潮流(コラム)

きょうの潮流 2024年7月27日(土)
 三色旗を力強く掲げ人びとに決起を促す女性。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」は、フランス七月革命を描いた名作として知られています▼この気丈で生命力に満ちた女神マリアンヌは自由の擬人像といわれ、フランス共和国の象徴として今も国民から親しまれています。そのマリアンヌがかぶっていたのがフリジア帽。古代ローマで奴隷から解放され自由の身分となった者に与えられたのが起源です▼フランス革命時は自由・平等・博愛を表す三色旗とともに、民衆が身につけました。この赤い縁なし三角帽が開幕したパリ五輪のマスコット「フリージュ」のモデルです▼今大会は史上初めて参加選手が男女同数となりました。女子選手が五輪に出場するようになったのは1900年の第2回パリ大会からでそのときは全体のわずか2・2%。1世紀以上たってようやく肩を並べたことになります▼近代五輪の創立者クーベルタンはフランスの教育者でした。スポーツを通して世界中の若者たちに友好の場を設け、世界平和の促進に寄与する。いま、その理念がゆらぐ現実とともに、五輪のあり方にはいくつもの疑問符がついています。コロナ禍で強行した東京五輪はスポーツや五輪の意義を傷つけました▼パリ五輪のスローガンは「広く開かれた大会」。自由・平等・博愛を旨とする地で、スポーツやオリンピックへの信頼を取り戻せるか。競技を楽しみながらも、五輪が人類の価値ある祭典として引き継がれていくかどうかを見届けたい。


きょうの潮流 2024年7月26日(金)
 つらかった、悲しかった、苦しかった。めちゃくちゃにされた人生を返してほしい。それが無理なら、せめて間違った手術だったことを認めてほしい―▼14歳のとき、不妊手術を強いられた北三郎さん。結婚後も秘密を抱えながら、人としての価値を否定された扱いにさいなまれてきました。「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に、障害者などに不妊手術を強制してきた旧優生保護法のもとで▼障害のある人に子どもをつくらせてはいけない、劣った命はいらない、という優生思想を認めてきた国。障害者から人権を奪い、差別を助長する考え方を克服できていない社会。そのなかで起きたのが8年前のやまゆり園事件でした▼「私が殺したのは人ではありません。“心失者(しんしつしゃ)”です」。相模原市の障害者施設を襲い、19人を殺害し26人に重軽傷を負わせた元施設職員の植松聖死刑囚は、障害者は「不幸をばらまく存在」という偏見にこり固まっていました▼今月初め、最高裁は旧優生保護法を違憲として国に賠償を求める判決を出し、岸田首相は強制不妊の被害者に直接謝罪しました。原告らは差別を許さない社会をつくる出発点にしなければと▼社会保障法が専門の井上英夫・金沢大名誉教授は、優生思想を克服するうえで大事なことは、民主主義と自己決定だと本紙に。北さんも最高裁の法廷で「自分のことを自分で決められる社会につながることを、心から願っています」と訴えました。一人ひとりの尊厳が守られる世の中をめざして。


きょうの潮流 2024年7月25日(木)
 37年ぶりにアニメーション映画「風が吹くとき」が公開されます。改めて見て、こんな映画だったか、と驚きを禁じえません▼舞台は1980年代のイギリスの片田舎。登場人物は年金暮らしの夫婦ジムとヒルダです。ある日、ジムはラジオで“核戦争が近い”と聞き、政府の手引書に従って屋内シェルターをつくります。自宅の壁にドアとクッションを立て掛けただけの簡易なものです▼14日分の食料を調達し窓を白く塗り…。爆発前に紙袋をかぶる、という謎の指示まであります。シェルターの造り方を描いた手引書を英国政府が実際に作っていたというから驚きです。82年に絵本作家レイモンド・ブリッグズが原作を描いたのも、政府への怒りが動機でした。それを4年後、日系アメリカ人で親類を長崎の原爆で失ったジミー・T・ムラカミが映画化▼日本語版の声は森繁久彌さんと加藤治子さんが担当。ほのぼのとした二人の会話はブリッグズの絵と相まって、ユーモラスです。それでいてリアル。悲惨な末路に息をのみます▼英国政府の手引書はあまりにナンセンス。でも日本も笑えません。内閣官房国民保護ポータルサイトの「弾道ミサイル飛来時の行動について」を見ると、「(屋外では)近くの建物の中や地下に避難する」「(屋内では)窓から離れるか、窓のない部屋に移動する」云々(うんぬん)▼2024年の世界終末時計は昨年に続き、人類の終末まで「残り90秒」を表示。希望は核シェルターなのか。映画は政府を信じるな、と教えてくれます。


きょうの潮流 2024年7月24日(水)
 「わが巨人軍は永久に不滅です」。かつて、最も印象に残る引退劇を聞いたアンケートがありました。そこで1位になったのが、ミスタープロ野球といわれた長嶋茂雄さんのセリフでした▼昭和の時代を色濃く映したものですが、野球ファンのみならず、記憶している人は多い。さまざまに取り沙汰される著名人の引退。世間からよく評価されるのは惜しまれて身を引く姿だといいます(『引き際の美学』)▼米国のバイデン大統領が大統領選からの撤退を表明しました。最近の言動を見ていると遅きに失した感もありますが、この決断が「わが党とこの国にとって最善の利益になると信じている」と声明でのべています▼直近の米世論調査では、バイデン氏は再選を目指すべきではないとの回答が7割以上にのぼっていました。ガザ攻撃のイスラエルを擁護する政治姿勢が批判され支持者離れを招き、続投を危ぶむ周りの声も一段と高まるなかでの撤退宣言でした▼さて、この人の場合はどうか。国民の7割が交代を望み、内閣支持率も最低ラインに沈みっぱなしの岸田首相です。自党の裏金問題の責任をとるわけでもなく、物価高の対策もまともに講じない。一方で軍拡や権力闘争には力を注ぐ。くらしにも平和にも役に立たないことを見透かされながら平然と▼「政治的に最善という思いでの判断だと認識する」。バイデン氏撤退をうけて、そう語った岸田首相。引き際は人を試すといわれます。この人の「最善」とは一体いつなのでしょうか。


きょうの潮流 2024年7月23日(火)
 「政治は夜動く」とばかりに「ポスト岸田」で蠢(うごめ)く菅義偉前首相らをニュース番組は映し出します。「料亭政治」の再現か、と思わせるほどの会食ばやり。個室での会食は国民の目に触れません。時代劇なら、代官らが「お主も悪よのう」と交わすあの場面も▼本紙8日付は岸田文雄首相の資金管理団体「新政治経済研究会」の2022年政治資金収支報告書から、「組織活動費」の「会合費」を検証しました。懐石料理店で93万円、水たき料理店では58万円などグルメ三昧(ざんまい)▼本紙のX(旧ツイッター)で、首相の飲み食いは年間66回、総額1923万円と紹介すると22日の午前11時時点で「いいね」が5026、利用者が表示した回数は49万。多くの人の関心事です▼先月18日は岸田文雄首相と麻生太郎副総裁が会食。政治資金パーティー券の購入者の公開基準額を5万円超に引き下げたことをめぐり悪化した関係を「修復」するため、とか▼問題の「改定規正法」は、裏金の原資となったパーティー券の購入という形を変えた企業・団体献金を温存です。そのうえ政党本部から党役職者に数千万円単位で渡され、支出先不明の「政策活動費」という闇ガネを、条文に定めて合法化。改正にはほど遠いものに▼安倍・菅・岸田政権の12年は、大企業や富裕層が肥え、巨額をためこむ一方で、国民の多くが生活苦に、中小企業は苦境に追い込まれています。「料亭政治」のたれ流しでなく、不公正な自民党政治を検証する報道こそが求められています。


きょうの潮流 2024年7月22日(月)
 話題を集めているNHKの朝ドラ「虎に翼」では、女性への差別をはじめ、さまざまな形の差別の問題が描かれています。注目される登場人物の一人が崔香淑(チェヒャンスク)。主人公の寅子が大学で法律を学んだときの同期生です▼朝鮮から留学していた香淑は、兄が思想犯の疑いをかけられたことで、弁護士の夢をあきらめて朝鮮に帰ります。かの地で、のちに寅子の同僚となる汐見圭と知り合って結婚し、再び日本に渡ります。そのときから汐見香子と名乗っています▼香淑はなぜ名前を変えなければならなかったのでしょうか。子どもを産んだ彼女は寅子にいいます。「崔香淑は捨てたの。娘のために」。背景に朝鮮人への差別がうかがえます。当時の日本で朝鮮人として生きることはどんなに大変なことなのかと▼差別はいまも続いています。戦前の侵略と植民地支配のなかで醸成されてきた偏見も拭い取られないまま、朝鮮学校が「高校無償化」から除外され、自治体による補助金も各地で打ち切り・停止になるなど新たな差別も。ヘイトスピーチやSNSでの暴言は目に余るものがあります▼日本政府は「徴用工」や日本軍「慰安婦」の問題など過去の加害の事実に向き合おうとしていません。被害者にきちんとした謝罪や補償をしない姿勢が、差別を許す土壌を広げています▼歴史の事実を受け止め、差別によって人間の尊厳を奪ってきたことへの反省を示すことこそが、この国が「国際社会において、名誉ある地位」を占める第一歩になるでしょう。


きょうの潮流 2024年7月21日(日)
 今のままのテレビでいいのだろうか、報道機関としての役割を果たしてほしい。そんな問題意識から市民団体が一石を投じました。「テレビ輝け!市民ネットワーク」の取り組みです▼視聴者がテレビ朝日ホールディングスの株主となって、会社に正当にものを申す。これまでにない新しい試みです。前川喜平・元文部科学事務次官と田中優子・法政大学前総長を共同代表に、弁護士やジャーナリスト、学者らが参加しています▼民放テレビが憲法と放送法に基づき、表現の自由を守り、公正な報道の機能を回復することをめざして設立。テレビは戦争法や軍事増強の現状を分析することなく、政府情報を伝えることに終始していないか。「戦争への道を開くメディアの活動をなんとしても止めたい」としています▼全国にあるメディアを考える市民団体からも歓迎の声が上がっています。「大きな励ましと希望をもらった」と京都の会。兵庫の会が始めた賛同署名には、800人を超える人々が応じています▼市民ネットワークは、6月末の株主総会でさっそく株主提案を。権力に対する忖度(そんたく)をしない、過去10年の間に圧力があれば第三者委員会にかけるなど4点を求めました▼テレビ応援のための提案は、残念ながら拒否されました。しかし、手ごたえは十分。多くの拍手が起きたのです。株主総会後の記者会見で、「われわれ市民の運動が無視できないことを示した」と前川さん。始まったばかりのムーブメント(動き)です。確実に育ってほしい。


きょうの潮流 2024年7月20日(土)
 いったい何を学んできたのだろう。彼を変えてしまった世界とは―。過去をふり返り、そんな思いがこみあげてきました▼豪快さと技術の高さが合わさった滑り。国内外のトップ選手としのぎを削り、スピードスケートの五輪メダリストにまで。一時代を築いた堀井学氏が政界に転じてから17年、公選法違反の疑いで東京地検から家宅捜索をうけました▼「心が弱ければほんとうの強さも生まれてこない。そのためには内側から自分を変えていくことが大切です」。長野五輪の前に話を聞いたとき、堀井氏はそう語っていました。本番では不調に泣きましたが、ライバルだった清水宏保選手の金メダルを「自分の喜び」とたたえた姿が印象的でした▼スポンサー契約を打ち切られるなど、マイナースポーツの悲哀も味わいました。そうした競技環境の改善やスポーツ全体の振興も政治を志す内にあったのでしょう▼誘ったのは、同じ北海道の出身でスケート界の先輩でもある橋本聖子氏。その橋本氏は当時自民党の幹事長だった森喜朗氏から請われ国会議員に。スポーツや道民のためにという目標や夢は、ともにあったはず。しかし、カネと権力でのしていく党のなかにのみ込まれていったのか、いまや裏金議員として世間から糾弾されています▼これまでの経験を還元し、「人間・堀井学」を発信していきたいとブログにつづっていた堀井氏。その人間をダメにしていく政党。個人の問題にとどまらない、自民党の金権まみれの害悪を示しています。


きょうの潮流 2024年7月19日(金)
 今月、検察トップの検事総長に畝本(うねもと)直美氏が就任。女性として初めてと話題を呼んでいます▼2023年版の弁護士白書によると、弁護士や検察官、裁判官の女性比率は2割から3割にとどまっています。差別の歴史は古く、最高裁が女性裁判官の任官をめぐって「歓迎しない」と言明したり、司法研修所の教官が女性修習生に「男が命を懸ける司法界に女の進出は許さない」などと発言したことも▼現在はどうか。日本女性法律家協会前会長の佐貫葉子弁護士は、いまだに依頼人から男性弁護士を加えてほしいと言われることがあると話しています。まるでドラマで見たような光景です▼背景にあるのは女性に対する根深い偏見です。女性差別の構造は明治期、国家によって押し付けられ、天皇制国家を底辺で支える「家制度」に組み込まれました。それが引き継がれ、女性には低賃金・家族的責任を迫る一方で、男性には長時間労働などを押し付けてきました▼男性学を研究する大妻女子大の田中俊之准教授は、ゆがんだ仕組みをこう指摘します。「社会から構造的に競争や勝利を求められてきた男性は、社会とは会社であると認識し、狭い世界に閉じこもっている」▼法の下の平等が保障されて77年、社会の隅々にどう実現するか。前出の佐貫弁護士は「女性法律家の道を切り開いてきた先輩方の憲法への思いを大切にしていきたい」と。メディアはもっぱら次の「女性初」に注目しますが、「はて?」。それだけで、問題が解決するでしょうか。


きょうの潮流 2024年7月18日(木)
 「描きたいという欲求」と題して塾生が課題にとりくむ思いをブログにつづっていました。自分の中の描きたい気持ちを大切に、どうすればイメージに近づけるのか。その試行錯誤の過程も楽しみつつやっていこうと▼キャラクターに宿る生命力や感情。多くの心を揺さぶる作品をつくるために日々研さんしているスタッフや塾生。卓越した作画技術や映像の美しさで知られ、国内外で人気を博す京都アニメーションの日常です▼アニメを通じて果てしなく広がる夢。1本の線を描くのにも長年培った技術と深い想(おも)い。子どもたち、そしてすべての世代に届く確かな映像と物語―。碑文には、夢と情熱を受け継いでいく強い意思が込められています▼36人が死亡し、32人が重軽傷を負った戦後最悪の殺人事件といわれる京アニ放火殺人事件から、きょうで5年。京都・宇治市の公園に建立された「志を繋(つな)ぐ碑」には、36羽の鳥が空へと飛翔する姿がデザインされています▼慰霊碑ではなく、事件にかかわったすべての人びとの志をつなぎ、長く記憶にとどめる象徴として設けられたものだと。完成式典であいさつした遺族は「亡くなったスタッフの情熱と技術は、今もみなさんの中で生き続けている」と話しました▼事件の後遺症に苦しんでいる人たちは今も。その犠牲者の無念のさけびを、1本1本の線や一つ一つの作品に刻んできました。世に憎悪や分断が広げられる中で、生きる勇気や希望を人から人へつなげ、未来に羽ばたくことをねがって。


きょうの潮流 2024年7月17日(水)
 きょうは芥川賞の発表日。本欄恒例の候補作一気読みです。他者排除が顕著な時代の反映か、各作品に「私とは何か」「自他の境界線は明確なのか」という問いが通底していると感じました▼朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」は結合双生児の姉妹が主人公。頭も胸も腹も接続し一体にしか見えないという奇妙な設定によって、人間には自分だけの体や思考、記憶、感情などは存在せず、雑多なものを共有し合って生きていると示唆します▼向坂(さきさか)くじら「いなくなくならなくならないで」も、個の輪郭をほどく作品。互いの悲しみに感応していた親友の朝日が自殺したと知らされ、喪失の空洞を抱え続けてきた時子。しかし突然、朝日が現れ、時子の生活は侵食されてゆき…▼松永K三蔵「バリ山行」は、業績不振の外装工事会社で首切りにおびえながら働く男たちが、不安を打ち消すようにやぶ山に分け入り危険な山行を繰り返すさまを活写。〈自分も山も関係なくなって、境目もなくて、みんな溶けるような感覚〉の至福を提示します▼尾崎世界観「転(てん)の声」は、チケットの転売でプレミアがつくことがバンドの価値となる業界の狂騒の中、音楽の喜びや感動が損なわれる葛藤を描き、消費をあおる「推し」文化も照射します▼坂崎かおる「海岸通り」は、老人ホームの派遣清掃員の孤独な女性が、ウガンダから来た女性と一緒に働くうちに、その違いゆえに心が開かれ、救われていく物語。多様な他者を包摂することで生まれる豊かさの形です。


きょうの潮流 2024年7月15日(月)
 時の進歩を示す提言でした。「希望すれば、不自由なく、自らの姓を選択することができる制度を早期に実現すべく」。財界の総本山である経団連が選択的夫婦別姓を政府に求めています▼制度の実現は、だれにとっても明るい未来である「選択肢のある社会」を目指していくうえで強力なメッセージになると。今週の本紙日曜版には、経団連の本部を赤旗記者が訪ね、この提言について聞いた記事が載っています▼「いまや時代は大きく変わっています。立場の違いをこえた連帯と運動で、特定の価値観を押しつけるな、多様な家族を法的に認めろと求めていこう―」。日本共産党の創立記念講演で田村智子委員長がそう呼びかけました▼その瞬間、20代の若者たちから拍手がわきました。メモをとりながら熱心に視聴していたのは千葉西部の青年党員。家族のあり方を国に指図されるいわれはないとの指摘はその通り、人権やジェンダー平等に関心のある若い世代にもっと広めたい▼働く時間が長い、給料が安い、学費が高い、政治のことを話し合える場もない…。講演会の感想を出し合った青年らが目を輝かせたのは、「自由な時間」こそが人間と社会にとっての「真の富」で、それが万人に保障される未来社会への展望でした▼時代から取り残され、世界の変化の流れからも逆行し孤立する自民党のどん詰まり。その古い政治を変革し、強欲な資本主義から人間が解放される道をも開く政党。創立から102周年を迎えた日本共産党の姿です。


きょうの潮流 2024年7月14日(日)
 パリ中心部の共和国広場に集まった人々から地鳴りのような歓声が湧きおこりました。7日午後8時すぎ、フランスの国民議会選挙の開票速報を伝えるテレビが、野党の左翼連合「新人民戦線」が最大勢力になると報じた瞬間です。信じられないと涙をぬぐう人、見知らぬ人同士が抱き合う姿も▼事前の世論調査では人種差別と国民分断を進める極右政党の国民連合(RN)がトップ。わずか1カ月前に結成された「フランス版野党共闘」が逆転勝利するとは予想できませんでした▼6月9日の欧州議会選挙でRNが躍進し、与党が大敗。マクロン大統領はパリ五輪前にもかかわらず突如国民議会解散に打って出ました。極右内閣誕生の危機に対し「民主主義を守れ」と立ち上がったのは、労組や市民、大学生・高校生の団体でした▼これまでの共闘の積み上げもあって、左派や環境派の4党が翌日には共闘組織立ち上げで合意。共通政策では、マクロン政権の新自由主義的、抑圧的政策との決別、最低賃金の引き上げ、あらゆる人種差別とのたたかいを公約。「希望はここにある!」と呼びかけました▼本紙の外信記者は、集会やビラ配りなど市民の自発的な運動が広がったと伝えています。決選投票では新人民戦線とマクロン与党が候補者を一本化して、RNを第3位の勢力に抑え込みました▼国民の審判は、傲慢(ごうまん)な国民無視を続けたマクロン大統領にも下されました。今後、希望を託された新内閣が実現するのか。草の根の力がカギを握っています。


きょうの潮流 2024年7月13日(土)
 「根本的な解決には程遠いのが現状」。安倍元首相の銃撃事件から2年にあたっての声明で、宗教2世問題ネットワークがそう指摘しています▼今もなお、声を上げられない多くの子ども・若者がもがき苦しんでいる、現在進行形の重大な人権侵害であると。そして国に対し「速やかに当事者を交え、法整備等に向けた議論を開始するべき」と訴えました▼家庭や人生を壊され、自由や権利を奪われてきた宗教2世たち。自民党議員の多くが統一協会と癒着する暗闇のなかで救いを求め続けてきました。この間、統一協会への解散命令請求をはじめ変化はあったものの、国の対応は滞っています▼「やっとまっとうな判決が出た。せめて地裁でもう少しましな判決が出ていたら、母に聞かせてあげることができた」。献金返還は求めないなどとする念書は無効とした最高裁。統一協会の信者だった母親の死後も裁判で闘ってきた長女は会見で語りました▼違法な勧誘で高額献金もさせられた母。ビデオ撮影とともに作成された念書は二審まで有効とされました。しかし最高裁は協会主導のもと、冷静で合理的に判断することが困難な状態だったとして、一方的に不利益を与えるものだと判断しました▼こうした念書はいくつもあり、原告や弁護団は、あきらめている被害者も声を上げやすく、他の救済にも役立つと意義を。改めて問われた統一協会の違法さ。宗教2世らは先の声明でいいます。「国が後ろ向きな姿勢を取ることは決して許されません」


きょうの潮流 2024年7月12日(金)
 四つの性別をもつ鳥ノドジロシトド。なんども性を変える魚オキナワベニハゼ。オスに特有のY染色体を持たないトゲネズミ。さまざまな生物から性の多様性がわかります▼オスかメスかといった画一的なものではない性の実態。それはヒトも同じです。私たちはもって生まれた遺伝子や染色体、ホルモンの働きによって、身体的な男性らしさ、女性らしさがつくられていきますが、それは決して固定的なものではなく個体差もあるといいます▼生物学者の黒岩麻里(あさと)・北大教授が著した『「Y」の悲劇』は、性とは何かをひもとくとともに従来の考え方にとらわれない新しい性の概念を示しています。性のバリエーションは柔軟で進化しており、身体上の性的な特徴と性自認は別に考える必要があると▼みずからの性で生きられる社会へまた一歩前進しました。外性器の手術なしで男性から女性への性別変更を認める決定を高裁が出しました。手術が常に必要とするならば、体を傷つけられる手術を受けるか、性別変更を断念するかという二者択一を迫る「過剰な制約で違憲の疑いがある」との判断を▼申立人は「社会的に生きている性別と、戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思う」と喜びました▼多様な性のあり方について、黒岩教授は著書でこう説いています。「全ての人が自分らしく生きていくためには社会、教育、医療などの制度の見直しや充実が重要ですが、加えて科学的な理解がその助けになる」


きょうの潮流 2024年7月11日(木)
 さきの戦争で、旧満州(中国東北部)を足がかりに細菌兵器の研究開発と実戦使用した関東軍防疫給水部(731部隊)▼この部隊の元少年隊員で、加害の真実を証言している清水英男さん(93)がこの夏、戦後初めて現地を訪れます。「生きた人をマルタと呼んで実験材料にしました。犠牲になった人の冥福を祈り、謝りたい」▼14歳だった1945年4月ハルピンに渡り、少年隊に入隊。「何かを作る工場だと思いました。教育部の実習室に配属されました。今でも残酷なものだと思うのは標本室の見学です。マルタを生体解剖した人体の各部分が、ホルマリン漬けの瓶に陳列されていた。赤ちゃんのものもあり、見てられなかった」と本紙に語っていました▼45年8月、ソ連が参戦し傀儡(かいらい)国家・満州国は消滅。「軍上層部は日本が無条件降伏すると知っていたと思います。12日に命令でマルタを収容していた“特設監獄”を爆破し、証拠を隠滅(いんめつ)する工作を図りました。私は爆薬を運ぶ役目でした」▼部隊本部の建物跡につくられた「侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館」を初めて訪問して、不戦の誓いを。「戦争は絶対にしない方がいい。戦争が始まれば、犠牲になるのは罪のない一般の人たちです」▼サポートするのは、長野・飯田市平和祈念館を考える会です。訪問にかかる費用も、全額募金で集めました。同行する、「会」の伊壺一輝さんはいいます。「現場を見た清水さんの様子や、思い出した新しい話が聞ければ学習報告会でお返ししたい」


きょうの潮流 2024年7月10日(水)
 それは現職の警察官からの手紙でした。「真実を明らかにすることこそが正義だと信じて」。当時、公安警察による共産党幹部宅への盗聴事件の裁判で警察側が控訴。その無反省さに批判が広がっていました▼本紙に寄せられた手紙には警備警察の内実が記され、国民のため県民のためというが、どこにも正義はないと訴えていました。時を同じく、オウム真理教による一連の事件の捜査も警察の失態があらわに▼松本サリン事件から30年となった先月末、地元の警察が若手警察官らに勉強会を開きました。事件を風化させてはならないと。しかし第一通報者で被害者の人物を犯人と決めつけ、自白の強要や家宅捜索までした捜査についての反省は聞こえてきません▼過去にさかのぼるのは最近の警察の不祥事に同じ根を感じたからです。鹿児島県警ではトップの本部長が警察官の不祥事を隠ぺいしたとして前生活安全部長に告発されました。しかも内部情報を受け取ったネットメディアを家宅捜索しパソコンなどを押収。内部告発した前部長も逮捕されました▼「一連の問題からはこの国の警察組織全体に巣喰(く)った腐臭が漂う」。ジャーナリストの青木理さんは今回の“口封じ”をそう論じます。刑事司法が抱える根深い悪弊の一端も(『世界』8月号)▼タガが外れたような不祥事の続出は福岡や神奈川でも。米兵による性暴力事件が相次ぐ沖縄では県警が政府と一体となって情報を隠していました。だれのため、何のための警察か。いま改めて。


きょうの潮流 2024年7月9日(火)
 「選挙にかかわり、自分の意思を示したかった。有権者のひとりとして」。投票日の数日前、地元の駅頭でチラシを手に「ひとり街宣」する男性がいました▼小池都政を変えるという蓮舫さんの訴えに共鳴し、何かできないかと思った。とくに神宮外苑の再開発は見直してもらいたいと話していました。こうした行動は初めてだが、同じように立ち上がる仲間たちに励まされたと▼都内だけでなく、列島中に広がった「ひとり街宣」。それは民主主義の新たな発露でした。NHKをはじめメディアが選挙戦の争点をろくに伝えず、小池知事も討論会から逃げ回るなかで投票率のアップにも▼一人ひとりが選挙を自分ごととしてとらえ、おかしいと声をあげる。そんな思いが結集した蓮舫氏の訴えには、日を追うごとに市民の熱気があふれました。結果は残念無念でしたが、候補者自身も「変わる、変えられると、お互いが思いあえる選挙戦だった」とふり返っています▼教訓は都民の声に耳を傾け、じっくりと。市民と野党の共闘は続きます。財界ファーストの小池都政、裏金まみれの自民党政治を終わらせるまで。「失意泰然」。望みが遂げられなかった時や逆風に向かっている時に、悠然と構え、ゆったりと落ち着いて行動する。この言葉を示しながら、これからも声をあげ続けると蓮舫氏▼たくさんの願いを背に現職に挑んだ戦い、「ひとり街宣」への感謝を込めた、こんな声がSNSで発信されています。「まだまだ、これから、もっともっと」


きょうの潮流 2024年7月8日(月)
 一国の首相の動向がどこまで国民に知られているのか。とても大事なことなのに意外と知られていません。その責任の多くはマスコミによるところが大きい▼例えば、能登半島地震から半年がたった今月1日。各テレビは、壊れたままの住宅など当時とあまり変わらない被災地の状況を伝えましたが、岸田氏は何をしていたか▼新聞の首相動静欄にはこうあります。午前10時前に石川県の能登空港に到着。復興支援組織の発足式に出席した後、同空港内にある支援者向けの仮設宿泊所を「視察」したのは7分間。正午前に和倉温泉の旅館着。25分ほど「被災状況を視察」。悪い意味で分刻みの日程でした▼NHKは和倉温泉の視察を伝えました。首相会見では観光客受け入れが可能になったらという条件付きで能登地域対象の復興支援割の実施や「国」主導の護岸整備をすると▼空港と和倉温泉でそそくさと現地視察を終えた首相。一方で被害の大きかった奥能登4市町をはじめ、首相が足を向けなかった他の被災地域にも切実な声が。公費解体が進まず、倒壊したビルや住宅がそのまま残り、自宅が被災し車庫や工場での寝泊まりが続く人たち。「避難所暮らしいつまで」「生業の見通しが立たない」…▼ちなみに首相は同日帰京。夕刻からホテルの日本料理店で経団連名誉会長ら「財界人と会食」、2時間半に及びました。分刻みの視察とのこの落差。やってる感ではなく、疲弊する被災地に本気で寄り添っているか、検証はメディアの役割です。


きょうの潮流 2024年7月7日(日)
 気候や食糧と危機にもいろいろありますが、イギリスで叫ばれたのは生活費危機でした。人びとのくらしや公共サービスを壊し、貧富の格差を拡大させた怒りは極限に▼英総選挙で保守党が歴史的な大敗を喫しました。国民を苦しめる一方で、スキャンダルや失政で次つぎと党首が交代。EU離脱の恩恵もなく、首相となった労働党のスターマー党首は「忍耐強く国の再建にとりくむ」と▼イランの大統領選でも改革派と目されるペゼシュキアン氏が当選。フランスの国民議会選挙では極右政党と左派・与党の候補一本化による決選投票が行われます。今年は米大統領選もあり、世界が注目する選挙が続きます▼あなたが求めるリーダー像は? TBSのニュース番組がこんな特集を組んで英・仏・米や日本の国民に聞いていました。イギリスでは「新しいリーダーには、経済的に悲惨な状況にある人たちが、そこから抜け出せるようしてもらいたい」「国民の話に耳を傾け、国民の立場で物事を考えられることが最も重要」▼フランスでは「今のリーダーに最も欠けているのは約束を守ること。選挙中の発言がその後の行動に反映されていない」。アメリカでは「自分の利益のためでなく、他人のために働ける人がリーダーになるべき」▼共通していたのは、国民の痛みがわかり、正直で信頼できるリーダーを望んでいることでした。それは日本でも。そして、国を動かしているのは、ひとりのリーダーではなく、一人ひとりの市民だということも。


きょうの潮流 2024年7月6日(土)
 「カローシ」とともに、世界に名の知られる日本語があります。トヨタ自動車の「かんばん」生産方式です。在庫を持たず「必要な時に必要な物を必要なだけつくる」というもの▼それを労働者に応用したのが「人間かんばん方式」で「必要な時に必要な労働者を必要なだけ使って」きました。非正規切りにあった期間工の青年は「トヨタは人間を商品として扱っていたことに気づいた」と怒りの声を▼そのトヨタが昨年度の役員報酬を公表しました。会長は過去最高の16億2200万円、社長も副会長も数億円の報酬額となりました。国際的な人材獲得の競争力を強化するためといいますが、労働者からみれば途方もない金額です▼今年3月期決算で5兆円を大きく超える営業利益を出したトヨタ。円安が影響したとはいえ、その裏には“乾いたタオルを絞る”といわれた労働者いじめ・下請けいじめが横たわっています。先ごろ明らかになった不正の数々も▼働く者の犠牲のうえに成り立つ空前の利益や役員報酬。自分たちは搾取され放題でいいのか。いま、そんな声が若者たちからあがっています。民青が主催したオンラインゼミに参加した20歳の労働者は奪われていたのはお金だけでなく、時間もだったと▼長時間で過密な働かせ方、いつまでも低い賃金、自由に使える時間もあたえられない生活。「おれたちをモノ扱いする、こんな世の中はおかしい」。わずか数カ月で契約を打ち切られたトヨタの労働者が叫んでいました。変えなければ!


きょうの潮流 2024年7月5日(金)
 障害者を劣った存在として国が不妊手術を強いた旧優生保護法はいまも被害者の「重石(おもし)」となっている―。映画「沈黙の50年」の制作に携わった大矢暹(すすむ)さんは、そう指摘します。被害を受けて50~60年と声を上げられずにきたと▼旧法は「立法時点で違憲だった」。最高裁大法廷は、国を断罪する判決を言い渡しました。「不良な子孫」の淘汰(とうた)を目的に不妊手術を強制したことは憲法13条(個人の尊重)に反する。障害者だけを手術の対象としたのは差別的取り扱いだとし、同14条(法の下の平等)違反だとしました▼「この判決が第一歩。私たちが当たり前に暮らせるようにしていきたい」。原告で脳性まひのある鈴木由美さん(68)は喜びの涙で言葉をつまらせました。小島喜久夫さん(83)は「国は私の体にメスを入れたのだから、謝罪してほしい」と改めて訴えました▼岸田文雄首相は賠償する方針を示し、加藤鮎子こども政策担当相はきのう、原告らに直接謝罪しました。被害者の多くは高齢です。最高裁判決を受けた対応は、遅きに失しています▼「課題が残っている」と、原告の北三郎さん(81)。2万5千人といわれる被害者全員の救済を望みます。藤原精吾弁護士は「旧法をつくったときから国会は優生思想を持っていた。国会議員も十分に反省を」と訴えます▼優生思想がはびこる社会もまた、被害者に沈黙を強いてきました。私たちは被害者から「重石」を取り除く努力をしなければなりません。安心して声を上げられるように。


きょうの潮流 2024年7月4日(木)
 いつか平和になったら、蓮(はす)の花を愛(め)でる時間をもちたい―。台湾で波乱の人生をおくった祖母が願いを込めてつけた名前。だから私は、花をみると元気になる、前向きになれると▼蓮舫(れんほう)さんが名前の由来を語っています。蓮は平和の象徴、舫にはその花をいくつも紡いでいくとの意味がある。その思いは、だれもが生きやすく、人生の選択肢が増える東京への訴えにつながっています▼「影に光を当てて、その影が薄くなるまで短くなるまで、その人がひとりで立ち上がって歩いていけるようになるまで、光を注ぐ都知事になりたい」。たくさんのホタルが舞うように光が揺れ、生きる希望をもとめて若者たちが集った新宿駅前。街宣のもようを短くまとめた動画がSNSで拡散されています▼示した七つの約束は、行政のゆがみをただし東京を健康にする施策ばかり。その背にはオール東京の思いが託されています▼一方で討論会にも応じず、隠れて自民党から支援をうける小池都知事。都議会では自身の公約や重要課題について答弁もしないという不誠実な態度に終始してきました。争点隠し、後ろ盾隠しでガラス張りの都政などつくれるわけがありません。いくら都民を守ると公言しても、何をきりすて何を守ってきたのか、8年間の小池都政をみれば明らかです▼停滞か変化か、ごまかしか真実か。この選挙は分岐点だと蓮舫さん。巨大な可能性をもつ首都東京の未来を切り開き、みんなが夢のもてる都政に。つくるのは、あなたの1票です。


きょうの潮流 2024年7月3日(水)
 大黒天が描かれていました。1885年(明治18年)、日本銀行が最初に発行した紙幣です。激しいインフレのなか、商売繁盛や景気回復を期待されて▼もっともこのお札、紙質を強めるため、こんにゃくの粉を混ぜたことから虫やネズミに食われる害が明らかに。短期間で改造されたというエピソードもついています▼近代以降の紙幣には時代背景や社会情勢が反映されてきました。明治の初期は古代や中世の伝承上の人物、戦時中は天皇の忠臣たちや靖国神社、戦後には板垣退助や国会議事堂が表れたように。そして今では、文化人が多く選ばれています(『お札のはなし』)▼きょうから20年ぶりに新紙幣が発行されます。目的は偽造防止の強化と、より使いやすくするためだと。しかし、ちまたは大わらわです。券売機をはじめ新紙幣に対応する機器への切り替えが間に合わず、重い負担に断念する小売店も。なじみの店もあきらめ顔でした▼ただでさえ物価の高騰で経営が苦しいのに、さらに追い打ちをかけるのか。そんな声が聞こえてきます。消費者にとっても、この時期に多額の費用をかけて新紙幣を世に出すメリットはどこにあるのか▼お札の顔に話を戻すと、選ぶのは財務省と日銀、製造元の国立印刷局の三者で協議し、最終的に財務相が決めることになっています。時代が変化すれば人物の評価も変わります。選ぶ側の価値観の更新も必要に。大黒札は今でも使えるそうですが、商売や景気の妨げになるようなお札はごめんです。


きょうの潮流 2024年7月2日(火)
 毎年、夏が近づくころ、放送の世界では各団体が優れた番組を顕彰する各種の賞を贈っています▼今年の「ギャラクシー賞」(主催・放送批評懇談会)では、連続ドラマW「フェンス」(WOWOW昨年3月放送)がテレビ部門大賞を受賞しました。「現在進行形の沖縄の諸問題に正面から切り込んだ、エンターテインメントと深い問題意識を見事に両立」と絶賛されました▼企画したのは、NHK沖縄放送局で米軍犯罪を中心に取材してきた北野拓プロデューサー(現在はフジテレビ所属)です。授賞式で、日本側が思うように捜査できない裁けないもとで沖縄の人たちが犠牲になってきた深刻な現実にふれ、「性犯罪は政治的なこともあり、なかなか訴えることができないみたいなことがあり、いつかドラマにしたいなと思っていました」と▼しかし、制作したのにNHKで放送されませんでした。「各社を回り、WOWOWに拾ってもらった」(北野氏)という曲折を経て、ようやく放送にこぎつけました▼それにしても、なぜNHKは放送しなかったのか。米軍基地や日米地位協定という国民を苦しめている深刻な題材を扱ったドラマだったからなのか。放送の自律という視点からも疑問が残ります▼題名のフェンスは米軍施設、女性蔑視などの暗喩です。支配層の知られたくない事実を描けば、ある種の“フェンス”が現れる…。それを恐れない作品が増えてほしい。日米両政府による隠蔽(いんぺい)行為が次々と明らかになる今、その意義は大きい。


きょうの潮流 2024年7月1日(月)
 「いつまでも壊れた家が並ぶ光景を見続けるのは、ほんとうにつらい」。能登の輪島で製塩業を営んできた男性の声には、いらだちが込められていました▼変わらない崩れた町の姿。朝市に構えていた自身の店も倒壊し、先行きは見通せません。不安だけが募るなか、商店の仲間たちと励まし合い、なんとか前を向いて生きようと努める日々だといいます▼能登半島地震から半年。生活の再建がまったく描けないとの訴えは被災地のどこからも。実際、能登では100をこえる事業所が廃業を余儀なくされ、地域を長く支えてきた所も次々と閉じています。人口流出も加速し、インフラが復旧されても町のありようは…▼被災家屋の公費解体も滞っています。申請にたいし、完了したのはわずか数%。手続きの煩雑さに加え、人手が圧倒的に不足しているのが実情です。復旧工事では資材の不足も進まぬ要因に。これでは、能登は見捨てられたと多くが嘆くのももっともです▼被災地では、自分も復興の力になりたい、困っている人の役に立ちたいと奮闘する若者たちの姿があります。それはボランティア活動をはじめ、全国からも。先日は長野県の民青の学生らが能登を訪れ、仮設住宅でくらす被災者のつらさや要望を聞き取っていました▼地域の未来をになう若者の息吹と、支援の輪のひろがり。一方でなりわいの再建に立ちはだかるさまざまな壁。いま求められていることは何か。希望はどこにあるのか。被災地の現状から見えているはずです。


きょうの潮流 2024年6月30日(日)
 歌手で俳優の越路吹雪(1924~80)生誕100年を記念して、早稲田大学演劇博物館が所蔵の舞台衣装やポスター、写真、雑誌等を展示しているというので、楽しみに出かけました▼代表曲の一つ「サン・トワ・マミー」など、目の前が暗くなるほどの寂しさが無性に身に染みたものです。闊達(かったつ)で華やかな舞台姿の一方で、悲しみを感じさせる深い歌声…▼13歳で宝塚歌劇団に入団し15歳でデビュー。男役スターとして人気を博します。27歳で退団後、傾倒するシャンソンを学ぶためパリへ。「愛の讃歌(さんか)」で有名なエディット・ピアフを聴いた夜、日記に〈語ることなし〉〈悲しい、淋(さび)しい、私には何もない〉〈泣く、初めてパリで〉と記しています▼戦後の日本にシャンソンとミュージカルを根付かせた押しも押されもせぬ実力者には意外な素顔も。40年来の盟友で作詞家の岩谷時子によれば、「才能二分に努力八分」が口癖の勤勉家で、神経が細く、開幕前には客にのまれないまじないに、背中に指で虎の字を書かせ、その上を三つたたいてもらうのが習慣だったといいます▼演出家の浅利慶太は〈越路さんは大スターになってからでも、最後の最後まで、僕が「そこが悪い」と言うと、「あ、そう」って全部、ゼロになって直しました〉と書き、自己過信の壁をつくらなかったと回想します▼56歳の若さで胃がんで亡くなって44年。慢心せず努力し続けること、虚心に意見を聴くことの大切さを教えられました。いま再び出会えた幸せを思います。


きょうの潮流 2024年6月29日(土)
 「体にいいと、信用していたのに…」。小林製薬の紅麹(べにこうじ)サプリメントの健康被害が公になったとき、長く飲んでいたという女性がテレビで語っていました▼突然、腎臓病と診断され、裏切られた悔しさとともに、ずさんな製造や運用に怒りもあらわに。日本人の3割が摂取しているといわれ、身近な存在となったサプリの危険と制度の課題をうきぼりにしました▼衝撃がさらに広がりました。紅麹サプリの健康被害で、厚労省が新たに摂取との因果関係が疑われる死亡事例が76件もあったと発表。これまで死者数の公表は5人でしたが、はるかに超えた被害の実態がうかびあがってきました▼「本来ならばもっと早くこうした事例があれば報告が必要で、死亡事例について厚生労働省から問いただして初めて報告があった」と厚労相。これ以上、小林製薬に任せておくことはできないとも▼もっとも国の責任は大きい。紅麹サプリのように効果を商品に示せる機能性表示食品は、安全性や効能について国の審査はなく、企業任せ。政府は健康被害の収集と報告を義務づけるとしていますが、市場に出回り被害が起きてから行政が対応することでは同じ。自己責任とする制度に変わりはありません▼手軽に栄養補給や健康維持が期待できると市場規模を急拡大してきた機能性表示食品。解禁したのは、世界で一番企業が活躍しやすい国にするとした安倍元首相でした。国民の命や健康と引き換えに企業をもうけさせる。そんな国の危うさが表れています。


きょうの潮流 2024年6月28日(金)
 明治大学博物館で開催中の「虎に翼」展で、当時の学内新聞「駿臺(すんだい)新報」に目がとまりました。ドラマの舞台となった女子部設立時の学長あいさつと同じ2面に載った「授業料値上げで東大の学生大会」の記事です▼「十五日三千の学生が大会を開き学校当局の反動政策をコキ下し値上げ反対、思想善導反対の叫びを挙げるや折から張込んでいた私服警官が『弁士中止』を命じたのに端を発し…」。1929年(昭和4年)5月18日付。学生運動や思想への弾圧が深刻化していく時代の姿が伝わります▼8年後の1937年9月25日付には「女子部に揚(あが)る凱歌 見事高文の難関をパス」。寅子(ともこ)のモデル・三淵嘉子の先輩が論述試験に合格したことを伝える記事です。翌年の3人の女性弁護士誕生へと進む様子を感じさせる一方、同じ紙面には「銃後の護(まも)り固し 学園に赤心沸(たぎ)る」の見出しが▼「非常時の認識に海洋講座設置」の記事は、「支那事変の勃発以来学校当局は学生に対し時局の重大性を知らしむべく…教壇より国防思想の強化をなさんもの」として、現役の軍人を招いて軍事講義をおこなう、と▼「赤旗(せっき)」はこの2年前に発行不能に陥っていました。やがて日米開戦へと動く中、寅子の周囲にも戦争は静かに忍び寄り、多くの人々の人生を破壊していったのです▼展示室には、「虎に翼」展の紹介記事が載った5月8日付本紙も。女性の地位向上と合わせて、戦争への警鐘を鳴らし続けるメディアの必要を展示は語りかけているようでした。


きょうの潮流 2024年6月27日(木)
 やましさのかけらも感じなかったのか。「負担の軽減に全力を尽くす」。沖縄戦「慰霊の日」に、県民に向けてそう口にした岸田首相です▼集中する米軍基地をいまも背負わせておきながら、ぬけぬけと。しかも、嘉手納基地所属の米兵が16歳にも満たない少女をさらい、性的暴行をはたらいていた事件を隠しておいて▼米兵は昨年末、沖縄県内に住む少女を車で自宅に連れ去り、同意なく性的な行為をしたとして今年3月に起訴されていました。しかし、外務省や政府はそれを把握しながら県にも知らせず、報道で明らかになるまで3カ月も伏せていました▼「もみ消し許さない」「いつまで続く、この怒り、悲しみ」。相次ぐ抗議の声。基地あるがゆえにくり返される、米軍による性犯罪。穏やかな日常を強くねがう沖縄の心をふみにじり、美(ちゅ)ら海を埋め立て土や水を汚染する。基地の存在は、県民にとっていまそこにある危機です▼「県議選や慰霊の日が終わるまで隠蔽(いんぺい)したのかと勘繰りたくなる。彼らは結局、少女や沖縄の人びとのことなんか、何も考えていない」。県平和委員会代表理事の上野郁子さんは、事件を知ってすぐに抗議のスタンディング行動を呼びかけました▼今年の「平和宣言」。デニー知事はのしかかる基地負担や軍備増強される沖縄の現状を示し、こう訴えかけました。「いまこそ私たち一人ひとりに求められるのは、不条理な現状を諦めるのではなく、微力でも声をあげ、立ち上がる勇気、そして、行動することです」


きょうの潮流 2024年6月26日(水)
 選挙は、なによりも選挙人の自由に表明する意思を保障するものであって、公明かつ適正に行われなければならない。これらの趣旨に反することになれば、民主政治が健全なものとはならないからである▼1950年に公布された公職選挙法の目的です。差別や弾圧によって国民を政治から遠ざけた戦前の反省から、主権者たる国民が正当な選挙を通して代表者を選ぶ。それは議会制民主主義の最も重要な行為であると▼「べからず法」の悪名高い公選法でさえ、冒頭に自由な選挙活動の大切さを掲げるほど。いまたたかわれている東京都知事選挙でそれが問題になっています▼立候補している蓮舫氏の事務所にFAXで届いたという殺害予告。そこには「ナイフで刺す」「爆破する」といった脅迫が書かれていたといいます。活動の足をとめ、抑えつけようとする卑劣な行為。犯行予告は小池都知事のもとにも。蓮舫氏は「選挙という民主主義の根幹をなすものに対する挑戦であり、決して容認できません」とコメントしています▼表現の自由を逆手にとり悪質な行動を持ち込んでいるのが「NHKから国民を守る党」などのポスター掲示です。女性の裸や風俗店の広告、同じポスターが何枚も張られる無秩序状態に。選挙をいたずらにかく乱し、おとしめる行為を野放しにしては民主主義の土台が崩れてしまいます▼都民のくらしばかりか国政をも左右するこの都知事選。憲法にもとづいた自由で正当な選挙の意義が、あらためて問われています。


きょうの潮流 2024年6月25日(火)
 災害派遣精神医療チーム「DPAT(ディーパット)」。地震や水害などの自然災害や犯罪事件、航空機・列車事故などの集団災害が起きた時、精神科医療や保健福祉活動を支援する専門的チームです▼精神科医師、看護師、業務調整員らを中心に構成。ニーズに応じて、児童精神科医や薬剤師、保健師らもチームに加わります。発災から約48時間以内に活動するのが先遣隊。本部機能の立ち上げや急性期の精神科医療ニーズの対応などにあたります▼標準的な派遣日数は移動日が2日、活動日が5日の1週間ですが、必要があれば数週間から数カ月継続することも。最新の調査によれば全国の登録医療機関数は420、登録隊員数は4279人です▼能登半島地震でもDPATは力を発揮しました。地震翌日、石川県DPAT調整本部と能登医療圏活動拠点本部を設置。1月4日には県外の先遣隊が派遣活動を始めています▼災害・地域精神医学の専門家である太刀川弘和さんは、茨城県の隊員です。茨城DPATは東日本大震災や豪雨による水害、熊本地震、台風被害、新型コロナなどで活動。今回もチームの一員として能登半島へ向かいました。道路の寸断で支援が遅れ、精神障害者の症状が悪化し、支援者も疲弊。多くの集落や被災者が孤立し、孤独からの自殺問題も起きているといいます▼昨今の災害に比べても、能登半島地震での復旧の遅れは、はなはだしい。「被災者を取り残さないことが大事です」。太刀川さんのこの言葉が胸に刺さります。


きょうの潮流 2024年6月24日(月)
 私が私を証明できない―。そんな社会が訪れています▼今では必需品のスマホ・携帯電話。契約の際、窓口で本人確認書類の提示を求められます。かつては健康保険証があれば契約できました。ところが現在、大手の携帯電話会社は保険証を本人確認書類として認めていません。理由は顔写真がないから▼では、顔写真のあるパスポートなら? 残念ながら2020年2月以降に発行された新パスポートには住所記載欄がないので使えません。運転免許証は高齢者で返納する人も多く、持っていない人は少なくありません▼もちろん、マイナンバーカードは本人確認書類として有効です。しかし昨年、マイナンバーをめぐる度重なるトラブルで国民の信用はがた落ち。いまだにマイナ保険証の利用率は7%そこそこ。取得は任意なのでカードを持たない人もいます▼政府は運転免許証の偽造などの犯罪対策として、インターネットなど非対面の携帯電話の契約では、本人確認をマイナンバーカードに一本化する方針を決めました。今後は対面(店舗の窓口等)でもマイナンバーカードや運転免許証のICチップの読み取りを義務化します。本人確認で“詰む”人が続出するのでは…▼スマホを持てないというだけではありません。自分が自分であることを証明できない。憲法には「すべて国民は、個人として尊重される」と。あなたも私も国民なのに、マイナンバーカードがないと「あなたはだれなの?」と疑われる。なんて薄ら寒い社会でしょうか。

きょうの潮流 2024年6月23日(日)
 「総員死ニ方用意」の文字。乗組員たちは遺書をしたため、親元に形見を送りました。死地に赴く特攻作戦。1945年4月6日、戦艦大和が向かった先は沖縄でした▼当時の連合艦隊首席参謀はこう主張していたそうです。「沖縄のあの浅瀬に大和がノシ上げて、一八吋(インチ)砲を一発でも射ってごらんなさい。日本軍の士気は上がり、米国軍の士気は落ちる。どうしてもやらなくてはいかん」。(吉田満・原勝洋著『ドキュメント戦艦大和』)▼しかし翌7日には米軍の猛攻をうけ、沖縄のはるか手前の海で撃沈。乗組員3332人のうち、3056人が亡くなったとされています。きょう沖縄「慰霊の日」を前に、「平和の礎(いしじ)」には昨年に続き大和乗組員の名が多く刻まれました▼沖縄戦で亡くなったすべての人々を対象とし、戦争の実相を後世に正しく継承するという礎。新たな刻銘をふくめ、これで24万2225人の名前が記されたことに。戦後50年となる95年の建立後、今も増え続けています▼本土決戦の捨て石とされ、失われていったあまたの命。ふたたび軍備が強化され、辺野古の米軍新基地建設でも大浦湾の工事が強行されようとしている沖縄。デニー知事は今年の「慰霊の日」に、来年の戦後80年に向けて沖縄の思いを力強く発信すると▼大和の沈没後に救助され生還した乗組員は、のちの世に伝えたい思いを残しています。「絶対に昔の軍国時代みたいにならないようにして、平和な世の中を送ってもらいたい。それだけが願いです」

きょうの潮流 2024年6月22日(土)
 4月に検定に合格した中学校の歴史教科書が沖縄戦に関して「中学生から高校生の男女」が「志願というかたちで学徒隊に編入」されたと記述しています。地元紙は、日本軍による住民の「根こそぎ動員」の一環であり、「志願」とするのは不適切な記述だと批判しています▼問題の教科書は作家の竹田恒泰氏が代表取締役である令和書籍の『国史教科書』。「国史」という言葉自体が戦前の教科書の表題です。内容も、冒頭から『古事記』の「国生み神話」が登場し、歴代天皇の記述が多数あるなど戦前の国定教科書をほうふつとさせるものです▼日本の侵略戦争について「快進撃」と記し、特攻隊の死を「散華」と表現しています。花が散るように華々しく死ぬという意味です。「慰安婦」に関しては「日本軍が朝鮮の女性を強制連行した事実はなく」などと、強制性がなかったかのように描いています▼文部科学省はこんな教科書を合格させる一方で「従軍慰安婦」「強制連行」という用語は適切でないとした閣議決定を理由に、教科書を書き換えさせています。中学生に何を教えて、何を教えたくないのか。意図がありありです▼今年は中学校で使う教科書が新たに決められる年です。検定では令和書籍以外にも育鵬社など侵略戦争を美化する教科書が合格しています▼戦争を美化する教科書を中学生に渡すわけにはいきません。どのような教科書を使うか、現場教員の意見を尊重し、保護者・住民の声も反映させることが大切になっています。


きょうの潮流 2024年6月21日(金)
 光陰矢の如(ごと)し。3年前の今時分、この国は揺れていました。これでもオリンピックを強行するのか―。コロナの感染拡大を抑えられないなか、東京都と自公政権は開催に突き進んでいました▼医療現場はひっ迫し、都民・国民の多くが不安を感じ、反対の声を上げていました。しかし推進側は専門家の意見を無視して観客ありの開催に固執。大部分の競技会場で無観客になったのは開幕のわずか2週間前のドタバタでした▼同じ時期にたたかわれた都議選では、五輪より命、コロナ対策をと訴えた共産党が前進。安心安全を求める人びとの思いよりも巨大イベントを最優先させた都や国の暴挙が厳しく問われました▼来月開幕のパリ五輪を前に、雑誌『世界』の7月号が東京五輪を検証しています。日本には五輪よりもっと向き合うべき社会課題がある、くみとる教訓は「政官五輪に象徴される『昭和』的な社会構造からのアップデート」だと▼まさにその渦中で五輪を強行した小池都知事が2期8年をふり返るなかで「都政の歴史に残る」として自賛しました。そして東京を世界で一番の街にする目標を掲げました。都民の命と生活を守るといいながら大型開発を優先してきた姿勢こそが、小池都政の数々の問題の根本にあるのに▼東京都知事選が告示されました。1400万人余がくらし、16兆円をこえる財政規模をもつ大都市を、若者をはじめ、すべての人が本当に安心して希望のもてる街に。蓮舫氏が第一声で訴えました。あなたと次の東京へ。


