参加。代表の大学生は「多くの方々の小さな愛が支えている」と謝意を示しながら、コロナや値上げの影響で遺児家庭はさらに苦しんでいると、支援の継続を訴えました▼年越しを前に、いまあちこちの街頭で困窮者を支えるため、くらしを守るため、平和や人権を侵されないための声がこだましています。冬枯れのような寒々とした政治、途方もない税金が軍拡に注ぎ込まれようとしているなかで▼110年前、米国の女性作家ジーン・ウェブスターが世に出した『あしながおじさん』に由来する運動は交通遺児から始まり、さまざまな事情を抱える子どもたちに支え合いの輪を広げてきました。いまでは海外にも救いの手を伸ばしています▼運動のめざす先にあるのは、やさしさの連鎖を世界中に広げながら人間の尊厳が脅かされることのない社会だと。それは多くの人々が切望する国づくりの土台でもあるはずです。
きょうの潮流 2022年12月18日(日)
やっぱりこの看板しかないのか、この地域政党には。そんな思いを改めて強くします▼大阪維新の会は来年4月9日投開票の大阪市長選に幹事長で大阪府議の横山英幸氏を擁立することを決めました。その横山氏は予備選の討論会でも「大阪維新の会としては『大阪都』構想の看板は下ろしていない」「あきらめたわけではない」と言い切りました▼「大阪都」構想とは大阪市を廃止し、財源も権限も「都(府)」に吸い上げて「1人の指揮官(知事)」の好き放題にできる体制づくりのこと。同構想の是非を問う2度の住民投票で大阪市民は大阪市の存続を選択しました▼「都」構想否決のたびに大阪市長だった橋下徹氏、松井一郎氏が政界引退に追い込まれました。民意は明白なのに松井氏の後継市長候補の横山氏まで「都」構想をあきらめていないとは、あきれるばかりです▼大阪市をなくそうとしている政党と政治家に大阪市の未来が描けるはずがありません。横山氏がいうような「『都』構想を念頭においたうえ」での行政がどんなに危険かはコロナ対策でも明らかです。感染の影響が全国最悪なのに府任せで大阪市の独自施策がほとんどありませんでした▼維新の「成長戦略」の目玉であるカジノを中核とする統合型リゾート(IR)も問題山積。ギャンブル依存症はもちろん予定地の夢洲(ゆめしま)の土壌汚染・液状化対策だけで公金約790億円を投入。用地賃料をめぐり市主導の談合疑惑まで浮上しました。維新政治の転換は待ったなしです。
きょうの潮流 2022年12月17日(土)
憲法9条のわずかなすき間で、自衛隊も武器の保有も認めてきたんだ。自衛隊法にある「わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる」も。そこから、専守防衛という言葉がでてきたんだ―▼かつて自民党のタカ派議員として防衛政務次官を務めた箕輪登さんは自衛隊のイラク派兵に反対、国に差し止め訴訟を起こしました。日清、日露、日中、太平洋と日本は海外に出ていき戦争をして破滅した。戦後はそれをしなかったから平和であり続けたと▼法律をいいように解釈して自衛隊を派遣するやり方は国の将来を危うくする。その思いは保革をこえて共有されてきました。しかしいま岸田政権は大きくかじを切りました。米軍と一体となって敵基地攻撃の能力をもつ戦争国家の道へと▼閣議決定された安保3文書は有事と平時、軍事と非軍事の分野の境目はあいまいになっているとして際限なき軍拡に布石が打たれています。そのための増税を背負うのは国民の責任だと、岸田首相▼希望の世界か、困難と不信の世界か、その分岐点にあると文書はいいます。日本は世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続けるとも。ならば決して軍事に染まった国づくりではないはずです▼戦争とは血を流す政治、外交とは血を流さない政治であり、日本は永久に血を流さない政治を守るべきだ。亡くなるまでそう訴え続けた箕輪さんは「平和に右も左もない」と口ぐせのように。歴史的な岐路に立ったいまこそ、大同団結を。
きょうの潮流 2022年12月16日(金)
鎌倉幕府と後鳥羽上皇が激突するなか、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が佳境を迎えています。貴族の時代から武家社会へ。すさまじい権力闘争が繰り広げられてきました▼主人公の執権・北条義時を中心に親子きょうだいや信頼してきたはずの御家人たちとの間で続く、非情で容赦ない血の争い。そのなかで喜怒哀楽あふれる人間模様が展開し、起伏のある物語が魅力となっています▼見逃せないのが女性たちの存在です。義時の父・時政を手玉にとった牧の方。義時の3番目の妻・のえはわが子を跡継ぎにと、野望を隠しません。巴御前は、パートナーの木曽義仲とともに戦場へ▼脚本家の三谷幸喜さんは「ぼくは女性を書くのが下手。今度こそ汚名を返上したい」と。その言葉通り、女性たちを決して歴史の裏舞台に押し込めようとはせず、男性と堂々と渡り合う姿を描き、作劇の面白さを打ち出しています▼筆頭は政子でしょう。源頼朝亡き後は尼御台(あまみだい)と呼ばれ実力を発揮。独裁に走る義時をいさめもします。貧しい民百姓と交流し、激しいたたかいのなかでも命を軽んじない姿が描かれ、後に尼将軍として支持されることになったのもうなずけます▼実際に当時は女性の地位が高く、経済的な基盤となる土地や財産を分割相続していました。そのことが、女性が一定の力を持ち、政治にかかわる素地にもなりました。さて、いよいよドラマは18日が最終回。義時の最期とともに、69年の波乱の生涯を送った政子がどう描かれるかにも注目です。
きょうの潮流 2022年12月15日(木)
祖国へとつながる、シベリアの青い空。その美しさをどんな思いで眺めていたのか。何年も捕らわれ、極寒の地で飢えと重労働を強いられながら、生の喜びと希望を失わなかった人▼先週公開された映画「ラーゲリより愛を込めて」。主人公は第2次大戦後、ソ連によって抑留された山本幡男(はたお)。収容所の過酷な状況の中でも人間らしく生きることをあきらめず、仲間たちを励まし心の支えになりました▼「人間をまっとうしていく話」。演じた二宮和也さんが言うように、極限のもとで人間として生きる勇気や意味を問いかけます。同時に戦争や抑圧がいかに人間の尊厳を奪うかを▼ノンフィクション作家の故・辺見じゅんさんによる『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』が原作です。待ち焦がれたダモイ(帰国)もかなわず無念の死をとげた山本。その遺書を仲間が記憶し、日本でくらす家族のもとへ届けるという奇跡の実話も▼がんに侵され病床でつづった別れの手紙。4人の子どもたちには「どこまでも真面目な、人道に基く自由、博愛、幸福、正義の道を進んで呉(く)れ」。そして、最後に勝つものは道義であり、誠であり、まごころであると呼びかけます▼瀬々(ぜぜ)敬久(たかひさ)監督は分断ではなく、思いを共有する大切さが希望や明日へとつながっていくと。父からの魂のさけびを受け取った山本厚生さんも本紙に。「(父は)いつか人権が大切にされ、人々が対等に生きる社会がくると信じていたのでしょう。これこそ目指すべき未来社会なのだと私は思っています」
きょうの潮流 2022年12月14日(水)
文字は、ことばの器として生まれた。ことばを視覚、形象化し、そこに内在させることが目的であった。漢字学の白川静博士は呪いや神事をふくめ、文字には目的を達しようとする力が宿っていたといいます▼アルファベットの成立で文字とことばの結合という本質的なものは失われたが、漢字だけはいまもその特徴をもっている。成立以来ことばとともに生きつづけ、尽きることのない生命の源泉をなしていると▼さて恒例の今年の漢字に「戦」が選ばれました。白川さんの『漢字のなりたち』によれば、戦は単と戈からなり、単は上部の左右に羽飾りをつけた盾、戈はほこの形。左に盾を、右に戈をもってたたかうことを表しています▼スポーツやひきつづくコロナとの戦もあるでしょうが、やはり重く悲しく人びとにのしかかっているのはロシアによるウクライナ侵略でしょう。戦争がいかにむごたらしいものか、まざまざと示しています▼岸田首相は今年の漢字に「進」を選びました。どこに進むのか。はっきりしているのは相手の基地を攻撃できる力をもつことと、大軍拡です。過去のあやまちを忘れ、ふたたび亡国への道をたどるのか。それを許さない国民的なたたかいもこれからです▼ちなみに戦の対極にある「和」は、軍門にたてる標識の禾と、軍門で誓いをたて和議を行う口からなる和平の意です。儒教の書『中庸』では、和は最高の徳行を示す語とされています。早く戦が終わり、来年の漢字こそ、和となる世界へと進むように。
きょうの潮流 2022年12月13日(火)
低収入世帯やひとり親世帯では、子どもの進学希望・展望に関して「大学またはそれ以上」と回答した割合が低い―。子どもの生活状況調査(2021年12月、内閣府)が明らかにしたことです。全世帯のうち50・1%が大学以上と回答したのに対し、低収入世帯ではわずか25・9%でした▼政府の別の調査によると、全世帯の子どもの8割以上が大学などに進学しますが、生活保護世帯では4割未満。高校卒業後に働き始める人が6割に上るということです▼大学生の生活保護利用は認めない―。厚生労働省の社会保障審議会の部会は先日、生活保護や生活困窮者の制度見直しに向けた議論で、そのような取りまとめをしました▼一般世帯にも奨学金やアルバイトで学費や生活費を賄っているケースがあるからだというのです。「子どもの貧困への対応」としながら、進学率の不均衡を是正しようとの意欲はまったく見えません。コロナ禍で困窮した学生に対する一時的な生活保護利用にも後ろ向きです▼一方、岸田文雄首相は軍事費の大幅増額には躍起になっています。暮らしや制度の土台となる生活保護関連の費用を削減し、それに連動させて社会保障費を切り縮める。市民の首を真綿でじわじわと絞め付けるかのようです▼軍拡か、それとも社会保障や福祉の充実か。選択を迫られています。「貧困の連鎖」を断ち切り、子どもだけでなくあらゆる世代の市民が安心して暮らせる社会にしたい。いま、声を上げるときです。大砲よりバターを!
きょうの潮流 2022年12月11日(日)
冬枯れの町に、目が覚めるような赤やピンク、白の花をびっしりと咲かせるサザンカ。艶やかな緑の葉と相まって、寒さに縮こまった心もぱっと明るくなります▼千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で140品種を見せる「冬の華・サザンカ」展が開かれていると知り、わくわくして出かけました。シイやカシ、モミジの大木に囲まれた佐倉城址(じょうし)公園を通って会場の植物園へ▼途中、正岡子規の句碑を見つけ、しばし寄り道。〈常盤木(ときわぎ)や冬されまさる城の跡〉。日清戦争が勃発した1894年の暮れ、佐倉を訪れた子規が、城跡に陸軍歩兵連隊の兵営が置かれているさまを見て、その殺伐とした世相を詠んだといわれます▼サザンカもまた戦災と無縁ではありません。沖縄や九州、四国など暖地に自生していた白いサザンカが、各地に広まり、童謡「たきび」にも歌われたように北風の吹く寒い道で生け垣になるまでには、幾度かの戦争による伐採や焼失を乗り越え受け継がれてきた、江戸時代からの歴史があります▼現在、花弁の色や大きさ、樹形もさまざまに300もの品種があるとか。花の名前も「朝日鶴」「大空」「日の出の海」「雪月花」「蝶(ちょう)の舞」「紅雀(べにすずめ)」「笑顔」と、豊かな自然と平和を寿(ことほ)ぐかのようです▼子規にサザンカの句がないか調べると、2句ありました。〈山茶花(さざんか)を雀のこぼす日和かな〉〈山茶花のここを書斎と定めたり〉。雀がサザンカと戯れ、はらはらと花びらが散る小春日、穏やかに読み書きする子規の姿が浮かんできます。
きょうの潮流 2022年12月10日(土)
♪原発いらない太陽光 原発いらない風力へ 新潟駅前小型デモ…。なくそう原発・新潟市民ネット呼びかけの金曜行動が10年続いた記念の替え歌「また逢(あ)う金曜日まで」です▼世界最大規模の東京電力柏崎刈羽原発のある地で、雨や雪に負けず新型コロナにも負けずに続けた行動です。10年間、1度も再稼働を許さないできました▼伊方原発がある四国の徳島市で、金曜行動を続けてきたのは、原発再稼働反対徳島有志の会です。2012年7月から夫婦で始めた手塚茂美さんが励みにしてきたのは、ジュリーこと沢田研二さんの脱原発の姿勢です▼全曲を沢田さんが作詞したアルバム「3月8日の雲」などで「バイバイ原発」と歌ってきました。金曜行動をたたえて、「この国がいつか変わるため 今夜集まろう」との歌詞もある「Fridays Voice」も▼古い原発を再稼働させる原発回帰に政策転換した岸田政権とのたたかいは、これからが正念場です。「政府は、原発過酷事故を忘れさせようとしている」と批判する原発をなくす前橋連絡会の丹治杉江さん。福島県いわき市から自分の判断で避難しました。「放射能の被害は10年や20年で終わりません。線量が高く戻れない帰還困難区域が東京23区の半分の面積もあります」▼福島でも原発ゼロ金曜行動イン会津の人たちが、会津若松市で暮れの30日にスタンディングします。列島各地を静かに熱い覚悟で示すとき。未来の子どもたちのため原発をなくすことはおとなの責任です、と。
きょうの潮流 2022年12月9日(金)
その歴史は飛鳥の昔までさかのぼるそうです。渡来人の智聡(ちそう)によって牛乳について知り、その子の善那(ぜんな)が当時の孝徳天皇に献上。これが、わが国の牛乳飲用のはじまりとされています▼和薬使主(やまとくすりのおみ)の姓をもらい、乳長上(ちのおさのかみ)という職に任じられた善那は搾乳や乳の加工の技術指導にあたりました(『牛乳と日本人』)。その頃から牛乳は「人の身体をよくする薬」と考えられ、いまでは私たちの食生活に欠かせなくなっています▼その牛乳が飲めなくなるような危機が迫っています。かつてないほどの苦境に酪農家が陥っているからです。エサ代や生産費が異常に値上がりする一方で、畜産物の価格は低落し需要も減少。搾れば搾るほど赤字になると悲痛な訴えを▼若手や中堅の離農も目立ちはじめ、このままでは先人が苦労してともしてきた酪農の灯が消えてしまいかねません。数年前にバター不足から国が増産を呼びかけ、多くが借金をしてまで規模を拡大したことも追いつめています▼「これまで経験してきた危機と違う点は良い材料が一つもないということ」。北海道厚岸町で60頭の乳牛を飼育している酪農家の苦悩を本紙の記者が伝えていました。何重もの困難に直面していると▼ところが岸田政権は、乳牛を減らせば金を出す、生産も抑えろと求めています。何百年と続いてきた農家の努力を泡と消し、命である食を先細りにしていいのか。すぐにでも高騰分を補てんするとともに、安心で安全な食料の生産に国は責任を果たせ。この声をもっと。
きょうの潮流 2022年12月8日(木)
