潮流(コラム)

きょうの潮流 2024年3月1日(金)
 「げんきで、おとうちゃんのかへりを、まって居なさい」。病床から幼い3人の娘にあてた手紙からは、こまやかな気づかいとともに、やさしく子煩悩な父親の姿が浮かんできます▼焼津のマグロ漁船「第五福竜丸」の無線長だった久保山愛吉さん。核の「死の灰」を浴びて、40歳の生涯を閉じました。端正な字でつづられた家族への思いのなかには、放射能汚染を心配したのか「雨に濡(ぬ)れないように」とも▼太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で米国が行った水爆実験によって、島民や日本の漁船員らが被ばくした「ビキニ事件」からきょうで70年。焼津市の歴史民俗資料館では特別展が開かれ、久保山さんの手紙や「死の灰」が展示されています▼被災した船員らの無念の怒りは今も。いまだに日米の政府によって被災の全容は隠され、調査も謝罪も救済もないまま放置されています。「70年間、国に見捨てられてきた」と訴え、補償を求めるたたかいも続いています▼ビキニ事件によって燎原(りょうげん)の火のようにひろがった原水爆禁止の署名。それは世界の反核平和運動を大きく前進させ、核兵器禁止条約へとつながっています。「こうした草の根の市民運動が次の世代を動かす力になる」。杉並区長の岸本聡子さんは原水協の3・1ビキニデー全国集会にそんなメッセージを寄せました▼久保山さんは残した手記のなかで「とにかく私は平和を愛する」と。いままた戦争や核の脅威がひろまるなか、ふたたび核なき世界への運動を巻き起す決意を新たに。


きょうの潮流 2024年2月29日(木)
 この往生際の悪さはどうだ。国民に公開するなら出ない、他の議員が出ないなら自分も、やっぱり出るのやめた―。説明責任などそっちのけで駄々をこね、保身に走る姿がありありと▼裏金事件の政治倫理審査会に出席するかどうかで、もめ続ける関与の議員たち。二転三転、党としての方針も定まらず迷走する自民党。裏金議員の恥ずべき態度はもちろん、もはや組織としても体を成さない醜態ぶりです。これが政権を担う党とは▼ドタバタの末に岸田首相をはじめ、安倍派と二階派幹部5人の出席で、きょうあすの開催が決まりましたが、首相は何を弁明しようというのか。あれだけ国会で追及されながら、全容の解明に背を向けていたのに▼だいたい、あのおざなりな自民党の調査でさえ、衆参85人の議員らが関与を認めているのに、わずか5人の政倫審の出席で幕引きを図ろうというのか。真実を語ろうとせずごまかしに終始するなら、偽証罪に問える証人喚問も必要です▼ことは長きにわたって組織的、計画的に裏金がつくられ、選挙資金などに使われてきた問題。そこに切り込み、企業・団体からの献金を禁止してこそ、裏金をうみだす温床を取り除けるはず。カネによってゆがめられる政治も▼庶民には増税、自民は脱税―国民の怒りは頂点に達しています。いままで支持してきた人も、あまりのひどいありさまに、もううんざり、嫌気がさしたと。いまや迷わず手を携えて向かう先はみえています。さあ、自民党政治を終わらせよう。


きょうの潮流 2024年2月28日(水)
 当時の最先端技術だったそうです。井手(用水路)にたまる火山灰や土砂を下流に押し流す「鼻ぐり井手」。水路に渦が巻くような仕掛けが牛の鼻輪の形に似ていることから「鼻ぐり」と名付けられました▼熊本県菊陽町にある江戸時代の土木遺産です。阿蘇の水を集めた白川の中流域に位置し、井手のおかげで広い地域に水がゆきわたり、収穫高が3倍にもなったと伝えられています▼いまその町がハイテク産業の誘致にわいています。台湾大手の半導体メーカー、TSMCが工場を新設。キャベツ畑がひろがる中にそびえたった東京ドーム4・5個分の巨大な建物は、その存在感から“黒船”に例えられるほど▼人口4万3千余の町の景色も一変させました。閑散としていた最寄りの無人駅は人であふれ、周辺はマンションの建設ラッシュ。商店や飲食店もバブル景気にわいています。一方で、くらす人たちからはこれが地域の発展につながっていくのかと疑問の声も▼日本政府が1兆2千億円もの巨額を投じて支援する国策。スマートフォンから兵器まで、あらゆる電子機器に使われる半導体は国の戦略物資といわれます。しかし「経済安保」を口実に莫大(ばくだい)な国費を特定の大企業につぎ込むとは、異常な予算の使い方ではないか▼生活環境の急激な変化や地下水の枯渇を懸念する声は住民や営農者にひろがり、半導体の製造に使われる有機フッ素化合物(PFAS)による汚染の心配も。豊かな水とともに生きてきた町に漂う黒船への不安です。


きょうの潮流 2024年2月27日(火)
 どこに住んでいても安心・安全な給食を無償で。この流れが都道府県の制度づくりへつながりました▼東京都は4月から、和歌山県は10月から、無償化を実施する区市町村に半額を補助します。青森県は10月から1食あたりの平均額を全市町村に交付。単価を超える自治体は独自財源の確保が必要となりますが、一律の無償化は全国初。「うちの県でも実施させたい」と運動に熱がこもります▼都の半額補助は、財源問題で無償化に踏み切れなかった自治体を後押ししていますが、それでも実施を見送る自治体が残されています。本紙の聞き取りでも「都が全額補助してほしい」「本来なら国が無償化制度をつくるべきだ」との声が相次いでいます▼給食の質の確保も欠かせません。京都市は全員制の中学校給食を実施する方針ですが、2万6000食を調理する“巨大給食センター”から配送するというもの。全国でも例のない規模に「まるで給食工場だ」と市民から怒りの声が上がり、学校調理方式を求めています▼無償化されたとしても、自治体の姿勢次第で予算が切り縮められないようにすることが大切です。子どもたちの成長・発達に欠かせない給食なのに「無償だからこれで我慢して」などとないがしろにされないように。地産地消を心がけながら、より豊かな食を保障できるように▼国もようやく全国調査を実施し、取りまとめ作業中。「わあ! おいしそう!」「いただきまーす!」。こんなワクワクの時間が全国に広がりますように。


きょうの潮流 2024年2月26日(月)
 岸田首相が「政治とカネ」の問題をめぐる国会論戦で「真摯(しんし)」という言葉を連発しています。いわく「真摯に反省する」「真摯に向き合わなければならない」等々▼『広辞苑』によれば「まじめでひたむきなさま」。実態とのあまりの乖離(かいり)に噴飯ものですが、耳あたりの良い言葉をふりまいて国民の目くらましを図るのは、政権の姑息(こそく)な常套(じょうとう)手段のようです▼日本在住のカナダ人翻訳家イアン・アーシー氏が、著書『ニッポン政界語読本』(単語編・会話編全2冊、太郎次郎社エディタス)で、人心をもてあそぶ空虚かつ心地よい言葉を「もふもふ言葉」と名付けて紹介しています▼まずは「寄り添う」。歴代首相が「沖縄の皆さんの心に寄り添い」と言明しているが、これは「寄り切る」の間違いではないのか、いっそ「米国防総省の皆さんの心に寄り添い」とすれば言行一致で潔いのでは、と進言。「共感」も現首相お得意の空文句です。「信頼と共感の政治を全面的に動かしていきたい」という決意も、「不信と反感の世論」であえなく挫折したと揶揄(やゆ)します▼「感動」「希望」「安心」の浅薄さ。「原則として」「総合的」「俯瞰(ふかん)的」「適切に」「不適切な」の、いかようにも解釈変更可能な曖昧さ。「デジタル」「レガシー」等カタカナ語のハリボテ感。武力行使=「積極的平和主義」に至っては、崇高な理想の骨抜きではないかと警告します▼文は人なり。言葉の空洞化は、政治の空洞化。自ら発した言葉に真摯に責任を持つことから始められてはいかが。


きょうの潮流 2024年2月25日(日)
 人々の暮らしに溶け込むAMラジオが「廃止」されるかもしれません。民放各社は、「経営安定」を理由に44社をAM放送からFM放送へ転換する計画です▼実施は「2028年秋をめど」。放送を休止(停波)して影響を検証する「実証実験」を2月1日から来年1月31日までの間、13社、34局で予定されています▼業界団体の日本民間放送連盟(民放連)研究所の「2024年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」によると23年度は、ラジオの営業収入は1・7%減の見込み。地上波98社の24年度はAMが含まれる「中波・短波」で0・9%減と予測しています▼停波が可能になったのは、放送免許を出す総務省による「特例措置」です。同省ホームページによると、20年12月に「民間ラジオ放送事業者のAM放送のFM放送への転換等に関する『実証実験』の考え方」を公表。この中で「AM転換は各社の経営判断により行われるもの」という方針を示していて国は支援しません▼放送作家の石井彰さんは、「災害時、電池で長時間受信できるラジオは情報の命綱」と指摘します。「AM波を放送局の事情だけで止めて、FM波に転換するのはあまりに乱暴です。AM波が停波になって初めて、自分のラジオではAM波に代わるワイドFMが受信できないことに気づく人が多数発生するでしょう。広くきちんと知らせるべきです」▼AMラジオの電波の「到達範囲」はFMよりも広い。利点を棚上げして「情報弱者」を増やすことが懸念されます。


きょうの潮流 2024年2月24日(土)
 時折お日さまとか、おいしいご飯とか、子どものおしゃべりとか、慣れ親しんだものを楽しんでいる最中に、あのブーンという音が飛び込んでくる。その時に気づくんです。何もかも、以前とは違うのだと…▼戦禍のウクライナで避難する市民から詩人が聞きとった『戦争語彙(ごい)集』。日本でもロバート・キャンベルさんの訳で出版されています。ごく普通に生きていた人びとが平和な暮らしから切り離され、一方的な暴力にさらされる。その日々がありのままに▼通りはバリケードに、浴槽は身を守る場所へ。恋愛は別れとなり、きれいなものは危険を意味する言葉に。日常の風景や大切な思い出が、戦争によって変わってしまった悲しみが伝わります▼ロシアの軍事侵攻から2年。今も命が奪われ、生活や街が破壊されていく現実があります。戦時下にある子どもたちの苦しみや残された家族の不安。それは本紙特派員の記事からも▼長引く戦闘による疲弊や兵力不足、ロシア軍の攻勢。悲観論がひろがるなか、国際社会の協力や市民の声が支えになっています。昨年末のウクライナの世論調査では減少したとはいえ7割以上が「領土を譲歩すべきではない」と答えています▼「我々の歴史的な領土」と侵略を正当化するプーチン大統領。対して、世界の大勢は力による領土の切り取りは歴史の遺物だと。先の本に「悦(よろこ)び」と題する一編があります。「彼らは、確かにわたしからすべてのものを奪ったけれど―大切な日々を引き渡すことはしません」


きょうの潮流 2024年2月23日(金)
 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定に向けた「文献調査」をした北海道の2町村の報告書原案が公表されました。科学論文や地質調査のデータなどをもとに、活断層や火山など処分場を設置するのに適さない性質がないかを確認する第1段階の調査結果です▼それによると、神恵内(かもえない)村は、大部分が周辺の火山から15キロ圏内にあるにもかかわらず、現地でボーリングなどを行う次の段階の「概要調査」に進むことが可能だといいます。寿都(すっつ)町も断層など今後の調査で「留意すべき」項目があるものの、同様に可能だと▼日本で核のごみは、原発の使用済み核燃料からプルトニウムやウランを回収し、残った廃液にガラスを混ぜた「ガラス固化体」のこと。20秒で致死量に達する高い放射線を出し、人間の生活環境から10万年程度の隔離が必要です。このため政府は地下300メートルより深い地層に埋める「地層処分」する方針▼原案に対し、地球科学の専門家や市民団体から「地層処分には不適であることを示す多くの科学的論文があるにもかかわらず、無視している」と指摘されています▼能登半島地震で得られつつある最新の知見に全く触れていないのは「言語道断だ」とも。地球科学の研究者ら300人が昨秋、「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」とする声明も発表しています▼岸田政権は再稼働や老朽原発の運転延長など原発回帰を進める方針です。これ以上核のごみを増やす原発頼みをやめるべきです。


きょうの潮流 2024年2月22日(木)
 子どもへの虐待が疑われる事件がまたもや相次いでいます。子どもたちの幼い命を救うことはできなかったのか▼2022年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待に関する相談は、21万9170件で過去最高になっています。相談への対応件数は毎年増えており、10年前の3・3倍。20年前と比べると9倍以上にもなります。毎年、50人前後の子どもが虐待で死亡しています▼背景には貧困の拡大や子育てへの公的支援が足りない中で、親たちが経済的にも精神的にも追い詰められていることなどが指摘されています。人に冷たい政治の在り方が、ここでも深刻な影を落としています▼虐待事件が相次ぐ中で、22年には民法が改正され、親の子どもに対する「懲戒権」が削除されました。親による子どもへの体罰を容認している印象を与えるとして批判されてきたこの規定がなくなったことは一歩前進です▼しかし、増大する虐待の問題に、対応する児童相談所の体制が追い付いていません。対応する児童福祉司は専門的で慎重なかかわりが求められる事例を多数抱えて、夜中まで駆け回らなければならないといいます。政府も児童福祉司増員を進めていますがまだ人口2万人に対し1人程度。欧米では専門職が人口数千人につき1人いるのに比べると極めて少ない水準です▼わずか数年で人生を奪われる子どもたちをこれ以上出してはなりません。政治のありようを変えることを含め、子どもの命と人権を守るための国民的議論が求められます。


きょうの潮流 2024年2月21日(水)
 批判の矛先は絶対的な権力者に向けられていました。公開の場で初めてやじが飛び、率いる政党が人気ロックグループの公演を支援していたことがわかるとブーイングが起きました▼2011年末のロシア下院選挙。プーチン政権与党の「統一ロシア」は大幅に議席を減らし、かろうじて過半数を得ました。しかし選挙に不正があったとして抗議集会やデモがわき起こります。そのとき街に出て不満を表明しようと呼びかけたのがナワリヌイ氏でした▼「プーチンが権力を握って以来、初めてその怒りを政権への不服従につなげられる指導者が生まれた」。元BBC特派員の伝記作家が8年がかりで取材した『プーチン』に両者の関係が描かれています▼自身を脅かす政敵への反発。プーチン氏は相手の名前を口にしようともせず「あいつ」などと呼んでいたと。彼の後ろに見えていたのは、声を上げて迫る大勢の国民の姿だったのではないか▼ナワリヌイ氏は何度も投獄され、それに伴い国民への締めつけも強まっていきました。20年には毒物を盛られてドイツへ。翌年、帰国したところを拘束されますが、このときも首都モスクワの4万人をはじめ各地で解放を求める集会が開かれました▼そして、1カ月後に大統領選を控えるなかで起きた獄中死。弾圧のなかでも絶えない市民の追悼や献花の列は、プーチン政権への抵抗の証しです。反体制活動の象徴とされた47歳の死は呼びかけます。巨大な力を持っているのは、私たちだ。あきらめないで。


きょうの潮流 2024年2月20日(火)
 浅尾大輔著『立春大吉』(新日本出版社)は、小さな町の大きな闘いを描いた痛快小説です。本紙の連載がこのほど本になりました。「日本共産党の歴史の中で、現代の闘いを描くことに挑戦した」と作者はいいます▼町立病院の入院・透析廃止を突如打ち出した町長に対して、6人の高齢女性が立ち上がります。いつも自民党に投票してきた彼女たちが、共産党の若い女性町議と力を合わせ、妨害に負けず、ついに有権者の半数近い町長リコール署名を集めます▼浅尾さんの住む愛知県東栄町がモデルです。「地方でも国を揺るがすような運動を起こせる。とくに、いま時代を引っ張るのは女性たちという思いがあります」と▼小林多喜二唯一の新聞連載小説も女性たちが主人公でした。「都(みやこ)新聞」に連載した「新女性気質(かたぎ)」(のちに「安子」と改題)。家族の生活を背負う内気な姉・お恵と、組合活動に飛び込んでいく妹・安子。対照的な2人の支え合いを描きました▼浅尾さんは「政治的なテーマを書くと紋切り型になる危険があります。僕も毎日飽きずに読んでもらうために苦心した」と話します。「多喜二は失敗を恐れず、政治的なテーマで芸術性とエンタメ性の結合に挑みました。『蟹工船』はそれに成功した傑作です」▼きょう20日は、小林多喜二が殺されて91年。今年も各地で記念のつどいが開かれます。3月17日、東京の杉並・中野・渋谷多喜二祭の記念講演は浅尾さんです。『蟹工船』のエンタメ性を深掘りしたいと意気込みます。


きょうの潮流 2024年2月19日(月)
 能登半島地震ではペットの被災も深刻です。家族がペットとともに過ごせる同伴避難の指定避難所が少ないためです。せっかくペットを連れて逃げても、被災家屋に戻ったり車中避難をする人も多い▼珠洲市では、納屋で避難生活をしていた男性が火災により死亡する事件も。「ペットがいるから避難所にいけない」と話していたと言います▼東日本大震災では3100頭もの犬が犠牲となり、熊本地震でも多数のペットが負傷したり放浪状態に。取りに戻った飼い主が津波にのまれたり、ペットを置いていくことができず災害に巻き込まれる悲惨なケースも起きています▼環境省は2013年、ペットとの同行避難の推奨を「人とペットの災害対策ガイドライン」に明記しました。過去の悲惨な経験に学び、ペット防災が減災につながると自治体の防災担当職員も話します▼しかしいま―「石川県の動物愛護団体から悲惨な声が届いた」。俳優で動物保護団体Evaの代表理事でもある杉本彩さんがネットなどで訴えます。3・11後も数々の災害があったのにペット防災が進んでいない。まず国が同伴避難を強く推奨すること、そして「公助により、人も動物も救える命があることを知ってほしい」と▼同伴避難を進めるにはアレルギーや持病などがある人への配慮という課題も。災害時のペット取材や救済活動を重ねている団体の代表、香取章子さんは避難所の選択肢を増やす必要をこういいます。「動物に優しい社会は、人にも優しい社会です」


きょうの潮流 2024年2月18日(日)
 祖国とは何か―。主人公である父親が問いかけます。この部屋に二十年間存在し続けたこの二つの椅子のことか? それともテーブルのことか? 壁に掛けられたエルサレムの写真のことかと▼向かい合うのは、生まれたばかりの頃にイスラエル軍の攻撃によって離れ離れになってしまったわが子。追われた地で20年ぶりに再会した息子は、大量虐殺から逃れてきたユダヤ人に育てられ、守備軍の一員となって主人公に言い放ちます。「あなたは向こう側の人だ」▼イスラエル建国後、難民となり36歳で爆殺されたパレスチナ人作家カナファーニーが残した小説『ハイファに戻って』の一節です。国や故郷を奪われるとはどういうことか。幾重もの悲しみが伝わってきます▼半世紀以上も前に書かれたカナファーニーの作品がいままた注目を集め重版されています。「これは今もイスラエルで起こっていることだ」。数年前、文庫版の解説につづった作家の西加奈子さんの言葉は進行形となって目の前に▼100万人をこえる避難民でひしめくガザ南部ラファへの軍事攻撃が迫っています。それがどれほどの悲惨を。国際法や人道を顧みない、これまでのジェノサイドが物語ります▼先の主人公は自身の問いにこう答えを出します。「祖国というのはね、このようなすべてのことが起こってはいけないところのことなのだよ」。そして、イスラエルの人たちをはじめ私たちに叫びかけるように。この悲劇が、自分の身に起こったらと想像してくれ、と。


きょうの潮流 2024年2月17日(土)
 市場は浮かれています。バブル期以来の史上最高値を目前にした株価に。斎藤健経済産業相もこれまでの日本経済をふり返りながら「潮目の変化を迎えている」と手応えを口にしました▼実体はどうか。国の経済活動の状況を表すGDP(国内総生産)は長期低迷によってドイツに抜かれ、世界4位に転落。日本の3分の2ほどの人口を考えれば国民1人当たり1・5倍の経済格差がついたことに。しかもドイツの年間労働時間の平均は日本より2割も短い▼この間2期連続のマイナス成長となったGDPについて「見た目よりも非常に厳しい内容」と分析する専門家も。マイナスが続く内需については、とくに物価高による個人消費への影響を指摘し賃上げが景気の鍵を握ると強調しています▼足元をみても停滞と衰退は顕著です。地方ではシャッター通りがひろがって久しく、土台を支えてきた農業や畜産業、漁業や林業も苦境にあえぎ、後継者不足も深刻です▼ゆきづまる日本経済。株価の上昇や目先の利益ばかりを追いかけ、労働者や生産者、中小零細企業をいじめてきた結果でしょう。もうけをため込み、人を大事にせず、賃金や投資を抑える。そうした財界のやり方や、それに沿った政治から抜け出してこそ潮目の変化が生まれるのでは▼「経国済民」。経済とは国を治め、人民を救済することです。ほんらいの意味に立ち返り、一人ひとりのくらしを温める。それが、この国に住む人びとの将来を照らすことにつながっていくはずです。


きょうの潮流 2024年2月16日(金)
 圧死が41%、次いで窒息22%、低体温症14%―。能登半島地震の犠牲者の死因です。倒れた家屋の下敷きになり、身動きがとれず、凍死に至る。もう一歩早ければ…なんともつらい思いが▼一時は3万人近い避難者。その多くが暖房もない過酷な環境下で忍耐を強いられた日々でした。「助かった命を守り抜きたい」と悲鳴にも似た訴えは切実感をもって▼問題は発災半月もたっているのに、なぜ助かった命さえ危ういほど救助・支援が立ち遅れたのか。「半島へき地」「陸の孤島」だから仕方がなかったというのか▼メディアなどによる国や県の対応を検証する報道が始まっています。何日も支援の手が届かず、置き去りにされた被災地。発災の翌日から現地入りした地元テレビ局記者は「これは間違いなく人災です」「そもそも石川県の震災への被害想定が甘すぎました」(『世界』3月号)▼初動の遅れ、物資搬入・備蓄の欠陥、避難所の劣悪さ。「想定外」が起きたとき、どう対応するか。「今回は社会、行政の備え方が不十分だったために、被害が大きくなった」。防災工学専門の室崎正輝神戸大名誉教授が悔恨の念を込め本紙で語っています▼「これは『人間の国』か」。阪神大震災で過酷な体験をした作家・小田実氏は、生活再建の見込みも立たないまま仮設住宅や学校、公園で生活を余儀なくされる被災地の姿に、こう憤りました。災害への備えと対応はどうあるべきか。本格的な復旧・復興を前に、いま一度かみしめたい言葉です。


きょうの潮流 2024年2月15日(木)
 「国民には増税、自民党は脱税。こんなことが許されていいのか」。11日各地で行われたSTOP!インボイスのいっせい宣伝行動。人垣ができるなか、憤りの声が次つぎとあがりました▼あすから確定申告の受け付けが始まります。今年の傾向として課税が強化され、個人の裁量で節税できる余地が減っているといいます。物価高騰にもかかわらず、インボイスの導入をはじめ庶民は負担増を強いられています▼「国民には1円の単位で領収書を求めながら、裏金議員が収支報告書のいいかげんな訂正で済まされていいはずがありません」。共産党の田村貴昭議員が岸田政権の姿勢をただしました。国税庁は厳正に調査すべきだと▼まさに収支はめちゃくちゃです。日付も金額も支出先もすべてが不明で訂正もでたらめ。自民党の調査もポーズだけで、いつ、だれが指示して何に使ってきたのか、肝心なことはまったくわかりません▼本紙がスクープした松野博一前官房長官の闇金もちだし、茂木敏充幹事長の選挙経費「二重計上」疑惑、選挙対策委員長として裏金を全国に配り回っていたという甘利明衆院議員。底なしのカネまみれの実態は今も続々と報じられています▼直近のNHK世論調査ではおよそ9割が「説明責任を果たしていない」と裏金議員に厳しい目を注いでいます。自民党の対応についても「評価しない」が6割近くに。国民を苦しめながら、自分たちは巨額を好き放題。なんでこんな理不尽な思いを―ひろがる怒りと不信です。


きょうの潮流 2024年2月14日(水)
 東京・板橋区在住の俳人・家登(かと)みろくさんが、地域の共産党まんなか世代後援会の交流誌で「仲間」について書いています▼昨年、入管法改悪が国会を通過した直後のことです。落ち込んでいたみろくさんは知人から、仲間と語り合うとまた頑張ろうと思える、と言われました。「仲間?」。そのときは「仲間」という言葉に実感がなく、「そうですかね」と反応した覚えが…▼「だって、仲間って、漫画や映画の世界の言葉じゃないの?」。企業社会の中で自分をすり減らしてきたみろくさん。「あらゆる関係に損得がつきまとうようになって、そうしたら、学校で友だちを作るようにはいかなかった。仲間ってなんだろう」▼板橋の市民団体の勉強会に参加し初めて「仲間」を実感しました。「入管問題を含め、怒っていること、疑問に思っていること、これからどうしたらいいかを思いっきり喋(しゃべ)って、嘆いて、聞いて、笑った。それだけのことが嬉(うれ)しくて嬉しくて、その帰り道の大山商店街はキラッキラに輝いていて、その光る道はどこまでもどこまでも続いているような気がした」▼ガザへのジェノサイド攻撃、自民党の裏金問題、非正規、低賃金や格差・貧困…。社会のさまざまな矛盾が噴き出す中、いったいどれほどの人が、かつてのみろくさんのように仲間と出会えないまま、苦しみと憤りを抱えて生きていることか―▼そんな人たちともっとつながりたい―。みろくさんはいま、手作り交流誌『まんなかなかま』の編集長として発信中です。


きょうの潮流 2024年2月12日(月)
 大河ドラマ「光る君へ」が始まり、「源氏物語」がブームになっています。記者も冒頭を習った高校以来初めて現代訳を参照しながら読んでみました。実に面白い▼帝(みかど)の寵愛(ちょうあい)をうけた桐壺更衣(きりつぼのこうい)を、他の女御(にょうご)たちは嫉妬して、宮中を歩くのを通せんぼしたとか、なんとおとなげない。若き光源氏が初めて通った空蝉(うつせみ)は源氏を振り、最初の恋はあえなく失恋におわるとか…。心情を描いた変化に富んだ話が続きます▼作者、紫式部の教養も随所に見え、こんな物語論もあります。「いいことでも悪いことでも、世間にある人の有様で、見るにも見飽きず、聞いてもそのままにしておけない、後の世までも伝えさせたいことのふしぶし」を書き留めたのが物語の始まり。「皆それぞれにほんとうのことで、この世のほかのことというのではありません」(谷崎潤一郎訳)▼時の権力者、藤原道長は「源氏物語」の評判に目を付けました。一条天皇の気を引くため、娘の中宮・彰子のサロンに紫式部をスカウト。紫式部は宮中で物語を書き継ぎました▼「光る君へ」の脚本を担当した大石静さんは「『源氏物語』の行間には、紫式部の権力批判と深い人生哲学がある」と話しています。ドラマは、道長と紫式部(まひろ)が子どものときに出会っていたという設定です▼かつて母を道長の兄に殺され、苦しむまひろ。それを知って思い悩む道長。大石さんが「私の使命は何なのか、と考える自我の強い女性」として描く現代の紫式部物語のゆくえも楽しみです。


きょうの潮流 2024年2月11日(日)
 目と目でわかり合うこと。それができる指揮者は、演奏者に愛される―。村上春樹さんとの対談のなかでそう語っていました。オーケストラの呼吸をぴたっと合わせるのって至難の業。だから自分は顔や手の動きで息をとるのだと▼世界的な指揮者、小澤征爾さんは「個」を大切にしながら、それをまとめることに情熱を注ぎました。音楽には国境がない。いろんな人がいて、いろんな考えをもっている。それが一緒になって、一曲をつくるから“味”がでると話したように▼「満洲」に生まれ、5歳のときに母親が買ってきたアコーディオンが音楽との出合いでした。日本への引き揚げ先では空襲にあい、戦後の生活は貧しく。しかし周りの人に支えられながら、海外で武者修行を重ねました▼人びとが争う戦争を体験したことで、心を一つに合わせてつくりあげる音楽の世界に没頭していきました。自身が創立し、毎夏開いてきた「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」。その30周年のときにこんなメッセージを発信しています▼「音楽は、言葉も国も宗教も政治もこえて、人と人の心をつなげることができる。音楽を通して、ぼくらは同じ星に住む、同じ人間であることを感じて、みんなでひとつになれることを願っています」▼被爆60年に際しては広島で市民らとコンサートを開き、ヒバクシャ国際署名に名を連ねたことも。後進の育成にも尽力してきた「世界のオザワ」。奏で続けた交響曲は、人間への深い愛情に満ちあふれていました。


きょうの潮流 2024年2月10日(土)
 日常を取り戻すとりくみが進められていました。学校が再開され、楽しげに通う子どもたち。しかし一見平和な光景は、いまだ空爆の危険と隣りあわせです▼そこはミャンマー北部の村。民主派による国民統一政府(NUG)が掌握した地域といわれ、現地の様子をNHKが伝えていました。軍のクーデターから3年。ミャンマーの人権団体によると、この間に4400人をこえる市民が殺され、いまも2万人近くが拘束されています▼一方で昨年からNUGと少数民族が共闘し、北西部を中心に攻勢を強めています。抵抗や抗議も続き、不服従運動に参加して学校から追放された教師は「軍の攻撃を恐れているが、子どもたちのために最善を尽くしたい」と復帰していました▼対話による解決をさぐる動きも表れています。先月開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議にミャンマー軍政は外務省高官を派遣。暗礁に乗り上げていたASEANの仲介が動きだすのではと期待されています▼非常事態宣言は五たび延長。国内の避難民は260万人に上るといい、とくに子どもや女性は厳しい生活を強いられています。ウクライナやガザによってミャンマーが忘れられているという焦燥感も▼国連のグテレス事務総長は「民間人を標的にした軍の暴力と政治的弾圧を終わらせなければならない」と、国際社会の協力を呼びかけました。いまも各地で続く「沈黙のストライキ」。そこには軍の暴政にあらがう市民の不屈さが示されています。


きょうの潮流 2024年2月9日(金)
 ある男性に「きみの小さい手じゃ弾けないよ」っていわれたから、見返すためにギターの演奏を習得した―。米国の田舎町でカントリー音楽にめざめた少女は、やがて人びとの光に▼世界的な人気歌手、テイラー・スウィフトさんの日本公演が始まっています。昨年からの世界ツアーの一環で、あすまでの4公演はすべて完売。集大成というツアーは観客動員の世界新記録とともに、音楽業界初のチケット売り上げ10億ドル超えを達成しました▼切ない恋心や自分に正直な気持ちを繊細に歌い上げる曲は国境をこえて多くの若者たちに支持されています。求められる「良い女の子」ではなく、性差別や政治に対しても恐れず声をあげてきた姿はロールモデルにも▼「わたしにとって歌は、ボトルに詰めた手紙みたいなもの。それを世界中に流したら同じように感じている人が、いつか聴いてくれるかもしれない」(『テイラー・スウィフトの生声』)。感情をありのままにさらけだすとき、そこには強さが宿ると▼その影響力の大きさは米大統領選をも左右するといわれ、トランプ信奉者からは陰謀論まで拡散されています。最近ではネット上で偽の性的な画像が流されました▼傷つきたくないからと、まわりに壁をつくるわけにはいかないというスウィフトさん。昨年、米タイム誌の「今年の人」に選ばれ、分断された世界で人びとに希望の光をもたらしていると評されました。きょうも彼女は歌います。生きづらい世の中を変えられるのは、あなただけ。


きょうの潮流 2024年2月8日(木)
 忘れた、記憶にないという戦略を続けられるのでしたら、ご自分の無能をずっとさらし続けるのだと―。統一協会の被害者たちが怒っていました。あまりの不誠実さに辞任をもとめて▼統一協会のダミー団体から選挙支援を受けていたことがわかった盛山文科相。前回衆院選で推薦状をもらい、政策協定にあたる推薦確認書にも署名していたといいます。国会でただされ本人も「サインしたのかもしれない」と認めました▼ひどいのは、そのとぼけた態度。関係者の証言が報じられても覚えていない、確認できないというばかり。推薦状を手にした写真を示され、ようやく「うすうす思い出してきた」とのべる始末です▼宗教法人を主管し統一協会の解散命令を請求した責任者が、当の相手とつながっていた深刻な問題です。被害者らが口をそろえて、任にふさわしくない、裏切られたと非難するのも当然でしょう。ところが岸田首相は過去は問わないとかばい更迭を拒んでいます▼自民党が協会との関係を点検した際にも盛山氏は選挙支援を隠し文科相に就任していました。本人の非道さとともに名ばかり調査がくっきりと。裏金議員のリストも同様ですが、事実を明らかにしようとする姿勢がまったく感じられません▼今月下旬には国と協会の双方から意見を聴く審問が東京地裁で始まります。「このままでは統一協会と戦っていくことはできない」。被害者の訴えは、いつまでも関係を断つことができない岸田政権と自民党に向けられています。


きょうの潮流 2024年2月7日(水)
 ホットでクールな、みんなの大会。そんなスローガンを掲げロシアのソチでオリンピックが開幕したのは10年前のきょうでした。冬季五輪としては当時史上最多の国と地域が集いました▼しかし、この大会は大きな汚点を残すことになります。五輪が閉幕しパラリンピックが始まろうとしていたときでした。ロシアがウクライナに軍事介入。みずからも国連で決議した五輪休戦のさなかでした▼世界平和への貢献や相互理解の促進、国境をこえた友情や連帯という五輪精神を真っ向からふみにじる暴挙。クリミア半島の武力併合は、今月で開始から2年となるウクライナへの全面的な侵略につながっていきました▼3年前に開かれた東京五輪も禍根を残しました。コロナの感染拡大で医療がひっ迫し多くの国民が反対するなかでの強行開催。主催機関や大会組織委員会への不信が高まり、人びとの間に対立と分断をもたらしました。きょうは長野五輪を記念したオリンピックメモリアルデーとされていますが、各大会の検証が求められます▼この日は「北方領土の日」でもあります。江戸幕府とロシアとの間で最初に国境を取り決めた日魯通好条約が結ばれた日。しかしいま日本政府は、従来の4島返還さえ投げ捨て2島返還へと。相手の領土拡張を正面から批判できず、プーチン政権の覇権主義を助長させています▼理不尽なふるまいには、どんな大国や組織に対しても物を言える政府。それをつくることが五輪のめざす世界にも合致するはずです。


きょうの潮流 2024年2月6日(火)
 自民党の「王国」に衝撃が走りました。前橋市長選で4選をめざした自公推薦の現職。それを破ったのは無所属新人で共産党が自主支援した小川晶氏でした▼4人の首相を出し、衆院も参院も選挙区では自民党の議員が占める群馬。県知事もかつては自民党の国会議員で、県議会でもおよそ7割が自民会派に属しています。その県庁所在地に吹いた新しい政治の風。前橋市議の多くが現職候補を応援するなか、初めての女性市長を誕生させました▼子育て支援や若者の雇用促進をはじめ生活によりそった政策、クリーンな市政を訴えた小川氏。多くの業界団体から支援をうけた相手が組織戦を展開するなかで無党派層から支持を集めました▼京都市長選では共産党も参加する「民主市政の会」が推薦した福山和人候補が大善戦。自公に加え立民、国民までが推した相手にあと一歩まで迫りました。政党の組み合わせからいえばダブルスコアの票差があったところから猛追。本人も「ここまで肉薄したのは市民の勝利といってもよいのでは」と▼選挙戦最終盤、危機感を募らせた相手陣営は政策そっちのけで反共攻撃の大合唱。しかし、出口調査で無党派層から最も支持されたのは福山氏でした▼地方の選挙戦で「逆風」となって表れたのは自民党の裏金や底なしの金権政治です。それは組織戦や反共攻撃をふきとばすほどの。直近の世論調査でも岸田政権の支持率は下がり続けています。カネによって動く政治を変えたい。市民との共同の力をさらに。


きょうの潮流 2024年2月5日(月)
 入門から1年もたたず、まげも結えない力士が、真っ向勝負で大相撲初場所を沸かせました。新入幕で11勝を挙げ敢闘賞を手にした大の里関。石川県津幡町の出身です▼「能登は海がきれいで、魚もおいしく、景色もいい」。自然豊かでおだやかな風景が元日に一変しました。能登半島地震で家がつぶれ、道路が陥没し、電柱が傾く。実家も被災し、家族は避難所生活を余儀なくされました。「すごく悲しい気持ち。初場所で自分が頑張って、いい姿を見せるのが一番」。苦難にある地元石川への思いを土俵にぶつけました▼震災から1カ月余。スポーツ選手が支援の思いを形にしています。プロ野球のキャンプでは寄付を募り、サッカー・アジア杯では、選手が「被災地に力を」との横断幕を掲げピッチを歩きました▼仙台市出身の卓球・張本智和選手は、「私自身も東日本大震災で被災経験があるからこそ、とても胸が痛い」。すぐ100万円を寄付しています▼震災で明日をも見えない被災者に何ができるのかはわかりません。ただ選手が日々体感しているのは、応援でどれだけ勇気をもらえてきたか。今度はそれをお返しする番です。巨人やヤンキースでプレーした石川県出身の松井秀喜さんは、「今度は…被災された方々が力強く立ち上がり前を向かれていく姿を応援しなくては」▼大の里関の活躍で「被災者が元気をもらった」。地元紙が伝えています。困難に立ち向かう姿に、自らを深く重ね合わせる人々へ。選手の熱きエールは続きます。


きょうの潮流 2024年2月4日(日)
 あの発言の奥底には女性蔑視がある―。ジャーナリストの浜田敬子さんがテレビでコメントしていました。人権意識がすごく欠けている、いまの時代にそういう感覚の人が政治家になっていいのかと▼「そんなに美しい方とは言わんけれども」「おれたちから見てても、このおばさんやるねと思った」。またもや自民党の麻生太郎副総裁からとびだした暴言。批判を浴びて「表現に不適切な点があった」と事務所が撤回の談話を出しましたが、反省はなきに等しい▼上川陽子外相の仕事ぶりに触れたなかでのもの。容姿や年齢によって人を評価する、女性を見下す。偏見や差別意識にこり固まった言動には、何を言っても自分は許されるというおごりが根底に横たわっています▼くり返す麻生氏の問題発言を放置してきた自民党の責任も大きい。上川氏は「どのような声もありがたく受け止めている」と受け流し、岸田首相も「慎むべき」と口にするだけ。軽口で済ませようとする姿がありありと▼同僚のベテラン秘書を「大変なおばちゃん。女性というにはあまりにもお年」とからかった森喜朗元首相の暴言も記憶に新しい。何度も顔を出す女性へのさげすみはこの党の男性支配の価値観をさらけ出しています▼最近の本紙購読の申し込みにこんな声が寄せられました。「ロンドンで働いて日本に戻ってきたとき、あまりの男女格差にがくぜんとした」。人類の巨大な流れになっているジェンダー平等。時代から取り残された党の政治を、いつまで。