きょうの潮流 2024年6月20日(木)
 10年後に公開なんてふざけている。基準を20万円から5万円にしても何も変わらない。なんで企業・団体献金を禁止しないのか。抜け穴だらけだ▼街で宣伝していたときに寄せられた声です。裏金の当事者である自民党が出した法案に。あきれるやら怒るやら。効果もなければ、反省もない。いくつもの世論調査をみても、多くの国民がそう感じています▼規正の名にも値しない法を、自民、公明が強行しました。党首同士が合意文書を交わしながら約束が違うと騒ぎ立てる維新の醜態ぶりもあらわに▼みずからが招いた政治とカネの問題を逆手にとった悪だくみも。闇金となっている「政策活動費」の合法化や、カネの流れをつかめる収支報告書の要旨を廃止するという新たな隠ぺい策も組み込まれています。これでは30年前の「政治改革」と同様ではないか▼あのときも金権腐敗政治への不信が高まるなか、企業や団体が政治家個人に献金することを禁じ、代わりに税金を原資とする政党助成金制度がつくられました。しかし政党とその支部は献金を受け取ることができ、抜け道に。さらに選挙改革と称して小選挙区制も導入されることに▼こんなすり替えをいつまで。かつての「政治改革」の渦中にいた細川護熙首相の政務秘書官だった成田憲彦氏は「企業・団体献金は、自民党存立の基盤であり、その構造からいって禁止は自民党にはできない」と本紙に語っています。では、どういう力学で禁じるか。それは政権交代プラス国民の怒りだと。


きょうの潮流 2024年6月19日(水)
 将棋で「詰む」といえば「王将の逃げ場がなくなる」こと。行き詰まりの意味から、若者言葉でも「詰んだ」=「終わった」という意味で使われています▼来年4月開幕予定の大阪・関西万博も、「詰んだ」といっていい状況です。建設費は当初の約2倍の2350億円、運営費も警備費を含めて約7割増の1359億円に膨張。万博に関心がない人は7割に上り、チケット販売は目標の1割台どまり。財政的に破たんは必至です▼そんな金があるなら、能登被災者の支援や物価高騰に苦しむ府民の暮らし・営業に回すべきだとの声があがり、開催反対は約5割にも。決定的なのは、会場が廃棄物最終処分場のためメタンガスが発生し、全域で爆発の危険に直面していること。学校単位で参加する小中高の生徒の保護者らは「危険な場所に連れていかないで」と反対の声が広がっています▼普通の事業ならとっくに開催中止のはずなのに、それでも止まらない。万博に乗じて、カジノや大型開発、規制緩和をすすめるねらいがあるからです▼維新府・市政と関西財界などが国に出した連名要望書では、万博関連のインフラ整備は9・7兆円。遠く離れた「四国縦貫自動車道の4車線化」など、不要不急の事業が。規制緩和では、紅麹(べにこうじ)事件に反省もなく食品表示規制の緩和をはじめ大企業のもうけ支援策がズラリ並びます▼「詰んだ」将棋なら「参りました」で終わります。万博でそれを言わせるのは、府民・国民と日本共産党の共同したたたかいです。


きょうの潮流 2024年6月18日(火)
 一粒のお米には七人の神様が宿るとの言い伝えがあります。太陽、水、土、風、雲、虫、そして作り手です。どれも米作りに欠かせず、そこからきたという説も▼一粒一粒の状態によっておいしさも変わりますが、今年は白く濁ったり、小粒の米が目立つそう。いわれてみれば、最近買った5キロ米も白っぽく粒が小さい。去年の猛暑が品質に影響したといいます▼昨年8月の平均気温が30・6度と全国トップを記録した米どころ新潟でも、「1等米」の比率が過去最低の水準に。日照りに不作なしとはいうものの、昨今の暑さは稲にも高温障害をもたらすほどです▼品質の低下や不作によって値段も上がっています。5月の米価格はすべての銘柄の平均で60キロあたり1万5500円余り。前年の同じ時期に比べて12%高くなりました。これで3カ月連続の値上げ。コロナ禍が明けて米の消費量が増えるなか、需要と供給のバランスが崩れ価格が上がってきています▼主食の米までも。しかし政府は「ひっ迫している状況ではない」(坂本農水相)と楽観視しています。世界を覆う異常気象の影響は一過性ではなく、早急な値上げ対策も求められているのに。4割を切るこの国の食料自給率も懸念されています▼米の自給率はまだ99%ですが、資材の高騰や後継者不足をはじめ生産現場は深刻です。それなのに岸田政権は農家への保障や自給率の向上を投げ捨て、さらに輸入に依存しようと。これでは、米一粒に宿る恵みも作り手の苦労も報われません。


きょうの潮流 2024年6月17日(月)
 ダウン症の生徒の一言がきっかけでした。「先生、俺に投げ方、教えてくれよ」。その真剣なまなざしに「心がざわついた」と。教えるとみるみるうまくなる。障害者の認識ががらりと変わった瞬間でした。34年前の経験がいまにつながっています▼東京都立青鳥(せいちょう)特別支援学校の野球部・久保田浩司監督(58)の著書『甲子園夢プロジェクトの原点』にあります。同校は7月、高校野球の西東京大会に初めて出場します。特別支援学校の単独チームとしては全国初。15日の組み合わせ抽選会で対戦相手も決まりました▼久保田監督は長らくソフトボールの指導をしていましたが、本当に教えたかったのは硬式野球。しかし、ここには壁がありました。「知的障害の子に硬球は危ない」と認められない現実です▼地方予選に出場した学校がないのもそのため。同監督は3年前、同校へ赴任したことをきっかけに安全策も具体的に講じ、野球部設立にこぎつけました▼同時に立ち上げたのが「甲子園夢プロジェクト」です。全国の知的障害の若者に呼びかけ、練習会などを実施。「健常者だって、障害者だって野球への思いはいっしょ」と硬式野球ができる場をつくってきました。目標は全国の特別支援学校にこれを広げることです▼もちろん簡単ではありません。支えは、生徒たちがいきいきと取り組み、自立、成長していく現実の姿です。この夏、青鳥の12人の球児たちが、挑戦する素晴らしさを証明してくれるはず。それが何より大きな一歩となります。


きょうの潮流 2024年6月16日(日)
 10年以上前から申請をくり返しているのに認められず、住み家を追われるスリランカの男性。命からがら逃げてきたが、すぐに所持金が尽きホームレスになったというアフリカの母子▼戦争や迫害を背景にして、日本に逃れてきた難民たちが映されていました。ETV特集「あなたの隣人になりたい」。国際基準からも人権や保護の観点からも、かけ離れたこの国の入管行政。その中で支援に奔走する団体や個人の姿も▼難民と認めまいとする入管。しかし国際的には「疑わしきは申請者の利益に」が原則となっています。日本社会の一員になることを願う人々を追い込んでいく現実。今月から施行された改悪入管法では3回以上難民申請をした外国人を強制送還できるようにも▼さらに今国会では外国籍住民の永住許可を取り消す規定まで盛り込まれました。自公や維新、国民の賛成によって。共産党の仁比議員は反対討論で「自民党政治の外国人差別と排外主義はどこまで底深いのか」と批判しました▼人権侵害の温床とされてきた技能実習制度を育成就労と言い換えたものの、安い労働力として人間らしい生活や権利を奪ってきた仕組みに変わりはありません。インバウンドを当て込む一方で多くの外国人労働者を使い捨てにする。これが日本政府の「おもてなし」なのか▼先の番組では支援者の手をかりて、なんとか日本に受け入れてもらおうと努力する姿がありました。同じ社会、同じ人間として、互いによき隣人でありたいと望みながら。


きょうの潮流 2024年6月15日(土)
 ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館は、肉食恐竜のティラノサウルス・レックスの全身骨格標本が展示されていることでも知られています。国連のグテレス事務総長が先日、この博物館で演説しました▼「気候の事では私たちは恐竜ではなく、隕石(いんせき)だ」「私たちこそが危険なのだ」と。巨大隕石の衝突が恐竜絶滅の引き金になったとする学説を念頭において、人間は気候危機を進行させている当事者だとして、対策強化を訴えたのです▼世界気象機関の報告書は、今後5年間のうち、少なくとも1年は、世界の平均気温の上昇が産業革命前と比べて1・5度を超える確率は80%だとしました。温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」が掲げた1・5度目標に近づいているとの警告です▼グテレス氏は、「気候地獄」に向かう高速道路からの出口が必要だと指摘。「もっと激しくたたかうなら起死回生は可能だ」と述べています▼同氏が各国政府に正面から呼びかけたのは、温室効果ガスを大量に排出する化石燃料企業の広告禁止です。化石燃料企業は「恥知らずなグリーンウォッシュ(みせかけの環境対策)」を行い、広告会社などから支援され、積極的に対策を遅らせようとしていると▼ひるがえって岸田自公政権の政策です。まさにグリーンウォッシュそのもの。脱炭素を標榜(ひょうぼう)し、アンモニアと石炭を混焼させる技術で石炭火力の延命を計っています。世界で広がり、コストが急落する再生可能エネルギーや省エネへの政策転換は急務です。


きょうの潮流 2024年6月14日(金)
 黒人の助産師がとりあげた赤子。羊水にぬれて光っている。それを、小さな木の窓から見守る子どもたち―。ひとつの生命の誕生、荘厳さと喜びをとらえた写真がその後の道を開きました▼「たった一枚の写真こそが、人間の一生の中でも最も重要な瞬間のドラマを、表現できる」。60年代に留学生として渡米した吉田ルイ子さん。ニューヨークで見た写真展で、フォトジャーナリストになることを決心しました▼ブラック・イズ・ビューティフルの輝きや差別を映しとった「ハーレムの熱い日々」。返還時の沖縄やベトナム戦争、中米の革命やアパルトヘイトの南アフリカ…。吉田さんのカメラは、戦場や貧困の悲惨ではなく、そこで生活する女性や子どもたちに向けられました。希望を見いだすように▼「シャッターを押す前に、被写体になる人とコミュニケートすること。写真を撮ることだけが目的じゃなく、そこの人びとと気持ちを共有していることを感じられたらいい」。自身の心構えを本紙で▼人間への尽きない好奇心と愛情。その存在を脅かす動きには、ひとりの人間としてあらがいつづけました。つねに立場の弱い者や少数者への共感を抱き、人間の尊厳や誇りを信じながら▼美しく年を重ねてきた女性を紹介した写真集『華齢な女たち』。深みのある表情から生き方が浮かびあがります。その作品は、21世紀を生きる女性へのメッセージだと話していた吉田さん。89歳で亡くなった彼女の写真もまた、生きてきた道を映しています。


きょうの潮流 2024年6月13日(木)
 東京は今、大型開発の真っただ中。自分には縁遠い話と思っていたら、大間違いでした。都民の財産でもある大規模な公有地が、投機マネーが横行する舞台になっていたのです▼舞台は東京・中央区の湾岸エリアにある「晴海フラッグ」。東京五輪の選手村跡地です。都は巨額の公費を投じてファミリー向けマンションとして改修し、約5600戸を供給。その多くが分譲住宅で、周辺相場より割安価格で販売されていました▼今年1月から入居開始。ところが、あるエリアでは購入者の4分の1が法人で、中には38戸購入した法人も。転売や賃貸に出すことが目的と見られます。NHKの「クローズアップ現代」「首都圏情報ネタドリ!」が報じました▼転売の結果、価格が元値の1・5倍から2倍に。一般世帯には手の届かない代物になっています。7回抽選で落ちた夫婦は「本当に住みたい人が、1人1戸ずつ申し込めるということであれば納得いくのですが」▼ファミリー向けとうたいながら、なぜ申し込みの戸数に制限がないのか。1人で2戸も申し込む人がいるのか。共産党の原田あきら都議が5月の委員会で追及しました。2008年に都有地を民間マンションにした際は、5年間の転売禁止規定を設けていたのになぜ? 答えに窮し、論点をずらす都側…▼大企業に大盤振る舞いの都の姿が見えてきました。番組は明かりがまばらな夜のマンションを映します。人が住めない街・東京になっていいのか。都知事選の大きなテーマです。


きょうの潮流 2024年6月12日(水)
 淡い青から鮮やかな濃い青へ。公募によって付けられた名前は「開成ブルー」。花の色の変化が楽しめるアジサイの前で大勢が足をとめて見入っていました▼神奈川・足柄上郡にある開成町でいま「あじさいまつり」が開かれています。東京ドーム3・6個分の田園に咲き誇る5千株ものアジサイ。色とりどりの中をゆっくりと散策する人びと。安らいだ時間が流れていきます▼全国的な梅雨入りはまだ先のようですが、暦の上では入梅。すでに見ごろを迎えているアジサイも各地で。サクラ同様、近年はアジサイの開花も全国的に早い傾向にあるといいます。原因は気温の上昇で、こうした変化はさまざまに表れています▼「今年はスーパーの店頭に梅の実が並ばない」。読者の投稿にありました。暖冬の影響でウメが不作となり梅酒づくりができない、年に一度のささやかな楽しみが奪われてしまった、身近な出来事から気候問題を実感させられたと▼これから旬のスルメイカも記録的な不漁が続いています。イカの街・北海道函館の初水揚げではゼロの船も。「たったこれだけ…」と、前代未聞のことに漁師たちもあきれ顔でした。私たちは古くからの季節の移ろいが通用しない時代へと突入しています▼温室効果ガスの削減はもちろん、自然環境を保全し復元する努力が求められているとき。それなのに東京や大阪をはじめ大量の樹木伐採が進められています。うるおいのない、乾ききった都市。その姿は、人間のくらしをも映すかのように。


きょうの潮流 2024年6月11日(火)
 インドの叙事詩ラーマーヤナの主人公ラーマは、インドで人気の高い神様です。孫悟空のモデルとされる猿神ハヌマーンの助けで悪魔の王を滅ぼします▼世界最多の人口14億人を抱えるインドの総選挙で問題になったのが、ヒンズー教の神ラーマの人気を利用した選挙運動の是非でした▼モディ首相は選挙直前の1月、北部アヨディアで「ラーマ神生誕地寺院」の落成式を盛大に挙行しました。11日間の断食で身を清め、神像を安置し、平伏する姿は全国に中継されました。ただその敷地は、32年前にイスラム教のモスク(礼拝所)を現与党インド人民党につながる暴徒が破壊した場所です▼インドとパキスタンが英植民地から分離独立した際、宗教暴動で多くの血が流れました。その経験からインドは宗教の違いで国民を差別しない政教分離の憲法を制定しました▼特定宗教へのテコ入れは憲法に反すると野党は落成式を欠席。するとモディ氏は「ラーマ神に敵意を持っている」と野党を攻撃しました。イスラム教徒を「侵入者」と呼ぶヘイト演説も。庶民が直面する失業、物価高、農村の苦境から焦点をそらす狙いだったのか▼選挙結果は、インド人民党の単独過半数割れ。神がかりと分断の選挙運動に国民は惑わされませんでした。野党は共闘組織をつくって臨み、議席を大きく伸ばし与党を追いつめました。訴えたのは「憲法にうたわれたインドの理念を守る」。薄氷の勝利で9日、3期目の首相に就任したモディ氏に問われる重い課題です。


きょうの潮流 2024年6月9日(日)
 人生百年時代です。長寿を祝う“還暦や古希の祝い”はもう時代遅れかも。65歳までの雇用保障が企業に求められ、再雇用で70歳まで働く人もまれではない時代に▼日本の繁栄を支えてきた約800万人の団塊の世代は、来年には全員が75歳の後期高齢者に。当然、要介護者の増加も予想されます。身を粉にして建てたマイホームで、支払ってきた介護保険料に見合う手厚い介護施策のもと、子や孫たちに囲まれて最期を迎えたい…▼こんな当たり前の願いが、軍事優先の岸田政権によって脅かされています。高齢者や家族の家事援助など在宅生活を支える大事なサービス・訪問介護事業の基本報酬を引き下げたためです。人生百年時代に逆行する愚策▼現場からは「ガソリン代や介護用品の価格上昇が加わり、経営状況は非常に深刻。報酬引き下げはさらなる経営悪化に」「移動手当もなく地方では5キロ、10キロの移動は当たり前。理解していない改定で近々訪問ヘルパーはなくなる」との危機感が▼「小規模事業所が経営難に陥り在宅介護の基盤が壊滅的になる恐れがある」「独居・老老世帯はたちまち『介護難民』に」―。引き下げ撤回と介護報酬引き上げの再改定を求める運動が全国で広がっています。「介護する人、受ける人が、ともに大切にされる介護保険制度へ」が合言葉です▼生存権を保障する憲法25条に基づいたケアが大切にされる社会の実現は、いまや待ったなし。誰もが喜寿、傘寿、米寿を在宅で祝える社会へ。全世代連帯して。


きょうの潮流 2024年6月8日(土)
 なぜ多くの人びとをさらに死地へ追いやる決断をしたのか。答えの手がかりは、祖父の辞世の句にあると本紙に語っていました▼沖縄戦を指揮した日本軍の牛島満司令官。その孫の牛島貞満さんは「住民に多大な犠牲を強いた二つの命令を下している」といいます。首里司令部の陥落後に南部撤退を決めたこと。そして自決前に「最後まで敢闘し悠久の大義に生くべし」と終わりなき戦いを命じたことです▼その際に詠んだ句が〈秋待たで枯れ行く島の青草は皇国(みくに)の春に甦よみがえ)らなむ〉。秋を待たずに枯れる沖縄の若者の命は、本土決戦に勝利して春になった天皇中心の国によみがえるだろう。そのために沖縄の人たちや自軍が犠牲になるというのが祖父の考えだったと▼それを掲げることがどんな意味をもつのかわからないのか。那覇市に拠点をおく陸上自衛隊第15旅団がホームページにこの辞世の句を掲載しています。住民を含めた沖縄戦の犠牲者を「英霊」とする初代指揮官の訓示とともに▼岸田政権が永遠のパートナーともちあげる米国の対中戦略のもとで、最前線として軍事要塞(ようさい)化が進められている沖縄。またも「捨て石」にしようというのか。自衛隊や基地の増強も強行されています▼戦争か平和の道かが問われる沖縄県議選が告示されました。16日投票までの選挙戦は沖縄戦の悲惨を凝縮した南部彷徨(ほうこう)の日々と重なります。基地のない平和な島をめざすデニー県政を支える、共産党とオール沖縄の勝利を。ふたたび戦場にさせないためにも。


きょうの潮流 2024年6月7日(金)
 英兵は悪夢にうなされるように。「ベッドに入っても眠れない夜がよくある。頭の中であの光景がよみがえるんだ」。米兵はつらい過去をふり返り「大勢の仲間が戦争の犠牲者になった」▼銃弾に倒れ、地雷を踏み、砲弾を浴びる。おびただしい死体をかきわけ、任務を遂行するために前進していった若者たち。兵士のひとりは「史上最大の作戦」と呼ばれた上陸作戦は「カオスだった」と証言しています▼NHK・BS世界のドキュメンタリーで紹介された「知られざる兵士たちの記録 ノルマンディー上陸作戦から80年」。ナチスドイツの敗北を決定づけ、第2次世界大戦の転換点となった戦いを過酷な前線にいた兵士の視点から伝えていました▼15万人以上の連合国軍兵士が投入され、ドイツ軍とあわせて10万人が戦死したといわれます。決行前、連合軍のアイゼンハワー最高司令官は十字軍に例えながら「自由を愛する人びとの希望と祈りが諸君とともに進軍する」と訓示しました▼Dデイと呼ばれた6日には80周年の記念式典が開かれ、同地に欧米の首脳らが集結。しかし10年前には参加した、ロシアのプーチン大統領の姿はありませんでした。フランシスコ・ローマ教皇は、あの時の惨禍が忘れ去られつつあり、新たな世界的紛争のリスクが高まっていると警鐘を鳴らしています▼人類がなめた戦争の辛酸。それを思い起こし、世界中の人びとが平和を強く望んでいるいまこそ、戦争をしないための努力が各国に求められているはずです。


きょうの潮流 2024年6月6日(木)
 なんでわからない、バカなのか。もう男の上司に代われ―。コールセンターに勤める女性の話を聞いたことがあります。叱責やどう喝、暴言のすさまじさを▼顧客などから理不尽な言動を受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)。さまざまな職場や店舗で働く人たちを精神的に追い詰め、心を壊しています。先の女性の職場でも耐えられずに辞めていく人が多いといいます▼労働組合の調査ではおよそ2人に1人がカスハラを受けたことがありました。迷惑や暴力行為にエスカレートする場合もあり、社会問題になっています。しかしセクハラやパワハラのような法的な定義がなく企業任せが現状です▼対処手引や相談体制の整備をはじめ対策にのりだす企業や団体が増える一方で、いまだに「お客様は神様」と見過ごすところも少なくありません。立場の弱さにつけこまれる場合も。労働者を守るための早急なとりくみが国や自治体、企業に求められています▼この人の場合はカスハラというべきか、パワハラというべきか。北海道の職員を呼びつけ、多額の税金を使わせていた自民党の長谷川岳参院議員。この5年間に知事や道職員による長谷川議員との面談を伴う出張がのべ1500回近く、旅費は計1億2千万円以上にも▼しかも長谷川議員は叱責や威圧的な言動をくり返していました。権力をかさに着た、もっともたちが悪いハラスメント。ふんぞり返る本人はもちろん、対策を進めるどころか、それをのさばらせる党の責任は大きい。


きょうの潮流 2024年6月5日(水)
 家電や家具、寝具にベビーカー。買い物に行った総合スーパーで、4万円均一のセールが始まっていました。買い控えが広がるなか、一部商品を割り引いて消費を喚起する狙いです▼今月から実施される「定額減税」。物価高の影響をうけ、1人4万円を減税するというものですが、街の声は厳しい。生活に欠かせないあらゆるものの値段が上がり続け、これから電気やガス代も。これではまったく足らないと▼テレビの世論調査では6割が「評価しない」と回答。専門家も「物価高の逆風を打ち消すほどの影響力はない」といいます。不公平さも指摘され、物価高騰の対策をいうならば、消費税減税こそ必要ではないかと批判されています▼しかも減税を実感させるために、政府が無理やり給与明細に明記するよう義務付けたことで事務作業は煩雑化。制度の複雑さに加え企業や自治体に大きな負担を強いることとなっています。1回限りの減税なのに▼対策にもならず、効果も期待できない。その場しのぎで、無駄なコストをかけ、あちこちで悲鳴があがる愚策をよくも。いくら政権浮揚をもくろんでの減税といっても、あまりに国民を愚弄(ぐろう)するやり方にこの政権の救いようのなさが表れています▼内閣府の国民生活に関する世論調査をみると、現在の生活に「不満」と答えた人が初めて5割をこえ、1年前に比べてくらしが悪くなったという人は過去最多に。一方で私腹を肥やす自民党。いま最も家計の助けになるのは政権交代ではなかろうか。


きょうの潮流 2024年6月4日(火)
 戦争で愛する家族をはじめ多くを失った主人公寅子(ともこ)。戦争を放棄し、個人の尊重や法の下の平等を掲げる日本国憲法を手に立ち上がる―。NHKの朝ドラ「虎に翼」のこのシーンに胸が熱くなりました▼兵庫県で暮らす小林宝二さん(92)は耳が聞こえません。2年前に亡くなった妻の小林喜美子さんも。64年前に2人は結婚。数カ月後、喜美子さんの妊娠が分かり喜び合いました▼その翌日―。2人の母親が話し合い喜美子さんは病院に。「子どもを捨てる手術を強制されました」。また赤ちゃんを、との願いがかなうことはありませんでした。2人に伝えられることなく不妊手術をさせられていたからです▼「不良な子孫の出生を防止する」。旧優生保護法はそううたい、喜美子さんに手術を強いました。制定されたのは、憲法が施行された1年後のことです。国は、障害のある人たちを「劣った人間」で平等に扱わなくてよいとする優生思想を社会にしみわたらせました▼「裁判官、私の声が届いているでしょうか」。宝二さんは先月末、最高裁大法廷で車いすの上から手話でそう語りかけました。「子どもを捨てられ、子どもが生まれない手術もされ、差別された苦しい人生を、どうか理解してください」▼寅子を励まし再起させた憲法13条と14条。この下で抑圧され、差別されつづけてきた被害者に、国はしっかり向き合い、謝罪しなければなりません。最高裁判決がどうなるか、見守りたい。障害のある人たちが翼を手にはばたけるように。


きょうの潮流 2024年6月3日(月)
 狢と書くムジナは、アナグマの異称で、毛色が似ていることからタヌキをそう呼ぶこともあると辞典にあります。違うように見えても実は同類であることを「同じ穴のむじな」というと▼ひとを化かし悪さをするところも同様で、多くは悪事を働く者たちに使われてきました。いま、このことわざが政界で飛び交っています。裏金事件を受けた自民党の政治資金規正法の改定案をめぐって▼「英断を示した」と公明党の山口代表がもちあげれば、岸田首相は「踏み込んだ案を決断した」と重々しく。しかし合意案は巨額の裏金や公金を利用して好き放題やってきた自民党政治に渦巻く不信や怒りに背をむけています▼金権腐敗の根源である企業・団体献金の禁止もなく、使途を明らかにしない政策活動費も温存。本丸には手を付けず、小手先の対策で国民をごまかそうとするものです。以前、山口代表は「同じ穴のむじなとは見られたくない」と口にしていましたが、やっぱり自民と公明は同じ穴のむじなだったと批判されています▼ことわざの由来には、アナグマの掘った穴にタヌキも住み着くことがあるからとも。その“一つ穴”に入ってきたのが日本維新の会です。他の野党と一致して企業・団体献金の禁止や政策活動費の廃止を迫っていたのに、それをほごにして▼政治とカネの問題をどう解決していくか。求められている改革からかけ離れたところで仲良くムジナ穴に収まる自公維。国民のくらしは悪くなるばかり。だまされてなるものか。


きょうの潮流 2024年6月2日(日)
 梅雨入り前の青空に子どもたちの歓声が響きました。1日、石川・珠洲市の住民が開いた運動会。みんな一緒に思いきり体を動かし、笑顔がひろがりました▼一方で、輪島市の仮設住宅では独り暮らしの70代女性が亡くなっていました。孤独死とみられています。元日の地震後、自宅から避難した女性は4月に仮設住宅へ。ひとりで入居していたといいます▼能登半島地震の発生から5カ月がたちました。避難生活で体調を崩したことなどによる「災害関連死」は30人と認定され、遺族からの審査申請も相次いでいます。今後さらに増えるとみられ、助かった命を守り抜くとりくみが急がれます▼被災地の取材でこんな声を聞きました。地震後しばらく車中泊で過ごしていたが、体がきつくなって避難所へ。しかし、床に雑魚寝のような環境と、他人に気をつかう日々にほとほと疲れ、また車に戻ったと▼熊本地震では死者の8割を占めた災害関連死の主な原因を、高齢者などの要配慮者が慣れない環境で長期間の避難生活を強いられたことによる肉体的・精神的負担としています。関連死を防ぐために、国や自治体は被災者の見守りや健康面のケア、地域の再生に力を注ぐときです▼それなのに政府の対応は遅々として進まず、石川県も万博に予算をふりむけています。被災地では地域のつながりをとりもどそうとする動きもはじまっています。命を守る、被災地に寄り添うというならば、前に進もうする思いにこたえる手だてこそ尽くすべきです。


きょうの潮流 2024年6月1日(土)
 定刻前より各門外に群集したる男女は、四方より乱入して、ほとんど往来もかなわぬほどだった―。日本初となる洋風公園の開園にわいた市民の様子を当時の新聞が伝えています▼明治の文明開化の息吹のなか、121年前のきょう、東京に日比谷公園が誕生しました。洋花、洋楽、洋食の「三つの洋」を配し、マツやヒノキ、イチョウやサクラなど300種、2万4千本をこえる樹木や草花が植えられました▼造園学者の進士五十八(しんじ・いそや)氏によると、日比谷公園を原型として各都市に近代公園が波及。公園にたいする市民の意識も変わっていったといいます。底流に思いやりと癒やしがある公園は人びとの生活とともに育まれてきた文化であると▼都心に根付いた日比谷公園がいま再開発の波にさらされています。バラや芝生の美しい「第二花壇」はすでに壊され、公会堂に隣接する「にれのき広場」はアスファルトに。10年かけて施設の破壊や樹木の大量伐採をともなう大改造を強行する計画です▼オアシスから稼げる公園へ。東京都とともに主導しているのが、神宮外苑の再開発も手がける三井不動産です。グループ社をふくめ、そこには何人もの都の幹部が天下りしていることも「東京民報」の取材でわかっています▼小池都政と大手開発企業が結託して推し進める、もうけ本位の再整備計画。貴重な歴史遺産や文化財、環境が乱暴に消されていく都市の向かう先は、先人たちがめざした、潤いのある人間らしい暮らしと逆行するまちづくりです。


きょうの潮流 2024年5月31日(金)
 きょう31日は、世界保健機関(WHO)が定める「世界禁煙デー」。たばこは人体に悪影響を及ぼすだけでなく、年間4兆5千億個ものポイ捨て吸い殻は、海や川などの環境を壊します▼1989年に制定され、今年のスローガンは「たばこ産業の干渉から子どもたちを守る」。日本でも31日からの1週間を禁煙週間とし、著名人を招きイベントが行われます▼芸能界で禁煙に挑戦した一人、お笑い芸人サンドウィッチマンの伊達みきおさん。2021年にステージ1の膀胱(ぼうこう)がんと診断され、ブログで禁煙の決意を表明すると、賛同の投稿が相次ぎました。著名人の禁煙発信が市民の禁煙促進に▼政界では自民党の茂木敏充幹事長とたばこの問題が話題です。至る所に喫煙場所を求め、官僚の間では「接遇メモ」まで用意されているとか。禁煙ジャーナル編集長の渡辺文学(ふみさと)さんは「自民党のNo.2が喫煙者では、国会の『タバコ規制対策』が進展するはずがありません」▼国際的な問題にもなっています。日本たばこ産業(JT)はロシア国内での生産・販売によって、毎年3千億~4千億円もロシアに納税。このためウクライナから「戦争支援企業」との批判が▼日本ではJTが喫煙所を設置、維持費を公費でまかなって喫煙環境を提供しています。JTはたばこの未来を危惧し市場創出へ新製品を開発していますが、筆頭株主は財務省です。「国が構造的に喫煙者に仕立て上げている」と渡辺さん。たばこをめぐる問題の本質は政治問題と指摘します。


きょうの潮流 2024年5月30日(木)
 大きな力(権力)を持つ文部科学省が、公共放送のNHKに“圧”をかけた―これが今回の構図です。中央教育審議会の特別部会が教員の「働き方改革」や処遇改善を議論して審議結果をまとめたと報道した夜のニュース番組(13日)に対し「大変遺憾」だと▼教員給与の「定額働かせ放題ともいわれる枠組み自体は残ることになります」という放送は「一面的」―。文科省はホームページで発表してムキになっていますが、果たしてそうか▼中教審の審議結果の紹介や解説、教育現場の反応、専門家の意見…。それらはよくある報道の構成です。放送法にいう「放送の自律」に基づいています▼過去には2001年に教育テレビで放送された「シリーズ戦争をどう裁くか 第二回 問われる戦時性暴力」をめぐる事件が。「従軍慰安婦」問題を「女性国際戦犯法廷」の形で扱った番組に、当時官房副長官だった安倍晋三元首相らが「公正・中立」ではないと介入、「改ざん」させて放送に至ったことがありました▼昨年、放送法の「政治的公平」の解釈変更をめぐる安倍政権内のやりとりを記した総務省の「行政文書」問題が浮上。特定番組に介入しようとうごめく議論は放送の自由にかかわる問題ですが、岸田自公政権は官邸の圧力があったことを認めませんでした▼放送法は「健全な民主主義の発達に資する(役立つ)」放送をするよう定めています。権力者の言いなりにならない、自由のために役立つ放送を。この自律の権利を生かしてほしい。


きょうの潮流 2024年5月29日(水)
 629床が休止した都立病院。問答無用で開発・樹木伐採を推進する神宮外苑。新ルートで過密化する羽田空港―。日本共産党の都議団がつくった「小池都政の大問題MAP」が好評です▼まちを壊し、格差を広げる再開発。大型道路は予算増で住宅耐震は予算減。都庁に映像を映す電通ライブへの都税投入と、どれもイラスト付きでわかりやすい。くらしに無関心、都民の声を聞かない、経済界ファースト。それが小池都政の特徴だといいます▼そういえば小池百合子都知事が公約に掲げた「7つのゼロ」はどうなったのか。満員電車ゼロや残業ゼロは達成の見通しも立たず、介護離職ゼロや多摩格差ゼロは改善の気配さえありません▼待機児童ゼロも、都民の世論と運動で保育園の数を増やしてきたものの、隠れ待機児童をふくめると、なお多くが認可保育園を利用できない状況にあります。最近では「ゼロ」の声も聞こえません▼来月20日告示の都知事選に蓮舫氏が名乗りをあげました。自民党の政治とカネの問題を正し、小池都政を転換させようと。会見では「格差で光が当たらない、困っている人たちに政策を届けたい。仕事、食べ物、安心を、子どもたちには教育の充実を届けたい」と訴えました▼8年前、反自民を呼びかけ都知事となった小池氏。しかし共産党都議団が示した小池都政の特徴は、そのまま岸田政権に当てはまります。首都から自民党政治を終わらせる、小池都政をリセットする。みんなの希望をかなえるたたかいです。


きょうの潮流 2024年5月28日(火)
 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が話題です。帯には「疲れてスマホばかり見てしまうあなたへ」とあり、身につまされて手に取る人も多いのでしょう▼著者は文芸評論家の三宅香帆さん(30)。IT企業に就職した1年目、本を全く読んでいないことに愕然(がくぜん)とし、自分が自分でなくなったような空虚感と読書への渇望に耐えきれず、その3年半後に会社を辞めました▼興味深いのは、当時、本を読む時間はあったのに、本を開いても目が自然と閉じてしまっていた、と語っていることです。単に時間の問題ではないとすれば、そこにはどんなメカニズムが働いているのか▼「読書は労働のノイズ(雑音・不要な情報)になる」と分析します。経済効率優先の労働にはノイズの除去と自己管理が必要な一方、本は社会や感情、未知の領域等のノイズを提示してくる制御できない存在で、だから読書は排除される、と▼しかし教養とは「自分から離れたところにあるものに触れること」であり、読書は「自分から遠く離れた文脈に触れる」経験をもたらしてくれる、と著者。仕事に直結する情報しか受け付けない生活では、他者との交流や過去から未来へのつながりの中で自己を捉えることも難しくなるでしょう▼働いていても本が読めるよう、著者は「半身で働く社会」を提案します。全身全霊で働くのをやめれば「片方は仕事、片方はほかのものに使える」。さて当方、逆に本を読むのが仕事。半身を何に使うか思案中です。


きょうの潮流 2024年5月27日(月)
 「まるでUFOの出現や宇宙人の襲来に備えるような話だ」―。先日の衆院総務委員会で参考人として陳述した白藤博行専修大学名誉教授の例えに笑ってしまいました▼国会で審議中の地方自治法改定案。個別法で想定できない「国の安全に重大な影響を及ぼす事態」に際し、国が自治体に必要な指示ができるようにすると。白藤氏は「個別法でも想定できない事態が、地方自治法という一般法で想定できるはずがない」▼国は大規模災害や感染症のまん延などをあげ、しきりに想定外と言いますが、東日本大震災で福島第1原発が事故を起こしたのは国と東電が津波の想定を無視したから。新型コロナで病床が足りなくなったのは国が病床削減したからでは▼戦争などの有事も思い浮かびますが、有事法制(事態対処法、国民保護法)は国の指示権を一定認め、その範囲は限定されています。それすら「想定外」として際限なく指示の範囲が広がれば、戦前の国家総動員体制と変わらないことに▼仮に、地方の山村に宇宙船が飛来し、「未知との遭遇」のように村人が宇宙人と遭遇したとしたら…。村人は言葉の通じない客人をあたたかく迎え、村長が役場の職員や村人に宇宙人の受け入れに必要な指示を与えるのでは▼「必要なのは危機管理の現場化、地域化ではないか」と白藤氏。想定外に最初に遭遇するのは自治体の現場です。もし宇宙人などが現れたら、いまの政府は霞が関の会議室でオロオロするばかりで、「指示」どころではないのかも。


きょうの潮流 2024年5月26日(日)
 ある新聞の、お悩み相談の回答がSNSで話題になっています。ウクライナ侵攻やガザ攻撃に憤る男性。自分の生活を平穏に送ることだけを考えればよいか、どのように気持ちを保っていけばいいのかと▼そんなに心配ならば実際に戦場に出向いて最前線で戦ってくればいいのに、と回答者。さらに、そんなことを嘆く前にいま自分が幸せなことに感謝して周りにいる人たちを大切にしようと答えます▼この回答には、いやなことに目を閉じて耳をふさぐことがいいとは思わない、平和ボケしているんじゃないか、との批判があがっています。それを掲載した新聞や追従するような記者のコメントにたいしても▼まさに無関心さを問題にした映画が今週末に公開されました。アカデミー賞の国際長編映画賞と音響賞を受賞した「関心領域」。アウシュビッツ強制収容所と壁一枚を隔てた邸宅に住むルドルフ・ヘス所長一家の日常を描きます▼美しい庭に囲まれ、不自由なく暮らす家族。しかし銃声や叫び声は絶え間なく壁の向こうから黒煙が立ち込めます。大量虐殺の隣で守られる自分たちの生活。映画は人びとの無関心がつくる世界を暗示させます▼関心領域とはナチスがアウシュビッツを取り囲む地域を表現するために使った言葉だといいます。グレイザー監督は「偏見や抑圧、国家による支配、非人間的な考え方の恐ろしさを語る映画」だと。誰かの犠牲を見ないことによって保たれる平和は、本当の平和といえるのか。そう問いかけるように。


きょうの潮流 2024年5月25日(土)
 子どもの権利条約を日本政府が批准してから、今年で30年になります。日本の子どもたちの権利は守られているでしょうか▼国会では、子どもの権利の保障に逆行する事態が進んでいます。父母が同意していなくても裁判所の判断で離婚後「共同親権」を認める改定民法が成立しました。子どもの安心・安全が脅かされかねません。子ども・子育て支援法の改定案では、子どものことより軍事費増を優先。子育て世代の負担軽減はどこへやらです▼日本の教育は国連の子どもの権利委員会からの勧告で「あまりにも競争的」と指摘され、「ストレスフルな学校環境から子どもを解放すること」を求められています。「学校での体罰の禁止が実効的に実施されていない」とも指摘されています▼児童虐待も増え続けています。虐待が原因で亡くなる子どもは毎年50人前後。権利条約は19条で虐待・放任からの子どもの保護を掲げていますが日本では対応する児童相談所などの体制が追いついていません▼休息や遊ぶ権利、意見表明権、差別の禁止…。いずれも条約が示している子どもの権利がきちんと保障されていない現状があります。なにより子どもの権利条約自体がまだまだ知られていません▼一方で多くの人の運動で医療費や給食費などの無償化が各地で実現し、広がりをみせています。子どもの意見を聞き、尊重しようという取り組みもさまざまな分野で広がっています。条約を生かした施策を求め、子どもを真ん中にして力を合わせましょう。


きょうの潮流 2024年5月24日(金)
 国のエネルギー政策の中長期的な方向性を示す「エネルギー基本計画」。その見直しに向けた議論が、経済産業省の審議会で始まりました▼経済界の委員は、さっそく「(原子力の)新設・リプレース(建て替え)も含めた原子力技術の安全利用の拡大、早期再稼働を」と発言。別の委員は「原発の開発をどう進めるのか、明確にしていただきたい」と▼原子力に詳しい委員からも、「脱炭素社会の実現に向けて原子力を使わない手はない」などと、原発推進を求める意見が相次ぎました。前回、基本計画を改定したのは2021年で、原発の依存度を「可能な限り低減する」と明記していました▼今回、基本計画の見直しに当たり、この「可能な限り低減する」の表現を見直してもらいたいと、原発を持つ大手電力などでつくる電気事業連合会の会長が会見で表明。その具体化の一つとして、事故を起こした電力会社が過失の有無にかかわらず無限責任を負う原子力損害賠償制度の見直しを求めました▼審議会でも経済界から、原発の新増設を進めるため、同制度のあり方など「国が電力会社を支える手だて」が必要だとの発言が。以前から財界は、電力会社の賠償に上限を設けることを明記するよう要求してきました▼原発の「最大限活用」を掲げて原発回帰へかじを切った岸田自公政権。東京電力福島第1原発事故の教訓を忘れたかのよう。委員構成など、今回の計画の審議プロセスや内容を見直せとの声が若者や市民からあがるのは当然です。


きょうの潮流 2024年5月23日(木)
 逮捕された当初から母親にあてた手紙で無実を訴えていました。「僕は犯人ではありません。僕は毎日叫んでいます。ここ静岡の風に乗って、世間の人々の耳に届くことを、ただひたすらに祈って僕は叫ぶ」▼事件の発生・逮捕から58年、死刑確定から44年。袴田巌さんの再審=やり直し裁判が結審しました。検察側は有罪の立証ができないまま、改めて死刑を求刑しました▼でっち上げの証拠に自白の強要。戦前の特高をほうふつさせる取り調べ。救う会が編んだ獄中書簡にこう記されています。「殺しても病気で死んだと報告すればそれまでだと脅し、罵声を浴びせ、こん棒で殴った」(『主よ、いつまでですか』)▼えん罪とされる袴田さんの裁判は一家4人を惨殺した真犯人を取り逃がすとともに、日本の捜査機関のぬぐいがたい過ちを突きつけました。公安がうその報告書をつくり違法逮捕した大川原化工機事件のように、国家による最大の人権侵害であるえん罪はいまだ後を絶ちません▼刑事裁判を長く担当した裁判官は捜査機関が証拠をねつ造するはずがないという先入観はすてるべきだといいます。どうすれば無実の人をできるだけ早く救えるか。再審や死刑制度とともに警察や検察のあり方を変えることは急務です▼つれそい、闘ってきた姉の袴田ひで子さんは「大変、長かった」と。再審開始を決定した村山浩昭元裁判長は「こういうことはあってはならない」としてこう訴えます。救済されるべきものは救済されないとおかしい。


きょうの潮流 2024年5月22日(水)
 この時節になると、よく見聞きする句があります。江戸時代の俳人、山口素堂の〈目には青葉/山ほととぎす/初鰹(はつがつお)〉。季節の魅力を五感で感じさせます▼俳句歳時記によると、黒潮にのって北上してくる初鰹の時期と青葉の茂るころが重なり、初物好きの江戸っ子たちに珍重されました。カツオは「勝魚」ともいわれ、高値で取引されたそうです▼ちかごろ、その初鰹の時期が早まったり、戻り鰹のように脂がのっていたりするといいます。カツオにかぎらず、旬がずれ、不漁になる魚も増えています。背景には地球温暖化の影響がいわれています▼折々の自然や古くからの営みを大きく変化させている地球温暖化。山火事や熱波、大洪水…。それによって引き起こされる異常気象は、いまも世界各地で猛威をふるっています▼この期に及んでも環境破壊をやめようとしない人間社会。科学的社会主義の創始者の1人、エンゲルスは「動物は外部の自然を利用するだけ」であって「人間は自分が起こす変化によって自然を自分の目的に奉仕させ、自然を支配する」と(『自然の弁証法』)▼先日リニア新幹線の工事に伴い、岐阜県の集落で井戸やため池の水位が低下していたことがわかりました。トンネルを掘りまくる工事は各地で水枯れを起こしています。「われわれ人間が自然に勝利するたびごとに、自然はわれわれ人間に復讐(ふくしゅう)する」。エンゲルスは先の著書のなかで訴えています。後は野となれ山となれの資本主義の先の社会をみすえながら。


きょうの潮流 2024年5月21日(火)
 先の日曜夕方、渋谷のハチ公前で、ささやかな「連帯スタンディング」がありました。集まったのはアラ還の7人。「ストップ・ジェノサイド・ガザ」を訴えると、スマホで撮影する外国人観光客や、飛び入りで連帯するインド人青年もいました▼呼びかけた、なっちぃさんは「人数が少なくても、関心のある人が足を止め、話ができるのがすごくうれしい」と。じつは7人はX(旧ツイッター)の「声を出して読みたい『しんぶん赤旗』」の“読者仲間”です。毎朝8時半から、音声機能「スペース」で「赤旗」を1時間読み合わせしています▼「Xに毎朝6時20分から7時までの『読む会』があるんです。読み切れないところを読もうと、1年前に私たちの会を始めました。読む幅が広がって『赤旗』がいっそう面白い。参加者が1人、新たに購読してくれました」と、なっちぃさん▼札幌の、梅ふうみさんは連載小説を読む担当です。上京のついでに渋谷に駆け付けました。声の“読者仲間”と初めて対面。互いに「前から知っていた気がする」と喜びました▼3日の憲法記念日、梅ふうみさんにうれしい出会いがありました。札幌の街頭で共産党の宣伝をしていると、60代の男性がやってきて―「チラシ下さい」「どうぞ」「あっ、その声は」「梅ふうみです」。なんと男性は「読者会」の最近の常連さんでした。いま男性に購読をすすめ中です▼時空を超えた新しいつながり。「楽しいから苦にならない」と今朝も声に出して読んでいます。


きょうの潮流 2024年5月20日(月)
 あのときも、おとなの対応だとかばう声がありました。自民党の麻生副総裁から自身の容姿をやゆされながら「どのような声もありがたく受けとめている」と受け流した上川外相に▼こんどは当の本人が問題発言をしました。18日、静岡知事選の応援演説に集まった女性らに支持をよびかけ「一歩を踏み出したこの方を、私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」と▼比ゆだとしても、女性の出産と結びつけたのは明らか。さらに続けて「きょうは男性もいらっしゃいますが、うみの苦しみは本当にすごい」とも。それをただす批判に対し言葉狩りのレッテルを貼るほうがおかしくはないか▼わざわざ「私たち女性」を主語にして、そうしないのは女性ではないという言い方を。これでは、女性は子どもをうむのが当然だととられてもしかたがありません。本人も翌日に発言を撤回しました▼もとより結婚や出産は個人の自由。子をもちたくても、もてない人たちもいます。個々の選択や苦悩に少しでも思いを寄せれば、こうした言葉にはならなかったはずです。政治家として、少子化対策や女性の社会参画にかかわってきた閣僚として、あまりにも自身や周りの偏見に無自覚ではないか▼背景には戦前の家父長制や男尊女卑の家族の姿を「美しい国」と美化する自民党政治があります。「女性パワーで未来を変える」というのが真意だと弁明した上川氏。それを妨げているのがみずからの言動であり、属する政党だということがわからないのか。


きょうの潮流 2024年5月19日(日)
 幼い頃、「孤独感」を抱いていました。人とのちがいを気にしていた自分。できないことはないと努力してきたのは、ちがいを意識しなくてすむように▼生まれたときから右腕が肘までしかなかった辻沙絵さん。なんにでも挑み、ハンドボールでは強豪校のレギュラーとして活躍。進んだ日体大で障害者スポーツの世界へ。それまで健常者とプレーしてきたことで葛藤もありましたが、あるがままの自分を受け入れられるようになったといいます▼ほんとうの意味で向き合った、みずからの体と心。同じように障害がありながら自分を表現し、競いあうパラスポーツとの出合いは「人生で大切なものを発見するきっかけをつくってくれた」(『みんなちがって、それでいい』)▼その辻選手も出場するパラ陸上の世界選手権が神戸のユニバー記念競技場で開かれています。30年前にベルリンで始まった大会は東アジア初開催となる今回で11回目。コロナで2度延期されましたが、およそ100カ国・地域から千人をこえる選手が集いました▼共生社会の促進や国際親善にむけて、「つなげる」「ひろげる」「すすめる」を掲げる大会。人間の可能性を肌で感じさせる、トップ選手の圧巻のプレーや熱戦が25日までくりひろげられます▼“ちがい”をみとめあい、だれもが笑顔でくらせる社会こそが共生社会。パラアスリートはその道をつくることができるという辻選手。アスリートとしてだけでなくひとりの人間として、かべや差別のない社会をめざして。


きょうの潮流 2024年5月18日(土)
 加害者に加担する法をごり押しするな。弁護士はいいます。子どものためにならない。親は訴えます。24万人をこえた反対署名は実質的な「離婚禁止制度」だと▼婚姻中の父母に認められる共同親権を離婚後も可能とする改定民法が成立しました。現行法でも共同養育は選べるのに、虐待やDV加害者に「武器」をあたえ、リスクが増すだけの法をなぜ早急に通すのか。不安の声はひろがっています▼「最大の問題は離婚する父母の合意がなくても裁判所が共同親権を定めうる点だ」。採決に反対した共産党の山添議員は、審議でも弊害を懸念する発言が相次いだとして、国民的な合意なくして押し切ることは許されないと批判しました▼家裁に丸投げするのか、暴力や虐待にさらされた被害者をさらに追い詰めるのか。子どもの意思や決定権はどこまで反映されるのか―。親子の関係と家族のあり方を左右する戦後民法の根本にかかわる改定にもかかわらず、問題や不備はつきません▼だいたい夫婦別姓や同性婚はいつまでも認めないのに、立法事実さえなきに等しい共同親権はさっさと通す政治とは。それを「家族関係の多様化に対応した見直し」というのか▼戦前の親権者は父親でしたが、今は離婚後の親権の9割近くを母親が占めます。そこには家庭や子育てのありようが表れています。個人の尊重を最も大切な価値とする憲法にも反する合意のない共同の強制。改定法は2年以内に施行されるといいますが、あきらめるわけにはいきません。


きょうの潮流 2024年5月17日(金)
 何を根拠にそう断言できるのか―。共産党の小池書記局長が報道番組で迫りました。官房機密費を選挙目的で使うことはない、と強弁した自民党議員に対して▼おりしも、参院選広島選挙区の大規模買収事件を追い続ける中国新聞がこの問題でスクープしたばかり。2000年以降の自民党政権で官房長官を務めた人物が、国政選挙の候補者に陣中見舞いの現金を渡す際に官房機密費を使ったと証言しました▼「選挙ではいけないと思う。税金だから」と不適切な支出を認める元官房長官。別の官房長官の下で副長官を務めた元衆院議員は機密費を「この世に存在しないはずのカネ」と例え、どういう使い方をしても違法にならないと語ります▼歴代の政府は機密費について「国の事業を円滑かつ効果的に遂行するため、その都度の判断で機動的に使用する経費」としてきました。しかし実際は、巨額の税金が党利党略や私的に流用されてきました▼機密費の使途を示す政府の内部文書を、共産党が公表したことがあります。当時の志位委員長は、国家機密と弁明できる支出は1項目もなく、日本の政治を奥深い闇のなかで腐敗させている根源だと。本紙は今年2月、安倍派5人衆の松野前官房長官が退任までの2週間に機密費4660万円を“持ち逃げ”していたことも報じました▼裏金や闇金、企業・団体献金を力の源泉としてきた自民党。現政権も、なんとかごまかそうとするばかり。高まる政治への不信は、この党の存在がもたらしています。


きょうの潮流 2024年5月16日(木)
 金曜8時の放送だったので「金八」と主人公の名が決まり、テレビドラマ「3年B組金八先生」が誕生しました。脚本家・小山内美江子さんの訃報にふれ、45年前に始まったドラマが思い起こされます▼受験競争、いじめ、学級崩壊と中学生たちが直面する困難な問題に切り込みました。妊娠・出産の回では、世間体に抗(あらが)う当事者たちの肉声が響きました。中学生の視聴者から大きな支持を得たのもうなずけます▼小山内さんは、母親である自らの目線で脚本を書いたと言います。長男やその友人たちから聞いた話もヒントに。性同一性障害を取り上げたのはニュースで見たから。社会の出来事に敏感だったことが、ドラマにリアリティーをもたらしたのです▼「言いたいことは全部、金八のセリフに込めた」と小山内さん。本紙で、大河ドラマ「徳川家康」に主演した滝田栄さんと対談し、憲法の話に。金八先生が憲法前文を読み上げて「君たちが出ていく世の中はこういう世の中なんだ」と語りかける場面について述懐しています▼太平洋戦争の折、横浜大空襲で死に遭遇する一歩手前までいった体験が。近年、戦争法反対のデモにも参加。イラクによるクウェート侵攻を機にヨルダンでボランティア活動を。カンボジアに学校をつくる取り組みも始めます▼享年94歳。子どもたちの命に深いまなざしを注ぎ続けた生涯でした。戦火は今も世界を覆い、毎日のように伝えられるガザの子らの悲報。小山内さんが健在ならどう行動したでしょうか。


きょうの潮流 2024年5月15日(水)
 日々のニュースから新型コロナウイルスの情報が絶えて久しい。しかし今も感染は収まらず、後遺症に悩む人も少なくありません。未知のウイルスと人類との格闘は、今後も続くでしょう▼人間が自然環境におよぼしてきた負の影響。コロナパンデミックを経験した私たちは、地球の健康、動物の健康、人間の健康を一つのこととして考えなければならない時代を迎えています▼ウイルスの感染拡大は基礎研究の大切さも痛感させました。未知から既知へ。真理の探究や新たな知の発見は科学の発展や人類の未来につながります。ところが日本では無駄と切り捨てられ、経済効率優先の研究がもてはやされています▼ある大学の研究室を舞台にウイルスと闘う女性教授たち。その奮闘ぶりを描いた青年劇場の「深い森のほとりで」が新宿・紀伊国屋ホールで19日まで公演されています。男性優位の格差や雇い止め、稼げる研究をと追い立てられる現状を映しながら▼「基礎研究は方向性が見えにくく結果が出るまで時間がかかり、さまざまな困難も伴う。それでも仲間と力を合わせ、世のため人のためにと頑張っている」。理化学研究所の研究者が上演後の座談会で語っていました。挑戦的な研究に打ち込む環境が失われ「研究力の低下」も問題に。劇は、背景にある国の運営費交付金の削減を告発しています▼戦争や地球温暖化に歯止めがかからず、閉塞感が漂う今、科学の力を手に未来を切り開こうとする人びとの輪。そこに希望がみえてきます。


きょうの潮流 2024年5月14日(火)
 米国の大学で次々に設営されるガザ連帯キャンプ。学生たちの怒りが社会を突き動かしています▼米東部のコロンビア大学で始まった動きは今や全米50カ所以上に。暴力的排除に乗り出す大学がある一方、学生に耳を傾け、イスラエル関連企業への大学基金による投資引き揚げの検討を表明する大学も▼不正義への抗議が社会を前進させることを米国の歴史は教えています。公民権運動の闘士たちは反人種差別の行動で何十回も逮捕されながら運動を続けました。ベトナム侵略戦争、南アフリカのアパルトヘイト…。米国の学生たちの抗議の伝統は今も▼イスラエルの報復攻撃が7カ月にわたり続くガザ。ジェノサイド(集団殺害)に加担することは許されないと大学に迫る学生たち。イスラエルのネタニヤフ首相が一貫して攻撃をやめないのも、軍事支援を続けるバイデン大統領の後ろ盾があるからだと見抜いています▼米国のラップ歌手マックルモアさんが学生たちの行動をたたえる新曲を発表。「投資の撤退、平和を求めることの何が脅威なのか。問題は抗議行動ではない」と歌います。「あんたの手は血で染まっている。われわれは全て見ている。絶対にノーだ。秋には投票しない」とも。バイデン大統領へも痛烈です▼ガザについては意見表明がみられないと指摘される米音楽業界。マックルモアさんは、ジェノサイドに沈黙を続ける同僚アーティストにも行動を促します。「学生たちが立ち上がった。さあ(われわれも)始めよう」と。