かつてそこは子どもたちの楽園でした。南国の花々が咲き乱れ、色とりどりの鳥がさえずり、海がひろがる。学校から帰ると大草原のように続く裏庭を駆け回る▼ハワイ・真珠湾の真ん中に浮かぶフォード島。米艦隊の拠点として滑走路が大部分を占め、周りに軍艦がずらりと並ぶ島には海軍や海兵隊員の家族が住んでいました▼1941年12月7日(日本時間8日)。日曜の朝に突然鳴り響いた爆発音は平和な日常を一瞬にして変えてしまいました。「翼に赤い丸が描かれた飛行機が頭上に」。泣き叫ぶ赤ん坊、逃げる子、半狂乱の母、パジャマのまま出撃していった父▼次つぎと炎に包まれる戦艦から燃え盛る油の海に飛び込む兵士たち。太平洋戦争の始まりを体験した家族の証言をまとめた『パールハーバーの目撃者』は、日本軍の奇襲を受けた一日をまざまざと伝えています▼敵基地への先制攻撃。それは日本にとっての、破滅への第一歩でした。ところが、今につながる過去を忘れ、自民、公明の両党は敵基地を攻撃する能力を保有することで合意しました。みずから仕掛け、国の内外に未曽有の惨禍をもたらした戦争。その反省の上に立った戦後日本の安保政策をひっくり返し、岸田政権は大軍拡に走り出しました▼長崎で教員を長くつとめ、先の本の訳者でもある山本みづほさんは、あとがきでこんなことを。「沖縄、ヒロシマ・ナガサキ、そして、パールハーバー。もう一度考えてみなければならないと、強く、強く、思うのです―」
きょうの潮流 2022年12月7日(水)
深夜、テレビの前で固唾をのんだ多くの人がいたでしょう。一進一退の攻防は延長でも決着がつかず、PK戦へ。そこでサッカー日本代表の4年に1度の挑戦は幕を閉じました▼四たび、阻まれたW杯ベスト8の壁。思い描いた「新しい景色」は見られなかったものの、彼らは新しい歴史をつくりました。強豪のドイツ、スペインから逆転勝利をあげ、前回準優勝のクロアチアとも互角に競り合いました▼臆せず堂々としたたたかいぶり、最後まで力を尽くしたプレー、子どもたちに夢と希望をもたらした姿は海外メディアからも称賛されました。コロナ禍や戦争、相次ぐ汚職や失政。不安や失望、孤独感が社会に漂うなか、日本代表の活躍は久々に明るい話題と人びとの連帯感をうみだしました▼ピッチで泣き崩れる選手たちに駆け寄った長友佑都選手は懸命にたたかった後輩と、PKを蹴った選手の勇気をたたえました。そして「日本サッカーは確実に成長している」と▼一次リーグのコスタリカ戦で負けたとき、一部の選手や監督の采配に批判が殺到しました。なかには人格攻撃や中傷も。それが公に発信されることがどんなに選手たちを傷つけるか。4大会連続出場のベテランは痛いほど▼今大会は、史上初めてアジア3カ国が決勝トーナメントに進出。サッカーの勢力図を変える快挙でした。力をつけた個々がまとまりとなって世界に立ち向かう。激闘を終えた選手たちに、森保監督はこんな言葉をかけました。努力が色あせることはない。
きょうの潮流 2022年12月6日(火)
男の子は蒼(あおい)と凪(なぎ)が首位に並び、女の子は陽葵(ひまり)がトップに。生命保険会社による恒例の子どもの名前ランキング。今年は平和や明るく前に進んでほしいとの願いが感じられるといいます▼激動の時代に生まれた子どもたちに込めた親たちの思い。それをふみにじる虐待がくり返されていました。静岡・裾野市の私立「さくら保育園」。元保育士の3人が担当の1歳児にふるった数々の所業は信じられないものばかり▼バインダーや丸めたゴザで頭をたたく、足をつかみ宙づりにする、カッターナイフを見せて脅す。寝た園児に「ご臨終です」と言ったり、「ブス」「デブ」などと暴言を浴びせたりと、幼い心を傷つける悪質さも報告されています▼問題発覚後に退職した3人は暴行容疑で逮捕され、同市は園長も隠ぺいを図ったとして刑事告発しました。虐待を知りながら口外しないよう職員に誓約書を書かせ、内部告発しようとした保育士に土下座までしたといいます▼信頼して預けていたのに、わが子がこんな目に遭っていたのかと泣きくずれる保護者。情報が寄せられてから3カ月以上も公表しなかった市の対応も批判されています。憎しみにみちた行為に至ったのはなぜか。事故が相次ぐ保育現場の実情をふくめ、解明が待たれます▼日本の保育には保護者や地域をまきこんだ先人たちのすぐれた運動と実践があります。それを受け継ぎ、子どもたちの心と体の成長を真ん中において奮闘してきた関係者。その努力を台無しにしてはなりません。
きょうの潮流 2022年12月5日(月)
「新しい景色」を見ることができるでしょうか。サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会。日本はドイツ、スペインという優勝候補に勝利し、1次リーグを首位で突破しました。日本時間6日午前0時、初のベスト8をかけて、クロアチアと対戦します▼筆者は日本代表の森保一監督とほぼ同年代。1993年のJリーグ開幕や、あと一歩でW杯を逃した「ドーハの悲劇」以来、30年におよぶ世界への挑戦をリアルタイムで見てきました▼今日の躍進は、何よりも選手たちの能力や意識の高さにあります。同時に、今回ほど「どうたたかうか」が確立されていた代表チームはなかったように思います。その背景には、繰り返されてきた苦い敗北から得られたデータや、7回連続出場に基づく経験の蓄積があります。30年の苦闘の歩みに、強い感慨を覚えます▼一方のクロアチア代表は、日本が初出場した98年の対戦相手です。初出場同士でしたが、0対1で敗戦。2006年には引き分け。18年の前回大会では対戦はありませんでしたが、クロアチアは準優勝し、実績では差をつけられています▼同国はもともとユーゴスラビアの一部でしたが、91年の独立宣言以来、5年におよぶ紛争に直面しました。現在の代表エース・モドリッチも少年時代、難民生活を余儀なくされています。彼らが歩んできた30年にも、強い共感を持っています▼クロアチアは、日本が越えなければならない相手です。その先の「新しい景色」を、選手たちとともに。
きょうの潮流 2022年12月4日(日)
「私はアイヌだ。何処(どこ)までもアイヌだ。それで人間ではないという事もない。同じ人ではないか。私はアイヌであったことを喜ぶ」▼日記につづった叫びのことばは、まさにアイヌの“宣言”でした。筆者の知里(ちり)幸恵は、みずからの民族が口づてに伝え継いできたユーカラを記録し、初めて日本語に訳した『アイヌ神謡集』の作者として知られます▼19歳という短い生涯を、アイヌ語を残すことにかけた彼女が亡くなってから今年で100年。明治以降、国から「未開社会」「旧土人」とさげすまれ、同化を強制されてきたアイヌの文化や権利を守るとりくみは今も引き継がれています▼先日も札幌でエカシ、フチと呼ばれる長老への特別支援を国や道に求める署名活動が行われ、アイヌの民族衣装をまとった伝承者が窮状を訴えたばかりです。ところが国会では、特定の民族や性的少数者、女性への侮辱をくり返してきた杉田水脈(みお)総務政務官の言動が問題になっています▼「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん―。完全に品格に問題があります」。自身のブログに書き込んだ悪意と偏見にみちた表現。アイヌの人びとからは「ヘイトスピーチそのものだ」と憤りの声があがっています▼差別を認めない「撤回」は同氏の無反省ぶりを際立たせています。それをわかっていながら政務官に起用し、いまだにかばい更迭を拒む岸田首相の人権感覚も問われます。傷つけられる誇りと尊厳。アイヌとはアイヌ語で「人間」を意味します。
きょうの潮流 2022年12月3日(土)
公開中の新海誠監督の新作アニメ「すずめの戸締まり」の一場面に次のようなセリフがありました。「こんなにきれいな場所だったんだな」と▼東北を旅する主人公らが福島県の沿岸部で車を降り、海を望む高台から周辺を眺めていた時です。その足元には除染で発生した廃棄物などが入った黒いフレコンバッグ。遠くに見えるのは東京電力福島第1原発のシルエットでしょうか▼11年前、住民は避難を強いられ、見えない放射線によってふるさとを離れざるを得ませんでした。原子炉が炉心溶融し、建屋が水素爆発で壊れ、大量の放射性物質が外に放出されたからです。未曽有の事故です▼なぜ事故が起きたのか。住民が東電や国を相手に裁判をたたかっています。先日、第1原発から半径30キロ圏内に住んでいた福島県南相馬市の住民が、かけがえのないふるさとを奪われたとして、東電に損害賠償を求めた裁判の控訴審判決が仙台高裁でありました。判決は、東電が事故原因となった大津波が到来する可能性を予見しながら、未然に防止する措置を何ら講じなかったと▼その悪質性をこう指摘します。運転停止に追い込まれる状況をなんとか避けたいなどと「経営上の判断を優先させ」対策を先送りした「重大な責任があった」▼思い当たるのが7月の株主代表訴訟の東京地裁判決。東電には「安全意識や責任感が、根本的に欠如していた」として、旧経営陣に13兆円を超える損害賠償を命じました。事故の責任を問う裁判は続いています。
きょうの潮流 2022年12月2日(金)
真新しい折り鶴が、そっと置かれていました。白菊が飾られた碑の横に。中央自動車道下り初狩(はつかり)パーキング。そこに建立された追悼施設には人びとが訪れ、手を合わせていました▼中央道笹子トンネルの天井板が崩落し9人が亡くなった事故から、きょうで10年。犠牲者のなかには東京都内の同じシェアハウスに住んでいた20代の会社員5人がいました▼山梨県内の温泉などを訪れ、帰る途中の悲惨でした。どうして、娘や息子が事故にあわなければならなかったのか、なぜ、起きたのか―。遺族の問いかけは今もつづいています▼中日本高速からは安全対策を怠ってきた理由も、点検や管理の不備が起きた説明もされず、関係者は全員不起訴。役員の責任も問われず「納得できるわけがない」。こんな事故をくり返してはならないと遺族たちは結束し、真相を追求してきました▼事故後、国は5年に1度、トンネルや橋の点検を義務化しました。しかし予算や担い手の不足で必要な修繕は進まず、同様の事故が起きる危険と隣りあわせの状況がつづきます。全国で橋は70万以上、トンネルは1万カ所をこえ、その多くが老朽化にさらされています▼〈五人の親うち揃(そろ)ひ誓ひてし 原因・責任・再発防止〉。遺族の親のひとりが短歌に込めた思いです。新規建設ばかりに目をむけ安全を怠る企業、インフラよりも軍備に予算をつぎ込む国。だれもが願う安心してくらせる社会。今も、さまざまな人生や命を乗せた車が、あのトンネルを通っています。
きょうの潮流 2022年12月1日(木)
今年も、はや師走。1年をふり返る時期となりました。古書には12月の異名として「調年(ちょうねん)」があげられています。その年をまとめる月という意味なのでしょうか▼2022年最大の出来事といえばやはりロシアによるウクライナ侵略です。軍事侵攻は今も続き、世界中に暗い影を落としています。力ではなく、話し合いで解決できる国際社会をどうつくるか。人類に投げかけられた課題です▼国内では止まらない物価高に悲鳴があがっています。ひとり親を支援する団体の調べによれば9割以上の世帯が物価の高騰による生活苦を感じていました。賃上げもかなわず、年金や医療、介護の負担増ものしかかります▼あえぐ国民をしり目に、岸田首相は大軍拡にふみだしています。5年以内に軍事費をGDP比で2%にするよう指示。現在の2倍近い、およそ11兆円の大幅増額は増税となって暮らしを圧迫することに▼トルコで開かれたアジア政党国際会議は対話と交渉が国際法に基づく紛争解決への唯一の道だと強調しました。互いに陣営をつくり対立するのではなく、地域のすべての国を包み込んだ平和な枠組みをつくる。参加した日本共産党の提起が宣言には実っています▼いやというほど戦争の惨禍を味わった反省から、憲法9条を芯に据えてきた国。その首相としてやるべきは軍拡ではなく、平和を構築する外交努力ではないのか。生活にも潤いをもたらす政治への転換をもとめたい。混迷の年を調え、希望のみえる年へとつなげるためにも。
きょうの潮流 2022年11月30日(水)
木、火、土、金、水―古来中国では五つの要素によって物事を解釈しようとしてきました。人の体や生活もそれから形成されるという五行の考え方は後の世に大きな影響を与えました▼七夕の五色の短冊にあるように五行にはそれぞれ色が当てはめられています。木は青(緑)、火は赤、土は黄、金は白、水は黒(紫)。そのうち白には相反する二つの意味があるといいます▼高潔や純潔、公明などの一方で、低俗や反動、凶を表し、葬式を白事と呼ぶことも。中国では「矛盾的な文化象徴の意味を持つ色である」という専門家もいます▼いま掲げられる白い紙は何を象徴しているのだろうか。中国政府の徹底した「ゼロコロナ」政策に反対する怒りの声がひろがりつづけています。各地で白い紙を手に立ち上がる市民。それは厳しい言論統制への抗議なのか、強権の中国共産党を表す赤色に対するものなのか▼本紙特派員は「紙には何も書かれていないが、言葉は心の中にある」という女性の叫びを。矛先は自由や民主、人権さえ軽視する現体制に向かいつつあります。「白色革命」とも呼ばれる政権批判は天安門事件以来だとして当局の弾圧を危ぐする指摘も表れました▼中国における色とは多分に象徴的な意味合いを含んできました。そこには苛政に対する民衆の抵抗の歴史も色づいています。古代の人々は突然現れる白獣を吉祥とみなしました。予断を許さない状況ですが、勇気をふりしぼった白い抗議が明るい未来につながることを願って。
きょうの潮流 2022年11月29日(火)
酸味の強いリンゴの「紅玉」を使ってつくったアップルパイがおいしい。リンゴに砂糖を加えて炒め、冷凍のパイ生地で包み、電気代を気にしながらオーブンで数十分焼く。思ったより簡単にできました▼今は「ふじ」のような蜜の入ったリンゴが主流ですが、紅玉の酸味は、菓子づくりによく合います。子どもの頃は、紅玉や国光しか知りませんでした。近ごろ店先で見かけることが少なくなりました▼なぜなのか。青森の生んだ共産党の元代議士・津川武一さんは『りんごに思う』で書いていました。バナナの自由化で1968年産の国光と紅玉が売れず、大量に捨てられ、それから国と県の指導方針に沿って農家が見切りをつけ、ふじなどに品種更新した▼紅玉が絶滅に近い状態に津川さんは当時、危機感を覚え、料理や加工用など消費・販路拡大のいろんな提案をしていました。今ではリンゴを使った土産品も多い。弘前市では現在、市内でアップルパイを売る店が50を超え、ガイドマップも▼コロナ禍のもと、自宅でスイーツをつくる人が増え、生食用に酸味のあるリンゴを好む人もいます。宮城では大震災の年に、酸味の強いオリジナル品種を開発していたと最近知りました▼津川さんは、戦争中の母親の体験を記しています。リンゴは戦争に役立たないので、ジャガイモに植えかえろと命令。軍人がリンゴの何本かを切り倒し、母はその木に線香をたきお経をそらんじてあげた。終戦の年に大流行した「リンゴの唄」の4年前のことです。
きょうの潮流 2022年11月28日(月)