きょうの潮流 2024年2月3日(土)
 1日の衆院本会議。能登半島地震・裏金・暮らし・外交―。国政の根幹をただした日本共産党の志位和夫議長の代表質問に対し、人ごとのような答弁を繰り返した岸田文雄首相でしたが、まともな答弁が一つだけありました▼東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心性とASEANインド太平洋構想(AOIP)を「支持する」というものです▼大国の侵略・干渉により、長い戦禍に苦しんだ東南アジア諸国は、徹底した対話の積み重ねで地域を平和の共同体に変えてきました。地域のみならず、「東アジアサミット」など、米国や中国、日本なども含めた重層的な平和の共同体を推進する。それがASEANの中心性です▼AOIPは、こうした重層的な枠組みを活用し、特定の国を排除するのではなく、すべての国を包摂し、武力による威嚇や武力行使を禁じたインド太平洋規模の平和条約を結ぼうという壮大な構想です▼このような構想に真っ向から反するのが米中の覇権争いです。中国は沿岸地域で強圧的な姿勢を強め、米国は地域の覇権を維持するため、同盟国を大動員する―。その先兵となり、軍事同盟強化・大軍拡を進めているのが岸田政権です。とりわけ、排除の論理を基調とする軍事ブロックの強化は、「包摂性」というASEANの理念と根本的に矛盾します。首相は、果たしてその点を自覚しているのか▼ASEANの取り組みは、本来なら憲法9条を持つ日本が率先して行うべきものです。「平和国家・日本」の名を汚さぬように。


きょうの潮流 2024年2月2日(金)
 家も店も、家族も失って、前を向いて、がんばろうって気にはなれない。1月1日から時が止まっている―。倒壊したビルに家が押しつぶされ、妻と娘を失った男性がうめくようにつぶやいていました▼甚大な被害をもたらした能登半島地震から1カ月。建物も道路も街も、なりわいも壊され、いまも途方に暮れる人びと。「外に出るたびに現実に引き戻される」。避難所でくらす被災者の声を本紙記者が伝えています▼震災直後の張りつめた緊張感から、喪失感や虚無感がさらに募ってくる。先行きが見えない悲惨な状況のなかで、心と体のケアをはじめ、これからのサポートが大事になってくる。専門家の指摘です▼厳寒のさなかに1万4千人以上が不自由な避難所に身を寄せ、災害関連死も増え続けています。救えたはずの命が守れない。いつまで痛ましい姿をくり返すのか。避難所の貧しさは、いかにこの国が国民の命と健康を軽んじているかをあらわにしています▼泣く泣くふるさとや家族のもとを離れ、孤立感を深めている被災者も。一人ひとりの状況に寄り添った、息の長いていねいな支援が求められます。輪島市では仮設住宅がつくられ、七尾市の市場では1カ月遅れの初競りが行われました。日常をとり戻す動きも少しずつ▼「能登に住み続けることができる希望がほしい」。共産党の志位議長は被災者の痛切なねがいを示しながら、国会で岸田首相に迫りました。いま必要なのは政府が「希望」のメッセージを発信することだと。


きょうの潮流 2024年2月1日(木)
 今になって35年前の文書が取りざたされています。自民党の「政治改革大綱」。そこにはパーティーの規制や政治資金の透明化、派閥解消への決意が盛り込まれていました▼発端は、リクルート子会社の未公開株が有力政治家らに賄賂としてばらまかれた「リクルート事件」でした。そのころ疑惑を追及していた本紙に「安倍、宮沢側がリ社に総裁選資金ねだる」との記事が載りました▼「ポスト中曽根」を争った安倍晋太郎氏と宮沢喜一氏がリ社の会長から5千万円を提供されていたというものです。「表の資金ではまかなえない」「自民党代議士に配る裏工作資金がほしかった」。両者の秘書は供述調書でそう述べて▼政治とカネ、メディアと権力の問題を追ってきた本紙のベテラン記者が著書に記しています。「カネで総裁のイス、ひいては首相の座を買う、そのカネを企業にたかる…自民党の金権腐敗の奥深さを改めて感じさせられる」と(藤沢忠明著『権力監視はどこへ』)▼裏金疑惑の報道はすばらしい、権力を追及する姿勢が頼もしい―最近「赤旗」を購読したいと寄せられた声です。他紙の記者も驚嘆するほどの調査力、そのノウハウはベテランから若手記者へと受け継がれています▼自民党の「政治改革」は昔も今もまやかしですが、より良い政治を求める国民と権力を監視するメディアがあるかぎり。購読申し込みにはこんな声も。「真実の報道、正義の報道、未来への報道を楽しみにしています」。きょう「赤旗」創刊96周年。


きょうの潮流 2024年1月31日(水)
 俳人芭蕉の「おくのほそ道」には歌枕となった主な目的地がありました。当時、松島と並ぶ景勝地といわれた秋田の象潟(きさかた)もその一つ。芭蕉は「松島は笑ふがごとく象潟はうらむがごとし」と例えました▼かつては潟湖(せきこ)に「九十九島」が浮かんでいた象潟。しかし1804年の大地震によって湖底が隆起。いまは陸地となり、島々は田園の中に点々と見える松の茂る小丘に変わっています▼海底断層が集中する日本海沿岸はその後もたびたび大きな地震に見舞われてきました。近年は沿岸東部で約10年から20年間隔で甚大な被害をともなう地震が相次いでいます。その延長線上で起きたのが、今回の能登半島地震です▼石川県珠洲市の日本海に浮かんでいた名物「ゴジラ岩」。地盤の隆起で陸続きとなり、輪島の漁港は干上がって漁に出られない状態に。千年に一度の規模ともいわれる地震は海底が露出するなど広範囲で地形の変化をもたらしています▼国交省や内閣府は2013年に「日本海における大規模地震に関する調査検討会」を設置。過去の地震や津波を調べ専門家の分析も加えています。そうした検討や歴史の教訓が生かされているとは、到底いえない現状があります▼岸田首相の施政方針は言い訳とやったことに終始しました。その目には犠牲になった人びとや、いまも厳しい避難生活のさなかにいる被災者の姿は映っているのか。元日の震災からあすで1カ月。国民の命と安全をおろそかにしてきた国の怠慢が、いっそう迫ってきます。


きょうの潮流 2024年1月30日(火)
 私たち抜きに私たちのことを決めないで―。こんなフレーズを目や耳にしたことはありませんか? これを合言葉に世界中の障害者が国連に参加し、障害者権利条約をつくりました▼採択されたのは、2006年8月の国連特別委員会。「その瞬間、大きな歓喜の声、そして足踏み、口笛。これが議場全体を埋め尽くしました」。日本障害者協議会代表の藤井克徳さんは当時の様子をそう振り返ります▼数年後、政府内に障害者や家族で過半数を占める会議体が設置されました。批准前に条約に資する法整備に向け提言をまとめるためです。障害者自立支援法に代わる新法や障害者基本法の改正、障害者差別を禁止するための新法…。2年以上にわたり議論を重ねました▼自公政権に代わると、政府による巻き返しが起こりました。成立した法律は、障害者や家族の願いが込められた提言から遠ざかる内容に▼国連障害者権利委員会は22年に日本の施策状況を審査。法・政策が父権主義的アプローチだと指摘しました。人権の主体としてとらえず、平等な市民として尊重しないまま障害者を恩恵的に保護する立場の法整備を批判しました▼日本が条約を批准して今年で10年。「私たち抜きに~」のもと取りまとめられた提言は、条約とともに羅針盤として運動の重要な役割を果たしています。性的少数者が差別禁止法制定を求めたとき。認知症の人が当たり前に暮らせる権利を求めたとき。今ではこのスローガンはさまざまな要求運動で使われています。


きょうの潮流 2024年1月29日(月)
 やまない戦火は新年にも暗い影を落としています。ガザからウクライナから、心痛む報道や映像が日々伝わります。世界から戦争はなくならない。そんな悲観的な論調も強まっています▼イスラエルのネタニヤフ首相やロシアのプーチン大統領は、相手の存在を認めないというかたくなな態度を崩していません。そこには多様性の時代に必要な「エンパシー」=他者を理解しようとする能力など皆無です▼「対話は多様性の産物。多様性の中で、対話は日常生活、生き方そのもの」。東アジアを平和な地域にするため東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々の努力をつかんできた日本共産党の代表団。インドネシアの元外相は志位団長との会談でそう述べたといいます▼多様性があるからこそ対話せずにはいられなかった。対話により誤解や誤算を回避できる。対話を促進し深めるためには政府と政党、市民社会の協力が重要―。交流の中身を志位団長が報告しています▼「私人の関係を規制すべき道徳と正義の単純な法則を諸国民の交際の至高の準則として確立する」。かつてマルクスは国際労働者協会(インタナショナル)の創立宣言の中で呼びかけました。隣人とのつきあいで守るべきルールを持った国際社会をつくろうと▼未来社会の先達が示した新しい世界像。時代や背景は違えど、それは発展しながら今に息づいています。家族の一員として受け入れ、助け合い、支える関係だというASEAN。そんな平和の共同体を世界中に広めたい。


きょうの潮流 2024年1月28日(日)
 どんな問題でも当事者の話を聞くことが大切です。不登校の子どもを支える活動をしているNPO法人が、不登校当事者とその保護者に対するアンケート結果を公表しました。「学校に行きづらくなったきっかけは?」の問いに子どもたちはこう答えています▼「全部先生が決めて、自分では選べないのがいや。席も自分で選べないので、苦手な人ばかりの席になってこわかった」(10歳)、「つまんないし、ずっといすに座っているのがいやだった。怒ってる先生を見て、怒られないように気をつけるのがいやだった」(8歳)▼保護者からはこんな声も。「学校が忙しすぎる。分刻みのスケジュールで休み時間も着替えや移動に追われ、トイレに行くのがやっと。とにかく急がされるので子どもが疲弊している。先生が忙し過ぎてその大変さが子どもに伝わる」(小4から不登校の子の母)▼不登校の小中学生は30万人近く。「さぼっている」「親がきちんとしつけないから」といった偏見もいまだにあります。アンケートで不登校の子どもが求めることの第1位は「不登校への偏見をなくしてほしい」でした▼不登校の直接の要因はさまざま。子どもに丁寧に寄り添って考えることが重要です。同時に、当事者の声からは問題の背景にある競争の激しい社会や教育、子どもの人権が守られていない現実が見えてきます▼アンケートには「学校が変わってほしい」という声も多く寄せられました。教育政策を変えることも含め幅広い議論が必要です。


きょうの潮流 2024年1月27日(土)
 「先生おしっこ!」と、子どもがせっかく教えてくれたのに「ごめん。ちょっと待って」と言わなきゃいけない。本当に悔しい▼「子どもたちにもう1人保育士を!」と全国の保護者や保育士の願いを集めた実行委員会が、党国会議員と懇談しました。長年の運動で山が動き、国は保育士配置基準の改善へと踏み出そうとしています。改善を実効性あるものに、そしてさらに充実してほしいと訴えました▼能登半島地震に見舞われた今、保育園で子どもの命をどう守るか改めて問われています。しかし今の配置基準で、自らの身も守りながら、泣き叫ぶ子どもたちと逃げるのは難しい。3人を抱っこできる“避難用抱っこひも”も市販されていますが、「こういうことじゃない!」と▼成長や発達を豊かに保障するためにも、人手は必要です。排せつの援助が必要な2、3歳児は、ズボンのはき方やトイレットペーパーの使い方など教えることがたくさんあるのに手が回りません。保育士1人がトイレ補助につきっきりになれば、ほかの子どもの対応が手薄になる。究極の選択を日々迫られています▼人手不足の日常では、ヒヤリとするような危ない場面にも直面します。「そんな時は『もう1人、おったら良かったのにな』と言い合っている」。ある園長は、懇談の場でこう語りました▼「一人一人を大事にしてあげられないから、保育士辞めます」。そんな切ない声に、政治がしっかり向き合うべき時。もう1人、いやもう2人、3人と保育士を!


きょうの潮流 2024年1月26日(金)
 娘を返して―。突然わが子を失った母は声を震わせました。久しぶりに帰省した26歳の娘を事件前日に送り出してしまった後悔。「あの日に戻れるなら…」▼34歳の夫を亡くした妻は、幼子だった娘とのおしゃべりを楽しみにしていたとふり返りながら怒りをあらわにしました。「かけがえのない家族を放火といういちばんひきょうな手段を使って一瞬で奪った」▼36人が死亡し32人に重軽傷を負わせた京都アニメーション放火事件。京都地裁は、青葉真司被告の責任能力を認め死刑判決をだしました。「一瞬にして黒煙と炎に巻き込まれた被害者たちが抱いた恐怖、苦痛は計り知れない。被害者には何の落ち度もなく無念は察するに余りある」と▼自分のアイデアを盗用されたと復讐(ふくしゅう)心を募らせ、大勢が働くスタジオに侵入。ガソリンを社員に浴びせライターで放火し建物は全焼。屋内にいた多くが犠牲となった戦後最悪の殺人事件は社会に大きな衝撃を与えました▼自身も重いやけどを負った被告は、遺族らが思いをぶつけた裁判で後悔や謝罪の言葉を口にしました。しかし、こうした事件をなぜ起こしたのか。命を投げやりにする行動をどうしたら止められるのか。答えは見つかっていません▼やけどを負った社員のひとりは個人の力ではどうにもならないことがあるとしながら、法廷で決意を表しました。「そんな現実を受けてもなお希望を描けるのがアニメや漫画、小説などのフィクションだと思う。だから希望を語ることを、やめません」


きょうの潮流 2024年1月25日(木)
 旧ジャニーズ事務所創業者による性加害をめぐって「メディアの沈黙」が指摘されました。果たして「沈黙」はそこにとどまっているでしょうか▼戦争にかかわっては、2014年の集団的自衛権の閣議決定、翌15年の戦争法の強行前後の時期からテレビの沈黙は続きます。自民党派閥の政治資金パーティーの裏金づくり疑惑では、民主政治の根幹にかかわる問題だと深めることが弱い▼テレビは報道機関として役割を果たしていないと、昨年末、弁護士ら42人が呼びかけ人となり、市民ネットワーク「テレビ輝け!視聴者からのメッセージ」を立ち上げました。共同代表は法政大学名誉教授・前総長の田中優子さんと元文科事務次官の前川喜平さん▼市民ネットワークが提起する活動は多彩です。「テレビジャーナリズムの可能性を信ずる視聴者」が、テレビ局の経営者や現場のジャーナリストと討論すること、シンポジウムを開くことなどをやっていきたいと▼大きな影響力を持つテレビが、事実に基づく情報を提供し、人々の議論を喚起することが求められると訴えています。本紙に元上智大学教授の田島泰彦さんが「メディアの抜本的な改革が欠かせない。それには市民の関与が決定的だ」と寄稿しました▼放送を語る会、全国各地にあるNHK問題を考える会、市民のためのKBSをめざす実行委員会等々。市民と放送労働者の団体が、メディア状況を変えようと粘り強い取り組みを展開しています。さらに広がりを見せる運動に期待大です。


きょうの潮流 2024年1月24日(水)
 開き直りのなかにも本音がのぞいていました。「私は力をつけたかった。大臣並みの金を集めてやろうと…。金を集めることが必要なことだと思っていました」▼自民党安倍派の裏金づくりをめぐり略式起訴され、議員辞職願を出した谷川弥一衆院議員。会見では、派閥のことは一切話さないといいながら無念をにじませました。派閥のやり方に従いながら、なぜ犠牲にならなければならないのか。そんな悔しさが言葉のはしばしに▼裏金の使い道については「飲みに行ったり、食べに行ったり、いわば人間関係づくり」とも。不正に集めた金がどんな目的でどう使われたのか。自民党がどういう政党なのか。こうした言動からもみえてきます▼私が悪かったといって辞める姿がまだましに見える醜態も。秘書や会計担当に責任をなすりつける岸田首相や安倍派幹部からは、反省どころか自分たちは裁かれないというごう慢さがありありと。それが政治不信をあおり、社会に害悪をもたらしています▼名ばかりの政治刷新本部の中間とりまとめ案。真相解明や裏金の大本となっている企業・団体献金の禁止には背を向け、派閥の存続にも道を残しています。みずからの体質を変えてしまえば、党そのものが成り立たないといわんばかりに▼立党の原点に立ち戻るという岸田首相。しかし、もともと自民党は、財界とアメリカの要請によって生まれた政党です。立党宣言にかかげた「政治は国民のもの」。それは国民を欺いてきた、この党の裏返しです。


きょうの潮流 2024年1月23日(火)
 石川県志賀町にある北陸電力志賀原発。もとは能登原発と呼ばれていました。同社の社史で1988年に「能登」から「志賀」に名称変更したと▼57年に社長室に原子力課を設置。62年発行の『北陸電力10年史』には「実際に原子力発電所を建設する場合、最も重要な問題はまず敷地である」と書いています▼運転を76年に開始する計画でした。候補地点を能登半島の4カ所に決め、68年から土地の買収交渉に着手。しかし、候補地点の人々の反対にあい買収を断念する地区があるなど、計画は大幅に遅れました▼後の社史にこんな記述が。ある地区で住民が臨時総会を開き、住民投票によって原発の受け入れに対する意見のとりまとめをしました。投票は実施されましたが、「県当局の調停により、開票は保留された」と▼また、環境影響調査のために電力会社が実施すべき海洋調査では、漁協の反対にあったため、石川県が別の名目で実施した海洋調査結果を、調査ができないでいた北陸電力に利用させたことも。地域住民の合意なしに建設が進められていったのです。93年の営業運転開始まで「実に四半世紀の歳月を要した」といいます▼その後、再循環ポンプの事故が頻発。99年には制御棒脱落・臨界事故が発生し、これを隠ぺいしていたことが8年後に発覚。事故を隠したまま2号機の建設が着工されています。今回の地震で重大なトラブルが相次ぎました。「(定期検査で)停止していてよかった」との声を聞きます。廃炉こそ安心できます。


きょうの潮流 2024年1月22日(月)
 アフリカ大陸中央部のギニア湾に浮かぶ群島国は、日本でもほとんど知られていません。東京都の半分ほどの面積に22万人余がくらすサントメ・プリンシペです▼固有の動植物が多く生息し、主な産業はカカオの栽培。じつは日本とのかかわりは深く、食料援助の日本米は非常に人気があって国民から感謝されているといいます。その小さな島国が今月、核兵器禁止条約に批准。70番目の締結国となりました▼条約制定に尽くした「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のメリッサ・パーク事務局長は歓迎と期待を込めました。多くの国が参加することで、「核兵器は容認できないとする新しい国際的規範が強化される」と▼核禁条約の発効からきょうで3年。それを前にパーク事務局長が広島・長崎を訪れました。被爆地で訴えたのは、「核廃絶はわれわれが住むことのできる地球を残す手段」であり、この条約が大きな影響を与えていること。さらに核兵器に頼る安全保障からの脱却です▼唯一の戦争被爆国でありながら条約に背を向ける日本政府にも言及。本来ならば最初に条約に署名する国であってほしかった、核の傘と決別し条約に加わる責務があると迫りました▼国の大小にかかわらず同じ星に息づく仲間たち。パーク事務局長は広島の原爆資料館の芳名録にこう記しました。「私たちの美しい地球に核兵器はふさわしくありません。広島はこのことを伝えています。核兵器が私たちを滅ぼす前に私たちが核兵器をなくしましょう」


きょうの潮流 2024年1月21日(日)
 「福ちゃん」と親しみをこめて呼ばれる弁護士の福山和人さん。きょう告示される京都市長選の候補者です。「つなぐ京都2024」の無所属新人。日本共産党も参加する「民主市政の会」が推薦し全力応援しています▼庶民の痛みがわかる福山さん。裁判事例にふれ、涙ぐみながら「政治の責任」を問います。スローガンは「くらし。ここから京都再生」▼公約にも熱がこもります。返さなくてもいい奨学金の創設、学校調理方式の全員制中学校給食、子ども医療費の高校卒業までの無償化など「すぐやるパッケージ」は市の年間予算のわずか1%でできます▼なのに、これまでの「オール与党」市政を支えてきた陣営の候補者は財源に疑問を呈します。地元負担がいくらになるかもわからない北陸新幹線京都延伸計画は必要というのですから驚きです。「行財政改革」の名で削減した住民サービスを元に戻す気はまったくなさそうです▼もっと驚きは「政治とカネ」。裏金疑惑に揺れる自民党丸抱え候補は「自治体の首長(候補)がどうこういう話ではない」と逃げ。政治資金集めパーティーを9回開き、8回が参加者ゼロという「架空パーティー」が発覚しさすがに擁立した日本維新の会も推薦取り消しをせざるを得なかった候補者まで出馬の構えです▼カネで政治をゆがめてはなりません。「市民の声で政治を動かす」。クリーンな政治で「京都に福を呼び込む」福山さんこそ、日本ばかりか世界から愛される古都・京都にふさわしい顔です。


きょうの潮流 2024年1月20日(土)
 あの手この手の脱税者と国税局職員とのたたかいをコミカルに描いた伊丹十三監督「マルサの女」。政治家や銀行までが絡んだ大がかりな脱税の手口が暴かれていきます▼1987年の公開から数年後、それを地で行くような事件が起きました。政界のドンといわれ、当時自民党の副総裁だった金丸信氏が東京佐川急便から5億円の闇献金を受けていたことが発覚。後に脱税で逮捕され、自宅からは金の延べ棒などが押収されました▼東京地検は5億円をうけとった金丸氏を政治資金規正法違反で略式起訴。わずか20万円の罰金という決着に、国民の批判や怒りがふっとうしました。このとき一番問題なのは何かと聞いた世論調査では「政治の金権体質が変わらないこと」が最も多い答えでした▼闇献金や賄賂、裏金づくり。不正なカネの問題をくり返してきた自民党。反省なき姿は今も▼派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で東京地検は安倍派と二階派、岸田派の会計責任者らを在宅や略式起訴としました。しかし、派閥トップや事務を仕切ってきた幹部については立件を見送り。不信は高まるばかりです▼巨額の収入を記載漏れで済ますのか。裏金づくりは誰が指示して何に使ってきたのか。岸田首相は自身の派閥を解散し各派閥もそれに続くといいますが、実態の解明から目をそらしたままで「信頼回復」などありえません。ことは闇のカネで政治がゆがめられてきた問題です。ここは「マルサの女」ならぬ、世論の力で巨悪は眠らせない。


きょうの潮流 2024年1月19日(金)
 岡野八代さんのメッセージを思い起こしました。「まるで、新しい政党が誕生したかのような感動を覚えました」。日本共産党が前回の党大会で「ジェンダー平等」を綱領に書き込んだときのことです▼この問題にとりくむことを党の方針の中心に掲げられたことは、日本社会に巣食う性差別や不平等を変革するとともに、大きく自己改革にもとりくまれるのだと理解した―。ジェンダー研究の第一人者の言葉には期待と励ましが込められていました▼そのときの決定をふまえ、今大会の決議では「ジェンダー平等を阻むものは何か、その根源を明らかにし、逆行する勢力を包囲する連帯を広げよう」と呼びかけました。同時に、党活動のなかでも努力を重ねてきたが、なおそれは途上にあるとも▼100年におよぶ共産党の歴史のなかで、初めて女性の委員長が誕生しました。会場からはどよめきとともに万雷の拍手がわきおこりました▼田村智子・新委員長は「歴史と伝統を受け継ぎ日々学びながら、のびのびと挑戦していきたい」。ベテランや若手とともにチームで協力しあい、希望ある政治、豊かな人間社会への展望を届けたいと語りました▼「党と出会って、自分らしくあっていいと気がつきました。新しい世界を私に教えてくれた」。大会に初参加した代議員の発言です。議長に就任した志位さんは閉会のあいさつで呼びかけました。「国民のくらしと平和への願いをしっかりうけとめ、党の新しい躍進の時代を開くために奮闘しよう」


きょうの潮流 2024年1月18日(木)
 道路や鉄道、港湾の損壊は激しく、物資の緊急輸送に著しい支障が生じた。医療機能が低下し消火活動も混乱した。国全体の情報連絡や初動体制が遅れをとった―▼阪神・淡路大震災の教訓です。2001年に内閣府の専門調査会がまとめています。今後の地震対策のあり方を多分野にわたって論議。「しっかりとシミュレーションを行った上で防災対策を計画立案することが必要」との意見も出されました▼被災時の対応だけでなく、災害に強いまちづくりや生活再建の支援のあり方にも言及。この時の議論が生かされていれば…。能登半島地震の悲惨な状況をみると、そう思わざるをえません。東日本や熊本をはじめ、その後も大きな地震が続いてきたのに▼初動の遅れには人災の要素を感じる、国や県のトップがこの震災を過小評価してしまったのではないか。防災研究の第一人者が新聞に語っています。過去の教訓が生かされるよう、軌道修正をしなければと▼あれから29年。あの日の惨状がふたたび目の前でくり返されています。毎年、犠牲者を追悼する神戸市内のつどいでは「ともに」の文字が浮かび上がりました。苦難のさなかにいる被災者に寄り添うとともに、世代をこえて震災を語り継いでいくという思いを込めて▼災害関連死をふくめ、政府の不作為による犠牲者をこれ以上増やしていいのか。軍拡や万博に巨額をつぎ込んでいる場合なのか。痛ましい過去から学び生かす国や社会をつくらなければ。被災地は突きつけています。


きょうの潮流 2024年1月17日(水)
 きょうは芥川賞の発表日。本欄恒例の候補作一気読みで、各作品の魅力を紹介します▼川野芽生(めぐみ)「Blue(ブルー)」は、高校演劇部で「人魚姫」に取り組む部員たちの多様な性的指向と性自認を描きます。人魚姫の恋する相手を王子から王女に翻案。苦悩する人魚姫を演じるのは、女性として生きることを望む男子です▼小砂川(こさがわ)チト「猿の戴冠式」は動物と人間の境界を超え心を通わせる女性を通して、人間中心主義の息苦しさと限界を痛感させます。引きこもっていた競歩選手のしふみは、テレビで動物園の雌のボノボを見て姉だと直感し通い始めます。ある日、園を抜け出し疾走するボノボ。追いかけるしふみ。その先には…▼三木三奈「アイスネルワイゼン」は、ピアノ教師の仕事にも人間関係にもどこか上の空で漂っていくしかない女性像を提示し、相互不信と分断が巣くう社会の空虚さをあぶり出します。安堂ホセ「迷彩色の男」は、日本で暮らすブラックミックスでゲイの受難を訴える著者の第2作。ヘイトクライムで切り刻まれた血まみれの身体の描写が差別の闇を可視化します▼九段理江「東京都同情塔」は、言葉の言い換えによって問題を糊塗(こと)した果ての世界を現出させます。犯罪者を「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と呼び、刑務所を「シンパシータワートーキョー」と名付けて豪華な塔を建設する欺瞞(ぎまん)を笑う意欲作▼いずれも現代の深層に迫り、気づきと思索へと誘います。自分にとって大切な一冊を見つけてみませんか。


きょうの潮流 2024年1月16日(火)
 「希望がみえる大会になってほしい」。鳥取から早朝の便に乗ってきた20代の代議員は期待を込めて口にしました。会場までの坂道を息を切らせて登りながら▼居場所がなかったという中学時代。民青と共産党に出合って生き方が変わったといいます。いまは、みずから仲間を増やし悩みを聞く立場に。手を携えて少しでも若者が生きやすい社会へ。そのための確信を深めるため、いろんな経験から学びたいと▼避難所の生活はいたたまれない現状がある。何年も前から群発地震が続いていたのに、いざ避難となったら、物資が足りない、行政の職員も減らされている。被災者や弱者に寄り添い、国民の命や健康を最優先にした政治に早く変えなくては―。石川から来た代議員は訴えるように語りました▼沖縄からの代議員は県民の怒りがふっとうしていると話します。国の代執行による辺野古の米軍基地建設の強行。南西諸島へのミサイルの配備。戦争の準備ではなく平和への準備を明確に示す大会にしようとのぞみました▼なぜ戦争が起きるのか。人間の自由とは何か。自分たちの人生を食いつぶす資本主義をのりこえた先には。東京の青年代議員は、それを模索し、未来への展望をつかみたいといいます▼それぞれの思いを胸に、全国から集った同志たち。日本と世界、そしてわが党の未来にとって、歴史的な大会になる。志位委員長はそう呼びかけました。自民党政治を終わらせ、希望ある新しい日本をひらくためつよく大きな党をつくろう。


きょうの潮流 2024年1月15日(月)
 どんなに売れて大スターになろうとも、決しておごらず高ぶらず。自分を見失わないで、いつも人間味あふれる笑顔を絶やさない私でありたい。それが、自身に課した目標でした▼親の反対をおしきって熊本・八代から16歳で上京。米国のジャズシンガーにあこがれ、ふくらんだ夢。クラブ歌手から全国のキャバレーやレコード店回りと下積みの日々を過ごしました。転機は全日本歌謡選手権での勝ち抜き。国民的な歌手へのステップとなりました▼八代亜紀さんが73歳で亡くなりました。「なみだ恋」「おんな港町」「舟唄」「雨の慕情」…。たくさんの心を震わせてきた歌には人びとの悲しみや苦しみがつまっています。みずからを「代弁者」でありたいと言い続けたように▼酒場の女性やトラック運転手、慰問を続けた女子刑務所の受刑者や児童養護施設の子どもたち。さまざまな心情や情念を込めた歌は自分のこととして染み渡り、生きる励ましとなってきました▼東日本大震災では故郷・八代産の畳1万枚を届け、熊本地震の際には何度も足を運んで被災者に寄り添いました。若い頃から支援活動にとりくんできたのは、人への愛情と慈しみの心を持っていた父親の影響があったからと自伝『素顔』で▼社会のあり方を憂えていた八代さん。2014年の「赤旗まつり」で熱唱してくれ、満員の野外ステージは「雨、雨、ふれ、ふれ」の大合唱に。そして花束を渡した志位委員長に「日本をよろしくね」と。いま、その言葉を、かみしめたい。


きょうの潮流 2024年1月14日(日)
 日に1000円ずつ手渡し。そのためには毎日、ハローワークで印鑑をもらってくる…。群馬県桐生市で発覚した、生活保護費の支給をめぐる市の対応です▼大声で怒鳴る、保護費を一部しか支給しない、本人の許可なく押印する、従わないと保護を取り消すと脅す。こんな窓口対応が常態化していました▼生活苦が広がるなか、同市では保護率が年々低下。市民を威圧し、申請書すらわたさない水際作戦でした。PTSDや引きこもりになったり、他市へ転居した利用者も。同市の保護却下・取り下げ率は4割超と異常です▼昨年11月、50代の男性が月に保護費の半分ほどしか受け取っていないと群馬県司法書士会に相談して事態が発覚、その後も悪質なケースが数々判明しました。市長は「深く反省」を口にしますが、議会で当局者は「先に向こうが大声を出した」「職員の力量不足」と責任を転嫁します▼金銭管理を他の民間団体に任せ、利用者が自由にお金を使えない状況も生じています。市は「紹介してるだけ」と言い逃れますが、専門家からは「地位乱用の疑い」も指摘されています。被害の広がりや深刻さに市民団体などが現地調査を予定、当事者らは近く市に国家賠償請求訴訟を行う構えです▼生活保護をめぐっては各地で問題が。生活に必要な車が処分されたり、9カ月も保護費が支給されなかった例も。生活保護は生活の保障とともに、自立の助長を目的にしています。こうした対応が何の解決にもなっていないのは明らかです。


きょうの潮流 2024年1月13日(土)
 「能登はやさしや土までも」。古くから伝わる言葉は、人はもとより風土までも素朴でやさしい土地柄を表しています▼この地域の伝統工芸、輪島塗には欠かせないものがあります。下地塗りの際に漆と混ぜて使う「地(じ)の粉(こ)」です。地層からほりだした珪藻土(けいそうど)をよく練り、天日干しの後におがくずを混ぜ蒸し焼きにしたもの。それが堅牢(けんろう)優美といわれる特長を生み出してきました▼輪島塗にはいくつもの工程があり、たくさんの職人がかかわっています。人の手がつながり、支えあって発展してきた地場産業。しかし今回の地震で多くが被害にあい、平安時代から続くとされる朝市も火事で焼失。地元からは「輪島の文化が消えてしまった」と嘆く声も聞こえます▼被災地では仮設住宅づくりが始まりましたが、主な産業や観光業が大打撃をうけた中での生業(なりわい)と街の復興の道すじは…。現地に入った共産党の小池書記局長は「迅速で長期的な直接支援が必要」と訴えます▼もともと能登地域は過疎と高齢化が切実な問題となっていました。そのうえ平成の大合併で行政の職員が減らされ、学校など公共機関の統廃合が進められてきました。これまで冷たく地方を切り捨ててきた自民党政治が、被害をいっそう深刻にしています▼きょうから大学入学の共通テストが実施されます。被災地からも受験生が教員や保護者らに見送られ、試験会場に向かっていました。困難と不安の中でも、夢と希望をもちながら。将来への思いを生かすのは政治の責任です。


きょうの潮流 2024年1月12日(金)
 そこは生きものたちの楽園です。山原(やんばる)の森に囲まれ、マングローブの広大な林からサンゴ礁へ。山と川、そして海につながる、生命(いのち)のゆりかごです▼太古からの営みがつづく大浦湾は、沖縄の海の原点といわれます。世界最大級のアオサンゴの大群落や、ジュゴンの餌場とされる天然モズクが育つ海草藻場。深い入り江となっている湾内にはさまざまな環境があり、そこに多種多様な生物が息づいています▼いまも新種が見つかる宝の海。10日、そこに次々と石材が投げ込まれました。米軍の基地をつくるために。岸田政権が、ついに辺野古新基地の大浦湾側の工事を強行しました。沖縄の地方自治と圧倒的な民意を強引にふみにじる、代執行という前例なき手段を使って▼泥質の軟弱な地盤が広がる大浦湾の海底。そこに7万本もの杭(くい)を打ち込もうというのですから、豊かな環境も生態系もめちゃくちゃに壊されてしまいます。そのうえ、いくら巨額を投じても完成の見通しさえ立たない無謀さです▼これにはデニー県知事も「極めて乱暴で粗雑な対応」だと非難。必要性や合理性のない工事がもたらす甚大な問題を直視し、建設をただちに中止するよう求めました。世界からも米映画監督のオリバー・ストーン氏をはじめ400人をこえる有識者が、沖縄に連帯する声明を寄せています▼きょう、辺野古ではオール沖縄主催の県民集会が開かれます。代執行埋め立てを許さない、日本で初めて認定された「ホープスポット(希望の海)」を守れと。


きょうの潮流 2024年1月11日(木)
 ガザは「死と絶望の場所」―国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)が語りました。10月7日以降のイスラエルによるパレスチナ自治区への攻撃のすさまじさを物語る言葉です。「ガザは居住不能になった」とも▼南アフリカは昨年末、イスラエルを「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」(ジェノサイド条約)違反として国際司法裁判所(ICJ)に提訴しました。同条約の締約国はガザでの集団殺害を防ぐ義務があると述べ、同じく締約国のイスラエルに軍事作戦の停止を命じるようICJに求めています▼提出された訴状には、ジェノサイド行為の列挙とともに、ネタニヤフ首相をはじめイスラエル政府高官から相次ぐ、ガザ破壊の意図を示す言葉が並べられています▼「地球上からガザを消し去る。われわれには共通の目的がある」(バツゥーリ国会副議長)、「民族全体に責任がある。(ハマスの蛮行を)民間人は知らなかった、関与していなかったというレトリックは通用しない」(ヘルツォグ大統領)…▼ある民族や宗教的集団を全部または一部を破壊する意図を持って行われる殺害―これらを国際法上の犯罪とし、防止し、処罰するのが同条約です。南アフリカの提訴を受けた弁論は11日から。世界が注視しています▼イスラエルと最大の支援国・米国に対し、国際社会は国連総会や今回のICJなど、あらゆる手段で停戦を迫っています。世界各地の街頭で、市民の抗議も決してやみません。「ジェノサイドをとめろ」と。


きょうの潮流 2024年1月10日(水)
 「初動が遅い」。能登半島地震への岸田政権の対応をめぐり、こんな声が上がっています。2016年の熊本地震では、発生から5日で自衛隊は2万2千人規模になりましたが、今回は9日目で6300人。避難所では食事がパン1個という状況が続き、多くの安否不明者も残されています。「政府は何をやっているのか」という批判も理解できます▼今回の震災対応を困難にしているのは「陸の孤島」といわれる能登半島の地理的要因です。一本の道がふさがれれば、どこにも行けない。石川県によれば、8日時点で能登地方の24地区3300人が道路の寸断で孤立状態にあるといいます▼発生当初は、道路の寸断はさらに広範囲におよび、元日で休暇中だった自治体職員の多くが出勤できなくなりました。こうした要因が、捜索や被災者支援に困難をもたらしたと思われます▼自衛隊の規模をめぐっては、熊本地震と単純比較はできません。それでも、もっとできることはあるのでは。例えば、陸路が困難なら空路=ヘリをもっと活用できないのか▼そんななか、防衛省は7日、千葉県の習志野演習場で、降下訓練を予定通り実施し、多くのヘリを戦闘訓練に投入しました。救援物資を積めるであろうヘリから降りてきたのは、銃を持った自衛隊員…。違和感を覚えたのは筆者だけでしょうか▼「初動が遅い」という批判の根底には、岸田政権に対する国民の信頼の喪失があります。命を助けること、助かった命を守りぬくことは政府の責任です。


きょうの潮流 2024年1月9日(火)
 「核実験被ばく者を“数”でなく、一人ひとりの人生を記録したい」。こう話すのは、高知で活動する太平洋核被災支援センター共同代表の濱田郁夫さんです▼アメリカによるビキニ核実験被災から70年。濱田さんが作成する「被災名簿」は、室戸漁協と室戸岬漁協で160隻のマグロ船です。「戦争中は軍の徴用船に取られ室戸の遠洋漁業が壊滅し、戦後、多くの人のがんばりで遠洋漁業を再建した。なのに、核実験で被ばくし、その後の人生を苦しめられているわけですから」と濱田さん▼徴用船は、中国大陸や南方諸島への物資輸送や近海に配置され、敵機や敵艦艇の監視や報告の任に。『室戸岬遠洋漁業六十年の歩み』によると、約70隻もあったカツオ、マグロ船は、戦後残存した船は9隻でした▼「戦争が当たり前のご時世で“お国のためなら死んでもいい”と教育された。兵隊にとられたのは長男だけだったが、無事に戻ってきてホッとした」と話すのは小笠原勝さん。89歳です▼勝さんはマグロ船「第五海福丸」に乗りビキニ海域での核実験で被ばくしました。「東京に入港したときの検査で、マグロの解体作業に使った軍手が一番反応した。歯茎から出血が続いたことも記憶に残っている」▼日米両政府は、第五福竜丸以外の多くの被災船員の被ばく・健康問題は闇に封じることで「政治決着」させました。「私たちの被ばくは無視され続けてきました。無責任すぎる。戦争も核兵器もいかん。若い世代にはこの真実を知ってほしい」