きょうの潮流 2024年5月12日(日)
 近年のドラマでは珍しい。NHKで放送されたドラマ「むこう岸」(6日放送)は、子どもの苦悩や抱えている問題をていねいに描いていました。「日本児童文学者協会賞」「貧困ジャーナリズム大賞特別賞」を受賞した安田夏菜さんの同名原作をドラマ化した作品です▼ドラマは家庭の事情で子どもが介護や家事を担う「ヤングケアラー」や生活保護への偏見、子どもの意見を聞かない親の価値観の強制…。そのなかで友情とは? 将来の夢とは? 生きるとは? というさまざまなことを想起させました▼主な登場人物の一人、病気の母親と幼い妹と暮らす樹希は、生活保護の受給に後ろめたい思いを持ち、学費が払えないからと看護師になることを諦めようとしていました▼もう一人は有名私立中学から公立へ転校してきた和真。“いい学校”への進学しか頭にない父親の押し付けに悩んでいました。そんなある日、秘密にしていた転校の理由を同じクラスの樹希に知られたことをきっかけに、二人の友情が生まれます▼暗い部分や感情に訴えるだけでなく、なんとかしたいという樹希の行動力によって、生活保護費を受給している家庭の子女がどう進学すればいいか、参考になる具体的な方法を織り交ぜながら物語が進んだことも作品を際立たせていました▼ドラマからにじんでくるのは、子どもの意見を聞いて苦しみや喜びを理解することの大切さです。訴求力のあるテレビなどが子どもの貧困、意見表明権に、もっと光をあてていいのでは。


きょうの潮流 2024年5月11日(土)
 〈歳晩に火伏せの札を貼り替へて独りのための花豆を煮る〉(折居路子)。今月開かれた40回目の啄木祭短歌大会で最高賞に選ばれた作品です▼ひとり新年をむかえる覚悟が感じられます。日々のくらしや生活感情を率直にうたいあげた啄木。生前刊行した唯一の歌集『一握(いちあく)の砂』は自身の痛苦の声であり、幅ひろく読んでもらいたいと望んでいました▼〈はたらけど/はたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉もその一つ。働く人びとの情感を込めた啄木の代表歌で、1世紀も前の嘆声は今の世にも通じます▼物価の変動を反映させた実質賃金が24カ月連続で前年割れしました。マイナスの期間は過去最長を更新。歴史的な物価高や円安が家計にのしかかり、必要な出費を削り貯金を切り崩しての苦境が続きます。大型連休中には生活困窮者への食料配布に長い列ができました▼当初は大企業の「満額回答」にわいた春闘も、パートや派遣社員にたいしては半数近い企業が賃上げ回答なし。賃上げ回答も平均3~4%ほどにとどまっています。最低賃金では暮らしていけないとの訴えは切実です。一方で昨年度の経常収支は過去最大の黒字に。トヨタ自動車のもうけは日本企業で初めて5兆円を超えました▼社会の矛盾や理不尽さのなかでも、啄木は「新しき明日が来る」ことを信じていました。彼は労働者のストライキが成功したとき、感動を込めて日記にしるしました。「国民が、団結すれば勝つといふ事、多数は力なりといふ事」


きょうの潮流 2024年5月10日(金)
 大阪・関西万博は会場建設現場で起きたメタンガス爆発事故を受けて、開催自体が「いのちの危険」が問われる事態となっています▼万博会場は今もゴミなどの最終処分場で、可燃性メタンガスが発生しガス抜きパイプが林立する場所です。建物内にたまったガスに溶接工事の火花が引火・爆発したのが、事故の原因です▼万博協会は、工事前のガス濃度検査と自然換気を条件に工事を再開しましたが、火気持ち込み禁止もなく危険性は残されたまま。約200万人ともいわれる子どもたちを参加させようとしており、もっとも不適切な場所と指摘されるのは当然です▼ところが、一般新聞もテレビも「パビリオン区域は大丈夫」という協会の発表を検証もなく紹介。メタンガスがパビリオン区域でも発生している事実を示し、爆発事故の危険性を報じたのは「赤旗」だけでした▼共産党大阪府委員会が事故を機に、改めて発表した万博中止を求める声明を、マスコミは取材しながら1行も報じず、市民団体の万博中止を求める主張もカット。開幕1年前の特集や番組でも、不都合な爆発事故には一言もふれぬままでした▼先週東京キー局が放送した現地リポートをめぐって、X(旧ツイッター)では「在阪局と同じ完全なヨイショ宣伝番組」「がっかりだ」と批判が広がりました。世論は半数以上が万博開催に関心がないのに、無批判に持ち上げる。報道の自由度ランキングで日本はG7最下位の70位というメディアの現実は、ここにも表れています。


きょうの潮流 2024年5月9日(木)
 ふたりは、海とともに生きてきました。漁師の家に育ち若い頃に知り合って恋愛結婚。八代海からの恵みをうけ、長く「夫婦船」で生計をたててきました▼ところが、当たり前のように食べてきた魚によって、体がむしばまれていきます。けいれんや手足のしびれ。水俣病の症状でした。「妻は去年の4月、『痛いよ痛いよ』といいながら死んでいきました」と、夫の松崎重光さん▼水俣病と認められないまま亡くなった松崎悦子さん。妻の無念さを重光さんが伝えようとしていたときでした。突然マイクの音が切られ発言はさえぎられました。環境省が水俣病被害者の声を聞く懇談の場で▼「スイッチを切るなんておかしいじゃないですか。人間の常識では考えられんですね。母ちゃんが泣いて苦しんで苦しんで逝ったから…ほんとうに聞こうと思えば時間の問題なんか関係ない」と重光さん。出席した各団体の発言時間は、わずか3分。形ばかりで聞くつもりはないといわんばかりの対応です▼その場にいた伊藤信太郎環境相はきのう謝罪に出向きました。しかし、事務局の不手際というなら、なぜそのときに謝りたださなかったのか。水俣病にたいし、まともな調査もせず、救済も線引きし、全面解決に背を向けてきた自民党政治の姿勢がここでもあらわに▼水俣病が公式に確認されてから68年。国や加害企業のチッソから見捨てられてきた多くの人たちが今も認定を求めて闘っています。長年苦しんできた被害者の声をいつまで切り捨てるのか。


きょうの潮流 2024年5月8日(水)
 「私はナンセンスだと思う」。丸山達也島根県知事が、民間の有識者会議「人口戦略会議」が公表した「消滅可能性自治体」のリストに不満をあらわにしました▼「じゃあ、東京都がすごいがんばっているから人口が増えているの? そんなことないでしょ。出生率、最低だよ」と丸山氏。千葉市の神谷俊一市長も「自然減対策のメインが自治体であるかのような間違ったメッセージだ」と▼全国町村会の吉田隆行会長(広島県坂町長)は「20~39歳の女性人口が半減するという一面的な指標をもって線引き」しているとし、「一部の地方の問題であるかのように矮小(わいしょう)化されてはならない」。全国の首長から苦言が相次いでいます▼人口5700人の岡山県奈義町は日本共産党と町民の運動で、高校卒業までの子ども医療費無料化などきめ細かな子育て支援を実現し、2019年に合計特殊出生率2・95を達成しました。「奇跡の町」とも呼ばれ、今回「消滅可能性自治体」から脱しました▼リストの公表以来、若い女性から「人口減少の責任は私たちのせいじゃない」と怒りの声が届きます。「これから大学の奨学金を返さないといけないのに、こんどは子どもを産めって? 女性に責任を押し付けすぎ」。まっとうな怒りです▼国が教育や社会保障を切り捨て、市区町村に責任を押し付けてきた結果、財政力の強い都市に人口は集まり、地方が衰退しました。国がジェンダー平等とこども政策をど真ん中に置くなら、消滅するのはリストの方では。


きょうの潮流 2024年5月7日(火)
 「強い自己責任論にとらわれていた」と40代のたけしさん。職場で、怒鳴る、物を投げるなどのパワハラに遭い、自己肯定感を削られ、逃げ出しました。路上生活は耐えられず、計2年ほど「ネットカフェ難民」に▼ホームレス支援を受け、雑誌『ビッグイシュー』の販売をしつつ社会復帰しました。しかし、再就職後、うつを再発して引きこもりに。「社会の役に立てない自分は、消えた方がいいのでは」との思いに苦しみました▼そんな時、ふと地元の共産党に相談しよう、と。20歳の時、「応援する気持ち」で入党していましたが、ずっと未結集の状態だったのです▼「地域支部の人たちはありのままの自分を受け入れてくれました」。ゆっくりと回復…。改定された日本共産党綱領を初めて読み、「未来社会論に感銘しました」▼「人間による人間の搾取もなく、抑圧も戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会」。この言葉に、ホームレスの仲間たちを思い出しました。「優しくてしっかりした人もいるんです。でも、社会は厳しくて戻りたくないという。この人たちが生きられる社会はないのかと考えていた。ここに書かれていた!」▼「自己責任論は、弱者やマイノリティーを排除する理論です」とたけしさん。新自由主義とアベノミクスが日本社会を傷つけ、30代、40代の人生を直撃しました。今も低賃金、円安と物価高騰が続きます。自民党政治が人々の生活と尊厳を脅かす根源に―現役世代が気付き始めています。

きょうの潮流 2024年5月6日(月)
 1万8786キロ。2009年から22年の間に廃止された乗り合いバス路線の距離です。実に、地球半周分にも▼都市の一極集中とクルマ社会化、過疎化の進行で交通事業者の撤退が加速しました。バス運転手も長時間労働や低賃金のもと減少が止まりません▼福島県いわき市では4月1日からバス路線が大幅減便され、市民から継続を求める声が。埼玉県では撤退を表明したバス会社に対し自治体が共同で要望書を提出する動きも。東京都足立区ではコミュニティーバスが2路線廃止され、社会実験として運行していたバスも中止とされました▼通院、買い物、通学、外出の足をどう確保するか―いまや地方、都市を問わず共通する問題です。07年から町営バスを運行する長野県木曽町。幹線バスと接続する地域巡回バス、乗り合いタクシーを組み合わせて運用。“足”の確保によって、住民の生活の質が上がったと町職員▼東京都北区の浮間地域では、コミュバスの実証運行が3月下旬から始まりました。病院へも買い物で駅に出るにも歩く以外にない地域。住民が安全で文化的な生活を送るためにバスを、と12年もの粘り強い運動で実現しました▼「交通は人権」と語る交通専門家、可児紀夫さん。コミュニティー形成には市民の移動の確保が欠かせず、安心して暮らすには命の交通網を築くことが大切と。生活基盤である地域公共交通の衰退に歯止めをかけるためには、事業者任せにしないで、国や自治体の積極的な関与が求められています。


きょうの潮流 2024年5月5日(日)
 「少子化対策」。よく耳にする言葉ですが聞くたびに違和感を覚えます。出産や子育てを応援するというより「このままだと日本は大変なことになる。国のために、もっと子どもを産んでほしい」と言われているように感じるからです▼ある女性は「出生率と子育てが切り離されている気がする」と言います。責任を女性にばかり押し付け、妊婦や母親に冷たい社会では「安心して子育てできるとは思えない」と▼民間の有識者会議が4月に「消滅可能性自治体」のリストを公表しました。20歳~39歳の女性の人口が2050年までに半数以下に減る自治体を「最終的に消滅する可能性が高い」とし、全体の4割、744市町村がこれにあたると推計したもの▼これには「人口減少にはさまざまな背景があるなか、なぜ若い女性の減少が『自治体消滅』の指標になるのか」との批判が出ています。「子どもを産むのが女性の役割」と言われているようで、かつての大臣の“女性は産む機械”発言への怒りがよみがえります▼地方自治の専門家からは「自治体に責任転嫁せず、政府が何をするかが鍵だ」という指摘が。子どもを産むか産まないかを決める自由を保障し、希望する人が安心して子育てできるようにすることが国の責任です▼人間は人口増の手段ではありません。なにより大切にしたいのは、生まれてきた子どもたちが自分は大切にされていると思える社会であること。どんな生き方を選択しても自分らしく生きられる社会にすることです。


きょうの潮流 2024年5月4日(土)
 魂のピアニストと呼ばれたフジコ・ヘミングさんはベルリンで生を受けました。スウェーデン人の父がそこでデザインの仕事をしていましたが、ヒトラーが政権を握り5歳の時に一家で母のふるさと日本へ▼ところが日本でも戦争の気配は濃厚で外国人は排斥。「母なんて日本人なのに、年中警察に呼ばれて泣いていた。外国人と結婚したからというだけで国賊扱いだった。父も仕事もなくスウェーデンへ帰ってしまったけど、ああいう日本はごめんだわ」▼本紙のインタビューで当時の「居心地の悪さ」を語っていたフジコさん。東京芸大を卒業後ふたたびベルリンに移ってキャリアを積みますが、聴力を失います。その苦難の歩みが投影された演奏は多くの心を打ちました▼事故で手足の自由を失い、口に筆をくわえて詩画をつづった星野富弘さんも戦争の影響を受けました。山村の農業に見切りをつけ東京にとびだし、苦労の末に成功を収めた父。しかし東京大空襲ですべてが灰に。その無念が自分に託されていたといいます(『愛、深き淵より。』)▼命の尊厳とむすびつき、人々と響き合った創作活動。そこには戦争や暴力に支配されず、ありのままの存在を認める社会をめざしてきた道のりがあります。しかしいま平和が脅かされ、古い価値観にしがみつく自民党政治の悪弊も続いています▼憲法を生かす政治を、個人が尊重される社会を―。3日の憲法大集会にみなぎった思い。それは、亡くなったふたりの人生からも垣間見えてきます。


きょうの潮流 2024年5月3日(金)
 ひとり暮らし世帯が増えています。その要因の一つに未婚率の上昇が。経済的理由で結婚を選択できない人もいますが、ライフスタイルが多様化していることもあるでしょう。少子高齢化がさらに進み、人口減少につながるとの懸念の声も▼ひとり暮らしを強くすすめられている人たちもいます。入所施設で暮らす障害者です。国は「地域移行」とうたい、削減目標を掲げます▼パニックになると物を壊したり、自分を傷つけたり、大声を出したり…。九内(くない)康夫さん(46)の次男(20)は自閉症で強度行動障害があります。3歳で自閉症と診断されたとき頭をよぎったのは「僕たちがいなくなったら誰がこの子の面倒をみるのか」▼22歳の長男にも自閉症があります。「弟を支えたい」。4月から雇用契約を結ぶ障害者事業所で働き始めました。「弟の精神的な支えにはなってほしいと思うけど、生活を丸ごと支えることは望んでいない。彼の人生には可能性がたくさんあるのだから」と九内さん▼そろそろ2人の息子は親元を離れてもいい年ごろです。子どもの将来を考えると、圧倒的に暮らしの場が足りません。入所施設の待機者数は全国で1万8千人超にも▼障害が軽度の人が多く利用するグループホーム。国は地域の中で、と重度障害者にも利用を促します。九内さんは「入所施設でも地域との交流は可能です。障害が重度だからこそ地域とのつながりが必要」と。障害者が安心して自分らしく生きられる、多様な暮らしの場がもっと必要です。


きょうの潮流 2024年5月2日(木)
 労働とは何か。それは「人と幸せをつなぎとめる蝶番(ちょうつがい)」。経済活動は人間の営みであり、人が不幸になってしまえば経済の名に値しない―▼今も国民を苦しめる経済政策を「アホノミクス」と批判した浜矩子(のりこ)さんが訴えています。労働は本来、生活の安定や自己実現の可能性、社会とのつながりをもたらす。そうなっていないのは野生化した今日の資本と政治の魔の手があるからだと(『人が働くのはお金のためか』)▼やりがいの搾取やフリーランス化の勧め。21世紀の搾取と疎外の本質は、低賃金でも、自分たちが労働の「自由な領域」に達しているという幻想を抱かせることにある。労働観や働き方の変遷をたどりながら、浜さんは「見えない搾取の構図を暴くことが課題」だといいます▼資本の側がもくろむ労働者の分断や孤立は深刻な状況です。そのなかで、どう団結をはかるか。雨中のメーデーは、たたかう仲間の連帯を示しました。自分たちの手で人間らしい働き方や社会に変えようと意気高く▼労働のあり方を問うテーマに浜さんが重ねたマルクスの資本論。そこには先日、志位議長が学生向けに講義した「人間の自由」が展望されています。ほんとうの「自由の領域」とはどこにあるのかと▼働く人びとが低賃金や長時間労働にあえぎ、貧困と格差が拡大し、地球の存続さえ危うくさせる資本の横暴。それを転換し、人を幸せにできる経済活動をともにつくろう。過去と現代の経済学者が、21世紀の労働者たちに呼びかけています。


きょうの潮流 2024年5月1日(水)
 大きな耳、輝く黄金色の毛、ふさふさの長いしっぽ…。さてあなたは何を思い浮かべますか▼たぶん頭の中に描かれたのはキツネの姿でしょう。くらし家庭面で4月に連載した「キツネの世界」。昔話や映画など世代をこえておなじみの存在だけれど、実は奥が深いその秘密に迫りました▼天敵から子どもを守るために巣穴を引っ越す「目くらましの術」。イメージよりも実は小さい、ほぼ“太めのネコ”。恋の季節に「コココーン、コーン」と鳴く。ジャンプする影が“化けた姿”に見えることも。知れば知るほど、さらに興味がわく生き物です▼筆者の塚田英晴さんとキツネとの出会いは、北海道にある大学の研究室でした。薄暗くなったころ、緑地から現れた1匹のキタキツネが、舗装された道路を平然と歩き回っていました。観察を続けるうちに「たくましさ」を感じ、研究にのめり込んだと振り返ります▼「ルルルル」と声をかけながら餌付けする映画のワンシーンが独り歩きして、観光ギツネが広がりました。しかし、こうした行為は野生動物と人との距離感を危うくもします。「親しさ」や「好意」を動物に向けても必ずしも動物には伝わらない。それどころか個体が増えて農作物を荒らしたり、病気をうつしたり▼共存するにはルールをつくり、そのルールを守ることが必要だとも。「都市のあらたな隣人として、彼らを迎える準備が必要なのかもしれない」と塚田さん。人と野生動物は共に生きることができるのか。模索は続きます。


きょうの潮流 2024年4月30日(火)
 「ゼロ打ち」という言葉が、SNS上に広がりました。まだ開票が始まっていない段階で当選確実を速報することを指します。接戦ではなく抜け出しているときに出やすい▼午後8時すぎ、当確の喜びにわきたつ東京・江東区の選挙事務所で、酒井なつみさんが改めて決意を込めました。「利権やお金で動く政治ではなくて、国民の声をうけとめて動く、まっとうな政治を実現したい」▼市民と野党の共同候補としてたたかった選挙戦。「みなさまに支えていただいたことは一生、忘れられません」と。昨年の区長選に続く共闘。幅広い支援をうけたことに「安心感があった」と話します▼肌で感じたのは自民党への怒り。「みなさん、怒っていました。いいかげんにしてほしい、しっかり変えてよという、そんな思いがひしひしと伝わってきました」。それは同じくゼロ打ちの勝利となった島根や長崎でも▼とくに小選挙区制の導入以降、自民党が選挙区の議席を独占してきた島根で野党が一騎打ちに圧勝。ここでも有権者の怒りがベースにあったといいます。裏金政治や生活苦をもたらしている失政。衆院3補選の結果は岸田政権への明確な「ノー」となって表れました▼江東市民連合の宇都宮健児共同代表は「岸田政権のダメージは大きい。激変をつくる一歩と受け止めたい」と期待を。酒井さんの事務所に掲げてあった草の根の寄せ書き。そこには、こう記されていました。「市民と野党が力を合わせれば、必ず自民党政治を変えられます!」


きょうの潮流 2024年4月29日(月)
 もし、これが冤罪(えんざい)だとしたら…。ことの重大性に背筋が冷たくなります。公開中のドキュメンタリー映画「正義の行方」(木寺一孝監督)。1992年に福岡県飯塚市で起きた「飯塚事件」に迫りました▼殺害されたのは小学1年生の少女2人。登校中に行方不明になりました。直接証拠がないまま、DNA型鑑定が決め手となって、“犯人”逮捕。でもそれは、導入されたばかりで足利事件で冤罪が確定したのと同じDNA型鑑定でした▼監督は黒澤明の「羅生門」の手法を取り、当事者それぞれの主張を並べます。捜査にあたった警察、「重要参考人浮かぶ」の一報を打った西日本新聞、死刑執行後に再審請求をした弁護団…。何が本当なのか。観客は藪(やぶ)の中から自分の目で見つけることを余儀なくされます▼驚くのは最高裁で死刑が確定された、わずか2年後に死刑が執行されたことです。元福岡県警・捜査1課関係者の一人が語ります。「難しか死刑を下してくれた…。証拠が少なかったけん、早(はよ)うしとかな因縁つけられやせんかちゅうような判決やないと。こう、自分には私は言いきかせた」▼第1次再審請求は棄却。希望は西日本新聞の自己検証です。社内に逆風がある中、自らを“被告席”に立たせ、ゼロベースで取材をやり直しました。検証キャンペーンは2年で83回。1年かけて目撃証人にたどり着いた執念に拍手を送りたい▼“過ちては改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ”。映画は改むることができない日本の警察と司法の姿もあぶりだします。


きょうの潮流 2024年4月28日(日)
 そこは生い茂る草木に覆われた暗い場所でした。山中を抜ける県道脇に捨てられていた遺体。どんなに恐ろしく、つらく、無念だったか。恋人と幸せに暮らしていた日常が突然絶たれました▼8年前のこの日、沖縄県うるま市の女性が元海兵隊員の米軍属に20歳の命を奪われました。ウオーキング中に襲われ、変わり果てた姿に。当時、犯人は乱暴する相手を探していたと供述しています▼被害者は自分だったかもしれない―。くり返す恐怖や痛みの共有は沖縄の苦難の歴史に重なります。いまも占領者のようにふるまう日米地位協定のもと、基地あるがゆえに脅かされる県民の命と生活。叫びつづけてきた魂の飢餓感です▼きょうは、72年前に沖縄が日本から切り離された「屈辱の日」でもあります。本土決戦を遅らせるための捨て石とされた沖縄戦の多大な犠牲。米軍に土地を強奪され、圧政にあえいできた戦後。「屈辱」には悲惨な歴史とともに平和への強い思いが込められています▼痛ましい事件が起きたうるま市で今月、画期的な出来事がありました。ゴルフ場の跡地に計画された陸上自衛隊の訓練場を、県民ぐるみの運動で断念に追い込んだのです。ふたたび戦場にさせてはならないと▼大軍拡に走る岸田政権は米軍と一体となって沖縄を軍事要塞(ようさい)化する企てを加速させています。日米の両政府に対し、基地負担の軽減に向けて積極的に協議するよう求める玉城デニー知事。6月の県議選は知事を支え、平和な沖縄をつくるたたかいです。


きょうの潮流 2024年4月27日(土)
 最大10連休にもなるゴールデンウイークがきょうから始まりました。コロナ5類移行後、初の大型連休で海外に向かう人たちも増えています▼楽しげな様子に影を落としているのが円安と物価高です。なかには自炊で節約しようと大量の食べ物を持参する人も。外貨への両替や現地で買い物をして、こんなに円の価値が下がったのかと実感する人たちも多い▼すでに輸入大国と化した日本。国内では円安・物価高の影響は死活問題になっています。輸入頼みの食料品や燃料の値段は上がる一方で生活を圧迫。原材料費の高騰で下請けや中小企業が苦しんでいるのに、トヨタ自動車など輸出大企業は大もうけをため込んでいます▼止まらない異常な円安。主な原因とされるアベノミクスが開始された2013年の平均レートは1ドル97円ほどでした。異次元の金融緩和、超低金利政策による急激な円安の狙いは「世界一企業が活動しやすい国」にするためでした▼円安や株高、物価高にして企業がもうかれば、給料もあがり消費も増え景気が回復する。そんな幻想はどこへやら。科学性や論理性に欠ける、企業のための政策、くらしの視点が抜け落ちている―。経済学者の山家悠紀夫(やんべ・ゆきお)さんが指摘していたアベノミクスの特徴は今も▼分析も反省もなく踏襲している岸田政権や日銀に、解決の道を示すことはできません。連休中には、メーデーや憲法集会が各地で結集されます。生活の苦難を打開し、平和を守る。道を切り開くのはみずからのたたかいです。


きょうの潮流 2024年4月26日(金)
 先日行われた文部科学省の全国学力テストの問題を見てみました。小学6年の国語の問題です。かつて自分たちが受けてきたテストとのあまりの違いに驚きました▼1問目。ある小学生が、他の学校とのオンライン交流で自分の学校のことを紹介するためにメモをつくり、それを使って交流するというのが問題の設定です。登場人物がどう考えてメモをつくったのか、他校との交流でどんな話し方をしたのかなどを問います。昔のように問題文を読んで意味を考えるようなものはありません▼文学作品を扱った問題もありますが、作品そのものから出題するのでなく、わざわざ作品について子どもたちが話し合う場面を設定し、そこから出題する形になっています▼文部科学省は近年、国語では「実用的」なことを重視する方針です。丁寧に文章を読むことより、メモを作って話したり、「実用的」な文章を読んだり書いたり。まるで企業でのプレゼンや交渉に役立つことを教えているように見えます。学力テストの問題もそうした方針に沿ったものになっているのです▼実用的なことが悪いわけではありません。正確に相手に伝わるように書いたり、話したりする力を育てることはとても重要です。でも学校での国語教育がそれだけでいいのか▼文科省は全国学力テストの目的に「学力や学習状況を把握・分析」することを挙げます。こんな問題で学力が把握できるのか。むしろ、大企業のための人材づくりに教育を誘導する意図が透けて見えます。


きょうの潮流 2024年4月25日(木)
 「泥棒に追い銭(せん)」。かつて政党助成金をそう批判した人物がいました。自民党の最大派閥の会長として権勢をふるっていた頃の金丸信氏です▼当時政府の審議会がまとめた政党助成制度についての答申を念頭においての発言でした。盗人(ぬすっと)に物を盗まれた上さらに金銭をくれてやるようなものだと、政党への公費助成に疑問を投げかけたのです(『政党助成金に群がる政治家たち』)▼金丸氏はその後みずから政治とカネの問題で逮捕されます。金権政治にどっぷりと漬かった人物だけに事の本質を見抜いていたのかもしれません。政党助成法の成立から30年。交付された助成金の累計はすでに9000億円を超え、その半分近くが自民党に配られています▼今年も自民党には160億円が支給され、先日1回目の40億円を受けとりました。裏金事件の渦中で。盗人たけだけしいとはこのことか。裏金づくりは20年以上前からともいわれ、助成金をもらいながら、こそこそと▼追い込まれ出してきた自民党の政治資金規正法の案も、まったくのその場しのぎ。真相の解明も反省もなく肝心要の企業・団体献金の禁止も盛り込まれていません。火の玉になって先頭に立つとの岸田発言もやはり口だけでした▼「政党とは本来、国民の中から誕生し、財政的にも国民に根を張って存続するもの」。政治とカネの問題を追及してきた神戸学院大の上脇博之教授はいいます。どこによって立ち、誰の立場に立っているのか。資金から政党の真の姿がみえてきます。


きょうの潮流 2024年4月24日(水)
 戦火想望俳句。この言葉を俳人で文芸家の堀田季何(きか)さんに教わりました。戦時平時を問わず戦地や戦火に包まれた街の景を想像して作る句のことです▼堀田さんは本紙「俳壇」を2022年から2年間執筆。今年度からは「NHK俳句」に選者として出演しています。主宰を務める「楽園俳句会」は有季も無季も定型も自由律も全て可、多言語対応の結社です▼13日に都内で開かれた「俳人『九条の会』新緑のつどい」でも講演し、今こそ戦火想望俳句を作り広めようと呼びかけました。俳句は、凝縮した言葉で一瞬にして戦争の恐怖を脳裏に焼き付けられる、短さゆえに簡単に伝えられ、平和のバトンを次々に手渡していける、と▼例として池田澄子氏の句〈春寒き街を焼くとは人を焼く〉〈焼き尽くさば消ゆる戦火や霾晦(よなぐもり)〉を挙げ、その師・三橋敏雄が戦火を想像で書くとはけしからんという風潮に対して「そこで死ぬかもしれない場がどのようなところなのかを、必死で想像するのは当たり前のことじゃないか」と反論したことを紹介しました▼「想像力の欠如が戦時の戦争賛美や戦争協力、平時の戦争推進につながる」と堀田さん。自身にも〈塀一面彈痕(だんこん)血痕灼(や)けてをり〉〈ひややかに砲塔囘(まわ)るわれに向く〉〈ぐちよぐちよにふつとぶからだこぞことし〉等の句があります▼もはやウクライナやガザの惨状は苛酷な現実です。かの地でも「戦争止めて」の悲願を込めて俳句が詠まれています。〈屋根なき家今朝までは誰かの家庭 L・ドブガン〉


きょうの潮流 2024年4月23日(火)
 この季節になると口ずさみたくなる歌があります。〽五月の若者が 五月の娘に赤い花ささげる 五月の花…▼学生時代にキャンパスで耳にした女性コーラス。ゆるやかなメロディーとみずみずしい歌詞に、初夏の到来を感じたものです。歌集を見ると、作詞作曲が峯陽(みね・よう)と▼50年代、東大音感合唱研究会に参加しうたごえ運動を主宰する井上頼豊、関忠良らに師事。後年「おばけなんてないさ」など子ども、幼児向けの作詞・作曲で知られ、NHK「みんなのうた」で30曲以上も放送されるほどに▼この峯さんが、全国老地連(全国老後保障地域団体連絡会)の名称で知られる、たたかう高齢者運動のリーダーを担った上坪陽(かみつぼ・ひかり)さんだったとは。訃報記事を目にした筆者にとって、二重の驚きでした▼その活躍がひときわ輝いたのが、2008年4月に強行実施された、75歳以上の高齢者を差別する後期高齢者医療制度の廃止・中止を求める運動でした。同年5月14日、降りしきる雨の中、600人を超す高齢者が厚労省包囲行動。「雨が降ろうが、風が吹こうが、今日の天気よりいまの政治の方がもっと悪い」。酷寒の年末、48時間の怒りの厚労省前座り込みでも「かけがえのない命と人生を守れ」と▼運動に寄せる思いは日本高齢期運動連絡会のニュースに紹介された、第1回全国高齢者大会愛唱歌への上坪さんの応募作品にくっきりと。「長生きして良かったと だれもがいえる明日をめざして 歩きましょう あなたとともに…なかまとともに」


きょうの潮流 2024年4月22日(月)
 納期を守れ―。この発言が批判を広げたのは1年ほど前でした。経済同友会の新浪代表幹事が納期と称して強く迫ったこと。それは、マイナンバーカードの強要と健康保険証の廃止でした▼受けた岸田首相は、さっそく「私自身が先頭に立って進めてまいります」と表明。相次ぐトラブルや国民の不安、混乱などお構いなし。財界の意向にそって突き進んでいく政権の姿は、ここでもあらわになっています▼マイナ保険証の運用が開始されてから3年。躍起になって手を打ってきたが、いまだに利用率は5%程度。それなのに現行保険証の今年12月の廃止を強行するのか。共産党の倉林議員が国会で追及しました。ところが武見厚労相は、利用率に関係なく廃止する、その後も支障は生じないと強弁▼多くの医療現場では、いまもトラブル続きで解消の見通しはたたず、面倒な事務手続きだけが増えています。そんな現状も顧みず、利用率が上がらないことを医療機関の対応のせいにする発言も▼河野デジタル相にいたっては、マイナ保険証での受け付けができない医療機関を「通報」するよう、自民党の国会議員に呼びかけていました。みずからの失政の責任を医療機関や受診者に押しつける。まさになりふり構わぬ、卑怯(ひきょう)なやり方です▼個人情報をビジネスに利用するため、財界が強力に推進してきたマイナンバー制度。臆面もなくいい顔をむけ、実行するのは財界や米国のためばかりの岸田首相。いったい、この国の政府は何のためにあるのか。


きょうの潮流 2024年4月21日(日)
 心地よい風に新緑が揺れる季節。色鮮やかなツツジ咲く公園に子どもたちの歓声がひびきます。穏やかな日常の光景がいつまでも。つよく思わせる日々です▼芝生に座って絵本をひろげる親子の姿がありました。どんな物語が想像の世界にいざなっているのか。希望や喜びをとどける本の力は万国共通です。第2次大戦後の疲弊したドイツ。そこで生きる子どもたちの心をふるい立たせたい。それが国際児童図書評議会(IBBY)の始まりでした▼子どもの本を通して異国の窓を開く活動には現在84の国と地域が加盟。日本支部のJBBYは今年50周年をむかえ、いま東京・神保町の出版クラブビルで「世界の子どもの本展」が開かれています▼夢見る少女が鳥のように羽ばたき、彩られたきれいな街で遊ぶ『ナザレの蝶』。パレスチナの絵本です。雨の中でも歌ったり踊ったり、子どもの生命力あふれる『なんていいひ』。国際アンデルセン賞画家賞をうけた韓国のスージー・リーさんが描く美しい一日です▼「世界ではいまだ子どもたちが犠牲となる紛争が絶えません。そんな時だからこそ、それぞれの国や地域で生み出される本を通して国際理解を深めることが、広い視野と寛容の心を育み、世界の平和な未来をつくる一助となるように」。JBBYの宇野和美会長は、そう願いを込めます▼さまざまな地域の、多様な子どもの本。それは国境や文化、言語の壁をこえて心を弾ませてくれます。物語をつばさに、想像を力に、世界をつないで。


きょうの潮流 2024年4月20日(土)
 創設当時、その地域は混乱に満ちていました。激しい対立や大国の介入、異なる文明や文化、宗教。イギリスの歴史家は「アジアのバルカン」と呼びました▼それから60年ちかく、多様性に富んだ地域につくられたASEAN(東南アジア諸国連合)は大きな成果をあげてきました。平和をもたらし、ここで暮らす人々の生活を向上させ、この地域を牛耳ってきた諸大国を「教化」したことだと研究者はいいます(『ASEANの奇跡』)▼多様であるがゆえに育んできた共同体意識。不完全で弱いがゆえに対話を重ね、形成してきた相互信頼と協力関係。一つの地球村の縮図のような地域で果たしてきた共同体が提示しているもの。それは希望のメッセージです▼戦争はなくならないのではないか。いま暗闇が世界を覆っています。ウクライナで、ガザで、さらに拡大の様相も。どうすれば、私たちの住む東アジアで平和をつくりだせるか―志位議長が提言しました▼自主独立と団結を大切にしてきたASEANのとりくみから学び力を合わせ、東アジアにも平和のための枠組みをつくり発展させる。その道すじを示しながら、困難があっても「外交の真髄は、共通点を見いだし、ともに解決すること」だと▼ASEANの業績と成功はノーベル平和賞にも値すると評価されています。その共同体を歌い、採択された賛歌があります。「われら夢見よう/支えあい気遣おう/平和こそわれらの目標/そして永遠の繁栄/それが ASEAN Way」


きょうの潮流 2024年4月19日(金)
 日本で最初の博覧会が開かれたのは明治初期の京都でした。外国人向けに初の英語ガイドブックを作成。余興として始まったのが「都をどり」です▼幕末の戦火で京の街は荒廃。天皇が東京に移ったことで公家や豪商ら多くが離れ、衰退の危機に直面していました。博覧会を復興の契機に。そう呼びかけたのが、会津藩士だった山本覚馬(かくま)でした▼新島八重の兄だった覚馬は理想とする国づくりの子細な方策を新政府に建白。産業振興とともに教育にも力を入れ、近代化の礎を築きます。博覧会開催にはその一端が示されていました▼それから150年余、万国博覧会が大阪で開かれようとしています。開幕まで1年を前に会場の夢洲(ゆめしま)周辺を回りましたが、砂地が広がり、建設の遅れは明らか。さらに巨額の税金が投入される恐れもあり、ダンプが往来する姿に「行き先が違うのでは」と被災地に思いを寄せる市民の声も▼ガス爆発が起きるなど廃棄物の処分場を会場としたリスクは大きく、震災で陸の孤島になる危険も指摘されています。そして、待ち構えるのはカジノ。反対の立場を示す大阪の弁護士は「万博は科学の発展や多文化を体感させる場でもあるが、ギャンブルは人間をダメにする」▼国際博覧会条約は第1条でこう定めます。「博覧会とは公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段または将来の展望を示すもの」だと。それに逆行した舞台に未来は開けません。


きょうの潮流 2024年4月18日(木)
 「最後にもう一回、バンプは可能ですか?」。バンプとは賭けの上限額を引き上げる隠語です。米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の通訳だった水原一平容疑者は、違法賭博の胴元に何度も頼んで深みにはまっていきました▼スポーツ賭博は2年間で約1万9千回。1日約25回に上ります。損失総額は62億円。うち24億5千万円余を大谷選手の口座から無断で引き出しました▼電話で大谷選手になりすまして銀行をだまし、代理人や会計士にうその説明で切り抜けようとしています。いずれも正常な判断とは程遠いギャンブル依存をうかがわせる言動です。「水原氏は大谷氏を利用するためにその信頼関係を利用し悪用した」。連邦検事は告発します▼本紙11日付で米国のスポーツ賭博をめぐる憂慮すべき現状を報じています。2018年の解禁後、巨大ビジネス化し、宣伝合戦が起き、大リーグ放送にも賭け情報があふれます。ネットで容易に購入でき、ギャンブル依存症に陥るリスクが30%も増加したとか▼水原容疑者の罪は決して許されません。同時に社会や政治の側に問題はないか。人々を賭博に誘導し、依存症を助長している“罪”はないのか▼1950年、日本の最高裁は、賭博が「勤労の美風」を害し、「国民経済の機能に重大な障害を与え」、「公共の福祉に反する」と断じました。その後、日本にパチンコが乱立し、さらにカジノを認め、米国同様のスポーツ賭博解禁の動きまであります。決して海の向こうの話ではありません。


きょうの潮流 2024年4月17日(水)
 各地で4月とは思えない、今年一番の暑さになった15日。テレビでは早くも、ことしの夏はどんな暑さになるんだろうと心配していました▼国連の専門機関「世界気象機関」が先月、報告書を発表。2023年の地球規模の気候の現状をまとめています。それによると、昨年は記録的な暑さで、世界の地表付近の平均気温は産業革命前と比べて1・45度上回ったと▼気温だけでなく海面上昇、海洋熱、南極の海氷減少、氷河後退のそれぞれの記録が更新されました。熱波や洪水、干ばつ、山火事、激化する熱帯低気圧によって、世界で数百万もの人々の日常生活をひっくり返し、ばく大な経済的損失をもたらしたといいます▼報告書について国連のグテレス事務総長は「すべての主な指標でサイレンが鳴り響いている。変化は加速している」と警告しています。同総長が昨年、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」といっていたのを思い出します▼気になる話も。科学誌『ネイチャー』には、昨年の異例の暑さは科学者を悩ませているとする気象学者の見解が掲載されていました。異例の状態が8月までに落ち着かなければ、世界は未知の領域に入ることになると▼いずれにしても対策が急がれています。気温が長期的に上昇するのは、二酸化炭素など温室効果ガスの大気中の濃度が増加するためです。大量に排出する石炭火力発電をあの手この手で延命させようとする岸田政権。世界の警告を受け止める姿勢は見られません。


きょうの潮流 2024年4月16日(火)
 数年前まで勤めていた職場の近くに500円のランチを出す食堂があり、足しげく通っていました。その名も「ワンコインランチ」。500円玉1枚のお得感が好評でした▼岸田文雄首相も同じことを考えたのでしょうか。国会質疑で、医療保険料に上乗せ徴収する「子ども・子育て支援金」の月額を「1人あたり月平均500円弱」と答えました。そうか、ワンコインなのか。そう思った方は少なくないでしょう▼ところが、政府答弁は舌の根も乾かぬうちに迷走しました。加藤鮎子こども政策担当相は「2026年度は300円弱、27年度は400円弱」「1000円を超える人がいる可能性はあり得る」とコロコロと金額を変えました▼3月末、こども家庭庁が発表した医療保険別の試算では、28年度に1人あたりの負担額が最も大きいのは、共済組合の月950円でした。その後、年収別の試算も発表され、年収400万円で月650円、600万円で1000円。国保でも400万円で550円、600万円で800円にも。あれ、500円じゃなかったの?▼ワンコインランチだと思って食べたら1000円請求された。普通の食堂ならクレームの嵐でしょう。案の定、国民からは不満の声が相次いでいます▼当初、「実質負担ゼロ」と言っていた政府。負担増が明らかになると、こんどは批判を恐れて金額を少なく見せようと―。理念もまともな財源の手当てもない制度。岸田政権の稚拙な印象操作を、国民はしっかり見抜いています。


きょうの潮流 2024年4月14日(日)
 能登半島地震3カ月を前に、半島突端の珠洲市の被災地を取材したときのことです。観光名所の見附海岸には地震と津波で浜に打ち上げられた船が残され、壊れた漁具が散乱していました。つぶれた家も、液状化で曲がって倒れかけた電柱もそのままでした▼海岸付近の家屋の前で懸命に後片付けをしていた男性に声をかけると―。「海釣りが趣味で退職後趣味が高じて金沢の自宅とは別に、ここに別荘と自分の小船を持った。船は津波で流され、別荘の外見は建っているけど、液状化で使えない」と淡々と▼大みそかは、おせち料理を食べながら師匠にあたる漁師との宴会でした。その後「1人で紅白歌合戦を見ていたら、急に寂しくなって夜中に金沢に戻った。おかげで命拾いをした」▼甚大な被災のなか、前を向く人たちを紙面で紹介しました。蛸島(たこじま)地区の蛸島保育所避難所の責任者で、定置網漁と魚屋さんの再開をめざす漁師の田中悦郎さん。もう一人は伝統工芸・珠洲焼の維持をめざす岩城伸佳さんです▼田中さんには全壊した自宅とは別に、避難所にも掲載紙を何部か郵送しました。「届きましたよ。避難所の人たちにも、元気出せと『赤旗』を回し読みした」との返事。SNS上へのアップも了承してくれました▼「創造的復興」などという抽象的なことでなく、独特な日本海文化が息づく能登に生きてきて、これからも生きていきたいと思う人たちが主体になった地域コミュニティーの再生を。これからも、定点観測のように見届けたい。


きょうの潮流 2024年4月13日(土)
 上を下への大騒ぎだったにちがいない。江戸市中には「異国船渡来の節は騒ぎたててはならぬ」との町触(まちぶれ)も。黒船来航から1年後、ペリー率いる米艦隊がふたたび姿を現しました▼開国か交戦か。緊迫のなかで結ばれた条約は言葉の壁にもかかわらず交渉のたまものでした。その経過を追った加藤祐三著『幕末外交と開国』には、格別の偏見や劣等感を抱かず、熟慮し行動した幕府側の姿勢が明記されています▼国を開き、歴史を大きく変えることになった日米和親条約が締結されたのは170年前の今頃でした。そのあと両国は戦争の相手となり、日本は一時占領されるなど複雑な道すじをたどってきました▼そして、現在―。「日本は米国と共にある」。岸田首相が米議会で宣言しました。国内では見せられない喜色満面の笑みを浮かべて。「日本の国会では、これほどすてきな拍手を受けることはまずない」。演説のつかみで使った自虐ネタは、この人の厚顔無恥ぶりを表しているかのよう▼米国が果たしている役割はすばらしいと天までもちあげ、私たちは米国のグローバル・パートナーであり続けると誇らしげに訴えかけた首相。日本を米国の戦争に巻き込む危険も顧みずに。いったい、背負っているのはどちらの国なのか▼裏金事件もそっちのけで、この演説に備えスピーチライターを雇い、出発前から練習にいそしんでいたそうです。列強のいいなりにならず、主張すべきは主張した歴史はどこへ。いまこそ国中で大騒ぎするときです。


きょうの潮流 2024年4月12日(金)
 経団連の十倉会長が思わず気色ばみました。サプリメントなどの機能性表示食品の解禁を、経団連がくり返し要望した事実を記者から問われ、「むかし、規制緩和を言ったから、けしからんというおしかりですか」と▼重大な健康被害を生んだ小林製薬の紅麹(べにこうじ)サプリメントは、パッケージに「悪玉コレステロールを下げる」と大きく表示されていました。このように健康への効果を、国への届け出だけで商品に表示できるのが、機能性表示食品です。第2次安倍政権が2015年にこの制度を導入しました▼モデルにしたのは米国のダイエタリーサプリメント健康教育法です。米国では同法の制定を機に、健康食品の市場が4倍に急拡大しました。日本でも市場拡大が期待できるとして、05年以来、経団連は何度も、食品の機能性表示の規制緩和を要望していました▼日本共産党をはじめ、消費者団体や日弁連は、安全性をなおざりにする機能性表示食品の解禁に反対してきました。食の安全・監視市民委員会共同代表の佐野真理子さんは「今回の深刻な健康被害は起こるべくして起きた」と、本紙日曜版(4月14日号)で語っています▼十倉会長も事の重大さに気づいたのか、先の言葉に続けて「ひとの健康にかかわる問題ですから、もう少し厳しく慎重にやるべきだった」と弁明しました▼過ちて改めざる、これを過ちという―『論語』にもこんな教えがあります。最優先は国民の健康と食の安全。それを危うくする制度はすぐに改めるべきです。


きょうの潮流 2024年4月11日(木)
 世界が戦争の影に覆われていた1942年、米国で極秘の計画が動きだします。当時の額面でおよそ20億ドル、5万人にのぼる科学者や技術者が投入されました▼原爆をつくるための「マンハッタン計画」です。ロスアラモスの研究所を拠点とし、ナチス降伏の2カ月後に史上初の原爆実験に成功。そのわずか20日後、広島・長崎に投下しました▼核の時代の幕開けとなった計画。研究所の所長として主導したのがオッペンハイマーです。彼の半生を描き、アカデミー賞の作品賞をうけた映画が日本でも公開されています▼悪魔の兵器を世に送り出し、血塗られた破壊者となった科学者の苦悩。戦後、水爆の開発に反対の姿勢をとったことで、戦争を終わらせた「英雄」から一転。赤狩りのなかでスパイの汚名をきせられます▼戦争抑止のためとされながら際限のない核競争は人類を破滅の危機に陥れ、それは今も。ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせ、米下院議員がガザを「長崎や広島のようにするべきだ」などと口にする。米国内ではいまだに原爆を使ったことは正しかったとする人たちが少なくありません▼「私には良い答えがない」。がんによって62歳で死去したオッペンハイマーは苦悩を抱え続けました。米国の若者たちの間では、原爆に関心をもち、日本に謝罪すべきとの考えが広がっているといいます。唯一の戦争被爆国である日本。その政府には被爆の実相を知らしめ、核なき世界の実現に尽くす役割があるはずです。


きょうの潮流 2024年4月10日(水)
 その名を政府が決定したのは開戦直後でした。「今次の対米英戦は支那事変をも含め大東亜戦争と呼称す」。時の天皇が発した「宣戦の詔書」は「東亜の安定」を確保することが目的だと▼日本を盟主にアジアの統合をめざした「大東亜共栄圏」。実際は共栄とは名ばかりで、日本軍による植民地支配にほかなりませんでした。「大東亜」の呼称には、アジア諸国や日本国民のおびただしい犠牲とともに、日本の侵略を「正しかった」とする意味が示されています▼過去の亡霊をよみがえらせようというのか。埼玉の陸上自衛隊の連隊が活動を紹介するSNSの投稿で「大東亜戦争」という言葉を使っていました。硫黄島であった戦没者追悼式を伝えるなかで「大東亜戦争最大の激戦地硫黄島」と記しました▼連隊のX(旧ツイッター)公式アカウントでは、自らを「近衛兵の精神を受け継いだ部隊」とも。戦前回帰への情念が漂います▼自衛隊では幹部らによる靖国神社への集団参拝も相次いで発覚しています。靖国は今も「正義の戦争」とする勢力の支柱に。「私的」参拝とする防衛省に対し、共産党の穀田議員は入手文書を示して「公務」として計画されていたことを明らかにしました▼連隊の投稿について防衛省は「誤解を招いた」、林官房長官も「一概にお答えすることは困難」だと。戦後の平和の歩みを否定し、侵略戦争を美化する動きと決別できない政府。いつまでも歴史の亡霊に取りつかれていては、共存共栄の未来はつくれません。


きょうの潮流 2024年4月9日(火)
 どこまで、恥知らずなのか。裏金事件の渦中にある世耕弘成(ひろしげ)参院議員が学生を前に訓示を垂れました。「変化の激しい社会で自分の立ち位置をしっかりと把握してもらいたい」▼自身が理事長を務める近畿大の入学式で。安倍派の参院会長だった世耕氏は裏金で大量購入した高級洋菓子を有権者に渡していた公選法違反の疑いも。これには近大教職員の有志が理事長辞任を求めて署名を開始。4万をこえる賛同が寄せられています▼国民に顔向けできない不祥事を起こしながら、自分が置かれている立場さえわからない。そんな無責任な人物に「立ち位置を把握して」といわれた学生たちは、さぞ困惑したでしょう▼さてこの人の場合はどうか。訪米した岸田首相です。過去最大の軍事費を盛り込んだ新年度予算を通し、自身もかかわる裏金問題は解明もないままにお手盛り処分で見せかけの決着。9年ぶりの国賓待遇として意気揚々と▼桜の苗木や輪島塗を贈呈するそうですが、本当の手土産は大軍拡による日米同盟の強化です。米軍と一体となって戦争する国づくりを一段と。米国や同盟国と兵器の開発を推進する「経済秘密保護法案」も衆院の委員会で強行しました▼岸田首相は米議会で日本は米国の「トモダチ」「米国とともに自由を守る」と訴える予定だといいます。物価高騰のなかで賃金や年金は抑えられ、医療や介護の負担は増すばかりの国民生活。どちらを向いて立っているのか。いつもはなおざりの立ち位置も、ここでは鮮明です。


きょうの潮流 2024年4月8日(月)
 「過去は変えられないけど、未来は変えられる」。福島第1原発事故をテーマにしたオリジナルミュージカル「バックトゥザ・フーちゃんII」が発するメッセージです▼6歳から80代までの多様な世代が、歌と踊り、セリフや映像で、反原発を表現する舞台。4月下旬、東京・北区で催される本公演に向けレッスンを重ねています▼2022年、福島原発事故をめぐって最高裁は、「想定外」だから国に責任はないと判決。しかし、福島に住む人たちの生活が一変したのは現実のことです。住む家を追われ、生業(なりわい)を奪われ、放射線に悩まされてきました▼被害にあったのは人間だけではありません。原発事故による被災地域で動物たちを撮影したカメラマンの太田康介さんは、餓死した家畜の前でチクショーと叫びながらシャッターを切り続けたと言います。「ほんとうの“畜生”は自分たち人間だった」▼福井県の大飯原発や高浜原発の運転差し止めなどの判決を出した元福井地裁裁判長の樋口英明さんはこう指摘します。原発は自国に向けられた核兵器である。そして、能登半島地震の地で、20年前、珠洲原発の建設を食い止めた市民運動を例に、脱原発は未来を切り開く運動だと▼ミュージカルの作曲・指揮を担当する藤村記一郎さんは、公演が未来について考えるきっかけになるよう「一緒に歌って、一緒に考えてみませんか」と呼びかけます。原発廃絶のためになにが必要なのか。作品に込められた合言葉は“未来をひとまかせにしない”です。


きょうの潮流 2024年4月7日(日)
 桜咲く新歓の季節。東京・駿河台にある明治大学の博物館では、法学部の女性新入生たちが先輩の足跡をたどる展示を熱心に見つめていました▼法学をめざす女性に、いち早く門戸を開いた明大。1929年に女子部を設け、そこで学んだ卒業生から初の女性弁護士が誕生しました。三淵嘉子(みぶち・よしこ)、中田正子、久米愛さんの3人です。日本が戦争への道を突き進んでいた暗い時代でした▼その中の三淵嘉子さんが、今月から始まった朝ドラ「虎に翼」のモデルです。女性は結婚して家庭に入るのが当たり前だった時代。法律を勉強する女性は白い目で見られていました▼裁判官になりたかった三淵さんは、司法試験の会場に掲示されていた当時の文言が忘れられませんでした。「日本帝国男子に限る」。同じ試験に合格しながら、なぜ女性が除外されるのか。その時に猛然とこみ上げてきた悔しさが男女差別に対する怒りの開眼であったと述懐しています(『追想のひと三淵嘉子』)▼戦後は初の女性判事、初の女性裁判所長に。家庭裁判所の創設にも関わり、退官後も雇用における男女平等に尽くしました。「世のため、人のため、自己の最善を尽したい」との初心を貫いて▼今回の朝ドラは、法の下の平等をうたった日本国憲法が公布された場面からスタートしました。しかし、いまだ女性法曹の割合は2割ほどにとどまっています。道なき道を切り開いてきた先駆者からなにを学び、どう生かすか。学生ならずとも、今を生きる者としてとらえたい。


きょうの潮流 2024年4月6日(土)
 「炭鉱のカナリア」。炭鉱労働者が身の危険を守るために有毒ガスに敏感なカナリアを坑内に連れたことから、「危険の警鐘」との意味があります▼大阪万博の会場建設現場で起きた可燃性ガス爆発事故。「炭鉱のカナリア」を無視して無謀な建設を強行したことが大本にあることが、はっきりしてきました▼万博会場は大量のゴミやしゅんせつ土砂などを埋め立ててつくった人工島です。可燃性ガスが噴出しており、事故が起きたエリアだけでも79本ものガス抜きパイプが林立。市民団体や専門家らがその危険を指摘していました▼事故後、大阪府の吉村知事は「安全な工事が大事だ」と当たり前のことしか言えず、「他のエリアでは起きない」(万博協会)と火消しに躍起です。しかし大阪市自身が日本共産党の聞き取り調査に「事故が起きたエリア以外でもガスが出る可能性がある」と今後も爆発が起こる危険性を認めました。万博テーマの「いのち輝く」どころか「いのちの危険」ともいうべき事態。開催の大義はもはや成り立ちません▼学校行事の名目で参加させられる子どもたちの保護者や教員からも、「危険で無謀」だと中止を求める声がますます強まっています。それでも開催に突き進むのは、万博後に予定する「カジノ」設置と連動しているからです▼「カナリアの警鐘」を無視して労働者を働かせた炭坑では、大事故が繰り返されました。万博も大惨事となる前に「国民の警鐘」できっぱり中止に追い込むことがいよいよ必要です。


きょうの潮流 2024年4月5日(金)
 あすから新スタートとなるNHK「プロジェクトX」。番組では中島みゆきさんの「ヘッドライト・テールライト」がエンディングテーマとして使われてきました。いまその替え歌がSNSで話題になっています▼♪キックバック/TELL A LIE(うそをつく)/記録ない/記憶もない/ものまね歌手の清水ミチコさんが自身のユーチューブチャンネルで自民党の裏金問題を痛烈に皮肉っています。「どんな悪事もいいメロディに乗せると感動的になる?」実験だと▼風刺が効いている、お笑いはこうあるべき、庶民の思いを代弁してくれた―。寄せられる反響の声は、この問題に渦巻く市井の怒りや不信の表れともいえます▼政治資金パーティーの裏金事件をめぐり、自民党が安倍派幹部らの処分を決めました。基準もあいまいで適切かどうかも判断できず、自身の派閥も法に違反していた岸田首相の責任も問われない。これは何のため? もやもやだけが残る決め方です▼組織ぐるみで不正に集めた巨額を裏金とし、使った先も明らかにしない。自分を守るため、組織を守るため、今をのりきればいいと、平気でうそをつく。そんな姿が政治や社会にまかり通ってしまえば、この国の先行きは暗闇に閉ざされてしまいます▼先の中島みゆきさんの歌は、歩んできた道と、これから進む道という、名もなき人々の人生の旅路を照らします。過去からつづく未来。国民から見放されても省みない現在の自民党と岸田首相に、その道はあるのか。