ロシア語で黒い土を意味するチェルノーゼム。養分が豊富で作物の栽培にとても適しています。世界の小麦の多くはここからとられ、農業大国ウクライナの土壌も6割ほどが黒土です▼土の皇帝とも呼ばれたチェルノーゼムは他国の垂涎(すいぜん)の的になってきました。第2次大戦で東欧に侵攻したヒトラーのドイツが、ウクライナの肥沃(ひよく)な土を貨車で運び出そうとしたという逸話も残るほど▼90年前、その豊かな大地が慟哭(どうこく)の大地と化しました。飢餓がひろがり、人びとは木の皮や葉、ネズミや人の肉まで食べたといわれます。全員が死に絶えた村、子どもを含めた死体が延々と横たわっていたとの証言もあります▼ウクライナでは数百万人が亡くなったとされるこの時の大飢饉(ききん)をホロドモール「飢えによる虐殺」と呼んでいます。当時、農家を強制的に集団農場に組み入れ、徹底して食糧を徴発したソ連スターリン政権が人為的に引き起こしたジェノサイド(集団虐殺)だったとして▼いままたロシアによる侵略をホロドモールと重ね合わせています。ミサイルが大地に降ってくる日常。インフラ施設への攻撃は冬の寒さが増す生活をさらに困難にさせています。駐日大使は「モスクワの集団がウクライナを消そうとするのは初めてではない」と▼ウクライナでは毎年11月の第4土曜日をホロドモールの犠牲者を追悼する日としています。今年はロシアに対する抗戦の士気がいっそう高まるなかで迎えました。侵攻から9カ月。連帯する国際世論とともに。
きょうの潮流 2022年11月27日(日)
「学童保育は単なる居場所ではなく、大切な生活の場なんです」―。オンラインで開催された第57回全国学童保育研究集会での、切実な訴えです▼来年4月「こども家庭庁」が創設され、学童保育は「成育部門」の「居場所」という位置づけになります。「スペースを確保すればいい」ではなく、子どもの権利を守り、豊かな放課後を実現したい。そのための取り組みがますます大切になります▼新型コロナで一斉休校になった時も、学童保育は「原則開所」を求められました。手探りで感染拡大防止に力を注ぎながら、のびのびと過ごせる場を提供してきました。しかし、施設や設備など、「毎日の生活の場」としては不十分なところが多くあるのが実態です▼全国学童保育連絡協議会は先日、今年5月1日現在の実施状況調査結果を発表しました。民間企業が運営するものが大幅に増えました。利潤を追求すれば人件費を抑えるしかありません。今でさえ仕事量に見合わない処遇を改善したり、専門性を高めたりすることにはつながらない、と指摘します▼「『子どもの気持ちに気づく』。これが難問なんです」。分科会でこう語ったのは、東京都立大学准教授の杉田真衣さん。「何かあるだろうな」と想像し、それまでの子どもの人生に敬意をもつ。それが「何かあったらこの人に言おうかな」ということになるだろうと▼こんな安心の空間を、おとなの責任でつくりたい。「ただいま!」と学童保育に帰ってくる、子どもの顔を思い浮かべながら。
きょうの潮流 2022年11月26日(土)
まず教えたのは基本でした。キックやヘディング、パスといった基礎練習のくり返し。まさに土台からつくり上げていきました▼デットマール・クラマー。日本サッカー界の古い体質を根っこから変えたドイツ人指導者です。1960年代に招かれ、当時国際試合でほとんど勝てなかった日本代表を世界の強豪と渡り合えるまでに押し上げました▼理論的なコーチ学にとどまらない礎を残しました。国際試合の経験を重ねることやリーグ戦の採用、コーチの育成や組織化、芝生グラウンドの整備。彼の提言はその後の日本サッカーの発展につながりました▼「ドイツには日本の選手を育ててもらい、日本サッカーの発展を助けていただいている。リスペクトして感謝したい」。今回のワールドカップでドイツから歴史的な勝利をあげた後に日本の森保監督が口にした言葉は、過去と現在のつながりを物語ります。いまの日本代表の多くはドイツのリーグで成長しています▼もうひとつ、クラマーさんは大切なことを伝えました。フェアプレーです。技術や戦術とともにそれがそろわなければ、良い試合とはいえないと。先の一戦は両者イエローカードなしの好ゲームでした。その点でも先人の教えは生きています▼クラマーさんはアジアやアフリカをはじめ生涯90カ国を回り、サッカーの伝道師としての役割を果たして亡くなりました。いまや世界中に根づき人びとを魅了するスポーツ。そこには国や勝敗をこえた、さまざまな交流が息づいています。
きょうの潮流 2022年11月25日(金)
原子力規制委員会が発足したのは東京電力福島第1原発の過酷事故がきっかけです。事故の教訓として原発の推進と規制の分離をうたい、規制委は上級機関の指揮監督を受けない「三条委員会」として設置されました。「事故の防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」とされています▼発足から10年余になります。その規制強化の柱の一つが「原則40年、最長60年」という原発の運転期間のルールができたことです。規制委が所管する「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に明記されました▼ところが、原発の運転延長をねらう経済産業省は、運転期間について別の法律に移して変えようとしています。同省の言い分はこうです。原発の運転制限が再稼働の妨げになるようなら「よろしくない話」だと。邪魔な規制だとあけすけです▼解せないのが規制委の姿勢です。みずからが所管する規制に関する法律が問題になっているにもかかわらず、同省の動きを「利用政策の判断で、規制委は意見を申すところではない」と容認しています▼しかも、どんな運転延長案が出てきても対応できるよう、安全規制の見直し案を先回りして提示しています。山中委員長は「利用政策側のアクションに対する反応」と説明しますが、「推進側に規制が従属しているようにみえる」との指摘が広がるのも当然です▼事故の教訓を踏まえたルールを推進側の理由で変えていいのか。ルールを厳格に運用し、変更に反対するのが規制委の役割では。
きょうの潮流 2022年11月24日(木)
最後にお会いしたのは去年の暮れでしたね。待ち合わせの駅に笑顔で現れたあなたは、夢中になって語っていました。ご自身のこと、政治のこと、そして大好きな野球のこと▼今年は自分が白寿、日本共産党が百寿を迎えることをなによりも喜んでいました。99年の人生と重なる党の歴史。青春時代に軍隊生活を経験し、仲間たちは輸送船とともに海に沈みました。生き残ったひとりとして反戦平和のために1日でも1時間でも長く元気に生きると決意しました▼戦後学者となったあなたは「ひと」を残しました。手弁当で講師をひきうけ、若者や働く人びとに学ぶ喜びをひろめました。それぞれの興味や関心、要求から出発し、より深く物事を理解できるように心を込めて▼あなたは、つねに日本国憲法を生活の中に置いて行動していました。条文を初めて読んだときに覚えた感動を忘れず、とくに戦争放棄と戦力を持つことを禁じた9条を絶対に守りぬく。それを生涯の使命と課して、改憲の動きに目を光らせてきました▼あなたは、たたかうものをいつも励ましました。本紙「読者の広場」への投稿は生きる希望に満ち、苦労のなかで活動する人たちの背を押しました。3カ月前の最後の投稿でも新たな学びを得た喜びと平和への思いがつづられていました▼息が絶えるまで民主主義と社会の進歩に貢献したいと話していました。あなたが種をまき育ててきた草の根は、いまも全国で歴史を一歩一歩前に動かす力に。さようなら、畑田重夫さん。
きょうの潮流 2022年11月23日(水)
国名はアラビア語で「滴(しずく)」を意味するそうです。ペルシャ湾に水滴を落としたようなぽつんと突き出た半島。秋田県とほぼ同じ面積の中東の小国カタールです▼英国領から独立して、まだ半世紀。豊富な天然ガスや石油が富をもたらしてきましたが、人材が不足。およそ290万の人口のうち9割が外国人労働者とされています。わずか1割ほどの国民に豊かさが集中しているかっこうです▼その国でサッカーのワールドカップが開かれています。趣向を凝らした競技場が立ち並びますが、大会施設の建設現場では多くの出稼ぎ労働者が命を落としたという指摘も。酷暑と劣悪な環境で事故が相次ぎ、現代の奴隷制だと批判されてきました▼同性愛を法で禁じていることも問題になっています。こうして開催国の人権侵害が注目され、世界や参加選手たちから抗議の声があがるのも時代の流れでしょう。コロナ禍で強行された五輪が汚職や疑惑の舞台になっていた日本でも、スポーツのイベントに対する目は厳しくなっています▼ロシアによる侵略戦争が暗い影を落とすなか、スポーツを通して世界が一つになることには意義があるはずです。だからこそ、差別のない平和な社会にむけた発信力、フェアですがすがしいたたかいがもとめられています▼日本代表は今夜、強豪ドイツとの初戦を迎えます。悲願だったW杯出場の夢が土壇場でついえた「ドーハの悲劇」から29年。カタールの首都で流した、あの悔し涙からの成長と進化を見たいものです。
きょうの潮流 2022年11月22日(火)
信頼と実行―どんな思いで、このスローガンを掲げたのか。財務官僚から政治家に転身。妻の祖父は池田勇人元首相。叔父にあたる池田行彦氏の地盤を継ぎ国会議員の職に▼更迭された寺田稔総務相です。官僚時代に政治との接点が多く、身内にも政治家がいて、自分にとって政治は身近な存在だったと。しかしモットーにした信頼は地に落ち、実行したのは政治とカネをめぐる数々のごまかしでした▼領収書の偽造や裏金づくり、脱税や選挙買収と疑惑は山ほど。地元後援会の会計責任者を故人にしていたことも発覚しました。しかも、政治資金に目を光らせるはずの総務相みずからが規制の抜け道を探り、逃れようとしていたとは▼わずか1カ月の間に3人の閣僚が辞任に追い込まれた岸田政権。統一協会との深い関係、死刑執行を話のネタにした暴言、政治とカネの問題。どれも社会の根本を揺るがす深刻さにもかかわらず、岸田首相は「任命責任」をくり返すだけで、責任をとろうともしません▼過去には辞任ドミノが政権の崩壊を招いたことも。最初の安倍政権のときは10カ月の間に5人が交代し、その後の退陣につながりました。閣僚や官房副長官が次々と辞任した麻生政権も総選挙で惨敗を喫しました▼数字が刻まれたドミノは西洋カルタの一種で、古くから社交の場でも遊ばれてきた知的なゲームです。日本でひろく知られているのはパイを使ったドミノ倒しのほう。次に倒れる番は、もはや世間からかけ離れていくばかりの政権か。
きょうの潮流 2022年11月21日(月)
たこ焼きの値段が上がり、おでんも、定食も、コーヒーも。まさに値上げラッシュ。一方で1カ月の食費を1万円に抑えているという話を複数聞き、驚きます▼物価は上がるのに、年金は下がり、賃金は上がらない。大阪府東大阪市の日本共産党・うち海公仁府議の府民アンケートでは物価高騰・コロナ禍で「生活が苦しくなった」が8割を超え「年金生活者は食べていけない」「どうして生活したらいいですか」などの切実な声がびっしり▼企業も大変です。大阪商工会議所の調査によると、円安によるマイナスの影響(複数回答)は「原材料、商品、エネルギー価格上昇に伴うコスト上昇」が83%にのぼり、「コスト上昇に見合う価格転嫁が難しい」が65%▼「取引メーカーから原材料の値上げ要請が相次いでいる」(製造業)、「競争が激しいため、円安による調達コスト上昇を直ちに価格転嫁するのは困難」(卸売業)、「賃上げを伴わない物価上昇が続けば、買い控え等により売り上げが減少する可能性は大いにある」(小売業)などの悲鳴があがっています▼日本共産党が発表した、物価高騰から暮らしと営業を守るために賃上げを軸に内需を活発にして実体経済を立て直すという提案は緊急かつ抜本策です▼アベノミクスで増えた大企業の内部留保に毎年2%、5年間課税するだけで10兆円の財源。それを中小企業・小規模企業の賃上げ支援に回す。「これならすぐできそう」「消費税は減税し、年金は引き上げてほしい」。対話が弾みます。
きょうの潮流 2022年11月20日(日)
妖怪を世に送り出した漫画家は戦記物を描くとき、わけのわからない怒りがこみ上げてきて仕方がありませんでした。自身が味わった戦争や軍隊の理不尽さ、死んでいった仲間の無念がそうさせたのではないかと▼いま東京・調布市で「水木しげるが見た光景」と題する展示会が開かれています。水木さんが93歳で亡くなるまで長く住み漫画を描き続けた地。11月30日の命日には「ゲゲゲ忌」が開催され、生誕100年の今年は多彩なイベントが催されています▼平和祈念とも銘打たれた展示には鬼太郎たちとともに戦争の実態を描いた作品が並べられています。実体験を元にした「総員玉砕せよ!」の構想ノートも初公開され、水木さんの表現世界や思いを感じとる機会に▼去年発見されたノートには漫画では描かれなかった作品への決意が記されていました。「人間の生き死にははかないものである(中略)殺りくの記録はここの石と木だけが知っている。いまここに書きとどめなければ誰も知らない間に葬り去られるであろう」▼いまだ戦火のやまぬ世界にあって、無残にも奪われていく幾多の命。水木さんの戦争や人生観にふれるなかで平和の大切さを見つめ直し、思いを継ぐきっかけになればと主催者はいいます▼戦場で片腕を失いながら生きることをあきらめなかった水木さん。体中から発した戦争の愚かさ、日常にある平和の尊さをさらに。生死をさまよいながら、子どもたちに夢と希望を与えた漫画家の100周年に込めた願いです。
きょうの潮流 2022年11月19日(土)
ビルの一室に置かれた電話が次々と鳴りはじめました。自分の性格や生き方、夫婦や性の問題、働き方のことまで。27年前、日本で初めての男性相談「『男』悩みのホットライン」が大阪で開設されました▼当時はまだ男性を対象とした相談窓口は皆無。弱音を吐けないという男性像が、つらいはずなのに相談しにくい状況をつくってきました。しかし相談は増え続け、窓口を設ける自治体もひろがっています▼男性の悩みには共通する背景がありました。「かくあるべし」の縛り。男性にありがちな優越や所有、権力志向が自身も他者も無意識に縛ってしまい、その理想と現実との隔たりが苦しみとなって表れているというのです(『男性は何をどう悩むのか』)▼きょうは国際男性デー。男性の健康に目をむけ、ジェンダー平等を促す日として、1999年にカリブ海の島国トリニダード・トバゴで始まったとされています。女性の生きづらさを改善し、性の平等を推進することも目的に掲げます▼社会学者の田中俊之さんは、男性が当事者としてジェンダー平等に主体的にとりくむことを促しています。そして「女性に対する差別構造や不利益を解消し、フェアな環境をつくることが、結局お互いの生きづらさをなくしていくことにつながる」と▼当たり前のように思ってきた価値観からの転換。どんな会社や組織、個人であれ、そこには日々の気づきや自己改革が求められるでしょう。誰もが自分らしく生きられる社会をつくっていくために。
きょうの潮流 2022年11月18日(金)