きょうの潮流 2024年1月8日(月)
 毎年恒例の「今年の漢字」。昨年、最も多かったのは「税」でしたが、若い世代が選んだのは「楽」でした。就活会社やネットの調査でわかりました▼「いろんな人に出会えて楽しかった」「いろんな行事が本格的にできたから」。コロナ禍の活動制限が解かれ、戻りつつある生活を楽しいと感じる若者が多かったようです。密な青春時代を過ごせなかった反動なのかもしれません▼あなたの人生において、大切にしたいと思うことは何ですか? 日本財団の「18歳意識調査」では家族とともに、自身の好きなことややりたいこと・趣味が上位に並んでいます。プライベートや自分のための時間により価値を置く姿がうかがえます▼一方で、格差の拡大がうみだす若者の貧困が社会問題となっています。家庭環境や高学費が壁となって、やりたいことができない。不安定な雇用、低賃金・長時間で働かされ日々時間が削られていく。矛盾に苦悩する現実があります▼いま、人間の自由とは何か、どうすればそれを実現できるか、模索する若者が増えています。「長時間労働や搾取からの解放や自由が社会主義の本質だと思う。自由とゆとりが持てれば、人間や社会はよりよくなると信じている」。本紙党活動面で紹介された20歳の学生党員の抱負です▼最近共産党に入った20代の女性も、人と人がたくさん対話してつながり、平和で自由にあふれた社会をつくっていきたいと語っていました。いつの時代も未来は青年のもの。きょうは成人の日です。


きょうの潮流 2024年1月7日(日)
 竜は水をつかさどる神です。このため竜の伝説は湖や池にまつわるものが多い。自らの美しさと若さを永久に保ちたいと願って、竜に化身した田沢湖の辰子姫。竜になった八郎太郎がつくった八郎潟。壮大なスケールの伝説は作家の創作欲も刺激してきました▼松谷みよ子の『龍の子太郎』で、太郎は母竜の背に乗って湖を干拓、広い土地を生み出します。元は長野県の伝説。「大地を生むことは、水を統(す)べる力を持つ竜だからこそ、でき得た」と、作者は24年前の辰年に本紙に寄稿しています▼泉鏡花の戯曲「夜叉ケ池」も有名です。たびたび大水をおこした竜神が、山中の池に封じ込められていました。竜との約束で、山では昼夜に三度、一日も欠かさずに鐘をついていました。しかし、権勢を笠(かさ)に着た代議士のせいで鐘はつかれず、村は大水に飲み込まれてしまいます▼夜叉ケ池は福井県と岐阜県の県境近くにあり、いまも神秘的な水をたたえています。長野県の黒姫伝説では、怒った竜が四十八池の水を落として大洪水を起こしました▼竜には人間の力の及ばない自然現象への恐怖と畏敬が仮託されています。うまく統御できれば豊かな実りをもたらします。一方、ひとたび人間が約束を破れば、途方もない災害が襲ってきます▼巨大台風、集中豪雨などの異常気象は、人間の活動による温暖化が原因と言われます。人間のおごりが竜の怒りを呼んでいるのです。人間と自然の調和を取り戻し、竜を鎮めることができるかどうか。正念場です。


きょうの潮流 2024年1月6日(土)
 原発についての質問に答えず、年頭の記者会見を一方的に打ち切った岸田首相。会見後にはBSフジの番組に生出演しており、その姿勢が批判されています▼番組は、能登半島地震の対応から国際情勢や政治とカネの問題、自民党総裁選への思いまで。ときおり笑みを交えて語る姿に「こんな無責任で緊張感がない人間が総理大臣」「今そこにある危機を見ず総裁選を語る」といった声がSNS上であふれました▼陣頭指揮をとるといいながら、今も生き埋めになっている人たちや被災者を助ける決意も覚悟も、この番組や年頭会見からは感じられませんでした。被災地の苦しみを少しでも考えたら、こうした番組に出て総裁選のことまでようようと話すでしょうか▼それは、自身の党の中枢を直撃している裏金疑惑についても。なぜ、各派閥の不正な資金づくりが常となってきたのか。その解明も反省もないまま「政治刷新本部」を立ち上げると▼派閥の長として先頭に立ってきた首相みずからが本部長。最高顧問には、麻生副総裁と菅前首相を起用するといいます。金権政治にどっぷりとつかってきたこの布陣で、どこをどう改めるつもりなのか▼年頭会見では軍事力の強化や改憲にむけた「最大限のとりくみ」まで口にしました。緊急事態のさなかに自身の野望の実現をあらわにする首相。これでは、このごろ二言目にはくり返す「信頼回復」など、いつまでたってもおぼつかないでしょう。だいたい刷新されるべきは自民党政治ではないのか。


きょうの潮流 2024年1月5日(金)
 関東大震災が起きた20世紀初頭は大規模な自然災害が相次いだ時期でした。東北大凶作、関東大水害、東京湾台風、桜島大噴火。そして、未曽有の大震災▼土田宏成(ひろしげ)著『災害の日本近代史』によると、この時期はまた、災害への対応体制が整えられていきました。以前の災害の経験が次の災害への対応に生かされる。大災害の影響は広範囲に及ぶことから、それを通じて歴史を考えたいと▼1世紀前と同じく、今の日本も大規模な自然災害がくり返されています。その経験や教訓は生かされているでしょうか。能登半島地震の被災地からは水や食料が足りない、厳しい寒さのなかで毛布や灯油が足りない、トイレが使えないといった声が上がっています▼輪島市の坂口茂市長は3日「1万75人の避難者に対して、2000食分しか食事が届いていない。食料が極端に不足している」と訴えました。石川県内では3万人以上が371カ所の避難所に身を寄せていますが、そこでも生活物資の不足は深刻です▼災害への備えや避難所の環境改善は再三、指摘されてきました。軍事費の拡大ではなく、防災や災害関連死を防ぐための対策、そして復興に予算や力を注ぐことこそ、災害多発国の政府の役割ではないのか▼いまだ被害の全容はわからず、孤立が続く地域もあります。こうした混乱時には、人びとが助け合い、励まし合う姿が至る所で。生きる希望を届けるためにも、あらゆる手段を使って人命救助と被災者支援を尽くす。それが歴史の教訓です。


きょうの潮流 2024年1月4日(木)
 「魔の11分」。そんな用語がこの業界にはあるといいます。世界の航空機事故のおよそ7割が離陸時の3分と着陸時の8分に集中していることから、そう呼ばれています▼2日、羽田空港で起きた日本航空機と海上保安庁の航空機の衝突。着陸の日航機はほぼ満席でしたが、炎上する中を乗客乗員379人全員が脱出を果たしました。まさに危機一髪でした▼一方、滑走路上にいた海保機の乗員6人のうち5人が亡くなり、1人は重傷を負っています。この機は前日に発生した能登半島地震の救援物資を運ぶため、新潟に向かおうとしていました。そのことが、痛ましさをいっそう募らせます▼まだ原因は不明ですが、昨年も羽田空港では誘導路で航空機同士が接触し、翼の一部を損傷しています。国際線の導入が進んだことで過密状態にあるといわれる空港。4本ある滑走路は井桁状に組まれ同時着陸も可能で、管制業務はとても複雑だと専門家は指摘しています▼今回の経過を解明するとともに、こうした背景にも目を向けることが事故の再発防止には必要ではないのか。ありえないことが起きてしまった現実とむきあい、安全第一を軸にすえた検証が求められます▼それにしても、なんという年明けか。能登の地震では今も余震が続き、死者は増え、多くが助けを待っています。空の便は欠航が相次ぎUターンの足に深刻な影響が出ています。いつ、どこで、何が起きるか―。被災者や事故にあった人びとに心をよせあう、緊迫感漂う新年です。


きょうの潮流 2024年1月3日(水)
 今すぐ逃げること、東日本大震災の津波を思い出してください! アナウンサーの切迫した口調がおとそ気分をふきとばしました▼元日、石川県の能登地方を震源とした最大震度7の地震は広範な被害をもたらしました。津波や土砂崩れ、家屋の倒壊や火災、道路の陥没や交通網の寸断…。救助活動とともに停電や断水の復旧、寒中の避難生活の負担を少しでも軽減するよう国や自治体は力を尽くすときです▼国土地理院によると、今回の地震で輪島市が西に1・3メートル動くなど大きな地殻変動が観測されました。この地域では以前から地震活動が活発で昨年5月には最大震度6強。2020年12月から昨年5月末までに震度1以上の揺れを433回も観測しています▼避難体制を含め備えはどうだったのか。原発もしかり。石川・志賀(しか)原発では外部電源の一部が使えず、核燃料プールの冷却ポンプが一時停止したとの情報も。新潟・柏崎刈羽原発でも燃料プールの水があふれました▼志賀原発は、経団連の会長が一刻も早い再稼働を促したばかり。動かしていたらと思うとぞっとします。甚大な被害をうけた珠洲(すず)市も一時は原発誘致が進められました。これだけ地震が相次いでいるのに原発を林立し、さらに再稼働を推し進める財界や政権。住民の安全を置き去りにして▼いまも増え続ける犠牲者。年明けからだんらんの場を奪われた多くの避難者。自分たちの裏金づくりや万博などに巨額をつぎ込むのではなく、こうした被害者にこそ、手厚い支援を。


きょうの潮流 2024年1月1日(月)
 自分らしくいられる場所がほしい。その思いが、活動の原点になってきました。家でも、学校でも感じてきた居心地の悪さ。それは社会に出てからも▼福岡で同性パートナーとくらす中谷梨帆さん(28)は、不登校の子どもや若い女性たちの支援に携わってきました。みんなが生きやすい世の中にするには、どうしたらいいんだろう。抱えてきた苦悩のなかで、ひとつの決断をしました。日本共産党に入ることです▼「しんどいのは個人だけど、これは政治や社会の問題ではないか」。立ちふさがる差別や格差によって輝くことも挑戦することも許されない。そんないびつな国のかたちを、ともに正したいと▼「命の平等」が実現される社会をめざして。千葉でリハビリ看護師として働く女性(23)も最近入党を決意しました。被爆地や沖縄をまわって戦争や平和の問題を深めながら、人に優しい世界をどうすればつくれるのか考えてきました▼いま、人間の自由をもとめて民青や共産党に加わる若者が増えています。搾取や束縛から解き放たれ、みずからの能力を豊かに開花させる社会へ。矛盾に満ちた現実にあきらめず、未来につながる道を胸に▼「希望正如地上的路」。希望は、まさに地上の路(みち)のようなものだ。ほんらい、地上に路はなく、歩く人が増えれば、そこが路になるのである―。昨年亡くなった大江健三郎さんは、魯迅(ろじん)の希望についての言葉を政府への抗議集会で読み上げたことがあります。人びとの世を変える歩みに希望を込めて。


きょうの潮流 2023年12月31日(日)
 「これほどひどい、人道危機はみたことがない」。国際機関で長く支援活動に携わる人たちが、口をそろえるそうです。それほど、ガザの状況は悪化の一途をたどっています▼日々積み重なっていく犠牲者の数。人口の9割超が避難民となり、南部では避難所も家も道路も人であふれ安全な場所はひとつもない。家族6人に1・5リットルの水と二つの缶詰。それが1日分のすべてだと▼ネット番組「とことん共産党」で、国連パレスチナ難民救済事業機関の保健局長、清田明宏さんが伝えていました。見境のないイスラエル軍の攻撃に脅かされている命の危険を何とかしたい。悲痛な思いがひしひしと▼2023年が暮れてゆきます。心痛み、暗く重たい気持ちを引きずったまま。ロシアによる侵略がやまないウクライナもまた。なんという人間の愚かしさ。どこに光明を見いだせばいいのか。人びとはさまよっています▼大国がつくりだす対立のなかで世界の流れは鮮明です。国連総会はガザ即時停戦を求める決議を、加盟国の8割にあたる153カ国の賛成で採択。戦争やめよの意思をはっきりと示しました。それに呼応するように、若者をはじめ平和を訴える声が各地であがっています▼国内では政権与党の国会議員の強制捜査や聴取が続いています。迎える年は辰(たつ)。古来、瑞祥(ずいしょう)の象徴とされてきた龍は特別な力を持つとあがめられてきました。しかし人類を進歩させてきたのは、いつの時代も、より良い社会をめざすほとばしるような熱情です。


きょうの潮流 2023年12月30日(土)
 原子力規制委員会が新潟県に立地する東京電力柏崎刈羽原発の「運転禁止命令」を解除しました。解除決定と合わせ東電に対し、「運転を適格に遂行するに足りる技術的能力がないとする理由はない」という、原子力事業者としての適格性も認めました▼社員が他人のIDカードを使って中央制御室に入る、第三者の侵入を検知する設備の故障を放置する―。不備が発覚し運転禁止命令を受けた後も、放射能汚染水を処理する設備の配管を洗浄していた作業員が高濃度の廃液を浴び、2人が入院する事故などが相次いでいます▼規制委の判断は妥当なのか。適格性では「福島第1原発の廃炉を主体的に取り組み、やりきる覚悟」などの姿勢を確認したといいます▼しかし、福島第1原発の海洋放出では、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」とする漁業者との約束を反故(ほご)に。東電は国が判断したことだからと、自らの考えを示さず国いいなりの姿勢。主体性などみじんもありません▼もとより重大事故を起こした東電に原発を再び動かす資格があるのか、です。事故の損害賠償を求める裁判で、津波対策を先送りした東電に「原発の安全対策についての著しい責任感の欠如を示すもの」と指摘した判決もありました▼規制委は「お墨付きを与えたというつもりはない」といいます。ところが政府はさっそく、再稼働に向け地元の理解を得られるよう説明したいと前のめりです。原発優先政治の転換は来年に向け、いよいよ大きな課題です。


きょうの潮流 2023年12月29日(金)
 歴史的な記録物を保存するユネスコ「世界の記憶」に今年登録された「東学農民革命」。日清戦争のさなか、日本の侵略に抗した朝鮮の民衆を日本軍が徹底的に弾圧。日本軍最初のジェノサイドともいわれます▼当時、朝鮮の人々は東学農民軍を組織。ライフル銃を持つ日本軍に竹やりや火縄銃で応戦しました。日本政府は掃討作戦を朝鮮全土で実施、5万人を超える犠牲者が出たとされます▼この10月、日本軍の討伐本部が置かれた韓国南西部・全羅南道羅州市に日韓の市民によって「謝罪の碑」が建てられました。きっかけは日本近代史の専門家で奈良女子大の中塚明名誉教授が毎年行ってきた日韓歴史紀行でした▼日本の市民が歴史を知ることで心を込めた謝罪を表そうと碑の建立基金を集め始めます。それを知った韓国の市民も感動と喜びをもって基金に参加。いまも強制動員や「慰安婦」被害者らから謝罪と賠償を求められている日本政府とは対照的です▼除幕の直前に亡くなった中塚氏と研究を共にした韓国の円光大学・朴孟洙(パク・メンス)名誉教授は話します。謝罪と赦(ゆる)し、和解と共生という新たな日韓関係のモデルが誕生した。この小さな出来事がバタフライ効果となって、羅州が東アジアの平和と世界平和を実現する聖地になることを願う、と▼2024年は日清戦争から130年の節目を迎えます。日本による侵略戦争と正面から向き合う年。歴史の教訓を学び、世界の戦争や紛争を止める年。そして、その思いを共にする政府をつくる年に。


きょうの潮流 2023年12月28日(木)
 「新聞の朝刊を取ること以外ぜいたくはしていません」。そう書かれた投書が今月中旬、本紙に届きました。名古屋高裁が11月末、生活保護費の引き下げは違法だとする判決を出したニュース記事を読んでのものでした▼「56歳男性」だというこの方は、ここ十数年、認知症の両親の介護をしていたといいます。仕事を探そうにもスマホがない。そう伝えると面接を断られる。今の生活保護費では通信費やスマホ代の捻出が難しい…と悪循環に▼安倍晋三政権が2013年から段階的に引き下げた保護費の減額は総額670億円。過去最大規模でした。高裁判決はこの減額を行った厚生労働相に「重大な過失がある」と▼余裕のない暮らしをしていた原告たちが保護費の減額でさらに余裕のない生活を9年以上強いられたと認定。「相当の精神的苦痛を受けた」として、国家賠償を命じました▼生活保護の基準は、住民税の非課税や最低賃金、社会保障給付水準などさまざまな制度に連動。判決は、国民全体の生活水準に影響を及ぼすものだとも指摘します。「生活保護は最低限の生活のベースラインなので、これを機に国民みんなの生活が豊かになっていってほしい」と原告の一人、澤村彰さん▼29都道府県で起こされた30の同種訴訟。昨年5月の熊本地裁判決以降、12勝4敗と原告勝訴の流れができています。来年こそは生活保護費を削減前の額に戻したい。投書を寄せた男性は「スマホを持って生活の幅を広げられたら」と希望を膨らませます。


きょうの潮流 2023年12月27日(水)
 NHKドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」に感動が広がっています。草彅剛さん演じるコーダ(耳が聞こえない両親を持つ聞こえる子ども)が主人公。ろう・難聴の主要キャストを20人もの当事者が演じていることで話題です▼舞台裏に密着した番組では、ろう者と聴者の垣根が無くなる過程が描かれていました。「お互いが壁を作って離れているのではなく共に歩んでいくのがすばらしい」と、ろう者の俳優▼楽聖ベートーベンも難聴でした。最後の交響曲「第九」を初演した時には鳴り響く拍手に気づかなかったといわれます。苦悩から歓喜に至る「第九」は、いまなお交響曲の最高峰です▼交響曲では異例の合唱付き。ベースはフランス革命直前に書かれたシラーの詩です。いかに世界が分断されようと「全ての人はきょうだいとなる」と歌う詞に「分け隔ての無い人類愛と平和を願うベートーベンの祈りを感じる」と指揮者の小林研一郎さん。「殺りくに明け暮れる今こそ祈りを世界に届けたい」と「第九」コンサートをユーチューブで無料配信しています▼演奏するのはプロ・アマチュア混成の「コバケンとその仲間たちオーケストラ」。知的障害がある人を招待。メンバーには全盲の仲間たちも。2005年、誰もが輝く社会づくりをめざして発足しました▼「デフ・ヴォイス」には「ろう者の声」のほか、「社会的少数者の声」の意味も。来年は「第九」初演から200年、日本が障害者権利条約を批准して10年になります。


きょうの潮流 2023年12月26日(火)
 NTTの関連会社を名乗る人物から立て続けて携帯に電話がかかってきました。それぞれ契約を見直せば料金が安くなるという案内でした▼怪しいと思い問いただしましたが、相手は立て板に水のごとくすらすらと。きっとマニュアルがあるのでしょう、これではだまされる人もいるかもしれません。自分の携帯番号や契約情報がどこからもれているのか、恐ろしさや不安が募ります▼いまや住所や電話、氏名に加えて資産状況も記された「闇名簿」が出回り、暴力団や犯罪者の間に流れているといいます。「50代以上なら全員載っていると考えたほうがいい」と警告する専門家も▼「オレオレ詐欺」が社会に広まるようになってから20年。近年は企業や公共機関の職員を名乗るなど手口が巧妙化したことで、特殊詐欺と呼ばれています。おもに高齢者が狙われ、昨年の被害総額は370億円をこえ、今年はそれを上回るペースです▼お金ほしさに軽い気持ちで「闇バイト」に手を染める若者たちも社会問題になっています。手っ取り早く金を稼ぐことがもてはやされ、まじめに暮らす人びとを食い物にするような世の風潮が背景には漂っています▼そういえば、企業や団体から裏金をもらいながら税金である政党助成金もいただく、あの党も詐欺のようなものか。政権をかさに着る、こうした不正が闇を広げることにもつながっています。みずからの利益を得るために人をだまし、生きる糧さえも奪う。そんな不信に満ちた社会に未来はありません。


きょうの潮流 2023年12月25日(月)
 「当時を再現し、群島民の想いを追体験したい」。きょう、鹿児島県の奄美市でちょうちん行列が開催されます。70年前の12月25日に果たした日本への復帰を記念して▼戦争が終わったあとも米軍の占領下で苦しめられた奄美の人びと。ちょうちんには、そこから解放された喜びがともされています。飢えをしのぐためにソテツの毒を抜いて食した日々。本土との流通も遮断され、言論や集会をはじめさまざまな自由が縛られました▼独裁への怒りとともに立ち上がった復帰闘争はいまでも語り草になっています。14歳以上を対象とした署名は実に島民の99・8%に達し、集団断食や命がけの密航陳情も決行。燃え上がる若者たちを先頭にした島ぐるみの運動は平和と自由、そして生きるためのたたかいでした▼いままた、奄美群島をふくむ南西諸島では軍事要塞(ようさい)化が進められています。ミサイルや弾薬庫の配備、自衛隊や米軍基地の強化がアメリカいいなりの政権によって▼ともに復帰をめざした沖縄は奄美から19年も遅れて実現。しかし、その後も米軍基地が集中して置かれ続け、辺野古の新基地建設が象徴しているように、いまだ県民の総意や地方自治がふみにじられています▼日本共産党の活動家として当時の復帰運動をひっぱった崎田実芳(さねよし)さん(故人)は「力による支配を続けるかぎり、民衆は必ず立ち上がる」と語っていました。そこにこそ奄美のたたかいが示した教訓があり、そのエネルギーは、いまも脈々と生き続けているはずだと。


きょうの潮流 2023年12月24日(日)
 そこは戦場でした。兵士同士がぶつかりあう最前線。食べ物も少なく、電気もない。寒さ厳しい冬のある夜、戦闘に疲れ果て休んでいると相手の塹壕(ざんごう)から歌声が聞こえてきました▼それは「きよしこの夜」。いつしか、両軍の塹壕から合唱のようにクリスマスの歌が暗い夜空に流れていきました。翌朝、両兵士がゆっくりと歩み寄り、握手を交わします。「メリークリスマス」▼また一緒に歌ったり食べ物を分けあったり。家族の写真を見せあい、記念写真をとる人も。そして、笑顔のサッカーが始まりました―。1世紀前の第1次世界大戦で争ったイギリス軍とドイツ軍の間であったクリスマス休戦です▼この話は兵士たちの写真や手紙などで裏付けられ、語り継がれてきました。日本でも昨年、絵本作家の鈴木まもるさんが紹介しています。『戦争をやめた人たち』と題して。残念ながら戦争は今も世界で起こっているが、戦争をやめることができるのも人だと▼クリスマスを前に鳴り響く爆音や銃声。ガザでは死者が2万人をこえ、住民は深刻な医療危機や飢餓に直面しています。鈴木さんがこの絵本のあとがきの絵を描いているとき、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました▼また戦争を始める人間がいる現実にがく然としながら、戦争することよりも強い、人の優しさと想像力が描きたくて完成させました。最後の絵には世界中の人びとが手をつないでつくった輪の真ん中にメッセージが込められています。「この星に、戦争はいりません」


きょうの潮流 2023年12月23日(土)
 かつて、選挙では候補者による立会演説会が開かれていました。聴衆は下駄ばきで参加。飛び交うヤジには政治への怒りが込められていました。そんなヤジがいきなり警察に排除されたとしたら…▼2019年、参院選さなかの札幌市内で安倍首相(当時)が演説中に問題は起きました。「アベやめろ」「増税反対」。声を上げた市民らを北海道警が取り囲み、排除したのです。「年金100年 安心プランどうなった?」というプラカードを掲げた人も同じ扱いを受けました▼ドキュメンタリー映画「ヤジと民主主義」が、この一部始終をとらえました。首相を支持する人々の発言やプラカードは許されるのに、反対の声は暴力的にはねのけられるのか。「言論の自由」の保障を正面に掲げました▼安倍政権が推し進めた特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認も視野に入れました。製作したのは地元の北海道放送。4年かけて追った執念を感じる一作です▼19年当時、いくつものメディアが取材に。しかし、事態を追及したところは、他にはありませんでした。山崎裕侍監督は「人権侵害に対する沈黙は加担を意味する。権力に忖度(そんたく)せず報道を続けていくことが、崩れかかっている自由や民主主義をかろうじて止める力になる」と▼排除された当事者2人は、精神的苦痛を受けたと道に損害賠償を求めて提訴。今も裁判は続いています。何を言ってもどうせ変わらないとあきらめてはいけない。「おかしい」と思ったら声をあげようと勇気づけられます。


きょうの潮流 2023年12月22日(金)
 「教え子を再び戦場に送らない」。あの戦争に子どもたちを送り出してしまった教職員の、不退転の決意。72年たった今も、生きています▼退職後のひとりぼっちをなくそう、との願いから始まった全日本退職教職員連絡協議会(全退教)。平和と民主主義・生活擁護にも目を向けた活動を続けます。岸田政権が大軍拡に突き進み、平和をめぐって最大の危機に直面するなか、ボイスアクションを呼びかけています▼戦争をしない、させない思いを1枚のはがきに込める取り組み。「平和であることが何よりです」「戦争するな。子どもの命・夢奪うな」「今こそ憲法9条の出番」…。事務局には、願いがびっしり書かれたはがきがすでに1000枚以上届いています▼人の命を奪うためではなく、命を育むための予算をとの声は切実です。13日には「学校に希望を!長時間労働に歯止めを!ネットワーク」が発足しました。残業代の支給、業務量にあった教職員の配置、そのための教育予算増額。この三つを求めて教育研究者有志が呼びかける署名を広げ、運動を交流します▼全退教も呼びかけ団体に加わりました。深刻な教員不足から退職後も現場にかかわりながら、「このままでは学校がもたない」と痛感してきたからです。ボイスアクションとともに力を注ぎます▼大軍拡ではなく教育にお金を。冷たい冬を乗り越えて、子どもたちが安心できる温かな学校へと気持ちを寄せ合いたい。日一日と、日差しが伸びていくように。今日は冬至です。


きょうの潮流 023年12月21日(木)
 きょうは「回文の日」。回文とは上から読んでも下から読んでも同音になる単語や文章のことで12月21日は1221となることから▼「新聞紙」「竹やぶ焼けた」「わたし負けましたわ」と聞けば、あああれか、と思い当たるでしょう。中島みゆきも「ヨノナカバカナノヨ」と歌っていました。言葉遊びと侮るなかれ。回文俳句に回文詩、回文アートまであるようです▼『たのしい回文』の著者・せとちとせ氏は、自作の「嘘(うそ)見透かす霞草(かすみそう)」を挙げ、言葉同士が呼び合い事象の本質を浮き彫りにする働きを指摘し、「女神歌う歌『海亀』」では回文によって不思議な別世界が出現する新鮮さを説きます▼印字した回文詩を壁一面に並べた作品のある美術家・福田尚代氏は「回文は、自分の中から生まれるものではなく、外にあるもの。自分では思いつかないことばを“発見する”行為」と語っています▼回文の歴史は古く、平安後期の歌学書にその例が見られるとか。江戸時代には縁起の良い初夢を見られるように、宝船の絵に「長き夜の遠(とお)の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな」という回文和歌が書かれた紙を枕の下に入れて眠ったそうです。くるくる回る言葉は、季節が永遠に循環するめでたさにつながるのかもしれません▼記者も初挑戦。まずは好きな花の名を逆さまに。「奇抜なツバキ」「理由問うユリ」「騾馬(らば)の耳のバラ」。おまけ「寝付きいいキツネ」。目下、平和のスローガンを作れないかと思案中です。ご一緒に挑戦してみませんか。


きょうの潮流 2023年12月20日(水)
 戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんが、「救国内閣」の組閣案をSNSで発信しています。政権と対決する野党から選び、民間人も登用しています▼岸田政権の支持率が2割を切ったことで、「一国民として、どんな方向性の政権を望むか」を形にすることが目的。方向性とは政治理念と倫理観のことだといいます。たとえば、首相は田村智子、官房長官は山本太郎、経産相は田島麻衣子、外相は民間の国谷裕子…▼これには、自分も組閣してみた、わくわくするとの反響が続々。人選の賛否はあるものの政権全体への不信が募るほど、それに代わる姿を待ち望む声が広がっています。絶望ではなく、どうすれば政治に希望をもてるか願いを込めて▼自民党の派閥パーティーをめぐる問題で東京地検特捜部の強制捜査が入りました。最大派閥の安倍派や二階派の事務所を家宅捜索。政権や党をゆるがす裏金づくり疑惑は刑事事件に発展しました▼自民党全体にはびこる不正なカネ。新閣僚4人も昨年のパーティーで計2億円を集めていたことを本紙が報じています。利益率は8割超で「大臣規範」に抵触する閣僚も。巨額をつくりだす「錬金術」のことは知り尽くしているはずなのに、岸田首相は捜査をみながら必要な対応をと白々しい▼先の山崎さんは、実現可能か否かではなく、こういう方向性の内閣ができたら、日本の社会は、自分たちのくらしはどう変わるだろう、とイメージしてもらうのが目的とも。そして社会は人が変えられるものだと。


きょうの潮流 2023年12月19日(火)
 「清水の舞台から飛び降りるような気持ちで」。思い切った決断をするような時に使われる言葉です。江戸時代には願かけで実際に飛び降りた人がいたという記録が残っています▼その清水の舞台が2025年大阪・関西万博でにわかに話題になっています。万博のシンボルだという大屋根。工事現場に行くと「世界最大級の木製リングをつくっています」という宣伝文句が目につきます。清水の舞台のように釘(くぎ)を使わない伝統工法だというのが売り物です▼大屋根は高さ12メートルから20メートルで1周約2キロ。リングの屋上からは会場全体を見渡せ、瀬戸内海の豊かな自然を楽しむことができ、風雨や日差しよけにもなるといいます。ただ金額を聞いて驚きます。約344億円▼万博の会期半年が過ぎれば解体。補強のため一部金具を活用する工法を「伝統工法」というのか。「世界一高い日傘。壮大な無駄遣いじゃないか」。批判が起きるのは当然です▼万博にいったいいくらかかるのか。会場建設費は大屋根など2350億円。国、大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担します。国費はほかにも日本館建設、警備費など837億円。これで済みません。政府のまとめによると万博関連インフラ整備費は9・7兆円。うち万博に直接関係する整備費は8390億円▼庶民が物価高騰に苦しむなか信じられない金額です。しかも、万博を名目にしたインフラ整備はカジノ誘致のため。「清水の舞台」を引き合いに出すなら万博中止という決断をする勇気こそ。


きょうの潮流 2023年12月18日(月)
 150年前、明治初期の「徴兵令」で始まった徴兵制度は、敗戦後の1945年11月に廃止されました。公募となった自衛隊はいま、応募者減で慢性的な定員不足に直面しています▼少子化やハラスメントが背景にあるとあって、防衛省は人員確保へあの手この手で。一定期間入隊すれば返済を免除する奨学金貸費学生制度や退職時の大学進学支援制度の勧誘策も▼隊員募集のため自治体に若者の個人情報の提供を迫ることまで各地で。人権無視、学校や自治体を「戦場の窓口」とするなと抗議や批判が広がっています▼いかに自衛隊の好感度をあげるか―テレビへの露出も重要な広報作戦です。“制作過程は話せない”と密接ぶりは口を閉ざすものの、例えば、ドラマ「テッパチ!(鉄の帽子)」(22年フジ系)ではエキストラは自衛官、戦車は本物。防衛省は全面協力しました。最近のドラマ「VIVANT」(TBS系)では自衛隊の諜報(ちょうほう)組織「別班」の一員を人気俳優が演じて話題に▼先月放送の日本テレビ系の番組は、「メディア初解禁」と称し静岡の陸自駐屯地で74式戦車の内部にカメラを持ち込みました。ドラマやバラエティーだけでなく、ニュース枠でも“テレビ初”“密着取材”の触れ込みで「日本の安全保障を支える精鋭部隊」と無批判に報じる番組も▼岸田政権の大軍拡計画のもとで拡大する日米一体化の危険な実態に目をつむったままでは、自衛隊広報の片棒を担ぐようなもの。テレビが「戦場への窓口」になるのもごめんです。


きょうの潮流 2023年12月17日(日)
 米スポーツ史上最高額。大リーグ、大谷翔平選手のドジャース移籍が破格の契約とともに話題です。10年総額7億ドル、日本円でおよそ1千億円になると▼大谷選手の加入によって球団には観客数やグッズ販売、放映権料や企業からのスポンサー料の増加が見込まれます。実力もさることながら、その高い収益力が巨額契約の背景にあるといいます▼米4大プロスポーツと呼ばれる野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーではこうした大型契約がたびたび見られます。また世界的に人気のあるサッカーやテニス、ゴルフなども多額が動いています▼一方でマイナースポーツといわれる競技は人口もメディアへの露出も少ない。選手の多くは働きながらの活動で、待遇や人気の格差はスポーツ界の大きな課題となっています▼スポーツに限らず、いま世界全体で爆発的に格差が拡大しています。2020年以降に生じた資産のうち、6割以上が上位1%の富裕層に集中。その富は増えつづけ、逆に貧困層は生活と命の危機に追い込まれる。国際NGOの報告書をもとに資本主義の矛盾を明らかにした本紙「すいよう特集」(6日付)に反響が寄せられました▼「まさに未来がない」「弱肉強食のしくみがよくわかった」。搾取のひどさに、社会主義について真剣に考えるときだ、との意見も。NGOは訴えています。「将来世代をふくめ、すべての人に人間らしい生活をもたらす、人間のための経済をつくらなければならない」


きょうの潮流 2023年12月16日(土)
 経済的困難を抱える家庭への支援を行うNPO法人「キッズドア」が一人親家庭などの困窮世帯を対象に実施したアンケートの結果、2割以上の家庭で子どもが不登校や不登校ぎみであることが分かりました▼学校に行きづらくなった理由には「新しい服や文房具が買えず、『貧乏』と思われる」「出費を抑えるため、遊びに行くことが減って友人関係が良好でなくなった」といったものが。子どもの気持ちを考えると、こちらまでつらくなります▼そうした子どものうち83%が平日の日中も家で過ごしているといいます。フリースクールに通わせるのにも費用がかかり、苦しい経済状況では難しい。「安価なフリースクールがあれば通わせられるのに」という声もあります▼大企業優先の政策が招いた「失われた30年」といわれる経済停滞で実質賃金が下がり、格差が広がりました。さらに最近の物価高。キッズドアのアンケートに99%が「家計が厳しくなった」と回答しました。子どもへの影響は深刻です。高校生のいる世帯の14%が「経済的な理由で志望校を諦めた」と答えました▼政府の「少子化対策」は財源が社会保障の削減などで結局、負担が国民に跳ね返ってきます。パーティー券収入など多額の金をもらっている自民党では大企業に負担を求めることができません▼経済の抜本的再生と本格的な子育て世代への支援が求められています。教育無償化の観点から、フリースクールへの公的支援で保護者の負担を軽減することも必要です。


きょうの潮流 2023年12月15日(金)
 やはり、批判の目を欺くだけのものだったか。「国民感覚とのずれをふかく反省し、『政治は国民のもの』と宣言した立党の原点にかえり信頼回復をはたさなければならない」▼自民党が30年以上前に示した「政治改革大綱」です。当時、政財界の大規模な贈収賄事件によって政治への不信は頂点に。それを受けた大綱には、派閥解消の決意やパーティーの自粛も明記されています▼政治資金についても節減・公正・公開のルールを確立。「収入は公正明朗な資金によるべきであり、いやしくも不当違法なもの、疑惑をまねくようなかかわりは厳につつしむ」と。しかし企業・団体献金は残され、「改革」は選挙制度の改悪にすり替えられていきました▼いままた自民党の裏金疑惑が社会を揺るがしています。岸田首相は危機感を口にしながら、問題解決の具体策は何も示さず。事実を確認、しっかり調査、適切に対応などとはぐらかすばかりです▼これだけの疑惑があらわになりながら、首相や閣僚、派閥幹部や各議員に至るまで、まともに答えられない恥ずかしい姿。ただ顔をつけかえただけでは一向に変わらない自民党の腐敗ぶりが表れています。「金こそ力」「数こそ力」の金権政治そのものの▼私利私欲にまみれたカネをはじめ、内政外交ともに時が止まったかのような無為無策の自民党政治。そこに終止符を打つことが、この国の希望ある未来につながるはずです。口先だけではない「政治は国民のもの」を、本当に実現させるためにも。


きょうの潮流 2023年12月14日(木)
 「本年をもちまして新年のごあいさつを最後とさせていただきます」。あすから年賀状の受け付けがはじまりますが、近年増えているのが「終活年賀状」です。年賀状じまいとも呼ばれ、それ専用の賀状が販売店でもよく売れているそうです▼高齢や病気といったやむにやまれぬ事情もありますが、受け取る側も長年のつながりが切れてしまうことに寂しさが募ります。これも、人生の終(しま)い方の一つなのでしょうか▼私事で恐縮ですが、先日父親の偲(しの)ぶ会に参加する機会がありました。ともに活動した年金者組合の有志が開いたもので、それぞれが懐かしき思い出を語りあい、なごやかで温かな空気につつまれました▼いま高齢者をめぐる状況は厳しくなるばかりです。医療や介護をはじめ強いられる負担は大きく、老後の生活を支える社会保障は頼りにならない。消費税は重くのしかかり、その上この物価高。賃上げや年金の引き上げを求める声はさらに高まっています▼自己責任を押しつける政治のなかで孤立する高齢者。人と人がつながり、生きがいや趣味を仲間と一緒に楽しめる。みんなが安心して生き生きと暮らせる。そんな社会への切望は、ますます強い▼先の会では故人の遺志を受け継ぎ、志を同じくする“友”をもっと増やそうという意気込みも口々に。現状を変えたいとの思いとともに、子や孫ら次の世代に生きる喜びを感じられる社会を渡したいとの願いは切実です。人生の終い方が、自分と、大切な人たちのためになることを。