きょうの潮流 2024年4月4日(木)
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働へ国が新潟県知事に要請するなどしています。東電も今月、原子炉に核燃料を搬入する計画を申請しました。こうした動きは被災者にどう映るのか。ちょうど映画「津島―福島は語る・第二章―」(土井敏邦監督)を見ました。津島は福島県の東部、阿武隈山系の山々に囲まれ、震災前は約1400人が暮らす平穏な山村でした▼しかし、2011年3月の東電福島第1原発事故で大量の放射性物質が降り注ぎ、高濃度の放射能に汚染されました。避難指示が全住民に出され、県内外に避難。今も、ほとんどが自由に立ち入りできない帰還困難区域です▼ふるさとをきれいにして返せと住民の約半数が、東電と国を相手に提訴し、高裁でたたかっています。映画は原告らのふるさとへの思い、それが事故で断ち切られたことへの叫びです▼放射能測定を続け、その結果を毎月、散り散りになった出身者に季節の便りを添えて送り続ける人も。出身者を訪ねると「いつ戻れるかな」と聞かれ、返事に困ったといいます▼高齢の両親を避難後に亡くした息子は、避難指示に「家に残る」と頑(かたく)なな高齢の父に“必ず戻って生活させるから”とうそをついて連れ出したと。「いつ戻れるか」と聞く母にもうそをつき通したと後悔の念に声を詰まらせます▼事故で「人生を奪われた」と語る住民は“ふるさとは生きる根源。返してくれとは当然の叫びではないか”と。再稼働に前のめりの国と東電。まるで事故の被害がなかったかのよう。


きょうの潮流 2024年4月3日(水)
 毎年この時期になると、思い返す言葉があります。「あなた自身の成長を重ねられる職場ですよ、ここは」。うん十年も前の新入局時に、当時の編集局長からいわれた遠い記憶です▼成長のほどは定かではありませんが、赤旗記者として積んできた経験が今の自分をつくっていることはたしかです。人生の新たな踏み出し。不安もありながら胸をふくらませ、心躍る一歩としたい。時代を問わず、通じる思いです▼各企業の入社式がずいぶんと様変わりしています。服装や髪形は自由、保護者が参加、先輩社員たちと交流する。多様性の表れなのか、そんな姿がニュースでも流れていました。一方で、入社前から「転職」を視野に入れる若い世代も多い▼新生活に暗い影を落としているのが、とまらない値上げや深刻な人手不足です。食品は高くなるばかりで、運転手不足を理由に路線バスの減便や廃止が全国で拡大。地域の足をになう公共交通の縮小は都市部や人口密集地にも影響を及ぼしています▼「政治を変え、社会を変え、未来をつくる―わくわくするような共同の事業に参加してみませんか」。今の編集局長が記者募集で呼びかけています。人の役にたちたい、自分をもっとみがきたい、そんな思いを「赤旗」に託してみませんかと▼最近の辞書を引くと「わくわく」とは、これからの喜びや楽しみを期待して、心が落ち着かない様子を表すといいます。希望がもてる新年度、一人ひとりが実りある人生のスタートを切ることを切に願って。


きょうの潮流 2024年4月2日(火)
 段差のある映画館で車いすを使う人が劇場スタッフに移動の手伝いを依頼したところ、次からは別の映画館に行くよう言われた―。障害のある女性が自身の体験をSNSに投稿しました▼これが炎上し、女性を批判する投稿であふれました。友達やヘルパーを連れて行けば解決する。車いすの持ち上げを介助経験のないスタッフにやらせるべきではない…▼「車いすの人は入店お断り」「障害があるから賃貸ルームの契約はできない」などの体験のある障害者は少なくありません。障害者差別解消法はこうした事例を、障害者を差別的に取り扱っているとして禁止しています▼同法は事業者に、スロープの設置や字幕、やさしい言葉づかいなど個々の障害に合わせた配慮をすることを求めています。障害のある人が障害のない人と同じように社会参加する機会を保障するためです。これまでは国・自治体が義務付けられていました。1日からは民間事業者も▼障害のある人の多くはこの動きを前進と評価します。「混雑時はともかく、落ち着いた時間帯にもかかわらず“見える人と来店して”と店員さんから対応された仲間がいます。こういうことがなくなることを期待します」。全盲の秋元美宙(みひろ)さん(21)は話します。「見えなくても一人で買い物したい。買い物は生活の営みの一部なのだから」▼障害のない人が自由にできることを障害を理由に諦めなくてもすむ社会にしませんか。障害の有無で分け隔てられることなく、共に生きられるように。


きょうの潮流 2024年4月1日(月)
 穏やかな波がうちよせる海岸は恋人たちの聖地でした。悲恋伝説が語り継がれ、愛が成就するという幸せの鐘を鳴らすカップルの姿も絶えませんでした▼能登町にある恋路(こいじ)海岸。そこはいま崩れてきた巨石が転がる無残な光景に。海の様子を見にきていた地元の漁師は津波で船が流され、「先がまったく見えない状態」と嘆きます▼恋路海岸から珠洲市の見附島(みつけじま)まで続く海岸線は「えんむすびーち」と呼ばれます。しかし地域のよりどころとなってきた見附島は先の地震と津波で3分の1ほどに崩落。海岸線を沿う道路の両脇には倒壊した家々や傾いた電柱が連なっています▼年明けを襲った能登半島地震から3カ月。先週、被災地を訪ねましたが、いまだに復旧のめどさえ立たない所は多い。断水も珠洲市のほぼ全域で解消されず、輪島市や能登町でも水が出ない家が少なくありません。つぶれた建物や倒れた電柱、ガタガタの道が続き、まち全体が傾(かし)いでいるような錯覚さえおぼえます▼雪の中を歩いて仮設風呂に入りにきたお年寄りはこれが唯一の楽しみだといいます。珠洲市内の避難所で支援活動に携わってきた女性は「必要なのは住まいと生業(なりわい)。残念なのは、ずっと景色が変わらないこと」だと話します▼ふるさとに残るため地元のフィットネスクラブに就職したという輪島の青年は今後を憂いていました。もともと過疎が進んでいたのに、もっと人が減っていく。置き去りにしてきた地方をどう復興するのか。その展望を示してほしいと。


きょうの潮流 2024年3月31日(日)
 菅笠(すげがさ)に絣(かすり)の着物の女性が伏し目がちにほほ笑む写真「秋田おばこ」。息をのむみずみずしさです。写真家・木村伊兵衛(1901~74)の代表作の一つ。その没後50年を記念した回顧展が東京都写真美術館で開かれています▼秋田の農村にひかれ、通い詰めて撮影したという田植えや収穫の作業風景、農民家族の質素な住まいと暮らし、子守する子どもたちの姿。目指したのは「報道写真」でした▼しかし伝えたいのはニュースではなく、情感に満ちた人々の生活や顔。いわく「日常生活の出ていないものは、どんなにうまく作り上げても、それが私の仕事ではないことが身にしみた」。写真が芸術として確立するには、この道しかないとも語っています▼「体当たりで人間を描き出す」が信条。中国やヨーロッパを旅しては辻々(つじつじ)でカメラを構えました。写し出された誰もが懐かしく感じられるのは、言葉や文化が違っても生活のいとおしさは変わらないとする写真家の姿勢ゆえでしょう▼文化人の肖像写真も、その人生までしのばれます。作家・幸田文との対談では「幸田さんの過去、現在、未来というものが顔に出た瞬間、シャッターをきるということは、気持ちが触れ合わなければできるものじゃない」▼逝去の翌年75年に創設された木村伊兵衛写真賞は48回を迎え、26日、移民や地域共同体をテーマにした作品で金仁淑(キム・インスク)さんが受賞しました。「単なる写実ではなく、対象をどのように感じ、どのように強く受け入れるか」―志は引き継がれています。


きょうの潮流 2024年3月30日(土)
 みそやしょうゆ、みりんや酢、お酒も。無形文化遺産にも選ばれた和食は、健康的でおいしいと世界から注目されてきました▼豊かな日本の食文化。その礎が麹(こうじ)です。米や麦、大豆などに麹菌を加え培養させたもので、多彩な調味料や日本酒づくりには欠かせません。醸造の現場には「一麹」という言葉があり、職人たちは麹の質にこだわってきました▼多くの発酵食品にも使われ、日々の食生活を支えてきた麹。菌の種類が違うとしても、商品名に麹がつき、しかも製薬会社が悪玉コレステロールを下げると銘打ったサプリメントに大勢がひかれても不思議ではないでしょう▼紅麹原料を使った小林製薬の機能性表示食品が原因と疑われる健康被害が相次いでいます。昨日の会社側の会見では、これまでに5人が亡くなり百人以上が入院。相談件数は1万5千件にも上っていると。不安はとめどなく広がっています▼健康に役立つと宣伝されたサプリで健康被害を受けたとなれば、とんでもない。会社が問題を把握してから2カ月も公表が遅れたことも批判を浴びています。国の食品安全委員会によると欧州では紅麹由来のサプリによる健康被害が報告されています▼機能性表示食品は安倍政権が成長戦略の一環として導入。事業者の届け出のみで国の審査はなく、安全性への懸念が指摘されていました。サプリによる健康被害は後を絶ちません。被害者の救済とともに、制度を改める。それが古くから息づく健康な食づくりにもつながるはずです。


きょうの潮流 2024年3月29日(金)
 人生の最終章に「ちゃんと生きた」と胸を張れたら、どんなにすばらしいでしょう。映画「かづゑ的」を見ながら思いました。ハンセン病回復者・宮崎かづゑさん(96)のドキュメンタリーです▼スクリーン越しに、かづゑさんに会ったのは、ドキュメンタリー映画「天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”」以来です。がんを患った親友のために、辰巳さんの料理番組で覚えたポタージュを毎日作り届けたエピソードが印象的でした▼かづゑさんの両手は病気の後遺症で指がありません。丸いこぶしで料理をし夫のセーターを編みます。パソコンのキーボードをたたき、80代で2冊の本も出しました。「できるんよ、やろうと思ったら」の言葉が力強い▼ハンセン病を「らい病」と呼ぶのも、かづゑさん的です。「らい患者はただの人間、ただの生涯を歩んできた。らいだけで人間性は消えない。心は病んでません」。そこには、らいを全身で受け止め、逃げないで生きてきた自負が宿っています▼10歳で故郷を離れて瀬戸内海に位置する国立ハンセン病療養所・長島愛生園に入園したかづゑさん。戦争中は健康そうな子ほど作業に酷使され、大人になれなかったと著書『長い道』で述懐しています。かづゑさんも右足を切断手術し、義足に。過酷な少女時代を支えたのは母の愛と膨大な読書量でした▼長島愛生園など瀬戸内海の三つの療養所を世界遺産に登録しよう、という運動があります。大人になれなかった子どもたちも含め、生きた証しです。


きょうの潮流 2024年3月28日(木)
 「政治の原点はふるさとにあり」。和歌山の御坊市で生まれ育った青年は、自民党代議士の秘書として政界にとびこみました▼36歳で地元和歌山の県議となり44歳で国政に。以来40年以上、衆院議員を務め歴代最高齢の77歳で安倍政権下の幹事長に就任。二階俊博氏は権力が集中する職に最も長い5年2カ月も居座りました▼親交ある人の間で知られる「二階みかん」。あいさつ回りで地元産のみかんを配ることからその名が付きました。義理(G)と人情(N)とプレゼント(P)。幅ひろい関係者はそれを「二階のGNP」と呼んだといいます(『ナンバー2の美学』)▼田中角栄を師とあおぎ、権勢を誇ってきた二階氏が次期衆院選に出ないと表明しました。裏金事件の政治責任をとると。しかし党の要職や派閥の長を務めながら、巨額の裏金づくりの真相には口を閉ざしたまま。しかも年齢のことを会見で問われると「お前もその年くるんだよ。ばかやろう」と捨てぜりふまで▼地方のための政治を信条としてきたといいますが、力を入れてきた国土強靱(きょうじん)化や観光立国は公共事業の上積みや利権の温床に。結局は、地方を切り捨ててきた自民党政治の中枢を歩みました▼二階氏の原点、御坊市では大きな変化が起きています。5年前の県議選で共産党の候補者が二階氏の元秘書を破ったり、昨年の市議選でも共産党の新人がトップ当選を。自民党政治と正面から対決する党の躍進は、二階流の政治と決別したいという市民の意思を示しています。


きょうの潮流 2024年3月27日(水)
 相撲が盛んな青森で幼少からとりくみました。強い力士を夢見て地域のクラブで励み、強豪ぞろいの日大相撲部へ。あの取り口のうまさはつみ重ねてきた稽古のたまものでしょう▼世紀をこえた快挙でした。110年ぶりの新入幕優勝、初土俵から史上最速の10場所で記録を打ち立てた尊富士(たけるふじ)。まだ大銀杏(おおいちょう)も結えない24歳は「記録も大事ですけど、みなさんの記憶に一つでも残りたくて、必死でがんばりました」と▼一方で心配なのはケガの具合です。取組中に痛めた右足首は靱帯(じんたい)の損傷で、当初は歩けないほど。救急搬送され、とても相撲は取れない状態だと親方も話していました。尊富士は過去にも膝の大ケガに見舞われています▼「記録的な優勝も大切だけど、まだ若く現役生活も長いのだから、絶対に無理はしないでほしい」。元横綱・若乃花はスポーツ紙で呼びかけ、相撲協会の八角理事長も無理をしては元も子もない、今後の相撲人生もあると懸念していました▼同じ部屋であこがれの横綱、照ノ富士から「お前ならやれる」といわれ出場を決めたという尊富士。その瞬間、自分でも歩けるようになったといいますが、それを美談とし、結果よければすべてよしで終わらせていいのか▼ケガを押して出場し、力士生命を縮め、引退に追い込まれるケースは数多く。最近の上位陣の不振も故障が主な理由です。若手が伸びて、ベテランも力を発揮する。そんな姿が大相撲の将来にもつながるはずです。長く人びとの記憶に刻まれるためにも。


きょうの潮流 2024年3月26日(火)
 東京・港区の青山霊園の一画に、平和と民主主義、くらしを守るために奮闘した人たちを追悼する墓があります。「解放運動無名戦士墓」です▼建立されたのは1935年。戦争反対を主張すれば投獄され、多くの尊い命が奪われた時代でした。遺骨を埋葬する場所さえなかった人も少なくありません。そうした人々の「共同の安息の場」として、この墓が建てられました▼当時は特高警察の監視により墓参りもままなりませんでした。それでも自由と平和を愛する人びとによって墓は守られ、今につながっています。今年は新たに1105人が合葬され、20日に追悼会が開かれました。コロナ禍の影響で、参列者が一堂に会するのは4年ぶり。筆者も遺族として参列しました▼合葬されるみなさんの略歴を見ると、労働運動や女性運動などでの活躍や、「しんぶん赤旗を23年間毎日配達」という方も。故人が刻んだ活動の積み重ねが今の社会を築いてきたのだと、その重みをかみしめました▼亡くなった父もその一人です。寡黙だった父は多くを語りませんでしたが、病気で体が不自由になってからは、若かりし日のこと、日本共産党に入党した思いなどを話してくれました。遺品の中から筆者が書いた赤旗記事の切り抜きの束を見つけた時は「あの父が…」と胸が熱くなりました▼それぞれに故人との思い出があり、その遺志を引き継ぎたいとの決意が。受け取ったバトンをしっかり握って歩みを進め、次の世代につなぐのは、私たちの責任です。


きょうの潮流 2024年3月25日(月)
 いろんな国ぐにの人たちがまねた、あのポーズ。漫画「ドラゴンボール」の主人公、孫悟空の決め技「かめはめ波」です▼今月初めに世界を駆けめぐった鳥山明さんの訃報。NHKの手話ニュースでも手話通訳者がそのポーズで追悼していました。1984年に「週刊少年ジャンプ」で連載開始。その後、アニメやゲームにもなり人気を博しました▼成長や友情、冒険やバトルをテーマに描かれていきますが、次第に戦闘シーンが激化。主人公が強くなれば相手もより強くなり、どちらかが消滅するまでに。当初、格闘ものは苦手としていた鳥山さんも出版社や編集者に押し切られ、際限のない強さをもとめるように▼暴力的で過激だと子どもにみせたくないとの批判もうけました。ジャンプ誌上では同じころに「北斗の拳」も連載されるなど、“マッチョな男の世界”が全盛の時代でした▼ジェンダーの視点から漫画を研究している中川裕美さんは、少年マンガに欠かせないテーマの一つに「戦う少年」があると以前本紙で語っていました。少年たちは、何かを手に入れるため、誰かや何かを守るために自分より強いものに戦いを挑み、苦しみながらも敵を倒して、またより強大な敵へと挑むべく、戦いを続けていくと▼いま、現実の世界でも暴力が暴力をうみ、憎しみが憎しみをうんでいます。はげしい怒りによって。戦前からつながる、男は戦うものだという価値観。漫画に限らず、そこからの脱皮を描いてこそ、新しい時代をつくるはずです。


きょうの潮流 2024年3月24日(日)
 勇壮な和太鼓の音で迎えました。伝統をうけつぐ若者たちが打ち鳴らす輪島高洲(こうしゅう)太鼓。その一打一打に、復興への願いが込められていました▼きのう金沢市で“復活”した輪島朝市。雨天にもかかわらず会場の周りには朝から来場者の列ができ、シンボルのオレンジ色で統一した各店のテントにも人だかり。震災で倒壊した輪島塗の漆器店は「地震に負けたくない。もう一度お店を出したかった」と参加。破損をまぬがれた箸やお椀(わん)を並べていました▼塩づくりを続けてきた輪島市朝市組合理事の中道肇さんは「みんな途方に暮れていたが、これが今年の初売りになった」と喜びます。開催に協力した石川県漁協や支援してくれる一人ひとりに感謝の気持ちでいっぱいだと語りました▼地元は3カ月近くたっても復旧の見通しさえたたない厳しい現実があります。朝市通りは一面の焼け野原に、がれきの山。あたりには黒焦げになった食器や仏具などがいまも散乱しています▼この地で代々輪島塗の漆器工房を営んできた男性は、変わり果てた朝市の姿にいちどは廃業を覚悟したといいます。しかし職人らと連絡をとりあいながら、手探りで存続の道へと歩みだしています▼能登の工芸品や海産物をはじめ30店舗ほどが軒をつらねた出張朝市。「久しぶりのにぎわいに涙がでた」「大勢のお客さんに元気をもらった」。苦難のなかで、ふたたび店を構えた組合員らは復活につなげるための第一歩にしたいとの思いを口々に。いつかまた、輪島に帰って。


きょうの潮流 2024年3月23日(土)
 「平和が一番 子どもたちに明るい未来を」「愛する子どもたちを戦場には決して送らない」―。平和への願いをつづった4083枚のはがきが、岸田文雄首相あてに提出されました▼全日本退職教職員連絡協議会(全退教)が、昨年9月から始めた「ボイスアクション」。はがきに思いを込め、現役教職員ともつながり合いながら、タペストリーを掲げて町で訴えてきました▼「教え子を再び戦場に送らない」。教職員はこの誓いを胸に、平和な社会を担えるよう子どもたちの背中を押してきました。あれから70年余、まさか再び大軍拡の道を突き進むとは。「何とかして今止めなければという気持ちに、ぴたりと重なったのだと思う」。全退教会長の長谷川英俊さんはこう話しました▼19日の午前から始まったはがき提出行動には、全国から125人の退職教職員が参加しました。集会後は、JR四ツ谷駅前で約1時間スタンディング。夜には100回目を迎えた「19日行動」で国会前へ。「再び戦場に送る教え子は出すまい」との切なる願いを突き付けた1日となりました▼1枚のはがきに絵や文章で思いを託したアクション。年齢を重ね、街頭で行動することが難しくなった教職員も「これなら、家にいても首相に直接物申すことができる」と。「退職後のひとりぼっちをなくそう」と生まれた会は、教え子の幸せのために、手をつなぐ会へと発展しています▼アクションはまだ途上。子どもたちに平和な未来を手渡す日まで、声をあげ続けます。


きょうの潮流 2024年3月22日(金)
 無謀な万博に巨額の税金をつぎ込む大阪市で、公園や街路の樹木が次々と切り落とされ無残な姿をさらしています。大阪市が2008年から進めている公園の樹木や街路樹約1万9000本もの伐採事業によるものです▼倒木の危険や根上がりで歩道を壊すなど住民の「安全・安心」を守るためだといいますが、市民は「緑が少ない大阪では大切に守ることこそ必要。危険だからと伐採するのは乱暴で市民無視だ」と批判。専門家も「剪定(せんてい)をすれば済む木も多い。ばっさり切る必要はない」と指摘します▼伐採で削減できるのは公園の管理費。すでに剪定本数は10年で6割も減っており、大量伐採で大幅削減がはかられます。「身を切る改革」ならぬ「木を切る改革」との指摘通り▼市民が立ち上がり伐採の延期や見直しを実施させたところもありますが、市は姿勢を変えておらず市民とのせめぎあいが続いています▼大阪市は「稼ぐ公園」を掲げて公園管理の民間委託を進め、公園内に劇場やレストランなど商業施設を誘致するため樹木を伐採してきました。維新市政は「税収になる」と自慢し公園までもうけ口にする亡者ぶりです▼横山英幸市長は店舗前の街路樹を除草剤で枯れさせたビッグモーターを「街路樹は住民の憩いの空間」と非難しましたが、市民は「つじつまがあわへんやん」と批判。「都構想」からカジノ・万博、木を切る改革と「つじつまのあわない政治」が続く大阪。粘り強いたたかいは、市民無視の政治を追いつめる力です。


きょうの潮流 2024年3月21日(木)
 卒業シーズンになると思い出す詩があります。「これからの本統(ほんとう)の勉強はねえ/テニスをしながら商売の先生から/義理で教はることでないんだ/きみのやうにさ/吹雪やわづかの仕事のひまで/泣きながら/からだに刻んで行く勉強が/まもなくぐんぐん強い芽を噴(ふ)いて/どこまでのびるかわからない」▼作者は宮沢賢治。彼が子どもに稲作の指導をしている様子を描いた詩の一節です。中学校卒業のときの文集で教師が紹介してくれました。当時、なぜ勉強しなければならないのだろうという思いを抱えていた思春期の心に深く響きました▼「本統の勉強」とは。今、そう考えさせられる事件が起きています。奈良教育大学の付属小学校が、国の定めた学習指導要領に従っていないとされ、大学側が同校の教師たちを他校に出向させようとしています。文部科学省が出向させるよう圧力をかけた可能性があります▼同校では教師たちが長年にわたり研究と創意工夫を重ね、子どもの生活や学力の実態にあった教育を実践してきました。そして子どもたちは目を輝かせて学んできました▼それを否定して学習指導要領の通りにやるのが勉強なのでしょうか。そもそも指導要領はおおよその基準です。付属小のように子どもの思いにそった教育でこそ学ぶ意欲は育ちます。つぶそうとする動きに憤りを感じます▼賢治は先の詩をこう結んでいます。「雲からも風からも/透明な力が/そのこどもに/うつれ」。風のように自由で豊かな教育をと願います。


きょうの潮流 2024年3月20日(水)
 提唱者は「闇夜に、お手々をつないでいこう」と呼びかけました。みんなで一緒に行動すれば、なにも怖くはないんだと。できるだけ多くの労働者を立ち上がらせるためでした▼ジョイント・スプリング・ストラグル―俳句の季語にまでなった日本独自の春闘は、世界でも類例のない方式として知られています。1955年に8単産の共闘でスタート。賃上げから生活全般にかかわる要求へと発展した「国民春闘」となってから半世紀がたちます▼ボードに赤い文字が次々と書き込まれました。物価高騰のもと賃上げを求める声がわきあがるなか、大手企業の「満額回答」が相次いだ今年の春闘。しかし物価高には追いつかず、生活を支えるまでには及んでいません▼日本企業のほとんどを占め、全従業者の7割が働く中小企業や非正規労働者の賃上げにつなげる闘いもこれからです。大幅な賃上げとともに最低賃金の全国一律1500円の実現や消費税5%への引き下げを訴えるデモも各地で▼実際、首都圏の中小零細企業の約3割が「賃上げの予定なし」とアンケートに。大企業の莫大(ばくだい)な内部留保や下請けいじめも続いています。こうした横暴をただす責任が政府にはあるはずなのに、大企業からの献金によってたつ自民党にはどだい無理か▼すべての労働者に賃上げを。紆余(うよ)曲折はありながら、団結して闘うことを原点としてきた春闘。それは「人たる生活を営む」闘いでもありました。妨害や分断にも負けず、みんなで手を携える共同の力で。


きょうの潮流 2024年3月19日(火)
 思いがけず、駅前で漫才をするはめになりました。地域の女性行動「フェミブリッジ・アクション」で、10分間の“出演”です▼「私、パーティー券買っちゃったんですわ~」とボケるのが筆者の役。2万円の政治資金パーティーに行ってみたら、出てきたのは、ペットボトルの水1本。そんなネタは、自民や維新の「先生」たちが提供してくれています▼「自由民主党はリベラル・デモクラティック・パーティーじゃないんです。政治資金パーティーパーティーなんです」。自民党のある秘書の言葉も、そのまま漫才のネタです▼ある大臣経験者が、幼稚園のPTAの研修会で「母親は3歳まで仕事に出てはいけない」「保育園をつくれなどというのはマルキョーです」と講演したという話も盛り込みました。さすがに、マルキョーは死語なので「共産党」に直しましたが、時代錯誤もはなはだしい▼漫才の前日にも、またまた新ネタが。「自民党の会合で過激ダンスショー」。“参加者が女性に口移しでチップを渡した”“チップを渡しながらおしりをさわった”―。フェミブリッジの参加者を不快にしないよう、具体的な表現は避けましたが…。こんなにネタがつきない党がいつまで政権に▼最後は「ハイホーハイホーお金が好き♪○○(裏金議員の名)、お金が好き」と替え歌を歌い、漫才はなんとか完走。それにしても日本の芸人たちは、目を覆うばかりの恥ずべき政治家を、なぜネタにしないのでしょうか。「そりゃ、忖度(そんたく)しとるからや!」


きょうの潮流 2024年3月17日(日)
 1986年といえば、バブル景気が始まった年でした。その時代から現代にタイムスリップした“昭和のおじさん”のてんやわんやを描いたテレビドラマが話題に上っています▼クドカンこと宮藤官九郎さん作の「不適切にもほどがある!」。主人公は、愛する娘に乱暴な言葉を投げかけて、セクハラもパワハラもお構いなし。とはいえ、本人も決して自分を全面的に肯定しているわけではなく、時折、考え直したりもします▼主人公の言動は、令和の現在にあって厳しく問われるところではあります。が、ドラマはそれが、今の社会のあり方を探るヒントとして波紋を広げているさまを描いています▼昭和を生きてきた宮藤さんは「そこそこに生きづらかったし、戻りたいとは思わないけど、あの頃の価値観を『古い』の一言で全否定されるのは癪(しゃく)なんです」と。ドラマを書いた動機です▼ハラスメントという言葉が使われるようになったのは80年代と言われます。「セクハラ」が89年の新語・流行語大賞の新語部門金賞に選ばれて一気に広がりました。その年に女性編集者が上司からのセクハラ被害を裁判に訴えたのがきっかけです。ハラスメントに物申す動きは当時から脈々とあったのです。その時代のつながりはドラマにも▼さて、私たちは今と地続きに存在する将来に、どんな社会を手渡せるか。生きいきと安心して暮らせる世の中になってほしい。そのためにまずは不適切きわまりない自民党政治をいっときも早く終わらせることでしょう。


きょうの潮流 2024年3月16日(土)
 やさしい時が流れるドラマでした。人が人を思いやり、次第に相手を好きになっていく。つきあいはじめ一緒にくらすことになる喜び。同時にその幸せが、社会の壁に阻まれる姿も▼NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」は料理をきっかけに交際するようになった女性どうしと、自身の性的指向にむきあう過程を丁寧に描き、共感をよびました。一方で同性カップルというだけで家探しにも苦労する現実も映しました▼「両性というのは男女間での婚姻を表すものだといわれ、社会の中でいないような者にされていることを実感させられてきた」。10年前から同性パートナーとくらし、結婚が認められないのは憲法違反だとして国を訴えてきた女性はいいます▼結婚の自由をすべての人に―。長く闘ってきた人たちに笑顔がひろがりました。憲法24条1項の両性とは男女のみならず人と人との自由な結びつきであるとして、同性婚を認めない現行制度は違憲だと札幌高裁が判断しました▼「同性カップルにも当然の権利が与えられ、この国で家族として、ふうふとして生きていって良いんだといってくれる、ほんとうに前向きな励まされる判決でした」。先の原告女性はうれし涙を流しました▼選択的夫婦別姓とともに大多数の国民が賛同している同性婚。それは人権が保障される社会につながります。性的少数者の人権を守る法整備をもとめる松岡宗嗣さんは「変わらないのは政治だけ」と。突きつける先はかたくなに認めない自民党政権です。


きょうの潮流 2024年3月15日(金)
 ギリシャ神話に出てくる時間の神が名前の由来です。打ち上げ直後に爆発した民間ロケットの「カイロス」。世界最短の宇宙輸送をめざすスペースワンが開発を進めてきました▼競争が苛烈な宇宙の場は、陸海空につづく第四の戦場とも呼ばれています。キヤノン電子などが共同出資するスペースワンも防衛省と契約。今回のロケットには、政府の軍事スパイ衛星を代替するための小型衛星を搭載していました▼宇宙軍拡にも前のめりの岸田政権。国会で決議され、平和利用にかぎって認められてきた日本の宇宙政策を根本からひっくり返そうとしています。さらなる軍事大国の道。それは武器の輸入だけでなく、輸出でも▼日本がイギリス、イタリアと共同開発する次期戦闘機や武器輸出の解禁。この国の重大な転換をめぐり、共産党の山添議員が首相の姿勢を国会でただしました。「海外へ武器を売りさばくという発想は『死の商人』国家との批判を免れない」▼武器輸出の禁止は日本が国是としてきました。外務省の「平和国家としての60年の歩み」の実績にも、武器の供給源とならず武器の売買で利益を得ないことが記されています。専守防衛や軍事費のGNP(国民総生産)1%枠などとともに▼戦後、国民の願いに押されるように掲げてきた平和国家。その実績を、ことごとく壊していく政権の背景には米国や財界のいいなりになっている自民党政治があります。軍事力で平和は築けない。時間を逆戻りさせないためにも、その転換こそ。


きょうの潮流 2024年3月14日(木)
 能登半島地震から2カ月余。東日本大震災によって引き起こされた東京電力福島第1原発事故から13年の11日夜、首相官邸前に出かけました▼「記憶を風化させないため」を合言葉に首都圏反原発連合(反原連)が呼びかけた抗議行動です。ふるさとを放射能で汚染された帰還困難区域にかえ、家族のだんらんという当たり前の日常を一瞬で奪い取った原発事故▼「被災者の気持ち考えろ」「地震の国に原発いらない」「原発動かす岸田はやめろ」。ドラムの響きに合わせたテンポいいコールを聞きながら、地震大国での“脱原発”という初心を思い返しました▼13年たっても事故は未解決、住民は苦しい思いをしているのに、原発再稼働にのめりこむ岸田政権。「原発はどれも海のそばか半島の先。志賀原発は運転停止中で大規模事故に至らなかったのは『不幸中の幸い』で、地震により陸路は寸断され、誰がみても避難計画は絵にかいた餅だ」とのスピーチも▼「もの言わぬ市民がものの言えない社会を生む」。主権者として、声を上げ異議を申し立てて意思表示する経験は安保法制=戦争法などに反対する市民運動などを経て定着。性暴力のない誰もが安心できる社会を願うフラワーデモなど、多様なテーマ、多彩なスタイルで声を上げています▼肝心なのは「あきらめないで行動を続けること」。原発関連企業からの巨額のカネを懐に原発を推進する自民党政治はもうゴメン。安心・安全な未来のため、「原発いらない」の大きな市民運動を。


きょうの潮流 2024年3月13日(水)
 成り上がったのか、成り下がったのか。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が11日に公表した世界の武器取引に関する報告書によれば、日本の武器輸入は世界第6位。憲法9条で「戦力不保持」を宣言しながら、いまや世界有数の「武器輸入大国」になったのです▼2014~18年と19~23年を比較すると155%増。際立つのは、長射程ミサイルの大量購入です。SIPRIによれば、23年には射程1000キロ以上のミサイル取引が急増。なかでも、米国から巡航ミサイル・トマホーク400発を購入した日本は突出しています▼他国領域への攻撃が可能な長射程ミサイルは、言うまでもなく憲法違反の敵基地攻撃能力にあたり、保有は許されません▼日本政府は中国や北朝鮮の脅威を口実にしています。しかし、安倍元政権による米国製武器の爆買いも、岸田政権による軍事費2倍化・敵基地攻撃兵器の大量購入も、背景にあるのは日本に大軍拡を促す米国の強い要求です▼日本が輸入した武器の実に97%は米国製。欠陥機オスプレイも米国製です。日本のおかげで米国の武器輸出は17%も増え、米軍需企業は巨額の利益を得ています。「もしトラ」=トランプ政権の復活が現実のものになれば、「米国製の武器を買え」という圧力のさらなる強まりが懸念されます▼米国はイスラエルにも大量の武器を売却し、パレスチナ・ガザ地区の住民虐殺に使われています。罪なき人々の血で潤う武器ビジネスにストップの声を。


きょうの潮流 2024年3月12日(火)
 ハーモニカやギターを鳴らし、くつろぐ船員たち。そこへ、いきなり閃光(せんこう)が走り目の前の海が爆発する。後に長きにわたってシリーズ化されてきた映画の始まりでした▼度重なる水爆実験によって安住の地を追われ、放射能を浴びて変貌した生物。当初は「水爆大怪獣」と銘打たれたゴジラの第1作は、太平洋のビキニ環礁で米国が実施した水爆実験で日本の漁船が被災したことに着想をえてつくられました▼ビキニ事件と同じ1954年に公開。作中では「放射能の雨」や「原子マグロ」という言葉も使われています。敗戦からおよそ10年。当時の世相とともに、すべてを破壊していくゴジラの怒りに戦争の悲惨や人類の愚かさを映し出しています▼今年のアカデミー賞・視覚効果賞に山崎貴監督の「ゴジラ-1・0」が選ばれました。敗戦直後の東京を舞台にしたもので優れた撮影技術が評価されました。一方で、戦争や特攻の描き方には疑問の声もあがっています▼今回の作品は日本で製作された実写版ゴジラの30作目。ほかにもハリウッド版やアニメ化されたものも。なかにはゴジラ誕生の出発点からかけ離れ、怪獣の恐怖や戦闘の迫真だけを追ったような作品もありました▼アカデミー賞作品賞は、原爆の父といわれた米物理学者を題材にした「オッペンハイマー」が受賞しました。いまなお核に固執し、その恐怖とむきあっている人類への警鐘なのか。70年前に、核の脅威や人間のおごりを背負ったゴジラ。その原点に立ち返るときです。


きょうの潮流 2024年3月11日(月)
 「生きてよかったんだか、悪かったんだか…」「この生活には耐えられない」。東日本大震災のとき、避難所の人たちは絶望と不安のなかにいました▼水や食料、電気や暖をとるものもない。雑魚寝の床からは寒さがしんしんと。身も心も震える日々だったとふり返ります。生活環境の悪化などによって、およそ3800人が災害関連死と認定されています▼同じような光景は今も。能登半島地震の過酷な避難状況、心身ともに大きな負担を強いられている被災者。教訓は生かされていません。岩手で避難所生活を経験した女性が思いを寄せていました。「能登は、もっと寒いだろうに」と▼あの日から13年。原発事故の影響もあり、いまだ3万人近くが故郷を追われています。くらしや生業(なりわい)の再建はきびしく、被災者の孤独死も続いています。宮城民医連の健康調査では、被災者の半数弱が生活は苦しいといいます。医療費を理由に受診を控えることも。重度の抑うつ状態が疑われる人は全国調査の倍以上でした▼復旧であって復興ではない―。東北の被災地で何度も耳にした声です。つくり直された道路や建物。しかし人々の生活や街のにぎわいは戻らない。震災への不備や対応の冷たさは、いかに政府が苦難にある国民を突き放してきたかを物語ります▼被災地で必死に生活を立て直そうとしている人たち。生きていてよかった。そう思えるように支え続けることこそ政治の役割ではないか。被災者のありようは、この国の姿勢を映しています。


きょうの潮流 2024年3月10日(日)
 焼夷(しょうい)弾が降り注ぐなかを、家族と必死に逃げた。たくさんの友だちを失った―。九死に一生を得た体験者の証言に聞き入る母と子の姿がありました▼台東区民を中心とした実行委員会が毎年この時期に開く東京大空襲資料展。今年で37回を数え、会場の浅草公会堂には惨禍を生々しく伝える絵や写真、資料が所せましと並べられていました。「いまも平和が脅かされている。戦争を風化させないよう続けていきたい」と▼きのう上野公園では「時忘れじの集い」が開かれました。両親ら家族6人を空襲で失った随筆家の海老名香葉子さんが呼びかけてきたもので20回の節目を迎えました▼とうちゃん、かあちゃん、みんなーと泣き叫び焼け野原を探した日々。戦争孤児となって生きるのがつらかった戦後の体験。90歳となった海老名さんはいかに戦争が無残で、平和な日常が大切であるかをとつとつと語りました▼国会では東京大空襲を経験した96歳の女性が、被害者を救済する法案の成立を一刻も早くと訴えました。全国各地で空襲被害にあった多くの人びと。しかし政府は救済を一貫して拒み、さらに苦しめてきました。「国は、われわれがこのまま死ぬのを待っているのか」。被害者や遺族は怒りをこめて▼なくならない戦争。その悲惨を伝え続けるのは、体験者である私たちの使命だという海老名さん。あの日から79年。次の世代に願いを託しながら、こう呼びかけました。みんなで話し合い、手をとり合って暮らす。それが平和への道です。


きょうの潮流 2024年3月9日(土)
 「男子のみの専有とせられた野球が最近各女学校に盛んになり」。1922年11月、「東京朝日」の社説にありました。戦前の日本で女子野球の広がりをうかがわせます。ところが3年後の全国高等女学校校長会議で野球は女子に適さないとされ、翌年に教材から外れます▼理由は「女子が足を開いてバットを振るなど最も女子らしからぬ行為」だから。これを機に女子野球は衰退します。女性がスポーツから不当に排除された歴史の一こま。こうした例は世界でも枚挙にいとまがありません▼1921年、サッカー発祥の地イングランドで、女子に事実上の“禁止令”が出ます。表向きは「女子の体に有害」。本当の理由は当時、人気を博しつつあった女子サッカーに脅威を感じたから。禁止令は世界に広がり、半世紀も解かれませんでした。一体どれだけの女性が苦悩し、悔し涙を流したか▼だからこそ8日の国際女性デーはスポーツ界にとっても大事な日。日本サッカー協会は5年前からこの日を「女子サッカーデー」とし、「男女の性差を超えて、女性の活躍を願う」発信を続けています▼いまスポーツ界も男女の待遇差があり、賞金や年俸、競技環境まで厳然たる格差があります。理由の一つがこの歴史的制約だけに、女性のたたかいに依拠するだけでなく、男女ともに解決の道を探る必要があります▼「女子サッカーデー」のスローガンは「世界でいちばんフェアな国になろう」。スポーツの平等を求める精神は社会を変える力と深く重なります。


きょうの潮流 2024年3月8日(金)
 働く女性のあゆみを研究してきた経済学者が述べています。「私たちはさらなる男女平等とカップルの公平をもたらすために、いかにシステムを変更するかを問える時代に到達している」▼ノーベル経済学賞をうけた米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授が著書『なぜ男女の賃金に格差があるのか』で。現在の仕事と家族ケアの構造は男性だけがキャリアと家族の両方を持っていた過去の遺物だとも▼教授は日本についても「女性を労働市場に参加させるだけでは十分ではない」と指摘しています。実際、日本の賃金格差はG7の中で最下位。内閣府の調査では男性の7割ほどにとどまっています▼英エコノミスト誌が毎年発表する女性の働きやすさランキングでも、日本は主要29カ国中27位と低迷。世界銀行のまとめによると、法的な保護も他国と比べて男女格差が大きい▼国会では共産党の田村智子委員長が賃金格差の要因となっている「間接差別」をなくせと、政府に迫りました。女性の非正規の多さ、一般職と総合職のコース別人事の割合を示しながら、企業にたいする格差是正の義務づけや国によるとりくみを求めました▼先の本を訳した鹿田昌美さんは、男女平等に向かう大きな流れのなかで、人びとの意識が変わり、社会の変革も起こってきたといいます。前の世代が果たせなかった願いが刻まれたバトンを次の世代がうけとり、道を切り開きながら走り続ける。女性たちは一つのチームなのだと。きょうは国際女性デー。


きょうの潮流 2024年3月7日(木)
 蔵王おろしが吹きすさぶ地に、その碑はあります。「高野功ここに眠る」。45年前のきょう、中国軍の凶弾によって命を奪われた「赤旗」ハノイ特派員です▼ふるさと宮城県川崎町。どっしりとした石碑には最後の取材メモが刻まれています。「コトンとそばに落ちてきた砲弾の破片はまだ熱く……頭の上に落ちずに助かったとまずは強運に一安心」▼弾雨というのだろうか。数知れない銃弾が押し寄せ、ジープのフロントガラスが一瞬のうちに砕け、助手席にいた私の顔面で飛び散った―。ともに銃撃をうけた、フォトジャーナリストの中村梧郎さんが近著『記者狙撃』で当時の状況をよみがえらせています▼1979年3月7日のことでした。前の月からベトナムに攻め込んでいた中国の侵略の事実を高野さんは現地から世界に発信していました。3月5日、中国が「撤退」を表明。真偽を確かめるため、最前線の国境の町ランソンで取材していたさなかの殉職でした▼真実を掘り起こすことがジャーナリストの本分だという中村さん。侵略戦争はつねに自分の方が強い、敵は弱いからたたきのめそうと考える大国が引き起こすとして、ロシアのウクライナ侵略やイスラエルによるガザ攻撃を批判します▼半世紀近くがたっても墓碑には花が供えられ、ベトナムからの来訪者も。この地でくらす妻の高野美智子さんは「いまだに思い出してくれる」と感慨深く。35歳で亡くなった記者が眠る碑は、侵略への怒りと悲しみを静かに訴え続けています。


きょうの潮流 2024年3月6日(水)
 「尋常ではない」。岸田政権が進めるGDP(国内総生産)比2%への大軍拡をこう批判するのは元外務省事務次官の薮中三十二(みとじ)氏。近著の『現実主義の避戦論』(PHP研究所)で「おそらく数兆円規模の増税にならざるを得ないのではないか」と心配します▼大軍拡の目玉である敵基地攻撃能力保有にも疑問を投げかけます。「『力に対しては力だ』といった考えに基づき、議論を突き詰めていけば、中国と同等程度の軍事力を持たなくてはいけない、ということになり…『中国が核保有国である以上、日本も核を持たないと抑止力が有効に機能しない』という結論になるのではないか」▼薮中氏は日米同盟を重視していることも強調しています。そういう立場からみても岸田政権が進める軍拡に不安を感じざるをえないということかもしれません▼大軍拡を喜ぶのは米国です。エマニュエル駐日米大使は米紙ワシントン・ポストへの寄稿で「日本は数十年続いた神聖な政策を根本的にひっくり返した」と絶賛しています(2月12日電子版)▼計画されている5年間で約43兆円の軍事費で「米国からF35ステルス戦闘機や400発のトマホークなどの軍需品を買うことが可能になる」とも。だれのための大軍拡なのか一目瞭然です▼防衛省の有識者会議で榊原定征元経団連会長が、さらなる軍拡とそのための国民負担を「タブーとせず」と主張し、批判を浴びています。まさに国民生活そっちのけの暴走。「尋常ではない」政治は終わらせるときです。


きょうの潮流 2024年3月5日(火)
 子どもをもつ以外の人生を歩みたい―。その選択を、テレビの長寿番組で全国に伝えた夫婦は、とんでもない試練にさらされました▼教師だった妻は夫の親からなじられ職も解かれる。夫婦は殺害予告をうけ、隣人は手紙を送りつけました。「あなたは女性と名乗るべきではない」。1970年代のアメリカでの出来事です▼子を産むか産まないか。両者の間の「溝」を掘り続けてきたものとは。米国の歴史学者が著した『それでも母親になるべきですか』を読むと、その「溝」が社会のなかで意図的につくられてきたことがわかります。国家や宗教によって▼著者は歴史をひもときながら、女性が母親にならなかった理由を説きます。助けてくれる人がいなかった、すべてを手に入れるのは無理、地球環境が心配、物理的に無理だから…。そして現代の女性が子どもをもたない理由の多くが、過去の女性たちと共通していることも▼昨年の日本の出生数が75万人余で過去最少を更新しました。これで8年連続の減少。結婚も減っていることから、専門家は「今後さらに減少する可能性がある」と指摘します。民間の調査でも将来子どもをほしくないと答えた未婚の男女が半数超に▼異次元の少子化対策を口にする岸田政権ですが、中身は低次元で財源を国民に押しつけるお粗末さ。若い世代が先が見えない状況に置かれている今、隅々までの支援を。めざすのは、どんな生き方を選択しても自分らしく生きることができ、それが尊重される社会です。


きょうの潮流 2024年3月4日(月)
 「さよなら自民党」と題した特集が雑誌『世界』の3月号で組まれています。派閥や世襲、裏金。政治腐敗をくり返す政党の自浄作用には期待できないとすれば、われわれ主権者が選挙によって鉄槌(てっつい)を下すしかないと▼「責任を逃れるために無能であると世間にアピールする政治家を見て、怒り、呆(あき)れ、蔑(さげす)み、哀れみ、悲しみ、色々な感情が行き交う」。政治学者の三浦まりさんは、秘書や会計責任者のせいにして逃げる醜い姿に▼清水の舞台から飛び降りる覚悟で―。政倫審に出席した岸田首相をたたえる声がメディアから上がりました。自身も「先頭に立って改めるべきは改めていく」と▼実際はどうだったか。範を垂れたのは裏金問題の解明に背を向けること。自民党の総裁として説明責任を果たすどころか、疑惑隠しに徹する。安倍派幹部らも右にならえと知らぬ存ぜぬを決め込みました▼リーダーシップをとったのは政倫審を踏み台にした予算案の強行でした。しかもそれは過去最大8兆円もの軍事費を盛り込む一方で、物価高騰で苦しむ生活には追い打ちをかけるもの。審議を求める野党の訴えには耳を貸さずに▼企業からの献金で裏金をつくり、財界の意にそった政治を行う。自民党がこの問題に踏み込めないのは、みずからの存在意義にかかわるからでしょう。「一人ひとりの粘り強い抵抗だけが、金権政治からの脱却を現実のものにしていく」と三浦さん。市民や野党議員が集まった国会前でも響いています。さよなら自民党政治。


きょうの潮流 2024年3月3日(日)
 障害のある人たちは障害ゆえにできない自分に気づき、いじめの体験がある一方で、自分で決める経験は少なく自己肯定感の低い人が多い―。千住真理子さんは、そう話します。元教員で、大阪府松原市の福祉型専攻科「ぽぽろスクエア」の職員です▼福祉型専攻科は、障害のある人が高等部卒業後に2~3年間通う学びの場です。そこで千住さんは性教育「こころとからだの学習」と進路「グッドライフ」の授業を担当▼「グッドライフ」では、相談できる力と自分の進路を考える力を育てることを大切にしていると千住さん。否定せずに話を聞くことで、青年らは自分の思いを語れるようになると▼男女のからだを学び、性交からいのちの誕生を知り、産道体験や沐浴(もくよく)体験をする授業も。自分の育ちに気づき、自身や付き合う相手を大切にする気持ちが芽生えます。「知りたいことが学べる」と大人気です▼「できない」「助けて」「わかりません」。これらが言えると、ほめられます。何をしてもいいとわかると要求が出る。要求がかなうと達成感が生まれ、意欲が育ちます。だからこそ話し合いが大切に。話し合いを重ねる中で安心や信頼が生まれます▼二つの授業を通して、青年たちは自分自身を知ることに。そして、自分のことは自分で決める力を獲得していきます。進路先、誰と付き合うか、誰が自分のからだに触れるのか…。自分の思いや願いを伝えられるようになると、生き方を決められるように。「人生の心の主人公」になるのです。


きょうの潮流 2024年3月2日(土)
 芸能・メディアの世界でさまざまなハラスメントが起きています。その赤裸々な実態が明らかになりました▼評論家の荻上チキさんが代表を務める「社会調査支援機構チキラボ」が調査結果を先日、発表しました。旧ジャニーズ事務所の性加害問題を踏まえて圧力や忖度(そんたく)について調べ、業界風土の改善を促すのが目的です▼回答したのは275人。芸能や報道・メディア分野で仕事をしている人々です。「出演・取引の禁止(いわゆる干す)の圧力をかけられたことがある」は123人、「セクハラや性暴力の被害を受けたことがある」は131人。どちらも半数近くに上ります▼自由記述は千件以上に。「性的関係を持たなければ仕事をやらないと言われた。そのままホテルへ半ば拉致された」「ノーギャラで宿泊が必要な取材を局から強要された。局担当者の言い分は『フリーランスは仕事をふってもらえるだけ、しあわせだ』」▼荻上さんは、ハラスメント防止ガイドラインを作ってほしいという回答があったことを紹介。「(NHKや民放連など)各社、各団体の横断的調査を要望したい。国会での政策的議論も」と訴えました▼芸能人の多くは、労働契約を結ばないなど不安定な状態に置かれています。日本芸能従事者協会は、芸能関係者をサポートし、ハラスメント研修を行うなど取り組んでいます。代表理事の森崎めぐみさんは本紙に「芸能界で働く全ての人が快適で気持ちよく働ける未来をつくりたい」と寄稿しました。希望の呼びかけです。


きょうの潮流 2024年3月1日(金)
 「げんきで、おとうちゃんのかへりを、まって居なさい」。病床から幼い3人の娘にあてた手紙からは、こまやかな気づかいとともに、やさしく子煩悩な父親の姿が浮かんできます▼焼津のマグロ漁船「第五福竜丸」の無線長だった久保山愛吉さん。核の「死の灰」を浴びて、40歳の生涯を閉じました。端正な字でつづられた家族への思いのなかには、放射能汚染を心配したのか「雨に濡(ぬ)れないように」とも▼太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で米国が行った水爆実験によって、島民や日本の漁船員らが被ばくした「ビキニ事件」からきょうで70年。焼津市の歴史民俗資料館では特別展が開かれ、久保山さんの手紙や「死の灰」が展示されています▼被災した船員らの無念の怒りは今も。いまだに日米の政府によって被災の全容は隠され、調査も謝罪も救済もないまま放置されています。「70年間、国に見捨てられてきた」と訴え、補償を求めるたたかいも続いています▼ビキニ事件によって燎原(りょうげん)の火のようにひろがった原水爆禁止の署名。それは世界の反核平和運動を大きく前進させ、核兵器禁止条約へとつながっています。「こうした草の根の市民運動が次の世代を動かす力になる」。杉並区長の岸本聡子さんは原水協の3・1ビキニデー全国集会にそんなメッセージを寄せました▼久保山さんは残した手記のなかで「とにかく私は平和を愛する」と。いままた戦争や核の脅威がひろまるなか、ふたたび核なき世界への運動を巻き起す決意を新たに。


きょうの潮流 2024年2月29日(木)
 この往生際の悪さはどうだ。国民に公開するなら出ない、他の議員が出ないなら自分も、やっぱり出るのやめた―。説明責任などそっちのけで駄々をこね、保身に走る姿がありありと▼裏金事件の政治倫理審査会に出席するかどうかで、もめ続ける関与の議員たち。二転三転、党としての方針も定まらず迷走する自民党。裏金議員の恥ずべき態度はもちろん、もはや組織としても体を成さない醜態ぶりです。これが政権を担う党とは▼ドタバタの末に岸田首相をはじめ、安倍派と二階派幹部5人の出席で、きょうあすの開催が決まりましたが、首相は何を弁明しようというのか。あれだけ国会で追及されながら、全容の解明に背を向けていたのに▼だいたい、あのおざなりな自民党の調査でさえ、衆参85人の議員らが関与を認めているのに、わずか5人の政倫審の出席で幕引きを図ろうというのか。真実を語ろうとせずごまかしに終始するなら、偽証罪に問える証人喚問も必要です▼ことは長きにわたって組織的、計画的に裏金がつくられ、選挙資金などに使われてきた問題。そこに切り込み、企業・団体からの献金を禁止してこそ、裏金をうみだす温床を取り除けるはず。カネによってゆがめられる政治も▼庶民には増税、自民は脱税―国民の怒りは頂点に達しています。いままで支持してきた人も、あまりのひどいありさまに、もううんざり、嫌気がさしたと。いまや迷わず手を携えて向かう先はみえています。さあ、自民党政治を終わらせよう。


きょうの潮流 2024年2月28日(水)
 当時の最先端技術だったそうです。井手(用水路)にたまる火山灰や土砂を下流に押し流す「鼻ぐり井手」。水路に渦が巻くような仕掛けが牛の鼻輪の形に似ていることから「鼻ぐり」と名付けられました▼熊本県菊陽町にある江戸時代の土木遺産です。阿蘇の水を集めた白川の中流域に位置し、井手のおかげで広い地域に水がゆきわたり、収穫高が3倍にもなったと伝えられています▼いまその町がハイテク産業の誘致にわいています。台湾大手の半導体メーカー、TSMCが工場を新設。キャベツ畑がひろがる中にそびえたった東京ドーム4・5個分の巨大な建物は、その存在感から“黒船”に例えられるほど▼人口4万3千余の町の景色も一変させました。閑散としていた最寄りの無人駅は人であふれ、周辺はマンションの建設ラッシュ。商店や飲食店もバブル景気にわいています。一方で、くらす人たちからはこれが地域の発展につながっていくのかと疑問の声も▼日本政府が1兆2千億円もの巨額を投じて支援する国策。スマートフォンから兵器まで、あらゆる電子機器に使われる半導体は国の戦略物資といわれます。しかし「経済安保」を口実に莫大(ばくだい)な国費を特定の大企業につぎ込むとは、異常な予算の使い方ではないか▼生活環境の急激な変化や地下水の枯渇を懸念する声は住民や営農者にひろがり、半導体の製造に使われる有機フッ素化合物(PFAS)による汚染の心配も。豊かな水とともに生きてきた町に漂う黒船への不安です。