現世人類ホモ・サピエンスが現れたのは20万~30万年前のアフリカだったとみられています。私たちの祖先にとって、大きな湖と緑豊かな自然がゆりかごのような存在になっていたとの説も▼地球の歴史からいえば人類の誕生はつい最近です。わずか1万年前、地球には100万人しかいませんでした。それが、1800年に10億人となり、およそ半世紀前の1960年には30億人。87年には50億人に達し、そして、今月15日に80億人をこえました▼国連のまとめでは世界の人口は2058年には100億人に到達する見込みです。それに伴い人間が生きるために必要な水や食料、土地、エネルギーの消費も増え続けます▼気候危機、土地や水をめぐる争い、飢餓や貧困、女性の権利侵害と、さまざまなひずみを生む人口急増。80億人に達したことを国連は「地球を守る共通の責任を果たすための警鐘」と位置づけ、持てる者と持たざる者との隔たりを埋めないかぎり、世界は緊張と不信、危機と対立であふれることになると警告します▼生命を育んできた環境や資源。そうした共有財産を勝手に食いつぶして共倒れしてしまうことをコモンズの悲劇といいます。『世界がもし100億人になったなら』の著者で科学者のスティーブン・エモット氏はそれを引きながら、われわれの行動を根本から変えることが唯一の解決策だと呼びかけます▼いま目の前に迫る人類存亡の危機にどう立ち向かうか。ホモ・サピエンス―それは「賢い人」を意味します。
きょうの潮流 2022年11月17日(木)
「死刑のはんこを押す」などとあまりにも軽く扱った法相が辞任。その顛末(てんまつ)はこの国の政権が人の命を大切にしないことの象徴のように感じられます。同時に死刑制度についても改めて考えさせられました▼実は死刑を実施している日本は国際的に見ると少数派です。世界の半数以上の国では死刑を廃止しています。OECD(経済協力開発機構)に加盟する38カ国中、死刑制度があるのは日本、韓国、アメリカの3カ国だけ。そのうちアメリカでは半数の州が事実上、死刑を廃止。韓国では25年間、死刑執行をしていません▼一方で、大切な人の命を奪われた遺族が「加害者を死刑に」という感情を抱くこと自体は否定できません。世論調査によると日本では8割の人が、死刑があるのも「やむをえない」と考えています▼作家の平野啓一郎さんは著書の『死刑について』で、自分もかつて「死刑制度があることはやむをえない」と考えていたと明かしています。「死刑廃止派」の人と激論したこともあったそうです▼その平野さんが「廃止派」に変わった理由の一つは、殺人犯となった人の劣悪な成育環境に思いを巡らせ、殺人者を生み出す社会の側の責任について考えたことでした。罪を犯した人間の存在自体を消しても、社会や政治の問題が解決されていなければ同様の犯罪が繰り返されると平野さんはいいます▼被害者を精神的・経済的に支える仕組みをつくることと合わせ、今の死刑の在り方について、より深い議論が求められています。
きょうの潮流 2022年11月16日(水)
ゴッホ、セザンヌ、黒田清輝、青木繁等々。古今東西の少なからぬ画家たちが自画像を残してきました。作品は見る側と深く対話するように語りかけてくるものがあります▼テレビの自画像を克明に描いたドラマが現れました。フジ系の「エルピス」。舞台はテレビ局。長澤まさみふんする落ち目のアナウンサーが主人公で、えん罪事件を追っていきます▼平然と飛びだすパワハラ、セクハラ発言。慣れっこにもなっている職場で、ヒロインはセンセーショナルな報道がえん罪に加担することになったと気づきます。自身が取材したものを独断で放送しようと挑む姿は、ウクライナに侵略するロシアのテレビ局で反戦を訴えた女性ディレクターのことが思い起こされます▼原発汚染水をめぐる状況は「コントロールされている」。安倍元首相の演説をそのまま流して、東京オリンピック開催になだれ込んでいく。描かれるのはテレビのありのままの現状です。自画像を映すことは業界ではタブーとされてきたことでもあります▼ドラマは6年前から企画が始動。渡辺あやが脚本を手がけ、キャスティングも進んでいましたが、当時女性プロデューサーが所属していたTBSに受け入れられませんでした。プロデューサーが関西テレビに移籍して、今回の放送にこぎつけたといいます▼沈黙して、やり過ごしたくない。制作陣の並々ならぬ覚悟を感じます。記録(視聴率)に残るより、記憶に残るドラマを。結実するかどうかは、視聴者に委ねられています。
きょうの潮流 2022年11月15日(火)
物価高騰による国民の生活苦。米中間選挙では与党・民主党の苦戦予測が伝えられたものの、大勢の判明は遅れ、上院で引き続き民主党が多数の見通しに。共和党圧勝を阻んだ裏に何があったのか▼18歳から29歳では、63%が民主党に、35%が共和党に投票したとの出口調査です。選挙戦終盤で民主党による「民主主義を守れ」との訴えが若者に響いたとの指摘も出ています▼ペロシ下院議長の夫が襲撃された政治暴力に、トランプ派を台頭させてはまずいとの危機感が広がったとの見方も。フロリダ州で下院初当選のマクスウェル・フロスト氏(25)は、初の「Z世代」議員と注目されています▼フロスト氏は「命のための行進」の組織責任者でした。17人が犠牲になった同州での高校銃乱射事件(2018年)の生存者が立ち上げた銃規制を求める草の根の取り組みです。「社会・人種・経済の正義へ、一緒にたたかおう」との呼びかけに若者たちがこたえました▼女性たちは、中絶の権利を取り戻すために動きました。自分の体のことは自分で決める、と半世紀前に勝ち取った権利が、右傾化した最高裁に覆され、違法とする州法が復活した州も▼今回、州の住民投票の項目に押し上げ、中絶の権利を州憲法に明記することを決めた州がいくつか。南部ケンタッキー州では、州憲法違反にしようとした住民投票案を否決しました。対話を重ね、人々を投票所に向かわせる草の根の努力なしには実現しない結果です。民主主義の底力が示されました。
きょうの潮流 2022年11月13日(日)
「生きて罪を償いたい」。ある死刑囚の叫びです。なぜ自分がこんなことをしたのか分かってもらい、二度とこうした事件が起きないよう役立ちたい。そんな心情を込めながら▼迫りくる死を前に明かした悔恨や罪への償いの数々。日々おびえる恐怖や、みずから死を願う複雑な心中も。最後まであきらめず無実を訴えつづける姿もあります(『死刑囚200人 最後の言葉』)▼死刑を宣告された人たちの揺れ動く心。さまざまな議論があり、問題も指摘されている死刑制度。国が人の命を奪うという行為の最終決定者である法相には、つねに命とむきあう覚悟と葛藤があるはずです▼罰とは、人権とは。人間社会の根源を問う死刑制度を、笑いをとるための世間話にした葉梨康弘法相が辞任に追い込まれました。自身の職務を、死刑のはんこを押すときだけニュースになる地味な役職とおちゃらける言動からは命を扱う重い責任のかけらも感じません▼過去に同じ発言をくり返しながら本意ではないとごまかす。そんな人物を任命した岸田首相も、彼の発言がもつ意味を問うことなく、かばいました。統一協会との深い関係をとぼけまくった山際氏のときもそうですが、何が問題で反省すべきは何なのか、この首相には省みるつもりもない。自身の責任も▼犯罪をうむ要因となる過酷な環境、悲しみを背負った犯罪被害者へのケア。人を支え、なによりも命を大切にする優しい社会を。その気持ちをもたない人たちに政権を担う資格はありません。
きょうの潮流 2022年11月12日(土)
新型コロナ感染症が流行し始めた2年前の春。生活のあり方が大きく変化しました。在宅での記者活動の日もあり、荒れ放題の小さな庭の手入れをするように▼いま庭では、シュウメイギクが風にゆられてお辞儀をしてくれます。ノブドウの実はトルコブルーや紫色に輝き、ヘンリーヅタは赤く色づいた葉を落とし始めました。コロナ前の仕事の仕方にほぼ戻った今も、季節の移ろいを感じる時間はいとおしい▼英国・北アイルランドの豊かな自然の中での家族との暮らしをブログで紡いだダーラ・マカナルティさん(18)。『自閉症のぼくは書くことで息をする 14歳、ナチュラリストの日記』(近藤隆文訳)で、自然の中に身を投げ出すとき、自分らしくなれると語っています▼〈ぼくが望むのは鳥の歌、あふれんばかりの羽ばたき、/虫のハミング、もう毒や破壊はいらない。/成長のための成長は、終わりにしなければ。/ぼくの世代は目にできるのか、本来の/反乱を?〉環境活動家でもあるダーラさんはこう訴えます。「自然の世界を愛するだけでなく、守ることがぼくら全員の務めだ」▼エジプトでいま、COP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)が開かれています。危機的な温暖化に対しどう責任を取るのか、問われています▼ダーラさんは自然に気づくことがすべてのスタートだといいます。足を止め、耳をすまし、目をこらす。新たな発見は喜びをもたらします。庭ではミモザやクリスマスローズが花芽をつけています。
きょうの潮流 2022年11月11日(金)
女性たちのあゆみに勇気をもらった―。男女の格差が世界で最も少ないアイスランドを取材した本紙特派員の記事に反響が寄せられています▼女性の社会進出と権利がひろがる国。挑戦と前進には100年をこえる草の根の運動が息づいていました。たゆまぬ女性たちのたたかいは日本でも。1886年、甲府の雨宮製糸で起きた争議が最初のストライキとして記録されています▼当時盛んだった製糸業を支えていたのは農村部から通う女工でした。劣悪な労働条件に加え、工場主が結託して移動の禁止や労働時間の延長、賃金切り下げなどを実施。それに対し、100人をこえる女工たちが近くの寺にたてこもりました▼同様のストライキは他の製糸工場に波及。のちに初期の労働組合がつくられていきます。1300人が決起した岡谷の山一争議や『女工哀史』の舞台となった東洋モスリン争議をはじめ、製糸や紡績の女性たちのたたかいはその後もつづきました▼戦前刊行された山田盛太郎『日本資本主義分析』は、外貨獲得のために奴隷のように働かされた女工が軍国日本の労働力の供給源となった構造を明らかにしました。それを打破するため、ともに立ち上がったのが伊藤千代子や飯島喜美といった日本共産党員でした▼戦前は岡谷の製糸工場で働き、戦後も東芝の工場閉鎖・解雇とたたかってきた同僚記者の母親も、その一人。93歳の生涯には、1世紀以上も前から女性の解放とジェンダー平等を求めてきた党の歴史が刻まれていると。
きょうの潮流 2022年11月10日(木)
見上げる夜空にスマホをかざす大勢の姿がありました。月が欠けはじめ、やがて赤銅色に染まり、ふたたび、輝く満月へ。全国各地で開かれた観察会も興奮につつまれました▼8日の天体ショー。満月が地球の影に覆われる皆既月食と、月に天王星が隠れる今回のような惑星食が重なるのは442年ぶり。前回の1580年といえば、織田信長が石山本願寺を滅ぼした年にあたります。その2年後、天下統一を目前にしながら本能寺の変で倒れた信長にとって月夜に起きた変事は凶兆だったか▼古来、月がむしばまれていくような月食は、人びとにとって忌むべきもので、天変地異の前兆とされてきました。現象のからくりを知る現代人からは想像もつかない恐怖を感じていたのかもしれません▼つみ重ねてきた歴史と時代の進歩を感じますが、今を生きる私たちにも天地の異変へのおびえがあります。地球温暖化がもたらす気候危機によって▼猛暑に干ばつ、豪雨や海面の上昇。異常気象による自然災害は世界の至る所で。エジプトで開かれている国連の会議でグテレス事務総長は「われわれは気候地獄への高速道路を走っている。アクセルを踏み続けながら」と改めて警告を発し、各国首脳に協力を訴えました▼姿をみせない岸田首相のように、存亡がかかった交渉の場に本気でむきあおうともしない国も。次の「ダブル食」の観測は322年後に。環境破壊や戦争、ウイルス感染…。人類は試されています。その時はまた、めぐってくるのかと。
きょうの潮流 2022年11月9日(水)
外国人観光客が増えてきました。先月から水際対策が大幅に緩和され、個人旅行も解禁。急激な円安も相まって大勢の訪日が見込まれています▼政府は需要喚起をあてにしますが、ただお金を落としてくれる人たちとしか見てはいないか。日本食や文化が好きで何度も来日している香港の知人が、最近嫌な思いにさせられることが多くなったと話していました▼そもそも外国人を受け入れる資格があるのか。先日、国連の人権に関する委員会が日本政府に勧告しました。国際的な基準にそった独立した人権救済の機関を早く設けよと。担当者は「外国人が不当な扱いを受けないよう、あらゆる適切な措置をとるべきだ」と訴えました▼とくに懸念を示したのは入管施設の収容者へのひどい扱い。体調不良を訴えながら放置されて死に至った事案が相次ぎ、職員による暴力行為も後を絶ちません。2007年以降、収容中に亡くなった外国人は17人にも上ります。一時的な措置であるはずの収容を無期限にしていることも非難されています▼人権意識の著しい欠如。国連の委員会はまた、沖縄の人びとを先住民族と位置づけて権利を保障するよう求めています。抗議やデモへの過剰な制約、沖縄で抗議行動をする人たちの不当逮捕があるとして▼在日外国人に対するヘイトスピーチも同様ですが、根っこにあるのは個人の尊厳を傷つけること。国連の勧告にも政府は後ろ向きですが、一人ひとりの人権を守ってこそ共生社会をつくる一歩になるはずです。
きょうの潮流 2022年11月8日(火)
われら戦後世代には永久に奪われてはならない価値と思えたものがある。それは平和と平等。「戦後政治」を主導してきた価値だが、それが危うくなっている―▼敗戦の年に生まれ、政治記者として戦後を歩んだ早野透さんが亡くなりました。田中角栄をはじめ歴代自民党の政権中枢に食い込んできたジャーナリストは、平和と平等の夢を抱きながら日本の政治を見つめてきました▼朝日新聞を退社してから、早野さんは本紙にたびたび登場。志位委員長との新春対談やインタビューでは政治の問題点をほりさげ、語り合いました。それは自身が持ち続けた人間世界の価値と響き合うものがあったからでしょう▼戦争のにおいにはとくに敏感でした。険悪さを増す北朝鮮や中国との接し方についても、政治や外交の場では相手への正当な批判、追及と感情のおもむくままのバッシングを分け、自らの中で線を引く自制心と反省力をもたなければなるまいと▼戦争できる国づくりに突き進んだ安倍政治からつながる岸田政権は、いま大軍拡と先に攻め込む国へと、さらに変ぼうさせようとしています。支持率が下がり続ける根っこにあるのは、なによりも大切なのは国ではなく、人のいのちだということがわかっていないから▼市民と野党の共闘で政治を転換することに期待を込めていた早野さん。共産党の果たす役割を評価しつつ、こんな言葉もかけてくれました。「共産党は現実政党であるけれども、ぼくらの世代にとってはロマンの政党でもある」
きょうの潮流 2022年11月7日(月)
自由と希望と無限の可能性。シンボルマークの青い鳥はその象徴でした。小さなさえずりが大きな声となって独裁政権さえ打ち倒す未来を思い描いた▼2006年にサービスを開始したツイッターは瞬く間に社会や人々の間に浸透し、新たなつながりを築きました。国内外の出来事や問題をリアルタイムで共有。ツイッターデモやネット署名を呼びかけ、社会を動かし、世界を変えてきました▼自身の声を発信するだけでなく、意見や議論を交わし、寄付や募金を集める手段にも。さまざまな運営の課題を指摘されながら、いまや世界で3億3千万人、日本でも4500万人が利用しています▼いま、その会社で全従業員の半数が解雇されています。買収した世界一の富豪イーロン・マスク氏によって。突然のリストラに悲鳴のような投稿が相次ぎ、事前通知がないのは違法だとして訴える社員も▼これまで増員してきた投稿内容の監視や人権問題を担当する部門が弱まることから、大手企業が次々と広告の配信を取りやめる事態に。実際、買収後に嫌がらせや差別用語が急増しているといいます。いくらマスク氏が「言論の自由を守る」と強調しても懸念はひろがる一方です▼収益の改善を理由にいとも簡単に働く場を奪う人物に社会的なネットワークを任せられるのか。共同創業者で会社の気風をつくったビズ・ストーン氏はこう語っていました。「ツイッター社が社会の役に立てるとしたら、それはテクノロジーの勝利ではなく、善意の勝利だ」