きょうの潮流 2023年12月13日(水)
 次世代の100人。さまざまな分野で世界に影響をあたえ、今後も活躍が期待される人たち。米タイム誌が、4年前から毎年選出してきました▼今年発表の中に五ノ井里奈さんの名がありました。選ばれたのは権利や尊厳を守るために活動した「擁護者」の部門。日本社会では性暴力について声をあげることは長い間タブー視されてきたが、すべての被害者に扉を開いたと▼所属していた陸上自衛隊で複数の隊員から受けた性被害を訴えてきました。世界から評価された喜びとともに、複雑な思いも。「選ばれるために生きていたわけではないので…」。ニューヨークでの授賞式に密着したテレビ番組で胸中を語っていました▼実名で顔を出して告発したのは1年半前。強制わいせつの罪に問われた元上司3人は謝罪から一転、裁判では無罪を主張しました。「笑いをとるためだった」。その無反省な態度が断罪されました。きのう福島地裁は懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡しました▼巨大組織の隠ぺい体質、いわれなき中傷や悪口。死にたくなるほど追いつめられながら、たたかうことをあきらめませんでした。理不尽なことへの怒りや応援してくれる人たちの存在とともに、自分のようなつらさを味わってほしくないとの思いを支えにして▼勇気ある告発は男性優位の組織にも変化をもたらしました。「日本社会にとってもいい判決。前例をつくれた」と五ノ井さん。ありのままの自分で生きていける。そんな世の中を心から願いながら。


きょうの潮流 2023年12月12日(火)
 麻雀と焼きそば屋での「哲学」論議にあけくれた学生時代。やがて青年の関心は正義論や法哲学へ。そして進んだ先は、憲法研究者の道でした▼これまでの人生をふり返りつつ、執念をもってとりくんできた理由とは。神戸学院大法学部の上脇博之教授が『なぜ「政治とカネ」を告発し続けるのか』(日本機関紙出版センター)に記しています▼いまの日本は議会制民主主義であるための要件を満たしていない。上脇さんはそう指摘します。投票価値の平等や自由な選挙活動、国民の知る権利が保障されていない。政治や選挙を不公正に左右し民意をゆがめる政治資金制度をとっていると▼本紙報道に端を発した自民党の裏金問題が底なしの様相をみせています。安倍派幹部らの疑惑が次つぎと表面化。政権の中枢を直撃しています。岸田首相はひとごとのようにコメントしていますが、自身や他の派閥も疑惑の渦中にあり、党丸ごとの体質が問われています。不正なカネにまみれた▼こっそりとカネをつくり使い道も明らかにしない政党が国民のための政治をするだろうか。上脇さんは企業や団体からの献金など政治を利用する可能性があるカネの入りも絞るべきだといいます▼組織的な裏金づくりを告発するまでの作業は大変です。しかし多くの仲間や協力者が闇を暴くため立ち上がっています。市民の告発は主権者である国民全体のための運動だと上脇さん。その一つ一つが、権力の暴走をくいとめ、議会制民主主義の確立につながると信じて。


きょうの潮流 2023年12月10日(日)
 ヒトツバタゴ。モクセイ科の木で、5月ごろに白い花を咲かせます。別名ナンジャモンジャ。環境省がレッドリストに登録する絶滅危惧類です▼その貴重な希少種の存続が危ぶまれています。東京・明治神宮外苑の再開発で3000本の樹木を伐採する計画に、3代にわたって200年以上、命をつないできたヒトツバタゴも含まれています▼江戸期から旧青山三筋町二丁目萩原三之助の邸内にあり通行人に愛されるも名前を知られていないため“ナンジャモンジャ”と呼ばれたと。練兵場開設の際にも現地保存され、永井荷風の随筆集『日和下駄』に「都下の樹木にして…なお有名なるは青山練兵場内のナンジャモンジャの木」と登場するほど▼1924年には天然記念物に指定。樹齢による枯れ死の危機を乗り越え、丁寧に保存されてきました。いまでは外苑の公式HPが「小さなプロペラ型の花が咲き乱れる様は圧巻」ですと咲き頃を紹介するまでに親しまれています▼現在、絵画館前に生息する3代目の木は保存予定ですが、秩父宮ラグビー場の横にあるヒトツバタゴは伐採。建国記念文庫の森にある樹齢百年を超える樹木帯は、移植、保存の双方で生育が困難視されています▼“樹齢は確定できない”とする再開発事業者の調査報告にたいし、都市環境学者は「歴史的樹木の検討を欠いている」と計画の欠陥を指摘。「100年以上愛され受け継がれてきた木を私たちの世代で終わらせるのは無責任」と。切られた木はもう元に戻りません。


きょうの潮流 2023年12月9日(土)
 あの懐かしい歌声が響き渡っています。ビートルズ最後の新曲と銘打たれた「ナウ・アンド・ゼン」。先月配信されると、全英1位をはじめ大ヒットしています▼「ときどきぼくはきみが恋しくなる」。離ればなれになってしまった大切な人にまた会いたい。そんな心情を込めた曲。ジョン・レノンが亡くなる数年前にニューヨークの自宅でピアノを弾きながらつくりました▼テープに残され雑音がひどかったものを、最新技術を駆使して完成。世界中を熱狂させた若き4人の姿を取り込んだミュージック・ビデオも郷愁を誘います。監修した監督は、世界がこんな状態になっている今、ぼくらにはもう一度ビートルズが必要なんだと▼生存するメンバーのポールは、ビートルズをふり返って思い出すのは「楽しさ、才能、ユーモアと愛」だと音楽雑誌で語っています。リンゴも「愛とともに。ビートはまだ鳴り続けている」(ロッキング・オン1月号)▼ジョンが自宅前で凶弾に倒れたのは日本時間のきょうでした。あれから43年の月日が流れましたが、ビートルズとともにジョンの曲は今も歌い継がれています。「平和を我らに」「ハッピー・クリスマス」「イマジン」。愛と平和をねがう人びとによって▼時代をこえた“新曲”はたくさんの心を揺さぶっています。暴力や憎しみ、人間不信がひろがるなかで、人が人をいとおしく思い、安らぎに満ちた世界を追い求めていく。どれほど時が過ぎても色あせない音楽の力が気づかせてくれます。


きょうの潮流 2023年12月8日(金)
 開戦の3カ月ほど前のこと。寝ぼけまなこの早朝に、特高の刑事がふみこんできました。わけがわからないまま逮捕され、留置場へ。それから1年以上、極寒の監獄に入れられました▼日常のくらしを絵にする美術教育に携わった教員や学生らが次々と検挙された「生活図画事件」。幼いころから絵を描くことが好きで当時、旭川師範学校の美術部員だった菱谷(ひしや)良一さんも危険思想の持ち主と決めつけられました▼思想や言論をはじめ、治安維持法によって際限なく広がっていった弾圧の対象。それは戦争の拡大と軌を一にしていました。人びとの生活がいかに締めつけられ、壊されていったか。その姿はいまも小説やドラマなどで描かれています▼戦後は平穏な日々を送っていたという菱谷さん。初めて体験を証言したのは、2006年に開催された「生活図画事件を語る会」。その後、政府によって共謀罪や秘密保護法が出てくると「姿を変えた治安維持法だ」と声をあげました▼弾圧犠牲者への国による謝罪と賠償を求める国会請願にも毎年参加。岸田政権が大軍拡を推し進めるなか、今年も北海道から駆けつけました。「あの暗い歴史をくり返してはならない」▼102歳となった菱谷さんは自伝『百年の探究―眞の自由と平和を思考し続けて』を上梓(じょうし)しました。命ある限り、この思いを今の人たちに伝えたい。「私は戦争の空の下に生き、それを語れる数少ないひとり。自由と平和、それだけを守って」。きょう太平洋戦争の開戦から82年。


きょうの潮流 2023年12月7日(木)
 結果は最悪のものとなりました。鹿児島・屋久島沖のCV22オスプレイ墜落事故。発生から6日あまりたった5日、米軍は乗組員8人全員の死亡を判断しました▼開発当初から墜落・死亡事故が相次ぎ、米国防総省の専門家からも「構造的欠陥機」とされてきたオスプレイ。2012年に日本配備が開始されて以降、在日米軍所属機の墜落は、これで3機目です。徹底した原因究明と飛行停止は、日本政府がとるべき最低限の要求でしょう▼ところが政府は、一度たりとも、飛行停止も原因究明も要求せず「安全に飛行してください」と懇願するばかり。重要な物証である残骸は日米地位協定に基づき、さっさと米側に引き渡してしまいました。米国防総省は「日本から公式の飛行停止要請は受けていない」と公言し、オスプレイは今日も日本の空を飛んでいます▼政府がここまで卑屈になってしまう要因は「抑止力」論の呪縛です。在日米軍の「抑止力」強化のためなら、どんな横暴な訓練も容認されるという考えに縛られているのです▼「日米同盟は重要だが、言うべきことは言う」という、主権国家としての最低限の矜持(きょうじ)が、岸田政権の下で失われています。そもそも、これだけ事故を起こすオスプレイの、どこが「抑止力」なのでしょうか▼オスプレイの飛行停止を言えないのも、イスラエルによるパレスチナ・ガザ攻撃の停止を言えないのも、根源にあるのは「アメリカ言いなり」政治です。いまこそ、その転換が求められるときです。


きょうの潮流 2023年12月6日(水)
 85歳の弁護団長は、万感の思いを込めました。「心を打つ、人間らしい判決」。みずからの過去にも重ねあわせながら、勝訴の喜びをかみしめて▼国による生活保護費の大幅な削減に「ノー」を突きつけた名古屋高裁の判決。安倍政権が強行した基準引き下げの誤りを認め、「過程や手続きに過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱、乱用があった」と結論づけました。さらに初めて国に慰謝料の支払いを命じました▼全国各地でたたかわれている「いのちのとりで裁判」。生活保護費の減額で心身ともに苦痛を味わってきた人たちにとって、判決は希望をもって受けとめられています。生きる権利や人間としての生活が認められたと▼弁護団長を務めた内河恵一(よしかず)さんは、自身も生活保護を利用した経験があります。実家は貧しく両親も病気で満足に働けず、生活は困窮。それがなかったら、夜間の大学にも通えず弁護士にもなれなかった。今の自分があるのは経済的な弱者を救う制度のおかげだといいます▼戦後多くが家を失ったなかで、絶望せずに暮らせるようにつくられた生活保護法。社会保障の根幹を自民党政治は改悪してきました。これ以上削るところがない、この世から去れというのか―。当事者の声に背をむけて▼人間の尊厳を奪う攻撃をはねのけ、憲法に基づき現実に見合った「いのちのとりで」を守るたたかいは続きます。内河さんらが呼びかける、だれもが希望をもち安心して人生をまっとうできる社会を、ともにつくるために。


きょうの潮流 2023年12月5日(火)
 「加害の見える海」があると聞いて、訪ねました。山口県宇部市の床波漁港付近です▼遠浅の海に二つの赤茶けた大きな筒が見えます。戦前、海底炭鉱だった長生(ちょうせい)炭鉱の排気・排水筒です▼海底地下の層にある石炭を採炭する作業は、特別に危険です。日本人の多くは敬遠し、朝鮮半島から連れてきた労働者に強制労働させました。周囲3メートルほどの板と鉄条網を張りめぐらした“小屋”に押し込まれ警備も厳しく外出もできない生活だったといいます▼悲劇の水没事故は、石炭しかエネルギー資源のなかった日本が、真珠湾攻撃で対米英戦に突入した2カ月後の1942年2月3日に起きました。採炭の“大出し”を命じた日で、海底坑道の天井を支えていた炭柱まで取り払ったため天井が崩壊したのです。136人の朝鮮人労働者と47人の日本人が犠牲になりました。遺骨は、いまも海の底です▼戦中や戦後も長い間闇に葬られていた、この事実。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」など市民の活動によって日本人犠牲者と共に「強制連行 韓国・朝鮮人犠牲者」の追悼碑が2013年に建てられました。韓国から遺族代表を招いて、追悼集会も開いてきました▼国策・石炭増産と植民地支配の犠牲になった遺骨の発掘と家族への返還は、日本政府の逃れられない責務です。追悼碑文は、こう結んでいます。「悲劇を生んだ日本の歴史を反省し、再び他民族を踏みつけにするような暴虐な権力の出現を許さないために、力の限り尽くすことを誓う」


きょうの潮流 2023年12月4日(月)
 政清人和(せいせいじんわ)(まつりごと清ければ人おのずから和す)。清廉な政治は人民を穏やかにする。そんな意味を込めて命名したというのが、安倍派として知られる「清和会」です▼名付け親は創設者の福田赳夫元首相。自民党内の派閥争いが激しさを増す時代につくられ「自民党を良くするため、派閥のための派閥ではなく、清く・正しく・たくましい活動をしてゆこうとする精神が、発足当時から受け継がれて」いると▼のちに改称した清和政策研究会のホームページに掲げられています。そこには、1979年の結成から数多くの首相を輩出し、いまや党内最大の集団であると自慢げに。しかしその実態は清く正しくとは正反対でした▼政治資金パーティーをめぐって安倍派の議員たちが巨額の裏金をつくっていた疑惑が浮かび上がっています。パー券の販売ノルマをこえて売った分の収入を議員側に還流させる仕組みを組織ぐるみで。収支報告書には記載せずに、その総額は直近5年間で1億円以上とみられます▼安倍派の幹部は政権や与党の要職にあり、岸田首相も知らぬ存ぜぬでは済まされません。国会で田村質問が明らかにしたように、首相自身も収入が数千万円になるパーティーを昨年6回も開催。収入の9割が利益となり、事実上の企業・団体献金ではないかと追及しました▼コロナ禍や物価高に国民が苦しんでいるときにも、せっせと励んでいたのが裏金づくりとは。そんな私欲にまみれた政治が、人びとを穏やかにするわけがありません。


きょうの潮流 2023年12月3日(日)
 市井の人々の心のひだを丁寧にすくい取ったテレビドラマの数々が忘れられません。脚本家の山田太一さんが亡くなりました。89歳でした▼「男たちの旅路」(1976年)で元特攻隊員が人々の叫びに耳を傾け、「岸辺のアルバム」(77年)は家族崩壊を描き、当時のホームドラマに一石を投じました。自己肯定を模索する青春群像劇「ふぞろいの林檎たち」(83年)。いずれも世間の「常識」とされていたことを問いかけて、名作といわれます▼ラフカディオ・ハーンを主人公にした「日本の面影」などで山田作品の音楽を手がけた作曲家の池辺晋一郎さん。本紙の対談で「当たり前だと考えて記憶に残っていないことを、もう一回鮮明にさせてくれます」と▼「マイナスをよけては書けません。マイナスの持つ豊かさが書ければもっといい」。山田さんは、70年代から80年代、倉本聰、向田邦子、早坂暁らの各氏と切磋琢磨(せっさたくま)してドラマの黄金期を築きます▼それまで台本はドラマの添え物として扱われ、収録が終われば捨てられていました。台本を収集・保存して公的機関で公開する「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」の代表理事を務めました。後進のためにもと尽力したのです▼「テレビドラマは文化です。商品ではない」と言い切り、小説や詩歌に引けを取らない「シナリオ文学」を打ち立てました。今のテレビドラマは多くが漫画原作で占められています。消費されるだけでいいのか。肉声が響く山田太一ドラマ、もう一度見たかった。


きょうの潮流 2023年12月2日(土)
 身寄りなく生活保護を利用する人。透析が必要な人。どんな患者でも受け入れると評判だった滝山病院(東京都八王子市)。人権侵害だけでなく、精神障害者の入院長期化も問題でした▼精神疾患のある入院患者は全国に26万人。うち1年以上の長期入院患者は約16万人。その4万4千人余は10年以上にも及びます。OECD加盟36カ国の精神病床数の約4割を日本が占めているというデータも▼世界的に遅れていると指摘される日本の精神科医療政策。背景に、医師や看護師の配置を一般病床より少なくてよいとする「精神科特例」があります。1950年代に国策で精神病床を増やそうと定めました▼増えたのは民間病院。医師・看護師の配置基準が緩い分、診療報酬は一般病床より低く設定されています。そのため病院は入院病床の利用率を高めようとし、患者を社会から排除する差別的風潮もあって、長期入院患者が増えることに▼一方、長期入院の患者を地域で暮らせるよう支援しながら病床数を減らした精神科病院も。「未来の風せいわ病院」(盛岡市)は、7年間で198人を退院させ、113床削減しました。経営状況は厳しいと理事長の智田文徳さん。「診療報酬の見直しを国や社会に働きかけなければ」と呼びかけます▼差別的な「精神科特例」はいまも重い壁になっています。精神疾患のある人が人間らしく生きる権利を確立することは、社会の責務です。患者の視点から医療や看護ができるような診療報酬改定が求められます。


きょうの潮流 2023年12月1日(金)
 樹齢数千年におよぶ縄文杉。豊かな自然環境に息づく貴重な動植物。日本最初の世界遺産となった鹿児島県の屋久島です。先週は登録30周年の記念シンポジウムも開かれました▼地球と人類の宝物といわれるその島に衝撃が走りました。米軍機オスプレイが空港の沖合で墜落。機体が空中で火を噴き海に落ちていく様子を目撃した住民も。わずかにずれていれば大惨事になるところでした▼構造的に不備があり、操縦も難しいと指摘されるオスプレイ。昨年は米国で、今年8月にはオーストラリアで墜落事故をおこし、日本でも緊急着陸をくり返しています。沖縄・名護の集落近くの海岸で墜落、大破した事故も記憶に新しい▼米軍基地が集中する沖縄をはじめ、日本の上空をわが物顔で飛んでいる欠陥機。いつそれが降りかかるかと不安におびえる住民。しかし国の態度は及び腰です▼事故当日、宮沢防衛副大臣は米軍からの説明をうのみにして墜落を「不時着水」と言い張りました。岸田首相も事故の実態を確認してから何が必要で何が求められるのか検討すると悠長に。飛行停止をすぐに要請し、事故の原因究明と対応を徹底しない限りオスプレイを使った訓練は直ちに中止すべきだと迫った沖縄のデニー知事とは大違いです▼日米地位協定によって主権がそこなわれ、国民の命が脅かされているのに改めようともしてこなかった自民党政権。愛国を口にしながら自国のことを自分たちで決められない情けない姿が、またもあらわになりました。


きょうの潮流 2023年11月30日(木)
 「あの子たちはいま、どうしているのだろう」―。パレスチナ難民キャンプの子どもに毎月5000円を送る里親活動を37年続けてきた東京・板橋区の岡本達思さん(73)は不安の日々です▼社会に旅立つ16歳まで、見守り続けた里子は8人です。最初の子は、7歳の少女サハルでした。「サハルは成人しても“結婚したよ”“子どもが生まれたよ”と手紙や写真をくれました。“ボーイフレンドができた”との手紙には、父親のようにちょっぴり焼きもちを焼きました」。心通う交流でした▼3歳で授かった9人目の里子は、9歳になった今年、脱出国したと現地のNPOから連絡が…。本人とも家族とも連絡が取れなくなり、「育て上げることができなかった」と悔やみます▼「家族でヨーロッパに渡ったのでしょう。難民キャンプの生活は劣悪です。お年寄り以外は外に出たがる」と岡本さん。「ヨーロッパで無事に暮らしているといいのですが…。差別や貧困が待っています。パレスチナの人々に安住の地はないんですね」▼イスラエルの攻撃が続いていた今月19日、現地の国連児童基金パレスチナ事務所からメールが届きました。ガザの医療システムは完全崩壊し、避難民キャンプは劣悪な状況だと書かれており、10歳のモハマドくんのこんな声も。「家に壁が欲しい。ドアや窓がなくても構わない」「僕たちが死んでいくのに誰も何もしてくれない」…▼ガザの子ども約6000人が殺されました。一刻も早く停戦を。岡本さんの心痛は続きます。


きょうの潮流 2023年11月29日(水)
 ドラムは太鼓、ピアノは洋琴、バイオリンは提琴。サクソフォンは、金属製ひん曲がり尺八、コントラバスは妖怪的四弦。「だれが考えたんや」。テレビの主人公じゃなくても、そうツッコミたくなります▼NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のなかで、楽器を和名で呼ぶよう警察から命じられる場面がありました。先の大戦中に敵性語とされた英語は、さまざまな分野で言い換えが無理やりにすすめられました▼当時はNHKからも英語の番組名が姿を消し、ニュースは報道、アナウンサーは放送員の名称に。言葉だけでなく愛国精神を強要され、「ぜいたくは敵」「欲しがりません勝つまでは」の標語のもと、生活のすべてが統制されていきます▼「ブギウギ」でも、笠置シヅ子さんをモデルにした主人公と楽劇団が「派手な」舞台を禁じられます。淡谷のり子さんをモデルにした、世情にあらがう歌手はたびたび警察に連行されて。しかし、ドレス姿をとがめられるシーンでは「これは私の戦闘服です」ときっぱり▼同じようなことを自伝でも語っていた淡谷さん。モンペで歌えと強制されながら口紅を引き、ドレスを着て歌い続けました。「これは私の戦争でした。たったひとりの…」(『歌わない日はなかった』)▼それぞれの生き方や言論・表現の自由を抑えつけた権力や戦争のみにくさ。それは過去のことではないでしょう。「もっと自由に、もっと楽しく歌いたい」。主人公のさけびは、決して後戻りしてはならない道を教えてくれます。


きょうの潮流 2023年11月28日(火)
 「保育中の重大事故の検証や提言を、制度に反映する責任が国にはあると思います」。12年前に1歳7カ月の長女を亡くした阿部一美さんの、心の底からの叫びでした▼すべての子どもによりよい保育をと、23日に開かれた大集会での一コマです。全国から約2000人の保育士や保護者、子どもらが東京・日比谷野外音楽堂へ。保育制度の改善をアピールしながら、銀座をパレードしました▼二度と子どもの命が奪われることのないようにと積み上げた願いは、事故の検証やガイドライン作りを後押ししました。ようやく国も、75年ぶりに保育士の配置基準を変えると言い出しました。しかし、具体化はこれから。国が推進する「こども誰でも通園制度(仮称)」では、園や時間などを固定しない「自由利用」へ、多様な業者が関わることに不安が募ります▼保育中の死亡事故が多いのは0、1歳児。通い始めた初日、または数日後に亡くなっているという実態が。「この制度で安全に過ごせるのか」。阿部さんはこう問いかけ、条件整備を訴えました▼「子どもたちにもう1人保育士を!」と求める保護者アンケートには、6000人超から回答が寄せられています。「長年動かなかったこの山を、私たちの力で動かしましょう」。わが子の手を握りながら、保護者が呼びかけます▼軍事費の倍増ではなく子ども予算の倍増を。戦争で命を奪わないと決めた憲法をもつ国だからこそ、命を豊かにはぐくむ保育のしくみをつくる責務があるはずです。


きょうの潮流 2023年11月27日(月)
 さかのぼれば、相手の存在を認めあう道を探ってきました。「永年の対立と紛争を終え、相互の正当な政治的権利を承認し、平和で安全な共存、公正で永続的な包括和平と歴史的和解を実現すべき時がきた」▼30年前にイスラエル政府とパレスチナ解放機構(PLO)が結んだオスロ合意の前文は、そう述べていました(阿部俊哉著『パレスチナ』)。いまもジェノサイド(集団殺害)のような事態を止め、共存への展望をよみがえらせることが国際社会に求められているはずです▼ハマスによるイスラエル攻撃から始まった戦闘が初めて中断しています。ハマスに拉致された人質の一部が48日ぶりに解放され、イスラエルも刑務所に拘束していたパレスチナ人数十人を釈放しました。ガザへの人道支援物資も運び込まれています▼涙を流しながら家族と抱きあう姿や、がれきの中で赤ちゃんをあやす母親たちの様子が現地から伝わってきます。この平穏が続くよう、国際社会はあらゆる努力を惜しまずに働きかけなければなりません▼オスロ合意は当時のノルウェー外相などが仲介して進められました。いまはアメリカやロシアが相反する二つの基準を状況や相手によって使い分けているもとで、各国が国連憲章と国際法を守ることで一致団結する。それが和平につながる道へと▼憎しみがぶつかりあい、相手を抹殺するような軍事攻撃の激しさ。その犠牲になっているのは互いの市民です。そんな惨状をふたたび現実としないためにも力を合わせて。


きょうの潮流 2023年11月26日(日)
 赤や黄色に染まった落ち葉がふりつもる並木道。彩りの中で記念写真をとる人びと。韓国有数の観光地、南怡島(ナミソム)には内外から年間数百万人が訪れるといいます▼ここは「冬のソナタ」のロケ地としても知られ、日本からの来訪者も多い。20年前に一大ブームを巻き起こしたドラマ。社会現象ともなり、韓国文化への興味や関心がひろがりました▼その後もドラマや映画、K―POPと呼ばれる音楽が若い世代にも浸透。最近では「愛の不時着」や映画「パラサイト」が注目され、音楽グループ「BTS」は幅広い層から支持されています▼この20年の間、日本での「韓流ブーム」はさまざまなジャンルやコンテンツにもひろがり、いまや多くの皆様に愛されながら生活の一部として深く受け入れられている。駐日韓国文化院の孔炯植(コン・ヒョンシク)院長はそうコメントしています▼一方の韓国でも日本のアニメや音楽、食文化などが人気を呼んでいます。民間のレベルでは交流し理解も深まってきた両国。しかし、とげのように突き刺さってきた問題があります。旧日本軍「慰安婦」の被害者らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、先日ソウル高裁は原告側の主張を認めました▼「日本は心から謝罪し法的な賠償をすべきだ」。人間の尊厳をふみにじられ長く苦しんできた被害者の訴えは、日本政府の不誠実さを物語ります。植民地支配や侵略戦争、加害の事実とまともに向き合ってこなかった自民党政治。つながっていく未来にとっても、それをたださなければ。


きょうの潮流 2023年11月25日(土)
 熱波の夏から一転、突然の冬の到来に気候変動を痛感する毎日。環境危機を現代美術で問う展示「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」(東京・森美術館)に出かけました▼世界16カ国34人の作家による約100点の多彩な表現。人間中心主義の経済活動を告発し過剰な資源開発の影響を可視化するとともに、自然保護活動や先住民の知恵を象徴する作品を通して未来の可能性を示唆します▼廃棄されたホタテの貝殻5トンを床に敷き詰めた作品は、観覧者がその上を歩くことができます。足元で割れる優しい音に太古の海を感じるひととき。一面の海底に都市や原子力発電所を現出させる映像作品は、水没して消える文明を暗示しているかのよう▼被爆した第五福竜丸と汚染された海が題材の岡本太郎「燃える人」、桂ゆき「人と魚」は反核運動の隆盛の中で描かれました。海岸で集めたプラスチックのゴミを燃やした巨大な塊は、広島市出身の殿敷侃(とのしき・ただし)の作品。3歳で被爆し終生、原爆症に苦しみました。核が最大の環境破壊であることを訴えます▼フィリピンの「漁民の日2022」は希望の映像作品です。困窮する漁師たちに作者が呼びかけて始めた水上パレードの様子が静かに流れます。思い思いに飾り付けた小船の数々。この祭りによって漁民は誇りを取り戻し団結を強めたといいます▼芸術は海や大地、空、草木、生きものへの共感の表現でもあります。その想像力を失った時、人間の自然への侵害は始まるのかもしれません。


きょうの潮流 2023年11月24日(金)
 公式の帳簿に記載しない、自由に使えるように不正に蓄えた金銭。正式の金額とは別に陰で相手につかませる金銭。広辞苑で「裏金」を引くと、こんな説明が記されています▼ほかの辞書にも、取引の裏で内密にやりとりする金銭、相手にこっそりわたすお金などとあります。表には出したくない、やましい金。そこに新たな説明が加わるかもしれません。「自民党の代名詞」と▼首相が会長の岸田派をはじめ自民党の主要5派閥が政治資金パーティーの収入を収支報告書に記載していなかったことについて、裏金づくりではないかとの指摘が相次いでいます。この問題を東京地検に告発していた神戸学院大の上脇博之教授も「毎年同じようなことがくり返され、裏金疑惑もある」といいます▼自民党の金集めの慣習となってきたパー券。政治資金規正法には抜け道も多く、党全体の金の出し入れのずさんさ、罪の意識も希薄になっていたのではないか▼捜査の手が伸び国会でも追及され、政権をゆるがす問題に。そのきっかけは「しんぶん赤旗」日曜版のスクープです。パー券の大口購入者の名前を自民党の派閥が脱法的な手法で収支報告書に記載せず隠していたことを調べあげ、1年前に報じていました▼パー券をふくむ政治と金の問題は、本紙とともに共産党が徹底してとりあげてきました。それは闇でうごめく金が癒着の温床となり、政治がゆがめられるから。裏金によって機能するような党に、まっとうなくらしがみえるはずがありません。


きょうの潮流 2023年11月23日(木)
 18世紀の英経済学者アダム・スミスは、のちの経済学を決定づける一文を書きました。「我々が食事を手に入れられるのは、肉屋や酒屋やパン屋の善意のおかげではなく、彼らが自分の利益を考えるからである」▼では、そのステーキを誰が焼いたのか。『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』は、そんな問いかけから始まります。生涯独身だったアダム・スミスの世話をしたのは母親でしたが、それが語られることはありませんでした▼これまで主に女性によって担われてきた家事や育児、介護などのケア労働。しかしそれは経済活動とみなされず、GDPにも計算されず、経済学からは価値のないものとして切り捨てられてきました▼アダム・スミスに始まる、利己的で合理的で女性の無償労働に依存してきた「経済人(ホモ・エコノミクス)」を前提とする経済モデルには限界があるのではないか。英国在住のジャーナリストで著者のカトリーン・マルサルさんはそう指摘します▼男性中心の「経済人」の中で光が当てられてこなかったもう一つの経済。それは市場万能や弱肉強食ではなく、公正や平等、ケアや環境、信頼や心身の健康といった価値に重きをおくものだと▼今年のノーベル経済学賞を贈られた米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授も女性就労の研究を続け、男女の格差是正の必要性を訴えてきました。伝統や歴史を覆し、新たな社会をめざす探究は、人間が働くことの意義も指し示します。勤労感謝の日に。


きょうの潮流 2023年11月22日(水)
 定められた共通のルールのもとで全力を尽くし、競い合い、その結果を受け入れることによって相互理解を深め、認め合うという言動が求められる。スポーツにフェアプレー精神を取り戻さなければならない▼まっとうなことを著書に記していました。著者は現石川県知事の馳浩氏、本の名は『ほんとにもうひとこと多いこの男』。5年前に刊行され、宣伝文句には「言わずにおれない男が、永田町から“本音の叫び”をお届けする」と▼レスリングの五輪代表、プロレスラーの肩書をもつ馳氏。自民党の国会議員から現在に至りますが、「言わずにおれない」は健在か。自身が党の推進本部長を務めていた東京五輪・パラリンピックの招致をめぐる闇の動きを公言しました▼内閣官房機密費を使って高額のアルバムを全員分つくり、投票権をもつ国際オリンピック委員会の委員に渡していた―。招致活動で厳しく禁じられていた賄賂。ルールやフェアプレーなど歯牙にもかけない行為を平然と▼当時の安倍首相からも「必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す」といわれたことを証言。使い道を問われず、年間十数億円にも及ぶ官房機密費は内閣の闇ガネと呼ばれます。選挙資金やマスコミ対策に流れてきたと指摘され、毎年ほとんど使い切っています▼発言撤回で済む話ではないでしょう。東京招致では買収疑惑も浮上。不正にまみれた五輪招致、使い放題の公金の私物化。“本音の叫び”が明らかにした闇を、うやむやにするわけにはいきません。


きょうの潮流 2023年11月21日(火)
 戦争中、ラジオでウソの戦況を垂れ流し、国民を戦争に駆り立てた大本営発表。ところが、NHKはいまだに戦争責任を検証し明らかにしていません▼「いつからラジオは時の権力の『御用機関』になってしまったのだろうか」「自分の足元はどうなんだ」。『ラジオと戦争』の著者・大森淳郎さんの問題意識です。30年余ディレクターを務めた後、NHK放送文化研究所でこのテーマと向き合いました。資料と格闘し、当時の職員たちの証言を聞き取ります▼同盟通信の配信記事を削除、加筆し「戦果」を伝える。アナウンサーは「雄叫(おたけ)び調」へと変化。戦争協力は「仕方なかった」ではなく、職員らが「全身全霊」をかけていたことが浮かび上がってきました▼大森さんには、もう一つ執筆の動機があります。日本軍「慰安婦」を取り上げた「ETV2001」が2001年、安倍晋三氏の圧力によって改変された事件です。大森さんは、検証番組の放送を求める職員有志に加わり話し合いを続けましたが、実現に至りませんでした▼「身を挺(てい)してでも真相究明のために闘うことはできなかったのか」。自問自答し、戦時ラジオ放送のことは人ごとではない、放送の公共性とは何かを追究したいと思うようになりました▼ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのガザへの攻撃。国内では軍事費の増額、敵基地攻撃能力の保有と岸田政権の下で進む戦争国家づくり。「新しい戦前」ともいえる現在、メディアはもちろん、市民一人ひとりに問いかけています。


きょうの潮流 2023年11月20日(月)
 いのちの尊さを問いかける作品。新しい発想や表現の方法に挑戦するつくり手。いま東京・練馬区の「ちひろ美術館」で、2010年から21年までに出版された絵本が展示されています▼10年ごとに時代を代表する絵本を紹介してきた展覧会。4回目となる今回は、東日本大震災から始まり戦前回帰やコロナ禍と厳しい社会状況が続いた年代です。作家たちは子どもをはじめ人びとの心に寄り添い、多様で豊かな絵本を届けてきました▼時代や世界の流れを敏感に映しとる絵本の世界。時や世代をこえて読み継がれる作品もあります。いわさきちひろの「戦火のなかの子どもたち」もその一つ。ベトナム戦争で米軍の激しい爆撃が行われていた頃に描き始めました▼自身の戦争体験をふまえながら、子どもたちの幸せと平和を願い最後に完成させた絵本。「戦場にいかなくても戦火のなかでこどもたちがどうしているのか、どうなってしまうのかよくわかるのです。こどもは、そのあどけない瞳やくちびるやその心までが、世界じゅうみんなおんなじだから」と▼館長の黒柳徹子さんも「あのなかに全部自分の気持ちも含まれていたんだろうなって」。42年ぶりに続編が刊行された『窓ぎわのトットちゃん』も、ちひろの絵があったからこれだけ多くの人に愛されたと語っています▼美術館でも「戦火のなかの子どもたち」をじっと見つめる姿がありました。ガザでウクライナで、いまも傷つき泣き叫ぶ小さきものを救いたい―その思いを重ねながら。


きょうの潮流 2023年11月19日(日)
 原爆より民族差別の方が恐ろしかった。長崎在住の作家・大浦ふみ子さん(82)の短編『かたりべ』(光陽出版社)の中で、在日韓国人被爆者の老人がそう語ります。本作の韓国語訳が先月ソウルで出版されました▼「小さな作品なのに、思いもしない大きな反響に戸惑っています」と大浦さん。訳者のチョン・ウノクさんは冒頭のセリフを「日帝植民地支配と祖国の分断、朝鮮戦争によって日本に残らざるを得なかった、在日の苦難に満ちた人生を象徴するもの」と▼小説のモデルとなった徐正雨(ソ・ジョンウ)さんは、14歳で強制連行されて端島(はしま)炭鉱(軍艦島)で働かされ、異動先の三菱長崎造船所で被爆しました。晩年は自身の過酷な体験を証言し続け、2001年に亡くなりました▼小説では高校教師と生徒が、証言で知った強制労働と被爆の体験を、演劇にして公演しようと努力しますが…。韓国語版の解説でキム・ジョンスさん(記憶と平和のための1923年歴史館長)が次のように書いています▼「公演するために苦労する描写からは、日本帝国主義の犯罪を告発する日本の市民たちの姿が思い浮かぶ。それが実現しなかったことは日本政府が過去の歴史を否定している現実の反映だと思われた」▼大浦さんが所属する日本民主主義文学会は、戦争の被害だけでなく植民地支配と加害を描くことに努めてきました。「1万人の朝鮮人が長崎で爆死したこと、日本人がひどい差別をしたことは忘れてはいけない歴史です」。大浦さんが込めた思いです。


きょうの潮流 2023年11月18日(土)
 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の福島に関する大学生の知識は時間の経過とともに薄れてきている―。福島大学などの研究者が授業の出席者を対象に「原発事故と避難」などの知識を調査した結果です▼同じ全20問について計3年間の正答率が年々下がっているというのです。たとえば、原発事故後、風向きの影響で多くの放射性物質が降り注いだのは主に原発からどちらの方向かという設問。北、西、北西、南西などの5択から選ぶというものです▼正解は「北西」ですが、2019年度の正答率は53・9%で、22年度は39・4%に低下。ほかに、当時の官房長官の言葉などの正答率が低下し、研究者は風化が確実に進行していると▼辞書で、出来事の強い印象や記憶が薄れていくことなどを風化と呼んでいます。ただ第1原発事故は一過性のものでなく、12年以上たってなお現在進行形です▼溶け落ちた核燃料の取り出しの見通しは立っておらず、漁民の反対の声を無視し代替案をまともに検討せず海洋放出を強行し、故郷を追われ帰ることができない人々の苦難は今も…。関礼子・立教大学教授が近編著で指摘します。「福島原発事故を忘れることは、被害を放置したまま問題を風化させることにつながるだろう」(『福島原発事故は人びとに何をもたらしたのか』)▼風化させない取り組みもさまざまありますが、事故を風化させたい一番は、老朽原発の酷使や新増設の推進、原子力産業救済の原発回帰へ舵(かじ)を切った政府自身ではないか。


きょうの潮流 2023年11月17日(金)
 わずか3時間ほどの睡眠、朝から深夜に及んだ長時間労働。宝塚歌劇団の女性が死亡した問題は、上級生からのパワハラとともに、異常な働かせ方があったと指摘されています▼外部弁護士による調査報告書もパワハラの事実は認めなかったものの、過労死ラインをこえる時間外労働があったとしています。女性に強い心理的負荷がかかっていた可能性を否定できないとも▼苛烈なスケジュールが追い詰めたことは劇団の理事長も認めています。つらい日々に笑顔は消え、25歳の若さで閉ざされた人生。遺族は「娘の疲れ果てた姿が脳裏から離れません」と、後悔にさいなまれています▼10年前に過労死したNHKの佐戸未和記者の両親も、やりきれなさを抱え続けてきました。わが子を救えなかった無念。その思いを胸に「過労死ゼロ」の社会にむけて足を踏み出しています▼過労死防止法の成立からまもなく10年。この間、働き方改革を求める声によって時間外労働の上限規制などが設けられてきましたが、いまだに悲劇は後を絶ちません。過重労働による精神障害の労災認定も増加し、先日もコロナ拡大で業務が増大した消毒会社社員の死亡が過労死と認定されました▼「しごとより、いのち」。厚労省は11月を過労死防止の啓発月間に定めていますが、ポスターに掲げた「すべての人が健康で、毎日イキイキと働き続けられる社会」をつくることこそ国の役割ではないか。それは遺族をはじめ、苦悩を抱えながら働く人びとの切なる願いでも。