きょうの潮流 2024年2月27日(火)
 どこに住んでいても安心・安全な給食を無償で。この流れが都道府県の制度づくりへつながりました▼東京都は4月から、和歌山県は10月から、無償化を実施する区市町村に半額を補助します。青森県は10月から1食あたりの平均額を全市町村に交付。単価を超える自治体は独自財源の確保が必要となりますが、一律の無償化は全国初。「うちの県でも実施させたい」と運動に熱がこもります▼都の半額補助は、財源問題で無償化に踏み切れなかった自治体を後押ししていますが、それでも実施を見送る自治体が残されています。本紙の聞き取りでも「都が全額補助してほしい」「本来なら国が無償化制度をつくるべきだ」との声が相次いでいます▼給食の質の確保も欠かせません。京都市は全員制の中学校給食を実施する方針ですが、2万6000食を調理する“巨大給食センター”から配送するというもの。全国でも例のない規模に「まるで給食工場だ」と市民から怒りの声が上がり、学校調理方式を求めています▼無償化されたとしても、自治体の姿勢次第で予算が切り縮められないようにすることが大切です。子どもたちの成長・発達に欠かせない給食なのに「無償だからこれで我慢して」などとないがしろにされないように。地産地消を心がけながら、より豊かな食を保障できるように▼国もようやく全国調査を実施し、取りまとめ作業中。「わあ! おいしそう!」「いただきまーす!」。こんなワクワクの時間が全国に広がりますように。


きょうの潮流 2024年2月26日(月)
 岸田首相が「政治とカネ」の問題をめぐる国会論戦で「真摯(しんし)」という言葉を連発しています。いわく「真摯に反省する」「真摯に向き合わなければならない」等々▼『広辞苑』によれば「まじめでひたむきなさま」。実態とのあまりの乖離(かいり)に噴飯ものですが、耳あたりの良い言葉をふりまいて国民の目くらましを図るのは、政権の姑息(こそく)な常套(じょうとう)手段のようです▼日本在住のカナダ人翻訳家イアン・アーシー氏が、著書『ニッポン政界語読本』(単語編・会話編全2冊、太郎次郎社エディタス)で、人心をもてあそぶ空虚かつ心地よい言葉を「もふもふ言葉」と名付けて紹介しています▼まずは「寄り添う」。歴代首相が「沖縄の皆さんの心に寄り添い」と言明しているが、これは「寄り切る」の間違いではないのか、いっそ「米国防総省の皆さんの心に寄り添い」とすれば言行一致で潔いのでは、と進言。「共感」も現首相お得意の空文句です。「信頼と共感の政治を全面的に動かしていきたい」という決意も、「不信と反感の世論」であえなく挫折したと揶揄(やゆ)します▼「感動」「希望」「安心」の浅薄さ。「原則として」「総合的」「俯瞰(ふかん)的」「適切に」「不適切な」の、いかようにも解釈変更可能な曖昧さ。「デジタル」「レガシー」等カタカナ語のハリボテ感。武力行使=「積極的平和主義」に至っては、崇高な理想の骨抜きではないかと警告します▼文は人なり。言葉の空洞化は、政治の空洞化。自ら発した言葉に真摯に責任を持つことから始められてはいかが。


きょうの潮流 2024年2月25日(日)
 人々の暮らしに溶け込むAMラジオが「廃止」されるかもしれません。民放各社は、「経営安定」を理由に44社をAM放送からFM放送へ転換する計画です▼実施は「2028年秋をめど」。放送を休止(停波)して影響を検証する「実証実験」を2月1日から来年1月31日までの間、13社、34局で予定されています▼業界団体の日本民間放送連盟(民放連)研究所の「2024年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」によると23年度は、ラジオの営業収入は1・7%減の見込み。地上波98社の24年度はAMが含まれる「中波・短波」で0・9%減と予測しています▼停波が可能になったのは、放送免許を出す総務省による「特例措置」です。同省ホームページによると、20年12月に「民間ラジオ放送事業者のAM放送のFM放送への転換等に関する『実証実験』の考え方」を公表。この中で「AM転換は各社の経営判断により行われるもの」という方針を示していて国は支援しません▼放送作家の石井彰さんは、「災害時、電池で長時間受信できるラジオは情報の命綱」と指摘します。「AM波を放送局の事情だけで止めて、FM波に転換するのはあまりに乱暴です。AM波が停波になって初めて、自分のラジオではAM波に代わるワイドFMが受信できないことに気づく人が多数発生するでしょう。広くきちんと知らせるべきです」▼AMラジオの電波の「到達範囲」はFMよりも広い。利点を棚上げして「情報弱者」を増やすことが懸念されます。


きょうの潮流 2024年2月24日(土)
 時折お日さまとか、おいしいご飯とか、子どものおしゃべりとか、慣れ親しんだものを楽しんでいる最中に、あのブーンという音が飛び込んでくる。その時に気づくんです。何もかも、以前とは違うのだと…▼戦禍のウクライナで避難する市民から詩人が聞きとった『戦争語彙(ごい)集』。日本でもロバート・キャンベルさんの訳で出版されています。ごく普通に生きていた人びとが平和な暮らしから切り離され、一方的な暴力にさらされる。その日々がありのままに▼通りはバリケードに、浴槽は身を守る場所へ。恋愛は別れとなり、きれいなものは危険を意味する言葉に。日常の風景や大切な思い出が、戦争によって変わってしまった悲しみが伝わります▼ロシアの軍事侵攻から2年。今も命が奪われ、生活や街が破壊されていく現実があります。戦時下にある子どもたちの苦しみや残された家族の不安。それは本紙特派員の記事からも▼長引く戦闘による疲弊や兵力不足、ロシア軍の攻勢。悲観論がひろがるなか、国際社会の協力や市民の声が支えになっています。昨年末のウクライナの世論調査では減少したとはいえ7割以上が「領土を譲歩すべきではない」と答えています▼「我々の歴史的な領土」と侵略を正当化するプーチン大統領。対して、世界の大勢は力による領土の切り取りは歴史の遺物だと。先の本に「悦(よろこ)び」と題する一編があります。「彼らは、確かにわたしからすべてのものを奪ったけれど―大切な日々を引き渡すことはしません」


きょうの潮流 2024年2月23日(金)
 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定に向けた「文献調査」をした北海道の2町村の報告書原案が公表されました。科学論文や地質調査のデータなどをもとに、活断層や火山など処分場を設置するのに適さない性質がないかを確認する第1段階の調査結果です▼それによると、神恵内(かもえない)村は、大部分が周辺の火山から15キロ圏内にあるにもかかわらず、現地でボーリングなどを行う次の段階の「概要調査」に進むことが可能だといいます。寿都(すっつ)町も断層など今後の調査で「留意すべき」項目があるものの、同様に可能だと▼日本で核のごみは、原発の使用済み核燃料からプルトニウムやウランを回収し、残った廃液にガラスを混ぜた「ガラス固化体」のこと。20秒で致死量に達する高い放射線を出し、人間の生活環境から10万年程度の隔離が必要です。このため政府は地下300メートルより深い地層に埋める「地層処分」する方針▼原案に対し、地球科学の専門家や市民団体から「地層処分には不適であることを示す多くの科学的論文があるにもかかわらず、無視している」と指摘されています▼能登半島地震で得られつつある最新の知見に全く触れていないのは「言語道断だ」とも。地球科学の研究者ら300人が昨秋、「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」とする声明も発表しています▼岸田政権は再稼働や老朽原発の運転延長など原発回帰を進める方針です。これ以上核のごみを増やす原発頼みをやめるべきです。


きょうの潮流 2024年2月22日(木)
 子どもへの虐待が疑われる事件がまたもや相次いでいます。子どもたちの幼い命を救うことはできなかったのか▼2022年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待に関する相談は、21万9170件で過去最高になっています。相談への対応件数は毎年増えており、10年前の3・3倍。20年前と比べると9倍以上にもなります。毎年、50人前後の子どもが虐待で死亡しています▼背景には貧困の拡大や子育てへの公的支援が足りない中で、親たちが経済的にも精神的にも追い詰められていることなどが指摘されています。人に冷たい政治の在り方が、ここでも深刻な影を落としています▼虐待事件が相次ぐ中で、22年には民法が改正され、親の子どもに対する「懲戒権」が削除されました。親による子どもへの体罰を容認している印象を与えるとして批判されてきたこの規定がなくなったことは一歩前進です▼しかし、増大する虐待の問題に、対応する児童相談所の体制が追い付いていません。対応する児童福祉司は専門的で慎重なかかわりが求められる事例を多数抱えて、夜中まで駆け回らなければならないといいます。政府も児童福祉司増員を進めていますがまだ人口2万人に対し1人程度。欧米では専門職が人口数千人につき1人いるのに比べると極めて少ない水準です▼わずか数年で人生を奪われる子どもたちをこれ以上出してはなりません。政治のありようを変えることを含め、子どもの命と人権を守るための国民的議論が求められます。


きょうの潮流 2024年2月21日(水)
 批判の矛先は絶対的な権力者に向けられていました。公開の場で初めてやじが飛び、率いる政党が人気ロックグループの公演を支援していたことがわかるとブーイングが起きました▼2011年末のロシア下院選挙。プーチン政権与党の「統一ロシア」は大幅に議席を減らし、かろうじて過半数を得ました。しかし選挙に不正があったとして抗議集会やデモがわき起こります。そのとき街に出て不満を表明しようと呼びかけたのがナワリヌイ氏でした▼「プーチンが権力を握って以来、初めてその怒りを政権への不服従につなげられる指導者が生まれた」。元BBC特派員の伝記作家が8年がかりで取材した『プーチン』に両者の関係が描かれています▼自身を脅かす政敵への反発。プーチン氏は相手の名前を口にしようともせず「あいつ」などと呼んでいたと。彼の後ろに見えていたのは、声を上げて迫る大勢の国民の姿だったのではないか▼ナワリヌイ氏は何度も投獄され、それに伴い国民への締めつけも強まっていきました。20年には毒物を盛られてドイツへ。翌年、帰国したところを拘束されますが、このときも首都モスクワの4万人をはじめ各地で解放を求める集会が開かれました▼そして、1カ月後に大統領選を控えるなかで起きた獄中死。弾圧のなかでも絶えない市民の追悼や献花の列は、プーチン政権への抵抗の証しです。反体制活動の象徴とされた47歳の死は呼びかけます。巨大な力を持っているのは、私たちだ。あきらめないで。


きょうの潮流 2024年2月20日(火)
 浅尾大輔著『立春大吉』(新日本出版社)は、小さな町の大きな闘いを描いた痛快小説です。本紙の連載がこのほど本になりました。「日本共産党の歴史の中で、現代の闘いを描くことに挑戦した」と作者はいいます▼町立病院の入院・透析廃止を突如打ち出した町長に対して、6人の高齢女性が立ち上がります。いつも自民党に投票してきた彼女たちが、共産党の若い女性町議と力を合わせ、妨害に負けず、ついに有権者の半数近い町長リコール署名を集めます▼浅尾さんの住む愛知県東栄町がモデルです。「地方でも国を揺るがすような運動を起こせる。とくに、いま時代を引っ張るのは女性たちという思いがあります」と▼小林多喜二唯一の新聞連載小説も女性たちが主人公でした。「都(みやこ)新聞」に連載した「新女性気質(かたぎ)」(のちに「安子」と改題)。家族の生活を背負う内気な姉・お恵と、組合活動に飛び込んでいく妹・安子。対照的な2人の支え合いを描きました▼浅尾さんは「政治的なテーマを書くと紋切り型になる危険があります。僕も毎日飽きずに読んでもらうために苦心した」と話します。「多喜二は失敗を恐れず、政治的なテーマで芸術性とエンタメ性の結合に挑みました。『蟹工船』はそれに成功した傑作です」▼きょう20日は、小林多喜二が殺されて91年。今年も各地で記念のつどいが開かれます。3月17日、東京の杉並・中野・渋谷多喜二祭の記念講演は浅尾さんです。『蟹工船』のエンタメ性を深掘りしたいと意気込みます。


きょうの潮流 2024年2月19日(月)
 能登半島地震ではペットの被災も深刻です。家族がペットとともに過ごせる同伴避難の指定避難所が少ないためです。せっかくペットを連れて逃げても、被災家屋に戻ったり車中避難をする人も多い▼珠洲市では、納屋で避難生活をしていた男性が火災により死亡する事件も。「ペットがいるから避難所にいけない」と話していたと言います▼東日本大震災では3100頭もの犬が犠牲となり、熊本地震でも多数のペットが負傷したり放浪状態に。取りに戻った飼い主が津波にのまれたり、ペットを置いていくことができず災害に巻き込まれる悲惨なケースも起きています▼環境省は2013年、ペットとの同行避難の推奨を「人とペットの災害対策ガイドライン」に明記しました。過去の悲惨な経験に学び、ペット防災が減災につながると自治体の防災担当職員も話します▼しかしいま―「石川県の動物愛護団体から悲惨な声が届いた」。俳優で動物保護団体Evaの代表理事でもある杉本彩さんがネットなどで訴えます。3・11後も数々の災害があったのにペット防災が進んでいない。まず国が同伴避難を強く推奨すること、そして「公助により、人も動物も救える命があることを知ってほしい」と▼同伴避難を進めるにはアレルギーや持病などがある人への配慮という課題も。災害時のペット取材や救済活動を重ねている団体の代表、香取章子さんは避難所の選択肢を増やす必要をこういいます。「動物に優しい社会は、人にも優しい社会です」


きょうの潮流 2024年2月18日(日)
 祖国とは何か―。主人公である父親が問いかけます。この部屋に二十年間存在し続けたこの二つの椅子のことか? それともテーブルのことか? 壁に掛けられたエルサレムの写真のことかと▼向かい合うのは、生まれたばかりの頃にイスラエル軍の攻撃によって離れ離れになってしまったわが子。追われた地で20年ぶりに再会した息子は、大量虐殺から逃れてきたユダヤ人に育てられ、守備軍の一員となって主人公に言い放ちます。「あなたは向こう側の人だ」▼イスラエル建国後、難民となり36歳で爆殺されたパレスチナ人作家カナファーニーが残した小説『ハイファに戻って』の一節です。国や故郷を奪われるとはどういうことか。幾重もの悲しみが伝わってきます▼半世紀以上も前に書かれたカナファーニーの作品がいままた注目を集め重版されています。「これは今もイスラエルで起こっていることだ」。数年前、文庫版の解説につづった作家の西加奈子さんの言葉は進行形となって目の前に▼100万人をこえる避難民でひしめくガザ南部ラファへの軍事攻撃が迫っています。それがどれほどの悲惨を。国際法や人道を顧みない、これまでのジェノサイドが物語ります▼先の主人公は自身の問いにこう答えを出します。「祖国というのはね、このようなすべてのことが起こってはいけないところのことなのだよ」。そして、イスラエルの人たちをはじめ私たちに叫びかけるように。この悲劇が、自分の身に起こったらと想像してくれ、と。


きょうの潮流 2024年2月17日(土)
 市場は浮かれています。バブル期以来の史上最高値を目前にした株価に。斎藤健経済産業相もこれまでの日本経済をふり返りながら「潮目の変化を迎えている」と手応えを口にしました▼実体はどうか。国の経済活動の状況を表すGDP(国内総生産)は長期低迷によってドイツに抜かれ、世界4位に転落。日本の3分の2ほどの人口を考えれば国民1人当たり1・5倍の経済格差がついたことに。しかもドイツの年間労働時間の平均は日本より2割も短い▼この間2期連続のマイナス成長となったGDPについて「見た目よりも非常に厳しい内容」と分析する専門家も。マイナスが続く内需については、とくに物価高による個人消費への影響を指摘し賃上げが景気の鍵を握ると強調しています▼足元をみても停滞と衰退は顕著です。地方ではシャッター通りがひろがって久しく、土台を支えてきた農業や畜産業、漁業や林業も苦境にあえぎ、後継者不足も深刻です▼ゆきづまる日本経済。株価の上昇や目先の利益ばかりを追いかけ、労働者や生産者、中小零細企業をいじめてきた結果でしょう。もうけをため込み、人を大事にせず、賃金や投資を抑える。そうした財界のやり方や、それに沿った政治から抜け出してこそ潮目の変化が生まれるのでは▼「経国済民」。経済とは国を治め、人民を救済することです。ほんらいの意味に立ち返り、一人ひとりのくらしを温める。それが、この国に住む人びとの将来を照らすことにつながっていくはずです。


きょうの潮流 2024年2月16日(金)
 圧死が41%、次いで窒息22%、低体温症14%―。能登半島地震の犠牲者の死因です。倒れた家屋の下敷きになり、身動きがとれず、凍死に至る。もう一歩早ければ…なんともつらい思いが▼一時は3万人近い避難者。その多くが暖房もない過酷な環境下で忍耐を強いられた日々でした。「助かった命を守り抜きたい」と悲鳴にも似た訴えは切実感をもって▼問題は発災半月もたっているのに、なぜ助かった命さえ危ういほど救助・支援が立ち遅れたのか。「半島へき地」「陸の孤島」だから仕方がなかったというのか▼メディアなどによる国や県の対応を検証する報道が始まっています。何日も支援の手が届かず、置き去りにされた被災地。発災の翌日から現地入りした地元テレビ局記者は「これは間違いなく人災です」「そもそも石川県の震災への被害想定が甘すぎました」(『世界』3月号)▼初動の遅れ、物資搬入・備蓄の欠陥、避難所の劣悪さ。「想定外」が起きたとき、どう対応するか。「今回は社会、行政の備え方が不十分だったために、被害が大きくなった」。防災工学専門の室崎正輝神戸大名誉教授が悔恨の念を込め本紙で語っています▼「これは『人間の国』か」。阪神大震災で過酷な体験をした作家・小田実氏は、生活再建の見込みも立たないまま仮設住宅や学校、公園で生活を余儀なくされる被災地の姿に、こう憤りました。災害への備えと対応はどうあるべきか。本格的な復旧・復興を前に、いま一度かみしめたい言葉です。


きょうの潮流 2024年2月15日(木)
 「国民には増税、自民党は脱税。こんなことが許されていいのか」。11日各地で行われたSTOP!インボイスのいっせい宣伝行動。人垣ができるなか、憤りの声が次つぎとあがりました▼あすから確定申告の受け付けが始まります。今年の傾向として課税が強化され、個人の裁量で節税できる余地が減っているといいます。物価高騰にもかかわらず、インボイスの導入をはじめ庶民は負担増を強いられています▼「国民には1円の単位で領収書を求めながら、裏金議員が収支報告書のいいかげんな訂正で済まされていいはずがありません」。共産党の田村貴昭議員が岸田政権の姿勢をただしました。国税庁は厳正に調査すべきだと▼まさに収支はめちゃくちゃです。日付も金額も支出先もすべてが不明で訂正もでたらめ。自民党の調査もポーズだけで、いつ、だれが指示して何に使ってきたのか、肝心なことはまったくわかりません▼本紙がスクープした松野博一前官房長官の闇金もちだし、茂木敏充幹事長の選挙経費「二重計上」疑惑、選挙対策委員長として裏金を全国に配り回っていたという甘利明衆院議員。底なしのカネまみれの実態は今も続々と報じられています▼直近のNHK世論調査ではおよそ9割が「説明責任を果たしていない」と裏金議員に厳しい目を注いでいます。自民党の対応についても「評価しない」が6割近くに。国民を苦しめながら、自分たちは巨額を好き放題。なんでこんな理不尽な思いを―ひろがる怒りと不信です。


きょうの潮流 2024年2月14日(水)
 東京・板橋区在住の俳人・家登(かと)みろくさんが、地域の共産党まんなか世代後援会の交流誌で「仲間」について書いています▼昨年、入管法改悪が国会を通過した直後のことです。落ち込んでいたみろくさんは知人から、仲間と語り合うとまた頑張ろうと思える、と言われました。「仲間?」。そのときは「仲間」という言葉に実感がなく、「そうですかね」と反応した覚えが…▼「だって、仲間って、漫画や映画の世界の言葉じゃないの?」。企業社会の中で自分をすり減らしてきたみろくさん。「あらゆる関係に損得がつきまとうようになって、そうしたら、学校で友だちを作るようにはいかなかった。仲間ってなんだろう」▼板橋の市民団体の勉強会に参加し初めて「仲間」を実感しました。「入管問題を含め、怒っていること、疑問に思っていること、これからどうしたらいいかを思いっきり喋(しゃべ)って、嘆いて、聞いて、笑った。それだけのことが嬉(うれ)しくて嬉しくて、その帰り道の大山商店街はキラッキラに輝いていて、その光る道はどこまでもどこまでも続いているような気がした」▼ガザへのジェノサイド攻撃、自民党の裏金問題、非正規、低賃金や格差・貧困…。社会のさまざまな矛盾が噴き出す中、いったいどれほどの人が、かつてのみろくさんのように仲間と出会えないまま、苦しみと憤りを抱えて生きていることか―▼そんな人たちともっとつながりたい―。みろくさんはいま、手作り交流誌『まんなかなかま』の編集長として発信中です。


きょうの潮流 2024年2月12日(月)
 大河ドラマ「光る君へ」が始まり、「源氏物語」がブームになっています。記者も冒頭を習った高校以来初めて現代訳を参照しながら読んでみました。実に面白い▼帝(みかど)の寵愛(ちょうあい)をうけた桐壺更衣(きりつぼのこうい)を、他の女御(にょうご)たちは嫉妬して、宮中を歩くのを通せんぼしたとか、なんとおとなげない。若き光源氏が初めて通った空蝉(うつせみ)は源氏を振り、最初の恋はあえなく失恋におわるとか…。心情を描いた変化に富んだ話が続きます▼作者、紫式部の教養も随所に見え、こんな物語論もあります。「いいことでも悪いことでも、世間にある人の有様で、見るにも見飽きず、聞いてもそのままにしておけない、後の世までも伝えさせたいことのふしぶし」を書き留めたのが物語の始まり。「皆それぞれにほんとうのことで、この世のほかのことというのではありません」(谷崎潤一郎訳)▼時の権力者、藤原道長は「源氏物語」の評判に目を付けました。一条天皇の気を引くため、娘の中宮・彰子のサロンに紫式部をスカウト。紫式部は宮中で物語を書き継ぎました▼「光る君へ」の脚本を担当した大石静さんは「『源氏物語』の行間には、紫式部の権力批判と深い人生哲学がある」と話しています。ドラマは、道長と紫式部(まひろ)が子どものときに出会っていたという設定です▼かつて母を道長の兄に殺され、苦しむまひろ。それを知って思い悩む道長。大石さんが「私の使命は何なのか、と考える自我の強い女性」として描く現代の紫式部物語のゆくえも楽しみです。


きょうの潮流 2024年2月11日(日)
 目と目でわかり合うこと。それができる指揮者は、演奏者に愛される―。村上春樹さんとの対談のなかでそう語っていました。オーケストラの呼吸をぴたっと合わせるのって至難の業。だから自分は顔や手の動きで息をとるのだと▼世界的な指揮者、小澤征爾さんは「個」を大切にしながら、それをまとめることに情熱を注ぎました。音楽には国境がない。いろんな人がいて、いろんな考えをもっている。それが一緒になって、一曲をつくるから“味”がでると話したように▼「満洲」に生まれ、5歳のときに母親が買ってきたアコーディオンが音楽との出合いでした。日本への引き揚げ先では空襲にあい、戦後の生活は貧しく。しかし周りの人に支えられながら、海外で武者修行を重ねました▼人びとが争う戦争を体験したことで、心を一つに合わせてつくりあげる音楽の世界に没頭していきました。自身が創立し、毎夏開いてきた「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」。その30周年のときにこんなメッセージを発信しています▼「音楽は、言葉も国も宗教も政治もこえて、人と人の心をつなげることができる。音楽を通して、ぼくらは同じ星に住む、同じ人間であることを感じて、みんなでひとつになれることを願っています」▼被爆60年に際しては広島で市民らとコンサートを開き、ヒバクシャ国際署名に名を連ねたことも。後進の育成にも尽力してきた「世界のオザワ」。奏で続けた交響曲は、人間への深い愛情に満ちあふれていました。


きょうの潮流 2024年2月10日(土)
 日常を取り戻すとりくみが進められていました。学校が再開され、楽しげに通う子どもたち。しかし一見平和な光景は、いまだ空爆の危険と隣りあわせです▼そこはミャンマー北部の村。民主派による国民統一政府(NUG)が掌握した地域といわれ、現地の様子をNHKが伝えていました。軍のクーデターから3年。ミャンマーの人権団体によると、この間に4400人をこえる市民が殺され、いまも2万人近くが拘束されています▼一方で昨年からNUGと少数民族が共闘し、北西部を中心に攻勢を強めています。抵抗や抗議も続き、不服従運動に参加して学校から追放された教師は「軍の攻撃を恐れているが、子どもたちのために最善を尽くしたい」と復帰していました▼対話による解決をさぐる動きも表れています。先月開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議にミャンマー軍政は外務省高官を派遣。暗礁に乗り上げていたASEANの仲介が動きだすのではと期待されています▼非常事態宣言は五たび延長。国内の避難民は260万人に上るといい、とくに子どもや女性は厳しい生活を強いられています。ウクライナやガザによってミャンマーが忘れられているという焦燥感も▼国連のグテレス事務総長は「民間人を標的にした軍の暴力と政治的弾圧を終わらせなければならない」と、国際社会の協力を呼びかけました。いまも各地で続く「沈黙のストライキ」。そこには軍の暴政にあらがう市民の不屈さが示されています。


きょうの潮流 2024年2月9日(金)
 ある男性に「きみの小さい手じゃ弾けないよ」っていわれたから、見返すためにギターの演奏を習得した―。米国の田舎町でカントリー音楽にめざめた少女は、やがて人びとの光に▼世界的な人気歌手、テイラー・スウィフトさんの日本公演が始まっています。昨年からの世界ツアーの一環で、あすまでの4公演はすべて完売。集大成というツアーは観客動員の世界新記録とともに、音楽業界初のチケット売り上げ10億ドル超えを達成しました▼切ない恋心や自分に正直な気持ちを繊細に歌い上げる曲は国境をこえて多くの若者たちに支持されています。求められる「良い女の子」ではなく、性差別や政治に対しても恐れず声をあげてきた姿はロールモデルにも▼「わたしにとって歌は、ボトルに詰めた手紙みたいなもの。それを世界中に流したら同じように感じている人が、いつか聴いてくれるかもしれない」(『テイラー・スウィフトの生声』)。感情をありのままにさらけだすとき、そこには強さが宿ると▼その影響力の大きさは米大統領選をも左右するといわれ、トランプ信奉者からは陰謀論まで拡散されています。最近ではネット上で偽の性的な画像が流されました▼傷つきたくないからと、まわりに壁をつくるわけにはいかないというスウィフトさん。昨年、米タイム誌の「今年の人」に選ばれ、分断された世界で人びとに希望の光をもたらしていると評されました。きょうも彼女は歌います。生きづらい世の中を変えられるのは、あなただけ。


きょうの潮流 2024年2月8日(木)
 忘れた、記憶にないという戦略を続けられるのでしたら、ご自分の無能をずっとさらし続けるのだと―。統一協会の被害者たちが怒っていました。あまりの不誠実さに辞任をもとめて▼統一協会のダミー団体から選挙支援を受けていたことがわかった盛山文科相。前回衆院選で推薦状をもらい、政策協定にあたる推薦確認書にも署名していたといいます。国会でただされ本人も「サインしたのかもしれない」と認めました▼ひどいのは、そのとぼけた態度。関係者の証言が報じられても覚えていない、確認できないというばかり。推薦状を手にした写真を示され、ようやく「うすうす思い出してきた」とのべる始末です▼宗教法人を主管し統一協会の解散命令を請求した責任者が、当の相手とつながっていた深刻な問題です。被害者らが口をそろえて、任にふさわしくない、裏切られたと非難するのも当然でしょう。ところが岸田首相は過去は問わないとかばい更迭を拒んでいます▼自民党が協会との関係を点検した際にも盛山氏は選挙支援を隠し文科相に就任していました。本人の非道さとともに名ばかり調査がくっきりと。裏金議員のリストも同様ですが、事実を明らかにしようとする姿勢がまったく感じられません▼今月下旬には国と協会の双方から意見を聴く審問が東京地裁で始まります。「このままでは統一協会と戦っていくことはできない」。被害者の訴えは、いつまでも関係を断つことができない岸田政権と自民党に向けられています。


きょうの潮流 2024年2月7日(水)
 ホットでクールな、みんなの大会。そんなスローガンを掲げロシアのソチでオリンピックが開幕したのは10年前のきょうでした。冬季五輪としては当時史上最多の国と地域が集いました▼しかし、この大会は大きな汚点を残すことになります。五輪が閉幕しパラリンピックが始まろうとしていたときでした。ロシアがウクライナに軍事介入。みずからも国連で決議した五輪休戦のさなかでした▼世界平和への貢献や相互理解の促進、国境をこえた友情や連帯という五輪精神を真っ向からふみにじる暴挙。クリミア半島の武力併合は、今月で開始から2年となるウクライナへの全面的な侵略につながっていきました▼3年前に開かれた東京五輪も禍根を残しました。コロナの感染拡大で医療がひっ迫し多くの国民が反対するなかでの強行開催。主催機関や大会組織委員会への不信が高まり、人びとの間に対立と分断をもたらしました。きょうは長野五輪を記念したオリンピックメモリアルデーとされていますが、各大会の検証が求められます▼この日は「北方領土の日」でもあります。江戸幕府とロシアとの間で最初に国境を取り決めた日魯通好条約が結ばれた日。しかしいま日本政府は、従来の4島返還さえ投げ捨て2島返還へと。相手の領土拡張を正面から批判できず、プーチン政権の覇権主義を助長させています▼理不尽なふるまいには、どんな大国や組織に対しても物を言える政府。それをつくることが五輪のめざす世界にも合致するはずです。


きょうの潮流 2024年2月6日(火)
 自民党の「王国」に衝撃が走りました。前橋市長選で4選をめざした自公推薦の現職。それを破ったのは無所属新人で共産党が自主支援した小川晶氏でした▼4人の首相を出し、衆院も参院も選挙区では自民党の議員が占める群馬。県知事もかつては自民党の国会議員で、県議会でもおよそ7割が自民会派に属しています。その県庁所在地に吹いた新しい政治の風。前橋市議の多くが現職候補を応援するなか、初めての女性市長を誕生させました▼子育て支援や若者の雇用促進をはじめ生活によりそった政策、クリーンな市政を訴えた小川氏。多くの業界団体から支援をうけた相手が組織戦を展開するなかで無党派層から支持を集めました▼京都市長選では共産党も参加する「民主市政の会」が推薦した福山和人候補が大善戦。自公に加え立民、国民までが推した相手にあと一歩まで迫りました。政党の組み合わせからいえばダブルスコアの票差があったところから猛追。本人も「ここまで肉薄したのは市民の勝利といってもよいのでは」と▼選挙戦最終盤、危機感を募らせた相手陣営は政策そっちのけで反共攻撃の大合唱。しかし、出口調査で無党派層から最も支持されたのは福山氏でした▼地方の選挙戦で「逆風」となって表れたのは自民党の裏金や底なしの金権政治です。それは組織戦や反共攻撃をふきとばすほどの。直近の世論調査でも岸田政権の支持率は下がり続けています。カネによって動く政治を変えたい。市民との共同の力をさらに。


きょうの潮流 2024年2月5日(月)
 入門から1年もたたず、まげも結えない力士が、真っ向勝負で大相撲初場所を沸かせました。新入幕で11勝を挙げ敢闘賞を手にした大の里関。石川県津幡町の出身です▼「能登は海がきれいで、魚もおいしく、景色もいい」。自然豊かでおだやかな風景が元日に一変しました。能登半島地震で家がつぶれ、道路が陥没し、電柱が傾く。実家も被災し、家族は避難所生活を余儀なくされました。「すごく悲しい気持ち。初場所で自分が頑張って、いい姿を見せるのが一番」。苦難にある地元石川への思いを土俵にぶつけました▼震災から1カ月余。スポーツ選手が支援の思いを形にしています。プロ野球のキャンプでは寄付を募り、サッカー・アジア杯では、選手が「被災地に力を」との横断幕を掲げピッチを歩きました▼仙台市出身の卓球・張本智和選手は、「私自身も東日本大震災で被災経験があるからこそ、とても胸が痛い」。すぐ100万円を寄付しています▼震災で明日をも見えない被災者に何ができるのかはわかりません。ただ選手が日々体感しているのは、応援でどれだけ勇気をもらえてきたか。今度はそれをお返しする番です。巨人やヤンキースでプレーした石川県出身の松井秀喜さんは、「今度は…被災された方々が力強く立ち上がり前を向かれていく姿を応援しなくては」▼大の里関の活躍で「被災者が元気をもらった」。地元紙が伝えています。困難に立ち向かう姿に、自らを深く重ね合わせる人々へ。選手の熱きエールは続きます。


きょうの潮流 2024年2月4日(日)
 あの発言の奥底には女性蔑視がある―。ジャーナリストの浜田敬子さんがテレビでコメントしていました。人権意識がすごく欠けている、いまの時代にそういう感覚の人が政治家になっていいのかと▼「そんなに美しい方とは言わんけれども」「おれたちから見てても、このおばさんやるねと思った」。またもや自民党の麻生太郎副総裁からとびだした暴言。批判を浴びて「表現に不適切な点があった」と事務所が撤回の談話を出しましたが、反省はなきに等しい▼上川陽子外相の仕事ぶりに触れたなかでのもの。容姿や年齢によって人を評価する、女性を見下す。偏見や差別意識にこり固まった言動には、何を言っても自分は許されるというおごりが根底に横たわっています▼くり返す麻生氏の問題発言を放置してきた自民党の責任も大きい。上川氏は「どのような声もありがたく受け止めている」と受け流し、岸田首相も「慎むべき」と口にするだけ。軽口で済ませようとする姿がありありと▼同僚のベテラン秘書を「大変なおばちゃん。女性というにはあまりにもお年」とからかった森喜朗元首相の暴言も記憶に新しい。何度も顔を出す女性へのさげすみはこの党の男性支配の価値観をさらけ出しています▼最近の本紙購読の申し込みにこんな声が寄せられました。「ロンドンで働いて日本に戻ってきたとき、あまりの男女格差にがくぜんとした」。人類の巨大な流れになっているジェンダー平等。時代から取り残された党の政治を、いつまで。


きょうの潮流 2024年2月3日(土)
 1日の衆院本会議。能登半島地震・裏金・暮らし・外交―。国政の根幹をただした日本共産党の志位和夫議長の代表質問に対し、人ごとのような答弁を繰り返した岸田文雄首相でしたが、まともな答弁が一つだけありました▼東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心性とASEANインド太平洋構想(AOIP)を「支持する」というものです▼大国の侵略・干渉により、長い戦禍に苦しんだ東南アジア諸国は、徹底した対話の積み重ねで地域を平和の共同体に変えてきました。地域のみならず、「東アジアサミット」など、米国や中国、日本なども含めた重層的な平和の共同体を推進する。それがASEANの中心性です▼AOIPは、こうした重層的な枠組みを活用し、特定の国を排除するのではなく、すべての国を包摂し、武力による威嚇や武力行使を禁じたインド太平洋規模の平和条約を結ぼうという壮大な構想です▼このような構想に真っ向から反するのが米中の覇権争いです。中国は沿岸地域で強圧的な姿勢を強め、米国は地域の覇権を維持するため、同盟国を大動員する―。その先兵となり、軍事同盟強化・大軍拡を進めているのが岸田政権です。とりわけ、排除の論理を基調とする軍事ブロックの強化は、「包摂性」というASEANの理念と根本的に矛盾します。首相は、果たしてその点を自覚しているのか▼ASEANの取り組みは、本来なら憲法9条を持つ日本が率先して行うべきものです。「平和国家・日本」の名を汚さぬように。


きょうの潮流 2024年2月2日(金)
 家も店も、家族も失って、前を向いて、がんばろうって気にはなれない。1月1日から時が止まっている―。倒壊したビルに家が押しつぶされ、妻と娘を失った男性がうめくようにつぶやいていました▼甚大な被害をもたらした能登半島地震から1カ月。建物も道路も街も、なりわいも壊され、いまも途方に暮れる人びと。「外に出るたびに現実に引き戻される」。避難所でくらす被災者の声を本紙記者が伝えています▼震災直後の張りつめた緊張感から、喪失感や虚無感がさらに募ってくる。先行きが見えない悲惨な状況のなかで、心と体のケアをはじめ、これからのサポートが大事になってくる。専門家の指摘です▼厳寒のさなかに1万4千人以上が不自由な避難所に身を寄せ、災害関連死も増え続けています。救えたはずの命が守れない。いつまで痛ましい姿をくり返すのか。避難所の貧しさは、いかにこの国が国民の命と健康を軽んじているかをあらわにしています▼泣く泣くふるさとや家族のもとを離れ、孤立感を深めている被災者も。一人ひとりの状況に寄り添った、息の長いていねいな支援が求められます。輪島市では仮設住宅がつくられ、七尾市の市場では1カ月遅れの初競りが行われました。日常をとり戻す動きも少しずつ▼「能登に住み続けることができる希望がほしい」。共産党の志位議長は被災者の痛切なねがいを示しながら、国会で岸田首相に迫りました。いま必要なのは政府が「希望」のメッセージを発信することだと。


きょうの潮流 2024年2月1日(木)
 今になって35年前の文書が取りざたされています。自民党の「政治改革大綱」。そこにはパーティーの規制や政治資金の透明化、派閥解消への決意が盛り込まれていました▼発端は、リクルート子会社の未公開株が有力政治家らに賄賂としてばらまかれた「リクルート事件」でした。そのころ疑惑を追及していた本紙に「安倍、宮沢側がリ社に総裁選資金ねだる」との記事が載りました▼「ポスト中曽根」を争った安倍晋太郎氏と宮沢喜一氏がリ社の会長から5千万円を提供されていたというものです。「表の資金ではまかなえない」「自民党代議士に配る裏工作資金がほしかった」。両者の秘書は供述調書でそう述べて▼政治とカネ、メディアと権力の問題を追ってきた本紙のベテラン記者が著書に記しています。「カネで総裁のイス、ひいては首相の座を買う、そのカネを企業にたかる…自民党の金権腐敗の奥深さを改めて感じさせられる」と(藤沢忠明著『権力監視はどこへ』)▼裏金疑惑の報道はすばらしい、権力を追及する姿勢が頼もしい―最近「赤旗」を購読したいと寄せられた声です。他紙の記者も驚嘆するほどの調査力、そのノウハウはベテランから若手記者へと受け継がれています▼自民党の「政治改革」は昔も今もまやかしですが、より良い政治を求める国民と権力を監視するメディアがあるかぎり。購読申し込みにはこんな声も。「真実の報道、正義の報道、未来への報道を楽しみにしています」。きょう「赤旗」創刊96周年。


きょうの潮流 2024年1月31日(水)
 俳人芭蕉の「おくのほそ道」には歌枕となった主な目的地がありました。当時、松島と並ぶ景勝地といわれた秋田の象潟(きさかた)もその一つ。芭蕉は「松島は笑ふがごとく象潟はうらむがごとし」と例えました▼かつては潟湖(せきこ)に「九十九島」が浮かんでいた象潟。しかし1804年の大地震によって湖底が隆起。いまは陸地となり、島々は田園の中に点々と見える松の茂る小丘に変わっています▼海底断層が集中する日本海沿岸はその後もたびたび大きな地震に見舞われてきました。近年は沿岸東部で約10年から20年間隔で甚大な被害をともなう地震が相次いでいます。その延長線上で起きたのが、今回の能登半島地震です▼石川県珠洲市の日本海に浮かんでいた名物「ゴジラ岩」。地盤の隆起で陸続きとなり、輪島の漁港は干上がって漁に出られない状態に。千年に一度の規模ともいわれる地震は海底が露出するなど広範囲で地形の変化をもたらしています▼国交省や内閣府は2013年に「日本海における大規模地震に関する調査検討会」を設置。過去の地震や津波を調べ専門家の分析も加えています。そうした検討や歴史の教訓が生かされているとは、到底いえない現状があります▼岸田首相の施政方針は言い訳とやったことに終始しました。その目には犠牲になった人びとや、いまも厳しい避難生活のさなかにいる被災者の姿は映っているのか。元日の震災からあすで1カ月。国民の命と安全をおろそかにしてきた国の怠慢が、いっそう迫ってきます。


きょうの潮流 2024年1月30日(火)
 私たち抜きに私たちのことを決めないで―。こんなフレーズを目や耳にしたことはありませんか? これを合言葉に世界中の障害者が国連に参加し、障害者権利条約をつくりました▼採択されたのは、2006年8月の国連特別委員会。「その瞬間、大きな歓喜の声、そして足踏み、口笛。これが議場全体を埋め尽くしました」。日本障害者協議会代表の藤井克徳さんは当時の様子をそう振り返ります▼数年後、政府内に障害者や家族で過半数を占める会議体が設置されました。批准前に条約に資する法整備に向け提言をまとめるためです。障害者自立支援法に代わる新法や障害者基本法の改正、障害者差別を禁止するための新法…。2年以上にわたり議論を重ねました▼自公政権に代わると、政府による巻き返しが起こりました。成立した法律は、障害者や家族の願いが込められた提言から遠ざかる内容に▼国連障害者権利委員会は22年に日本の施策状況を審査。法・政策が父権主義的アプローチだと指摘しました。人権の主体としてとらえず、平等な市民として尊重しないまま障害者を恩恵的に保護する立場の法整備を批判しました▼日本が条約を批准して今年で10年。「私たち抜きに~」のもと取りまとめられた提言は、条約とともに羅針盤として運動の重要な役割を果たしています。性的少数者が差別禁止法制定を求めたとき。認知症の人が当たり前に暮らせる権利を求めたとき。今ではこのスローガンはさまざまな要求運動で使われています。


きょうの潮流 2024年1月29日(月)
 やまない戦火は新年にも暗い影を落としています。ガザからウクライナから、心痛む報道や映像が日々伝わります。世界から戦争はなくならない。そんな悲観的な論調も強まっています▼イスラエルのネタニヤフ首相やロシアのプーチン大統領は、相手の存在を認めないというかたくなな態度を崩していません。そこには多様性の時代に必要な「エンパシー」=他者を理解しようとする能力など皆無です▼「対話は多様性の産物。多様性の中で、対話は日常生活、生き方そのもの」。東アジアを平和な地域にするため東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々の努力をつかんできた日本共産党の代表団。インドネシアの元外相は志位団長との会談でそう述べたといいます▼多様性があるからこそ対話せずにはいられなかった。対話により誤解や誤算を回避できる。対話を促進し深めるためには政府と政党、市民社会の協力が重要―。交流の中身を志位団長が報告しています▼「私人の関係を規制すべき道徳と正義の単純な法則を諸国民の交際の至高の準則として確立する」。かつてマルクスは国際労働者協会(インタナショナル)の創立宣言の中で呼びかけました。隣人とのつきあいで守るべきルールを持った国際社会をつくろうと▼未来社会の先達が示した新しい世界像。時代や背景は違えど、それは発展しながら今に息づいています。家族の一員として受け入れ、助け合い、支える関係だというASEAN。そんな平和の共同体を世界中に広めたい。


きょうの潮流 2024年1月28日(日)
 どんな問題でも当事者の話を聞くことが大切です。不登校の子どもを支える活動をしているNPO法人が、不登校当事者とその保護者に対するアンケート結果を公表しました。「学校に行きづらくなったきっかけは?」の問いに子どもたちはこう答えています▼「全部先生が決めて、自分では選べないのがいや。席も自分で選べないので、苦手な人ばかりの席になってこわかった」(10歳)、「つまんないし、ずっといすに座っているのがいやだった。怒ってる先生を見て、怒られないように気をつけるのがいやだった」(8歳)▼保護者からはこんな声も。「学校が忙しすぎる。分刻みのスケジュールで休み時間も着替えや移動に追われ、トイレに行くのがやっと。とにかく急がされるので子どもが疲弊している。先生が忙し過ぎてその大変さが子どもに伝わる」(小4から不登校の子の母)▼不登校の小中学生は30万人近く。「さぼっている」「親がきちんとしつけないから」といった偏見もいまだにあります。アンケートで不登校の子どもが求めることの第1位は「不登校への偏見をなくしてほしい」でした▼不登校の直接の要因はさまざま。子どもに丁寧に寄り添って考えることが重要です。同時に、当事者の声からは問題の背景にある競争の激しい社会や教育、子どもの人権が守られていない現実が見えてきます▼アンケートには「学校が変わってほしい」という声も多く寄せられました。教育政策を変えることも含め幅広い議論が必要です。


きょうの潮流 2024年1月27日(土)
 「先生おしっこ!」と、子どもがせっかく教えてくれたのに「ごめん。ちょっと待って」と言わなきゃいけない。本当に悔しい▼「子どもたちにもう1人保育士を!」と全国の保護者や保育士の願いを集めた実行委員会が、党国会議員と懇談しました。長年の運動で山が動き、国は保育士配置基準の改善へと踏み出そうとしています。改善を実効性あるものに、そしてさらに充実してほしいと訴えました▼能登半島地震に見舞われた今、保育園で子どもの命をどう守るか改めて問われています。しかし今の配置基準で、自らの身も守りながら、泣き叫ぶ子どもたちと逃げるのは難しい。3人を抱っこできる“避難用抱っこひも”も市販されていますが、「こういうことじゃない!」と▼成長や発達を豊かに保障するためにも、人手は必要です。排せつの援助が必要な2、3歳児は、ズボンのはき方やトイレットペーパーの使い方など教えることがたくさんあるのに手が回りません。保育士1人がトイレ補助につきっきりになれば、ほかの子どもの対応が手薄になる。究極の選択を日々迫られています▼人手不足の日常では、ヒヤリとするような危ない場面にも直面します。「そんな時は『もう1人、おったら良かったのにな』と言い合っている」。ある園長は、懇談の場でこう語りました▼「一人一人を大事にしてあげられないから、保育士辞めます」。そんな切ない声に、政治がしっかり向き合うべき時。もう1人、いやもう2人、3人と保育士を!


きょうの潮流 2024年1月26日(金)
 娘を返して―。突然わが子を失った母は声を震わせました。久しぶりに帰省した26歳の娘を事件前日に送り出してしまった後悔。「あの日に戻れるなら…」▼34歳の夫を亡くした妻は、幼子だった娘とのおしゃべりを楽しみにしていたとふり返りながら怒りをあらわにしました。「かけがえのない家族を放火といういちばんひきょうな手段を使って一瞬で奪った」▼36人が死亡し32人に重軽傷を負わせた京都アニメーション放火事件。京都地裁は、青葉真司被告の責任能力を認め死刑判決をだしました。「一瞬にして黒煙と炎に巻き込まれた被害者たちが抱いた恐怖、苦痛は計り知れない。被害者には何の落ち度もなく無念は察するに余りある」と▼自分のアイデアを盗用されたと復讐(ふくしゅう)心を募らせ、大勢が働くスタジオに侵入。ガソリンを社員に浴びせライターで放火し建物は全焼。屋内にいた多くが犠牲となった戦後最悪の殺人事件は社会に大きな衝撃を与えました▼自身も重いやけどを負った被告は、遺族らが思いをぶつけた裁判で後悔や謝罪の言葉を口にしました。しかし、こうした事件をなぜ起こしたのか。命を投げやりにする行動をどうしたら止められるのか。答えは見つかっていません▼やけどを負った社員のひとりは個人の力ではどうにもならないことがあるとしながら、法廷で決意を表しました。「そんな現実を受けてもなお希望を描けるのがアニメや漫画、小説などのフィクションだと思う。だから希望を語ることを、やめません」


きょうの潮流 2024年1月25日(木)
 旧ジャニーズ事務所創業者による性加害をめぐって「メディアの沈黙」が指摘されました。果たして「沈黙」はそこにとどまっているでしょうか▼戦争にかかわっては、2014年の集団的自衛権の閣議決定、翌15年の戦争法の強行前後の時期からテレビの沈黙は続きます。自民党派閥の政治資金パーティーの裏金づくり疑惑では、民主政治の根幹にかかわる問題だと深めることが弱い▼テレビは報道機関として役割を果たしていないと、昨年末、弁護士ら42人が呼びかけ人となり、市民ネットワーク「テレビ輝け!視聴者からのメッセージ」を立ち上げました。共同代表は法政大学名誉教授・前総長の田中優子さんと元文科事務次官の前川喜平さん▼市民ネットワークが提起する活動は多彩です。「テレビジャーナリズムの可能性を信ずる視聴者」が、テレビ局の経営者や現場のジャーナリストと討論すること、シンポジウムを開くことなどをやっていきたいと▼大きな影響力を持つテレビが、事実に基づく情報を提供し、人々の議論を喚起することが求められると訴えています。本紙に元上智大学教授の田島泰彦さんが「メディアの抜本的な改革が欠かせない。それには市民の関与が決定的だ」と寄稿しました▼放送を語る会、全国各地にあるNHK問題を考える会、市民のためのKBSをめざす実行委員会等々。市民と放送労働者の団体が、メディア状況を変えようと粘り強い取り組みを展開しています。さらに広がりを見せる運動に期待大です。


きょうの潮流 2024年1月24日(水)
 開き直りのなかにも本音がのぞいていました。「私は力をつけたかった。大臣並みの金を集めてやろうと…。金を集めることが必要なことだと思っていました」▼自民党安倍派の裏金づくりをめぐり略式起訴され、議員辞職願を出した谷川弥一衆院議員。会見では、派閥のことは一切話さないといいながら無念をにじませました。派閥のやり方に従いながら、なぜ犠牲にならなければならないのか。そんな悔しさが言葉のはしばしに▼裏金の使い道については「飲みに行ったり、食べに行ったり、いわば人間関係づくり」とも。不正に集めた金がどんな目的でどう使われたのか。自民党がどういう政党なのか。こうした言動からもみえてきます▼私が悪かったといって辞める姿がまだましに見える醜態も。秘書や会計担当に責任をなすりつける岸田首相や安倍派幹部からは、反省どころか自分たちは裁かれないというごう慢さがありありと。それが政治不信をあおり、社会に害悪をもたらしています▼名ばかりの政治刷新本部の中間とりまとめ案。真相解明や裏金の大本となっている企業・団体献金の禁止には背を向け、派閥の存続にも道を残しています。みずからの体質を変えてしまえば、党そのものが成り立たないといわんばかりに▼立党の原点に立ち戻るという岸田首相。しかし、もともと自民党は、財界とアメリカの要請によって生まれた政党です。立党宣言にかかげた「政治は国民のもの」。それは国民を欺いてきた、この党の裏返しです。


きょうの潮流 2024年1月23日(火)
 石川県志賀町にある北陸電力志賀原発。もとは能登原発と呼ばれていました。同社の社史で1988年に「能登」から「志賀」に名称変更したと▼57年に社長室に原子力課を設置。62年発行の『北陸電力10年史』には「実際に原子力発電所を建設する場合、最も重要な問題はまず敷地である」と書いています▼運転を76年に開始する計画でした。候補地点を能登半島の4カ所に決め、68年から土地の買収交渉に着手。しかし、候補地点の人々の反対にあい買収を断念する地区があるなど、計画は大幅に遅れました▼後の社史にこんな記述が。ある地区で住民が臨時総会を開き、住民投票によって原発の受け入れに対する意見のとりまとめをしました。投票は実施されましたが、「県当局の調停により、開票は保留された」と▼また、環境影響調査のために電力会社が実施すべき海洋調査では、漁協の反対にあったため、石川県が別の名目で実施した海洋調査結果を、調査ができないでいた北陸電力に利用させたことも。地域住民の合意なしに建設が進められていったのです。93年の営業運転開始まで「実に四半世紀の歳月を要した」といいます▼その後、再循環ポンプの事故が頻発。99年には制御棒脱落・臨界事故が発生し、これを隠ぺいしていたことが8年後に発覚。事故を隠したまま2号機の建設が着工されています。今回の地震で重大なトラブルが相次ぎました。「(定期検査で)停止していてよかった」との声を聞きます。廃炉こそ安心できます。


きょうの潮流 2024年1月22日(月)
 アフリカ大陸中央部のギニア湾に浮かぶ群島国は、日本でもほとんど知られていません。東京都の半分ほどの面積に22万人余がくらすサントメ・プリンシペです▼固有の動植物が多く生息し、主な産業はカカオの栽培。じつは日本とのかかわりは深く、食料援助の日本米は非常に人気があって国民から感謝されているといいます。その小さな島国が今月、核兵器禁止条約に批准。70番目の締結国となりました▼条約制定に尽くした「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のメリッサ・パーク事務局長は歓迎と期待を込めました。多くの国が参加することで、「核兵器は容認できないとする新しい国際的規範が強化される」と▼核禁条約の発効からきょうで3年。それを前にパーク事務局長が広島・長崎を訪れました。被爆地で訴えたのは、「核廃絶はわれわれが住むことのできる地球を残す手段」であり、この条約が大きな影響を与えていること。さらに核兵器に頼る安全保障からの脱却です▼唯一の戦争被爆国でありながら条約に背を向ける日本政府にも言及。本来ならば最初に条約に署名する国であってほしかった、核の傘と決別し条約に加わる責務があると迫りました▼国の大小にかかわらず同じ星に息づく仲間たち。パーク事務局長は広島の原爆資料館の芳名録にこう記しました。「私たちの美しい地球に核兵器はふさわしくありません。広島はこのことを伝えています。核兵器が私たちを滅ぼす前に私たちが核兵器をなくしましょう」


きょうの潮流 2024年1月21日(日)
 「福ちゃん」と親しみをこめて呼ばれる弁護士の福山和人さん。きょう告示される京都市長選の候補者です。「つなぐ京都2024」の無所属新人。日本共産党も参加する「民主市政の会」が推薦し全力応援しています▼庶民の痛みがわかる福山さん。裁判事例にふれ、涙ぐみながら「政治の責任」を問います。スローガンは「くらし。ここから京都再生」▼公約にも熱がこもります。返さなくてもいい奨学金の創設、学校調理方式の全員制中学校給食、子ども医療費の高校卒業までの無償化など「すぐやるパッケージ」は市の年間予算のわずか1%でできます▼なのに、これまでの「オール与党」市政を支えてきた陣営の候補者は財源に疑問を呈します。地元負担がいくらになるかもわからない北陸新幹線京都延伸計画は必要というのですから驚きです。「行財政改革」の名で削減した住民サービスを元に戻す気はまったくなさそうです▼もっと驚きは「政治とカネ」。裏金疑惑に揺れる自民党丸抱え候補は「自治体の首長(候補)がどうこういう話ではない」と逃げ。政治資金集めパーティーを9回開き、8回が参加者ゼロという「架空パーティー」が発覚しさすがに擁立した日本維新の会も推薦取り消しをせざるを得なかった候補者まで出馬の構えです▼カネで政治をゆがめてはなりません。「市民の声で政治を動かす」。クリーンな政治で「京都に福を呼び込む」福山さんこそ、日本ばかりか世界から愛される古都・京都にふさわしい顔です。