きょうの潮流 2022年11月6日(日)
「年取った世阿弥(ぜあみ)は色っぽいのよ。あなたにぴったり。ぜひお演(や)んなさいな」。“瀬戸内寂聴生誕100周年記念”と銘打った嵐圭史さん主演の舞台「世阿弥」は、原作『秘花』を書いた寂聴さんの、そんな言葉から始まりました▼それから20年。圭史さんが演じる晩年の世阿弥は、心に深い闇を抱え、狂おしいほど切ない。時の将軍・足利義満の寵愛(ちょうあい)を受け、能楽師として栄華を極めますが、その息子・義教によって人生は暗転。72歳で佐渡に流されます▼しかし流罪となった後も、命のある限り、芸の高みをめざそうとする世阿弥。芸への執念は、82歳にして新作に挑む圭史さんの姿とも重なります。劇団前進座の離座から5年。「裸一貫、無一文からの再出発」は、いばらの道でした▼初舞台のはずだった自主公演「玄朴と長英」は、コロナ禍の直撃で全面中止。ようやく昨年、全国の人々の支援で上演を果たしました。前進座時代に培った人脈の賜物(たまもの)です。そして今回、人生初のSNSを活用、大学生の協力を得てクラウドファンディングも試みます▼今作で印象深いのは、世阿弥の「命には終わりあり 能には果てあるべからず」のせりふです。たとえわが身は滅びようと能の本は残る。実際、世阿弥は父・観阿弥の教えを書き留めた『風姿花伝』をはじめ、多くの書物を残しました▼寂聴さん、圭史さんの手を通して室町時代から現在に“出現”した世阿弥。伝統芸能は、このように受け継がれていくのかと感慨深い。京都、名古屋を巡演。
きょうの潮流 2022年11月5日(土)
「子どもたちに もう1人保育士を」「軍事費多すぎ 子育て予算を倍増に」。秋晴れの「文化の日」、にぎやかな声が有楽町に響きました▼日比谷野外音楽堂で開かれた、すべての子どもによりよい保育を!大集会に全国から集まった働く若い世代たち。願いは「すべての子どもに格差なく等しく質の高い保育が保障されること」です▼3年ぶりのリアル開催。「コロナ禍で社会全体が気づいたことは二つあります。『ケア労働の重要さ』。感謝しかありません。『少人数って大事だ』です」とのあいさつが。1人の保育士が担当する子どもの数(保育士の配置基準)は、5歳児の場合、日本は30人で70年前のまま。スウェーデン6人、アメリカ9人、ドイツやイギリスは13人です▼保育士が受け持つ人数を少なくしたら、保育士と子どもにどんな好影響があるのか。2020年春の緊急事態宣言中に出席率が下がった保育園を対象に大阪保育研究所が調査しました。それによると「子ども同士のかかわりも、ゆったりしていた」「保育者が大きな声を出すことがなくなった」と▼追い風にしたいのは、政府が来年4月に「こども家庭庁」を創設し、予算倍増を表明していること。“こどもまんなか社会”をめざすというなら軍事費増でなく、未来を担う主権者たちの予算の大幅増でしょう▼シニア世代が切り開いてきた保育運動。孫たちのため、ネクスト世代やその次の世代と共に設置基準改善をかちとる新しい運動を。つながり行動するときです。
きょうの潮流 2022年11月4日(金)
昔から金の切れ目が縁の切れ目といわれてきましたが、両者の縁はそう簡単には切れないらしい。互いに権力のうまみを味わってきた縁ですから▼事実上の大臣更迭からわずか4日後。山際大志郎氏が自民党のコロナ対策本部長に就任していたことがわかりました。統一協会との深い関係を再三指摘されながら、記憶にない、記録がないとくり返し、辞任に追い込まれた人物。それをすぐに要職に就けるとは▼これには、国民をバカにしているという怒りとともに、次の波に入りつつあるコロナ対策に不安を訴える声も。1年ごとに書類と記憶を消してしまう人に、いのちとくらしがかかった役職が務まるのか▼切っても切れない協会と自民党。常軌を逸した岸田首相の人事は、それだけではありません。協会の関係者らがつくった後援会を追及されるまで維持していた井野俊郎防衛副大臣。「よく読まず、中身を深く考えず」協会の推薦確認書にサインしていた山田賢司外務副大臣も居座っています▼たとえ支持率が下がろうが政権を失うことはないとのおごりか。あるいは権力にしがみつく執念か。あの杉田水脈氏を政務官に抜てきしたことも岸田首相への批判をひろげています。カルトにヘイトかと▼ひとつひとつが絡み合い、どこまでもつながっていく鎖。それが語源だという腐れ縁は、離れようとしても離れられない関係を意味します。断ち切れない統一協会と自民党の腐れ縁は社会を不幸にするだけです。政治が縁をむすぶ先は国民です。
きょうの潮流 2022年11月3日(木)
古代ギリシャのプラトンは意外にも芸術否定論者でした。芸術は人を惑わすとして詩人追放論を唱えました。これに対してアリストテレスは、人間や物事を理解するうえで芸術は有用だと擁護しました▼この論争は今も続いています。3年前、あいちトリエンナーレで「慰安婦」像などを展示した「表現の不自由展」をめぐって同じ対立がおきました。中止を求めた政治家たちは、有害な芸術は公共施設から追放すべきだと考えたのです▼最近出た『芸術文化の価値とは何か』(水曜社)には、問題を考えるヒントが満ちています。イギリスの政府系研究機関による6年間の大規模学際研究の最終報告書です。「文化的価値において鍵となるのは、芸術文化体験が個人に内省を促す力である」と強調します▼例えば刑務所で家庭内暴力を描いた演劇を同じ罪の受刑者たちが鑑賞する更生プログラム。受刑者は舞台の片側と反対側に。劇の内容とともに、向かい側の受刑者たちの反応を見ることが自己を省みさせます▼内省を促すのは、芸術文化が「従来の考え方を揺さぶる安全な場を提供する」からだと指摘します。刑務所の例でいえば、一方的な懲罰や訓戒ではなく「複雑で逆説的な、あるいは複数の意味」を持つ場で、受刑者自身が自分で考え始めます▼行政と芸術のかかわりでよく問題になるのは、補助金のあり方です。イギリスは独立した専門家機関による芸術文化への公的助成制度が確立しています。日本もぜひ見習いたい。きょうは文化の日。
きょうの潮流 2022年11月2日(水)
防ぐことはできた。次々とあがる怒りの声。犠牲者の多くが若者と女性だったことも無念さをいっそう募らせています▼ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で日本人2人をふくむ156人が亡くなった惨事。複数の韓国メディアは事故が起きる可能性を地元の警察署が事前に指摘しながら、当日の警備計画に反映されなかったと報じています▼大勢がくり出すことをわかっていながら安全管理の対策をとらず、今回のようなイベントの密集に備えたマニュアルも作成されていなかったことも判明しています。こうした群衆雪崩とよばれるリスクは突発的に発生することもあり、ひとごとではありません▼映像からも伝わるようにあの狭い通りがすし詰め。四方八方から圧力がかかり、にっちもさっちもいかない状態に。息ができず、立ったまま押しつぶされて圧死した犠牲者もいるといいます。2001年の明石の花火大会のように、日本でも過去に同様の事故は起きています▼韓国の事態と時を同じくしてインドではつり橋が崩落し、少なくとも140人以上が死亡する惨状に。およそ140年前にかけられた橋は改修工事を経て通行が再開されたばかり。事故をめぐって保守会社の従業員らが逮捕されています▼くり返されるたびに突きつけられています。人災ともいえる事故がなぜ起きるのか、安全・安心な社会をどうつくるのか―。事故の原因はそれぞれですが、ゆきつく先は同じでしょう。一人ひとりのいのちと人権が尊重される社会をつくってこそ。
きょうの潮流 2022年11月1日(火)
「トマホーク」。その名は、アメリカ先住民が使用していた手斧(ておの)に由来しています。軽量で使いやすく、今もキャンプや、手投げ用の武器としても使用されています▼多くの人は、米軍が使用している巡航ミサイルの名称として記憶に刻んでいるのではないでしょうか。もともと、米軍は核兵器の運搬手段として開発。1980年代には、日本に寄港する米艦船の多くに「核トマホーク」が搭載。「核持ち込み」の象徴でした▼米ソ冷戦時代は使われませんでしたが、米軍は91年の湾岸戦争で大量に使用。その“成功体験”に基づき、2003年3月20日未明、米イージス艦や原潜から発射されたトマホークがイラクのフセイン政権中枢部を攻撃し、無法な先制攻撃戦争の幕開けとなりました▼米軍はイラクやアフガニスタン、シリアで繰り返し使用。その数2300発におよびます。目標を正確に捕捉できるといいますが、イラク戦争ではトマホークがイラン領内に着弾するなど誤爆も相次いでいます▼よりによって、日本政府が「反撃能力」=違憲の敵基地攻撃能力の切り札としてトマホークの購入を検討しているといいます。もともと自民党の国防議連が保有の検討を提言。すでに同党内では歓迎論も出ています▼トマホークは、「敵基地攻撃」を超えた無法な先制攻撃の象徴です。憲法9条を持つ日本が保有すれば、その衝撃は計り知れず、東アジアに新たな軍拡競争を引き起こすことは必至です。タガが外れた軍拡論にはあきれはてます。
きょうの潮流 2022年10月31日(月)
「同じ大学に通えていることに誇りを感じました」。戦前の日本共産党員、伊藤千代子の生涯を描いた「わが青春つきるとも」の上映会が彼女の母校である東京女子大で開かれました▼自分の信念を最後まで貫く姿がとても印象に残った、彼女らの行動があったからこそ私たちの今がある。学生たちの感想です。100年前、不平等な社会の変革に命をかけた千代子の生き方は、現在を生きる若者の胸を打っています▼公開から半年。関係者の努力で全国にひろがった上映運動は350会場・6万人が参加。年末までさらに90会場が予定され、オリジナルサウンドトラックCDの発売も。金沢では上映会の模様をNHKがとりあげました▼時代をこえて人びとの心をとらえるのはなぜか。社会や政治をよくしたいという千代子のいちずな思いとともに、差別されてきた女性の立ち上がる姿が現代にも重なり共感を呼んでいるのでは。原作者の藤田廣登(ひろと)さんはいいます▼党創立100周年記念講演について本紙で語り合った若い共産党員たち。戦前から党が先駆的に女性解放を唱え、女性党員が不屈にたたかってきた歴史にふれ、「新たに党員となる女性である自分としては、彼女らの存在を心にとめて恥ずかしくないあり方をしたい」と決意する後輩も▼歴史学者の纐纈(こうけつ)厚・山口大名誉教授は千代子の映画にこんなメッセージを寄せています。「世の変革を求めて青春をささげた一人の女性が未来に託したものは何か。私たちには応答する責務がある」
きょうの潮流 2022年10月30日(日)
「このお菓子食べない?」と声をかけられたけど食べられず“冷たいやつ”と思われた。はやりのスイーツをプレゼントしたいけれど、味がわからないのであきらめた…。食物アレルギーがある10代、20代の声です▼アトピー・アレルギー性疾患がある患者や家族を支援する、認定NPO法人アトピッ子地球の子ネットワークが「ティーンズミーティング」報告集を作りました。困ったことやつらかったことを書き出し、語り合い、解決法を考えたその場の声を収めました▼細心の注意を払っても誤食は起きることがあり、「発症するたびに落ち込む」を繰り返して自己否定が積み重なるといいます。自分だけの食事を親に作ってもらったり、友達に気を使われたりすることへの、申し訳なさもぬぐいきれません▼アレルギー対応の給食提供や原材料表示など、この間の動きはまだ一歩にすぎないこともわかりました。知識の不十分さからくる心無い言動に傷つき、高校や大学に入りたくても「対応が難しい」などと拒まれることがありました▼事務局長の赤城智美さんは「おとなの責任」を強調します。「教育の機会均等」や「尊厳」という言葉を知らなかったティーンズ。「おとなによって『仕方ない』と諦めさせるなんて、まずいと思うんです」。同時に願うのは、自らの人生を切り開くための科学的な知識の提供です▼目標は、誰もがともに生きることができる社会をつくること。そのために、まずは私たちが知ることから始めたいと思うのです。
きょうの潮流 2022年10月29日(土)
気候変動に関する国連の国際会議(COP27)が来月、アフリカのエジプトで開かれます。温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」(2015年)は今世紀末の世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ2度を十分に下回り、1・5度に抑える努力を掲げました▼今の世界の目標は1・5度に抑えることです。会議を前に世界の250以上の医学雑誌が、アフリカと世界のための緊急行動を呼びかける共同の社説をいっせいに発表しました▼社説は、北米と欧州が産業革命以来、温暖化の要因である二酸化炭素排出量の62%を占めるのに、アフリカはわずか3%しか寄与していないといいます。一方、サハラ砂漠以南の干ばつは1970年代から3倍に増え、18年の壊滅的なサイクロンでは220万人に影響を与えました▼「アフリカは気候危機に不釣り合いに苦しんできたが、危機を引き起こすことはほとんどしていない」。社説はその不公平さを強調してこういいます。「豊かな国々は、気候変動の過去、現在、未来の影響に対処するため、アフリカと脆弱(ぜいじゃく)な国々への支援を強化しなければならない」▼別の報告にも注目しました。温室効果ガス排出量の約4分の3をエネルギー部門が占め、その転換が不可欠だという国連の世界気象機関の報告書です▼エネルギー部門で太陽光や風力、水力などクリーンな形態に切り替え、エネルギー効率を高めることは「21世紀に私たちが繁栄するために不可欠だ」と結論づけます。大量排出国・日本の責任は大きい。
きょうの潮流 2022年10月28日(金)
初霜や初冠雪、冬のたよりが届きはじめました。冷え込む夜には、身も心も温まる鍋料理が恋しくなる季節。おでんもその一つです▼あなたが昨年の秋冬に食べた鍋料理は? 食品メーカーの紀文が家庭の鍋料理を毎年調べていますが、開始以来おでんが23年連続で1位を記録。好きな鍋ランキングでも常に上位に入り、まさに国民食といえるでしょう▼事典によると、おでんの語源は豊作を祈願する田楽(でんがく)。拍子木形に切った豆腐に竹串を打って焼いた豆腐田楽がルーツで、室町時代に生まれています。その後こんにゃく田楽が現れ、江戸の頃には煮込み田楽が庶民に愛され、やがておでんに進化していったといいます▼戦後は家庭料理として普及。種も増え、郷土によっては具材も味付けもとりどりに。しかし変化はしても、先の調査では、大根や玉子、こんにゃくやちくわ、はんぺんやさつま揚げといった定番の種が中に入れる上位を占めています▼安くておいしい家庭の味ですが、そこにも値上げの波が押し寄せています。食材や調味料、燃料代も。ところが、政府の対策は旅行や外食の支援が目玉で、場当たり的な対応に終始しています。一方で医療や介護、年金といった生活の根っこにかかわることは負担が増すばかり▼コロナ禍や物価高で各国が消費税の減税にふみだしているなかで、政府の税制調査会ではさらなる引き上げを求める声が相次ぎました。進化していくおでんも基礎があればこそ。くらしの土台を崩させてはなりません。