きょうの潮流 2023年11月16日(木)
 あってはならない悲劇が起きました。10月13日未明、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーが、自ら命を絶っていたことがわかりました。故ジャニー喜多川氏からの性加害を告発後、“売名行為”“金目当て”などの誹謗(ひぼう)中傷に悩まされていたといいます▼性被害のトラウマに苦しんだあげく、よりよい社会を願って告発したら、正体不明の人たちから心ない言葉を投げつけられる。「魂の殺人」といわれる性暴力。彼は誹謗中傷で2度殺された、といっても過言ではありません▼脳裏をよぎったのは10月9日に旧ジャニーズ事務所が出した声明です。そこには「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数ある…」と▼この声明が“犬笛”となって誹謗中傷を扇動したといえないか。その一つひとつが、声をあげた被害者たちをいかに傷つけたか▼遺族が代理人弁護士を通じて発表したコメントには、5月に事務所に電話で性被害を訴えたが5カ月以上連絡はなく、9月に再度告発しても放置された、とあります。中傷についても事務所に対策を求めたが、具体的な措置は講じられなかった、と▼14日、宝塚歌劇団が団員の急死を受けて記者会見を行いました。華麗な世界の深い闇が次々と暴かれています。日本共産党国会議員団も、芸能人の被害を救済し、人権保障を進めるために政府に提言しました。なぜ放置されてきたのか。政治も社会も日本全体が問われる問題です。


きょうの潮流 2023年11月15日(水)
 ばったり顔を合わせたのは、長崎にあった臨時の魚雷艇訓練所でした。ふたりはそろって写真をとり、実家に送りました。迫りくる死を前にした「遺影」として▼80年前の「学徒出陣」で海軍に入隊した兄と弟。やむなく特攻隊に志願し、兄は「回天」と「伏龍」、弟は「震洋」の隊員になります。回天は人間魚雷、伏龍は人間機雷、ベニヤ板の小艇に爆弾をつけて敵艦に突っ込む震洋は「自殺ボート」と呼ばれました▼兄の名は岩井忠正さん、弟は岩井忠熊さんです。ふたりは戦時中から日本の戦争目的や天皇制について疑問をもち話しあってきたといいます。それでも大勢に従い、沈黙を通し続けてしまった。それが自分たちにとっての戦争責任だと▼特攻という稀有(けう)な体験を生き延びた両者には戦後、強烈な一致点が生まれます。戦争拒否への信念です。兄は商社員を経て語学を生かし翻訳業へ。弟は「戦争の真実を突きとめる」ために近代史の研究に打ち込みました▼道は違えど、ともに平和運動に尽くし、その一翼を担ってきました。今月、忠熊さんの訃報が伝わりました。101歳。1年前に亡くなった忠正さんは102歳でした▼時の権力にあらがわず、口をつぐんでしまった自責の念は生涯消えませんでした。だからこそ「たとえ、どんな時代であろうとも、どんな環境であろうとも、言うべきことは、はっきり言える人間になってほしい」(『特攻 最後の証言』)。一度は死を覚悟した兄と弟が、若い人たちに訴え続けた思いです。


きょうの潮流 2023年11月14日(火)
 「だれにでもできる国際協力」には三つのステップがあるといいます。まずは、相手の心を感じること。次は相手の状況を知って、それについて考えること。そして、その道をひろげること▼国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田(せいた)明宏・保健局長が著書『天井のない監獄 ガザの声を聴け!』で強調しています。国際協力の世界には問題が山積し、いつも答えがあるわけではない。しかしすべては他国の人々への共感から始まると▼イスラエル建国の翌年に国連総会で決まったUNRWAの創設。当初の活動期間は3年とされましたが、延長に次ぐ延長。いまや支援は4世代にもわたります。医療や保健、教育や福祉と生活全般に及ぶ援助はパレスチナの人たちの命綱に▼いまガザでは100人をこえる国連職員が命を落としています。UNRWAは「亡くなった同僚は教師や医療関係者、技術者などであり、母や父、息子や娘、夫や妻でもあった」。13日には各地の国連職員が黙とう、半旗を掲げました▼病院や学校、難民キャンプと国際法上も許されないイスラエルの攻撃。その現実のなかで、支援を続け、彼らのそばに立っていくことが、いま一番大事だと清田さんはいいます▼戦争はなくならないと悲観する向きもある一方で何ができるかと自問自答する日々。世界の流れはどこにあるのか、自分の国の政府がこの集団殺害や戦争についてどんな態度をとっているか。そこに目を向けて行動することも私たちの国際協力です。


きょうの潮流 2023年11月12日(日)
 〈秋来(き)ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる〉。三十六歌仙のひとり、藤原敏行の一首です。まだ暑い盛りの立秋のころ、風音のかすかな変化に秋の兆しを見つけた喜びを歌っています▼いまNHKEテレの「100分de名著」で『古今和歌集』がとりあげられています。平安時代、今から千百年以上も前に編まれた最初の勅撰(ちょくせん)和歌集。収められた千をこえる和歌の、じつに3分の1が四季折々の歌だといいます▼めぐる季節の微妙な移ろいを敏感にとらえ、あるいは予感してきた歌人たち。なかでも秋を詠んだ作品が最も多く、それだけ心動かす風物が豊かなのかもしれません。和歌によって育まれ、共有された季節感は私たちのくらしの中にも生きています▼今年は霜月に入っても暑い日が続き、27・5度を記録した東京都心では100年ぶりに11月の最高気温を更新。年間の夏日も最多となり、1年の4割を夏が占めることに▼これから一気に寒くなり、近年は春と秋が短くなったとの気象予報士の指摘もあります。そこはかとない四季の変化も失われていくのか。もっとも異常な高温は世界でも。観測史上最も暑い年になると▼「和歌とは、人の心を種として、それがさまざまな言(こと)の葉となったもの」。古今集の序文「仮名序」につづられています。生きる中で見聞きし、経験したことからわきあがってくる思いを、三十一(みそひと)文字に込めてきた先人たち。こんな世でありたいという人びとの願いや希望は、今に続いています。


きょうの潮流 2023年11月11日(土)
 「ハリー・ポッターが書いたウサギの本ありますか?」―図書館のカウンターにこんな問い合わせが。司書はビアトリクス・ポター作『ピーターラビットのおはなし』のことだと気づきます▼福井県立図書館編著『100万回死んだねこ―覚え違いタイトル集』に掲載されている話です。図書館の司書は利用者のうろ覚えの情報などから、知識と経験を駆使してお目当ての本を探り出します。ちなみに「100万回死んだねこ」も正しくは佐野洋子作の絵本『100万回生きたねこ』です▼本探しだけでなく、さまざまな調べものや子どもの自由研究の相談にものってくれる図書館司書。国家資格を持つ専門職です。しかし、図書館職員の4分の3が非正規雇用になっています。仕事にやりがいを感じていても、時給は最低賃金ぎりぎり。生活は苦しく、常に雇い止めの不安を抱えています▼司書だけではありません。保育士、看護師、消費生活相談員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど専門性を要求される地方公務員の多くで会計年度任用職員という名の非正規化が進んでいます▼注視したいのはこうした仕事の担い手は女性が多いということです。図書館で働く非正規職員の9割は女性だといいます。男性が生計を担うもの、女性の仕事は補助的なものという古い発想に基づいた差別的な構造の表れです▼専門性を培ってきた人が男女を問わず存分に力を発揮できる職場にしてほしい。それは住民の利益にもなることです。


きょうの潮流 2023年11月10日(金)
 これでも岸田首相は「適材適所」と言い続けるのか―。買春疑惑の文科政務官、法を破る法務副大臣、そして滞納をくり返していた財務副大臣。まさに不適切な人事のオンパレードです▼自身が代表取締役となっている会社が保有する土地と建物が、固定資産税の滞納によって過去に4度も差し押さえを受けていた。そう週刊誌に報じられた自民党衆院議員の神田憲次・財務副大臣が、国会で深く反省すると認めました▼謝罪はしたものの、副大臣の辞職については否定。「引き続き職務の遂行に全力を傾注する」と。何か問題を起こした時にみずからそれを免罪するかのように使われる言い訳。責任逃れの典型です▼内閣改造後の新体制からわずか2カ月。相次ぐ政務三役の不祥事に、首相の任命責任はあまりにも重い。しかし本人はどこ吹く風で、事実を調べて国民に明らかにするそぶりさえ見せません。「適材適所」も忘れたように▼軒並み最低に落ち込む支持率。内政外交ともに打つ手がことごとく反発を買う失政。そのうえ、物価高に賃上げが追いつかないなかで、自身や閣僚らの「給与アップ法案」が審議入り。世間の怒りや批判はさらに広がっています▼年内の衆院解散を見送る意向を固めたという首相。追い込まれながら、保身のために解散権を利用する。ガザへの虐殺をやめよといわず、あらゆるものの値上がりで生活が苦しくなるなか、力を尽くすのは権力を維持することだけ。その姿に、多くが同じ思いを。「そうはさせるか」


きょうの潮流 2023年11月9日(木)
 どんな思いで、あの会見を聞いただろうか。洗脳された親から強いられた信仰。多額の献金による困窮や家族の崩壊、そして抱え続ける生きづらさ。子どもの頃から自由を奪われ生き方を選べなかった信者二世たちは▼世界中の財を、サタンのもとから神のもとに戻す「万物復帰」。統一協会への献金はそう教えられ、信者は「善行」と信じ込む。近年は先祖のうらみを解く「先祖解怨(かいおん)」という献金の手法もあります(本紙社会部取材班『信者二世たちの叫び』)▼文科省の解散命令請求を受けて記者会見した統一協会。献金問題について、田中富広会長は元信者や二世らに「心からおわびする」と。しかしそれは謝罪ではないとして、協会の責任を認めず、請求についても「到底受け入れることはできない」と居直りました▼謝罪ではないおわびがあるのか。「指導が行き渡っていなかった」と信者に責任をなすりつけるのか。被害者と向き合わず国にお金を預けてなんとかしてくれというのか―▼不信や怒りは増すばかり。しかも最大100億円の供託金といいますが、被害対策弁護団によれば被害額は推計で1200億円にも。莫大(ばくだい)な財産を隠す恐れも指摘されるなか、財産保全が急がれます▼「統一協会の被害は金銭だけでなく、人格や人生そのものに及びます」。脱会者で信者二世を支援する牧師が本紙で語っていました。世間の目をごまかすためのパフォーマンス―被害者の苦しみに背を向けるカルト集団に注がれる目はいっそう厳しい。


きょうの潮流 2023年11月8日(水)
 この1カ月、パレスチナ自治区ガザから届くニュースに心を痛めない日はありません。イスラエルによる報復攻撃によって4000人を超える子どもが犠牲となり、パレスチナ側の死者は1万人に▼ガザの状況を世界に発信するジャーナリストたちにも、空爆が容赦なく襲い掛かります。米国に本部を置く「ジャーナリスト保護委員会」は、パレスチナ人ジャーナリスト・報道労働者の犠牲はすでに32人にのぼると報告しています。民間人と同じく保護対象のジャーナリスト。国際人道法も顧みないイスラエルの姿勢が際立ちます▼パレスチナ地元テレビの記者モハメド・ハタブ氏は2日、病院からテレビ中継を終えて帰宅した直後、家族10人と共にミサイル攻撃を受けて犠牲になりました。同氏の死を現地から伝えた同僚記者は、「報道」と書いたジャケットとヘルメットを脱ぎ捨て抗議しました▼中東カタールの衛星テレビ・アルジャジーラのガザ支局長ワエル・アルダハドゥー氏は、空爆で家族を失った直後に本紙カイロ特派員の取材に応じました(3日付既報)▼アルダハドゥー氏は、家族の葬儀の翌日には現場に戻っていました。「何が起ころうと仕事に戻ることが私の責務だ」。カメラの前でこう語った同氏の背景に、空爆により黒煙が上がり、サイレンの鳴り響くガザ市が映っていました▼夜通しの爆撃など激しくなるばかりの報復に、世界各地で市民が「今すぐ停戦を」の声を日々強めています。世界の声にイスラエルは耳を傾けよ。


きょうの潮流 2023年11月7日(火)
 プロになりたてのころ、エラーばかりしていた選手がいました。監督は起用し続け、のちに牛若丸と呼ばれるほど華麗な守備の名手に成長しました▼プロ野球の阪神タイガースを球団初の日本一に導いた吉田義男さんです。監督退任後に市田忠義さん(当時党書記局長)との対談でこんなことを話していました。「長所をいかに伸ばすか。選手は失敗して覚えることもあります」▼その吉田監督のもと猛虎打線の一角として大活躍したのが、いまの岡田彰布監督です。ことし38年ぶりの日本一を成就した岡田監督のことを、吉田さんは「じわじわと個性を伸ばしていくタイプ」と評していました。経験を積んで度量も大きくなったと▼今季の阪神は若手をはじめ、個々の選手がのびのびと力を発揮。リーグ3連覇を果たしたオリックスとの日本シリーズでも臆することなくプレーしていました▼チームのスローガンは流行語にもなった「アレ」。選手が優勝を意識しないようにという配慮から岡田監督が表現しました。気づかいの人といわれるゆえんでしょう。日本一になった際も「アレのアレ」を達成できたと口にし、ファンを喜ばせました▼戦前、大阪タイガースとして巨人に次いで2番目に結成された球団。勝てないときも熱心に応援してきたファンの中には、強者に立ち向かう庶民の味方といった目でみる向きも。大阪はいま、万博やカジノによって人情のまちが脅かされようとしていますが、そのうち「アレ」が待っているかもしれません。


きょうの潮流 2023年11月6日(月)
 「やむをえない」。なんともあっけない受け入れ表明に拍子抜けしました。大阪・関西万博の会場建設費増額をめぐる吉村洋文大阪府知事と横山英幸大阪市長の態度です▼日本博覧会協会が提示したのは500億円の増額。当初の1250億円から2350億円へと1・9倍も膨れ上がりました。資材や人件費の高騰が理由。「想定を超える物価上昇」だからというのですが、見通しの甘さはいなめません▼大阪の維新府市政がカジノと一体で推進し自公政権が後押しした万博。吉村知事も横山市長も博覧会協会の副会長。「2度目の増額。おわびする」という言葉も軽く聞こえます。世論調査では増額に「納得できない」が7割を超えます▼建設費は国、府市、経済界が3分の1ずつ約783億円を負担します。府市は折半で約392億円。1人当たりに換算すると国民1億2434万人は630円。大阪府民877万人は4470円で大阪市民277万人は1万4152円。大阪市民は国民、府民でもあるので計1万9252円。4人家族では7万7千円。当初見込みから2倍近い負担です▼わずか半年の万博。「やむをえない」ですむ負担なのか。交通などインフラ整備費は7500億円に膨張。すべては「半永続的」なカジノ誘致のため。税金投入に万博が利用されているとしたらだれが納得するでしょうか▼吉村氏は「未来のための投資」といいます。人の不幸のうえに成り立つカジノに「いのち輝く未来」(万博テーマ)などありません。


きょうの潮流 2023年11月5日(日)
 この期に及んでも米国への配慮優先なのか。イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への容赦ない攻撃は、逃げ場のない人々が身を寄せる難民キャンプへの空爆など無差別の殺戮(さつりく)と化しています。誰が見ても明白な国際人道法違反であり、戦争犯罪そのものです▼ところが日本政府はイスラエルの行為を「国際法違反」だと断定せず、停戦どころか、国連総会で世界121カ国が賛成した「人道的休戦」を求める決議にも棄権。上川陽子外相が3日、イスラエルを訪問して「人道的休止」を求めたものの説得力に欠けます▼日本政府のこうした姿勢は、当初からイスラエルを支持し、「自衛権」の名で虐殺を容認している米国の顔色をうかがうものであることは明白です▼世界を「民主」と「専制」に色分けし、どちらの陣営につくかを迫る米国に対して、真っ先に追随を選択した日本。米国が起こした戦争だけでなく、米国が支持する戦争までノーといえなくなっているのです▼日本政府はこれまで、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」を支持し、パレスチナへの人道援助を含め、独自の中東外交を展開してきました。こうした姿勢は中東の人々に支持され、また、欧米とは違って中東の植民地支配に加担してこなかったことから、今なお「親日」色は強い▼日本が唯一の戦争被爆国であることも知られており、だからこそ、戦禍の苦しみを理解してくれるという期待も大きい。憲法の平和主義が、今ほど試されている時はありません。


きょうの潮流 2023年11月4日(土)
 ことしの流行語大賞の候補に「新しい戦前」が入りました。昨年末の「徹子の部屋」で、来年はどんな年にと聞かれたタレントのタモリが「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えて広まりました▼いまではさらに真実味が増し、危機感とともに、それにあらがう人たちの間でよく語られています。大軍拡にひた走る政権に対し、そうはさせまいと▼岸田首相が経済対策を示しました。目玉とする「減税」をふくめ、どれも場当たり的。くらしが上向きになるようなものは見当たりません。しかも1回きりの所得減税をやった後には軍拡のための増税が待ち受けています▼首相が減税にこだわったのは増税先行のイメージを気にして人気取りに走ったからだろう、というメディアの指摘も。会見では、やるべきだと信じることをやっていくと強調していましたが、信じる道の先に国民の生活は見えているのだろうか▼国会前に集った3日の憲法大行動ではガザの惨状がとりあげられ、日本国憲法の前文が引かれました。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」。今こそ出番のはずなのに―▼戦争やめよの声がわきあがるなか休戦を求める国連総会の決議を棄権し、イスラエルの蛮行も批判できない政府。軍事に前のめりの首相。集会で憲法学者が話しました。憲法を考えることは、どんな社会にしていきたいのかにつながる。国のかたちを変えてしまった「戦前」に戻らないためにも。


きょうの潮流 2023年11月3日(金)
 初めは「姪の結婚」という題名でした。しかし、資料として使うはずだった病床日記がすでに処分されていたことがわかり、構想を大幅に変更することになったといいます▼井伏鱒二の「黒い雨」です。この小説は、原爆の実相を描くことに重点をおき、被爆者の重松静馬、被爆軍医の岩竹博の手記をもとに多くを取材。本人も「あれはルポルタージュ。あんな前例のないことは空想では書けないもの」と語っていました▼いま神奈川近代文学館で開かれている、没後30年の井伏鱒二展に最初の原稿が展示されています。何度も題名が書き直され、作者の思い入れが伝わってきます。連載開始時がベトナム戦争と重なったことから「戦争反対の気持ちも含めて書いた」▼井伏は1941年に43歳で徴用され、陸軍の報道班員としてシンガポールに滞在。退役して帰国後、疎開先の甲府で空襲にあっています▼井伏作品の特徴は市井の人びとの哀歓に寄り添う庶民性にあるといわれます。「山椒魚」に代表されるような生き物たちへの愛着も。「黒い雨」も日常の営みや人間性のうちに原爆の雨を降らせ、その非理を訴えました。被爆という世紀の体験のなかで、生やくらしが奪われてゆく民の悲しみを▼今も世界では市民の慟哭(どうこく)が続いています。日々の生活は破壊され命さえも。「黒い雨」の作中、次々と死体を運ぶ兵士がつぶやく場面があります。「わしらは、国家のない国に生まれたかつたのう」と。きょうは、自由と平和を愛する「文化の日」。


きょうの潮流 2023年11月2日(木)
 「真ん中世代」という言葉をよく見聞きするようになりました。「まんなか」「まん中」など表記はさまざま。青年でもなく、高齢者でもない、人生のちょうど真ん中あたりの世代を指します▼2011年に東京・練馬区で「まんなか世代後援会」が生まれました。以来、いろいろな組織や集まりなどでこの呼称が使われ、党内でもすっかり定着した感があります▼「しんぶん赤旗」では08年から、くらし家庭欄で「まんなかねっと」の特集や交流コーナーを開始。仕事や子育て、家庭や将来など世代特有の思いや悩みに光を当てました▼バブル崩壊後の長期不況のもとで生まれ育ち、いまなお先行きの見えないくらしを余儀なくされている世代。実質賃金が減らされ、社会保障や年金も心もとない。経済が停滞と衰退に陥った「失われた30年」の痛みに直撃され、分断されてきました▼同時に「路上民主主義」のうねりをつくり出してきた世代とも重なります。脱原発や安保法制反対運動の一翼を担い、ツイッターデモをはじめとするコロナ禍でのSNSを通じたアクションにも、この年代が多く参加しました。組織の動員ではなく、自覚的で創意的に運動する頼もしさが光ります▼長らく社会の真ん中に据えられず、端っこに追いやられてきた人たち。それでも、この世代が持つエネルギーは、「失われた30年」の歳月を経ても失われていません。世代をこえて手を携え、希望ある社会をつくりたい。「真ん中世代」の力の発揮が求められています。


きょうの潮流 2023年11月1日(水)
 「#給食費無償」を全国へ! 1万7000人の願いが込められた署名が30日、文部科学相あてに届けられました▼呼びかけたのは、教育行政学者の福嶋尚子さんや中学校事務職員の栁澤靖明さんらで構成する「隠れ教育費」研究室です。給食費をはじめ教材費、制服代など保護者の私費負担の実態を発信中。なぜこんなにもお金をかけなければ、子どもが学校に通えないのかと問い続けてきました▼とくに給食費の無償化を訴えるわけは、子どもの成長発達に直結するものであり、自治体や家庭によって食の権利の保障に格差があってはいけないから。無償化は教職員の負担軽減にもつながります。本紙の調査では、小中学校の給食費無償を今年度実施、あるいは実施予定の自治体は493にのぼります▼その周囲には学年限定や第3子以降など、さまざまな形で無償化を進める自治体があります。私立学校も無償という自治体がある一方で、特別支援学校などに通う子どもは対象ではない、という格差が生まれています▼政府による「こども未来戦略方針」でも、無償化の方向に向けてようやく調査に踏みだすことが掲げられています。保護者らの切実な願いに背を向け、調査を先延ばししてきた国の責任は大きい。無償化の広がりから目をそらしたかったのではとの思いもよぎりますが、たゆみない運動でここまでたどり着きました▼どこに住んでいても安心・安全でおいしい給食を、お金の心配なく食べられる環境を。もうひとふんばりです。


きょうの潮流 2023年10月31日(火)
 「私は勇気と誇りをもって日本共産党の戦列に加わります」「青年のような新鮮な感動と喜びを味わいつつ、入党申込書に一句ずつ書き込んでいます」▼50年前のきょう、日本共産党への合流を決めた沖縄人民党。当時の心境を機関紙「人民」につづっていました。決議した大会では採決の呼びかけが終わらないうちに全員が挙手し、大きな拍手と感動に包まれたといいます▼敗戦直後の創立以来、人民党は廃虚から立ち上がった県民とともに、米占領下で生活と人権、自治を守る先頭に立ってきた。米軍からは過酷な弾圧を受け嫌われてきたが、県民から後ろ指をさされることはなかった―。初代の共産党沖縄県委員長に選ばれた瀬長亀次郎さんはそう振り返りました▼各界からも歓迎の声が寄せられ、「合流は民衆の喜び」と評した琉球大の教授も。直後の糸満市議選で“初陣”の共産党が全員当選で議席を倍加したことも期待の広がりを示しました▼発刊から「人民」を配ってきた玉城正治さんは「赤旗」の配達へ。「ずっとやってこれたのは、みんなでたたかうから」と。この地で運動を励ます機関紙をつむいできた人びとの思いは節目の今年発行された『赤旗を支える人びと』に記録されています▼日米の国家権力とのたたかいが続く沖縄の現実。「戦争と貧富の差のない社会、子どもたちが希望のもてる社会を創造するために日本共産党の隊列への参加を私は決意した」。新たな出発に込めた女性の願いは今も脈々と受け継がれています。


きょうの潮流 2023年10月30日(月)
 明らかにトーンダウンというか、会社の姿勢が変わってきている―。団体交渉で実感した、たたかいの成果。労働組合の結成と、それを支える人びとが事態を動かしています▼配達を担う個人事業主と仕分けをするパート社員にたいし、ヤマト運輸が一斉に通告していた雇用の終了。集荷以外の業務を日本郵便に移管するためだとして、来年1月末までに打ち切ろうとしていました。対象者は3万数千人にのぼり、なかには高齢者や障害者、シングルマザーも▼「使い捨てにするのか」「人間をなんだと思っているのか」。一方的な契約解除や解雇は許さないと、パート社員が立ち上がり労組を結成。支援を呼びかけたネット署名には6万人をこえる賛同が集まっています▼今月16日には本社との団交が実現。会社側は「整理解雇ではない。お願いベース」だとして、再配置を精査していると回答しました。実際、各地の事業所では契約終了の通知が撤回されているそうです▼雇用を守るための交渉はこれからも続きますが、働くものが声を上げ、力をあわせることの大事さを改めて示しました。そごう・西武の米投資ファンドへの売却でも労組のストライキが注目されました。労働者の雇用や権利を守るたたかいは職場を変え、社会を変えていく力を持っています▼ヤマトの当事者が入る「建交労軽貨物ユニオン」は不安を抱えながら働く人たちに組合への加入を呼びかけています。それは、理不尽な働き方に苦しみもがいている多くの労働者にも。


きょうの潮流 2023年10月29日(日)
 先日、久しぶりに地域の新婦人の集まりに参加しました。そこで話題になったのは、女性のひきこもり。「新婦人しんぶん」が以前、特集を組んでいたからです▼お孫さんが筆者の子どもと同じ中学校に通うという70代の方は娘さんが就職氷河期世代だと語ります。娘さんと同世代の知人のなかに、就労でのつまずきが原因で長期間にわたってひきこもり状態になっている人が何人かいるとも▼40~64歳でみると、ひきこもり状態にある人の52・3%が女性(2022年度、内閣府調査)。KHJ全国ひきこもり家族会連合会には、女性からの相談が増加傾向にあるといいます。「伝統的な役割分担の価値観から声を上げられずにいた女性たちの間にも『自分もそうだったんだ』という認識が広がり、SOSを上げ始めた女性たちの姿が顕在化したと言える」▼ひきこもりが社会問題としてとらえられるようになったのは1980年代。当時は不登校の延長にあると考えられていました。日本経済が停滞化するなかで、就職難がすすみ再就職も困難に。ひきこもりの高年齢化、長期化の要因です▼80代の親が50代の子を養っている「8050問題」に重なります。「社会に迷惑をかけてはいけない」との思いが家族に重くのしかかります。背景にあるのは、「自助・共助」と家族どうしの支え合いを押し付けてきた政治です▼「社会のレール」から外れても何度でもチャレンジできる社会に―。「失われた30年」から抜け出す課題と結びついています。


きょうの潮流 2023年10月28日(土)
 星条旗の縞(しま)模様が伸びてアラブの民衆に絡みつく。米国とイスラエルの戦闘機が組み合ったひもから、爆弾が落ちていく―▼パレスチナに生まれ、風刺漫画を描き続けたナージー・アル・アリーの作品です。1987年に暗殺された彼の絵には、後ろ手に立ちつくす少年「ハンダラ」が書き込まれています。故郷を追われ難民となった子どもの視線を通してイスラエル占領下の残酷さ、私腹を肥やす支配層や米国の偽善的なふるまいを映し出しました▼いままた、この地でくり返される虐殺。停戦を求める声が世界で広がるなか、大国の思惑が弊害になっています。とくに米国はイスラエルへの賛意や軍事支援を露骨に示しています▼以前から米国は中東地域を重視してきました。石油や天然ガスの安定供給の確保、敵対勢力による地域支配の阻止、大量破壊兵器の拡散と反テロ攻撃の防止。それらが国益にかなうと▼イスラエルを特別扱いしてきた背景には、米国内で活動する親イスラエル・ロビー団体の存在があると指摘されています。民主、共和の二大政党議員に巨額の資金を融通するなど政界に強い影響を持ち、米政府のイスラエル寄りの姿勢を支えています。日本は双方に関係を築いてきながら、岸田政権は米国に付き従い、イスラエルの非道なガザ攻撃を批判できません▼成長することを許されなかった「ハンダラ」。パレスチナの人びとの存在意義と抵抗の象徴となった後ろ姿はいまも訴え続けています。私たちができることは何かを。


きょうの潮流 2023年10月27日(金)
 最初にぶつかる壁は家庭。誰よりも守ってくれるはずの親が自分を否定する相手となる。周りに理解されない悲しみや苦痛は、学校でも、社会に出てからも続く▼生まれながらにして割り当てられた性別。女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしく生きることを強いる集団。そのなかで自身が認識する性との違いに苦しみ、いじめや差別を受け、さまざまな場で性別を問われなくてはならない人たちがいます▼「意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」。戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする法律の要件について、最高裁判所の大法廷が違憲の決定を出しました▼個人の尊重を定めた憲法13条に反するとして、裁判官全員が一致。この要件が人権侵害にあたるとした国連機関や欧州人権裁判所をはじめ、国際的な流れとも合致しています。他の要件も見直しが急がれます▼自己決定に基づいて性別のあり方を決められ、法的にも認められることは、世界的にも人権の一部として認識されています。逆に、多様な性や少数者の権利をないがしろにしては個人を軽んじる不寛容な社会をつくりだすことにならないか▼今回の決定に「やっと自分をとり戻せる」と喜ぶ当事者も。誰もが自分らしさを手に入れることができる社会をつくりたい。そうした声と運動が、一歩ずつ世界を変え、豊かにしていきます。


きょうの潮流 2023年10月26日(木)
 「世の中に対してテレビが真っ向からものを言う」。先日、亡くなった演出家の鶴橋康夫さんが本紙の取材で語った言葉です▼テレビドラマや後に手がけることになった映画で、その才はいかんなく発揮されました。人間の複雑な内面をきらめくような映像で描き、鋭い目を社会へと向けた数々の作品は忘れがたい▼入社したのは、制作環境が整ったNHKや東京の民放キー局ではなく、大阪の読売テレビでした。浅丘ルリ子と組んだ「かげろうの死」(芸術選奨文部大臣新人賞)、メディアの正体を探る「砦なき者」、政官財の癒着に挑んだ「刑事たちの夏」(ギャラクシー大賞)、警察の暗部や人間の罪を掘り下げた「警官の血」。個性的なドラマが並びます▼“社会の木鐸(ぼくたく)に”の志を掲げて、希望や誇りを仕事に込めました。制作の現場でカメラさんとか照明さんとかと呼んだことはなく、50人ほどのスタッフの名前を「一発で覚えた」といいます。「テレビの仕事は一人ではできない」が信条でした▼2009年から本紙にエッセー「鶴橋康夫のドラマの種」を連載。独特の筆書きの原稿をファクスで届けてくれました。俳優や知人、家族、身辺について、どこまでが事実で、どこからが創作なのか、虚実入り混じった達者な文章が人気でした▼83歳で亡くなるまで、60年近い演出家人生。生涯現役がモットーで、次回作も温めていました。多くの俳優から愛された豪快かつ繊細な人柄。「いつか親父(おやじ)のドラマを作りたい」と願い続けていました。


きょうの潮流 2023年10月25日(水)
 実りの秋。木々は色づき、植物のとりどりの果実が森を彩ります。それは生き物たちの命をつなぎ、森の豊かさを保ちます▼この時期、クマは1年の80%ものカロリーを摂取するそうです。栄養価が高く主要なエサとされるブナの実もその一つですが、東北地方では今年ほとんど実がつかない大凶作。エサを求めて人里に近づき、各地で住民が襲われています▼国が統計をとりはじめて以降、被害は最多に。人の生活圏内に連日出没していることから、国や自治体などが注意喚起と対策を呼びかけています。環境省もクマの実態調査に乗り出しましたが、遅きに失した感があります▼クマの生態をふん(・・)から研究してきた小池伸介さんは「人間との関係で大事なのは、クマを森から出さないこと」だといいます。もっとクマを知り、山林の管理を怠らず、野生動物と人里をしっかり分ける。日々の地道な努力しかないと(『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』)▼国土の3分の2に及ぶ森林大国日本。しかしいま、里山や農村は廃れ、クマと人のくらしの境目はあいまいになり、シカの急増などで森の風景が一変してしまったと小池さん。長年、森の管理・保全を放置してきた国の姿勢が問われます▼植物の種を森のあちこちにまきちらすクマのふんは、豊かな森をつくるうえで欠かせない役割を果たしています。目の前にある危険への対処とともに、多様な生物のゆりかごとなっている森をつないでいく役割が、人間にはあるはずです。


きょうの潮流 2023年10月24日(火)
 めざす社会のキーワードとして注目されています。心身が満たされ、社会とのつながりも良好な状態。それが一時的ではなく持続していること。世界保健機関の憲章にも記されている「ウェルビーイング」です▼広い意味での健康や幸福を意味し、よりよく生きるための指標となっています。国連が毎年発表する世界幸福度ランキングにも反映され、6年連続で1位のフィンランドでは仕事や文化を語るうえで欠かせない考え方だといいます▼幸福度は47位で主要7カ国の中で最下位の日本はどうか。健康寿命は長いものの人生の選択の自由度や寛容さに課題があるとされます。内閣府の生活満足度調査でもミドル層や若年層で低下。賃金は上がらずコロナ禍や物価高でくらしは苦しくなるばかり。ウェルビーイングなど置き去りです▼岸田首相が所信表明でこの言葉を用いました。「持続的な賃上げに加えて人々のやる気、希望、社会の豊かさといったいわゆるウェルビーイングを広げれば日本国民が明日は今日より良くなると信じることができるようになる」▼しかし経済を連呼しながら、長年の停滞を招いてきた政策への反省も打開するための中身もない。どこに希望があるというのか▼岸田政権に対して厳しい審判が下った参院補選では改めて市民と野党の共同が政治を変える力となることを示しました。一人ひとりが幸せな人生を歩める社会を実現するためには政治の転換がなによりも。明日は今日より良くなると心から信じられるように。


きょうの潮流 2023年10月23日(月)
 音楽グループの推し活をしている友人が力説していました。歌や曲、ダンスだけでなく、彼らが発信する中身や活動にも共感している。知れば知るほど推したくなると▼秋晴れのもと、日本共産党推しが集まった「JCPサポーターまつり」。歌って踊って食べて。楽しくにぎやかな雰囲気のなか、共産党のことを知ってもらう多彩な催しが会場いっぱいにひろがりました▼サポーターのみなさんが知恵を出し合い考えた企画。志位委員長らがバーテンダーにふんして声を聞いたり、国会議員や地方議員を中心にジェンダーや子育て、気候の問題を語り合ったり。私はこんなふうに政治や社会を変えたい。一つ一つの思いが集まりつながりました▼きっかけは仕事で悩んでいた時に選挙公報などで政策にふれたこと。東京都内でくらす30代の男性は、人間らしい働き方を掲げ苦境にあえぐ人びとの声を届ける党の訴えが心に響いたといいます▼「初めての人も歓迎してくれて気軽に参加できるのがいい」。国会中継を見て山添拓参院議員のファンになったという「YAMA部」のメンバーは、もっと若者や女性が活躍できる世の中にしたいと話します▼開かれた魅力ある組織に。一人ひとりの発信力を強めて。党への要望もどしどし。メール登録をした若いサポーターはこういう明るさを大事に未来への展望を示してほしいと。共産党への期待とともに、新しい政治をみんなでつくろう。そんな思いが、レインボーフラッグはためく空にあふれました。


きょうの潮流 2023年10月22日(日)
 虫が苦手で嫌いな人は多い。嫌いな虫の筆頭に挙げられるのがおそらくゴキブリかもしれません。嫌われるのは人間の生活空間に入ってくるからでしょうか▼奈良県の纏向(まきむく)遺跡で採取した古墳時代前期の土から、現在もビルなどで見かけるチャバネゴキブリの破片が発見されたと発表がありました。古墳時代前期とは3世紀後半。同種の世界最古の発見例かもしれないそうです▼同種はこれまでアフリカ北東部が原産とされていました。日本では貿易によって江戸時代末期ごろに入ってきたと推定されていました。研究チームは、他の遺跡の研究報告と合わせると、同種が古墳時代からすでに日本列島にいたと考えています▼国内には60種以上のゴキブリがいるとされ、うちビルや家に入る屋内種は10種ほど。今回とは別の屋内種が以前、宮崎県の本野原(もとのばる)遺跡の縄文土器(4300~4000年前)に残された痕跡から発見されています。中国南部が原産で、江戸時代に日本に入ってきたと考えられていたものです▼土器中の虫を研究する専門家は「それ以前から日本列島に存在した在来種であった可能性を示唆するもの」だといいます。4000年前の九州地方と中国南部の考古学的資料に人の往来を示す物的証拠がないからだと(『昆虫考古学』)▼どちらの屋内種も現在は外来種とされています。国内でどのように屋内種になっていったのかは、今後の研究課題です。当時の人々がこの虫とどう付き合っていたのか、とても興味のあるところです。


きょうの潮流 2023年10月21日(土)
 「限界」を知らせるSOSだといわれています。なんらかの要因で学校に行けなくなった子どもたち。つらさと向き合い、助けをもとめてもがく姿は保護者にとっても▼不登校の状態にある小中学生が昨年度およそ29万9千人にのぼり最多となりました。前の年度から5万4千人余り増え、増加は10年連続。10年前と比べ小学生は3・6倍、中学生は2・1倍も増えています▼コロナ禍の影響、いじめや教師との関係、家庭の事情や体の不調など理由は多岐にわたります。競争と管理の教育政策も背景に。いじめも過去最多で、専門家は学校の中だけで問題は解決しない、家庭と学校以外の子どもたちの居場所を増やしていくことが必要だといいます▼「不登校は大半は親の責任」「フリースクールは国家の根幹を崩しかねない」。滋賀県東近江市の小椋正清市長の発言に、保護者や関係者から批判の声があがっています▼フリースクールを運営するNPO法人は「不登校の状態にある子どもたちやその保護者、支援者を深く傷つけるもの」だとしてネット署名を呼びかけました。発言の撤回とともに協議の場を設け、不登校についての理解を深めることを訴えています▼不登校を家庭の責任とし、学校以外の学びの場を認めないのは子どもや親をさらに追い詰めることにならないか。公的な支援が必要なのに自治体の役割を放棄することにも。子育てとかけ離れた自民党埼玉県議団の提案といい、自己責任の押しつけは問題の解決を妨げるだけです。


きょうの潮流 2023年10月20日(金)
 今年日本で公開された映画「コロニアの子供たち」を思い起こしました。芸能界だけでなく、社会を揺るがしているジャニーズ問題を見ながら▼映画はチリやドイツなどの合作で、チリ・ピノチェト軍事政権下で実在したカルト教団「コロニア・ディグニタ」を題材にしたものです。ドイツ人創設者のシェーファーは、ナチスの元党員でヒトラーを崇拝する反共主義者。拷問や暴力も使って絶対的な支配力を行使します▼12歳の少年が教団の聖歌隊に抜てきされるところからはじまり、やがてシェーファーのお気に入りに…。毎晩子どもを呼びつけ、くり返される性虐待。恐怖による支配と少年たちの苦悩が胸に迫ります▼逆らうことは命がけ。おとなたちは性暴力を知りながら何十年も沈黙しつづけます。史実ではピノチェト失脚後に逃亡したシェーファーは2005年に逮捕され、裁かれます▼ジャニーズ事務所もジャニー喜多川氏らの絶対支配の下で口をつぐんできました。なぜ生前に裁けなかったのか。本紙を含め日本のメディアが追及できなかったのか。悔やまれてなりません▼子どもや男性だけでなく、性被害そのものへの認識が甘かったから。メディアの視聴率や販売部数など巨額なもうけが絡んでいたから。私たち日本人のほとんどが人権と科学にもとづいて幅広く学ぶ性教育を受けてこなかったから―。教訓は生かさなければなりません。家父長的な価値観にたった自民党の攻撃によって、性教育そのものが停滞させられたことも。