きょうの潮流 2024年1月20日(土)
 あの手この手の脱税者と国税局職員とのたたかいをコミカルに描いた伊丹十三監督「マルサの女」。政治家や銀行までが絡んだ大がかりな脱税の手口が暴かれていきます▼1987年の公開から数年後、それを地で行くような事件が起きました。政界のドンといわれ、当時自民党の副総裁だった金丸信氏が東京佐川急便から5億円の闇献金を受けていたことが発覚。後に脱税で逮捕され、自宅からは金の延べ棒などが押収されました▼東京地検は5億円をうけとった金丸氏を政治資金規正法違反で略式起訴。わずか20万円の罰金という決着に、国民の批判や怒りがふっとうしました。このとき一番問題なのは何かと聞いた世論調査では「政治の金権体質が変わらないこと」が最も多い答えでした▼闇献金や賄賂、裏金づくり。不正なカネの問題をくり返してきた自民党。反省なき姿は今も▼派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で東京地検は安倍派と二階派、岸田派の会計責任者らを在宅や略式起訴としました。しかし、派閥トップや事務を仕切ってきた幹部については立件を見送り。不信は高まるばかりです▼巨額の収入を記載漏れで済ますのか。裏金づくりは誰が指示して何に使ってきたのか。岸田首相は自身の派閥を解散し各派閥もそれに続くといいますが、実態の解明から目をそらしたままで「信頼回復」などありえません。ことは闇のカネで政治がゆがめられてきた問題です。ここは「マルサの女」ならぬ、世論の力で巨悪は眠らせない。


きょうの潮流 2024年1月19日(金)
 岡野八代さんのメッセージを思い起こしました。「まるで、新しい政党が誕生したかのような感動を覚えました」。日本共産党が前回の党大会で「ジェンダー平等」を綱領に書き込んだときのことです▼この問題にとりくむことを党の方針の中心に掲げられたことは、日本社会に巣食う性差別や不平等を変革するとともに、大きく自己改革にもとりくまれるのだと理解した―。ジェンダー研究の第一人者の言葉には期待と励ましが込められていました▼そのときの決定をふまえ、今大会の決議では「ジェンダー平等を阻むものは何か、その根源を明らかにし、逆行する勢力を包囲する連帯を広げよう」と呼びかけました。同時に、党活動のなかでも努力を重ねてきたが、なおそれは途上にあるとも▼100年におよぶ共産党の歴史のなかで、初めて女性の委員長が誕生しました。会場からはどよめきとともに万雷の拍手がわきおこりました▼田村智子・新委員長は「歴史と伝統を受け継ぎ日々学びながら、のびのびと挑戦していきたい」。ベテランや若手とともにチームで協力しあい、希望ある政治、豊かな人間社会への展望を届けたいと語りました▼「党と出会って、自分らしくあっていいと気がつきました。新しい世界を私に教えてくれた」。大会に初参加した代議員の発言です。議長に就任した志位さんは閉会のあいさつで呼びかけました。「国民のくらしと平和への願いをしっかりうけとめ、党の新しい躍進の時代を開くために奮闘しよう」


きょうの潮流 2024年1月18日(木)
 道路や鉄道、港湾の損壊は激しく、物資の緊急輸送に著しい支障が生じた。医療機能が低下し消火活動も混乱した。国全体の情報連絡や初動体制が遅れをとった―▼阪神・淡路大震災の教訓です。2001年に内閣府の専門調査会がまとめています。今後の地震対策のあり方を多分野にわたって論議。「しっかりとシミュレーションを行った上で防災対策を計画立案することが必要」との意見も出されました▼被災時の対応だけでなく、災害に強いまちづくりや生活再建の支援のあり方にも言及。この時の議論が生かされていれば…。能登半島地震の悲惨な状況をみると、そう思わざるをえません。東日本や熊本をはじめ、その後も大きな地震が続いてきたのに▼初動の遅れには人災の要素を感じる、国や県のトップがこの震災を過小評価してしまったのではないか。防災研究の第一人者が新聞に語っています。過去の教訓が生かされるよう、軌道修正をしなければと▼あれから29年。あの日の惨状がふたたび目の前でくり返されています。毎年、犠牲者を追悼する神戸市内のつどいでは「ともに」の文字が浮かび上がりました。苦難のさなかにいる被災者に寄り添うとともに、世代をこえて震災を語り継いでいくという思いを込めて▼災害関連死をふくめ、政府の不作為による犠牲者をこれ以上増やしていいのか。軍拡や万博に巨額をつぎ込んでいる場合なのか。痛ましい過去から学び生かす国や社会をつくらなければ。被災地は突きつけています。


きょうの潮流 2024年1月17日(水)
 きょうは芥川賞の発表日。本欄恒例の候補作一気読みで、各作品の魅力を紹介します▼川野芽生(めぐみ)「Blue(ブルー)」は、高校演劇部で「人魚姫」に取り組む部員たちの多様な性的指向と性自認を描きます。人魚姫の恋する相手を王子から王女に翻案。苦悩する人魚姫を演じるのは、女性として生きることを望む男子です▼小砂川(こさがわ)チト「猿の戴冠式」は動物と人間の境界を超え心を通わせる女性を通して、人間中心主義の息苦しさと限界を痛感させます。引きこもっていた競歩選手のしふみは、テレビで動物園の雌のボノボを見て姉だと直感し通い始めます。ある日、園を抜け出し疾走するボノボ。追いかけるしふみ。その先には…▼三木三奈「アイスネルワイゼン」は、ピアノ教師の仕事にも人間関係にもどこか上の空で漂っていくしかない女性像を提示し、相互不信と分断が巣くう社会の空虚さをあぶり出します。安堂ホセ「迷彩色の男」は、日本で暮らすブラックミックスでゲイの受難を訴える著者の第2作。ヘイトクライムで切り刻まれた血まみれの身体の描写が差別の闇を可視化します▼九段理江「東京都同情塔」は、言葉の言い換えによって問題を糊塗(こと)した果ての世界を現出させます。犯罪者を「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と呼び、刑務所を「シンパシータワートーキョー」と名付けて豪華な塔を建設する欺瞞(ぎまん)を笑う意欲作▼いずれも現代の深層に迫り、気づきと思索へと誘います。自分にとって大切な一冊を見つけてみませんか。


きょうの潮流 2024年1月16日(火)
 「希望がみえる大会になってほしい」。鳥取から早朝の便に乗ってきた20代の代議員は期待を込めて口にしました。会場までの坂道を息を切らせて登りながら▼居場所がなかったという中学時代。民青と共産党に出合って生き方が変わったといいます。いまは、みずから仲間を増やし悩みを聞く立場に。手を携えて少しでも若者が生きやすい社会へ。そのための確信を深めるため、いろんな経験から学びたいと▼避難所の生活はいたたまれない現状がある。何年も前から群発地震が続いていたのに、いざ避難となったら、物資が足りない、行政の職員も減らされている。被災者や弱者に寄り添い、国民の命や健康を最優先にした政治に早く変えなくては―。石川から来た代議員は訴えるように語りました▼沖縄からの代議員は県民の怒りがふっとうしていると話します。国の代執行による辺野古の米軍基地建設の強行。南西諸島へのミサイルの配備。戦争の準備ではなく平和への準備を明確に示す大会にしようとのぞみました▼なぜ戦争が起きるのか。人間の自由とは何か。自分たちの人生を食いつぶす資本主義をのりこえた先には。東京の青年代議員は、それを模索し、未来への展望をつかみたいといいます▼それぞれの思いを胸に、全国から集った同志たち。日本と世界、そしてわが党の未来にとって、歴史的な大会になる。志位委員長はそう呼びかけました。自民党政治を終わらせ、希望ある新しい日本をひらくためつよく大きな党をつくろう。


きょうの潮流 2024年1月15日(月)
 どんなに売れて大スターになろうとも、決しておごらず高ぶらず。自分を見失わないで、いつも人間味あふれる笑顔を絶やさない私でありたい。それが、自身に課した目標でした▼親の反対をおしきって熊本・八代から16歳で上京。米国のジャズシンガーにあこがれ、ふくらんだ夢。クラブ歌手から全国のキャバレーやレコード店回りと下積みの日々を過ごしました。転機は全日本歌謡選手権での勝ち抜き。国民的な歌手へのステップとなりました▼八代亜紀さんが73歳で亡くなりました。「なみだ恋」「おんな港町」「舟唄」「雨の慕情」…。たくさんの心を震わせてきた歌には人びとの悲しみや苦しみがつまっています。みずからを「代弁者」でありたいと言い続けたように▼酒場の女性やトラック運転手、慰問を続けた女子刑務所の受刑者や児童養護施設の子どもたち。さまざまな心情や情念を込めた歌は自分のこととして染み渡り、生きる励ましとなってきました▼東日本大震災では故郷・八代産の畳1万枚を届け、熊本地震の際には何度も足を運んで被災者に寄り添いました。若い頃から支援活動にとりくんできたのは、人への愛情と慈しみの心を持っていた父親の影響があったからと自伝『素顔』で▼社会のあり方を憂えていた八代さん。2014年の「赤旗まつり」で熱唱してくれ、満員の野外ステージは「雨、雨、ふれ、ふれ」の大合唱に。そして花束を渡した志位委員長に「日本をよろしくね」と。いま、その言葉を、かみしめたい。


きょうの潮流 2024年1月14日(日)
 日に1000円ずつ手渡し。そのためには毎日、ハローワークで印鑑をもらってくる…。群馬県桐生市で発覚した、生活保護費の支給をめぐる市の対応です▼大声で怒鳴る、保護費を一部しか支給しない、本人の許可なく押印する、従わないと保護を取り消すと脅す。こんな窓口対応が常態化していました▼生活苦が広がるなか、同市では保護率が年々低下。市民を威圧し、申請書すらわたさない水際作戦でした。PTSDや引きこもりになったり、他市へ転居した利用者も。同市の保護却下・取り下げ率は4割超と異常です▼昨年11月、50代の男性が月に保護費の半分ほどしか受け取っていないと群馬県司法書士会に相談して事態が発覚、その後も悪質なケースが数々判明しました。市長は「深く反省」を口にしますが、議会で当局者は「先に向こうが大声を出した」「職員の力量不足」と責任を転嫁します▼金銭管理を他の民間団体に任せ、利用者が自由にお金を使えない状況も生じています。市は「紹介してるだけ」と言い逃れますが、専門家からは「地位乱用の疑い」も指摘されています。被害の広がりや深刻さに市民団体などが現地調査を予定、当事者らは近く市に国家賠償請求訴訟を行う構えです▼生活保護をめぐっては各地で問題が。生活に必要な車が処分されたり、9カ月も保護費が支給されなかった例も。生活保護は生活の保障とともに、自立の助長を目的にしています。こうした対応が何の解決にもなっていないのは明らかです。


きょうの潮流 2024年1月13日(土)
 「能登はやさしや土までも」。古くから伝わる言葉は、人はもとより風土までも素朴でやさしい土地柄を表しています▼この地域の伝統工芸、輪島塗には欠かせないものがあります。下地塗りの際に漆と混ぜて使う「地(じ)の粉(こ)」です。地層からほりだした珪藻土(けいそうど)をよく練り、天日干しの後におがくずを混ぜ蒸し焼きにしたもの。それが堅牢(けんろう)優美といわれる特長を生み出してきました▼輪島塗にはいくつもの工程があり、たくさんの職人がかかわっています。人の手がつながり、支えあって発展してきた地場産業。しかし今回の地震で多くが被害にあい、平安時代から続くとされる朝市も火事で焼失。地元からは「輪島の文化が消えてしまった」と嘆く声も聞こえます▼被災地では仮設住宅づくりが始まりましたが、主な産業や観光業が大打撃をうけた中での生業(なりわい)と街の復興の道すじは…。現地に入った共産党の小池書記局長は「迅速で長期的な直接支援が必要」と訴えます▼もともと能登地域は過疎と高齢化が切実な問題となっていました。そのうえ平成の大合併で行政の職員が減らされ、学校など公共機関の統廃合が進められてきました。これまで冷たく地方を切り捨ててきた自民党政治が、被害をいっそう深刻にしています▼きょうから大学入学の共通テストが実施されます。被災地からも受験生が教員や保護者らに見送られ、試験会場に向かっていました。困難と不安の中でも、夢と希望をもちながら。将来への思いを生かすのは政治の責任です。


きょうの潮流 2024年1月12日(金)
 そこは生きものたちの楽園です。山原(やんばる)の森に囲まれ、マングローブの広大な林からサンゴ礁へ。山と川、そして海につながる、生命(いのち)のゆりかごです▼太古からの営みがつづく大浦湾は、沖縄の海の原点といわれます。世界最大級のアオサンゴの大群落や、ジュゴンの餌場とされる天然モズクが育つ海草藻場。深い入り江となっている湾内にはさまざまな環境があり、そこに多種多様な生物が息づいています▼いまも新種が見つかる宝の海。10日、そこに次々と石材が投げ込まれました。米軍の基地をつくるために。岸田政権が、ついに辺野古新基地の大浦湾側の工事を強行しました。沖縄の地方自治と圧倒的な民意を強引にふみにじる、代執行という前例なき手段を使って▼泥質の軟弱な地盤が広がる大浦湾の海底。そこに7万本もの杭(くい)を打ち込もうというのですから、豊かな環境も生態系もめちゃくちゃに壊されてしまいます。そのうえ、いくら巨額を投じても完成の見通しさえ立たない無謀さです▼これにはデニー県知事も「極めて乱暴で粗雑な対応」だと非難。必要性や合理性のない工事がもたらす甚大な問題を直視し、建設をただちに中止するよう求めました。世界からも米映画監督のオリバー・ストーン氏をはじめ400人をこえる有識者が、沖縄に連帯する声明を寄せています▼きょう、辺野古ではオール沖縄主催の県民集会が開かれます。代執行埋め立てを許さない、日本で初めて認定された「ホープスポット(希望の海)」を守れと。


きょうの潮流 2024年1月11日(木)
 ガザは「死と絶望の場所」―国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)が語りました。10月7日以降のイスラエルによるパレスチナ自治区への攻撃のすさまじさを物語る言葉です。「ガザは居住不能になった」とも▼南アフリカは昨年末、イスラエルを「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」(ジェノサイド条約)違反として国際司法裁判所(ICJ)に提訴しました。同条約の締約国はガザでの集団殺害を防ぐ義務があると述べ、同じく締約国のイスラエルに軍事作戦の停止を命じるようICJに求めています▼提出された訴状には、ジェノサイド行為の列挙とともに、ネタニヤフ首相をはじめイスラエル政府高官から相次ぐ、ガザ破壊の意図を示す言葉が並べられています▼「地球上からガザを消し去る。われわれには共通の目的がある」(バツゥーリ国会副議長)、「民族全体に責任がある。(ハマスの蛮行を)民間人は知らなかった、関与していなかったというレトリックは通用しない」(ヘルツォグ大統領)…▼ある民族や宗教的集団を全部または一部を破壊する意図を持って行われる殺害―これらを国際法上の犯罪とし、防止し、処罰するのが同条約です。南アフリカの提訴を受けた弁論は11日から。世界が注視しています▼イスラエルと最大の支援国・米国に対し、国際社会は国連総会や今回のICJなど、あらゆる手段で停戦を迫っています。世界各地の街頭で、市民の抗議も決してやみません。「ジェノサイドをとめろ」と。


きょうの潮流 2024年1月10日(水)
 「初動が遅い」。能登半島地震への岸田政権の対応をめぐり、こんな声が上がっています。2016年の熊本地震では、発生から5日で自衛隊は2万2千人規模になりましたが、今回は9日目で6300人。避難所では食事がパン1個という状況が続き、多くの安否不明者も残されています。「政府は何をやっているのか」という批判も理解できます▼今回の震災対応を困難にしているのは「陸の孤島」といわれる能登半島の地理的要因です。一本の道がふさがれれば、どこにも行けない。石川県によれば、8日時点で能登地方の24地区3300人が道路の寸断で孤立状態にあるといいます▼発生当初は、道路の寸断はさらに広範囲におよび、元日で休暇中だった自治体職員の多くが出勤できなくなりました。こうした要因が、捜索や被災者支援に困難をもたらしたと思われます▼自衛隊の規模をめぐっては、熊本地震と単純比較はできません。それでも、もっとできることはあるのでは。例えば、陸路が困難なら空路=ヘリをもっと活用できないのか▼そんななか、防衛省は7日、千葉県の習志野演習場で、降下訓練を予定通り実施し、多くのヘリを戦闘訓練に投入しました。救援物資を積めるであろうヘリから降りてきたのは、銃を持った自衛隊員…。違和感を覚えたのは筆者だけでしょうか▼「初動が遅い」という批判の根底には、岸田政権に対する国民の信頼の喪失があります。命を助けること、助かった命を守りぬくことは政府の責任です。


きょうの潮流 2024年1月9日(火)
 「核実験被ばく者を“数”でなく、一人ひとりの人生を記録したい」。こう話すのは、高知で活動する太平洋核被災支援センター共同代表の濱田郁夫さんです▼アメリカによるビキニ核実験被災から70年。濱田さんが作成する「被災名簿」は、室戸漁協と室戸岬漁協で160隻のマグロ船です。「戦争中は軍の徴用船に取られ室戸の遠洋漁業が壊滅し、戦後、多くの人のがんばりで遠洋漁業を再建した。なのに、核実験で被ばくし、その後の人生を苦しめられているわけですから」と濱田さん▼徴用船は、中国大陸や南方諸島への物資輸送や近海に配置され、敵機や敵艦艇の監視や報告の任に。『室戸岬遠洋漁業六十年の歩み』によると、約70隻もあったカツオ、マグロ船は、戦後残存した船は9隻でした▼「戦争が当たり前のご時世で“お国のためなら死んでもいい”と教育された。兵隊にとられたのは長男だけだったが、無事に戻ってきてホッとした」と話すのは小笠原勝さん。89歳です▼勝さんはマグロ船「第五海福丸」に乗りビキニ海域での核実験で被ばくしました。「東京に入港したときの検査で、マグロの解体作業に使った軍手が一番反応した。歯茎から出血が続いたことも記憶に残っている」▼日米両政府は、第五福竜丸以外の多くの被災船員の被ばく・健康問題は闇に封じることで「政治決着」させました。「私たちの被ばくは無視され続けてきました。無責任すぎる。戦争も核兵器もいかん。若い世代にはこの真実を知ってほしい」


きょうの潮流 2024年1月8日(月)
 毎年恒例の「今年の漢字」。昨年、最も多かったのは「税」でしたが、若い世代が選んだのは「楽」でした。就活会社やネットの調査でわかりました▼「いろんな人に出会えて楽しかった」「いろんな行事が本格的にできたから」。コロナ禍の活動制限が解かれ、戻りつつある生活を楽しいと感じる若者が多かったようです。密な青春時代を過ごせなかった反動なのかもしれません▼あなたの人生において、大切にしたいと思うことは何ですか? 日本財団の「18歳意識調査」では家族とともに、自身の好きなことややりたいこと・趣味が上位に並んでいます。プライベートや自分のための時間により価値を置く姿がうかがえます▼一方で、格差の拡大がうみだす若者の貧困が社会問題となっています。家庭環境や高学費が壁となって、やりたいことができない。不安定な雇用、低賃金・長時間で働かされ日々時間が削られていく。矛盾に苦悩する現実があります▼いま、人間の自由とは何か、どうすればそれを実現できるか、模索する若者が増えています。「長時間労働や搾取からの解放や自由が社会主義の本質だと思う。自由とゆとりが持てれば、人間や社会はよりよくなると信じている」。本紙党活動面で紹介された20歳の学生党員の抱負です▼最近共産党に入った20代の女性も、人と人がたくさん対話してつながり、平和で自由にあふれた社会をつくっていきたいと語っていました。いつの時代も未来は青年のもの。きょうは成人の日です。


きょうの潮流 2024年1月7日(日)
 竜は水をつかさどる神です。このため竜の伝説は湖や池にまつわるものが多い。自らの美しさと若さを永久に保ちたいと願って、竜に化身した田沢湖の辰子姫。竜になった八郎太郎がつくった八郎潟。壮大なスケールの伝説は作家の創作欲も刺激してきました▼松谷みよ子の『龍の子太郎』で、太郎は母竜の背に乗って湖を干拓、広い土地を生み出します。元は長野県の伝説。「大地を生むことは、水を統(す)べる力を持つ竜だからこそ、でき得た」と、作者は24年前の辰年に本紙に寄稿しています▼泉鏡花の戯曲「夜叉ケ池」も有名です。たびたび大水をおこした竜神が、山中の池に封じ込められていました。竜との約束で、山では昼夜に三度、一日も欠かさずに鐘をついていました。しかし、権勢を笠(かさ)に着た代議士のせいで鐘はつかれず、村は大水に飲み込まれてしまいます▼夜叉ケ池は福井県と岐阜県の県境近くにあり、いまも神秘的な水をたたえています。長野県の黒姫伝説では、怒った竜が四十八池の水を落として大洪水を起こしました▼竜には人間の力の及ばない自然現象への恐怖と畏敬が仮託されています。うまく統御できれば豊かな実りをもたらします。一方、ひとたび人間が約束を破れば、途方もない災害が襲ってきます▼巨大台風、集中豪雨などの異常気象は、人間の活動による温暖化が原因と言われます。人間のおごりが竜の怒りを呼んでいるのです。人間と自然の調和を取り戻し、竜を鎮めることができるかどうか。正念場です。


きょうの潮流 2024年1月6日(土)
 原発についての質問に答えず、年頭の記者会見を一方的に打ち切った岸田首相。会見後にはBSフジの番組に生出演しており、その姿勢が批判されています▼番組は、能登半島地震の対応から国際情勢や政治とカネの問題、自民党総裁選への思いまで。ときおり笑みを交えて語る姿に「こんな無責任で緊張感がない人間が総理大臣」「今そこにある危機を見ず総裁選を語る」といった声がSNS上であふれました▼陣頭指揮をとるといいながら、今も生き埋めになっている人たちや被災者を助ける決意も覚悟も、この番組や年頭会見からは感じられませんでした。被災地の苦しみを少しでも考えたら、こうした番組に出て総裁選のことまでようようと話すでしょうか▼それは、自身の党の中枢を直撃している裏金疑惑についても。なぜ、各派閥の不正な資金づくりが常となってきたのか。その解明も反省もないまま「政治刷新本部」を立ち上げると▼派閥の長として先頭に立ってきた首相みずからが本部長。最高顧問には、麻生副総裁と菅前首相を起用するといいます。金権政治にどっぷりとつかってきたこの布陣で、どこをどう改めるつもりなのか▼年頭会見では軍事力の強化や改憲にむけた「最大限のとりくみ」まで口にしました。緊急事態のさなかに自身の野望の実現をあらわにする首相。これでは、このごろ二言目にはくり返す「信頼回復」など、いつまでたってもおぼつかないでしょう。だいたい刷新されるべきは自民党政治ではないのか。


きょうの潮流 2024年1月5日(金)
 関東大震災が起きた20世紀初頭は大規模な自然災害が相次いだ時期でした。東北大凶作、関東大水害、東京湾台風、桜島大噴火。そして、未曽有の大震災▼土田宏成(ひろしげ)著『災害の日本近代史』によると、この時期はまた、災害への対応体制が整えられていきました。以前の災害の経験が次の災害への対応に生かされる。大災害の影響は広範囲に及ぶことから、それを通じて歴史を考えたいと▼1世紀前と同じく、今の日本も大規模な自然災害がくり返されています。その経験や教訓は生かされているでしょうか。能登半島地震の被災地からは水や食料が足りない、厳しい寒さのなかで毛布や灯油が足りない、トイレが使えないといった声が上がっています▼輪島市の坂口茂市長は3日「1万75人の避難者に対して、2000食分しか食事が届いていない。食料が極端に不足している」と訴えました。石川県内では3万人以上が371カ所の避難所に身を寄せていますが、そこでも生活物資の不足は深刻です▼災害への備えや避難所の環境改善は再三、指摘されてきました。軍事費の拡大ではなく、防災や災害関連死を防ぐための対策、そして復興に予算や力を注ぐことこそ、災害多発国の政府の役割ではないのか▼いまだ被害の全容はわからず、孤立が続く地域もあります。こうした混乱時には、人びとが助け合い、励まし合う姿が至る所で。生きる希望を届けるためにも、あらゆる手段を使って人命救助と被災者支援を尽くす。それが歴史の教訓です。


きょうの潮流 2024年1月4日(木)
 「魔の11分」。そんな用語がこの業界にはあるといいます。世界の航空機事故のおよそ7割が離陸時の3分と着陸時の8分に集中していることから、そう呼ばれています▼2日、羽田空港で起きた日本航空機と海上保安庁の航空機の衝突。着陸の日航機はほぼ満席でしたが、炎上する中を乗客乗員379人全員が脱出を果たしました。まさに危機一髪でした▼一方、滑走路上にいた海保機の乗員6人のうち5人が亡くなり、1人は重傷を負っています。この機は前日に発生した能登半島地震の救援物資を運ぶため、新潟に向かおうとしていました。そのことが、痛ましさをいっそう募らせます▼まだ原因は不明ですが、昨年も羽田空港では誘導路で航空機同士が接触し、翼の一部を損傷しています。国際線の導入が進んだことで過密状態にあるといわれる空港。4本ある滑走路は井桁状に組まれ同時着陸も可能で、管制業務はとても複雑だと専門家は指摘しています▼今回の経過を解明するとともに、こうした背景にも目を向けることが事故の再発防止には必要ではないのか。ありえないことが起きてしまった現実とむきあい、安全第一を軸にすえた検証が求められます▼それにしても、なんという年明けか。能登の地震では今も余震が続き、死者は増え、多くが助けを待っています。空の便は欠航が相次ぎUターンの足に深刻な影響が出ています。いつ、どこで、何が起きるか―。被災者や事故にあった人びとに心をよせあう、緊迫感漂う新年です。


きょうの潮流 2024年1月3日(水)
 今すぐ逃げること、東日本大震災の津波を思い出してください! アナウンサーの切迫した口調がおとそ気分をふきとばしました▼元日、石川県の能登地方を震源とした最大震度7の地震は広範な被害をもたらしました。津波や土砂崩れ、家屋の倒壊や火災、道路の陥没や交通網の寸断…。救助活動とともに停電や断水の復旧、寒中の避難生活の負担を少しでも軽減するよう国や自治体は力を尽くすときです▼国土地理院によると、今回の地震で輪島市が西に1・3メートル動くなど大きな地殻変動が観測されました。この地域では以前から地震活動が活発で昨年5月には最大震度6強。2020年12月から昨年5月末までに震度1以上の揺れを433回も観測しています▼避難体制を含め備えはどうだったのか。原発もしかり。石川・志賀(しか)原発では外部電源の一部が使えず、核燃料プールの冷却ポンプが一時停止したとの情報も。新潟・柏崎刈羽原発でも燃料プールの水があふれました▼志賀原発は、経団連の会長が一刻も早い再稼働を促したばかり。動かしていたらと思うとぞっとします。甚大な被害をうけた珠洲(すず)市も一時は原発誘致が進められました。これだけ地震が相次いでいるのに原発を林立し、さらに再稼働を推し進める財界や政権。住民の安全を置き去りにして▼いまも増え続ける犠牲者。年明けからだんらんの場を奪われた多くの避難者。自分たちの裏金づくりや万博などに巨額をつぎ込むのではなく、こうした被害者にこそ、手厚い支援を。


きょうの潮流 2024年1月1日(月)
 自分らしくいられる場所がほしい。その思いが、活動の原点になってきました。家でも、学校でも感じてきた居心地の悪さ。それは社会に出てからも▼福岡で同性パートナーとくらす中谷梨帆さん(28)は、不登校の子どもや若い女性たちの支援に携わってきました。みんなが生きやすい世の中にするには、どうしたらいいんだろう。抱えてきた苦悩のなかで、ひとつの決断をしました。日本共産党に入ることです▼「しんどいのは個人だけど、これは政治や社会の問題ではないか」。立ちふさがる差別や格差によって輝くことも挑戦することも許されない。そんないびつな国のかたちを、ともに正したいと▼「命の平等」が実現される社会をめざして。千葉でリハビリ看護師として働く女性(23)も最近入党を決意しました。被爆地や沖縄をまわって戦争や平和の問題を深めながら、人に優しい世界をどうすればつくれるのか考えてきました▼いま、人間の自由をもとめて民青や共産党に加わる若者が増えています。搾取や束縛から解き放たれ、みずからの能力を豊かに開花させる社会へ。矛盾に満ちた現実にあきらめず、未来につながる道を胸に▼「希望正如地上的路」。希望は、まさに地上の路(みち)のようなものだ。ほんらい、地上に路はなく、歩く人が増えれば、そこが路になるのである―。昨年亡くなった大江健三郎さんは、魯迅(ろじん)の希望についての言葉を政府への抗議集会で読み上げたことがあります。人びとの世を変える歩みに希望を込めて。


きょうの潮流 2023年12月31日(日)
 「これほどひどい、人道危機はみたことがない」。国際機関で長く支援活動に携わる人たちが、口をそろえるそうです。それほど、ガザの状況は悪化の一途をたどっています▼日々積み重なっていく犠牲者の数。人口の9割超が避難民となり、南部では避難所も家も道路も人であふれ安全な場所はひとつもない。家族6人に1・5リットルの水と二つの缶詰。それが1日分のすべてだと▼ネット番組「とことん共産党」で、国連パレスチナ難民救済事業機関の保健局長、清田明宏さんが伝えていました。見境のないイスラエル軍の攻撃に脅かされている命の危険を何とかしたい。悲痛な思いがひしひしと▼2023年が暮れてゆきます。心痛み、暗く重たい気持ちを引きずったまま。ロシアによる侵略がやまないウクライナもまた。なんという人間の愚かしさ。どこに光明を見いだせばいいのか。人びとはさまよっています▼大国がつくりだす対立のなかで世界の流れは鮮明です。国連総会はガザ即時停戦を求める決議を、加盟国の8割にあたる153カ国の賛成で採択。戦争やめよの意思をはっきりと示しました。それに呼応するように、若者をはじめ平和を訴える声が各地であがっています▼国内では政権与党の国会議員の強制捜査や聴取が続いています。迎える年は辰(たつ)。古来、瑞祥(ずいしょう)の象徴とされてきた龍は特別な力を持つとあがめられてきました。しかし人類を進歩させてきたのは、いつの時代も、より良い社会をめざすほとばしるような熱情です。


きょうの潮流 2023年12月30日(土)
 原子力規制委員会が新潟県に立地する東京電力柏崎刈羽原発の「運転禁止命令」を解除しました。解除決定と合わせ東電に対し、「運転を適格に遂行するに足りる技術的能力がないとする理由はない」という、原子力事業者としての適格性も認めました▼社員が他人のIDカードを使って中央制御室に入る、第三者の侵入を検知する設備の故障を放置する―。不備が発覚し運転禁止命令を受けた後も、放射能汚染水を処理する設備の配管を洗浄していた作業員が高濃度の廃液を浴び、2人が入院する事故などが相次いでいます▼規制委の判断は妥当なのか。適格性では「福島第1原発の廃炉を主体的に取り組み、やりきる覚悟」などの姿勢を確認したといいます▼しかし、福島第1原発の海洋放出では、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」とする漁業者との約束を反故(ほご)に。東電は国が判断したことだからと、自らの考えを示さず国いいなりの姿勢。主体性などみじんもありません▼もとより重大事故を起こした東電に原発を再び動かす資格があるのか、です。事故の損害賠償を求める裁判で、津波対策を先送りした東電に「原発の安全対策についての著しい責任感の欠如を示すもの」と指摘した判決もありました▼規制委は「お墨付きを与えたというつもりはない」といいます。ところが政府はさっそく、再稼働に向け地元の理解を得られるよう説明したいと前のめりです。原発優先政治の転換は来年に向け、いよいよ大きな課題です。


きょうの潮流 2023年12月29日(金)
 歴史的な記録物を保存するユネスコ「世界の記憶」に今年登録された「東学農民革命」。日清戦争のさなか、日本の侵略に抗した朝鮮の民衆を日本軍が徹底的に弾圧。日本軍最初のジェノサイドともいわれます▼当時、朝鮮の人々は東学農民軍を組織。ライフル銃を持つ日本軍に竹やりや火縄銃で応戦しました。日本政府は掃討作戦を朝鮮全土で実施、5万人を超える犠牲者が出たとされます▼この10月、日本軍の討伐本部が置かれた韓国南西部・全羅南道羅州市に日韓の市民によって「謝罪の碑」が建てられました。きっかけは日本近代史の専門家で奈良女子大の中塚明名誉教授が毎年行ってきた日韓歴史紀行でした▼日本の市民が歴史を知ることで心を込めた謝罪を表そうと碑の建立基金を集め始めます。それを知った韓国の市民も感動と喜びをもって基金に参加。いまも強制動員や「慰安婦」被害者らから謝罪と賠償を求められている日本政府とは対照的です▼除幕の直前に亡くなった中塚氏と研究を共にした韓国の円光大学・朴孟洙(パク・メンス)名誉教授は話します。謝罪と赦(ゆる)し、和解と共生という新たな日韓関係のモデルが誕生した。この小さな出来事がバタフライ効果となって、羅州が東アジアの平和と世界平和を実現する聖地になることを願う、と▼2024年は日清戦争から130年の節目を迎えます。日本による侵略戦争と正面から向き合う年。歴史の教訓を学び、世界の戦争や紛争を止める年。そして、その思いを共にする政府をつくる年に。


きょうの潮流 2023年12月28日(木)
 「新聞の朝刊を取ること以外ぜいたくはしていません」。そう書かれた投書が今月中旬、本紙に届きました。名古屋高裁が11月末、生活保護費の引き下げは違法だとする判決を出したニュース記事を読んでのものでした▼「56歳男性」だというこの方は、ここ十数年、認知症の両親の介護をしていたといいます。仕事を探そうにもスマホがない。そう伝えると面接を断られる。今の生活保護費では通信費やスマホ代の捻出が難しい…と悪循環に▼安倍晋三政権が2013年から段階的に引き下げた保護費の減額は総額670億円。過去最大規模でした。高裁判決はこの減額を行った厚生労働相に「重大な過失がある」と▼余裕のない暮らしをしていた原告たちが保護費の減額でさらに余裕のない生活を9年以上強いられたと認定。「相当の精神的苦痛を受けた」として、国家賠償を命じました▼生活保護の基準は、住民税の非課税や最低賃金、社会保障給付水準などさまざまな制度に連動。判決は、国民全体の生活水準に影響を及ぼすものだとも指摘します。「生活保護は最低限の生活のベースラインなので、これを機に国民みんなの生活が豊かになっていってほしい」と原告の一人、澤村彰さん▼29都道府県で起こされた30の同種訴訟。昨年5月の熊本地裁判決以降、12勝4敗と原告勝訴の流れができています。来年こそは生活保護費を削減前の額に戻したい。投書を寄せた男性は「スマホを持って生活の幅を広げられたら」と希望を膨らませます。


きょうの潮流 2023年12月27日(水)
 NHKドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」に感動が広がっています。草彅剛さん演じるコーダ(耳が聞こえない両親を持つ聞こえる子ども)が主人公。ろう・難聴の主要キャストを20人もの当事者が演じていることで話題です▼舞台裏に密着した番組では、ろう者と聴者の垣根が無くなる過程が描かれていました。「お互いが壁を作って離れているのではなく共に歩んでいくのがすばらしい」と、ろう者の俳優▼楽聖ベートーベンも難聴でした。最後の交響曲「第九」を初演した時には鳴り響く拍手に気づかなかったといわれます。苦悩から歓喜に至る「第九」は、いまなお交響曲の最高峰です▼交響曲では異例の合唱付き。ベースはフランス革命直前に書かれたシラーの詩です。いかに世界が分断されようと「全ての人はきょうだいとなる」と歌う詞に「分け隔ての無い人類愛と平和を願うベートーベンの祈りを感じる」と指揮者の小林研一郎さん。「殺りくに明け暮れる今こそ祈りを世界に届けたい」と「第九」コンサートをユーチューブで無料配信しています▼演奏するのはプロ・アマチュア混成の「コバケンとその仲間たちオーケストラ」。知的障害がある人を招待。メンバーには全盲の仲間たちも。2005年、誰もが輝く社会づくりをめざして発足しました▼「デフ・ヴォイス」には「ろう者の声」のほか、「社会的少数者の声」の意味も。来年は「第九」初演から200年、日本が障害者権利条約を批准して10年になります。


きょうの潮流 2023年12月26日(火)
 NTTの関連会社を名乗る人物から立て続けて携帯に電話がかかってきました。それぞれ契約を見直せば料金が安くなるという案内でした▼怪しいと思い問いただしましたが、相手は立て板に水のごとくすらすらと。きっとマニュアルがあるのでしょう、これではだまされる人もいるかもしれません。自分の携帯番号や契約情報がどこからもれているのか、恐ろしさや不安が募ります▼いまや住所や電話、氏名に加えて資産状況も記された「闇名簿」が出回り、暴力団や犯罪者の間に流れているといいます。「50代以上なら全員載っていると考えたほうがいい」と警告する専門家も▼「オレオレ詐欺」が社会に広まるようになってから20年。近年は企業や公共機関の職員を名乗るなど手口が巧妙化したことで、特殊詐欺と呼ばれています。おもに高齢者が狙われ、昨年の被害総額は370億円をこえ、今年はそれを上回るペースです▼お金ほしさに軽い気持ちで「闇バイト」に手を染める若者たちも社会問題になっています。手っ取り早く金を稼ぐことがもてはやされ、まじめに暮らす人びとを食い物にするような世の風潮が背景には漂っています▼そういえば、企業や団体から裏金をもらいながら税金である政党助成金もいただく、あの党も詐欺のようなものか。政権をかさに着る、こうした不正が闇を広げることにもつながっています。みずからの利益を得るために人をだまし、生きる糧さえも奪う。そんな不信に満ちた社会に未来はありません。


きょうの潮流 2023年12月25日(月)
 「当時を再現し、群島民の想いを追体験したい」。きょう、鹿児島県の奄美市でちょうちん行列が開催されます。70年前の12月25日に果たした日本への復帰を記念して▼戦争が終わったあとも米軍の占領下で苦しめられた奄美の人びと。ちょうちんには、そこから解放された喜びがともされています。飢えをしのぐためにソテツの毒を抜いて食した日々。本土との流通も遮断され、言論や集会をはじめさまざまな自由が縛られました▼独裁への怒りとともに立ち上がった復帰闘争はいまでも語り草になっています。14歳以上を対象とした署名は実に島民の99・8%に達し、集団断食や命がけの密航陳情も決行。燃え上がる若者たちを先頭にした島ぐるみの運動は平和と自由、そして生きるためのたたかいでした▼いままた、奄美群島をふくむ南西諸島では軍事要塞(ようさい)化が進められています。ミサイルや弾薬庫の配備、自衛隊や米軍基地の強化がアメリカいいなりの政権によって▼ともに復帰をめざした沖縄は奄美から19年も遅れて実現。しかし、その後も米軍基地が集中して置かれ続け、辺野古の新基地建設が象徴しているように、いまだ県民の総意や地方自治がふみにじられています▼日本共産党の活動家として当時の復帰運動をひっぱった崎田実芳(さねよし)さん(故人)は「力による支配を続けるかぎり、民衆は必ず立ち上がる」と語っていました。そこにこそ奄美のたたかいが示した教訓があり、そのエネルギーは、いまも脈々と生き続けているはずだと。


きょうの潮流 2023年12月24日(日)
 そこは戦場でした。兵士同士がぶつかりあう最前線。食べ物も少なく、電気もない。寒さ厳しい冬のある夜、戦闘に疲れ果て休んでいると相手の塹壕(ざんごう)から歌声が聞こえてきました▼それは「きよしこの夜」。いつしか、両軍の塹壕から合唱のようにクリスマスの歌が暗い夜空に流れていきました。翌朝、両兵士がゆっくりと歩み寄り、握手を交わします。「メリークリスマス」▼また一緒に歌ったり食べ物を分けあったり。家族の写真を見せあい、記念写真をとる人も。そして、笑顔のサッカーが始まりました―。1世紀前の第1次世界大戦で争ったイギリス軍とドイツ軍の間であったクリスマス休戦です▼この話は兵士たちの写真や手紙などで裏付けられ、語り継がれてきました。日本でも昨年、絵本作家の鈴木まもるさんが紹介しています。『戦争をやめた人たち』と題して。残念ながら戦争は今も世界で起こっているが、戦争をやめることができるのも人だと▼クリスマスを前に鳴り響く爆音や銃声。ガザでは死者が2万人をこえ、住民は深刻な医療危機や飢餓に直面しています。鈴木さんがこの絵本のあとがきの絵を描いているとき、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました▼また戦争を始める人間がいる現実にがく然としながら、戦争することよりも強い、人の優しさと想像力が描きたくて完成させました。最後の絵には世界中の人びとが手をつないでつくった輪の真ん中にメッセージが込められています。「この星に、戦争はいりません」


きょうの潮流 2023年12月23日(土)
 かつて、選挙では候補者による立会演説会が開かれていました。聴衆は下駄ばきで参加。飛び交うヤジには政治への怒りが込められていました。そんなヤジがいきなり警察に排除されたとしたら…▼2019年、参院選さなかの札幌市内で安倍首相(当時)が演説中に問題は起きました。「アベやめろ」「増税反対」。声を上げた市民らを北海道警が取り囲み、排除したのです。「年金100年 安心プランどうなった?」というプラカードを掲げた人も同じ扱いを受けました▼ドキュメンタリー映画「ヤジと民主主義」が、この一部始終をとらえました。首相を支持する人々の発言やプラカードは許されるのに、反対の声は暴力的にはねのけられるのか。「言論の自由」の保障を正面に掲げました▼安倍政権が推し進めた特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認も視野に入れました。製作したのは地元の北海道放送。4年かけて追った執念を感じる一作です▼19年当時、いくつものメディアが取材に。しかし、事態を追及したところは、他にはありませんでした。山崎裕侍監督は「人権侵害に対する沈黙は加担を意味する。権力に忖度(そんたく)せず報道を続けていくことが、崩れかかっている自由や民主主義をかろうじて止める力になる」と▼排除された当事者2人は、精神的苦痛を受けたと道に損害賠償を求めて提訴。今も裁判は続いています。何を言ってもどうせ変わらないとあきらめてはいけない。「おかしい」と思ったら声をあげようと勇気づけられます。


きょうの潮流 2023年12月22日(金)
 「教え子を再び戦場に送らない」。あの戦争に子どもたちを送り出してしまった教職員の、不退転の決意。72年たった今も、生きています▼退職後のひとりぼっちをなくそう、との願いから始まった全日本退職教職員連絡協議会(全退教)。平和と民主主義・生活擁護にも目を向けた活動を続けます。岸田政権が大軍拡に突き進み、平和をめぐって最大の危機に直面するなか、ボイスアクションを呼びかけています▼戦争をしない、させない思いを1枚のはがきに込める取り組み。「平和であることが何よりです」「戦争するな。子どもの命・夢奪うな」「今こそ憲法9条の出番」…。事務局には、願いがびっしり書かれたはがきがすでに1000枚以上届いています▼人の命を奪うためではなく、命を育むための予算をとの声は切実です。13日には「学校に希望を!長時間労働に歯止めを!ネットワーク」が発足しました。残業代の支給、業務量にあった教職員の配置、そのための教育予算増額。この三つを求めて教育研究者有志が呼びかける署名を広げ、運動を交流します▼全退教も呼びかけ団体に加わりました。深刻な教員不足から退職後も現場にかかわりながら、「このままでは学校がもたない」と痛感してきたからです。ボイスアクションとともに力を注ぎます▼大軍拡ではなく教育にお金を。冷たい冬を乗り越えて、子どもたちが安心できる温かな学校へと気持ちを寄せ合いたい。日一日と、日差しが伸びていくように。今日は冬至です。


きょうの潮流 023年12月21日(木)
 きょうは「回文の日」。回文とは上から読んでも下から読んでも同音になる単語や文章のことで12月21日は1221となることから▼「新聞紙」「竹やぶ焼けた」「わたし負けましたわ」と聞けば、あああれか、と思い当たるでしょう。中島みゆきも「ヨノナカバカナノヨ」と歌っていました。言葉遊びと侮るなかれ。回文俳句に回文詩、回文アートまであるようです▼『たのしい回文』の著者・せとちとせ氏は、自作の「嘘(うそ)見透かす霞草(かすみそう)」を挙げ、言葉同士が呼び合い事象の本質を浮き彫りにする働きを指摘し、「女神歌う歌『海亀』」では回文によって不思議な別世界が出現する新鮮さを説きます▼印字した回文詩を壁一面に並べた作品のある美術家・福田尚代氏は「回文は、自分の中から生まれるものではなく、外にあるもの。自分では思いつかないことばを“発見する”行為」と語っています▼回文の歴史は古く、平安後期の歌学書にその例が見られるとか。江戸時代には縁起の良い初夢を見られるように、宝船の絵に「長き夜の遠(とお)の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな」という回文和歌が書かれた紙を枕の下に入れて眠ったそうです。くるくる回る言葉は、季節が永遠に循環するめでたさにつながるのかもしれません▼記者も初挑戦。まずは好きな花の名を逆さまに。「奇抜なツバキ」「理由問うユリ」「騾馬(らば)の耳のバラ」。おまけ「寝付きいいキツネ」。目下、平和のスローガンを作れないかと思案中です。ご一緒に挑戦してみませんか。


きょうの潮流 2023年12月20日(水)
 戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんが、「救国内閣」の組閣案をSNSで発信しています。政権と対決する野党から選び、民間人も登用しています▼岸田政権の支持率が2割を切ったことで、「一国民として、どんな方向性の政権を望むか」を形にすることが目的。方向性とは政治理念と倫理観のことだといいます。たとえば、首相は田村智子、官房長官は山本太郎、経産相は田島麻衣子、外相は民間の国谷裕子…▼これには、自分も組閣してみた、わくわくするとの反響が続々。人選の賛否はあるものの政権全体への不信が募るほど、それに代わる姿を待ち望む声が広がっています。絶望ではなく、どうすれば政治に希望をもてるか願いを込めて▼自民党の派閥パーティーをめぐる問題で東京地検特捜部の強制捜査が入りました。最大派閥の安倍派や二階派の事務所を家宅捜索。政権や党をゆるがす裏金づくり疑惑は刑事事件に発展しました▼自民党全体にはびこる不正なカネ。新閣僚4人も昨年のパーティーで計2億円を集めていたことを本紙が報じています。利益率は8割超で「大臣規範」に抵触する閣僚も。巨額をつくりだす「錬金術」のことは知り尽くしているはずなのに、岸田首相は捜査をみながら必要な対応をと白々しい▼先の山崎さんは、実現可能か否かではなく、こういう方向性の内閣ができたら、日本の社会は、自分たちのくらしはどう変わるだろう、とイメージしてもらうのが目的とも。そして社会は人が変えられるものだと。


きょうの潮流 2023年12月19日(火)
 「清水の舞台から飛び降りるような気持ちで」。思い切った決断をするような時に使われる言葉です。江戸時代には願かけで実際に飛び降りた人がいたという記録が残っています▼その清水の舞台が2025年大阪・関西万博でにわかに話題になっています。万博のシンボルだという大屋根。工事現場に行くと「世界最大級の木製リングをつくっています」という宣伝文句が目につきます。清水の舞台のように釘(くぎ)を使わない伝統工法だというのが売り物です▼大屋根は高さ12メートルから20メートルで1周約2キロ。リングの屋上からは会場全体を見渡せ、瀬戸内海の豊かな自然を楽しむことができ、風雨や日差しよけにもなるといいます。ただ金額を聞いて驚きます。約344億円▼万博の会期半年が過ぎれば解体。補強のため一部金具を活用する工法を「伝統工法」というのか。「世界一高い日傘。壮大な無駄遣いじゃないか」。批判が起きるのは当然です▼万博にいったいいくらかかるのか。会場建設費は大屋根など2350億円。国、大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担します。国費はほかにも日本館建設、警備費など837億円。これで済みません。政府のまとめによると万博関連インフラ整備費は9・7兆円。うち万博に直接関係する整備費は8390億円▼庶民が物価高騰に苦しむなか信じられない金額です。しかも、万博を名目にしたインフラ整備はカジノ誘致のため。「清水の舞台」を引き合いに出すなら万博中止という決断をする勇気こそ。


きょうの潮流 2023年12月18日(月)
 150年前、明治初期の「徴兵令」で始まった徴兵制度は、敗戦後の1945年11月に廃止されました。公募となった自衛隊はいま、応募者減で慢性的な定員不足に直面しています▼少子化やハラスメントが背景にあるとあって、防衛省は人員確保へあの手この手で。一定期間入隊すれば返済を免除する奨学金貸費学生制度や退職時の大学進学支援制度の勧誘策も▼隊員募集のため自治体に若者の個人情報の提供を迫ることまで各地で。人権無視、学校や自治体を「戦場の窓口」とするなと抗議や批判が広がっています▼いかに自衛隊の好感度をあげるか―テレビへの露出も重要な広報作戦です。“制作過程は話せない”と密接ぶりは口を閉ざすものの、例えば、ドラマ「テッパチ!(鉄の帽子)」(22年フジ系)ではエキストラは自衛官、戦車は本物。防衛省は全面協力しました。最近のドラマ「VIVANT」(TBS系)では自衛隊の諜報(ちょうほう)組織「別班」の一員を人気俳優が演じて話題に▼先月放送の日本テレビ系の番組は、「メディア初解禁」と称し静岡の陸自駐屯地で74式戦車の内部にカメラを持ち込みました。ドラマやバラエティーだけでなく、ニュース枠でも“テレビ初”“密着取材”の触れ込みで「日本の安全保障を支える精鋭部隊」と無批判に報じる番組も▼岸田政権の大軍拡計画のもとで拡大する日米一体化の危険な実態に目をつむったままでは、自衛隊広報の片棒を担ぐようなもの。テレビが「戦場への窓口」になるのもごめんです。


きょうの潮流 2023年12月17日(日)
 米スポーツ史上最高額。大リーグ、大谷翔平選手のドジャース移籍が破格の契約とともに話題です。10年総額7億ドル、日本円でおよそ1千億円になると▼大谷選手の加入によって球団には観客数やグッズ販売、放映権料や企業からのスポンサー料の増加が見込まれます。実力もさることながら、その高い収益力が巨額契約の背景にあるといいます▼米4大プロスポーツと呼ばれる野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーではこうした大型契約がたびたび見られます。また世界的に人気のあるサッカーやテニス、ゴルフなども多額が動いています▼一方でマイナースポーツといわれる競技は人口もメディアへの露出も少ない。選手の多くは働きながらの活動で、待遇や人気の格差はスポーツ界の大きな課題となっています▼スポーツに限らず、いま世界全体で爆発的に格差が拡大しています。2020年以降に生じた資産のうち、6割以上が上位1%の富裕層に集中。その富は増えつづけ、逆に貧困層は生活と命の危機に追い込まれる。国際NGOの報告書をもとに資本主義の矛盾を明らかにした本紙「すいよう特集」(6日付)に反響が寄せられました▼「まさに未来がない」「弱肉強食のしくみがよくわかった」。搾取のひどさに、社会主義について真剣に考えるときだ、との意見も。NGOは訴えています。「将来世代をふくめ、すべての人に人間らしい生活をもたらす、人間のための経済をつくらなければならない」


きょうの潮流 2023年12月16日(土)
 経済的困難を抱える家庭への支援を行うNPO法人「キッズドア」が一人親家庭などの困窮世帯を対象に実施したアンケートの結果、2割以上の家庭で子どもが不登校や不登校ぎみであることが分かりました▼学校に行きづらくなった理由には「新しい服や文房具が買えず、『貧乏』と思われる」「出費を抑えるため、遊びに行くことが減って友人関係が良好でなくなった」といったものが。子どもの気持ちを考えると、こちらまでつらくなります▼そうした子どものうち83%が平日の日中も家で過ごしているといいます。フリースクールに通わせるのにも費用がかかり、苦しい経済状況では難しい。「安価なフリースクールがあれば通わせられるのに」という声もあります▼大企業優先の政策が招いた「失われた30年」といわれる経済停滞で実質賃金が下がり、格差が広がりました。さらに最近の物価高。キッズドアのアンケートに99%が「家計が厳しくなった」と回答しました。子どもへの影響は深刻です。高校生のいる世帯の14%が「経済的な理由で志望校を諦めた」と答えました▼政府の「少子化対策」は財源が社会保障の削減などで結局、負担が国民に跳ね返ってきます。パーティー券収入など多額の金をもらっている自民党では大企業に負担を求めることができません▼経済の抜本的再生と本格的な子育て世代への支援が求められています。教育無償化の観点から、フリースクールへの公的支援で保護者の負担を軽減することも必要です。


きょうの潮流 2023年12月15日(金)
 やはり、批判の目を欺くだけのものだったか。「国民感覚とのずれをふかく反省し、『政治は国民のもの』と宣言した立党の原点にかえり信頼回復をはたさなければならない」▼自民党が30年以上前に示した「政治改革大綱」です。当時、政財界の大規模な贈収賄事件によって政治への不信は頂点に。それを受けた大綱には、派閥解消の決意やパーティーの自粛も明記されています▼政治資金についても節減・公正・公開のルールを確立。「収入は公正明朗な資金によるべきであり、いやしくも不当違法なもの、疑惑をまねくようなかかわりは厳につつしむ」と。しかし企業・団体献金は残され、「改革」は選挙制度の改悪にすり替えられていきました▼いままた自民党の裏金疑惑が社会を揺るがしています。岸田首相は危機感を口にしながら、問題解決の具体策は何も示さず。事実を確認、しっかり調査、適切に対応などとはぐらかすばかりです▼これだけの疑惑があらわになりながら、首相や閣僚、派閥幹部や各議員に至るまで、まともに答えられない恥ずかしい姿。ただ顔をつけかえただけでは一向に変わらない自民党の腐敗ぶりが表れています。「金こそ力」「数こそ力」の金権政治そのものの▼私利私欲にまみれたカネをはじめ、内政外交ともに時が止まったかのような無為無策の自民党政治。そこに終止符を打つことが、この国の希望ある未来につながるはずです。口先だけではない「政治は国民のもの」を、本当に実現させるためにも。


きょうの潮流 2023年12月14日(木)
 「本年をもちまして新年のごあいさつを最後とさせていただきます」。あすから年賀状の受け付けがはじまりますが、近年増えているのが「終活年賀状」です。年賀状じまいとも呼ばれ、それ専用の賀状が販売店でもよく売れているそうです▼高齢や病気といったやむにやまれぬ事情もありますが、受け取る側も長年のつながりが切れてしまうことに寂しさが募ります。これも、人生の終(しま)い方の一つなのでしょうか▼私事で恐縮ですが、先日父親の偲(しの)ぶ会に参加する機会がありました。ともに活動した年金者組合の有志が開いたもので、それぞれが懐かしき思い出を語りあい、なごやかで温かな空気につつまれました▼いま高齢者をめぐる状況は厳しくなるばかりです。医療や介護をはじめ強いられる負担は大きく、老後の生活を支える社会保障は頼りにならない。消費税は重くのしかかり、その上この物価高。賃上げや年金の引き上げを求める声はさらに高まっています▼自己責任を押しつける政治のなかで孤立する高齢者。人と人がつながり、生きがいや趣味を仲間と一緒に楽しめる。みんなが安心して生き生きと暮らせる。そんな社会への切望は、ますます強い▼先の会では故人の遺志を受け継ぎ、志を同じくする“友”をもっと増やそうという意気込みも口々に。現状を変えたいとの思いとともに、子や孫ら次の世代に生きる喜びを感じられる社会を渡したいとの願いは切実です。人生の終い方が、自分と、大切な人たちのためになることを。