きょうの潮流 2022年10月27日(木)
「何があったのか、どうしてこうなったのか、よく分からない」。地元紙が伝えた自民党府議の言葉は衝撃の大きさを物語っています▼小さな町の大きな勝利はいまも余震が続いています。京都府内で最も面積が小さい自治体の大山崎町。16日投開票の町長選で日本共産党が参加する「大山崎民主町政の会」支持の無所属現職の前川光氏が自民、公明、国民民主推薦の前職候補を大差で破り再選しました▼「町政奪還」を楽観していた自民党にさらにショックを与えたのは町議選の結果でした。定数12のうち前川町政を支える日本共産党が1、2位はじめ前回に続き3分の1の4議席を獲得し得票数・率とも過去最高。先の参院比例票の2・7倍でした。自民党4氏(推薦含む)の合計票を上回りました▼「共産党町政」で「停滞した」などの攻撃は通用しませんでした。地元メディアも「町立3保育所を維持し、新型コロナウイルス感染拡大の支援策として上下水道基本料金を14カ月免除するなど、前川氏の1期目の取り組みは町民に一定評価されたといえる」(「京都」)と報じました▼共産党は暮らし・子育て応援の前川町政をさらに前にと訴えるとともに、安倍元首相の「国葬」を強行し統一協会との癒着を断ち切れず、コロナや物価高騰に無策な岸田政権に大山崎から審判を、と呼びかけました▼「天下分け目の天王山」ゆかりの地から、「潮目の変化」が大きな変化へとつながる可能性を感じさせた政治戦。統一地方選は来春に迫っています。
きょうの潮流 2022年10月26日(水)
命にかかわる仕事がしたくて獣医師になった青年は、やがて身内の反対をおしきり政治の世界へ。「グローバルな視点で“いのちの価値”を見つめる」。今も昔もこの一点にまっしぐら▼自民党の山際大志郎衆院議員が自身の経歴を漫画にしてホームページで紹介しています。強調される命の価値とは何なのか。詐欺商法や高額献金で人びとの生活を壊し、周りの財産や命さえ奪ってしまうカルト集団と深くつながってきた人物なのに▼統一協会との接点が次つぎと明るみに出ていた山際氏が経済再生相を辞任しました。海外に行ってまで教団の会合に何度も出席し、韓鶴子総裁ともたびたび面会して集合写真にも納まる。それを指摘されると「記憶がない」「資料がない」を連発▼すべて後追いで人を食った釈明をくり返してきたことがさらに批判を広げました。辞任会見でも、数千や数万の会合を全部覚えているほうが不自然だと開き直り、説明責任を果たすとしながら資料を1年ごとに捨ててしまうという矛盾を平然と口に▼閣僚や国会議員はもちろん、人としても疑わしい人物をかばい続け、くらしや命にかかわる経済やコロナ対策の担当相に用いた岸田首相の責任は重い。しかも、ここにきての辞任は教団とのかかわりではなく、国会運営だというのですから▼まだ内閣や自民党内にはずぶずぶの関係を抱えた人がたくさん。これから関係を断つとはいうものの、これまでにはふたをする岸田首相。いまも泣いている被害者の声も聞かずに。
きょうの潮流 2022年10月25日(火)
「チャレッソ(よくやったね)」。相手をほめたたえる韓国語の言葉が、かけ橋になってきました。スピードスケートで世界の頂点に立った小平奈緒さんと韓国の李相花(イ・サンファ)さんです▼ふたりの姿は人々の記憶に刻まれてきました。ライバルとして臨んだ4年前の平昌五輪・女子500メートル。優勝した小平選手が涙にくれる李選手の肩を抱いてかけたひとこと。今年の北京五輪で下位に低迷した小平選手に、李さんが放送席からとどけた言葉。それが「チャレッソ」でした▼10代の頃から競いあうなかで親交を深めてきました。ともに刺激し、背中を追ってきた存在。トップに立ちつづける重圧、けがを負いながらの五輪のレース―。いくつもの同じ思いを共有してきました▼22日の小平選手の引退レース。会場のスクリーンに李さんからの日本語のメッセージが流れました。「私たちは目標を達成した。これからも奈緒の未来を応援するよ」▼国境をこえて人間同士がつながり、友情をはぐくむスポーツのすばらしさ。ほんらいオリンピックの舞台は、両選手が体現したような人間賛歌を大いにアピールする場ではなかろうか。ところが東京五輪では、スポーツを食い物にしたみにくい姿ばかりが…▼築いてきた関係を今後もつづけていきたいというふたり。小平さんは未来のアスリートたちにこんなメッセージを送っています。「ぜひ互いを尊重し、違いを分かろうとし、その人が積み上げてきた努力を認め、励ましあえる仲間を見つけてください」
きょうの潮流 2022年10月24日(月)
世界最大の軍事力をもつ軍隊の起源はボランティアでした。17世紀の前半、町を守るため有志によって組織された武装団体。のちに義務化された州兵にいたる民兵が、近代アメリカ軍隊の主流でした▼独立戦争を指導したワシントンは正規軍をつくりましたが、その後に解体。理由は世界で最初の人権宣言といわれるバージニア権利章典の一節にありました。「平時における常備軍は、自由にとって危険なものとして避けなければならない」(大江志乃夫著『徴兵制』)▼いま兵役につくことの意味が改めて問われています。ウクライナ侵略を続けるロシアでは徴兵から逃れようと国境をこえる姿が後を絶ちません。「これはロシアの自国民に対する戦争だ」と批判する若者も▼世界的な人気グループ「BTS」のメンバーが兵役義務を果たすと発表した韓国では、その是非をめぐって議論がふっとう。免除の公平性や女性にも徴兵を求める意見まで▼彼らが戦場に行かず兵役にもつかずに生きていけるよう、世界のあらゆる紛争や武力行使、緊張を緩和するために何ができるか。学び、語り合いたいと発信する日本のファンもいます▼先の大戦後、欧州は徴兵制を相次いで廃止しましたが、ロシアに近い国々は次つぎと復活を表明しています。対立を激化させる力による争い。それは政権が大軍拡にひた走る日本でもひとごとではありません。国家によって人間の幸福とは最もかけ離れた戦争に駆り出されていく不条理。目はそこに注がれています。
きょうの潮流 2022年10月23日(日)
岩手県北部の山村、一軒の煙突からゆっくりと煙が上がっていました。使い始めた薪(まき)ストーブの暖かさがこちらにも伝わってきました。山の恵みを利用してきた一戸(いちのへ)町の小繋(こつなぎ)は「小繋事件」の名で知られています▼先週、集落の入り口近くに、山の共同利用、管理を行う「入会権」を守るたたかいを刻んだ記念碑「小繋の灯」が建立されました。長年の慣行だった村民の入山を山林地主が所有名義を盾に禁止したのに対し、裁判を起こしたたたかいは、3世代にわたりました▼「この闘いは労働者、農民、知識人、文化人、学者、学生、そして指導と支援に半生をささげた方々によって支えられた」。碑文には小繋集落民、元町長と並んで岩手小つなぎの会世話人代表・早坂啓造さんの名が刻まれています▼小つなぎの会は2017年、事件100周年の年に碑の建立を決めましたが、岩手大学名誉教授の早坂さんは完成を見ずに2年前に亡くなりました。専門は経済学で、『資本論』に関する著書も▼若きマルクスが独の州議会での木材窃盗取締法を批判し、晩年には共同体が未来社会のひな型になると展望していました。早坂さんはマルクスの洞察に励まされるように膨大なたたかいの資料の収集に力を入れ、デジカメに1万7800コマ収めました▼碑の建立式に集まった参加者からは、小繋事件の遺産を学び、入会権をとらえ直し、現代に生かそうと発言が続きました。自然環境保護、山村再生と結んで、そして未来につながる羅針盤として。
きょうの潮流 2022年10月22日(土)
1755年、ヨーロッパの国々にやがてフランスのベルサイユで宿命的な出会いを持つことになる人間が生まれた―。半世紀前の連載開始後、空前のブームを巻き起こした漫画はそんな一節から始まりました▼女性に生まれながらも軍人として育てられた男装の麗人オスカル、フランス王妃のマリー・アントワネット。ふたりを軸にフランス革命に至るまでの宮廷や民衆の人間ドラマを描いた「ベルサイユのばら」です▼宝塚歌劇で舞台化され、アニメにもなった作品は世代をこえて読み継がれています。50周年の今年は記念の催しが各地で。原画などが並ぶ東京・六本木の展示会には自身の青春を重ねて懐かしむ姿も▼少女漫画で歴史ものは当たらないというのが当時の常識で、著者の池田理代子さんも編集者から「おんな子どもに歴史なんかわかるわけがない」といわれたそうです。女性漫画家の原稿料は男性の半分だったといいます▼いまより差別が激しかった時代。男女の区別なく自分の才能によって人生を切り開いていってほしいとの願いを、池田さんはオスカルに込めました。男社会の中でたたかうその姿は働く女性たちの共感を呼びました▼「ベルばら」の誕生に影響した二つのことを池田さんがあげています。中学の先生から贈られた「弱者の言葉はつねに正しい。かかる社会的真理を追求されたい」という言葉。ベトナム戦争への徴兵を拒みボクサー資格を奪われてしまうムハマド・アリさんの生き方。信念に従って生きる尊さを。
きょうの潮流 2022年10月21日(金)
奇想天外なテレビドラマです。NHKの「一橋桐子の犯罪日記」。物騒な題名はともかく、笑いながら切なくもあり身につまされるのです▼主人公は70歳の女性。気の合う友との共同生活が楽しくもあったのが、相手が急死して独りぼっちに。年金とパート収入だけの老後は心細い。ふとしたことから活路を見いだしたのが3食付きの刑務所暮らし。なんとかムショ入りしようと奮闘して…▼ドラマの中の話と片付けられない切実感があります。現実の社会の合わせ鏡だから。国民年金は5万6千円ほど、厚生年金の平均はおよそ14万6千円。老後の不安を訴える人が8割を超える調査もあります▼今月から75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担が2倍となりました。知人の話によると、働いていたころの健康保険料は1万円で収まっていたとか。退職して国民健康保険になると、一気に1・5倍に。後期高齢者になった途端、なんと2万円を超えました。反比例でうなぎ登りです▼「後期高齢者医療制度は『生活を支える医療』を提供、長年、社会に貢献してこられた方々の医療費をみんなで支える」とは、全国健康保険協会のホームページ。なんとも空々しい。怒り心頭です▼国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延ばすことを政府が画策しています。社会保障で国民を傷めつける一方で、準備されているのが6兆円を超える巨大な軍事費。高齢者も現役世代も黙っているわけにはいきません。3食付きの塀の中に行くのはごめんです。
きょうの潮流 2022年10月20日(木)
人間に値する生活とは何か。人間とはどういうものなのか。朝日茂さんが起こした裁判は、それを明らかにするものとして「人間裁判」と呼ばれました▼重症結核患者だった朝日さん。生活保護を利用して岡山県早島町の国立療養所で暮らしていました。「生活保護基準のあまりの低さ、とうてい人間生活としては耐えられない低さ」は生存権を保障する憲法25条に違反すると提訴しました▼「『健康で文化的な』とは決してたんなる修飾ではなく、その概念にふさわしい内実を有するものでなければならない」。そう指摘し朝日さんの訴えを認める判決を、東京地裁の浅沼武裁判長は62年前の10月19日に出しました▼浅沼判決は「健康で文化的な生活水準」について3点指摘します。国内で暮らす最低所得層の生活水準ではない。その時々の国の予算配分によって左右されず、それを指導支配すべきものである。すべての国民にあまねく保障されなければならない―▼朝日さんの怒りの火をともし続けようと、朝日訴訟の会が活動しています。岡山市内で朝日さんの遺品や訴訟関係の資料を展示した資料室も運営。一人ひとりが語り部となり、社会保障拡充の運動の輪を広げようと呼びかけます▼これに応え朝日さんの遺志を継ぐようにして、全国の生活保護利用者が、保護費削減は違憲、違法だとして国などを相手に提訴。くしくも19日に横浜地裁が原告勝訴の判決を出しました。朝日さんは励まし続けます。「権利はたたかう者の手にある」と。
きょうの潮流 2022年10月19日(水)
胸にたぎる同じ願いに声をあわせ、力をあわせ、みなさん一つになりましょう!壇上に掲げられた呼びかけのもと、各地から集まった女性たちの笑顔輝く希望の船出でした▼1962年10月19日、全国的な組織として新日本婦人の会が産声をあげました。「きょうここに私たちは一つ心に結ばれて独立と平和、婦人解放のたたかいをともにする感激で心をいっぱいにしています」。結成大会の宣言です▼婦人団体が戦争に協力させられ、新しき世をめざした女性運動もつぶされていった戦前の痛苦の経験。女性たちは新しい憲法の息吹のなか、平和やくらしを守り、男性支配からの解放をもとめて立ち上がりました▼さまざまな願いをもつ女性がだれでも参加できる組織の誕生に、山ほどの要求運動がひろがっていきました。草の根の班や多彩なサークル(小組)、国内外の社会的な活動は、一人ひとりがみずからをみがき、成長する舞台にも▼きょう新婦人は創立から60年をむかえます。これまでのたたかいを引き継ぎ、ジェンダー平等をはばむカルト政治を一掃し、日本の女性の権利を国際基準にひきあげるため、共同の輪をひろげていきたい。米山淳子会長は語ります▼元始、女性は太陽であった―女性運動の先駆者であった平塚らいてうは、新婦人の結成に「限りない希望と期待に胸の高鳴る思い」を寄せました。そして、ひとすじにつづく前進の道ではなく、困難に試されることがあろうとも、「わたくしは永遠に失望しないでしょう」と。
きょうの潮流 2022年10月18日(火)
両親とも統一協会の信者で多額の献金をしていた。家は困窮し床屋にも行けず、服もおさがりばかりでいじめられた。自立のためにためたお金を親に献金された。教義との矛盾やストレスで入院もした―▼2世信者だった小川さゆりさん(仮名)のつらい境遇が国会でも紹介されていました。高額の献金や霊感商法、数々の人権無視の教え。社会の規範や道徳から大きく逸脱した世界で多くの2世信者らが苦しみ、人生をふみにじられてきました▼安倍元首相を襲った容疑者もその1人でした。母親が献金をくり返し、食べるものさえないほど家は貧しさを極めていたといいます。公的な支えもなく、大病を患っていた兄は自殺。暗闇のなかでうっくつとした感情をため込んで…▼岸田首相が統一協会への調査を行うよう文科相に指示しました。あの銃撃事件から100日余り、いまさらの感はありますが、やるなら徹底して実態を調べるべきです▼もっとも、互いの利益のために、国から地方まで協会と手を組んできたのが自民党の議員。本紙の追及キャンペーンは、協会の信者が2世信者らに向けて衆院議員の秘書募集の案内を送っていたことを明らかにしています▼消費者庁の有識者検討会は統一協会について解散命令の請求も視野に入れた報告書をまとめました。被害の救済を訴えてきた小川さんたちも解散を求める署名活動を始めました。人の弱みにつけこみ、多くの人生を狂わせてきた反社会的な団体と政治の根を、今度こそ断つために。