きょうの潮流 2023年10月19日(木)
 おうし座の一角に輝くプレアデス星団。星々が統(す)べたように集まったものという意味で「すばる」と呼ばれ、昔から親しまれてきました。その漢字は太陽系を表す日と方角を示す卯(う)を組み合わせた昴です▼谷村新司さんが作詞作曲した「昴」は星空に国境がないように多くの国々の人に愛されました。とくに「アリス」として参加した1981年の日中国交正常化10周年の記念コンサートを北京で開いて以来、親交を結んできた中国では今も歌い継がれています▼当時通訳の中国人学生から「なぜ日本人は、中国やアジアに背を向けているのですか」と問われて谷村さんは気づきます。たしかに日本もアジアの一員なのに、上から目線でアジアを見る日本人が目につく。もっとフラットになったほうがいい―本紙日曜版のインタビューで語っていました▼74歳での訃報が伝えられると、その中国からも哀悼や悲しみの声が相次いでいます▼「冬の稲妻」や「チャンピオン」、「いい日旅立ち」や「サライ」。情感あふれる詩と壮大な曲の数々はたくさんの心をつかんできました。懐かしさとともに、自然と口ずさめるような。被災地で支援コンサートを開き、東京大空襲の犠牲者を悼む「蓮花」という歌もつくりました▼70年代から、ありったけの思いを込めて人びとに届けてきた音楽。「美しい言葉には美しい心が宿る」と信じ、人生のつまずく道を照らしつづけた谷村さん。「遠くで汽笛を聞きながら」秋の夜空にしのんで。「我は行く さらば昴よ」


きょうの潮流 2023年10月18日(水)
 日本は衰退途上国。経済学者がテレビで指摘していました。バブル崩壊後、日本企業はコスト削減の方向に舵(かじ)を切った。賃金を上げず人材を育てず、価格競争ばかりに走る。いまや世界から取り残されている▼経済ジャーナリストの荻原博子さんは戦後、懸命に築いてきたものが時計の針を逆回転させるかのように壊れていったのが「平成」の時代だったといいます。年金にしても消費税にしても、庶民が政府にだまされ続けた30年だったと▼日本の国力は劇的に衰えたと指摘するのは思想家の内田樹(たつる)さんです。経済力や学術的な発信力だけでなく、ジェンダー格差や教育への公的支出、報道の自由度など、いくつもの指標が指し示している。安倍政治が残した最大の負の遺産は「国力が衰退している事実が隠蔽(いんぺい)されている」ことだとしています(『街場の成熟論』)▼長きにわたる停滞と衰退。そこから脱却できない理由に、原因をつくった自民党がいまだに日本の政治を牛耳り、あらゆる価値観やシステムの中に深く入り込んでいることをあげる経済ジャーナリストも▼岸田政権の支持率が最低を更新しています。政府が月内にまとめるとした経済対策にも「期待できない」が7割近くを占めました。小手先ではなにも変わらないと見透かされているからでしょう▼日本共産党が打ち出した経済再生プランが共感を呼んでいます。物価高騰の打開策と失われた30年から抜け出すための抜本改革を示す中身に。くらしに希望のみえる提案をひろげたい。


きょうの潮流 2023年10月17日(火)
 およそ165日ある小学生の年間休日。春夏冬の休み、大型連休、祝日に土日。休日をどう過ごすか、学校外でどんな体験をするのか、子どもの発達と深く関わります▼年収300万円未満世帯の小学生3人に1人がこの1年間「学校外の活動なし」。こんな調査結果を、子どもの教育支援に取り組む「チャンス・フォー・チルドレン」(CFC)が発表しました。これは休日の旅行、レジャーにとどまらず、塾やスポーツ、映画・演劇の鑑賞などの体験も「ない」と▼「サッカーをやりたがっていたが、私が経済的にも体力的にも無理」「お金がなくて旅費がかかる事が全くできない」…保護者から悲痛な声が▼調査では、低所得家庭の保護者ほど、小学生の頃の体験が少ないという結果も。CFCは「貧困の世代間連鎖」の解消へ体験機会の提供が重要といいます▼体験格差の解消へ各地で取り組みが。環境にかかわらず、将来に希望を持てる社会をめざす「チョイふる」(東京・足立区)はその一つ。“子育て図書館”で小学生らに遊びや勉強、居場所を提供。保護者から「勉強を教えてもらって、ありがたい」と▼「すべての子どもに演劇教育を」と取り組む日本演劇教育連盟の大垣花子代表理事。子どもが生の舞台に触れる「鑑賞体験」の意義とともに、そこで公教育が果たす役割を強調します。子どもたちに等しくさまざまな体験機会を広げるにはどうするか。「国や地方の行政レベルの力を」(大垣さん)は関係者に共通する思いです。


きょうの潮流 2023年10月16日(月)
 ガザの北部に住んでいたイマンは、当時15歳でした。2014年のイスラエルによる地上侵攻で家は大破し、このままならガザを出たいと語っていました▼地上戦は1カ月半以上にわたって続き、ガザ市民1600人が死亡。そのうちの500人は子どもだったといいます。その時の悲しみや嘆きを、国連パレスチナ難民救済事業機関の清田明宏さんが『ガザ 戦争しか知らないこどもたち』で描いています▼くり返される攻撃と破壊。今また刻一刻と迫る地上侵攻。清田さんは過去の戦闘と比べても最悪の状況だとして、日本政府にも緊急の人道支援と停戦を働きかけるよう訴えています▼日本の種子島ほどの面積に230万人がくらすガザは、人口の半数近くが14歳以下です。現地の医師はすでに負傷者の3割から4割は子どもだといい、泣き叫ぶ映像が連日伝わってきます▼イスラエル軍は陸海空から大規模な軍事作戦にふみきろうとしています。国連の人権理事会は「自衛の名のもと、民族浄化に等しい行為を正当化しようとしている」と警告。世界保健機関も「退避命令は患者や負傷者にとって死の宣告だ」と非難しています▼1948年のイスラエル建国によってパレスチナの地に住んでいたアラブ人が追われ、難民となったナクバ(大災厄)。その再来が懸念されています。ハマスの蛮行が引き金とはいえ、憎しみの連鎖は力では断ち切れないことはこれまでの歴史が物語っています。子どもたちが夢みる平和な生活が訪れないことも。


きょうの潮流 2023年10月15日(日)
 「故ジャニー喜多川による性加害に関する一部報道と弊社からのお願いについて」と題するジャニーズ事務所の声明(9日付)が波紋を呼んでいます。故ジャニー氏の性加害を報じる際、告発内容を十分検証してから報道してほしいとする内容です▼その日、NHKで衝撃的なニュースが流れました。20年ほど前に、「ザ少年倶楽部」(BSプレミアム)への出演を希望してダンスの練習に参加した現在30代の男性が、NHK放送センター内のトイレでジャニー喜多川氏から複数回、性被害に遭った、とする証言です。声明は、被害者へのけん制、メディアへの圧力とも受け取れます▼NHKは「証言を重く受け止めている。看過できない問題」とコメント。英国公共放送BBCの施設内で未成年者への性加害を繰り返していた司会者、ジミー・サビル事件と重なります。BBC同様、独立した委員会による徹底調査が必要です▼一方、事務所は「弊社が認識している限り、そうした事実はございません」と即座に否定しましたが、その根拠は示しません。長く事実を認めてこなかった会社です。ついに地金が出てきたか▼事務所は在籍確認を被害補償の条件にしています。これこそ困難を極めます。契約も締結せず誰がジャニーズJR.なのか事務所が管理しない時代が長く続いたからです▼事務所の顧問弁護士は、先の会見で記者の質問に「立証責任を被害者に転嫁せず、なるべく幅広く補償する」と語りました。その言葉にうそがないか注視したい。


きょうの潮流 2023年10月14日(土)
 訪問活動や謀略ビラをまきちらす。統一協会が「研修施設」をつくろうとしている東京・多摩市では、いまも策動が続いています▼市役所の職員になりすまし、高齢者の見守りと称して家にあがりこんだり、集まりやコンサートに誘ったり。そんな事例が多発しているとして、同市はチラシやホームページで注意喚起を促しています▼長期にわたり継続的に献金の獲得や物販を行った。多くの人に多額の損害と精神的な犠牲を余儀なくさせた。その親族を含め、生活の平穏を害した―。所轄する文科省が統一協会の解散命令を東京地裁に請求しました▼遅きに失したとはいえ、被害者や世論の声、野党の追及が動かした大きな一歩です。これ以上被害を広げないためにも迅速な対応が求められます。多額の被害金をとり戻すために協会の財産を管理・保全する法整備も急がれます▼見過ごせないのは長年の被害を放置したばかりか、協会と深くかかわってきた自民党議員の責任があいまいにされていることです。安倍元首相とともに蜜月関係にあった細田衆院議長もしらばくれるばかり。まともな調査も反省もなく、いまもうごめく反社会的なカルト集団との仲を断ち切れるのか▼妻が信者だという男性は、私にとって統一協会は許されざる詐欺集団だと。元信者の2世は私たちの代で終わりにしなければならないときっぱり。多摩市で統一協会とたたかう共産党の小林憲一市議は「一刻も早く解散に追い込むため、みんなで運動を強めていきたい」。


きょうの潮流 2023年10月13日(金)
 ひとはだれでも得手不得手、好き嫌いがあるもの。しかし、将棋に関して彼は、そのような視点で相手を見ていない。なぜなら、目先の勝利ではなく、ずっと先に続く道が見えているから―▼主なタイトルをすべて手中にした藤井聡太八冠。師匠の杉本昌隆八段が近著でそう分析しています。めざしているゴールとは、後世に語り継がれる棋譜を残したいという思いだけだと(『藤井聡太は、こう考える』)▼81マスの盤面で、動きの異なる8種類の駒を駆使して争う将棋。そこには途方もない数の局面があることから頭脳の格闘技といわれます。藤井八冠はわずか21歳2カ月の若さで、その世界のタイトルを独占する前人未到の快挙をなしとげました▼師匠は、構想力や集中力、それをうみだす平常心と、あくなき探究心を秀でた特徴にあげています。AI(人工知能)の申し子と呼ばれながら、指し手はきわめて人間的。AIをこえた創造力があり、彼の姿からは人間の無限の可能性を感じるとしています▼将棋へのひたむきさや謙虚にむきあう姿勢は、メジャーリーグで異次元の活躍を続けている大谷翔平選手とも共通します。天賦の才をさらにみがく努力も。彼らの存在はライバルや若手だけでなく、全体のレベルを底上げしています▼好きな道を歩み、新たな地平を切り開いていく。その姿に夢や希望をふくらませる子どもたち。性別や分野を問わず、そうした若者が増える環境をつくってこそ、この国の明るい未来が見えてくるはずです。


きょうの潮流 2023年10月12日(木)
 1007件のうちの1005件。県庁に寄せられた意見は、圧倒的に反対だったといいます。県民やPTAが呼びかけた反対署名は短期間で十数万人に達し、街のあちこちで人びとの不安や怒りが渦巻くように▼自民党の埼玉県議団が、みずから提出した県虐待禁止条例の改正案を取り下げました。委員会では公明党も賛成し13日の本会議で採決されようとしましたが、殺到する批判をうけて撤回に追い込まれました▼育児の実態から離れ、家庭に責任を課す感覚は同党県議団58人のうち女性は3人という姿からもうかがえます。いずれにしても、一方的な押しつけに対し急速に広がった世論が追いつめた結果です▼札幌市も多くの市民が反対する2030年の冬季五輪・パラリンピック招致を断念しました。昨年末の地元メディアの世論調査では反対が67%にも上り、東京大会が残した数々の汚点によって五輪不信は募るばかり。そのなかで市民不在の招致活動を続ける札幌市に批判が集まっていました▼先月から開始しようとしていた神宮外苑の樹木伐採も年明け以降にずれ込むことになりました。広範な市民や団体、著名人が中止を呼びかけてきた再開発。国際機関も計画撤回を求め、都や事業者の対応にも変化が起きています▼社会や政治を現実に動かしている世論の高まり。もちろん、ことは一直線には進まず反動や巻き返しもあるでしょう。しかし理不尽なことには、あきらめずに声を上げ続ける。一人ひとりが民主主義の主権者として。


きょうの潮流 2023年10月11日(水)
 小学校のときいじめにあって不登校になり、悩み続けた末、20歳で自殺。中学校のときのいじめが原因で対人恐怖や頭痛にいまも苦しむ。いずれもかつて「しんぶん赤旗」に寄せられた訴えです。子どものときのいじめ被害はおとなになっても深刻な影響が続きます▼学校でのいじめで自殺に追い込まれる子どもが相次ぐ中つくられた「いじめ防止対策推進法」。その施行から9月で10年がたちました。しかし、いじめによる悲劇はいまだにあとを絶ちません▼文部科学省が先日公表した調査結果によると、2022年度に全国の小中高校で認知された「いじめ」の件数は約68万2千件に上りました。10年前と比べると3・4倍以上です▼深刻化する前に早期発見が必要と呼びかけられ、認知される数が増えたとも考えられます。認知されたいじめのうち、8割は年度末までに「解消した」とされています。それにしても急激な増え方です▼互いを人間として尊重することを学ぶはずの学校で、なぜこんなにたくさんのいじめが。成績で競争させ、行動を管理する教育。そんな場で過ごす子どもたちは自分が人間として大切にされているとは感じられない。他の子を大切にしなければならないという感情も育ちにくいのではないでしょうか▼いまの政治自体が、人々に競争と自己責任を強いています。それは社会にすさんだ雰囲気をもたらします。人々が連帯の力で政治を変え、社会を変えていくことも、いじめ問題を解決するうえで重要なことです。


きょうの潮流 2023年10月9日(月)
 「むちゃくちゃだ」「現実からかけ離れている」。保護者からは怒りや不安の声がわきあがっています。虐待する親にされてしまうかもしれないと▼子どもだけで登下校させる、公園で遊ばせる、お使いに行かせる。子どもだけ家に残してごみ出しや回覧板で外出する―。これらを虐待とみなすというのが、埼玉の自民党県議団が出した虐待禁止条例の改正案です▼同県議団は子どもが放置されている状態を虐待と定義。県民には通報の義務を課すとしています。ネグレクトや車内への置き去りがたびたび問題になっているとはいえ、ここまで対象を広げては保護者を追いつめるだけです▼先の事例は共働きやひとり親世帯をはじめ、日常の中で当たり前のようにみられる光景です。低い賃金で長時間働かせ、家族や女性に子育てを押し付ける。そんな社会の実態を見ずに、さらに子育ての負担を強いるとは。そうした環境を放置し続けてきた自民党こそ、市民への虐待ではないのか▼改正案は6日の委員会で公明党も賛成し可決、13日の本会議で採決されようとしています。それを阻止するため、県民や民主団体が次々と声を上げ、オンライン署名も立ち上がっています。埼玉は学童の待機児童数で全国トップクラス。まずは子育てを支える仕組みの充実が先だと▼社会の実情に合った制度の導入を阻み、古い家族観や性別役割、保護者への子育て責任を強要してきた自民党。こうした動きに歯止めをかけるためにも世論の力で撤回に追い込みたい。


きょうの潮流 2023年10月8日(日)
 人生の折々に図書館の思い出はありますが、「図書館の自由に関する宣言」との出合いは鮮烈です▼〈図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする〉とうたう「宣言」を知ったのは、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕3日で中止された問題を取材していた時でした▼日本軍「慰安婦」を象徴する《平和の少女像》等の展示に脅迫を含む抗議が殺到し、安全上の理由を挙げて中止されたことを受け、表現の自由とは何か、これは検閲ではないのか、と多様な議論が交わされました▼その中で美術館の学芸員が「宣言」の精神を自分たちも胸に刻もうと提案したのが印象的でした。〈知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する〉▼都内のギャラリーエークワッドで開催中の展示「本のある風景―公共図書館のこれから」を見ました。戦後図書館の原点に国立国会図書館法前文〈真理がわれらを自由にするという確信に立って、憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与する〉があり、現在では子どもから高齢者、障害者、外国人まで誰もがいつでも無料で滞在でき、つながる場としても機能していることがわかります▼図書館が知の宝庫でありつつ意見表明と交換ができる地域の核であれば、それはすなわち民主主義の姿でしょう。


きょうの潮流 2023年10月7日(土)
 自分が不利になったら途中でルールを変え、相手が異議を唱えたら「あなたには抗議する資格がない」と突っぱねる―。沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐり、政府がとってきた手法です▼玉城デニー知事が、防衛省が提出した辺野古の埋め立て申請を不承認にしたのは、法で定められた要件を満たしていないという、まっとうな理由です。そうであるなら、要件を満たすために手直しすれば済む話です▼ところが政府は、一般市民の権利救済を目的とした「行政不服審査法」を悪用し、国(防衛省)を“救済”するため、国(国土交通相)がデニー知事の不承認処分を執行停止にしてしまいました▼県が提訴すると、最高裁は「県には原告としての資格がない」と門前払いに。そして政府は5日、最高裁判決に従わないのは「違法」だとして県を提訴しました。国が県の権限を奪う「代執行」に踏み切るためです▼国が平気でルールを変え、司法もそれを追認する。この国は本当に法治国家なのか。そんな疑問さえ覚えてしまいます。こんなやり方がまかり通ってしまえば、地方自治は滅んでしまいます▼国は、辺野古埋め立てを承認しなければ普天間基地の「危険性」が放置され、「公益を害する」と主張しています。しかし、新基地は完成まで最短でも12年以上。世界的にも貴重な生態系を破壊し、普天間基地の「危険性除去」どころか、逆に放置する。「代執行」訴訟の弁論は、「公益」論のでたらめさを徹底的に審理する場となるべきです。


きょうの潮流 2023年10月6日(金)
 どこかで見たような首相会見に習ったわけではあるまいか。都合のいい質問をしてくれる記者を優遇し、批判する記者の口を封じようとする。これでは会見が主張する場に変質してしまう…▼ジャニーズ事務所が開いた2日の記者会見。運営を委託された会社が、複数の記者やフリージャーナリストの名前、写真を載せて質問の指名をしないようにする「NGリスト」をつくっていたことがわかりました▼会見は2時間、質疑応答は1社1問という制限がつけられ、混乱する場面も。抗議する声に対し、事務所側が「ルールを守って」と呼びかけると、記者の側から拍手が起きる。出席した同僚記者は違和感を覚えたと話しています▼未成年者への前代未聞の性虐待は国内外をゆるがし、大きな社会問題に。故ジャニー喜多川元社長から性被害を受けたと補償を求めてきた人は先月末までに325人にものぼります。長期にわたる性加害を見過ごしてきた側が会見を縛ること自体おかしくないか▼事務所によると会見の前々日に運営会社からNGリストを見せられ、その場でたしなめたといいます。ならば疑われないよう手だてを尽くすべきではなかったか▼被害者の告発で進んできたとはいえ、救済はこれから。真剣な反省に立った対応がなければ信用は落ちたままです。世間にその姿を見せる会見は今回の発覚で極めて不誠実な場となりました。それは出直しをはかる事務所への不信にもつながり、関係者を傷つけただけです。NGはどちらかと。


きょうの潮流 2023年10月5日(木)
 江戸時代から国防の拠点となり、軍港とされてきた神奈川・横須賀。その海に、米空母ミッドウェーが巨大な姿を現したのは50年前のきょうでした▼そのとき、市民らは基地を見下ろす山腹に厚紙一枚一枚に書いたメッセージを並べました。「MIDWAY BACK HOME」。世界で唯一となる米空母の海外母港化と、それをめぐるたたかいの始まりでした▼当時はベトナム反戦運動の高まりもあり、ミッドウェーの乗組員にも反対の声が広がりました。もともと在日米軍基地の整理統合によって、横須賀は大幅縮小される計画でした。ところが引き止めたのは日本政府。海外母港を考えていた米海軍と歩調を合わせるようにして▼初めての市民大会が開かれ、まちぐるみの反対運動がわき起こります。しかし日米で取り決めた事前協議はなし崩しにされ、母港化ではなく家族の海外移住計画だという詭弁(きべん)まで。それは15年前から原子力空母に代わり、核持ち込みが問題になってからも変わりません▼日米の政府が結託して実態を偽り、自治体や住民らとの約束をねじ曲げてきた半世紀。その間、横須賀の空母は湾岸戦争やイラク戦争をはじめ破壊と殺りくの中心となり、日本国内では米軍機の墜落や騒音といった被害をまきちらしてきました▼1日の「原子力空母いらない」集会。横須賀の海を望みながら、いまも平和や安全を脅かし続ける存在に対し、各界各層の人たちが声をあげました。空母や基地のない横須賀、そして日本をつくろう。


きょうの潮流 2023年10月4日(水)
 自然や生き物に関心をもち、土いじりが好きな少女でした。好奇心旺盛で一つのテーマを深く考え、よく調べて発表する。まるで一人前の学者のような小学生だったといいます▼ハンガリーの小さな町で育った彼女は、やがて科学者の道へ。しかし資金難で母国での研究がゆきづまり米国行きを決意。当時は外貨を自由に持ち出せなかったため、娘のテディベアのぬいぐるみに隠して出国したことは知られた話です▼今年のノーベル生理学・医学賞を授与されたカタリン・カリコさん。ヒトの体内に無数にある細胞の中で、たんぱく質をつくるための遺伝情報を伝える「メッセンジャーRNA(mRNA)」の研究を長く続けてきました▼これまで人工的に合成したmRNAを体内に入れると炎症反応を引き起こし、薬などに使うことは難しいとされてきました。カリコさんは、共同受賞した米ペンシルベニア大のワイスマン教授とともに、それを抑える方法を発見。新型コロナワクチンのスピード開発と実用化につなげました▼多くの困難にくじけず、たくさんの命を救った研究。短期の成果ばかりを重視し、基礎研究の基盤や環境を削ってきた日本で、こうした人材や研究を花開かせることができるだろうか▼『カタリン・カリコ』の著者でジャーナリストの増田ユリヤさんは、苦労を重ねてきた彼女を支えたのは、病気で苦しむ人びとを助けたいという固い信念だったと記しています。どんな賞や栄誉よりも、命を救う喜びに勝るものはないと。


きょうの潮流 2023年10月3日(火)
 パワーだけは追いつけない。かつて米大リーグと日本の野球を比べ、よくいわれました。機動力や小技を重視する日本のスモール・ベースボールを「違う世界の野球」と評した外国人選手も▼そこからメジャーリーグに挑んだ日本選手が、ついにパワー野球の象徴ともいえる本塁打王に輝きました。投げて打って球界の常識を覆し、また一つ歴史をぬりかえた大谷翔平選手です▼体格や力では劣るとされてきた日本、アジア出身の選手が初めてつかんだタイトル。挑戦者を温かく応援する本場のファンからも称賛の声が寄せられています▼四半世紀前、ホームランを量産する2人の打者の争いに大リーグは熱狂しました。しかし、1人が筋肉増強剤を使っていたことを告白。その後も記録を更新した選手の薬物使用が判明するなどファンを失望させ、野球離れがおきました。純粋に野球を楽しむ大谷選手の活躍はふたたび球場にファンを戻しています▼トップアスリートとは夢や感動を与えるもの。そんな先入観があるなかで、彼は「夢を与えようとか、元気を与えようみたいなことはまったく考えていない」といいます。そう受け取ってもらえたらうれしいが、まずは好きな野球を一生懸命にやっている姿を見せることだと(『大谷翔平語録』)▼ファンの存在を大切に思いながら、ただ野球がうまくなりたいと自然体でとりくむ、試し失敗し、そこから学ぶ。そのくり返しが未踏の領域へと。けがを治してグラウンドに立つ姿が、今から待ち遠しい。


きょうの潮流 2023年10月2日(月)
 これが維新の「身を切る改革」なのか。最近話題になっていることが二つあります▼ひとつは、どこまで膨らむかわからない大阪・関西万博の費用です。会場建設費は当初の1250億円から1850億円に、そして2300億円程度に増える見通し。負担は国、大阪府・市、経済界がそれぞれ3分の1ずつ。3分の2は税金です▼維新府議団は約450億円の増額分は国に負担してもらうよう吉村洋文知事に要望しました。国負担でも税金に変わりありません。SNS上では「(中止しないなら)維新が負担すべきだ」との声がしきり▼もうひとつは、国会議員秘書と地方議員の兼務です。維新の衆院議員(大阪10区)が地元の大阪府高槻市議2人を公設秘書にしていたことが発覚。公費から支出される秘書給与と議員報酬を二重で受け取っていました。「1円の税金も無駄にしない」「納税者のための政治」が維新の宣伝文句です。実像とあまりにもかけ離れていませんか▼ちなみに、大阪・関西万博と大阪カジノ計画はセット。カジノのための万博というのが実際の姿です。埋め立ててつくった人工島の夢洲(ゆめしま)を舞台としているため、交通アクセスの整備費や地盤対策費は膨らむばかりです。無謀なベイエリア開発のツケは府民にしわ寄せされます▼ギャンブル産業のためになぜ血税を注ぎ続けるのか。「身を切る」というなら、せこい兼務をやめるのはもちろん、政党助成金を受け取らないとなぜ宣言できないのか。維新は答えるべきでしょう。


きょうの潮流 2023年10月1日(日)
 自分が好きなことや人物を追いかけ、応援する「推し活」。その活動を通して楽しみや活力、幸せを得て、人生が変わったと実感している人も多い▼「推し」や、より良く見せようとする「盛る」といった表現が世間に浸透してきた―。文化庁の国語世論調査で明らかになった新しい表現の定着。担当者は既存の言葉に新たな意味が加わったことで受け入れられたと分析します▼なかには「異様だと感じてあきれる」を意味する「引く」の表現も。それよりさらにひどい状態を表す「どん引き」も以前から使われてきました▼まさにどん引き。自民党が杉田水脈衆院議員を党の環境部会長代理に起用するといいます。アイヌ民族などをおとしめる投稿で公の機関から「人権侵犯」と認定されたばかり。差別発言をくり返し無反省の人物を要職につけるとは、この党の人権感覚の欠如もあらわに▼フランス研修中に浮かれた写真をSNSに投稿し、女性局長を辞めた松川るい参院議員も党副幹事長へ。あれだけ批判を浴びながら、政党助成金も入った研修の報告書も公表しないまま表舞台に復帰させる。岸田内閣の副大臣・政務官54人のすべてが男性という異常な姿にも「引く」一方です▼先の調査では8割超の人が言葉の使い方に気を使っているとしています。差別や嫌がらせと受け取られかねない発言をしないという回答も多数あり。世の中からかけ離れていく、政権与党と岸田首相。「どうしようもなくなった」を言い表す「詰んだ」がぴたりと。


きょうの潮流 2023年9月30日(土)
 「世界が驚く、冬にしよう。」。あまりに凡庸なフレーズ。2030年冬季五輪招致を目指す札幌市が作成した市民向け冊子です。心ひかれない言葉は薄い開催目的の反映か▼市民の招致熱も冷え込んでいます。東京大会の負の記憶があるからです。国民無視の強引な開催、約2倍に膨らんだ経費、汚職などの発覚が拍車をかけます▼札幌市の計画は総額3170億円。市の支出は490億円と小さく見せています。しかし、みなが学んだのはどの大会も経費が数倍に膨らむ現実です。東京の検証なき招致はありえません▼市は昨年末、世論を気にし「積極的な機運醸成活動」を休止しつつも、今夏から市民対話に動いています。しかし出てくるのは懸念や反対ばかり。「開催の意義がわからない」「資材高騰を想定しているのか」「五輪より除雪、学校にクーラーを」。そのため市は意向調査を先送りに。地元紙も「招致撤退を考える時だ」の社説を掲げます▼その中で市民が動きます。「招致の是非は市民が決める」と、住民投票を求める直接請求署名が28日、始まりました。2カ月で3万4千人以上の署名は容易ではありません。議会が承認するかも未知数です▼しかし世界では市民の声で立候補取り下げ都市が相次いでいます。国際オリンピック委員会の幹部でさえ「事前に住民投票を行い、住民の了解を得て立候補を」と。民意なき五輪はあってはなりません。五輪招致の是非を問う日本初の住民投票となれば、だれもが「驚く冬に」なります。


きょうの潮流 2023年9月29日(金)
 そこは「魚(いお)湧く海」と呼ばれるほど豊かな漁場でした。九州本島と天草諸島に囲まれた不知火(しらぬい)海。波穏やかな海を見下ろす丘の上に水俣病の相談窓口があります▼国が公害病と認めてから55年。いまも訪ねてくる患者、電話やメールは絶えません。手足のしびれや痛み、めまいや耳鳴り。開設する水俣病センター相思社には一様ではない症状やつらい経験を訴える声が寄せられてきました▼「なんでこのおれが水俣病じゃないんだ」。幼いころ不知火海周辺で魚を主食にくらしたという関西在住の患者。都会での仕事とかけもちする中で症状が悪化しましたが、認定申請は棄却されたと憤ります(『みな、やっとの思いで坂をのぼる』)▼原告はいずれも水俣病と認定―。これまで国や熊本県に切り捨てられてきた被害者の救済を求める判決が大阪地裁でありました。地域や年代で線引きしてきた従来のやり方を一蹴。発症の実態は距離や時間で単純に区切れるものではない、と▼狭く小さくが水俣病の救済で国がとってきた態度でした。実際に国の基準で認められた患者は3千人ほど。しかし潜在患者は10万人以上ともいわれ、声を上げてたたかってきたことで救済の輪が広がってきた経緯があります▼戦後日本の公害の原点とされる水俣病。国はまともに調べもせず責任逃れに終始してきました。それは被爆者や原発の被害者をはじめ、あらゆる場面で。「こんなことで棄(す)てられて、たまるか」。先の患者の叫びはすべての被害者に通じています。


きょうの潮流 2023年9月28日(木)
 本紙電子版が始まり5年余りがたちました。紙媒体では届かなかった人たちに、じわりと浸透している実感があります▼デジタル化がすすむ社会に向けて発信するためにペンをスマホに持ち替えよう―。インド北部ウッタルプラデシュ州にある新聞社は、7年前から独自のビデオチャンネルを開設。紙媒体からデジタル配信に移行しました。その転換期に、記者たちの活動を追いかけたドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」が公開中です▼この新聞社の運営、取材に携わるのは、全員カースト最下層の「ダリト」に属する女性たちです。家父長制が色濃いインド。女性であり、ダリトである彼女たちは、複合的な差別にさらされながらも奮闘しています。「私たちの仕事は世の中とのたたかいでもある」と社会変革をめざす姿に胸を打たれます▼スマホを手に記者が足を運ぶのは、農村の現場です。ダリト女性に対する残忍なレイプ事件、違法の鉱山事業…。「あなたのニュース、あなたの言葉で」をキャッチフレーズに声なき声をすくい上げ、問題の根源を追及していきます▼記者たちの原動力は、民主主義を支えるというジャーナリストとしての使命感です。「メディアに人権を守る力があるからには、それを人々の役に立てるべきだ。責任をもって正しく力を使う」。そうでなければ金もうけにすぎなくなると▼映画から学ぶことは多い。権力の監視と真実の報道―。ジャーナリズムの精神をどう貫く。私たちも日々試されています。


きょうの潮流 2023年9月27日(水)
 対談やインタビューの“名手”が肝に銘じていたことがあります。相手の気持ちを推し量る、自分ならどう思うかを考える、上っ面な受け答えをしない▼雑誌やテレビであまたの人物と対してきた作家の阿川佐和子さん。相手の心の中はいま、どんな状態になっているのかとおもんぱかる。自分と違っても、どこかで共鳴する場所を見つけ、相手に対してより深い理解と興味をもつことが肝要だといいます(『聞く力』)▼この人はどうか。2年前の就任以来「聞く力」を大切にし、国民に寄り添うとくり返してきた岸田首相です。それが上っ面だけのもので聞くことさえもしないことは、たびたびあらわになってきました▼インボイス反対のオンライン署名。国内最多の50万をこす声を集めたにもかかわらず、首相は受け取りを拒み、自民党も訪問を断ったそうです。よくこれで「聞く力」などといえたものです。それとも反対する人たちは声を聞くべき国民とみなされていないのか▼万博をはじめとする巨大開発、物価高騰で生活が苦しくなる中での増税や大軍拡。それに対して中止や見直しを求める、いまの政治に疑問や不安を感じている多数の人びと。その声を無視して対策を打ち出しても、たくさんの願いとかけ離れていくだけです▼「いつも必死にインタビューしてきた」。本紙日曜版で阿川さんが語っています。それは相手と誠実にむきあってきた証しでもあるでしょう。いっけん誠実そうに見せかけ、じつは裏腹の誰かさんとは違って。


きょうの潮流 2023年9月26日(火)
 忙しいのは覚悟で教員になったけれど、どうして、こんなにしんどいのだろう…▼教員不足が社会問題となりその大きな要因は長時間労働にあるといわれています。毎年実態調査を続ける長野県教職員組合のデータでも、過労死ラインといわれる月80時間以上の超過勤務はここ10年ほど常態化。「3年以内に辞めるつもり」という青年教員は4%にも。教員を続けること自体が、たたかいです▼現場から粘り強く声をあげ続けた結果、多忙化を招いていたさまざまな業務は少しずつ削減されてきました。長時間労働解消を、との支援の輪も広がっています。教育研究者有志が署名を呼びかけ、過労死裁判を経て弁護士会が立ち上がり、「こんなにひどい実態だったとは」と保護者も心を寄せています▼なぜ、こんなにつらいのか。あるベテラン教員は、教育行政による大掛かりな教職員コントロールがあると話します。教育内容や方法を、そろえるように求められる「スタンダード」。“標準”とは名ばかりで、下回ることがはばかられる年間授業時間数。子どもの生活にまで土足で入り込み「こうすれば点数が高くなる」と、指導を枠にはめこむ全国いっせい学力テスト―▼なぜこんなことに、とやりがいを感じられない業務に忙殺される日々。その積み重ねが超過勤務数に表れ、心と体を痛め続けています▼STOP!学校の長時間労働。それは国をあげて進められてきた教育支配を打ち破り、新たな地平を生み出すたたかいなのかもしれません。


きょうの潮流 2023年9月25日(月)
 東京・練馬区の牧野記念庭園のあちらこちらにスエコザサが植栽されています。植物学者の牧野富太郎が妻・壽衛(すえ)への思いを込めて名付けたことが知られています▼NHKの連続テレビ小説「らんまん」も最終週。サブタイトルは「スエコザサ」です。富太郎をモデルに創造の世界を広げてきました。時代の制約をものともせず、植物研究に没頭して自由闊達(かったつ)だった主人公の万太郎。その生き方はまさに「天真らんまん」です。妻の寿恵子は万太郎の“冒険”に伴走します▼ドラマには、興味深いエピソードがちりばめられています。たとえばイチジクの一種、オーギョーチの命名のいきさつ。1896年、万太郎は調査で台湾へ。国の利益のための調査ではなく、ありのままの台湾の植物を見て来たいと▼見つけた新種に台湾の言葉で学名をつけます。当時、台湾は日本の統治下にあり、日本語を共通語として押し付けていました。国に逆らう気かと警告されますが、万太郎は意に介しません▼神社の森の植物が失われていくことに心痛めて、国が推し進める神社合祀(ごうし)令に反対する姿も印象的に描かれました。戦争へと向かう時代。作者の長田育恵さんが本紙のインタビューで語っていた「万太郎の思想」を垣間見る思いです▼植物を「この子」と呼び、「雑草いう草はないき」「草花に優劣はない」を信条に、誰にも平等に接した万太郎。数々の印象深い言葉を刻んだ物語の行く末は…。長田さんがキーワードは「継承」という、その顛末(てんまつ)に注目です。


きょうの潮流 2023年9月24日(日)
 地球温暖化が災害を伴う豪雨や猛暑など異常気象に大きく影響を与えています。世界の平均気温は産業革命前と比べすでに1・1度上昇。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、さらなる上昇で10年に1度とか50年に1度発生する極端な高温や降雨、干ばつの発生頻度が多くなると▼温暖化によって異常気象がどの程度変化したのかを調べた研究が、相次いで発表されています。コンピューター内で人間活動によって温暖化した状態と、温暖化していない状態を仮想的に作り出し、それぞれ多数の計算をして比較。異常気象の発生確率の変化を取り出す研究です▼今年の7月下旬から8月上旬にかけての記録的高温は統計開始以来1位でした。気象庁などの研究チームによると、温暖化の影響がなければ、発生し得ない現象だったといいます▼発達した雨雲が連なる線状降水帯も6月から7月上旬に相次いで発生しました。その総数も、温暖化によって約1・5倍増加し、九州地方の増加が顕著だったと評価しています▼日本での線状降水帯の発生頻度の将来を予測した研究では、産業革命前と比べ2度上昇した場合、1・3倍になり、4度上昇した場合、1・6倍になるとしました▼科学の警告は無視できません。国連の「気候野心サミット」で岸田文雄首相は、国連が準備した発言リストに載らず、発言できませんでした。対策に逆行する姿を世界にさらした形です。いつまで石炭火力に固執するのか、政策転換が待ったなしです。


きょうの潮流 2023年9月23日(土)
 いまや社会に定着した感があるオンライン署名。インターネットを使った署名集めは、誰でもどこからでも無料で立ち上げられ、住む場所を問わずさまざまな人たちとつながれます▼社会や政治を変えるためにそれを利用する動きも若者を中心にひろがっています。これまで国内最多のオンライン署名は「東京五輪反対」の46万ですが、いまそれを上回る50万の声を募ろうというとりくみが進められています▼「STOP!インボイス」。岸田政権が来月から強行しようとしている消費税の新たな増税の仕組みに反対する署名です。主催の「インボイス制度を考えるフリーランスの会」は、官邸前行動の25日までに目標を達成して岸田首相や鈴木財務相に届けたいといいます▼同会の発起人でライターの小泉なつみさんは、強い者をより強くし、弱い者をさらに弱くする税制がインボイス制度だと訴えます。「この国らしさをかたちづくる文化と産業を破壊し、私たちに分断と増税、混乱を招く希代の悪法」▼いままで免税されてきた零細企業や個人事業主、フリーランスで働く人たちにとっては死活にかかわる問題。署名の呼びかけにも多様な働き方を否定するものだと▼岸田首相は国連で多様性や人間の尊厳を強調しました。いくら言葉を飾ったところで、国内で真逆なことをしていては恥ずかしい姿をさらすだけです。多種多様な人々がつながった反対の声。インボイスには「送り状」の意味もあります。中止のそれをいま首相に送りつけたい。