きょうの潮流 2023年12月13日(水)
 次世代の100人。さまざまな分野で世界に影響をあたえ、今後も活躍が期待される人たち。米タイム誌が、4年前から毎年選出してきました▼今年発表の中に五ノ井里奈さんの名がありました。選ばれたのは権利や尊厳を守るために活動した「擁護者」の部門。日本社会では性暴力について声をあげることは長い間タブー視されてきたが、すべての被害者に扉を開いたと▼所属していた陸上自衛隊で複数の隊員から受けた性被害を訴えてきました。世界から評価された喜びとともに、複雑な思いも。「選ばれるために生きていたわけではないので…」。ニューヨークでの授賞式に密着したテレビ番組で胸中を語っていました▼実名で顔を出して告発したのは1年半前。強制わいせつの罪に問われた元上司3人は謝罪から一転、裁判では無罪を主張しました。「笑いをとるためだった」。その無反省な態度が断罪されました。きのう福島地裁は懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡しました▼巨大組織の隠ぺい体質、いわれなき中傷や悪口。死にたくなるほど追いつめられながら、たたかうことをあきらめませんでした。理不尽なことへの怒りや応援してくれる人たちの存在とともに、自分のようなつらさを味わってほしくないとの思いを支えにして▼勇気ある告発は男性優位の組織にも変化をもたらしました。「日本社会にとってもいい判決。前例をつくれた」と五ノ井さん。ありのままの自分で生きていける。そんな世の中を心から願いながら。


きょうの潮流 2023年12月12日(火)
 麻雀と焼きそば屋での「哲学」論議にあけくれた学生時代。やがて青年の関心は正義論や法哲学へ。そして進んだ先は、憲法研究者の道でした▼これまでの人生をふり返りつつ、執念をもってとりくんできた理由とは。神戸学院大法学部の上脇博之教授が『なぜ「政治とカネ」を告発し続けるのか』(日本機関紙出版センター)に記しています▼いまの日本は議会制民主主義であるための要件を満たしていない。上脇さんはそう指摘します。投票価値の平等や自由な選挙活動、国民の知る権利が保障されていない。政治や選挙を不公正に左右し民意をゆがめる政治資金制度をとっていると▼本紙報道に端を発した自民党の裏金問題が底なしの様相をみせています。安倍派幹部らの疑惑が次つぎと表面化。政権の中枢を直撃しています。岸田首相はひとごとのようにコメントしていますが、自身や他の派閥も疑惑の渦中にあり、党丸ごとの体質が問われています。不正なカネにまみれた▼こっそりとカネをつくり使い道も明らかにしない政党が国民のための政治をするだろうか。上脇さんは企業や団体からの献金など政治を利用する可能性があるカネの入りも絞るべきだといいます▼組織的な裏金づくりを告発するまでの作業は大変です。しかし多くの仲間や協力者が闇を暴くため立ち上がっています。市民の告発は主権者である国民全体のための運動だと上脇さん。その一つ一つが、権力の暴走をくいとめ、議会制民主主義の確立につながると信じて。


きょうの潮流 2023年12月10日(日)
 ヒトツバタゴ。モクセイ科の木で、5月ごろに白い花を咲かせます。別名ナンジャモンジャ。環境省がレッドリストに登録する絶滅危惧類です▼その貴重な希少種の存続が危ぶまれています。東京・明治神宮外苑の再開発で3000本の樹木を伐採する計画に、3代にわたって200年以上、命をつないできたヒトツバタゴも含まれています▼江戸期から旧青山三筋町二丁目萩原三之助の邸内にあり通行人に愛されるも名前を知られていないため“ナンジャモンジャ”と呼ばれたと。練兵場開設の際にも現地保存され、永井荷風の随筆集『日和下駄』に「都下の樹木にして…なお有名なるは青山練兵場内のナンジャモンジャの木」と登場するほど▼1924年には天然記念物に指定。樹齢による枯れ死の危機を乗り越え、丁寧に保存されてきました。いまでは外苑の公式HPが「小さなプロペラ型の花が咲き乱れる様は圧巻」ですと咲き頃を紹介するまでに親しまれています▼現在、絵画館前に生息する3代目の木は保存予定ですが、秩父宮ラグビー場の横にあるヒトツバタゴは伐採。建国記念文庫の森にある樹齢百年を超える樹木帯は、移植、保存の双方で生育が困難視されています▼“樹齢は確定できない”とする再開発事業者の調査報告にたいし、都市環境学者は「歴史的樹木の検討を欠いている」と計画の欠陥を指摘。「100年以上愛され受け継がれてきた木を私たちの世代で終わらせるのは無責任」と。切られた木はもう元に戻りません。


きょうの潮流 2023年12月9日(土)
 あの懐かしい歌声が響き渡っています。ビートルズ最後の新曲と銘打たれた「ナウ・アンド・ゼン」。先月配信されると、全英1位をはじめ大ヒットしています▼「ときどきぼくはきみが恋しくなる」。離ればなれになってしまった大切な人にまた会いたい。そんな心情を込めた曲。ジョン・レノンが亡くなる数年前にニューヨークの自宅でピアノを弾きながらつくりました▼テープに残され雑音がひどかったものを、最新技術を駆使して完成。世界中を熱狂させた若き4人の姿を取り込んだミュージック・ビデオも郷愁を誘います。監修した監督は、世界がこんな状態になっている今、ぼくらにはもう一度ビートルズが必要なんだと▼生存するメンバーのポールは、ビートルズをふり返って思い出すのは「楽しさ、才能、ユーモアと愛」だと音楽雑誌で語っています。リンゴも「愛とともに。ビートはまだ鳴り続けている」(ロッキング・オン1月号)▼ジョンが自宅前で凶弾に倒れたのは日本時間のきょうでした。あれから43年の月日が流れましたが、ビートルズとともにジョンの曲は今も歌い継がれています。「平和を我らに」「ハッピー・クリスマス」「イマジン」。愛と平和をねがう人びとによって▼時代をこえた“新曲”はたくさんの心を揺さぶっています。暴力や憎しみ、人間不信がひろがるなかで、人が人をいとおしく思い、安らぎに満ちた世界を追い求めていく。どれほど時が過ぎても色あせない音楽の力が気づかせてくれます。


きょうの潮流 2023年12月8日(金)
 開戦の3カ月ほど前のこと。寝ぼけまなこの早朝に、特高の刑事がふみこんできました。わけがわからないまま逮捕され、留置場へ。それから1年以上、極寒の監獄に入れられました▼日常のくらしを絵にする美術教育に携わった教員や学生らが次々と検挙された「生活図画事件」。幼いころから絵を描くことが好きで当時、旭川師範学校の美術部員だった菱谷(ひしや)良一さんも危険思想の持ち主と決めつけられました▼思想や言論をはじめ、治安維持法によって際限なく広がっていった弾圧の対象。それは戦争の拡大と軌を一にしていました。人びとの生活がいかに締めつけられ、壊されていったか。その姿はいまも小説やドラマなどで描かれています▼戦後は平穏な日々を送っていたという菱谷さん。初めて体験を証言したのは、2006年に開催された「生活図画事件を語る会」。その後、政府によって共謀罪や秘密保護法が出てくると「姿を変えた治安維持法だ」と声をあげました▼弾圧犠牲者への国による謝罪と賠償を求める国会請願にも毎年参加。岸田政権が大軍拡を推し進めるなか、今年も北海道から駆けつけました。「あの暗い歴史をくり返してはならない」▼102歳となった菱谷さんは自伝『百年の探究―眞の自由と平和を思考し続けて』を上梓(じょうし)しました。命ある限り、この思いを今の人たちに伝えたい。「私は戦争の空の下に生き、それを語れる数少ないひとり。自由と平和、それだけを守って」。きょう太平洋戦争の開戦から82年。


きょうの潮流 2023年12月7日(木)
 結果は最悪のものとなりました。鹿児島・屋久島沖のCV22オスプレイ墜落事故。発生から6日あまりたった5日、米軍は乗組員8人全員の死亡を判断しました▼開発当初から墜落・死亡事故が相次ぎ、米国防総省の専門家からも「構造的欠陥機」とされてきたオスプレイ。2012年に日本配備が開始されて以降、在日米軍所属機の墜落は、これで3機目です。徹底した原因究明と飛行停止は、日本政府がとるべき最低限の要求でしょう▼ところが政府は、一度たりとも、飛行停止も原因究明も要求せず「安全に飛行してください」と懇願するばかり。重要な物証である残骸は日米地位協定に基づき、さっさと米側に引き渡してしまいました。米国防総省は「日本から公式の飛行停止要請は受けていない」と公言し、オスプレイは今日も日本の空を飛んでいます▼政府がここまで卑屈になってしまう要因は「抑止力」論の呪縛です。在日米軍の「抑止力」強化のためなら、どんな横暴な訓練も容認されるという考えに縛られているのです▼「日米同盟は重要だが、言うべきことは言う」という、主権国家としての最低限の矜持(きょうじ)が、岸田政権の下で失われています。そもそも、これだけ事故を起こすオスプレイの、どこが「抑止力」なのでしょうか▼オスプレイの飛行停止を言えないのも、イスラエルによるパレスチナ・ガザ攻撃の停止を言えないのも、根源にあるのは「アメリカ言いなり」政治です。いまこそ、その転換が求められるときです。


きょうの潮流 2023年12月6日(水)
 85歳の弁護団長は、万感の思いを込めました。「心を打つ、人間らしい判決」。みずからの過去にも重ねあわせながら、勝訴の喜びをかみしめて▼国による生活保護費の大幅な削減に「ノー」を突きつけた名古屋高裁の判決。安倍政権が強行した基準引き下げの誤りを認め、「過程や手続きに過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱、乱用があった」と結論づけました。さらに初めて国に慰謝料の支払いを命じました▼全国各地でたたかわれている「いのちのとりで裁判」。生活保護費の減額で心身ともに苦痛を味わってきた人たちにとって、判決は希望をもって受けとめられています。生きる権利や人間としての生活が認められたと▼弁護団長を務めた内河恵一(よしかず)さんは、自身も生活保護を利用した経験があります。実家は貧しく両親も病気で満足に働けず、生活は困窮。それがなかったら、夜間の大学にも通えず弁護士にもなれなかった。今の自分があるのは経済的な弱者を救う制度のおかげだといいます▼戦後多くが家を失ったなかで、絶望せずに暮らせるようにつくられた生活保護法。社会保障の根幹を自民党政治は改悪してきました。これ以上削るところがない、この世から去れというのか―。当事者の声に背をむけて▼人間の尊厳を奪う攻撃をはねのけ、憲法に基づき現実に見合った「いのちのとりで」を守るたたかいは続きます。内河さんらが呼びかける、だれもが希望をもち安心して人生をまっとうできる社会を、ともにつくるために。


きょうの潮流 2023年12月5日(火)
 「加害の見える海」があると聞いて、訪ねました。山口県宇部市の床波漁港付近です▼遠浅の海に二つの赤茶けた大きな筒が見えます。戦前、海底炭鉱だった長生(ちょうせい)炭鉱の排気・排水筒です▼海底地下の層にある石炭を採炭する作業は、特別に危険です。日本人の多くは敬遠し、朝鮮半島から連れてきた労働者に強制労働させました。周囲3メートルほどの板と鉄条網を張りめぐらした“小屋”に押し込まれ警備も厳しく外出もできない生活だったといいます▼悲劇の水没事故は、石炭しかエネルギー資源のなかった日本が、真珠湾攻撃で対米英戦に突入した2カ月後の1942年2月3日に起きました。採炭の“大出し”を命じた日で、海底坑道の天井を支えていた炭柱まで取り払ったため天井が崩壊したのです。136人の朝鮮人労働者と47人の日本人が犠牲になりました。遺骨は、いまも海の底です▼戦中や戦後も長い間闇に葬られていた、この事実。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」など市民の活動によって日本人犠牲者と共に「強制連行 韓国・朝鮮人犠牲者」の追悼碑が2013年に建てられました。韓国から遺族代表を招いて、追悼集会も開いてきました▼国策・石炭増産と植民地支配の犠牲になった遺骨の発掘と家族への返還は、日本政府の逃れられない責務です。追悼碑文は、こう結んでいます。「悲劇を生んだ日本の歴史を反省し、再び他民族を踏みつけにするような暴虐な権力の出現を許さないために、力の限り尽くすことを誓う」


きょうの潮流 2023年12月4日(月)
 政清人和(せいせいじんわ)(まつりごと清ければ人おのずから和す)。清廉な政治は人民を穏やかにする。そんな意味を込めて命名したというのが、安倍派として知られる「清和会」です▼名付け親は創設者の福田赳夫元首相。自民党内の派閥争いが激しさを増す時代につくられ「自民党を良くするため、派閥のための派閥ではなく、清く・正しく・たくましい活動をしてゆこうとする精神が、発足当時から受け継がれて」いると▼のちに改称した清和政策研究会のホームページに掲げられています。そこには、1979年の結成から数多くの首相を輩出し、いまや党内最大の集団であると自慢げに。しかしその実態は清く正しくとは正反対でした▼政治資金パーティーをめぐって安倍派の議員たちが巨額の裏金をつくっていた疑惑が浮かび上がっています。パー券の販売ノルマをこえて売った分の収入を議員側に還流させる仕組みを組織ぐるみで。収支報告書には記載せずに、その総額は直近5年間で1億円以上とみられます▼安倍派の幹部は政権や与党の要職にあり、岸田首相も知らぬ存ぜぬでは済まされません。国会で田村質問が明らかにしたように、首相自身も収入が数千万円になるパーティーを昨年6回も開催。収入の9割が利益となり、事実上の企業・団体献金ではないかと追及しました▼コロナ禍や物価高に国民が苦しんでいるときにも、せっせと励んでいたのが裏金づくりとは。そんな私欲にまみれた政治が、人びとを穏やかにするわけがありません。


きょうの潮流 2023年12月3日(日)
 市井の人々の心のひだを丁寧にすくい取ったテレビドラマの数々が忘れられません。脚本家の山田太一さんが亡くなりました。89歳でした▼「男たちの旅路」(1976年)で元特攻隊員が人々の叫びに耳を傾け、「岸辺のアルバム」(77年)は家族崩壊を描き、当時のホームドラマに一石を投じました。自己肯定を模索する青春群像劇「ふぞろいの林檎たち」(83年)。いずれも世間の「常識」とされていたことを問いかけて、名作といわれます▼ラフカディオ・ハーンを主人公にした「日本の面影」などで山田作品の音楽を手がけた作曲家の池辺晋一郎さん。本紙の対談で「当たり前だと考えて記憶に残っていないことを、もう一回鮮明にさせてくれます」と▼「マイナスをよけては書けません。マイナスの持つ豊かさが書ければもっといい」。山田さんは、70年代から80年代、倉本聰、向田邦子、早坂暁らの各氏と切磋琢磨(せっさたくま)してドラマの黄金期を築きます▼それまで台本はドラマの添え物として扱われ、収録が終われば捨てられていました。台本を収集・保存して公的機関で公開する「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」の代表理事を務めました。後進のためにもと尽力したのです▼「テレビドラマは文化です。商品ではない」と言い切り、小説や詩歌に引けを取らない「シナリオ文学」を打ち立てました。今のテレビドラマは多くが漫画原作で占められています。消費されるだけでいいのか。肉声が響く山田太一ドラマ、もう一度見たかった。


きょうの潮流 2023年12月2日(土)
 身寄りなく生活保護を利用する人。透析が必要な人。どんな患者でも受け入れると評判だった滝山病院(東京都八王子市)。人権侵害だけでなく、精神障害者の入院長期化も問題でした▼精神疾患のある入院患者は全国に26万人。うち1年以上の長期入院患者は約16万人。その4万4千人余は10年以上にも及びます。OECD加盟36カ国の精神病床数の約4割を日本が占めているというデータも▼世界的に遅れていると指摘される日本の精神科医療政策。背景に、医師や看護師の配置を一般病床より少なくてよいとする「精神科特例」があります。1950年代に国策で精神病床を増やそうと定めました▼増えたのは民間病院。医師・看護師の配置基準が緩い分、診療報酬は一般病床より低く設定されています。そのため病院は入院病床の利用率を高めようとし、患者を社会から排除する差別的風潮もあって、長期入院患者が増えることに▼一方、長期入院の患者を地域で暮らせるよう支援しながら病床数を減らした精神科病院も。「未来の風せいわ病院」(盛岡市)は、7年間で198人を退院させ、113床削減しました。経営状況は厳しいと理事長の智田文徳さん。「診療報酬の見直しを国や社会に働きかけなければ」と呼びかけます▼差別的な「精神科特例」はいまも重い壁になっています。精神疾患のある人が人間らしく生きる権利を確立することは、社会の責務です。患者の視点から医療や看護ができるような診療報酬改定が求められます。


きょうの潮流 2023年12月1日(金)
 樹齢数千年におよぶ縄文杉。豊かな自然環境に息づく貴重な動植物。日本最初の世界遺産となった鹿児島県の屋久島です。先週は登録30周年の記念シンポジウムも開かれました▼地球と人類の宝物といわれるその島に衝撃が走りました。米軍機オスプレイが空港の沖合で墜落。機体が空中で火を噴き海に落ちていく様子を目撃した住民も。わずかにずれていれば大惨事になるところでした▼構造的に不備があり、操縦も難しいと指摘されるオスプレイ。昨年は米国で、今年8月にはオーストラリアで墜落事故をおこし、日本でも緊急着陸をくり返しています。沖縄・名護の集落近くの海岸で墜落、大破した事故も記憶に新しい▼米軍基地が集中する沖縄をはじめ、日本の上空をわが物顔で飛んでいる欠陥機。いつそれが降りかかるかと不安におびえる住民。しかし国の態度は及び腰です▼事故当日、宮沢防衛副大臣は米軍からの説明をうのみにして墜落を「不時着水」と言い張りました。岸田首相も事故の実態を確認してから何が必要で何が求められるのか検討すると悠長に。飛行停止をすぐに要請し、事故の原因究明と対応を徹底しない限りオスプレイを使った訓練は直ちに中止すべきだと迫った沖縄のデニー知事とは大違いです▼日米地位協定によって主権がそこなわれ、国民の命が脅かされているのに改めようともしてこなかった自民党政権。愛国を口にしながら自国のことを自分たちで決められない情けない姿が、またもあらわになりました。


きょうの潮流 2023年11月30日(木)
 「あの子たちはいま、どうしているのだろう」―。パレスチナ難民キャンプの子どもに毎月5000円を送る里親活動を37年続けてきた東京・板橋区の岡本達思さん(73)は不安の日々です▼社会に旅立つ16歳まで、見守り続けた里子は8人です。最初の子は、7歳の少女サハルでした。「サハルは成人しても“結婚したよ”“子どもが生まれたよ”と手紙や写真をくれました。“ボーイフレンドができた”との手紙には、父親のようにちょっぴり焼きもちを焼きました」。心通う交流でした▼3歳で授かった9人目の里子は、9歳になった今年、脱出国したと現地のNPOから連絡が…。本人とも家族とも連絡が取れなくなり、「育て上げることができなかった」と悔やみます▼「家族でヨーロッパに渡ったのでしょう。難民キャンプの生活は劣悪です。お年寄り以外は外に出たがる」と岡本さん。「ヨーロッパで無事に暮らしているといいのですが…。差別や貧困が待っています。パレスチナの人々に安住の地はないんですね」▼イスラエルの攻撃が続いていた今月19日、現地の国連児童基金パレスチナ事務所からメールが届きました。ガザの医療システムは完全崩壊し、避難民キャンプは劣悪な状況だと書かれており、10歳のモハマドくんのこんな声も。「家に壁が欲しい。ドアや窓がなくても構わない」「僕たちが死んでいくのに誰も何もしてくれない」…▼ガザの子ども約6000人が殺されました。一刻も早く停戦を。岡本さんの心痛は続きます。


きょうの潮流 2023年11月29日(水)
 ドラムは太鼓、ピアノは洋琴、バイオリンは提琴。サクソフォンは、金属製ひん曲がり尺八、コントラバスは妖怪的四弦。「だれが考えたんや」。テレビの主人公じゃなくても、そうツッコミたくなります▼NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のなかで、楽器を和名で呼ぶよう警察から命じられる場面がありました。先の大戦中に敵性語とされた英語は、さまざまな分野で言い換えが無理やりにすすめられました▼当時はNHKからも英語の番組名が姿を消し、ニュースは報道、アナウンサーは放送員の名称に。言葉だけでなく愛国精神を強要され、「ぜいたくは敵」「欲しがりません勝つまでは」の標語のもと、生活のすべてが統制されていきます▼「ブギウギ」でも、笠置シヅ子さんをモデルにした主人公と楽劇団が「派手な」舞台を禁じられます。淡谷のり子さんをモデルにした、世情にあらがう歌手はたびたび警察に連行されて。しかし、ドレス姿をとがめられるシーンでは「これは私の戦闘服です」ときっぱり▼同じようなことを自伝でも語っていた淡谷さん。モンペで歌えと強制されながら口紅を引き、ドレスを着て歌い続けました。「これは私の戦争でした。たったひとりの…」(『歌わない日はなかった』)▼それぞれの生き方や言論・表現の自由を抑えつけた権力や戦争のみにくさ。それは過去のことではないでしょう。「もっと自由に、もっと楽しく歌いたい」。主人公のさけびは、決して後戻りしてはならない道を教えてくれます。


きょうの潮流 2023年11月28日(火)
 「保育中の重大事故の検証や提言を、制度に反映する責任が国にはあると思います」。12年前に1歳7カ月の長女を亡くした阿部一美さんの、心の底からの叫びでした▼すべての子どもによりよい保育をと、23日に開かれた大集会での一コマです。全国から約2000人の保育士や保護者、子どもらが東京・日比谷野外音楽堂へ。保育制度の改善をアピールしながら、銀座をパレードしました▼二度と子どもの命が奪われることのないようにと積み上げた願いは、事故の検証やガイドライン作りを後押ししました。ようやく国も、75年ぶりに保育士の配置基準を変えると言い出しました。しかし、具体化はこれから。国が推進する「こども誰でも通園制度(仮称)」では、園や時間などを固定しない「自由利用」へ、多様な業者が関わることに不安が募ります▼保育中の死亡事故が多いのは0、1歳児。通い始めた初日、または数日後に亡くなっているという実態が。「この制度で安全に過ごせるのか」。阿部さんはこう問いかけ、条件整備を訴えました▼「子どもたちにもう1人保育士を!」と求める保護者アンケートには、6000人超から回答が寄せられています。「長年動かなかったこの山を、私たちの力で動かしましょう」。わが子の手を握りながら、保護者が呼びかけます▼軍事費の倍増ではなく子ども予算の倍増を。戦争で命を奪わないと決めた憲法をもつ国だからこそ、命を豊かにはぐくむ保育のしくみをつくる責務があるはずです。


きょうの潮流 2023年11月27日(月)
 さかのぼれば、相手の存在を認めあう道を探ってきました。「永年の対立と紛争を終え、相互の正当な政治的権利を承認し、平和で安全な共存、公正で永続的な包括和平と歴史的和解を実現すべき時がきた」▼30年前にイスラエル政府とパレスチナ解放機構(PLO)が結んだオスロ合意の前文は、そう述べていました(阿部俊哉著『パレスチナ』)。いまもジェノサイド(集団殺害)のような事態を止め、共存への展望をよみがえらせることが国際社会に求められているはずです▼ハマスによるイスラエル攻撃から始まった戦闘が初めて中断しています。ハマスに拉致された人質の一部が48日ぶりに解放され、イスラエルも刑務所に拘束していたパレスチナ人数十人を釈放しました。ガザへの人道支援物資も運び込まれています▼涙を流しながら家族と抱きあう姿や、がれきの中で赤ちゃんをあやす母親たちの様子が現地から伝わってきます。この平穏が続くよう、国際社会はあらゆる努力を惜しまずに働きかけなければなりません▼オスロ合意は当時のノルウェー外相などが仲介して進められました。いまはアメリカやロシアが相反する二つの基準を状況や相手によって使い分けているもとで、各国が国連憲章と国際法を守ることで一致団結する。それが和平につながる道へと▼憎しみがぶつかりあい、相手を抹殺するような軍事攻撃の激しさ。その犠牲になっているのは互いの市民です。そんな惨状をふたたび現実としないためにも力を合わせて。


きょうの潮流 2023年11月26日(日)
 赤や黄色に染まった落ち葉がふりつもる並木道。彩りの中で記念写真をとる人びと。韓国有数の観光地、南怡島(ナミソム)には内外から年間数百万人が訪れるといいます▼ここは「冬のソナタ」のロケ地としても知られ、日本からの来訪者も多い。20年前に一大ブームを巻き起こしたドラマ。社会現象ともなり、韓国文化への興味や関心がひろがりました▼その後もドラマや映画、K―POPと呼ばれる音楽が若い世代にも浸透。最近では「愛の不時着」や映画「パラサイト」が注目され、音楽グループ「BTS」は幅広い層から支持されています▼この20年の間、日本での「韓流ブーム」はさまざまなジャンルやコンテンツにもひろがり、いまや多くの皆様に愛されながら生活の一部として深く受け入れられている。駐日韓国文化院の孔炯植(コン・ヒョンシク)院長はそうコメントしています▼一方の韓国でも日本のアニメや音楽、食文化などが人気を呼んでいます。民間のレベルでは交流し理解も深まってきた両国。しかし、とげのように突き刺さってきた問題があります。旧日本軍「慰安婦」の被害者らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、先日ソウル高裁は原告側の主張を認めました▼「日本は心から謝罪し法的な賠償をすべきだ」。人間の尊厳をふみにじられ長く苦しんできた被害者の訴えは、日本政府の不誠実さを物語ります。植民地支配や侵略戦争、加害の事実とまともに向き合ってこなかった自民党政治。つながっていく未来にとっても、それをたださなければ。


きょうの潮流 2023年11月25日(土)
 熱波の夏から一転、突然の冬の到来に気候変動を痛感する毎日。環境危機を現代美術で問う展示「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」(東京・森美術館)に出かけました▼世界16カ国34人の作家による約100点の多彩な表現。人間中心主義の経済活動を告発し過剰な資源開発の影響を可視化するとともに、自然保護活動や先住民の知恵を象徴する作品を通して未来の可能性を示唆します▼廃棄されたホタテの貝殻5トンを床に敷き詰めた作品は、観覧者がその上を歩くことができます。足元で割れる優しい音に太古の海を感じるひととき。一面の海底に都市や原子力発電所を現出させる映像作品は、水没して消える文明を暗示しているかのよう▼被爆した第五福竜丸と汚染された海が題材の岡本太郎「燃える人」、桂ゆき「人と魚」は反核運動の隆盛の中で描かれました。海岸で集めたプラスチックのゴミを燃やした巨大な塊は、広島市出身の殿敷侃(とのしき・ただし)の作品。3歳で被爆し終生、原爆症に苦しみました。核が最大の環境破壊であることを訴えます▼フィリピンの「漁民の日2022」は希望の映像作品です。困窮する漁師たちに作者が呼びかけて始めた水上パレードの様子が静かに流れます。思い思いに飾り付けた小船の数々。この祭りによって漁民は誇りを取り戻し団結を強めたといいます▼芸術は海や大地、空、草木、生きものへの共感の表現でもあります。その想像力を失った時、人間の自然への侵害は始まるのかもしれません。


きょうの潮流 2023年11月24日(金)
 公式の帳簿に記載しない、自由に使えるように不正に蓄えた金銭。正式の金額とは別に陰で相手につかませる金銭。広辞苑で「裏金」を引くと、こんな説明が記されています▼ほかの辞書にも、取引の裏で内密にやりとりする金銭、相手にこっそりわたすお金などとあります。表には出したくない、やましい金。そこに新たな説明が加わるかもしれません。「自民党の代名詞」と▼首相が会長の岸田派をはじめ自民党の主要5派閥が政治資金パーティーの収入を収支報告書に記載していなかったことについて、裏金づくりではないかとの指摘が相次いでいます。この問題を東京地検に告発していた神戸学院大の上脇博之教授も「毎年同じようなことがくり返され、裏金疑惑もある」といいます▼自民党の金集めの慣習となってきたパー券。政治資金規正法には抜け道も多く、党全体の金の出し入れのずさんさ、罪の意識も希薄になっていたのではないか▼捜査の手が伸び国会でも追及され、政権をゆるがす問題に。そのきっかけは「しんぶん赤旗」日曜版のスクープです。パー券の大口購入者の名前を自民党の派閥が脱法的な手法で収支報告書に記載せず隠していたことを調べあげ、1年前に報じていました▼パー券をふくむ政治と金の問題は、本紙とともに共産党が徹底してとりあげてきました。それは闇でうごめく金が癒着の温床となり、政治がゆがめられるから。裏金によって機能するような党に、まっとうなくらしがみえるはずがありません。


きょうの潮流 2023年11月23日(木)
 18世紀の英経済学者アダム・スミスは、のちの経済学を決定づける一文を書きました。「我々が食事を手に入れられるのは、肉屋や酒屋やパン屋の善意のおかげではなく、彼らが自分の利益を考えるからである」▼では、そのステーキを誰が焼いたのか。『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』は、そんな問いかけから始まります。生涯独身だったアダム・スミスの世話をしたのは母親でしたが、それが語られることはありませんでした▼これまで主に女性によって担われてきた家事や育児、介護などのケア労働。しかしそれは経済活動とみなされず、GDPにも計算されず、経済学からは価値のないものとして切り捨てられてきました▼アダム・スミスに始まる、利己的で合理的で女性の無償労働に依存してきた「経済人(ホモ・エコノミクス)」を前提とする経済モデルには限界があるのではないか。英国在住のジャーナリストで著者のカトリーン・マルサルさんはそう指摘します▼男性中心の「経済人」の中で光が当てられてこなかったもう一つの経済。それは市場万能や弱肉強食ではなく、公正や平等、ケアや環境、信頼や心身の健康といった価値に重きをおくものだと▼今年のノーベル経済学賞を贈られた米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授も女性就労の研究を続け、男女の格差是正の必要性を訴えてきました。伝統や歴史を覆し、新たな社会をめざす探究は、人間が働くことの意義も指し示します。勤労感謝の日に。


きょうの潮流 2023年11月22日(水)
 定められた共通のルールのもとで全力を尽くし、競い合い、その結果を受け入れることによって相互理解を深め、認め合うという言動が求められる。スポーツにフェアプレー精神を取り戻さなければならない▼まっとうなことを著書に記していました。著者は現石川県知事の馳浩氏、本の名は『ほんとにもうひとこと多いこの男』。5年前に刊行され、宣伝文句には「言わずにおれない男が、永田町から“本音の叫び”をお届けする」と▼レスリングの五輪代表、プロレスラーの肩書をもつ馳氏。自民党の国会議員から現在に至りますが、「言わずにおれない」は健在か。自身が党の推進本部長を務めていた東京五輪・パラリンピックの招致をめぐる闇の動きを公言しました▼内閣官房機密費を使って高額のアルバムを全員分つくり、投票権をもつ国際オリンピック委員会の委員に渡していた―。招致活動で厳しく禁じられていた賄賂。ルールやフェアプレーなど歯牙にもかけない行為を平然と▼当時の安倍首相からも「必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す」といわれたことを証言。使い道を問われず、年間十数億円にも及ぶ官房機密費は内閣の闇ガネと呼ばれます。選挙資金やマスコミ対策に流れてきたと指摘され、毎年ほとんど使い切っています▼発言撤回で済む話ではないでしょう。東京招致では買収疑惑も浮上。不正にまみれた五輪招致、使い放題の公金の私物化。“本音の叫び”が明らかにした闇を、うやむやにするわけにはいきません。


きょうの潮流 2023年11月21日(火)
 戦争中、ラジオでウソの戦況を垂れ流し、国民を戦争に駆り立てた大本営発表。ところが、NHKはいまだに戦争責任を検証し明らかにしていません▼「いつからラジオは時の権力の『御用機関』になってしまったのだろうか」「自分の足元はどうなんだ」。『ラジオと戦争』の著者・大森淳郎さんの問題意識です。30年余ディレクターを務めた後、NHK放送文化研究所でこのテーマと向き合いました。資料と格闘し、当時の職員たちの証言を聞き取ります▼同盟通信の配信記事を削除、加筆し「戦果」を伝える。アナウンサーは「雄叫(おたけ)び調」へと変化。戦争協力は「仕方なかった」ではなく、職員らが「全身全霊」をかけていたことが浮かび上がってきました▼大森さんには、もう一つ執筆の動機があります。日本軍「慰安婦」を取り上げた「ETV2001」が2001年、安倍晋三氏の圧力によって改変された事件です。大森さんは、検証番組の放送を求める職員有志に加わり話し合いを続けましたが、実現に至りませんでした▼「身を挺(てい)してでも真相究明のために闘うことはできなかったのか」。自問自答し、戦時ラジオ放送のことは人ごとではない、放送の公共性とは何かを追究したいと思うようになりました▼ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのガザへの攻撃。国内では軍事費の増額、敵基地攻撃能力の保有と岸田政権の下で進む戦争国家づくり。「新しい戦前」ともいえる現在、メディアはもちろん、市民一人ひとりに問いかけています。


きょうの潮流 2023年11月20日(月)
 いのちの尊さを問いかける作品。新しい発想や表現の方法に挑戦するつくり手。いま東京・練馬区の「ちひろ美術館」で、2010年から21年までに出版された絵本が展示されています▼10年ごとに時代を代表する絵本を紹介してきた展覧会。4回目となる今回は、東日本大震災から始まり戦前回帰やコロナ禍と厳しい社会状況が続いた年代です。作家たちは子どもをはじめ人びとの心に寄り添い、多様で豊かな絵本を届けてきました▼時代や世界の流れを敏感に映しとる絵本の世界。時や世代をこえて読み継がれる作品もあります。いわさきちひろの「戦火のなかの子どもたち」もその一つ。ベトナム戦争で米軍の激しい爆撃が行われていた頃に描き始めました▼自身の戦争体験をふまえながら、子どもたちの幸せと平和を願い最後に完成させた絵本。「戦場にいかなくても戦火のなかでこどもたちがどうしているのか、どうなってしまうのかよくわかるのです。こどもは、そのあどけない瞳やくちびるやその心までが、世界じゅうみんなおんなじだから」と▼館長の黒柳徹子さんも「あのなかに全部自分の気持ちも含まれていたんだろうなって」。42年ぶりに続編が刊行された『窓ぎわのトットちゃん』も、ちひろの絵があったからこれだけ多くの人に愛されたと語っています▼美術館でも「戦火のなかの子どもたち」をじっと見つめる姿がありました。ガザでウクライナで、いまも傷つき泣き叫ぶ小さきものを救いたい―その思いを重ねながら。


きょうの潮流 2023年11月19日(日)
 原爆より民族差別の方が恐ろしかった。長崎在住の作家・大浦ふみ子さん(82)の短編『かたりべ』(光陽出版社)の中で、在日韓国人被爆者の老人がそう語ります。本作の韓国語訳が先月ソウルで出版されました▼「小さな作品なのに、思いもしない大きな反響に戸惑っています」と大浦さん。訳者のチョン・ウノクさんは冒頭のセリフを「日帝植民地支配と祖国の分断、朝鮮戦争によって日本に残らざるを得なかった、在日の苦難に満ちた人生を象徴するもの」と▼小説のモデルとなった徐正雨(ソ・ジョンウ)さんは、14歳で強制連行されて端島(はしま)炭鉱(軍艦島)で働かされ、異動先の三菱長崎造船所で被爆しました。晩年は自身の過酷な体験を証言し続け、2001年に亡くなりました▼小説では高校教師と生徒が、証言で知った強制労働と被爆の体験を、演劇にして公演しようと努力しますが…。韓国語版の解説でキム・ジョンスさん(記憶と平和のための1923年歴史館長)が次のように書いています▼「公演するために苦労する描写からは、日本帝国主義の犯罪を告発する日本の市民たちの姿が思い浮かぶ。それが実現しなかったことは日本政府が過去の歴史を否定している現実の反映だと思われた」▼大浦さんが所属する日本民主主義文学会は、戦争の被害だけでなく植民地支配と加害を描くことに努めてきました。「1万人の朝鮮人が長崎で爆死したこと、日本人がひどい差別をしたことは忘れてはいけない歴史です」。大浦さんが込めた思いです。


きょうの潮流 2023年11月18日(土)
 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の福島に関する大学生の知識は時間の経過とともに薄れてきている―。福島大学などの研究者が授業の出席者を対象に「原発事故と避難」などの知識を調査した結果です▼同じ全20問について計3年間の正答率が年々下がっているというのです。たとえば、原発事故後、風向きの影響で多くの放射性物質が降り注いだのは主に原発からどちらの方向かという設問。北、西、北西、南西などの5択から選ぶというものです▼正解は「北西」ですが、2019年度の正答率は53・9%で、22年度は39・4%に低下。ほかに、当時の官房長官の言葉などの正答率が低下し、研究者は風化が確実に進行していると▼辞書で、出来事の強い印象や記憶が薄れていくことなどを風化と呼んでいます。ただ第1原発事故は一過性のものでなく、12年以上たってなお現在進行形です▼溶け落ちた核燃料の取り出しの見通しは立っておらず、漁民の反対の声を無視し代替案をまともに検討せず海洋放出を強行し、故郷を追われ帰ることができない人々の苦難は今も…。関礼子・立教大学教授が近編著で指摘します。「福島原発事故を忘れることは、被害を放置したまま問題を風化させることにつながるだろう」(『福島原発事故は人びとに何をもたらしたのか』)▼風化させない取り組みもさまざまありますが、事故を風化させたい一番は、老朽原発の酷使や新増設の推進、原子力産業救済の原発回帰へ舵(かじ)を切った政府自身ではないか。


きょうの潮流 2023年11月17日(金)
 わずか3時間ほどの睡眠、朝から深夜に及んだ長時間労働。宝塚歌劇団の女性が死亡した問題は、上級生からのパワハラとともに、異常な働かせ方があったと指摘されています▼外部弁護士による調査報告書もパワハラの事実は認めなかったものの、過労死ラインをこえる時間外労働があったとしています。女性に強い心理的負荷がかかっていた可能性を否定できないとも▼苛烈なスケジュールが追い詰めたことは劇団の理事長も認めています。つらい日々に笑顔は消え、25歳の若さで閉ざされた人生。遺族は「娘の疲れ果てた姿が脳裏から離れません」と、後悔にさいなまれています▼10年前に過労死したNHKの佐戸未和記者の両親も、やりきれなさを抱え続けてきました。わが子を救えなかった無念。その思いを胸に「過労死ゼロ」の社会にむけて足を踏み出しています▼過労死防止法の成立からまもなく10年。この間、働き方改革を求める声によって時間外労働の上限規制などが設けられてきましたが、いまだに悲劇は後を絶ちません。過重労働による精神障害の労災認定も増加し、先日もコロナ拡大で業務が増大した消毒会社社員の死亡が過労死と認定されました▼「しごとより、いのち」。厚労省は11月を過労死防止の啓発月間に定めていますが、ポスターに掲げた「すべての人が健康で、毎日イキイキと働き続けられる社会」をつくることこそ国の役割ではないか。それは遺族をはじめ、苦悩を抱えながら働く人びとの切なる願いでも。


きょうの潮流 2023年11月16日(木)
 あってはならない悲劇が起きました。10月13日未明、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーが、自ら命を絶っていたことがわかりました。故ジャニー喜多川氏からの性加害を告発後、“売名行為”“金目当て”などの誹謗(ひぼう)中傷に悩まされていたといいます▼性被害のトラウマに苦しんだあげく、よりよい社会を願って告発したら、正体不明の人たちから心ない言葉を投げつけられる。「魂の殺人」といわれる性暴力。彼は誹謗中傷で2度殺された、といっても過言ではありません▼脳裏をよぎったのは10月9日に旧ジャニーズ事務所が出した声明です。そこには「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数ある…」と▼この声明が“犬笛”となって誹謗中傷を扇動したといえないか。その一つひとつが、声をあげた被害者たちをいかに傷つけたか▼遺族が代理人弁護士を通じて発表したコメントには、5月に事務所に電話で性被害を訴えたが5カ月以上連絡はなく、9月に再度告発しても放置された、とあります。中傷についても事務所に対策を求めたが、具体的な措置は講じられなかった、と▼14日、宝塚歌劇団が団員の急死を受けて記者会見を行いました。華麗な世界の深い闇が次々と暴かれています。日本共産党国会議員団も、芸能人の被害を救済し、人権保障を進めるために政府に提言しました。なぜ放置されてきたのか。政治も社会も日本全体が問われる問題です。


きょうの潮流 2023年11月15日(水)
 ばったり顔を合わせたのは、長崎にあった臨時の魚雷艇訓練所でした。ふたりはそろって写真をとり、実家に送りました。迫りくる死を前にした「遺影」として▼80年前の「学徒出陣」で海軍に入隊した兄と弟。やむなく特攻隊に志願し、兄は「回天」と「伏龍」、弟は「震洋」の隊員になります。回天は人間魚雷、伏龍は人間機雷、ベニヤ板の小艇に爆弾をつけて敵艦に突っ込む震洋は「自殺ボート」と呼ばれました▼兄の名は岩井忠正さん、弟は岩井忠熊さんです。ふたりは戦時中から日本の戦争目的や天皇制について疑問をもち話しあってきたといいます。それでも大勢に従い、沈黙を通し続けてしまった。それが自分たちにとっての戦争責任だと▼特攻という稀有(けう)な体験を生き延びた両者には戦後、強烈な一致点が生まれます。戦争拒否への信念です。兄は商社員を経て語学を生かし翻訳業へ。弟は「戦争の真実を突きとめる」ために近代史の研究に打ち込みました▼道は違えど、ともに平和運動に尽くし、その一翼を担ってきました。今月、忠熊さんの訃報が伝わりました。101歳。1年前に亡くなった忠正さんは102歳でした▼時の権力にあらがわず、口をつぐんでしまった自責の念は生涯消えませんでした。だからこそ「たとえ、どんな時代であろうとも、どんな環境であろうとも、言うべきことは、はっきり言える人間になってほしい」(『特攻 最後の証言』)。一度は死を覚悟した兄と弟が、若い人たちに訴え続けた思いです。


きょうの潮流 2023年11月14日(火)
 「だれにでもできる国際協力」には三つのステップがあるといいます。まずは、相手の心を感じること。次は相手の状況を知って、それについて考えること。そして、その道をひろげること▼国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田(せいた)明宏・保健局長が著書『天井のない監獄 ガザの声を聴け!』で強調しています。国際協力の世界には問題が山積し、いつも答えがあるわけではない。しかしすべては他国の人々への共感から始まると▼イスラエル建国の翌年に国連総会で決まったUNRWAの創設。当初の活動期間は3年とされましたが、延長に次ぐ延長。いまや支援は4世代にもわたります。医療や保健、教育や福祉と生活全般に及ぶ援助はパレスチナの人たちの命綱に▼いまガザでは100人をこえる国連職員が命を落としています。UNRWAは「亡くなった同僚は教師や医療関係者、技術者などであり、母や父、息子や娘、夫や妻でもあった」。13日には各地の国連職員が黙とう、半旗を掲げました▼病院や学校、難民キャンプと国際法上も許されないイスラエルの攻撃。その現実のなかで、支援を続け、彼らのそばに立っていくことが、いま一番大事だと清田さんはいいます▼戦争はなくならないと悲観する向きもある一方で何ができるかと自問自答する日々。世界の流れはどこにあるのか、自分の国の政府がこの集団殺害や戦争についてどんな態度をとっているか。そこに目を向けて行動することも私たちの国際協力です。


きょうの潮流 2023年11月12日(日)
 〈秋来(き)ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる〉。三十六歌仙のひとり、藤原敏行の一首です。まだ暑い盛りの立秋のころ、風音のかすかな変化に秋の兆しを見つけた喜びを歌っています▼いまNHKEテレの「100分de名著」で『古今和歌集』がとりあげられています。平安時代、今から千百年以上も前に編まれた最初の勅撰(ちょくせん)和歌集。収められた千をこえる和歌の、じつに3分の1が四季折々の歌だといいます▼めぐる季節の微妙な移ろいを敏感にとらえ、あるいは予感してきた歌人たち。なかでも秋を詠んだ作品が最も多く、それだけ心動かす風物が豊かなのかもしれません。和歌によって育まれ、共有された季節感は私たちのくらしの中にも生きています▼今年は霜月に入っても暑い日が続き、27・5度を記録した東京都心では100年ぶりに11月の最高気温を更新。年間の夏日も最多となり、1年の4割を夏が占めることに▼これから一気に寒くなり、近年は春と秋が短くなったとの気象予報士の指摘もあります。そこはかとない四季の変化も失われていくのか。もっとも異常な高温は世界でも。観測史上最も暑い年になると▼「和歌とは、人の心を種として、それがさまざまな言(こと)の葉となったもの」。古今集の序文「仮名序」につづられています。生きる中で見聞きし、経験したことからわきあがってくる思いを、三十一(みそひと)文字に込めてきた先人たち。こんな世でありたいという人びとの願いや希望は、今に続いています。


きょうの潮流 2023年11月11日(土)
 「ハリー・ポッターが書いたウサギの本ありますか?」―図書館のカウンターにこんな問い合わせが。司書はビアトリクス・ポター作『ピーターラビットのおはなし』のことだと気づきます▼福井県立図書館編著『100万回死んだねこ―覚え違いタイトル集』に掲載されている話です。図書館の司書は利用者のうろ覚えの情報などから、知識と経験を駆使してお目当ての本を探り出します。ちなみに「100万回死んだねこ」も正しくは佐野洋子作の絵本『100万回生きたねこ』です▼本探しだけでなく、さまざまな調べものや子どもの自由研究の相談にものってくれる図書館司書。国家資格を持つ専門職です。しかし、図書館職員の4分の3が非正規雇用になっています。仕事にやりがいを感じていても、時給は最低賃金ぎりぎり。生活は苦しく、常に雇い止めの不安を抱えています▼司書だけではありません。保育士、看護師、消費生活相談員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど専門性を要求される地方公務員の多くで会計年度任用職員という名の非正規化が進んでいます▼注視したいのはこうした仕事の担い手は女性が多いということです。図書館で働く非正規職員の9割は女性だといいます。男性が生計を担うもの、女性の仕事は補助的なものという古い発想に基づいた差別的な構造の表れです▼専門性を培ってきた人が男女を問わず存分に力を発揮できる職場にしてほしい。それは住民の利益にもなることです。


きょうの潮流 2023年11月10日(金)
 これでも岸田首相は「適材適所」と言い続けるのか―。買春疑惑の文科政務官、法を破る法務副大臣、そして滞納をくり返していた財務副大臣。まさに不適切な人事のオンパレードです▼自身が代表取締役となっている会社が保有する土地と建物が、固定資産税の滞納によって過去に4度も差し押さえを受けていた。そう週刊誌に報じられた自民党衆院議員の神田憲次・財務副大臣が、国会で深く反省すると認めました▼謝罪はしたものの、副大臣の辞職については否定。「引き続き職務の遂行に全力を傾注する」と。何か問題を起こした時にみずからそれを免罪するかのように使われる言い訳。責任逃れの典型です▼内閣改造後の新体制からわずか2カ月。相次ぐ政務三役の不祥事に、首相の任命責任はあまりにも重い。しかし本人はどこ吹く風で、事実を調べて国民に明らかにするそぶりさえ見せません。「適材適所」も忘れたように▼軒並み最低に落ち込む支持率。内政外交ともに打つ手がことごとく反発を買う失政。そのうえ、物価高に賃上げが追いつかないなかで、自身や閣僚らの「給与アップ法案」が審議入り。世間の怒りや批判はさらに広がっています▼年内の衆院解散を見送る意向を固めたという首相。追い込まれながら、保身のために解散権を利用する。ガザへの虐殺をやめよといわず、あらゆるものの値上がりで生活が苦しくなるなか、力を尽くすのは権力を維持することだけ。その姿に、多くが同じ思いを。「そうはさせるか」


きょうの潮流 2023年11月9日(木)
 どんな思いで、あの会見を聞いただろうか。洗脳された親から強いられた信仰。多額の献金による困窮や家族の崩壊、そして抱え続ける生きづらさ。子どもの頃から自由を奪われ生き方を選べなかった信者二世たちは▼世界中の財を、サタンのもとから神のもとに戻す「万物復帰」。統一協会への献金はそう教えられ、信者は「善行」と信じ込む。近年は先祖のうらみを解く「先祖解怨(かいおん)」という献金の手法もあります(本紙社会部取材班『信者二世たちの叫び』)▼文科省の解散命令請求を受けて記者会見した統一協会。献金問題について、田中富広会長は元信者や二世らに「心からおわびする」と。しかしそれは謝罪ではないとして、協会の責任を認めず、請求についても「到底受け入れることはできない」と居直りました▼謝罪ではないおわびがあるのか。「指導が行き渡っていなかった」と信者に責任をなすりつけるのか。被害者と向き合わず国にお金を預けてなんとかしてくれというのか―▼不信や怒りは増すばかり。しかも最大100億円の供託金といいますが、被害対策弁護団によれば被害額は推計で1200億円にも。莫大(ばくだい)な財産を隠す恐れも指摘されるなか、財産保全が急がれます▼「統一協会の被害は金銭だけでなく、人格や人生そのものに及びます」。脱会者で信者二世を支援する牧師が本紙で語っていました。世間の目をごまかすためのパフォーマンス―被害者の苦しみに背を向けるカルト集団に注がれる目はいっそう厳しい。


きょうの潮流 2023年11月8日(水)
 この1カ月、パレスチナ自治区ガザから届くニュースに心を痛めない日はありません。イスラエルによる報復攻撃によって4000人を超える子どもが犠牲となり、パレスチナ側の死者は1万人に▼ガザの状況を世界に発信するジャーナリストたちにも、空爆が容赦なく襲い掛かります。米国に本部を置く「ジャーナリスト保護委員会」は、パレスチナ人ジャーナリスト・報道労働者の犠牲はすでに32人にのぼると報告しています。民間人と同じく保護対象のジャーナリスト。国際人道法も顧みないイスラエルの姿勢が際立ちます▼パレスチナ地元テレビの記者モハメド・ハタブ氏は2日、病院からテレビ中継を終えて帰宅した直後、家族10人と共にミサイル攻撃を受けて犠牲になりました。同氏の死を現地から伝えた同僚記者は、「報道」と書いたジャケットとヘルメットを脱ぎ捨て抗議しました▼中東カタールの衛星テレビ・アルジャジーラのガザ支局長ワエル・アルダハドゥー氏は、空爆で家族を失った直後に本紙カイロ特派員の取材に応じました(3日付既報)▼アルダハドゥー氏は、家族の葬儀の翌日には現場に戻っていました。「何が起ころうと仕事に戻ることが私の責務だ」。カメラの前でこう語った同氏の背景に、空爆により黒煙が上がり、サイレンの鳴り響くガザ市が映っていました▼夜通しの爆撃など激しくなるばかりの報復に、世界各地で市民が「今すぐ停戦を」の声を日々強めています。世界の声にイスラエルは耳を傾けよ。


きょうの潮流 2023年11月7日(火)
 プロになりたてのころ、エラーばかりしていた選手がいました。監督は起用し続け、のちに牛若丸と呼ばれるほど華麗な守備の名手に成長しました▼プロ野球の阪神タイガースを球団初の日本一に導いた吉田義男さんです。監督退任後に市田忠義さん(当時党書記局長)との対談でこんなことを話していました。「長所をいかに伸ばすか。選手は失敗して覚えることもあります」▼その吉田監督のもと猛虎打線の一角として大活躍したのが、いまの岡田彰布監督です。ことし38年ぶりの日本一を成就した岡田監督のことを、吉田さんは「じわじわと個性を伸ばしていくタイプ」と評していました。経験を積んで度量も大きくなったと▼今季の阪神は若手をはじめ、個々の選手がのびのびと力を発揮。リーグ3連覇を果たしたオリックスとの日本シリーズでも臆することなくプレーしていました▼チームのスローガンは流行語にもなった「アレ」。選手が優勝を意識しないようにという配慮から岡田監督が表現しました。気づかいの人といわれるゆえんでしょう。日本一になった際も「アレのアレ」を達成できたと口にし、ファンを喜ばせました▼戦前、大阪タイガースとして巨人に次いで2番目に結成された球団。勝てないときも熱心に応援してきたファンの中には、強者に立ち向かう庶民の味方といった目でみる向きも。大阪はいま、万博やカジノによって人情のまちが脅かされようとしていますが、そのうち「アレ」が待っているかもしれません。


きょうの潮流 2023年11月6日(月)
 「やむをえない」。なんともあっけない受け入れ表明に拍子抜けしました。大阪・関西万博の会場建設費増額をめぐる吉村洋文大阪府知事と横山英幸大阪市長の態度です▼日本博覧会協会が提示したのは500億円の増額。当初の1250億円から2350億円へと1・9倍も膨れ上がりました。資材や人件費の高騰が理由。「想定を超える物価上昇」だからというのですが、見通しの甘さはいなめません▼大阪の維新府市政がカジノと一体で推進し自公政権が後押しした万博。吉村知事も横山市長も博覧会協会の副会長。「2度目の増額。おわびする」という言葉も軽く聞こえます。世論調査では増額に「納得できない」が7割を超えます▼建設費は国、府市、経済界が3分の1ずつ約783億円を負担します。府市は折半で約392億円。1人当たりに換算すると国民1億2434万人は630円。大阪府民877万人は4470円で大阪市民277万人は1万4152円。大阪市民は国民、府民でもあるので計1万9252円。4人家族では7万7千円。当初見込みから2倍近い負担です▼わずか半年の万博。「やむをえない」ですむ負担なのか。交通などインフラ整備費は7500億円に膨張。すべては「半永続的」なカジノ誘致のため。税金投入に万博が利用されているとしたらだれが納得するでしょうか▼吉村氏は「未来のための投資」といいます。人の不幸のうえに成り立つカジノに「いのち輝く未来」(万博テーマ)などありません。


きょうの潮流 2023年11月5日(日)
 この期に及んでも米国への配慮優先なのか。イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への容赦ない攻撃は、逃げ場のない人々が身を寄せる難民キャンプへの空爆など無差別の殺戮(さつりく)と化しています。誰が見ても明白な国際人道法違反であり、戦争犯罪そのものです▼ところが日本政府はイスラエルの行為を「国際法違反」だと断定せず、停戦どころか、国連総会で世界121カ国が賛成した「人道的休戦」を求める決議にも棄権。上川陽子外相が3日、イスラエルを訪問して「人道的休止」を求めたものの説得力に欠けます▼日本政府のこうした姿勢は、当初からイスラエルを支持し、「自衛権」の名で虐殺を容認している米国の顔色をうかがうものであることは明白です▼世界を「民主」と「専制」に色分けし、どちらの陣営につくかを迫る米国に対して、真っ先に追随を選択した日本。米国が起こした戦争だけでなく、米国が支持する戦争までノーといえなくなっているのです▼日本政府はこれまで、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」を支持し、パレスチナへの人道援助を含め、独自の中東外交を展開してきました。こうした姿勢は中東の人々に支持され、また、欧米とは違って中東の植民地支配に加担してこなかったことから、今なお「親日」色は強い▼日本が唯一の戦争被爆国であることも知られており、だからこそ、戦禍の苦しみを理解してくれるという期待も大きい。憲法の平和主義が、今ほど試されている時はありません。