きょうの潮流 2022年10月17日(月)
思えば、あの浮かれ調子から始まりました。♪私以外、私じゃないの 当たり前だけどね だから マイナンバーカード。当時のヒット曲を替え歌にしたのが担当相の甘利明氏でした▼2016年からの運用を前に宣伝に躍起となっていた安倍政権。しかし、旗振り役だった甘利氏は口利き疑惑で閣僚を辞任。相次ぐ不祥事で首相みずからも政治を私事に利用する。そんな国に個人情報を預けることに国民は反発しました▼開始1年後の普及率は8・4%。政府をあげたてこ入れがつづきましたが、疑問や不安は解消せず。巨額を投じ最大2万円分のポイントがもらえると大量宣伝しながら、先月末の時点でいまだ人口の半数にも届いていません▼今度はアメからムチへ。いまの保険証を再来年の秋に廃止し、マイナンバーカードに一体化させると岸田政権が表明しました。生活に欠かせない保険証を盾にとり、任意のカードを強引につくらせる。これでは不信が増すばかりです▼保険証を人質にとるなんて、強制ではないはず。ネット上ではすぐに批判がわきあがり、反対署名も開始。わずか3日間で、およそ10万人にまでひろがっています。安倍元首相の国葬につづく、聞く耳をもたない強権への怒りです▼公平公正な社会の実現、国民の利便性の向上、行政の効率化。政府が掲げてきたこの制度の目的です。しかし、公平公正さに最も背を向けてきたのが歴代の政権。信頼なき国に番号で管理されるなんてまっぴらごめん。♪当たり前だけどね。
きょうの潮流 2022年10月16日(日)
久しぶりに訪ねてきた友人から「モンブラン」をいただき、栗の風味をあじわいました。ケーキをはじめ近年は和栗のスイーツが人気だと話していました▼産地ではブランド化がすすみ、扱う商社も増えていると。縄文時代から栽培されてきた栗は、われわれが長く親しんできた秋の味覚の一つ。しかし今年は、平年に比べて3割ほど高値が続いています。台風や大雨、気温の急な変化が収穫を減らしているそうです▼気候変動の影響は世界中に。そのうえコロナやロシアのウクライナ侵攻で食料の価格は高くなる一方です。国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は2030年までに飢餓ゼロを掲げていますが、飢餓人口は8億人をこえ逆に急増しています▼貧困や格差がひろがるなか、どう食べ物を確保していくか。食料安全保障は各国・地域の大きな課題となっています。自給率が38%まで落ち込んだ日本ではより切実です▼きょうは国連が定めた世界食料デーです。一人ひとりが協力しあい、すべての人に食料がゆきわたることを目的としています。今年のテーマは「小さなことから一歩ずつ」。すでにSNSを使って途上国の子どもたちを支援するキャンペーンも始まっています▼国内では止まらぬ物価高がくらしを圧迫し続けています。女性の自殺者は2年連続で増加し、主要7カ国では最悪の率に。安心して生きられない厳しい現実。支えるどころか、さらに負担を強いる政府。これでは栗のやさしい甘さもどこへやら。
きょうの潮流 2022年10月15日(土)
反対の声が大きく広がるもとで強行された安倍晋三元首相の「国葬」。「弔意」を強制し、憲法が保障する思想・良心の自由を侵害する政府の行為はもう一つの「強制」を思い出させます。教育現場における「日の丸・君が代」の強制です▼国旗・国歌に対する態度はそれぞれの考えにもとづいて自由に判断するべきなのに、教職員には卒業式・入学式などで起立・斉唱することが強要されています。東京都では起立・斉唱の職務命令に従わなかったなどとして約20年間にのべ約500人が処分されました▼先日、この問題をめぐって強制に反対する市民らが文部科学省と交渉しました。ILO(国際労働機関)とユネスコ(国連教育科学文化機関)が日本政府に出した勧告を実施することを求めたものです▼ILOとユネスコの勧告は「起立や斉唱を静かに拒否することは…教員の権利に含まれる」とした上で、卒業式などの「式典に関する規則」について教員団体と対話する機会を設けることを求めています。「国旗掲揚・国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できるような」合意をつくることが目的です▼しかし、日本政府は勧告を事実上、無視したままです。市民らとの交渉でも文科省は終始、消極的な姿勢だったといいます▼教職員の思想・良心の自由が奪われた学校で、子どもたちが本当の意味で憲法や自由について学べるのか。政府は国際的にも問題が指摘されていることを真摯(しんし)に受け止めて、直ちに勧告に沿った対応をするべきです。
きょうの潮流 2022年10月14日(金)
万国旗がはためき、紅白のちょうちんやアーチが飾り付けられる。洋風の華やかな装飾が施された駅舎の周辺に集まった群衆は10万とも。まさに国をあげての一大イベントでした▼汽笛一声。1872年10月14日、日本で最初の蒸気機関車が新橋―横浜間を走りました。正装した乗客は明治天皇をはじめ新政府の権力者や各国の公使、かつての大名たち。天皇に近い立場から順番に乗っていく姿は、天皇を中心とした中央集権の国家づくりを広く知らしめる意味がありました▼文明開化と近代国家の象徴から始まった日本の鉄道は、生活のかたちや時間の概念まで、人びとの意識を大きく変えていきました。鉄路は各地へ延びていきましたが、天皇制がゆきついた戦争によって甚大な被害をうけました▼戦後復興のさなかに発足した国鉄は、謀略事件やレッドパージで労働者を大量に解雇。人減らし「合理化」は1987年の分割・民営化の際にもくり返されました▼JR各社はいま、赤字路線の収支を公表。政府と一体になって廃線の道にふみだそうとしています。国鉄時代に最大2万キロ以上あった旅客路線は次々と減らされ、この50年で1900キロも消滅したといいます▼開業150年。日本の鉄道は岐路に立っています。大企業任せのもうけ本位で切り捨てるか。ここまで築いてきた国民の共有財産として守り発展させていくか。地域の住民や地方の再生にも欠かせない存在として、全国の鉄道網を未来につなげる。問われるのは国の責任です。
きょうの潮流 2022年10月13日(木)
ときおり、かわいらしいイラスト付きのかわら版と通信が届きます。北海道の東端にひろがる別海町矢臼別。最大規模の自衛隊演習場がある地で平和運動を続けている人たちからです▼そろそろ秋の便りが来る頃でしょうか。近況にある大自然の移ろいが心を和ませてくれます。いまそこで、戦場さながらの砲撃音が鳴り響いています。今月1日から強行されている日米の共同訓練です▼米海兵隊との最大規模の実動訓練には、およそ3500人が参加。ウクライナでも使用されている多連装のロケット砲を発射する様子がテレビで流れていました。ロシアや中国を念頭に連携をはかるといいますが、こうした軍事演習は地域の緊張を高めるだけです▼ロシアによるウクライナへの無差別なミサイル攻撃や、日本の上空をおびやかす北朝鮮のミサイル発射が相次いでいます。奪われるのは人びとの命や安全だけではありません。それによって、どれだけの資財が費やされているか▼米経済誌の試算では、ロシアがウクライナ全土に加えた10日の攻撃は4億~7億ドルの費用がかかったと。北朝鮮のミサイルは1発の発射で少なくとも100万ドル以上が投じられていると韓国紙が報じています。それほどの巨額が、生活をよりゆたかにすることに使われていれば…▼大軍拡の道をひた走ろうとしている岸田政権。米国の軍事行動につき従い、自衛隊が「敵基地攻撃」で相手国に攻め込み、戦火は日本にも。そんな事態を想定することの、何たる愚かしさか。
きょうの潮流 2022年10月12日(水)
値上げの秋です。スーパーに並ぶ果物も値札をみると秋の味覚を楽しみたい気持ちが吹き飛んでしまいます。今後7千もの食料品が順次値上げされると聞いてぞっとします▼1日から全国で最低賃金が引き上がったものの、物価上昇にも追いつきません。一年を通して働いても年収200万円以下の「ワーキングプア(働く貧困層)」が、16年連続で1千万人に上るとのニュースも。貧困から抜け出すためにも全国一律1500円の最賃は待ったなしです▼ロシアのウクライナ侵略で燃料費や物価の高騰が世界を襲うなか、欧州では労働者が街頭に繰り出し、たたかっています。「生活できる賃金をよこせ」と▼ドイツでは1日から最賃が時給12ユーロ(約1700円)に。今年3回目の引き上げは、政治主導で決まりました。金額は「賃金中央値の60%」超に引き上げました▼欧州は欧州連合(EU)の「適正な最賃に関する指令」の採択で、新たな章に入りました。国ごとに所得の中央値の60%を相対的貧困の基準にし、それを指針に「人間らしい生活水準を保障するのに十分な額」か、各国に最賃を点検するよう求めています。貧困から抜け出す最賃へ▼ドイツのハイル労働相は「貧困に陥る心配のない最賃」と呼び、賃上げは「公正な評価と、献身的な働きへの敬意」だと強調します。日本では賃上げどころか実質賃金はこの10年で年間平均27万円も減少、世界の流れに逆行しています。「貧困に陥る心配のない最賃」の実現は政治の責任です。
きょうの潮流 2022年10月10日(月)
色づく木々に深まる秋を感じます。紅葉の便りも届きはじめました。とりどりの葉の中に身をおけば、しばし世情のいとわしさを忘れ、心もやわらぎます▼〈山河あり運動会の赤と白〉成田千空。きょうはスポーツの日です。これまでの体育の日が2年前から変わりましたが、一昨年と昨年は東京オリンピックの開会にあわせて7月に移動。ほんらいの10月第2月曜日は今年から▼趣旨も改められました。「スポーツに親しみ、健康な心身を培う」から「スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う」。スポーツのもつ意義を広めることが目的です▼1966年に制定された体育の日は、その2年前の東京オリンピック開催を記念して開会式が行われた10月10日とされました。まだ冷めやらぬ五輪熱はスポーツや体育への幅ひろい人びとの参加を促し、国民の健康・体力づくりも進めました▼いまはどうか。スポーツ庁が、この1年で運動やスポーツを初めて実施した、または再開したきっかけを聞いたところ、オリパラ開催をあげた人はわずか1%。またオリパラで観戦したスポーツとのかかわり、今後参加したいスポーツイベントについては「特になし」が圧倒的でした▼コロナ拡大さなかの強行。大会を舞台にした底なしの不正。スポーツを介在した汚いカネの流れ。いまや五輪やスポーツへの信頼は失われています。関係者は声をあげ、立ち上がらなければ。スポーツの意義をとり戻すためにも。
きょうの潮流 2022年10月9日(日)
ウクライナ侵略以来ロシア軍による残虐行為の報告が相次いでいます。「われわれは、これまでに2万件以上の戦争犯罪を記録している。すべての加害者を罰するために」▼市街地の無差別爆撃や民間人への拷問、性的暴行。それを聞き取りなどで特定し文書化にとりくんできたウクライナの人権団体「市民自由センター」にノーベル平和賞が贈られました。ロシアの人権団体、ベラルーシの人権活動家とともに▼選考の理由は「長年にわたり、市民の基本的人権や権力を批判する権利を守る活動」を続けてきたこと。圧政や侵害に抗する人びとのたたかいが、いかに平和や民主主義を守るために大切か。強いメッセージが共同の受賞に込められました▼ロシア当局からスパイを意味する「外国の代理人」に指定され最高裁から解散を命じられている「メモリアル」。ソ連時代の市民弾圧を掘りおこしてきた団体で、チェチェン侵攻の際には虐待や蛮行を明らかにしてロシア軍の撤退を求めました。いまも抑圧のもとで活動を続けています▼ベラルーシの民主化運動をけん引してきたアレシ・ビャリャツキ氏は抑えつけられた人たちを守り助けてきました。本人もくり返し逮捕され、現在も収監中です▼人権を侵すものは許さない姿勢を世界に発信した今年のノーベル賞。国連のグテレス事務総長は「平和を前進させる市民社会の力にスポットライトを当てるもの」だと評し、それは民主主義にとっての酸素であると。その「力」を守り抜くためにも。
きょうの潮流 2022年10月8日(土)
なぜ過酷ないじめが起きたのか。その背景を探求して、再発防止を考えるしくみをつくってください―。過酷なたたかいに、また立ち上がりました▼佐賀県鳥栖市の佐藤和威(かずい)さん(23)。中学入学からの激しい暴力行為と恐喝行為の傷は、癒えません。福岡高裁の不当判決取り消しを求めましたが、最高裁は不受理に。先月、市と県の教育委員会に対して第三者委員会の設置を求めました▼県教委には要望書を手渡しましたが、市教委では…「いろいろな思いが交錯してしまって、弁護士にお願いしました。その後のことは覚えていません」。安心して学校に戻りたい、という願いから目をそむけ続けた市教委の事後対応は「十分な加害行為だと感じた」からでした▼本人や家族への嫌がらせは、時には身の危険を感じるほどに。市教委への要望書でも「市民に正しい情報を発するとともに、申入者やその家族が安心して暮らすことのできる環境を再構築する責務がある」と求めています▼事実の解明に時間がかかるほど、二次被害は強まります。学校での事故や事件でわが子を亡くした親たちも、やむにやまれず裁判を選びました。それなのに「お金がほしいだけだろう」「家庭に問題があったんだ」と中傷され、「亡くなったお子さんは裁判なんて望んでない」「忘れた方がいい」などの声掛けに深く傷ついています▼望むのは真相の解明と再発防止です。和威さんが自らをさらけだしてたたかっていることに、しっかり向き合う必要があります。
きょうの潮流 2022年10月7日(金)
乗ると記憶が失われていく「ミステリーバス」。人の顔がわからなくなる「顔無し族の村」。入るたびに違う感覚になる「七変化温泉」。あっという間に時間がすぎる「トキシラズ宮殿」…▼この不思議な物語に登場するのは架空の主人公でも、知らないだれかでもなく、未来の自分や大切な家族。これからあなたの旅が始まります。それが『認知症世界の歩き方』です▼記憶や五感、時間や空間、注意事や手続きのトラブル。当事者100人の声を専門家とともに旅行記風にまとめ、認知症の人びとが何を感じ、何に困っているのかを伝え、周りの理解を深めたい。筆者でデザイナーの筧(かけい)裕介さんは認知症のある人がくらしやすい社会を実現するためのデザインだといいます▼3年後には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症となり、その数は700万人にもなると政府が推計しています。高齢化社会のなかで認知症との共生はますます重要になっています▼いまコロナのもとで認知症が進む人が増えていると本紙が5日付の社会面で伝えています。当事者や家族らの団体が調べたところ、心身の機能が低下したとの答えが半数以上にのぼりました。介護サービスの利用を減らした人も多く、支援の制限が進行につながったとみられます▼認知症に限らず、政府が推し進める医療や介護の負担増は症状や健康の悪化を招くだけです。コロナ禍の教訓はケア分野の体制を強化すること。みんなが認めあいながら、生きていける世界をつくるためにも。