きょうの潮流 2023年9月22日(金)
 サザンオールスターズの新曲が今週から配信されています。「Relay(リレー)~杜(もり)の詩(うた)」。公開されたミュージックビデオでは桑田佳祐さんがモノクロの世界で森の中を歩き、ビルの谷間にたたずんでいます▼木々や街に息づく人びとに語りかけるようなバラード。大切な場所への思いや未来への憂いが伝わってきます。神宮外苑の再開発見直しを訴えた坂本龍一さんの遺志を受け継いだ曲。桑田さん自身が明らかにしています▼内苑とともに先人が100年先をみすえてつくった都会のオアシス。そこに根づく3000本もの樹木が伐採される計画があらわになるにつれ、市民や著名人が次々と反対の声をあげてきました▼伐採中止を求めた市民団体の声明には作家の浅田次郎さんや歌手の加藤登紀子さん、俳優の秋吉久美子さんらが名を連ね、作家の村上春樹さんも再開発に強く反対。漫画家のちばてつやさんは「社会には目先の経済や、人間の都合に左右されず、大切にして守るべき大事なものがある」と▼ユネスコの諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)も事業者や東京都に対し、計画撤回と決定の見直しを要請しています。小池都知事は樹木の具体的な保全策を示すよう事業者に求めましたが、計画そのものを白紙にすべきではないのか▼市民や共産党都議団が追及してきた貴重な森の破壊。反対の声の「リレー」は大きなこだまとなって社会に響いています。先の歌で桑田さんが最後に「意志を継(つ)ないで」と呼びかけたように。


きょうの潮流 2023年9月21日(木)
 世界遺産のハロン湾や古都ホイアン、ダナンといった海辺のリゾート地。首都ハノイやホーチミンの都市めぐり。ベトナムは日本でも人気の観光地です▼コロナ禍前、日本からの訪問者が多かった国・地域の中でベトナムは上位に入っていました。逆にベトナムからも技能実習生や働き手が多く来日しています。厚労省によると、昨年10月時点の外国人労働者の数は約182万人で過去最多となりましたが、そのうち4分の1超がベトナム人でした▼日本とベトナムが外交関係を樹立してからきょうで50年。ベトナム戦争で米軍が撤退した年に結ばれて以来、人的交流をはじめ両国の関係は広い分野で発展してきました。節目の今年はさまざまな催しが開かれています▼先の大戦で日本はベトナムを占領し、ぼう大な餓死者を出した加害の歴史があります。その後もベトナムは南北が分断され、ベトナム戦争へ。そのとき米軍が大量散布した枯れ葉剤による人体や環境への影響は現在も続いています▼「明日の侵略者を抑止するために、われわれは今日のむき出しの侵略に立ち向かわなければならない」。国連総会でそう訴えたバイデン米大統領。ウクライナへの軍事侵攻をやめないロシアに対し、国際社会の連帯が必要なのは言をまちません▼同時に米国や日本にも侵略の歴史はあり、今も他国を軍事拠点とする米軍の戦略は世界を圧迫しています。自主独立の国としてアジアの平和をめざしていく道にこそ、日本とベトナムの未来があるはずです。


きょうの潮流 2023年9月20日(水)
 きょうから、秋のお彼岸です。暑さ寒さも彼岸までといいますが、真夏のような日照りが収まる気配はありません。厳しい残暑に体力や気力を削られる日々が続きます▼今年の夏の暑さはとびぬけていました。平均気温は平年に比べ1・76度も高く、各地で過去最高気温を記録。気象庁が統計をとり始めた125年間で最も高くなりました。日本近海の海面水温も過去最高でした▼日本に限らず6月~8月の地球の気温は、記録の残る1880年以降で最も暑かったそうです。高温だけでなく大雨や嵐、干ばつや熱波と異常気象は世界の至る所で。地球温暖化による森林火災の悪化も深刻で、最近は1年で東京都の約40倍にあたる面積が焼失しているといいます▼「気温の高まりは、行動の高まりを要求している」。国連のグテレス事務総長は、各国の首脳らに気候危機への熱意ある対策を改めて呼びかけました。一刻の猶予もならない、と▼持続可能な開発目標(SDGs)や気候問題を話し合う国連総会が始まりました。真剣なとりくみを急いでと、声を上げる世界や日本の若者たちの姿を本紙が伝えています。「気候危機は人類文明に対する真の脅威。21世紀の主要課題だ」。とどまることを知らない資本主義の欲望への糾弾です▼暑さ寒さも彼岸までの言い習わしには、つらいことや困難があってもいつかは終わる、乗り越えられるという意味もあります。それはただ過ぎ去るのを待つのではなく、人々の行動によってこそ実現するはずです。


きょうの潮流 2023年9月19日(火)
 壁画で有名な高松塚古墳など古墳群や宮跡などが密集し、田園地域が残る奈良県明日香村と橿原市。シリーズ「農と食 現場から」の企画で訪ねました▼近鉄吉野線沿いでは「古代ロマンの息吹感じられる、日本の原風景がここにある」など「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の世界遺産登録をめざすキャンペーンが▼案内役は日本共産党明日香村議で、奈良県農民連会長の森本吉秀さんです。「“インスタ映え”する人気の観光スポットがあちこちにあります」。県農民連事務所近くの高台には、牽牛子塚(けんごしづか)古墳・越塚御門(こしつかごもん)古墳があり、周りの田んぼで稲穂が金色に輝き、秋の風情を感じさせます▼「ここは私が長年、無農薬で化学肥料を使わずに有機栽培しています」と森本さん。イノシシやシカの獣害対策のため細い電線で囲った場所もあります。田畑を維持・管理する森本さんら農業者の務めです▼最古の歌集『万葉集』で詠まれた“天の香具山”の麓・橿原市下八釣(しもやつり)町では、農薬や化学肥料を使わない有機農産物の学校給食活用を通じて地域農業を再生させる取り組みが始まっています。半農半Xの市民や女性も参加する「かしはらオーガニック」です。代表の山尾吉史さんは危機感を込めて話します。「農業の担い手が高齢化して、耕作放棄地が増えています。手をこまねいていられない」と▼古代ロマンに欠かせない田園風景を残すというなら行政が行うべきは農業振興です。遅くない将来、古くからの田園風景が消滅しないために。


きょうの潮流 2023年9月18日(月)
 職場で神経をすり減らし、家庭でも問題を抱える息子。地域の仲間と一緒にボランティア活動に励み、恋にもときめく母。山田洋次監督の新作「こんにちは、母さん」は下町を舞台にした親子の物語です▼3世代の家族をみつめながら親子の情愛を描きました。そこには現代社会を生きる人びとの悲哀とともに、老いてゆく人間の孤独や不安も映しとられています。自分や家族の老後を考えさせられるように▼きょうは敬老の日です。厚労省の発表によると100歳以上の高齢者が全国で9万2千人をこえ、53年連続で最多を更新しました。2012年に5万人をこえて以降、およそ10年で倍近くに。なかには世界最高齢の薬剤師としてギネスの世界記録に認定された女性もいます▼人生100年時代の幕開け。しかし一方で高齢者を「老害」とみなし、長生きを負い目のように感じさせる風潮もあります。介護難民や孤独死を生みだしている政府の冷たい「切り捨て政策」があるからです▼実際、高齢者をとりまく状況は厳しい。職もなく年金は少ない。医療や介護の負担は増すばかりで将来不安を訴える声も多い。日本は先進国のなかでも高齢者の貧困率が高く、老いることが貧しくなることに直結しています(『「人生百年時代」の困難はどこにあるか』)▼先の映画では、異なる価値観や考え方をもった世代が交流しながら、それぞれが新しい生き方を模索していきます。老いとは、生きがいを感じられる人生とは。その意味を問い直すように。


きょうの潮流 2023年9月17日(日)
 漫画家の中沢啓治さんが広島で被爆した自身の体験を込めた『はだしのゲン』。ゲンの目の前で父と姉、弟が亡くなっていく場面は強烈でした▼24の言語に翻訳されています。ほとんどがボランティアの手によるといいます。中国語に訳したのが、名古屋市在住の坂東弘美さんです。2008年から7年余りをかけて。その逸話がこの夏、NHKEテレ「こころの時代」で伝えられました▼きっかけは、日中戦争に出征した父親の話です。沈黙していた父が73歳のとき、小学生の孫と坂東さん宛てに手紙を書いてくれました。3カ月間で便箋343枚に及びました。中国で何をしてきたか。「隠れていた婦女子を見つけ銃剣で刺殺…」▼優しい父がどういう顔をして殺したのだろう。坂東さんは中国に渡る決意をします。北京の中国国際放送で働いているときに、タイ語の『はだしのゲン』に出合います。民族差別や中国への加害の歴史も描いているのを知って、中国語に翻訳しようと決めます▼引き込まれた登場人物は、ゲンの父親。ゲンに「しっかり生きろ」「麦のように」と言い続け、戦争は間違っていると主張して特高警察に連行されてしまいます。やがて坂東さんは気づきます。自分の父が黙ったままではなく、戦争の真相を伝えようとしたことに▼番組の最後に坂東さんは「仕方がなかったですまされることか」と力を込めました。足元に目を向ければ岸田政権が進める大軍拡。いま改めて、戦争の足音を何としても拒否しなくては、の思いが。


きょうの潮流 2023年9月16日(土)
 「地球沸騰化の時代が到来した」―グテレス国連事務総長がこう警告したのは7月末でした。その言葉を何度も思い出したこの夏。大規模な山火事や洪水など、極端な気象による被害が世界各地で起きました▼米ハワイ州マウイ島では、猛火が街を襲い100人超の犠牲者を出しました。米史上最悪の山火事の一つに。あれから1カ月が過ぎ、同州知事は10月には渡航制限を解除し、マウイ島への観光客の立ち入りを再開すると発表しました▼ハワイを英国人クック船長が「発見」したのは18世紀末。白人の到来と同時に成立したハワイ王朝(1795~1892年)の首都が今回被災したラハイナでした▼「太平洋のベニス」とも呼ばれた水の都が、1世紀半で山火事が頻発する土地に。気候変動による干ばつに加え、植民地主義の遺産が指摘されています。資本家が土地をサトウキビやパイナップルの大規模農園に変え、日本人らの移民が入植。作り替えられた土地は今では遊休地になり、その枯れ草が猛火の「燃料」に▼プランテーションで儲(もう)けた企業は、リゾート施設やゴルフ場をつくり、今も水資源を独占し、地元住民は深刻な水不足に陥っていました。焼き出された人々に対し、開発業者は土地の買い取りを持ち掛けているといいます▼儲けを狙う「惨事便乗型資本主義」の姿がここでも。街の再建には「気候正義」が必要です。気候変動で被害を受ける弱者が保護される正義を。各地で災害が続く今、地元住民が置き去りにされてはなりません。


きょうの潮流 2023年9月15日(金)
 「そもそも日本の総理に自分で本当に国家の命運にかかわることを決めているという厳しい危機意識がない」。そう語るのは元内閣官房副長官補の兼原信克氏です(『官邸官僚が本音で語る権力の使い方』)▼日本で諜報(ちょうほう)が軽視されてきた理由に挙げたもの。今後は海外でのスパイ活動を強化すべきだとも。とても同意できるものではありませんが、「国家の命運」を決めている自覚が岸田文雄首相にあるのかという点では、うなずける部分があります▼たとえば先月の日米韓首脳会談。中国や北朝鮮を念頭に3カ国軍による共同訓練の毎年実施などで合意しました。米戦略に沿って新たな軍事的枠組みをつくる動きに米国内でも「単なる軍事協力の拡大は、地域の安全保障環境を悪化させるだけだ」(オンライン誌『レスポンシブル・ステイトクラフト』8月18日)との声があがりました▼政権を支える自民党の麻生太郎副総裁は台湾で「たたかう覚悟」と発言。米国言いなりで、真剣に国の平和を考える力を失い、戦争突入を当然視するまでに至った言動の軽さに恐ろしさを感じます▼元副総理で2005年に亡くなった後藤田正晴氏は「自主自立のものの考え方でアジアに目を向けないと、アメリカ一辺倒ではこの国は危なくなるよ」と語ったことがあります(『後藤田正晴 語り遺したいこと』)▼「日米安保条約を平和友好条約に切り換える、そのための議論を始める時期にさしかかっているのではないか」とも。首相に聞かせたい言葉です。


きょうの潮流 2023年9月14日(木)
 赤旗記者の先輩から徳島特産のすだちが送られてきました。毎年この時期に届くうれしい贈り物。さわやかな香りと酸味に季節のめぐりを感じます▼うんざりするほど猛暑と大雨に明け暮れた今年の夏。まだ暑い日がつづきますが、秋の気配はゆっくりと近づいています。朝晩の空気や花々の移り変わりようにも変化してゆく季節のきざしがみてとれます▼さて、こちらはどうか。支持率の低迷にあえぐ岸田首相が施した内閣改造と党役員人事です。「日本はまさに正念場にある」と意気込んでとりくんだものの、政権の骨格は維持したまま。これまでの政治姿勢に変わりはないと宣言したような顔ぶれです▼マイナンバーをめぐって大混乱と不安を引き起こした河野太郎デジタル担当相は続投。軍拡の予算づくりを進めてきた鈴木俊一財務相や原発推進で汚染水の海洋放出でも漁業者の思いをふみにじってきた西村康稔経産相も留任させています▼11人の初入閣、5人の女性閣僚をいくら強調しても、国民の声とむきあわなければ何のための人事か。これでは各派閥に気を配っただけの「刷新」ではないか。統一協会との癒着の反省もどこ吹く風です。これで政権浮揚とは厚かましい▼すだちは料理や飲み物の味を引き立てますが、本体がまずくてはそれも及びません。目先は変えても国民の期待にはこたえられない岸田政権。問われているのは政治の中身です。共産党の小池書記局長は「いま必要なのは内閣改造ではなく政治の改造」。その通り。


きょうの潮流 2023年9月13日(水)
 わら半紙につづられていた文章は貴重な歴史の証言でした。「僕の前で朝鮮人が一人皆にたけやりで殺されました」「朝鮮人が川戸の水の中へ毒をいれるといったのでしんぱいしました」▼身の毛がよだつ光景の数々の描写。関東大震災時の朝鮮人虐殺を目の当たりにした子どもたちの作文が横浜市の中央図書館に保存されています。不安のなかで耳にする流言を信じておびえ、朝鮮人を憎む心境が読みとれます▼震災直後から朝鮮人暴動のデマが流され、軍隊や警察、自警団による集団虐殺の事実はあまたの証言や公的な記録に刻まれています。検察は114件を立件。殺人などの罪で600人以上が起訴され、ほとんどが有罪になっています(『関東大震災と民衆犯罪』)▼しかし、犯行の多くは野放しに。戒厳令下の軍や警察の大量殺りくはどれも適当とされ、処分された者もいませんでした。先頭に立った彼らの蛮行は民衆を扇動し、見本をみせたとの指摘もあります▼いま話題の映画「福田村事件」は薬売り行商の一行が自警団に朝鮮人と疑われ、9人が殺害された痛ましい事件を題材にとったものです。100年前の犠牲者について現在の千葉県野田市は初めて弔意を表明しました▼いまだにまともな調査もせず、記録がないと虐殺の事実を否定する岸田政権。過去を省みない姿勢は歴史の偽造そのものであり、いまもヘイトクライムとなって現れています。人権が大きく前進する時代にあっての逆行は、この国の未来をふさぐだけです。


きょうの潮流 2023年9月12日(火)
 家でテレビを見ていた時のことです。番組は、ある高校にプリントシール機を設置し、生徒が好きな相手を誘って一緒に写真を撮る―という内容でした▼女子生徒から男子生徒、男子生徒から女子生徒へと緊張しながら声をかけます。するとわが子が「女子から女子、男子から男子っていうパターンがあってもいいのにね」と一言。私にはなかった発想に、ハッとさせられました▼ドラマなどで同性愛が肯定的に描かれたり、多彩な性的指向(恋愛の対象となる性別)を耳にしたりと性の多様性にふれる機会が増えました。「当たり前」と思っていたことを考え直す機会も増えたと感じます▼この夏開かれた全国保育団体合同研究集会「乳幼児期の性と保育」の分科会では、保育園での工夫が報告されました。たとえば壁が低く丸見えだったトイレを改善したり、部屋に仕切りを置いて着替える場所を作ったり。乳幼児だから平気だと考えず自分の体を守れるように配慮する。子どもは「自分が大切にされている」と感じ、他者を大切にする気持ちにつながっていくのだと▼絵本を使った性教育で、だれを好きになってもいいこと、家族のかたちは多様でパパがいなくてもママが2人いても、いろいろあって当たり前だと伝えているという話も▼性について学び考えることは、多様な生き方や人権を尊重することにつながります。つくられた「普通」と、そのもとで続いてきた制度や慣習。仕方ないとあきらめず、多彩な選択肢をつくっていく時です。


きょうの潮流 2023年9月10日(日)
 戦争や権力の恐ろしさが伝わった。抑圧された人びとの痛みとともに、連帯する人間の強さが心に響いた―。初めて接する若者や懐かしさを覚えながら味わう姿も▼没後40年となる山本薩夫監督の作品を特集した東京のラピュタ阿佐ヶ谷。早々と満席になる回もあり、根強い人気がうかがえます。16日までの最終週には、松川事件を素材にした喜劇「にっぽん泥棒物語」や、徳島ラジオ商殺し事件を描いた「証人の椅子」が上映されます▼「映画は真実を伝える眼であり、政治や社会の不正を批判し、本当に大衆の幸福を願うものでありたい」(『私の映画人生』)。現実の社会を芯に据えつつ、娯楽性をもちあわせた数々の名作はそうした信念のもとで生み出されました▼弾圧のなかで暗い青春時代を過ごし、戦争にもかりだされ、天皇制軍隊でみじめな屈辱を受けた経験。そういうものの復活を断じて許しておくわけにはいかないとメガホンを握り続けました▼戦争の本質を覆い隠し賛美に走る日本映画に警鐘を鳴らし、平和と民主主義を守ることに生涯をかけた山本監督。そこには「目に暗い絶望の色を浮かべ途方にくれていたかつての時代に、もう一度戻るようなことがあってはならない」との思いが込められていました▼岸田政権のもと再び軍拡の道へふみだそうとしている昨今、山本作品の値打ちは今も。反戦を一生のテーマにと決めたとき、彼はもう一つの決意を。それは、戦前から反戦平和の旗を掲げ続けた日本共産党への入党でした。


きょうの潮流 2023年9月9日(土)
 48年ぶりに自力で五輪の出場権をかちとったバスケットボール男子の熱気が残るなか、ラグビー男子の第10回ワールドカップ・フランス大会が開幕しました。ラグビーの和名は「闘球」。体を激しくぶつけ合うさまは、まさにたたかうスポーツです▼ラグビー日本代表といえば2019年の流行語大賞にも輝いた「ONE TEAM(ワンチーム)」が思い浮かびます。この言葉は語感から集団主義を指すととらえがちですが、個性と多様性のうえに成り立つチームの一体感が真意です▼それは当事者のコメントから伝わってきます。受賞に際して堀江翔太選手は「どういうふうにワンチームにするかが大事。中身の部分をしっかり考えていただければ」と語りました。受賞理由もその意味を重くかみしめます。「世界に広がりつつある排外的な空気に対する明確なカウンター(反抗)メッセージ」「近い将来、移民を受け入れざるを得ない日本の在り方を示唆する」と▼今大会の日本代表をみても、オセアニアや南太平洋など半数近くが外国籍。朝鮮学校出身者の選手も初めて選出されました▼この球技に息づく「ノーサイド精神」にも通じます。試合が終われば両者を隔てた壁が消え、熱くたたかい抜いた両チームが一つになります▼ラグビーボールのようにどこへ弾むのか一見読めない社会の先行き。しかし、時代は個人と多様性尊重の方向へ力強く向かっています。その推進力となる大会に。日本代表はあすの夜、初戦のチリ戦をむかえます。


きょうの潮流 2023年9月8日(金)
 岩手県知事選挙で5選を決めた達増(たっそ)拓也知事は、選挙戦の中で地方政治をすすめる基本精神として、憲法13条の「幸福追求権の保障」を掲げました▼「幸福追求」は、県内で多くの犠牲者を出した大震災津波と深くかかわっています。被災者の医療費の免除を11年間続けました。子ども医療費の窓口負担をなくす施策は、共産党の斉藤信県議の提案を受け入れたと知事の妻・達増陽子さんが明かしました▼「民主主義の原点、共同体の原点に立ち返り、復旧復興を進めていかなくてはならない」。何が人間にとって一番大事か。被災者に寄り添い復興を進めると、深く掘り下げ、思い定めたといいます▼岩手県が掲げてきたスローガン「希望郷いわて」の内容を膨らますため、4年前の県民計画から「幸福」の言葉を入れました。「幸福を守り、育て一人ひとりの幸福を増やす」。教育や健康・余暇など各政策分野に幸福指標を設けました▼震災後のまちづくりでは、「ショック・ドクトリン」といわれる、公共を破壊する新自由主義的なものを取り入れるやり方に断固反対を表明しました。そして、県民一人ひとりに寄り添う達増知事の哲学が、全国トップクラスの子育て支援を生み出しています▼岩手県が生んだ童話作家の宮沢賢治の言葉にある「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」。7年前の講演会で「この言葉が広く共有されている岩手ならではの幸福像を描くことができればと思っています」と語っていました。


きょうの潮流 2023年9月7日(木)
 「パフォーマンスにしか見えない」。地元で暮らす住民からこんな声が。先ごろ小池百合子東京都知事が新宿区歌舞伎町シネシティ広場にいる「トー横キッズ」の視察に来た時のことです。当事者に言葉をかけることもなく、数分で切り上げました▼「トー横キッズ」。歌舞伎町界隈(かいわい)に集まる、家での虐待や貧困で居場所を失った10代の少年少女たち。コロナ禍で家族が自宅にいる時間が増え、SNSで居場所を共有しやすくなり増加しました▼現場は深刻です。広場や路上の少女に、性搾取を目的に群がるおとなたち。少年はそのあっせんや万引き、詐欺まがいの違法行為に。薬物の過剰摂取や自傷行為、自殺未遂も頻繁▼おとなへの不信感が強い子どもたち。「否定からではなく、受け入れることから始めよう」と昨年来、支援活動を続ける日本駆け込み寺代表理事の玄秀盛さん。子どもたちの抱える問題は貧困や虐待などにつながっており、「一部だけに焦点を当てるのでなく、全体を見渡し正しく認識すること」と本紙に語ります▼行政の役割も問われます。現地を何度も訪れている共産党の沢田あゆみ新宿区議は、「子どもたちが安心してすごせるよう保護、支援と、自立のための環境をつくること」を区に迫ります。「ここまで放置してきた責任は誰にあるのか。行政が果たすべき役割がある」と▼若者たちがSNSで共有するメッセージに込めたものはなにか。その深層に耳を傾け、見せかけではない取り組みこそが求められています。


きょうの潮流 2023年9月6日(水)
 「辺野古新基地建設を阻止してもらいたいという県民の意思が変わってしまうわけではない」。沖縄県の訴えを退けた最高裁判決に、玉城デニー知事はこうきっぱりと▼新基地工事の着工後に発覚した、埋め立て区域に広がる軟弱地盤。一番深いところで水面下90メートルに及び、「さしずめマヨネーズ状態」とも称されるほど。沖縄防衛局は地盤改良のため設計変更を県に申請しましたが、県はこれを不承認に▼軟弱地盤の力学的試験をやらなくていいのか、ジュゴンの生育や海底面の環境への影響はどうか。県が問うたのは、承認要件に関わる専門的技術的視点からのものです。最高裁はその判断もしないまま、国の指示は「適法」だと▼弁論を開いて県の主張を聞くこともなく、国の求めるよう設計変更を認めよと迫る。そのありように民主主義・法治主義の危機の声が。地元紙・琉球新報は「『法の番人』としての気概さえ感じられない」「法治国家ならば、沖縄の民意に正面から向き合え」と▼デニー知事が岸田政権丸抱えの候補に大差をつけて再選したのは、わずか1年前。「新基地建設のノー、県民の思いは1ミリもぶれていない」と。それでも「唯一の解決策」とくり返してきた政府のいかに傲慢(ごうまん)か。それが、世界一危険と米国自身も認める普天間基地の閉鎖撤去を妨げてきました▼28年前、少女暴行事件を契機に開かれた県民総決起大会。「軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」。会場を震わせた女子高校生の訴えは今もなお。

きょうの潮流 2023年9月5日(火)
 「えっ、うそ」。はじめて見る数字でした。「208円」。レギュラーガソリン1リットル当たりの値段表示です▼大阪の高速道路のサービスエリア。思わずスマートフォンでパチリ。1リットル当たりハイオク219円、軽油187円でした。経済産業省が8月30日に発表したレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格(28日現在)は185円60銭。過去最高値を約15年ぶりに更新しました▼8月分の電気料金の請求書が届いて、これまたびっくり。前月と比べ5000円近く高くなっていました。猛暑続きで扇風機だけではしのげず、エアコンによる冷房は欠かせませんでした。ただこの請求額をみると「電気代が怖くて冷房が使えない」という人の気持ちがよくわかります。自宅で熱中症になる比率は高く、まさに命にかかわります▼こちらも額の大きさにびっくり。ケタ違いです。カジノ誘致と一体の大阪・関西万博の会場建設費は当初の1・5倍の1850億円に膨れ上がり、交通アクセスなどインフラ整備費は4000億円も上振れし総額7500億円。地盤沈下対策費はいくらになるかわかりません▼もっと大きな数字があります。大企業の内部留保はどんどん増え過去最高の511兆円(2022年度)。大阪労連の調べによると在阪大企業の内部留保は約47兆円(21年度)▼物価高騰対策は急務です。経済の活性化というなら、カジノ・万博頼みではなく、消費税の減税や内部留保を活用した中小企業支援による賃上げこそが即効薬です。


きょうの潮流 2023年9月4日(月)
 いまから100年前に1冊の本が世に出ました。「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました」という序で始まる『アイヌ神謡集』です▼1923年8月に刊行された同書は、アイヌの間で伝承されてきた叙事詩、カムイユカラ13編を日本語訳付きで収録しています。戦後、岩波文庫として再刊され、このほど補訂新版が発行されました▼この本を残したのは、現在の北海道登別市に生まれたアイヌの女性、知里幸恵です。冒頭に置かれた叙事詩の「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」という美しいフレーズが、読む人を先住民族アイヌの世界観の中に引き込みます▼心臓が悪かった彼女は、タイプで打ち直された原稿の校正を終えた夜に、発作を起こし亡くなったといいます。19歳という短い生涯でした。『神謡集』の出版は彼女の死から1年後です▼明治以降、日本政府による強制移住や同化政策によって先住民族であるアイヌはそれまでの暮らしや文化を奪われました。「研究目的」として墓地から遺骨を持ち出すことまで行われました。その中で自らの民族の文化に誇りを持って『神謡集』を残した知里幸恵の思いは引き継がれ、アイヌ文化やアイヌ語を守ろうという努力が若い世代も含めて続いています▼いまもアイヌに対する差別と偏見はなくなっていません。国としての謝罪はいまだなく、しばしば政治家による差別発言も。先住民としてのアイヌの権利と尊厳を守る施策が求められています。


きょうの潮流 2023年9月3日(日)
 「いまここから川にとびこんだら、どうなるんだろう」。絵本『橋の上で』で、自死を考えていた少年は出会った男性にこういわれます。「耳をぎゅうっとふさいでごらん」▼昨年の児童生徒の自殺は514人と過去最多でした。10代の死因第1位です。夏休み明けの9月に増加するといわれます。どうしたら止められるのか―。多くの人々が心を砕き、発信してきました▼自死をやめた人の物語がそれを抑止する「パパゲーノ効果」という仮説があります。タレントの中川翔子さんは10代のころ、「死にたい」と思い続けましたが、ネコをなでることで死に向かう気持ちが変わることもあったと▼厚労省は「ゲートキーパー(命の門番)になろう」とホームページで呼びかけます。その役割は「変化に気づく」「じっくりと耳を傾ける」「支援先につなげる」「温かく見守る」の四つ。「死にたい」「消えたい」などのネガティブな気持ちを含め、話を否定しないことが大切、と。「つらかったんだね」「よかったら聞かせて」と苦しい思いを聞く―。耳の傾け方がサイトで丁寧に書かれています▼教師がゲートキーパーになることで、一人でも多くの子どもを救える可能性が高まります。とはいえ1クラス40人近くの子どもたちを見て、多忙を極める教師たちにとって、子どもの悩みに気づくことは、ハードルが高い▼少人数学級にして、教師を増やすこと。過度な競争教育をやめること。命を守るためにも、子どもの心を大切にする社会が不可欠です。


きょうの潮流 2023年9月2日(土)
 この国の財政は、確実におかしくなっている。31日締め切りの2024年度概算要求を見て、そう感じずにはいられません。防衛省の概算要求が7・7兆円で過去最大。前年度から1兆円近く増え、他省庁と比べて突出しています。2年前からだと、実に2兆円以上の増加です▼これだけではありません。文部科学省(宇宙軍拡)、国土交通省(空港・港湾の軍事利用)、外務省(他国軍の支援)、総務省(軍事目的の情報通信研究)といった省庁も軍事関連経費を要求しています▼まるで「戦時国家」のような予算編成。新たな「国家総動員体制」と言える異常な動きの背景にあるのは、言うまでもなく、軍事費を「5年以内に2倍化する」という岸田政権の対米公約です▼とはいえ、国民は物価高に苦しみ景気は低迷。30年以上、成長が止まっているこの国の経済が上向く兆しはまるで見えないのに、どこにそんな財源があるのか▼政府・与党は先の通常国会で、医療機関の積立金など「税外収入」を充てるための軍拡財源確保法を強行したのに続き、政府保有のNTT株を売却し、軍事費に充てることを検討しています。もはや何でもありです▼しかし、5年以内に「2倍化」を達成したとして、それで終わりではありません。年間10兆円、11兆円という規模の軍事支出を何十年も続けることになります。一時しのぎの財源確保で賄えるはずはありません。大増税・社会保障削減という破滅的事態の前に、引き返すのは今しかありません。


きょうの潮流 2023年9月1日(金)
 天地も覆さんばかりの凄(すさ)まじき大音響。烈風は瞬時にして横浜全市を焦土と化し数万の生霊と幾十億の財貨を奪った。余は幾多の迫害、飢餓、疲労と闘いつつ、累々たる死体の山を越え、撮影を完成した―▼震災直後のありさまを記録したカメラマンの語りです。その映像は11時59分を指した高島駅の時計から始まり、立ち上る猛煙や廃虚と化した街、避難する人々の姿をとらえています▼いま神奈川県立歴史博物館の関東大震災展で流されています。巨大地震と、それに伴う火災や土砂災害、津波によって未曽有の被害をもたらした震災から100年。実相と教訓をくみ取ろうとさまざまな催しが開かれています▼関東大震災は復興と都市計画づくりの原点といわれます。しかし災害に強い都市づくりは国の怠慢によって現在も課題を残して。「壊滅的な被害を生んだ原因は街づくりの大失敗」。本紙日曜版でそう指摘した専門家は、いまの政府や東京都のやり方に警鐘を鳴らしています▼忘れてならないのは、混乱と人心の不安のなかで起きた軍隊や警察、自警団による朝鮮人や中国人の虐殺です。新宿にある高麗博物館では数々の資料や証言を示しながら、隠されてきた実態を赤裸々に暴いています▼いまだに調べもせず、虐殺の事実さえ認めない日本政府。1世紀前の教訓からみえてくる国のあり方や責任はここにも。「過去をふり返りながら、現在に努力し、将来に希望を持つための契機となれば」。展示を企画したある学芸員の思いです。


きょうの潮流 2023年8月31日(木)
 これは非常に大きな転換点だ。「当事者の会」のひとりは、性加害の事実を認めたことはすべての起点になるとして、改めて謝罪と救済を求めました▼1950年代から2010年代半ばまでの長期にわたり、所属タレントに対して性加害をくり返していたジャニー喜多川氏。「再発防止特別チーム」は、それを事実として認定し、ジャニーズ事務所の解体的な出直しに言及しました▼数百人が被害にあったとの証言も。原因はジャニー氏の異常な性的嗜好(しこう)にくわえ、姉で経営を担ったメリー喜多川氏による放置と隠蔽(いんぺい)、事務所の不作為。そして圧倒的な権力支配が招いた被害の潜在化にあった。特別チームの報告書はそう指摘しました▼生殺与奪を一手に握る絶対的な権力者。その強い立場を利用した性虐待を、被害にあった未成年者たちは拒むこともできなければ、相談や告発をすることも極めて困難であったと▼ジャニー氏による性加害は芸能界の関係者には広く知られていたといいます。セクハラやパワハラが起こりやすいといわれてきたエンタメ業界。メディアや広告業界を含めた土壌からの改善が求められています▼「笑顔と感動の輪を、世界に」。いまもジャニーズ事務所のホームページにはこんな言葉がおどっています。いびつな権力構造がいまだはびこる芸能界のなかで、人権に重きを置いた組織として生まれ変われるか。特別チームの座長を務めた林真琴弁護士はこう呼びかけました。「先頭に立って変えていくことを期待する」


きょうの潮流 2023年8月30日(水)
 演劇の甲子園とよばれる、全国高校総合文化祭(総文祭)の演劇部門。今夏の鹿児島大会で徳島県立城東高校の「21人いる!」が最優秀賞に輝きました。しのびよる戦争の暴力をじんわりと描いた出色の出来でした▼狭い地下室で活動している高校演劇部が舞台。男子上級生が一人、また一人と、命がけの「ボランティア」に指名されていきます。外では警報や爆発音が響き、ある日、女子部員も爆発に巻き込まれ…▼戦争という言葉はひと言も出さずに、地上で何が起きているかを感じ取らせる巧みな演出です。生き残った女子生徒は「死ぬならお花畑がいい」と語ります▼「誰も理不尽に巻き込まれない平和な世界というと、『頭の中、お花畑』と言われるやん。それでもいい。私はお花畑で死にたい」。後輩は答えます。「死なないで、お花畑で生きてほしい」と。目頭が熱くなる場面です▼戦争体験のない高校生たち。演出で出演もした3年生の浅野碧巴(あおとも)さんは「過去の経験を参考にしたというより、私たちがこれから経験するかもしれないこととして意識した」と語っていました。二度と戦争を経験することのないよう、あえて想像して見せた舞台でした▼城東高校は旧徳島高等女学校で、卒業生には作家の瀬戸内寂聴さんがいます。晩年まで戦争反対を訴え、車いすで国会前行動に参加した瀬戸内さん。後輩たちの快挙に目を細めていることでしょう。総文祭の優秀校による東京公演の模様は10月以降、ネット上でも配信される予定です。


きょうの潮流 2023年8月29日(火)
 あたしはもう黙らない―。突然の退去を突きつけられたシングルマザーたちが公営住宅を占拠。訴えたのは、人としての尊厳でした▼ブレイディみかこさんの新著『リスペクト―R・E・S・P・E・C・T』はロンドン五輪後に起きた実際の住民運動がモデルです。地域の再開発のもと、もとから住んでいた貧しい人たちが追い出される。そんな理不尽なやり方に対し女性たちが連帯して立ち上がります▼草の根の運動は多くの支持を集め、行政を追いつめていきます。いまやロンドンに限らず「都市の高級化」によって土地や建物が資本家に買い占められ、住む場所さえ奪われていく人々。格差の拡大はあらゆる分野であつれきを生んでいます▼英国上位企業の経営者の報酬が労働者の賃金の118倍にも。本紙国際面に載っていました。物価高で多くが苦しむなか、異常なまでの格差。労組の全国組織は「すべての人の生活水準を引き上げる経済が必要」だと▼貧しいということは、単にお金がないということだけではない。それが理由で、ほかの多くのものまで奪われてしまっている。何かを教わる機会や新しい環境にであうチャンス、自分に対する自信とか…。本の主人公が貧困への思いを▼「この国の政治が人々のために資産を使い、人々の尊厳を守るようになるまで、あたしたちが黙ることはありません」。パンと薔薇(ばら)をもとめ、人生の当事者になると宣言する彼女たち。たゆまぬ運動と団結が社会を変えていくと呼びかけるように。


きょうの潮流 2023年8月28日(月)
 性暴力の被害者・加害者を生まないとして文部科学省がすすめる「生命(いのち)の安全教育」。小学生向けの教材には水着で隠れる部分は人に見せたり触らせたりしないようにとあります▼「障害のある人の中には、自分の性器にふれることを肯定的にとらえていない人がいる」と河村あゆみさんは話します。大切なところだから触ってはいけないと教えられ、生理のケアが適切にできず性器のかぶれが生理痛だと勘違いしていた女性もいたと▼「性教育のネグレクト(放棄)はからだのケアまで止めてしまう」。河村さんは、障害のある青年たちが人間関係や性の多様性などを包括的性教育の観点から学びあう会にかかわっています▼青年たちの多くはふれ合いの機会がほとんどありません。ふれて心地よいところ、いやなところを知らず、自身のからだの主人公になれていないといいます▼オンラインで学びあうとき、知的障害者の恋愛・結婚・子育て、体の仕組みなどをテーマにしたテレビ番組などの動画を使います。河村さんら支援者が大切にするのは、障害のある仲間から発せられる疑問やつぶやき。次につなげます。「女性もセルフプレジャー(自慰)するの?」。ある男性の仲間の疑問に答えようと取り組んだときは、スタッフは悩みながらも力が入ったとか▼自分自身のからだや心の快を理解し、自身の良さを知る。そうしてこそ、お互いを尊重する豊かな関係性を築けるように。人権を大切にする包括的性教育の推進こそが、求められます。


きょうの潮流 2023年8月27日(日)
 「学校給食の無償化は、1%の財源で可能ってホント?」。こんな疑問から、島根県の中学校事務職員は県内の各市町を調査しました。どこでも一般会計予算の1%未満で実現できるとわかり「1人からでも始められる」と仲間たちに調査を呼びかけています▼本紙の調べでは、小中学校給食の無償化は全都道府県に広がっています。新型コロナ感染症対応による国の地方創生臨時交付金など期間限定も含め、今年度実施または年度内実施予定は491自治体です▼「なるべく早い時期に」「来年度から実施」という自治体、物価高騰分や半額補助、「第3子以降無償」など無償化への足掛かりとなる施策も各地で。少子化対策が主な目的だった無償化は今、「義務教育は無償」「食は基本的人権」という大きなうねりとなっています▼9月から無償となる愛知県安城市では食物アレルギーや宗教上の理由で給食を食べられなかったり、長期欠席だったりする場合でも給食費相当分を補助。「隠れ教育費」研究室の福嶋尚子さんや栁澤靖明さんらが呼びかけ人となり、国にリーダーシップを求めるネット署名「『#給食費無償』を全国へ!」も進んでいます▼無償なら食事の中身は問わなくてもいい、というわけにはいきません。地産地消、安全で豊かな給食を。そんな取り組みにも力を注ぐおとなたちの姿は、子どもたちの希望となることでしょう▼子どもにとってもおとなにとっても、昼ご飯の時間が楽しい、安らげるひとときになりますように。