きょうの潮流 2022年10月6日(木)
久しぶりに劇場に足を運びました。劇団俳優座「待ちぼうけの町」と劇団民藝「忘れてもろうてよかとです―佐世保・Aサインバーの夜」の2公演です▼前者は宮城県三陸沿岸の町にある食堂が舞台。東日本大震災で子どもを亡くし、行方不明の夫を待ち続ける女性店主と、店に集う漁師や復興作業員たちの人生が交差します。喪失の悲しみと過去への郷愁。互いの痛みを思いやり、食を共にするささやかな喜びが命を明日へつなぎます▼後者は基地の町・佐世保で米兵相手のバーを営む高齢女性が主人公です。敗戦直後から朝鮮戦争、ベトナム戦争と、米兵であふれかえる町で生き抜いてきた女たちの戦後史。今は客も来ない店で彼女の独り言が続きます▼「いまの若か日本人なアメリカと戦争したとば知らんちゅうとでしょ。(略)よか。忘れてもろてよか。うちらも忘れることにしとります…忘れてしまうことに。神様が貧乏人にいっちょだけくれらした才能ですたい。忘れる、いう才能。どげん思うですか?」▼劇場という同じ空間に身を置き、役者の肉声で発せられる問いかけは、真っすぐに投げられたボールのように胸に届きます。問いを周囲の観客と共有していると実感できるのも、演劇の魅力でしょう▼そして、前者で町のみんなに見守られ伸び伸びと生きる知的障害者を演じた岩崎加根子さんが89歳、後者の主演の日色ともゑさんが81歳と知り、その声量と力量、りんとした姿に、女の後半生に立ち向かう力と希望が湧いてくるのでした。
きょうの潮流 2022年10月5日(水)
空に描いた放物線はネットを軽々と越えて民家の小屋や畑に達しました。熊本・益城(ましき)町のグラウンド。場外の家には今もたくさんのボールが残されています。「宝物」となって▼今季のプロ野球で王貞治さんを抜く56本のホームランを放ち、史上最年少で三冠王に輝いたヤクルト村上宗隆選手。彼の中学生時代の逸話です。右翼ネットの外に打球がとびだすことから当時の監督は広角に打つよう指示したといいます▼もう一つの教えは思いきりよく振り、球を強く打ち返すこと。目先の結果にこだわって選手を小さくまとめる指導が目立つなか将来へとつながるように。その教えは積極的に打っていく野球をめざした高校時代の監督にも共通しています▼ホームランバッターが育たないといわれて久しい日本球界。そのなかで才能を伸ばし、努力の方向を示してくれた指導者にめぐりあえたことが、現在の村上選手をつくりあげたといえるでしょう▼一方、暴力で従わせる指導者も後を絶ちません。兵庫の私立高校では女子ソフトボール部顧問の男性教諭が部員の顔をたたき、あごが外れたまま5時間も立たせて暴言を浴びせました。翌日も体罰をうけたという部員はショックで登校できない状態だと▼指導に名を借りた暴力がスポーツの現場からなくならないことも現実です。22歳の村上選手には無限の可能性がひろがります。その一方で未来をつぶされた子どもたちの姿も。体罰などもってのほかですが、指導者の役割もまた、とても大きく重い。
きょうの潮流 2022年10月4日(火)
「聞く力」ではなく、「聞かない力」だったのか▼政権の座に就いてから4日で1年を迎える岸田文雄首相。「被爆地・広島出身の首相」を売りにしながら、核兵器禁止条約への参加を求める被爆者の声を聞かない。沖縄県民が幾度となく、「辺野古新基地ノー」の民意を示しても、その声を全く聞こうとしません▼いや、別の「声」を聞く力は、確かに備わっています。故・安倍晋三氏をはじめとした自民党内の実力者たち。そして、財界やアメリカ政府の声です。敵基地攻撃能力の保有や軍事費2倍化、憲法9条の改定を安倍氏の「遺言」として忠実に推進。アベノミクスの核心部分だった「異次元の金融緩和」に手を付けず、物価高騰の原因となっている異常円安を放置…▼党内実力者の「声」しか聞こえない岸田首相。ついには多くの国民の「反対」の声を無視して強行した安倍氏の「国葬」や、自民党と反社会的勢力・統一協会との癒着で対応を誤り、自らを窮地に追い詰めることになりました▼3日に開会した臨時国会の所信表明演説で首相は「国民の厳しい声にも、真摯(しんし)に、謙虚に、丁寧に向き合っていく」「厳しい意見を聞く姿勢にこそ、政治家岸田文雄の原点がある」などと述べました。今さら何をいっているのか、と強い憤りさえ覚えます▼本当に「厳しい意見を聞く」というのなら、まずは安倍氏がどう関わってきたのかをはじめ、統一協会との癒着ぶりを徹底的に解明すること。そして「国葬」は誤りだったと認めることです。
きょうの潮流 2022年10月3日(月)
「僕は数メートルしか歩けない。だけど電動車いすがあり、段差がなければ自由に動き回れる。歩行が困難な“障害者”だとは感じない」。筋肉の難病のある青年が、そう語っていました▼このような障害観を障害の「社会モデル/人権モデル」といいます。体や心の機能に障害がある人にとって、「段差」など社会の側がつくる不利益や排除こそ障害、とする考えです。社会のあり方で障害の軽重が決まります▼障害を、病気や傷害などの健康状態から引き起こされた個人の特性とする考え方は「医学モデル」です。これに基づいて障害者手帳の等級があります。等級に応じて福祉サービスの支給量が決まります▼中等度の難聴がある南由美子さんは手帳を持っていません。障害者として認められないため、不利益や差別を被ることが少なくないと訴えます▼障害者権利条約にもとづく日本政府の取り組みについて国連の権利委員会がこの夏、初めて審査しました。総括所見では、「障害関連の国内法および政策が、条約に含まれる障害の人権モデルと調和していないこと」「法律や規制、実践にわたる障害の医学モデルの永続化」に懸念を表明。障害者を人権の主体として、障害関連の制度改正をするよう政府に勧告しました▼総括所見は、日本の障害者施策の根底に父権主義的な考え方があると指摘します。国は総括所見にしっかり向き合わなければなりません。条約制定時のスローガンをいま一度。「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」―。
きょうの潮流 2022年10月2日(日)
「いろいろ守ってます! 私たちJ★ガール」。夢を守る、自分の時間を守る、子どもとの時間を守る。女性が活躍でき、働きやすい環境が整っています▼防衛省・自衛隊がホームページで女性自衛官の魅力を伝えています。学歴や性別に関係なく平等に機会が与えられ、いきいきと働ける。パイロットにもなれるし、語学も学べる。活躍の場がひろがることで、その数も増えていると▼小学生のときに東日本大震災で被災した五ノ井里奈さんもあこがれていました。避難所で支援活動にあたっていた女性自衛官との出会い。それがきっかけとなり、自身も夢を抱いて入隊しながら、性暴力によって断ち切られました▼こんな実態だったとは。実名と顔をさらしながらの懸命の訴えは連帯の輪をひろげ、防衛省トップが被害の事実を認めて謝罪しました。遅すぎる対応とはいえ、巨大な軍事組織にたったひとりで立ち向かい、非を認めさせるところまで追いつめたのです▼加害者からの直接謝罪とともに、今後は自分のような被害者を二度とださないことを求めた五ノ井さん。再発防止にむけ、組織を根本的に改善してほしいと。ゆがんだ人権感覚や隠ぺい体質をはじめ、自衛隊が抱える課題は重く、とりくむべき改革は多い▼人間としての尊厳を傷つけられ、夢や希望を奪われた五ノ井さん。「23歳、自分の意志を曲げず、これからも強く生きます」。そう発信した思いにこたえるためにも、性暴力や性差別を一掃する社会の実現を、力をあわせて。
きょうの潮流 2022年10月1日(土)
スーパーのカートにビールの箱を次々と積み上げていく男性がいました。買い置きでしょうか。10月からほとんどの酒類が値上げすることで、コロナ禍で定着した家飲みを直撃します▼この秋は、さらなる値上げの波に見舞われます。加工食品や調味料、飲料や乳製品、せんべいなどのお菓子まで。民間の調査会社によると、なんと6500品目以上にものぼり、値上げ率は平均でおよそ16%になるそうです▼原材料やエネルギー価格の高騰、異常な円安による輸入物価の上昇などが相まって、とどまらない値上げラッシュ。食品や日常生活におよび、1世帯あたりの負担は年間でおよそ7万円増との試算もあります▼物価高に追い打ちをかけているのが公的年金の減額と、今月から引き上げられる75歳以上の医療費窓口負担です。一定以上の所得がある約370万人が対象で、1割から2割へ倍加します。すでに現役並み所得者とされる人たちは3割負担で、今度は中低所得者を狙い撃ちしました▼自民や公明などが昨年成立させた改悪法に基づいたもので、今後は対象者の拡大も。格差と貧困をひろげ賃金も上げずに負担増を強いてきたアベノミクスを継承する岸田政権。値上げを止める手だてもなきに等しい▼黙ってはいられません。イギリスでは女王国葬の翌日からストライキを決行しているといいます。鉄道や港湾、通信など各分野の労働組合や働く人びとが、賃上げや負担の軽減を求めて立ち上がっています。日本も、たたかいの秋です。
きょうの潮流 2022年9月30日(金)
「名も知らぬ遠き島より/流れ寄る椰子(やし)の実一つ」。島崎藤村作詞「椰子の実」の歌は、民俗学者の柳田国男の体験から生まれました。大学生のときに愛知県の伊良湖岬を旅した柳田は、いくつも流れ着くヤシの実を見つけました。友人だった藤村はその話をヒントに詩を書いたのです▼民俗学の研究のため全国を旅行した柳田は、最晩年に再び南方に目を向けました。亡くなる前年の著書『海上の道』(1961年)では、日本人の祖先は沖縄の島々をつたってきたという仮説を示しました▼柳田が南方起源説を唱えた背景には、米軍政下にあった沖縄に対する柳田の深い憂慮と同情がありました。自分の研究が沖縄の祖国復帰に役立つことを願って、沖縄にこそ日本人のルーツがあることを強調したといわれています▼沖縄独特の御嶽(うたき)信仰や伝承の由来は今もさまざまに研究されています。さらに、沖縄にあるのは「古い日本」の手がかりだけではないと述べたのが、哲学者の鶴見俊輔でした。「未来の日本を設計するための手がかりもまたあります」▼ベトナム戦争をはじめ、アジアに対する米軍の前線基地にされてきた沖縄。だからこそ県民は日本国憲法への復帰をもとめ基地を拒否してきたのだ、と▼「戦後の世界に対して、無害な日本がつくりうるかという展望は、日本国民全体が沖縄の体験を受け継ごうとする努力を通して現れるでしょう」と鶴見。辺野古のたたかいは、アジアと世界の平和と未来につながると改めて気づかされます。
きょうの潮流 2022年9月29日(木)
「拓(ひら)け満蒙! 行け満洲へ」。いまから90年前、軍国日本は中国東北部に一つの国を建てました。時の政府は20町歩の地主になれるなどと奨励し、「満州国」への移民を大々的に募りました▼五族協和、王道楽土をスローガンにかかげ、お国のためという「大義」のもと、大陸に渡った開拓団は27万人にも。しかし終戦直前にソ連軍が侵攻。置き去りにされた子どもや女性、お年寄りは果てしない広野を逃げ惑いました▼8万人もの開拓民が命を落とした絶望の彷徨(ほうこう)。ところが、日本政府は助けるどころか現地にとどまらせる方針をとります。国から捨てられた人たちは、のちに中国残留孤児や残留婦人と呼ばれるように▼中国にとっての満州は、日本による侵略の象徴でした。暮らしていた人びとは土地や家を奪われ、かいらい国家のもとで抑圧されます。歴史のはざまにつくられた建築遺構は今も多く残り、写真家の船尾修さんが背景も含め『日本人が夢見た満洲という幻影』にまとめています▼きょう日中が国交を回復してから50年の節目。しかし、いまだに日本政府は侵略の事実に正面から向き合おうともせず、習近平体制の中国も大国の横暴をあらわにし、両国の関係は冷え込んでいます▼最も多くの開拓団を送り出した長野飯田・下伊那地方に建てられた満蒙開拓平和記念館。そこは満州とはいったい何だったのか、史実から考える機会を。高校生が寄せた短歌です。「歴史とは 過去から学び 今を照らし 未来に託す 平和への使者」
きょうの潮流 2022年9月28日(水)
ものものしい警備のなかを国会へと向かいました。国をあげての葬儀などしなければ、ふたたび生前の問題を検証されることもなく、非業の死として弔われていただろうか…と考えながら▼市民の怒りがみなぎっていました。憲法や人の平等に反し、内閣の一存で弔意や敬意まで強制されたこと。反対多数の世論をおしきり強行されたこと。いくつもの理不尽さに対するそれぞれの思いが、かかげた横断幕やプラカードに込められていました▼さいたま市からきたという夫婦は安倍元首相の政治に異を唱えてきたといいます。「戦後最悪といわれた政治を行った人物を祭り上げ、時代錯誤の国葬がやられたことに自分の意思を示したかった。たくさんの人たちと気持ちを共有できる場があってよかった」▼さまざまな市民や団体、野党の国会議員らがかけつけた国会前の集会は政権の暴挙に抗し、幅ひろく連帯する姿を示しました。それは全国各地でも▼岸田首相は弔辞で「日本と世界の行く末を示す羅針盤」として、この先も力を尽くしてくれるものと確信していたともちあげました。そして以前、安倍氏が防衛大の卒業式で引いた新渡戸稲造の言葉「勇とは義(ただ)しき事をなすことなり」を本人に送ると▼抗議の声がこだました集会には、国内だけでなく海外のメディアも取材に訪れていました。あぶり出された統一協会と自民党との深いつながりの解明もこれからです。なすべき勇気と理性を世界に発信した人びと。歴史に刻まれるのは、どちらか。
きょうの潮流 2022年9月27日(火)
関東近県から1週間がかりで買い占めたという菊の花、陸上自衛隊のぎょうぎょうしい配備や都内各所の交通止め―。55年前、ときの佐藤内閣が強行した吉田茂元首相の国葬の様子です▼大手メディアが賛辞をささげるなか、全国で展開された抗議活動を本紙が伝えています。多くの労組が職場集会を開いて街頭宣伝を行い、各大学でも学生たちが決起。ある大学では黙とうの時刻に国葬についての討論を▼米占領下の沖縄では琉球政府の立法院議長が参列をとりやめ。県民からはアメリカに沖縄を売り渡した張本人への怒りの声がわきあがりました。市民団体も反対声明を出し、生活に苦しむ庶民からは政府へのきびしい批判が相次ぎました▼いままた国民多数の反対を押し切って安倍元首相の国葬が催されます。基準も法的な根拠もない憲法違反の儀式をくり返す愚行。まさに台風による断水で大勢が、異常な円安や物価の高騰で列島中が、悲鳴をあげているなかで▼参列を予定していたカナダのトルドー首相はハリケーン被害の対応で欠席。これで主要7カ国首脳の出席はゼロとなりました。岸田首相がいくら安倍元首相の「外交的遺産」をもちあげても、相手の評価はいかほどか▼日本の良識を示した半世紀前の抗議活動。いま反対を求める声はより大きく、さらにひろがり、現政権を追いつめています。きょう、午後2時からの葬儀開始にあわせ国会前では集会が開かれ、抗議の大波は全国から。国からの強制に抗(あらが)い、民主主義を守ろうと。