きょうの潮流 2023年8月26日(土)
 困っている人のためになりたい。希望と使命感を抱いて入った自衛隊。それは、すぐに打ち砕かれました。性加害と、それを隠ぺいしようとする男社会の巨大な組織によって▼複数の男性隊員からうけたセクハラをめぐり、自衛隊とたたかう覚悟を決めた五ノ井里奈さん。この間の経緯や何度も折れそうになった心のゆらぎが『声をあげて』につづられています▼その場にいながら、何もなかったとしらを切る隊員たち。味方だと思っていた女性幹部の手のひら返し。まじめに調べない警務隊に居眠りする書記。信頼していた組織への失意から延長コードを首に巻き付けたことも…▼立ち上がったのは閉ざされた組織の中で自分のようにつらい思いをしてほしくなかったから。実際、埋もれた声は多々あります。このほど公表された防衛省・自衛隊のハラスメント調査では、被害の申し出があったものだけで1325件。そのうちの6割超が内部の相談員や相談窓口を利用していませんでした▼理由は、改善が期待できない、相談できる雰囲気や環境ではない、信用できない。勇気をふるって口を開いてもまともに対応されなかったり逆に脅されたり。防衛省が設けた有識者会議でさえ、組織としての意識改革の必要性を求めています▼いまも身を削りながらの裁判がつづく五ノ井さん。本来の自分はよく笑い、面白そうなことに挑戦することが好きだといいます。「わたしは性犯罪の被害者としてではなく、ありのままの自分で生きていきたい」と。


きょうの潮流 2023年8月25日(金)
 甲子園にすがすがしい風が吹きました。髪をなびかせ笑顔で躍動する選手たち。大舞台で楽しげにプレーする姿がそこにありました▼夏の全国高校野球大会。優勝した慶応は「エンジョイ・ベースボール」を掲げました。めざしたのは選手の自主性を育て選手自身が考える野球。森林貴彦監督は「うちが優勝することで高校野球の新たな可能性とか多様性とかを示せればいいなと」▼変化のきざしは以前からありました。20年ほど前に神奈川県の強豪私立高を取材したときのこと。長時間の練習をやめて合理的なトレーニングを導入。選手と話しあい、自発性を促す指導を心がけていました。県内では有志の監督同士が集まり、指導方針や練習法を研究しあうとりくみも▼慶応の前監督だった上田誠さんもその1人でした。長年続く高校野球の慣習に疑問をもち、それが今のエンジョイ・ベースボールにつながりました▼決勝で敗れた仙台育英もさわやかな印象を残しました。須江航(わたる)監督は「人生は敗者復活戦」で、負けたときに人間の価値が出ると。そして相手の優勝インタビューに拍手を送り続けた選手をたたえ、それが誇りだと胸を張りました▼教育の一環として位置づけられながら、体罰や丸刈りの強制、頭ごなしのスパルタ指導がいまだ絶えない高校野球。学校の宣伝のために有力選手を集め、選手を駒のように扱う勝利至上の考え方も根強い。しかし、変化の風は確実に起きています。部活動が成長の場として選手が主役となるためにも。


きょうの潮流 2023年8月24日(木)
 春はシラウオ、夏はアワビやカツオ、秋はヒラメ、サンマ、冬はアンコウにメヒカリ。1年を通してこの海で水揚げされる魚介類は、滋味に富むことから「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれます▼福島県沖に広がる、親潮と黒潮がぶつかりあう潮目の海。質のいい魚がたくさん取れるという豊かな漁場です。築地の水産関係者に聞いた調査では、ほとんどが「常磐ものはおいしい」と答えていました▼その海からの恵みは漁師や水産業者の努力によって食卓に届けられてきました。ところが、きょうにもそこに原発事故によって発生した汚染水が放出されようとしています。多くの漁業関係者や国内外の反対の声に背をむけて▼12年前の事故によって操業は自粛させられ、水揚げも低迷。漁業に携わる人も減っていきました。歯を食いしばり徐々にでも回復をめざす日々がつづくさなかの岸田政権の一方的な決定。しかも、関係者の理解なしには行わないと断言した約束までほごにして▼長きにわたる汚染水の海洋放出は漁業だけでなく、農業や観光業にも影響を及ぼします。風評被害はさらに広まり、すでに仕入れ業者や飲食店などからは慎重にならざるをえないとの声も。近隣諸国でも抗議や輸入停止の動きが起きています▼「あまりにも身勝手だ」「撤回せよ」と怒る現場。原発の安全神話をふりまき、事故後も不誠実な対応をくり返してきた政府と東電。「今後、数十年の長期にわたろうとも全責任をもって対応する」。そんな首相の言葉を信じられるか。

きょうの潮流 2023年8月23日(水)
 ミンミンゼミやアブラゼミがやかましく鳴いています。家の外壁には、数えるとセミの抜け殻が20個近くも。地面には人差し指が入るくらいの円い穴がいくつも開いています。地中で成長したセミの終齢幼虫が地上にはい出す脱出口です▼フランスの昆虫学者ファーブルは穴の周りに盛り土がないことの謎解きを「昆虫記」に書いています。観察と巧妙な実験から、穴の中で幼虫は小便をまき、土を湿らせ泥にして、漆喰(しっくい)のように壁に押し付けていると。穴から現れる幼虫が泥だらけなのもそのせいだと説明しています▼今年はファーブル生誕200年です。生涯をかけて「昆虫記」全10巻を著しました。原題とは違う「昆虫記」という訳は、無政府主義者の大杉栄による命名だといいます(『ファーブル昆虫記 誰も知らなかった楽しみ方』)▼大杉は第1巻を1922年に翻訳しています。「訳者の序」に、動物の糞(ふん)を食物とする糞虫の生活が描かれたファーブルの英訳書を獄中で読んだ感想を書いています。「其の徹底的糞虫さ加減!」等々と▼ファーブルに関するさまざまな批評家の言葉も紹介し“哲学者のように考え、美術家のように見、そして詩人のように感じ、かつ書く”といった批評家の言葉が「一番気に入った」。そして、続巻翻訳の計画を記しました▼しかし、それはかないませんでした。翌年の関東大震災の混乱に乗じ、大杉は妻の伊藤野枝、幼い甥(おい)とともに憲兵に殺害されたからです。いまも読み継がれる本をめぐる歴史です。


きょうの潮流 2023年8月22日(火)
 暗い海に投げ出され何日もいかだで漂流したこと。ようやく生還したのもつかの間、目の前で戦争が始まり、山の奥へ奥へと逃げまわった日々…▼先月末に88歳で亡くなった平良啓子(たいら・けいこ)さんは「対馬丸」と沖縄戦の生き証人でした。1944年8月22日、国の疎開方針によって沖縄から長崎に向かっていた船が米潜水艦の魚雷をうけて沈没。乗船していた当時9歳の啓子さんは6日間も海を漂い、流れ着いた無人島で助けられました▼半年後、故郷に帰りましたが、こんどは地上戦に巻き込まれ、避難生活を余儀なくされました。幼い心と体に刻み込まれた命の大切さ。自身が皇民化教育を徹底されたことから、戦後は平和をつくる教育をめざして小学校教諭を長く務めました▼語り部として県の内外を飛び回り、改憲や辺野古の米軍基地建設にも反対の声をあげてきました。つらい記憶をたどり、命あるかぎり語り継ぐと奮い立たせてきたのは、二度と戦争を起こさせないという固い意志でした▼軍拡や軍事的枠組みづくりへと、日本の政権がふたたび戦争への道に踏み出そうとしているいま、いやというほど悲惨な体験をあじわった平良さんらの訴えは、さらに重くひびきます▼およそ1500人が犠牲となった対馬丸の撃沈から、きょうで79年。平良さんは生前、大勢の子どもたちの遺影を前にすると、一人ひとりから呼びかけられているような気がすると話していました。あなたは生きている。平和のためにがんばっているの? 語れ、語れと。


きょうの潮流 2023年8月21日(月)
 首長竜フタバスズキリュウの骨格。世界最古といわれる旧石器時代の落とし穴。樹齢1600年の屋久杉。落下から1世紀余の時をこえて登録された越谷隕石(いんせき)…▼日本列島の生い立ちや自然が手に取るようにわかる展示物に、子どもたちが群がっていました。なかには夏休みの研究にと熱心に写真やメモをとる姿も。東京・上野にある国立科学博物館は家族連れでにぎわっていました▼その科博がインターネットで寄付を募るクラウドファンディングを始めたことが話題になりました。コロナ禍での来場者減に光熱費や資材の高騰が重なり財政がひっ迫していると。500万点をこえる文化財を保管するためにも一定の資金は欠かせません▼目標額は1億円でしたが、すでに7億円ほどが集まっています。それにしても情けないのは学術研究への国の支援のあり方です。軍事費にはけた違いの巨額をつぎ込み、多くの国民が反対する五輪や万博に湯水のごとく税金を投入する。一方で各地の文化施設は悲鳴をあげています▼これでよく文化国家などといえたものです。岸田首相は文化の振興に力を入れるといいますが、根幹の業務にさえ支障が出ているのに手をこまねくだけ。国が果たすべき役割を放棄するのか▼多種多様な動植物の標本や色とりどりの鉱物、刻まれた地質―。地球から与えられた宝物を守り、歴史をひもといていく博物館には科学の目を育てる大事な任務も。過去と未来をつなぐ活動を引き継いでいく責任が政府にはあるはずです。


きょうの潮流 2023年8月20日(日)
 きょう決勝戦が行われるサッカーの女子ワールドカップ(W杯)。そのまばゆい舞台の裏には、祖国を追われ、自由をなくし、試合もままならない“もう一つのたたかい”があります。W杯出場はできなかったものの、開催地オーストラリアに身を寄せるアフガニスタン女子代表のそれです▼2年前の8月、イスラム組織タリバンの政権掌握がきっかけです。以前に同政権が行った弾圧を懸念し、選手たちはすぐに出国。さまざまな協力を得て豪州にたどりつきました。現在は働きつつ、受け入れ先のクラブでサッカーを続けています▼この間、タリバン政権は50あまりの布告、命令で女性を家に閉じ込める施策を強行。女子が教育を受けられるのは小学校まで。中学、高校、大学からは締め出されています▼働く場も制限され、先ごろは女性の社交の場でもある美容院の閉鎖が決まりました。「肌を露出するから」とスポーツはできず、なぜか公園にも入れない。同国は「女性にとって監獄のような場所」と。国連は非難決議を上げ、国際刑事裁判所も動いています▼代表選手はある問題に直面しています。本国のサッカー連盟が政権の意をくみ、彼女らを代表と認めず、国際サッカー連盟も追認していること▼代表としてプレーすることは、本国で苦しむ無数の女性の生きる希望となるはず。これは同国の異常な性差別の現実を世界にさらし、良識の声で包囲する力にもなる。スポーツの枠を超え、自由と平等を求める気高いたたかいでもあります。


きょうの潮流 2023年8月19日(土)
 眼下に広がる穏やかな瀬戸内の海。緑あふれる山々。そんな自然に抱かれた町が揺れています。扱いに困った「ゴミ」を押しつけられようとして▼山口県の最南端にある人口2千人ほどの上関(かみのせき)町。これまで中国電力による原発建設をめぐって町は分断されてきました。さらに、原発で出た使用済み核燃料を一時的に保管する「中間貯蔵施設」づくりも推しすすめられています▼きのうの臨時町議会で建設に向けた調査を容認すると町長が表明。中国電力にも伝えたといいます。役場には反対する町民らが集まり、次つぎと抗議の声を。一部の人間だけで決めるな、核のゴミを持ち込むなと▼「トイレなきマンション」と例えられる原発。使うかぎり増え続ける高レベルの放射性廃棄物をどうするか。その問題が解決されないまま稼働させてきた国の無責任さが付けとなって、上関町をはじめ地方や過疎地に回されようとしています。財源や高齢化対策をエサにして▼原発が国内で使われ始めてからおよそ60年。再処理工場はゆきづまり、核のゴミの最終処分場も決まらない。夢の計画とうたっていた核燃料サイクルそのものが完全に破綻しています。それでもなお岸田政権は原発に依存し、見通しのない「サイクル」に固執しています▼日本は再生可能エネルギーの潜在量が電力量の7倍もあるという再エネの資源大国です。自民党政治が打つ手もなく不安と矛盾を拡大してきた原発推進。それを転換することが、多くの国民の願いでもあるはずです。


きょうの潮流 2023年8月18日(金)
 8月もお盆を過ぎたころから、そわそわしてきた思い出はありませんか。長かった夏休みもあと2週間余り。宿題の山が日に日に大きくなるような…▼そんな宿題事情を揺るがす事態が起きています。自然な文章をつくるという対話型の生成AI(人工知能)が急速に普及したためです。文科省は先月、学校でのAI活用法や留意点をガイドラインにまとめました。生成物をそのまま自分の作品として提出することは不適切、または不正行為に当たるなどと▼感想文や自由研究をAIに丸投げするかのような使い方にクギをさしたものです。何度か親やきょうだいの手を借りて、提出期限ぎりぎりに宿題を仕上げた経験のあるわが身からすれば、複雑な思いもありますが…▼もっともAIで作成した文章はすぐにばれるそうです。そこには、本来その子がもっている個性も癖も感じられないといいます。さらに落とし穴も▼以前、本紙コラムの「朝の風」にこんなことが書かれていました。小林多喜二についてAIに聞いてみたところ、代表作として「蟹工船」とともに「人間失格」と出てきて驚いたと。今回試したら、やっぱり間違ったままの文章が表示されていました。気づかなければ、と思うとぞっとします▼生成AIはウソをつく―。利用の流れが止められないなら、AIに振り回されるのでなく、どう活用するかをよく考えてみる。まずは親たちと一緒になってAIが誤る様子を体験してみては、と専門家。これも夏の宿題になりそうです。


きょうの潮流 2023年8月17日(木)
 思わず姿勢を正してテレビの画面に見入りました。NHKの「アナウンサーたちの戦争」(14日)。実録ドラマです。太平洋戦争中、NHKの前身、日本放送協会でアナウンサーたちが何を考え、どう動いたか▼主人公は、森田剛ふんする和田信賢アナウンサー。取材して原稿を書き、自らの言葉でラジオのマイクに向かっていました。その和田が時代の大きな波にのみ込まれていきます。1941年12月8日、日本軍の真珠湾攻撃の大本営発表を担当。「もっと勢いを」と軍艦マーチのレコードをかけることに▼43年、雨の出陣学徒壮行会では、前もって聞いていた学生たちの「死にたくない」「生きたい」という心情が、和田の頭をよぎり、実況できなくなります。戦意高揚をあおったラジオによる「電波戦」。国内だけではなく、南方占領地にも及び、現地で謀略放送を流していました▼放送は国の監督下に置かれ、情報統制が敷かれていました。しかし、アナウンサーたちが国の言いなりになっただけでなく、自分たちの意思で加担していった姿が描かれてもいます▼制作陣は、二度と過ちを繰り返さないようにと願って臨んだに違いありません。国民を戦争へと駆り立てた責任に、これまで口をつぐんできたNHKが、初めてその反省を込めた形です▼いま、主要メディアは岸田政権が進める大軍拡に目をつぶっていないか。沈黙も、「電波戦」と同じです。ドラマは、「新しい戦前」といわれる現在にジャーナリズムの役割を問いかけます。


きょうの潮流 2023年8月16日(水)
 先月、第169回芥川賞を受賞した市川沙央(さおう)『ハンチバック』が話題です。記者も己の無知と浅慮を痛烈に思い知らされました▼先天性の筋疾患で人工呼吸器と電動車椅子を使って生活する著者が、等身大の女性・釈華(しゃか)を主人公に健常者中心社会の偽善と欺瞞(ぎまん)を暴き出していきます▼まず胸を突かれたのは〈読書文化の特権性〉の指摘です。目が見えること、本が持てること、ページをめくれること、姿勢を保てること、書店に買いに行けること等、健常性を要求する紙の本を当たり前のように享受する人々へ容赦ない視線を向けます▼外出も困難で読むことと書くことが生きる証しでもある釈華。〈紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰(つぶ)れていく気がする〉〈本に苦しむせむし(ハンチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像もしたことがないのだろう〉と嘆息し、紙の匂いや感触をめでて電子書籍をおとしめる〈本好き〉たちの独善性を批判します▼生きるために壊れていく身体を抱え〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢〉と言い放つ釈華の痛みと悲しみも衝撃でした。この言葉を、女性障害者の性と生殖の権利を奪う社会への身を切るような異議申し立てと読めば、命の選別を是とするこの国の種々相が浮かび上がります▼作中、障害者運動を担った女性たちの実名も記されます。「プロテストソングがあるならプロテストノベルがあってもいい」と語る著者。本作が営々と受け継がれてきた悲願の一つの結実にも思えました。


きょうの潮流 2023年8月15日(火)
 その木は焼け跡に立っていました。大地に根をひろげ200年以上も生き続け、うっそうと葉が茂る。いくつもの幹や枝が絡みあい、空へとのびていました▼沖縄の伊江島でニーバンガズィマールと呼ばれる、ガジュマルの木です。78年前の沖縄戦をたたかった日本兵2人が、敗戦を知らずに2年間も身を隠した大木としても知られてきました▼島民のほぼ半数が命を落とした地上戦。それを物語る木には戦後多くの人びとが訪れ、平和学習の場にもなってきました。生き延びた兵士の体験は児童文学作家の真鍋和子さんが『ぬちどぅたから』にまとめ、井上ひさしさんが生前書いた「木の上の兵隊」という演劇にも▼不戦の象徴となってきたそのガジュマルが先の台風で倒れてしまいました。管理してきた宮城孝雄さんは「ショックだったが、なんとか復活させたい」と。根は残っていて関係者や村は専門家と相談しながら復元したいといいます▼「どんなことがあっても、もう二度と戦争は起こさないでください。人間にとって、これ以上の不愉快、不幸はないという、あらゆることを体験しましたから…」。樹上でくらした佐次田秀順(さしだ・しゅうじゅん)さんの言葉を真鍋さんが伝えています▼いまも伊江島をはじめ沖縄には米軍基地が居座り、米国の対中軍事戦略の最前線とされています。政権の中枢を担う人物が台湾にたたかう覚悟を迫る異常さも。佐次田さんは木から降りても平和を求め続けました。命を救ってくれたガジュマルに誓った終戦の思いを胸に。


きょうの潮流 2023年8月13日(日)
 戦前、日本軍が侵略して中国東北部に建国した、かいらい国家「満州国」を舞台に人体実験や細菌兵器の実戦使用をした731部隊(関東軍防疫給水部)と100部隊(関東軍軍馬防疫廠〈しょう〉)。その二つの部隊の関東軍司令部作成の「職員表」が、戦後78年のこの夏、初めて見つかりました▼731部隊の実態は、生存者の証言や研究者の努力で、その全体像の解明は進みました。他方、100部隊はハバロフスク軍事裁判での供述などがあるだけ。傷病軍馬の治療防疫の「研究機関」の内実は闇の中でした▼職員表は、明治学院大学国際平和研究所の松野誠也研究員が「昭和十五年軍備改変に拠(よ)る編成(編制改正)詳報(其二)」という文書から発見。「国立公文書館に通い、粘り強く地道な資料調査を繰り返すなかでようやく見つけた」貴重な1次資料です▼赤い字で「軍事機密」の印がある「軍馬防疫廠将校高等文官職員表」には、階級別に36人の氏名が。「獣中尉」の「逆瀬川貞幹(さかせがわ・さだもと)」ら戦後大学の獣医学部教授になった人物も多数います▼どんな論文を書いたか。回想録があれば何を語り、なぜ語らないのか。闇の部隊が担った軍事的役割を探る地道な研究・検証はこれからです▼岸田政権による学問・研究に軍事を持ち込む戦前回帰の動きが強まるなか、松野氏は危機感を強めて話します。「歴史研究者の使命とは歴史の真実、とくに悲惨な戦争の実態や加害の歴史の真実を明らかにすること。その過ちを繰り返さない土台をつくることです」


きょうの潮流 2023年8月12日(土)
 いま大阪で懸念されていること。「空飛ぶ車」ならぬ「空飛ぶパビリオンにならないか」▼2025年4月から10月まで大阪市此花区・夢洲(ゆめしま)で開催が予定されている大阪・関西万博。人手不足、資材高騰、残業規制の強化などでパビリオンの建設が遅れ開幕に黄信号がともっています。自前で建てる60カ国のうち建設業者が決まっているのは6カ国にすぎません▼開幕に間に合わせるためさまざまな案が取りざたされています。そのひとつがパビリオンを「プレハブ工法」にする案です。工期も短く建設費も安くなるというわけです。「大丈夫なのか」と不安の声が一気にあがりました。思いだされるのは18年の台風21号▼強風で夢洲の積み上げられたコンテナが飛び散乱しました。近くの咲洲(さきしま)の駐車場では多くの車が舞いあがり横転。取材した記者にコンテナ関係者は「あの重いコンテナが」と絶句し車の持ち主は「笑うしかない」とあぜん。夢洲がいかに災害に弱いかを印象付けました▼なかでも怒りを呼んでいるのは残業規制の緩和です。日本国際博覧会協会が、政府に対し時間外労働の上限規制を万博工事に適用しないよう要望したと報じられました。20年東京オリンピック・パラリンピックでも新国立競技場の建設工事の遅れを取り戻すために作業員が過酷な長時間労働を強いられ、過労死や過労自死の被害が起きました▼大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」のはず。いのちと人権を軽んじる姿勢は、開催理念にも反します。


きょうの潮流 2023年8月11日(金)
 富士五湖を眼下に、樹林のなかを走り、富士山五合目に至る富士スバルライン。周囲の山並みがひろがる絶景のドライブウエーとして人気です▼いまそこに路面電車を走らせる計画が進められています。山梨県が導入を図ってきた「富士山登山鉄道構想」です。今年6月に事業化を検討する予算が初めて計上されましたが、地元をはじめ反対の声は多い▼「世界遺産で山岳信仰のある富士山を、地元としてこれ以上手をつけることなく、今の状態で守るべき使命がある」。吉田口登山道のある富士吉田市の堀内茂市長が、共産党県議団との懇談で訴えています▼鉄道建設の課題や危険性も指摘されていることから「現実を知らない計画だ。富士山を稼ぐ道具にしてほしくない」とも。もともと財界と一体となって推進してきた計画で、検討委員会には経団連の名誉会長を筆頭に各企業の代表らがずらりと並んでいます▼1400億円もの整備費が見積もられている登山鉄道については党県議団も「海外富裕層の呼び込みが目的で、環境保全の点からも一貫して反対してきた」。県は名目の一つに環境負荷の低減をあげますが、電気バスの利用で十分対応できると。いまでさえ登山者の急増が問題となるなか、さらなる開発や呼び込みが環境悪化に拍車をかけることは必至です▼富士山に限らず、開発や災害で傷ついた各地の山々。山国日本にありながら山の環境や保全に寄せる人びとの関心は薄い。山に親しみ、山の恩恵に感謝する。きょうは山の日。


きょうの潮流 2023年8月10日(木)
 炎天下のソウルで1人デモが行われています。1923年9月1日の関東大震災時に起きた朝鮮人や中国人、社会主義者らの虐殺から1世紀。韓国でも真相究明を求める声が高まっています▼デモを主宰するのは市民の会「独立」。8月の1カ月間、メンバーが交代でプラカードを手に街頭に立ち、日韓政府に虐殺の実相を明らかにするよう求めています。李萬烈(イ・マンヨル)理事長は「事実を明らかにすることは、恨みを深化させることではない。許しと和解で解決していく契機に」と呼びかけました▼「独立」のメンバーは7月に来日し、虐殺の事実を記憶し続ける日本の市民と交流しました。荒川沿いで起きた虐殺の実態を掘り起こしてきた団体「ほうせんか」、74年から追悼式典を続けてきた日朝協会の人たちです▼墨田区の横網町公園にある追悼碑の前では、日朝協会東京都連の宮川泰彦会長が、都知事が追悼文の送付を拒否している問題を紹介。「100周年は終わりではなく、たたかいの始まりだ」と語る宮川氏の言葉を、参加者は深く胸に刻みました▼「独立」は帰国後、SNSにこうつづりました。「記憶を伝承したのは、在日朝鮮人と良心的な日本市民の連帯だった」「共感と連帯を通じ、平和をつくることに参加する」▼日本では8月から9月にかけ、追悼式や国会前のキャンドル集会などが計画されています。テーマは「歴史に向き合い、国家の責任を問い、再発を許さない共生社会への第一歩を!」。日韓の市民が共に歩む節目の年に。


きょうの潮流 2023年8月9日(水)
 仲むつまじい家族の写真や日記、柱時計や食器…。そこにあったのは、それぞれのくらしであり、夢や希望を抱いたかけがえのない人生でした▼ある一家が買ったピアノ。家族の一員のような存在で、奏でる音は幸せの象徴だったといいます。しかしあの日、爆風によってガラス片が突き刺さり、傾いてしまいました。修復して使ってきましたが、平和のために役立ててほしいと寄贈しました▼いま長崎の原爆資料館で収蔵資料展が開かれています。きのこ雲の下にあった生活と、それを残してきた人びとの思いにふれることで、被爆の実相を「自分ごと」としてとらえてほしいと。「もの言わぬ語り部」の重要性を訴え、いまも被爆資料収集の協力を呼びかけています▼被爆証言をほりおこす活動も続けられています。半世紀以上も前から被爆者や市民による証言、告発をすすめてきた「長崎の証言の会」。地道な聞き取りで被爆の実態を発掘。刊行してきた証言集は36集を重ね、若い書き手も加わっています▼「原爆の被害にはその影響とともに時間的なひろがりもある。それを記録して残すことが核兵器の恐ろしさを伝えることになる」。今年から同会の代表委員となった長崎総合科学大名誉教授の大矢正人さんは活動の意義を▼きょう、長崎原爆の日。ふたたび戦争を身近に感じ、軍拡が迫るなか、反戦反核の運動を継続してきた人たちは口をそろえます。いまほど草の根の力が必要なときはない。平和を守り抜くために力を合わせましょう。


きょうの潮流 2023年8月8日(火)
 先月100回を迎えて終了した本紙文化面の連載「ねんてん先生の文学のある日々」。惜しむ声や感謝の言葉が寄せられる中、ねんてん先生こと俳人の坪内稔典さんは79歳にして新たに「窓の会」を結成しました▼「句会、歌会、詩の朗読会、読書会、フリートーク、何でもあり。俳句を核に現代的な問題に広く関わりたい」。従来の結社にありがちな上下関係や閉鎖性を廃し、会員の呼称も同人ではなく「常連」。一人ひとりの自由を尊重します▼会の主要な活動の一つが各地で開催する「ことばカフェ」です。2日、池袋で開かれた第1回「ことばカフェ東京」に参加しました▼北海道から福岡までの約60人が集い、まずはねんてん先生と俳人の池田澄子さんが対談。池田さんといえば〈じゃんけんで負けて蛍に生まれたの〉が有名ですが、一句でも覚えてもらえるのはすごいことだとねんてん先生。あの子規も数万詠んだ句のうち知られているのは〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉のみ、と笑いを誘いました▼続いて句会ライブです。全員の投句を読み一人2句ずつ選句。選んだ人の数が句の点数に。10点を得た第一席は〈遠花火先生の手に醤油(しょうゆ)さし〉いたまきし、8点の次席は〈おそろいの浴衣おそろいの腎臓〉牧野冴。喚起される情景を語り合い、作者の意図を聞くのも楽しい▼言葉が思考と感受性を耕し、人をつなぐことを実感したひとときでした。最後に、いつもお守りにしているねんてん先生の句を。〈がんばるわなんて言うなよ草の花〉


きょうの潮流 2023年8月7日(月)
 追悼の祈りとセミの鳴き声。今年もまた原爆ドームの周りにさまざまな国や地域から人びとが集まりました。各集会や催し、交流や署名。平和をもとめる息吹に満ちた被爆地の姿です▼その思いに政府はこたえているのか。平和記念式典で広島の首長は核兵器廃絶の最大の障害となっている核抑止論をそろって批判しました。しかし岸田首相は、そのことにまったくふれず、具体的な行動も示しませんでした▼先のG7広島サミットでも世界の首脳を被爆地に集めながら、核兵器の役割を認め、核抑止論を公然と内外に示す恥ずべき姿をあらわに。それを手柄のように話した岸田首相に怒りがひろがりました▼このサミットを改めて検証した広島ホームテレビ制作の「原爆資料館 閉ざされた40分」。完全非公開とされた視察のなかで首脳たちが何を見て、何を感じたのか。番組は関係者らに迫りましたが、被爆者をはじめ失望や疑問の声が相次ぎました▼原爆が落とされた場所で、78年たった今も核なき世界へと動き出せない日本政府と核に固執する国々。G7首脳と面会した被爆者の小倉桂子さんは「広島から、新しい核のない世界に向かって一歩をふみだしてほしい」と。それは多くの願いでもあるはず▼待ち焦がれるような気持ちを共有し、平和のための行動を一人ひとりが心に刻む被爆地。原爆の日、広島市の小学生が読み上げた「平和への誓い」は変化を恐れる勢力に訴えかけるように響きました。「みなさんにとって『平和』とは何ですか」


きょうの潮流 2023年8月6日(日)
 色鮮やかな折り鶴の周りに人びとが集います。家族連れや学生、外国人の姿も。戦争の悲しみのない世を希求しながら▼広島の平和記念公園にたつ「原爆の子の像」。モデルとなった佐々木禎子さんのことを将来に語り継ぐための後継者づくりが始まっています。これまで同級生だった川野登美子さんらが中心となってきた証言活動。語り部の育成には被爆の風化と後退する平和教育への危機感があります▼いま平和記念資料館では「被爆体験伝承講話」が毎日開かれています。被爆者の体験や被爆の実相、そして自身の平和への思いを伝承者としてわかりやすく説き聞かせます▼被爆者が高齢化していくことから広島市が養成、2015年から活動を開始しました。いまでは20代をふくめ200人ほどが伝承者に。その数は年々増えているといいます▼一方で平和教育を教育の原点としてきた広島市の教材から「はだしのゲン」が消されました。理由や経緯は不明瞭ですが、「日本会議」や自民党の議員が参加する団体から削除を求める声が上がっていました。これには現場の教員や被爆者団体から批判が相次いでいます。なんのための平和教育かと▼ロシアが再三、核兵器を使うと脅し、米国では映画をめぐって原爆をやゆする画像がSNSで拡散。核なき世界の歩みに逆行する動きがあるなか、きょう78回目の8月6日をむかえます。伝承者は呼びかけます。「次の世代によりよい世界を渡さなければ。私たちの活動は平和への種まきなんです」


きょうの潮流 2023年8月5日(土)
 「涼しいエアコンの中で観戦している人には分からないのでしょう」。6日に開幕する全国高校野球選手権の試合開始時間をめぐる、青山学院大駅伝部の原晋監督のツイートです。3日の抽選会を見ながら、やはり、分からなかったようだと落胆しました▼4試合が組まれている日は午前8時に始まり、日中も試合が途切れません。決勝戦はおそらく1日で気温が最も高い時間帯の午後2時に開始。すべて例年通りで、近年の酷暑は何ら考慮されていません▼選手以上に過酷なのが観客です。「銀傘」と呼ばれる屋根に覆われているのは内野席まで。各校の応援団が座るアルプス席はさえぎるものがありません。銀傘はかつてアルプス席までありましたが、戦時中の1943年、金属供出のため取り外されました▼環境省の熱中症予防指針を見ても、31度以上は「激しい運動は中止」です。長期予報を見ると、甲子園球場周辺は35度前後まで上がる日が多い。せめて、早朝やナイターの時間帯中心にすべきです▼高校生たちに、命の危険さえ感じられる時間帯での全力プレーを求めているのは、それを美談として描いてきたメディアなどおとなたちです。灼熱(しゃくねつ)地獄で行われる高校野球を放送する傍ら、テロップで熱中症予防を呼びかけるNHKには、不条理さえ覚えます▼世界最高峰にまで到達した日本の野球ですが、競技人口は減少しています。暑さに耐えることを美徳とする「甲子園神話」にいつまでとらわれているのか。もはや脱却すべき時です。


きょうの潮流 2023年8月4日(金)
 「語り合い」というという言葉を、何度も何度もかみしめた「保育合研」でした▼保育者や保護者、研究者、学生らがつどう第55回全国保育団体合同研究集会。福島県郡山市で3日間、オンラインで全国と結びながら、語り合い、つながり合いました▼保育者と保護者との間で、思いがすれ違うこともしばしばです。良かれと思って、子どもの体調のことを細かく伝える保育者。ところが働き詰めの保護者は、自分を責められたような気がして「保育園が怖い」「話をしたくない」とつい心を閉ざしてしまった話も▼保育者にも余裕がありません。どんなに時間をかけても追いつかない業務量。人手は相変わらず、足りないままです。「私たちの大変さを知ってほしい」という思いは、保護者にとっても保育者にとっても切実です。安心して自分の大変さを言葉にできる場が大切なこと。おとな同士のつながりをつくるのが保育園の役割であることを改めて確かめ合いました▼全体会で、名城大学の蓑輪明子さんは「子どものケアが優先される社会へ」と、ケア中心の政策への転換を呼びかけました。すべての人が他者を配慮して支え合う。その関係を結べる場が保育園です。大阪大谷大学の長瀬美子さんは「多様な他者と出会い、いろいろな人がいることを学べる場」と。人が人として生きていくために、保育園の役割はやはり大きい▼保育者を孤立させない。保護者も孤立させない。おとな同士、やっとつないだ手を離さないよう今できることを。


きょうの潮流 2023年8月3日(木)
 信仰とは、戦争とは人間の善悪とは―。第2次大戦前に米国に留学した日本人の神学生を主人公に、人びとの心の変化を描いた戯曲「善人たち」。遠藤周作の未発表作品です▼きょうから劇団民藝が初演します。1970年代後半に書かれたそうですが、現在に通じる問題も背景に。差別や格差をえぐりだしながら、憎しみの感情はどこから生まれてくるのか、ほんとうの人間愛とは何かを問いかけてきます▼「善人たち」を含む3本の戯曲は2年前に長崎市の遠藤周作文学館で見つかりました。いまそこで、生誕100年の企画展「100歳の遠藤周作に出会う」が催されています。生涯や作品をたどることで遠藤文学の魅力を次の世代につなごうと▼文学館がたたずむ外海(そとめ)の地域はキリシタンの里と呼ばれ、小説『沈黙』の舞台となった場所です。戦争中に育った遠藤は「自分の生き方や思想・信念を暴力によって歪(ゆが)められざるをえなかった人間の気持」を小説のスタート地点としました(『沈黙の声』)▼「母親が私に着せてくれた洋服」と表現したキリスト教との葛藤。魂の救済や弱者に目をむけながら、人間の悲しみや苦しみによりそい、生きることに思い悩む人びとへの救いを追い求めました▼「小説家は迷いに迷っている人間なんです。暗闇の中で迷いながら、手探りで少しずつでも人生の謎に迫っていきたいと小説を書いているのです」(『人生の踏絵』)。展示された言葉から、背負い続けた作家の苦悩と味わい深さが伝わってきます。


きょうの潮流 2023年8月2日(水)
 宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」は賛否が分かれる映画です。冒険活劇にわくわくした、映像美に圧倒されたという絶賛から期待外れ、既視感のある場面が多いという否定派まで感想はさまざま▼主人公の少年眞人(まひと)は戦争中、空襲で母を亡くします。軍需工場主の父は、母の妹ナツコと再婚し、一家は地方へ疎開。ある日、姿を消したナツコを捜して、眞人が謎の塔へ入っていくと、そこは時空を超えた異世界でした。眞人はナツコを救い出すことができるか…▼眞人は塔の主から、世界の均衡を保つ役割を継いでほしいといわれます。「悪意に染まっていない石」を使えば、「奪い合い殺し合う」世界を変えることができると▼しかし「悪意」は眞人自身にもあります。どうするのか―。ここで映画の題名の元となった吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』を思い起こしました。友達を裏切った自責の念に苦しむコペル君に、おじさんはパスカルの言葉を送ります▼「人間は、自分自身をあわれなものだと認めることによってその偉大さがあらわれるほど、それほど偉大である」「王位を奪われた国王以外に、誰が、国王でないことを不幸に感じる者があろう」。過ちを知る人間は、それを正せるのだと▼宮崎監督は漫画版『風の谷のナウシカ』のラストで、単純な「清浄な世界」を否定し「清浄と汚濁こそ生命だ」と書きました。みずからの汚濁と悪意を引き受けてこそ未来がある。10年ぶりの新作に込めた監督のメッセージです。

きょうの潮流 2023年8月1日(火)
 月が替わっても変わらないのが物価高。8月も1000品目以上の食品が値上げされ、今年の値上げ品目数はとうとう3万をこえました。すでに昨年1年間の数を上回っています▼これだけ続くと買い控えも値上げ疲れも限界に。消費者物価指数が22カ月連続で上昇する一方で、実質賃金は14カ月連続の減少。そこに猛暑や大雨も加わり、くらしの苦難は耐えがたいほどになっています▼そんななかフランスに「研修中」という自民党女性局のふるまいが批判を浴びています。エッフェル塔前でポーズをとった写真や、宮殿内の記念撮影を次々とSNSに投稿。参加者全員がエッフェル塔を背景に「自民党女性局」と赤文字で大きく記された横断幕を手にする画像も▼これには「どう見ても観光旅行」「世間と感覚がズレている」と非難する声が殺到。参加者の投稿によれば一行は国会議員を含む38人。旅費については「党からの支出と相応の自己負担」で賄っているといいます。政党助成金は税金なのに…▼海外視察をめぐっては、香川県議会をはじめ、あまりの高額な旅費がたびたび問題になっています。ほんとうにそれが必要なのか、視察や研修の中身はどうなっているのか―。厳しい目が向けられるなか、無反省さが際立ちます▼先日、岸田首相は「今年の夏は改めて政権発足の原点に戻り、現場の声、さまざまな声を聞く取り組みを進めている」と。ならばまず、国民が苦しんでいる姿を足元からしっかりと見るように指導してもらいたい。

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