きょうの潮流 2023年11月4日(土)
 ことしの流行語大賞の候補に「新しい戦前」が入りました。昨年末の「徹子の部屋」で、来年はどんな年にと聞かれたタレントのタモリが「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えて広まりました▼いまではさらに真実味が増し、危機感とともに、それにあらがう人たちの間でよく語られています。大軍拡にひた走る政権に対し、そうはさせまいと▼岸田首相が経済対策を示しました。目玉とする「減税」をふくめ、どれも場当たり的。くらしが上向きになるようなものは見当たりません。しかも1回きりの所得減税をやった後には軍拡のための増税が待ち受けています▼首相が減税にこだわったのは増税先行のイメージを気にして人気取りに走ったからだろう、というメディアの指摘も。会見では、やるべきだと信じることをやっていくと強調していましたが、信じる道の先に国民の生活は見えているのだろうか▼国会前に集った3日の憲法大行動ではガザの惨状がとりあげられ、日本国憲法の前文が引かれました。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」。今こそ出番のはずなのに―▼戦争やめよの声がわきあがるなか休戦を求める国連総会の決議を棄権し、イスラエルの蛮行も批判できない政府。軍事に前のめりの首相。集会で憲法学者が話しました。憲法を考えることは、どんな社会にしていきたいのかにつながる。国のかたちを変えてしまった「戦前」に戻らないためにも。


きょうの潮流 2023年11月3日(金)
 初めは「姪の結婚」という題名でした。しかし、資料として使うはずだった病床日記がすでに処分されていたことがわかり、構想を大幅に変更することになったといいます▼井伏鱒二の「黒い雨」です。この小説は、原爆の実相を描くことに重点をおき、被爆者の重松静馬、被爆軍医の岩竹博の手記をもとに多くを取材。本人も「あれはルポルタージュ。あんな前例のないことは空想では書けないもの」と語っていました▼いま神奈川近代文学館で開かれている、没後30年の井伏鱒二展に最初の原稿が展示されています。何度も題名が書き直され、作者の思い入れが伝わってきます。連載開始時がベトナム戦争と重なったことから「戦争反対の気持ちも含めて書いた」▼井伏は1941年に43歳で徴用され、陸軍の報道班員としてシンガポールに滞在。退役して帰国後、疎開先の甲府で空襲にあっています▼井伏作品の特徴は市井の人びとの哀歓に寄り添う庶民性にあるといわれます。「山椒魚」に代表されるような生き物たちへの愛着も。「黒い雨」も日常の営みや人間性のうちに原爆の雨を降らせ、その非理を訴えました。被爆という世紀の体験のなかで、生やくらしが奪われてゆく民の悲しみを▼今も世界では市民の慟哭(どうこく)が続いています。日々の生活は破壊され命さえも。「黒い雨」の作中、次々と死体を運ぶ兵士がつぶやく場面があります。「わしらは、国家のない国に生まれたかつたのう」と。きょうは、自由と平和を愛する「文化の日」。


きょうの潮流 2023年11月2日(木)
 「真ん中世代」という言葉をよく見聞きするようになりました。「まんなか」「まん中」など表記はさまざま。青年でもなく、高齢者でもない、人生のちょうど真ん中あたりの世代を指します▼2011年に東京・練馬区で「まんなか世代後援会」が生まれました。以来、いろいろな組織や集まりなどでこの呼称が使われ、党内でもすっかり定着した感があります▼「しんぶん赤旗」では08年から、くらし家庭欄で「まんなかねっと」の特集や交流コーナーを開始。仕事や子育て、家庭や将来など世代特有の思いや悩みに光を当てました▼バブル崩壊後の長期不況のもとで生まれ育ち、いまなお先行きの見えないくらしを余儀なくされている世代。実質賃金が減らされ、社会保障や年金も心もとない。経済が停滞と衰退に陥った「失われた30年」の痛みに直撃され、分断されてきました▼同時に「路上民主主義」のうねりをつくり出してきた世代とも重なります。脱原発や安保法制反対運動の一翼を担い、ツイッターデモをはじめとするコロナ禍でのSNSを通じたアクションにも、この年代が多く参加しました。組織の動員ではなく、自覚的で創意的に運動する頼もしさが光ります▼長らく社会の真ん中に据えられず、端っこに追いやられてきた人たち。それでも、この世代が持つエネルギーは、「失われた30年」の歳月を経ても失われていません。世代をこえて手を携え、希望ある社会をつくりたい。「真ん中世代」の力の発揮が求められています。


きょうの潮流 2023年11月1日(水)
 「#給食費無償」を全国へ! 1万7000人の願いが込められた署名が30日、文部科学相あてに届けられました▼呼びかけたのは、教育行政学者の福嶋尚子さんや中学校事務職員の栁澤靖明さんらで構成する「隠れ教育費」研究室です。給食費をはじめ教材費、制服代など保護者の私費負担の実態を発信中。なぜこんなにもお金をかけなければ、子どもが学校に通えないのかと問い続けてきました▼とくに給食費の無償化を訴えるわけは、子どもの成長発達に直結するものであり、自治体や家庭によって食の権利の保障に格差があってはいけないから。無償化は教職員の負担軽減にもつながります。本紙の調査では、小中学校の給食費無償を今年度実施、あるいは実施予定の自治体は493にのぼります▼その周囲には学年限定や第3子以降など、さまざまな形で無償化を進める自治体があります。私立学校も無償という自治体がある一方で、特別支援学校などに通う子どもは対象ではない、という格差が生まれています▼政府による「こども未来戦略方針」でも、無償化の方向に向けてようやく調査に踏みだすことが掲げられています。保護者らの切実な願いに背を向け、調査を先延ばししてきた国の責任は大きい。無償化の広がりから目をそらしたかったのではとの思いもよぎりますが、たゆみない運動でここまでたどり着きました▼どこに住んでいても安心・安全でおいしい給食を、お金の心配なく食べられる環境を。もうひとふんばりです。


きょうの潮流 2023年10月31日(火)
 「私は勇気と誇りをもって日本共産党の戦列に加わります」「青年のような新鮮な感動と喜びを味わいつつ、入党申込書に一句ずつ書き込んでいます」▼50年前のきょう、日本共産党への合流を決めた沖縄人民党。当時の心境を機関紙「人民」につづっていました。決議した大会では採決の呼びかけが終わらないうちに全員が挙手し、大きな拍手と感動に包まれたといいます▼敗戦直後の創立以来、人民党は廃虚から立ち上がった県民とともに、米占領下で生活と人権、自治を守る先頭に立ってきた。米軍からは過酷な弾圧を受け嫌われてきたが、県民から後ろ指をさされることはなかった―。初代の共産党沖縄県委員長に選ばれた瀬長亀次郎さんはそう振り返りました▼各界からも歓迎の声が寄せられ、「合流は民衆の喜び」と評した琉球大の教授も。直後の糸満市議選で“初陣”の共産党が全員当選で議席を倍加したことも期待の広がりを示しました▼発刊から「人民」を配ってきた玉城正治さんは「赤旗」の配達へ。「ずっとやってこれたのは、みんなでたたかうから」と。この地で運動を励ます機関紙をつむいできた人びとの思いは節目の今年発行された『赤旗を支える人びと』に記録されています▼日米の国家権力とのたたかいが続く沖縄の現実。「戦争と貧富の差のない社会、子どもたちが希望のもてる社会を創造するために日本共産党の隊列への参加を私は決意した」。新たな出発に込めた女性の願いは今も脈々と受け継がれています。


きょうの潮流 2023年10月30日(月)
 明らかにトーンダウンというか、会社の姿勢が変わってきている―。団体交渉で実感した、たたかいの成果。労働組合の結成と、それを支える人びとが事態を動かしています▼配達を担う個人事業主と仕分けをするパート社員にたいし、ヤマト運輸が一斉に通告していた雇用の終了。集荷以外の業務を日本郵便に移管するためだとして、来年1月末までに打ち切ろうとしていました。対象者は3万数千人にのぼり、なかには高齢者や障害者、シングルマザーも▼「使い捨てにするのか」「人間をなんだと思っているのか」。一方的な契約解除や解雇は許さないと、パート社員が立ち上がり労組を結成。支援を呼びかけたネット署名には6万人をこえる賛同が集まっています▼今月16日には本社との団交が実現。会社側は「整理解雇ではない。お願いベース」だとして、再配置を精査していると回答しました。実際、各地の事業所では契約終了の通知が撤回されているそうです▼雇用を守るための交渉はこれからも続きますが、働くものが声を上げ、力をあわせることの大事さを改めて示しました。そごう・西武の米投資ファンドへの売却でも労組のストライキが注目されました。労働者の雇用や権利を守るたたかいは職場を変え、社会を変えていく力を持っています▼ヤマトの当事者が入る「建交労軽貨物ユニオン」は不安を抱えながら働く人たちに組合への加入を呼びかけています。それは、理不尽な働き方に苦しみもがいている多くの労働者にも。


きょうの潮流 2023年10月29日(日)
 先日、久しぶりに地域の新婦人の集まりに参加しました。そこで話題になったのは、女性のひきこもり。「新婦人しんぶん」が以前、特集を組んでいたからです▼お孫さんが筆者の子どもと同じ中学校に通うという70代の方は娘さんが就職氷河期世代だと語ります。娘さんと同世代の知人のなかに、就労でのつまずきが原因で長期間にわたってひきこもり状態になっている人が何人かいるとも▼40~64歳でみると、ひきこもり状態にある人の52・3%が女性(2022年度、内閣府調査)。KHJ全国ひきこもり家族会連合会には、女性からの相談が増加傾向にあるといいます。「伝統的な役割分担の価値観から声を上げられずにいた女性たちの間にも『自分もそうだったんだ』という認識が広がり、SOSを上げ始めた女性たちの姿が顕在化したと言える」▼ひきこもりが社会問題としてとらえられるようになったのは1980年代。当時は不登校の延長にあると考えられていました。日本経済が停滞化するなかで、就職難がすすみ再就職も困難に。ひきこもりの高年齢化、長期化の要因です▼80代の親が50代の子を養っている「8050問題」に重なります。「社会に迷惑をかけてはいけない」との思いが家族に重くのしかかります。背景にあるのは、「自助・共助」と家族どうしの支え合いを押し付けてきた政治です▼「社会のレール」から外れても何度でもチャレンジできる社会に―。「失われた30年」から抜け出す課題と結びついています。


きょうの潮流 2023年10月28日(土)
 星条旗の縞(しま)模様が伸びてアラブの民衆に絡みつく。米国とイスラエルの戦闘機が組み合ったひもから、爆弾が落ちていく―▼パレスチナに生まれ、風刺漫画を描き続けたナージー・アル・アリーの作品です。1987年に暗殺された彼の絵には、後ろ手に立ちつくす少年「ハンダラ」が書き込まれています。故郷を追われ難民となった子どもの視線を通してイスラエル占領下の残酷さ、私腹を肥やす支配層や米国の偽善的なふるまいを映し出しました▼いままた、この地でくり返される虐殺。停戦を求める声が世界で広がるなか、大国の思惑が弊害になっています。とくに米国はイスラエルへの賛意や軍事支援を露骨に示しています▼以前から米国は中東地域を重視してきました。石油や天然ガスの安定供給の確保、敵対勢力による地域支配の阻止、大量破壊兵器の拡散と反テロ攻撃の防止。それらが国益にかなうと▼イスラエルを特別扱いしてきた背景には、米国内で活動する親イスラエル・ロビー団体の存在があると指摘されています。民主、共和の二大政党議員に巨額の資金を融通するなど政界に強い影響を持ち、米政府のイスラエル寄りの姿勢を支えています。日本は双方に関係を築いてきながら、岸田政権は米国に付き従い、イスラエルの非道なガザ攻撃を批判できません▼成長することを許されなかった「ハンダラ」。パレスチナの人びとの存在意義と抵抗の象徴となった後ろ姿はいまも訴え続けています。私たちができることは何かを。


きょうの潮流 2023年10月27日(金)
 最初にぶつかる壁は家庭。誰よりも守ってくれるはずの親が自分を否定する相手となる。周りに理解されない悲しみや苦痛は、学校でも、社会に出てからも続く▼生まれながらにして割り当てられた性別。女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしく生きることを強いる集団。そのなかで自身が認識する性との違いに苦しみ、いじめや差別を受け、さまざまな場で性別を問われなくてはならない人たちがいます▼「意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」。戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする法律の要件について、最高裁判所の大法廷が違憲の決定を出しました▼個人の尊重を定めた憲法13条に反するとして、裁判官全員が一致。この要件が人権侵害にあたるとした国連機関や欧州人権裁判所をはじめ、国際的な流れとも合致しています。他の要件も見直しが急がれます▼自己決定に基づいて性別のあり方を決められ、法的にも認められることは、世界的にも人権の一部として認識されています。逆に、多様な性や少数者の権利をないがしろにしては個人を軽んじる不寛容な社会をつくりだすことにならないか▼今回の決定に「やっと自分をとり戻せる」と喜ぶ当事者も。誰もが自分らしさを手に入れることができる社会をつくりたい。そうした声と運動が、一歩ずつ世界を変え、豊かにしていきます。


きょうの潮流 2023年10月26日(木)
 「世の中に対してテレビが真っ向からものを言う」。先日、亡くなった演出家の鶴橋康夫さんが本紙の取材で語った言葉です▼テレビドラマや後に手がけることになった映画で、その才はいかんなく発揮されました。人間の複雑な内面をきらめくような映像で描き、鋭い目を社会へと向けた数々の作品は忘れがたい▼入社したのは、制作環境が整ったNHKや東京の民放キー局ではなく、大阪の読売テレビでした。浅丘ルリ子と組んだ「かげろうの死」(芸術選奨文部大臣新人賞)、メディアの正体を探る「砦なき者」、政官財の癒着に挑んだ「刑事たちの夏」(ギャラクシー大賞)、警察の暗部や人間の罪を掘り下げた「警官の血」。個性的なドラマが並びます▼“社会の木鐸(ぼくたく)に”の志を掲げて、希望や誇りを仕事に込めました。制作の現場でカメラさんとか照明さんとかと呼んだことはなく、50人ほどのスタッフの名前を「一発で覚えた」といいます。「テレビの仕事は一人ではできない」が信条でした▼2009年から本紙にエッセー「鶴橋康夫のドラマの種」を連載。独特の筆書きの原稿をファクスで届けてくれました。俳優や知人、家族、身辺について、どこまでが事実で、どこからが創作なのか、虚実入り混じった達者な文章が人気でした▼83歳で亡くなるまで、60年近い演出家人生。生涯現役がモットーで、次回作も温めていました。多くの俳優から愛された豪快かつ繊細な人柄。「いつか親父(おやじ)のドラマを作りたい」と願い続けていました。


きょうの潮流 2023年10月25日(水)
 実りの秋。木々は色づき、植物のとりどりの果実が森を彩ります。それは生き物たちの命をつなぎ、森の豊かさを保ちます▼この時期、クマは1年の80%ものカロリーを摂取するそうです。栄養価が高く主要なエサとされるブナの実もその一つですが、東北地方では今年ほとんど実がつかない大凶作。エサを求めて人里に近づき、各地で住民が襲われています▼国が統計をとりはじめて以降、被害は最多に。人の生活圏内に連日出没していることから、国や自治体などが注意喚起と対策を呼びかけています。環境省もクマの実態調査に乗り出しましたが、遅きに失した感があります▼クマの生態をふん(・・)から研究してきた小池伸介さんは「人間との関係で大事なのは、クマを森から出さないこと」だといいます。もっとクマを知り、山林の管理を怠らず、野生動物と人里をしっかり分ける。日々の地道な努力しかないと(『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』)▼国土の3分の2に及ぶ森林大国日本。しかしいま、里山や農村は廃れ、クマと人のくらしの境目はあいまいになり、シカの急増などで森の風景が一変してしまったと小池さん。長年、森の管理・保全を放置してきた国の姿勢が問われます▼植物の種を森のあちこちにまきちらすクマのふんは、豊かな森をつくるうえで欠かせない役割を果たしています。目の前にある危険への対処とともに、多様な生物のゆりかごとなっている森をつないでいく役割が、人間にはあるはずです。


きょうの潮流 2023年10月24日(火)
 めざす社会のキーワードとして注目されています。心身が満たされ、社会とのつながりも良好な状態。それが一時的ではなく持続していること。世界保健機関の憲章にも記されている「ウェルビーイング」です▼広い意味での健康や幸福を意味し、よりよく生きるための指標となっています。国連が毎年発表する世界幸福度ランキングにも反映され、6年連続で1位のフィンランドでは仕事や文化を語るうえで欠かせない考え方だといいます▼幸福度は47位で主要7カ国の中で最下位の日本はどうか。健康寿命は長いものの人生の選択の自由度や寛容さに課題があるとされます。内閣府の生活満足度調査でもミドル層や若年層で低下。賃金は上がらずコロナ禍や物価高でくらしは苦しくなるばかり。ウェルビーイングなど置き去りです▼岸田首相が所信表明でこの言葉を用いました。「持続的な賃上げに加えて人々のやる気、希望、社会の豊かさといったいわゆるウェルビーイングを広げれば日本国民が明日は今日より良くなると信じることができるようになる」▼しかし経済を連呼しながら、長年の停滞を招いてきた政策への反省も打開するための中身もない。どこに希望があるというのか▼岸田政権に対して厳しい審判が下った参院補選では改めて市民と野党の共同が政治を変える力となることを示しました。一人ひとりが幸せな人生を歩める社会を実現するためには政治の転換がなによりも。明日は今日より良くなると心から信じられるように。


きょうの潮流 2023年10月23日(月)
 音楽グループの推し活をしている友人が力説していました。歌や曲、ダンスだけでなく、彼らが発信する中身や活動にも共感している。知れば知るほど推したくなると▼秋晴れのもと、日本共産党推しが集まった「JCPサポーターまつり」。歌って踊って食べて。楽しくにぎやかな雰囲気のなか、共産党のことを知ってもらう多彩な催しが会場いっぱいにひろがりました▼サポーターのみなさんが知恵を出し合い考えた企画。志位委員長らがバーテンダーにふんして声を聞いたり、国会議員や地方議員を中心にジェンダーや子育て、気候の問題を語り合ったり。私はこんなふうに政治や社会を変えたい。一つ一つの思いが集まりつながりました▼きっかけは仕事で悩んでいた時に選挙公報などで政策にふれたこと。東京都内でくらす30代の男性は、人間らしい働き方を掲げ苦境にあえぐ人びとの声を届ける党の訴えが心に響いたといいます▼「初めての人も歓迎してくれて気軽に参加できるのがいい」。国会中継を見て山添拓参院議員のファンになったという「YAMA部」のメンバーは、もっと若者や女性が活躍できる世の中にしたいと話します▼開かれた魅力ある組織に。一人ひとりの発信力を強めて。党への要望もどしどし。メール登録をした若いサポーターはこういう明るさを大事に未来への展望を示してほしいと。共産党への期待とともに、新しい政治をみんなでつくろう。そんな思いが、レインボーフラッグはためく空にあふれました。


きょうの潮流 2023年10月22日(日)
 虫が苦手で嫌いな人は多い。嫌いな虫の筆頭に挙げられるのがおそらくゴキブリかもしれません。嫌われるのは人間の生活空間に入ってくるからでしょうか▼奈良県の纏向(まきむく)遺跡で採取した古墳時代前期の土から、現在もビルなどで見かけるチャバネゴキブリの破片が発見されたと発表がありました。古墳時代前期とは3世紀後半。同種の世界最古の発見例かもしれないそうです▼同種はこれまでアフリカ北東部が原産とされていました。日本では貿易によって江戸時代末期ごろに入ってきたと推定されていました。研究チームは、他の遺跡の研究報告と合わせると、同種が古墳時代からすでに日本列島にいたと考えています▼国内には60種以上のゴキブリがいるとされ、うちビルや家に入る屋内種は10種ほど。今回とは別の屋内種が以前、宮崎県の本野原(もとのばる)遺跡の縄文土器(4300~4000年前)に残された痕跡から発見されています。中国南部が原産で、江戸時代に日本に入ってきたと考えられていたものです▼土器中の虫を研究する専門家は「それ以前から日本列島に存在した在来種であった可能性を示唆するもの」だといいます。4000年前の九州地方と中国南部の考古学的資料に人の往来を示す物的証拠がないからだと(『昆虫考古学』)▼どちらの屋内種も現在は外来種とされています。国内でどのように屋内種になっていったのかは、今後の研究課題です。当時の人々がこの虫とどう付き合っていたのか、とても興味のあるところです。


きょうの潮流 2023年10月21日(土)
 「限界」を知らせるSOSだといわれています。なんらかの要因で学校に行けなくなった子どもたち。つらさと向き合い、助けをもとめてもがく姿は保護者にとっても▼不登校の状態にある小中学生が昨年度およそ29万9千人にのぼり最多となりました。前の年度から5万4千人余り増え、増加は10年連続。10年前と比べ小学生は3・6倍、中学生は2・1倍も増えています▼コロナ禍の影響、いじめや教師との関係、家庭の事情や体の不調など理由は多岐にわたります。競争と管理の教育政策も背景に。いじめも過去最多で、専門家は学校の中だけで問題は解決しない、家庭と学校以外の子どもたちの居場所を増やしていくことが必要だといいます▼「不登校は大半は親の責任」「フリースクールは国家の根幹を崩しかねない」。滋賀県東近江市の小椋正清市長の発言に、保護者や関係者から批判の声があがっています▼フリースクールを運営するNPO法人は「不登校の状態にある子どもたちやその保護者、支援者を深く傷つけるもの」だとしてネット署名を呼びかけました。発言の撤回とともに協議の場を設け、不登校についての理解を深めることを訴えています▼不登校を家庭の責任とし、学校以外の学びの場を認めないのは子どもや親をさらに追い詰めることにならないか。公的な支援が必要なのに自治体の役割を放棄することにも。子育てとかけ離れた自民党埼玉県議団の提案といい、自己責任の押しつけは問題の解決を妨げるだけです。


きょうの潮流 2023年10月20日(金)
 今年日本で公開された映画「コロニアの子供たち」を思い起こしました。芸能界だけでなく、社会を揺るがしているジャニーズ問題を見ながら▼映画はチリやドイツなどの合作で、チリ・ピノチェト軍事政権下で実在したカルト教団「コロニア・ディグニタ」を題材にしたものです。ドイツ人創設者のシェーファーは、ナチスの元党員でヒトラーを崇拝する反共主義者。拷問や暴力も使って絶対的な支配力を行使します▼12歳の少年が教団の聖歌隊に抜てきされるところからはじまり、やがてシェーファーのお気に入りに…。毎晩子どもを呼びつけ、くり返される性虐待。恐怖による支配と少年たちの苦悩が胸に迫ります▼逆らうことは命がけ。おとなたちは性暴力を知りながら何十年も沈黙しつづけます。史実ではピノチェト失脚後に逃亡したシェーファーは2005年に逮捕され、裁かれます▼ジャニーズ事務所もジャニー喜多川氏らの絶対支配の下で口をつぐんできました。なぜ生前に裁けなかったのか。本紙を含め日本のメディアが追及できなかったのか。悔やまれてなりません▼子どもや男性だけでなく、性被害そのものへの認識が甘かったから。メディアの視聴率や販売部数など巨額なもうけが絡んでいたから。私たち日本人のほとんどが人権と科学にもとづいて幅広く学ぶ性教育を受けてこなかったから―。教訓は生かさなければなりません。家父長的な価値観にたった自民党の攻撃によって、性教育そのものが停滞させられたことも。


きょうの潮流 2023年10月19日(木)
 おうし座の一角に輝くプレアデス星団。星々が統(す)べたように集まったものという意味で「すばる」と呼ばれ、昔から親しまれてきました。その漢字は太陽系を表す日と方角を示す卯(う)を組み合わせた昴です▼谷村新司さんが作詞作曲した「昴」は星空に国境がないように多くの国々の人に愛されました。とくに「アリス」として参加した1981年の日中国交正常化10周年の記念コンサートを北京で開いて以来、親交を結んできた中国では今も歌い継がれています▼当時通訳の中国人学生から「なぜ日本人は、中国やアジアに背を向けているのですか」と問われて谷村さんは気づきます。たしかに日本もアジアの一員なのに、上から目線でアジアを見る日本人が目につく。もっとフラットになったほうがいい―本紙日曜版のインタビューで語っていました▼74歳での訃報が伝えられると、その中国からも哀悼や悲しみの声が相次いでいます▼「冬の稲妻」や「チャンピオン」、「いい日旅立ち」や「サライ」。情感あふれる詩と壮大な曲の数々はたくさんの心をつかんできました。懐かしさとともに、自然と口ずさめるような。被災地で支援コンサートを開き、東京大空襲の犠牲者を悼む「蓮花」という歌もつくりました▼70年代から、ありったけの思いを込めて人びとに届けてきた音楽。「美しい言葉には美しい心が宿る」と信じ、人生のつまずく道を照らしつづけた谷村さん。「遠くで汽笛を聞きながら」秋の夜空にしのんで。「我は行く さらば昴よ」


きょうの潮流 2023年10月18日(水)
 日本は衰退途上国。経済学者がテレビで指摘していました。バブル崩壊後、日本企業はコスト削減の方向に舵(かじ)を切った。賃金を上げず人材を育てず、価格競争ばかりに走る。いまや世界から取り残されている▼経済ジャーナリストの荻原博子さんは戦後、懸命に築いてきたものが時計の針を逆回転させるかのように壊れていったのが「平成」の時代だったといいます。年金にしても消費税にしても、庶民が政府にだまされ続けた30年だったと▼日本の国力は劇的に衰えたと指摘するのは思想家の内田樹(たつる)さんです。経済力や学術的な発信力だけでなく、ジェンダー格差や教育への公的支出、報道の自由度など、いくつもの指標が指し示している。安倍政治が残した最大の負の遺産は「国力が衰退している事実が隠蔽(いんぺい)されている」ことだとしています(『街場の成熟論』)▼長きにわたる停滞と衰退。そこから脱却できない理由に、原因をつくった自民党がいまだに日本の政治を牛耳り、あらゆる価値観やシステムの中に深く入り込んでいることをあげる経済ジャーナリストも▼岸田政権の支持率が最低を更新しています。政府が月内にまとめるとした経済対策にも「期待できない」が7割近くを占めました。小手先ではなにも変わらないと見透かされているからでしょう▼日本共産党が打ち出した経済再生プランが共感を呼んでいます。物価高騰の打開策と失われた30年から抜け出すための抜本改革を示す中身に。くらしに希望のみえる提案をひろげたい。


きょうの潮流 2023年10月17日(火)
 およそ165日ある小学生の年間休日。春夏冬の休み、大型連休、祝日に土日。休日をどう過ごすか、学校外でどんな体験をするのか、子どもの発達と深く関わります▼年収300万円未満世帯の小学生3人に1人がこの1年間「学校外の活動なし」。こんな調査結果を、子どもの教育支援に取り組む「チャンス・フォー・チルドレン」(CFC)が発表しました。これは休日の旅行、レジャーにとどまらず、塾やスポーツ、映画・演劇の鑑賞などの体験も「ない」と▼「サッカーをやりたがっていたが、私が経済的にも体力的にも無理」「お金がなくて旅費がかかる事が全くできない」…保護者から悲痛な声が▼調査では、低所得家庭の保護者ほど、小学生の頃の体験が少ないという結果も。CFCは「貧困の世代間連鎖」の解消へ体験機会の提供が重要といいます▼体験格差の解消へ各地で取り組みが。環境にかかわらず、将来に希望を持てる社会をめざす「チョイふる」(東京・足立区)はその一つ。“子育て図書館”で小学生らに遊びや勉強、居場所を提供。保護者から「勉強を教えてもらって、ありがたい」と▼「すべての子どもに演劇教育を」と取り組む日本演劇教育連盟の大垣花子代表理事。子どもが生の舞台に触れる「鑑賞体験」の意義とともに、そこで公教育が果たす役割を強調します。子どもたちに等しくさまざまな体験機会を広げるにはどうするか。「国や地方の行政レベルの力を」(大垣さん)は関係者に共通する思いです。


きょうの潮流 2023年10月16日(月)
 ガザの北部に住んでいたイマンは、当時15歳でした。2014年のイスラエルによる地上侵攻で家は大破し、このままならガザを出たいと語っていました▼地上戦は1カ月半以上にわたって続き、ガザ市民1600人が死亡。そのうちの500人は子どもだったといいます。その時の悲しみや嘆きを、国連パレスチナ難民救済事業機関の清田明宏さんが『ガザ 戦争しか知らないこどもたち』で描いています▼くり返される攻撃と破壊。今また刻一刻と迫る地上侵攻。清田さんは過去の戦闘と比べても最悪の状況だとして、日本政府にも緊急の人道支援と停戦を働きかけるよう訴えています▼日本の種子島ほどの面積に230万人がくらすガザは、人口の半数近くが14歳以下です。現地の医師はすでに負傷者の3割から4割は子どもだといい、泣き叫ぶ映像が連日伝わってきます▼イスラエル軍は陸海空から大規模な軍事作戦にふみきろうとしています。国連の人権理事会は「自衛の名のもと、民族浄化に等しい行為を正当化しようとしている」と警告。世界保健機関も「退避命令は患者や負傷者にとって死の宣告だ」と非難しています▼1948年のイスラエル建国によってパレスチナの地に住んでいたアラブ人が追われ、難民となったナクバ(大災厄)。その再来が懸念されています。ハマスの蛮行が引き金とはいえ、憎しみの連鎖は力では断ち切れないことはこれまでの歴史が物語っています。子どもたちが夢みる平和な生活が訪れないことも。


きょうの潮流 2023年10月15日(日)
 「故ジャニー喜多川による性加害に関する一部報道と弊社からのお願いについて」と題するジャニーズ事務所の声明(9日付)が波紋を呼んでいます。故ジャニー氏の性加害を報じる際、告発内容を十分検証してから報道してほしいとする内容です▼その日、NHKで衝撃的なニュースが流れました。20年ほど前に、「ザ少年倶楽部」(BSプレミアム)への出演を希望してダンスの練習に参加した現在30代の男性が、NHK放送センター内のトイレでジャニー喜多川氏から複数回、性被害に遭った、とする証言です。声明は、被害者へのけん制、メディアへの圧力とも受け取れます▼NHKは「証言を重く受け止めている。看過できない問題」とコメント。英国公共放送BBCの施設内で未成年者への性加害を繰り返していた司会者、ジミー・サビル事件と重なります。BBC同様、独立した委員会による徹底調査が必要です▼一方、事務所は「弊社が認識している限り、そうした事実はございません」と即座に否定しましたが、その根拠は示しません。長く事実を認めてこなかった会社です。ついに地金が出てきたか▼事務所は在籍確認を被害補償の条件にしています。これこそ困難を極めます。契約も締結せず誰がジャニーズJR.なのか事務所が管理しない時代が長く続いたからです▼事務所の顧問弁護士は、先の会見で記者の質問に「立証責任を被害者に転嫁せず、なるべく幅広く補償する」と語りました。その言葉にうそがないか注視したい。


きょうの潮流 2023年10月14日(土)
 訪問活動や謀略ビラをまきちらす。統一協会が「研修施設」をつくろうとしている東京・多摩市では、いまも策動が続いています▼市役所の職員になりすまし、高齢者の見守りと称して家にあがりこんだり、集まりやコンサートに誘ったり。そんな事例が多発しているとして、同市はチラシやホームページで注意喚起を促しています▼長期にわたり継続的に献金の獲得や物販を行った。多くの人に多額の損害と精神的な犠牲を余儀なくさせた。その親族を含め、生活の平穏を害した―。所轄する文科省が統一協会の解散命令を東京地裁に請求しました▼遅きに失したとはいえ、被害者や世論の声、野党の追及が動かした大きな一歩です。これ以上被害を広げないためにも迅速な対応が求められます。多額の被害金をとり戻すために協会の財産を管理・保全する法整備も急がれます▼見過ごせないのは長年の被害を放置したばかりか、協会と深くかかわってきた自民党議員の責任があいまいにされていることです。安倍元首相とともに蜜月関係にあった細田衆院議長もしらばくれるばかり。まともな調査も反省もなく、いまもうごめく反社会的なカルト集団との仲を断ち切れるのか▼妻が信者だという男性は、私にとって統一協会は許されざる詐欺集団だと。元信者の2世は私たちの代で終わりにしなければならないときっぱり。多摩市で統一協会とたたかう共産党の小林憲一市議は「一刻も早く解散に追い込むため、みんなで運動を強めていきたい」。


きょうの潮流 2023年10月13日(金)
 ひとはだれでも得手不得手、好き嫌いがあるもの。しかし、将棋に関して彼は、そのような視点で相手を見ていない。なぜなら、目先の勝利ではなく、ずっと先に続く道が見えているから―▼主なタイトルをすべて手中にした藤井聡太八冠。師匠の杉本昌隆八段が近著でそう分析しています。めざしているゴールとは、後世に語り継がれる棋譜を残したいという思いだけだと(『藤井聡太は、こう考える』)▼81マスの盤面で、動きの異なる8種類の駒を駆使して争う将棋。そこには途方もない数の局面があることから頭脳の格闘技といわれます。藤井八冠はわずか21歳2カ月の若さで、その世界のタイトルを独占する前人未到の快挙をなしとげました▼師匠は、構想力や集中力、それをうみだす平常心と、あくなき探究心を秀でた特徴にあげています。AI(人工知能)の申し子と呼ばれながら、指し手はきわめて人間的。AIをこえた創造力があり、彼の姿からは人間の無限の可能性を感じるとしています▼将棋へのひたむきさや謙虚にむきあう姿勢は、メジャーリーグで異次元の活躍を続けている大谷翔平選手とも共通します。天賦の才をさらにみがく努力も。彼らの存在はライバルや若手だけでなく、全体のレベルを底上げしています▼好きな道を歩み、新たな地平を切り開いていく。その姿に夢や希望をふくらませる子どもたち。性別や分野を問わず、そうした若者が増える環境をつくってこそ、この国の明るい未来が見えてくるはずです。


きょうの潮流 2023年10月12日(木)
 1007件のうちの1005件。県庁に寄せられた意見は、圧倒的に反対だったといいます。県民やPTAが呼びかけた反対署名は短期間で十数万人に達し、街のあちこちで人びとの不安や怒りが渦巻くように▼自民党の埼玉県議団が、みずから提出した県虐待禁止条例の改正案を取り下げました。委員会では公明党も賛成し13日の本会議で採決されようとしましたが、殺到する批判をうけて撤回に追い込まれました▼育児の実態から離れ、家庭に責任を課す感覚は同党県議団58人のうち女性は3人という姿からもうかがえます。いずれにしても、一方的な押しつけに対し急速に広がった世論が追いつめた結果です▼札幌市も多くの市民が反対する2030年の冬季五輪・パラリンピック招致を断念しました。昨年末の地元メディアの世論調査では反対が67%にも上り、東京大会が残した数々の汚点によって五輪不信は募るばかり。そのなかで市民不在の招致活動を続ける札幌市に批判が集まっていました▼先月から開始しようとしていた神宮外苑の樹木伐採も年明け以降にずれ込むことになりました。広範な市民や団体、著名人が中止を呼びかけてきた再開発。国際機関も計画撤回を求め、都や事業者の対応にも変化が起きています▼社会や政治を現実に動かしている世論の高まり。もちろん、ことは一直線には進まず反動や巻き返しもあるでしょう。しかし理不尽なことには、あきらめずに声を上げ続ける。一人ひとりが民主主義の主権者として。


きょうの潮流 2023年10月11日(水)
 小学校のときいじめにあって不登校になり、悩み続けた末、20歳で自殺。中学校のときのいじめが原因で対人恐怖や頭痛にいまも苦しむ。いずれもかつて「しんぶん赤旗」に寄せられた訴えです。子どものときのいじめ被害はおとなになっても深刻な影響が続きます▼学校でのいじめで自殺に追い込まれる子どもが相次ぐ中つくられた「いじめ防止対策推進法」。その施行から9月で10年がたちました。しかし、いじめによる悲劇はいまだにあとを絶ちません▼文部科学省が先日公表した調査結果によると、2022年度に全国の小中高校で認知された「いじめ」の件数は約68万2千件に上りました。10年前と比べると3・4倍以上です▼深刻化する前に早期発見が必要と呼びかけられ、認知される数が増えたとも考えられます。認知されたいじめのうち、8割は年度末までに「解消した」とされています。それにしても急激な増え方です▼互いを人間として尊重することを学ぶはずの学校で、なぜこんなにたくさんのいじめが。成績で競争させ、行動を管理する教育。そんな場で過ごす子どもたちは自分が人間として大切にされているとは感じられない。他の子を大切にしなければならないという感情も育ちにくいのではないでしょうか▼いまの政治自体が、人々に競争と自己責任を強いています。それは社会にすさんだ雰囲気をもたらします。人々が連帯の力で政治を変え、社会を変えていくことも、いじめ問題を解決するうえで重要なことです。


きょうの潮流 2023年10月9日(月)
 「むちゃくちゃだ」「現実からかけ離れている」。保護者からは怒りや不安の声がわきあがっています。虐待する親にされてしまうかもしれないと▼子どもだけで登下校させる、公園で遊ばせる、お使いに行かせる。子どもだけ家に残してごみ出しや回覧板で外出する―。これらを虐待とみなすというのが、埼玉の自民党県議団が出した虐待禁止条例の改正案です▼同県議団は子どもが放置されている状態を虐待と定義。県民には通報の義務を課すとしています。ネグレクトや車内への置き去りがたびたび問題になっているとはいえ、ここまで対象を広げては保護者を追いつめるだけです▼先の事例は共働きやひとり親世帯をはじめ、日常の中で当たり前のようにみられる光景です。低い賃金で長時間働かせ、家族や女性に子育てを押し付ける。そんな社会の実態を見ずに、さらに子育ての負担を強いるとは。そうした環境を放置し続けてきた自民党こそ、市民への虐待ではないのか▼改正案は6日の委員会で公明党も賛成し可決、13日の本会議で採決されようとしています。それを阻止するため、県民や民主団体が次々と声を上げ、オンライン署名も立ち上がっています。埼玉は学童の待機児童数で全国トップクラス。まずは子育てを支える仕組みの充実が先だと▼社会の実情に合った制度の導入を阻み、古い家族観や性別役割、保護者への子育て責任を強要してきた自民党。こうした動きに歯止めをかけるためにも世論の力で撤回に追い込みたい。


きょうの潮流 2023年10月8日(日)
 人生の折々に図書館の思い出はありますが、「図書館の自由に関する宣言」との出合いは鮮烈です▼〈図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする〉とうたう「宣言」を知ったのは、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕3日で中止された問題を取材していた時でした▼日本軍「慰安婦」を象徴する《平和の少女像》等の展示に脅迫を含む抗議が殺到し、安全上の理由を挙げて中止されたことを受け、表現の自由とは何か、これは検閲ではないのか、と多様な議論が交わされました▼その中で美術館の学芸員が「宣言」の精神を自分たちも胸に刻もうと提案したのが印象的でした。〈知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する〉▼都内のギャラリーエークワッドで開催中の展示「本のある風景―公共図書館のこれから」を見ました。戦後図書館の原点に国立国会図書館法前文〈真理がわれらを自由にするという確信に立って、憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与する〉があり、現在では子どもから高齢者、障害者、外国人まで誰もがいつでも無料で滞在でき、つながる場としても機能していることがわかります▼図書館が知の宝庫でありつつ意見表明と交換ができる地域の核であれば、それはすなわち民主主義の姿でしょう。


きょうの潮流 2023年10月7日(土)
 自分が不利になったら途中でルールを変え、相手が異議を唱えたら「あなたには抗議する資格がない」と突っぱねる―。沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐり、政府がとってきた手法です▼玉城デニー知事が、防衛省が提出した辺野古の埋め立て申請を不承認にしたのは、法で定められた要件を満たしていないという、まっとうな理由です。そうであるなら、要件を満たすために手直しすれば済む話です▼ところが政府は、一般市民の権利救済を目的とした「行政不服審査法」を悪用し、国(防衛省)を“救済”するため、国(国土交通相)がデニー知事の不承認処分を執行停止にしてしまいました▼県が提訴すると、最高裁は「県には原告としての資格がない」と門前払いに。そして政府は5日、最高裁判決に従わないのは「違法」だとして県を提訴しました。国が県の権限を奪う「代執行」に踏み切るためです▼国が平気でルールを変え、司法もそれを追認する。この国は本当に法治国家なのか。そんな疑問さえ覚えてしまいます。こんなやり方がまかり通ってしまえば、地方自治は滅んでしまいます▼国は、辺野古埋め立てを承認しなければ普天間基地の「危険性」が放置され、「公益を害する」と主張しています。しかし、新基地は完成まで最短でも12年以上。世界的にも貴重な生態系を破壊し、普天間基地の「危険性除去」どころか、逆に放置する。「代執行」訴訟の弁論は、「公益」論のでたらめさを徹底的に審理する場となるべきです。


きょうの潮流 2023年10月6日(金)
 どこかで見たような首相会見に習ったわけではあるまいか。都合のいい質問をしてくれる記者を優遇し、批判する記者の口を封じようとする。これでは会見が主張する場に変質してしまう…▼ジャニーズ事務所が開いた2日の記者会見。運営を委託された会社が、複数の記者やフリージャーナリストの名前、写真を載せて質問の指名をしないようにする「NGリスト」をつくっていたことがわかりました▼会見は2時間、質疑応答は1社1問という制限がつけられ、混乱する場面も。抗議する声に対し、事務所側が「ルールを守って」と呼びかけると、記者の側から拍手が起きる。出席した同僚記者は違和感を覚えたと話しています▼未成年者への前代未聞の性虐待は国内外をゆるがし、大きな社会問題に。故ジャニー喜多川元社長から性被害を受けたと補償を求めてきた人は先月末までに325人にものぼります。長期にわたる性加害を見過ごしてきた側が会見を縛ること自体おかしくないか▼事務所によると会見の前々日に運営会社からNGリストを見せられ、その場でたしなめたといいます。ならば疑われないよう手だてを尽くすべきではなかったか▼被害者の告発で進んできたとはいえ、救済はこれから。真剣な反省に立った対応がなければ信用は落ちたままです。世間にその姿を見せる会見は今回の発覚で極めて不誠実な場となりました。それは出直しをはかる事務所への不信にもつながり、関係者を傷つけただけです。NGはどちらかと。


きょうの潮流 2023年10月5日(木)
 江戸時代から国防の拠点となり、軍港とされてきた神奈川・横須賀。その海に、米空母ミッドウェーが巨大な姿を現したのは50年前のきょうでした▼そのとき、市民らは基地を見下ろす山腹に厚紙一枚一枚に書いたメッセージを並べました。「MIDWAY BACK HOME」。世界で唯一となる米空母の海外母港化と、それをめぐるたたかいの始まりでした▼当時はベトナム反戦運動の高まりもあり、ミッドウェーの乗組員にも反対の声が広がりました。もともと在日米軍基地の整理統合によって、横須賀は大幅縮小される計画でした。ところが引き止めたのは日本政府。海外母港を考えていた米海軍と歩調を合わせるようにして▼初めての市民大会が開かれ、まちぐるみの反対運動がわき起こります。しかし日米で取り決めた事前協議はなし崩しにされ、母港化ではなく家族の海外移住計画だという詭弁(きべん)まで。それは15年前から原子力空母に代わり、核持ち込みが問題になってからも変わりません▼日米の政府が結託して実態を偽り、自治体や住民らとの約束をねじ曲げてきた半世紀。その間、横須賀の空母は湾岸戦争やイラク戦争をはじめ破壊と殺りくの中心となり、日本国内では米軍機の墜落や騒音といった被害をまきちらしてきました▼1日の「原子力空母いらない」集会。横須賀の海を望みながら、いまも平和や安全を脅かし続ける存在に対し、各界各層の人たちが声をあげました。空母や基地のない横須賀、そして日本をつくろう。


きょうの潮流 2023年10月4日(水)
 自然や生き物に関心をもち、土いじりが好きな少女でした。好奇心旺盛で一つのテーマを深く考え、よく調べて発表する。まるで一人前の学者のような小学生だったといいます▼ハンガリーの小さな町で育った彼女は、やがて科学者の道へ。しかし資金難で母国での研究がゆきづまり米国行きを決意。当時は外貨を自由に持ち出せなかったため、娘のテディベアのぬいぐるみに隠して出国したことは知られた話です▼今年のノーベル生理学・医学賞を授与されたカタリン・カリコさん。ヒトの体内に無数にある細胞の中で、たんぱく質をつくるための遺伝情報を伝える「メッセンジャーRNA(mRNA)」の研究を長く続けてきました▼これまで人工的に合成したmRNAを体内に入れると炎症反応を引き起こし、薬などに使うことは難しいとされてきました。カリコさんは、共同受賞した米ペンシルベニア大のワイスマン教授とともに、それを抑える方法を発見。新型コロナワクチンのスピード開発と実用化につなげました▼多くの困難にくじけず、たくさんの命を救った研究。短期の成果ばかりを重視し、基礎研究の基盤や環境を削ってきた日本で、こうした人材や研究を花開かせることができるだろうか▼『カタリン・カリコ』の著者でジャーナリストの増田ユリヤさんは、苦労を重ねてきた彼女を支えたのは、病気で苦しむ人びとを助けたいという固い信念だったと記しています。どんな賞や栄誉よりも、命を救う喜びに勝るものはないと。


きょうの潮流 2023年10月3日(火)
 パワーだけは追いつけない。かつて米大リーグと日本の野球を比べ、よくいわれました。機動力や小技を重視する日本のスモール・ベースボールを「違う世界の野球」と評した外国人選手も▼そこからメジャーリーグに挑んだ日本選手が、ついにパワー野球の象徴ともいえる本塁打王に輝きました。投げて打って球界の常識を覆し、また一つ歴史をぬりかえた大谷翔平選手です▼体格や力では劣るとされてきた日本、アジア出身の選手が初めてつかんだタイトル。挑戦者を温かく応援する本場のファンからも称賛の声が寄せられています▼四半世紀前、ホームランを量産する2人の打者の争いに大リーグは熱狂しました。しかし、1人が筋肉増強剤を使っていたことを告白。その後も記録を更新した選手の薬物使用が判明するなどファンを失望させ、野球離れがおきました。純粋に野球を楽しむ大谷選手の活躍はふたたび球場にファンを戻しています▼トップアスリートとは夢や感動を与えるもの。そんな先入観があるなかで、彼は「夢を与えようとか、元気を与えようみたいなことはまったく考えていない」といいます。そう受け取ってもらえたらうれしいが、まずは好きな野球を一生懸命にやっている姿を見せることだと(『大谷翔平語録』)▼ファンの存在を大切に思いながら、ただ野球がうまくなりたいと自然体でとりくむ、試し失敗し、そこから学ぶ。そのくり返しが未踏の領域へと。けがを治してグラウンドに立つ姿が、今から待ち遠しい。


きょうの潮流 2023年10月2日(月)
 これが維新の「身を切る改革」なのか。最近話題になっていることが二つあります▼ひとつは、どこまで膨らむかわからない大阪・関西万博の費用です。会場建設費は当初の1250億円から1850億円に、そして2300億円程度に増える見通し。負担は国、大阪府・市、経済界がそれぞれ3分の1ずつ。3分の2は税金です▼維新府議団は約450億円の増額分は国に負担してもらうよう吉村洋文知事に要望しました。国負担でも税金に変わりありません。SNS上では「(中止しないなら)維新が負担すべきだ」との声がしきり▼もうひとつは、国会議員秘書と地方議員の兼務です。維新の衆院議員(大阪10区)が地元の大阪府高槻市議2人を公設秘書にしていたことが発覚。公費から支出される秘書給与と議員報酬を二重で受け取っていました。「1円の税金も無駄にしない」「納税者のための政治」が維新の宣伝文句です。実像とあまりにもかけ離れていませんか▼ちなみに、大阪・関西万博と大阪カジノ計画はセット。カジノのための万博というのが実際の姿です。埋め立ててつくった人工島の夢洲(ゆめしま)を舞台としているため、交通アクセスの整備費や地盤対策費は膨らむばかりです。無謀なベイエリア開発のツケは府民にしわ寄せされます▼ギャンブル産業のためになぜ血税を注ぎ続けるのか。「身を切る」というなら、せこい兼務をやめるのはもちろん、政党助成金を受け取らないとなぜ宣言できないのか。維新は答えるべきでしょう。


きょうの潮流 2023年10月1日(日)
 自分が好きなことや人物を追いかけ、応援する「推し活」。その活動を通して楽しみや活力、幸せを得て、人生が変わったと実感している人も多い▼「推し」や、より良く見せようとする「盛る」といった表現が世間に浸透してきた―。文化庁の国語世論調査で明らかになった新しい表現の定着。担当者は既存の言葉に新たな意味が加わったことで受け入れられたと分析します▼なかには「異様だと感じてあきれる」を意味する「引く」の表現も。それよりさらにひどい状態を表す「どん引き」も以前から使われてきました▼まさにどん引き。自民党が杉田水脈衆院議員を党の環境部会長代理に起用するといいます。アイヌ民族などをおとしめる投稿で公の機関から「人権侵犯」と認定されたばかり。差別発言をくり返し無反省の人物を要職につけるとは、この党の人権感覚の欠如もあらわに▼フランス研修中に浮かれた写真をSNSに投稿し、女性局長を辞めた松川るい参院議員も党副幹事長へ。あれだけ批判を浴びながら、政党助成金も入った研修の報告書も公表しないまま表舞台に復帰させる。岸田内閣の副大臣・政務官54人のすべてが男性という異常な姿にも「引く」一方です▼先の調査では8割超の人が言葉の使い方に気を使っているとしています。差別や嫌がらせと受け取られかねない発言をしないという回答も多数あり。世の中からかけ離れていく、政権与党と岸田首相。「どうしようもなくなった」を言い表す「詰んだ」がぴたりと。


きょうの潮流 2023年9月30日(土)
 「世界が驚く、冬にしよう。」。あまりに凡庸なフレーズ。2030年冬季五輪招致を目指す札幌市が作成した市民向け冊子です。心ひかれない言葉は薄い開催目的の反映か▼市民の招致熱も冷え込んでいます。東京大会の負の記憶があるからです。国民無視の強引な開催、約2倍に膨らんだ経費、汚職などの発覚が拍車をかけます▼札幌市の計画は総額3170億円。市の支出は490億円と小さく見せています。しかし、みなが学んだのはどの大会も経費が数倍に膨らむ現実です。東京の検証なき招致はありえません▼市は昨年末、世論を気にし「積極的な機運醸成活動」を休止しつつも、今夏から市民対話に動いています。しかし出てくるのは懸念や反対ばかり。「開催の意義がわからない」「資材高騰を想定しているのか」「五輪より除雪、学校にクーラーを」。そのため市は意向調査を先送りに。地元紙も「招致撤退を考える時だ」の社説を掲げます▼その中で市民が動きます。「招致の是非は市民が決める」と、住民投票を求める直接請求署名が28日、始まりました。2カ月で3万4千人以上の署名は容易ではありません。議会が承認するかも未知数です▼しかし世界では市民の声で立候補取り下げ都市が相次いでいます。国際オリンピック委員会の幹部でさえ「事前に住民投票を行い、住民の了解を得て立候補を」と。民意なき五輪はあってはなりません。五輪招致の是非を問う日本初の住民投票となれば、だれもが「驚く冬に」なります。


きょうの潮流 2023年9月29日(金)
 そこは「魚(いお)湧く海」と呼ばれるほど豊かな漁場でした。九州本島と天草諸島に囲まれた不知火(しらぬい)海。波穏やかな海を見下ろす丘の上に水俣病の相談窓口があります▼国が公害病と認めてから55年。いまも訪ねてくる患者、電話やメールは絶えません。手足のしびれや痛み、めまいや耳鳴り。開設する水俣病センター相思社には一様ではない症状やつらい経験を訴える声が寄せられてきました▼「なんでこのおれが水俣病じゃないんだ」。幼いころ不知火海周辺で魚を主食にくらしたという関西在住の患者。都会での仕事とかけもちする中で症状が悪化しましたが、認定申請は棄却されたと憤ります(『みな、やっとの思いで坂をのぼる』)▼原告はいずれも水俣病と認定―。これまで国や熊本県に切り捨てられてきた被害者の救済を求める判決が大阪地裁でありました。地域や年代で線引きしてきた従来のやり方を一蹴。発症の実態は距離や時間で単純に区切れるものではない、と▼狭く小さくが水俣病の救済で国がとってきた態度でした。実際に国の基準で認められた患者は3千人ほど。しかし潜在患者は10万人以上ともいわれ、声を上げてたたかってきたことで救済の輪が広がってきた経緯があります▼戦後日本の公害の原点とされる水俣病。国はまともに調べもせず責任逃れに終始してきました。それは被爆者や原発の被害者をはじめ、あらゆる場面で。「こんなことで棄(す)てられて、たまるか」。先の患者の叫びはすべての被害者に通じています。


きょうの潮流 2023年9月28日(木)
 本紙電子版が始まり5年余りがたちました。紙媒体では届かなかった人たちに、じわりと浸透している実感があります▼デジタル化がすすむ社会に向けて発信するためにペンをスマホに持ち替えよう―。インド北部ウッタルプラデシュ州にある新聞社は、7年前から独自のビデオチャンネルを開設。紙媒体からデジタル配信に移行しました。その転換期に、記者たちの活動を追いかけたドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」が公開中です▼この新聞社の運営、取材に携わるのは、全員カースト最下層の「ダリト」に属する女性たちです。家父長制が色濃いインド。女性であり、ダリトである彼女たちは、複合的な差別にさらされながらも奮闘しています。「私たちの仕事は世の中とのたたかいでもある」と社会変革をめざす姿に胸を打たれます▼スマホを手に記者が足を運ぶのは、農村の現場です。ダリト女性に対する残忍なレイプ事件、違法の鉱山事業…。「あなたのニュース、あなたの言葉で」をキャッチフレーズに声なき声をすくい上げ、問題の根源を追及していきます▼記者たちの原動力は、民主主義を支えるというジャーナリストとしての使命感です。「メディアに人権を守る力があるからには、それを人々の役に立てるべきだ。責任をもって正しく力を使う」。そうでなければ金もうけにすぎなくなると▼映画から学ぶことは多い。権力の監視と真実の報道―。ジャーナリズムの精神をどう貫く。私たちも日々試されています。


きょうの潮流 2023年9月27日(水)
 対談やインタビューの“名手”が肝に銘じていたことがあります。相手の気持ちを推し量る、自分ならどう思うかを考える、上っ面な受け答えをしない▼雑誌やテレビであまたの人物と対してきた作家の阿川佐和子さん。相手の心の中はいま、どんな状態になっているのかとおもんぱかる。自分と違っても、どこかで共鳴する場所を見つけ、相手に対してより深い理解と興味をもつことが肝要だといいます(『聞く力』)▼この人はどうか。2年前の就任以来「聞く力」を大切にし、国民に寄り添うとくり返してきた岸田首相です。それが上っ面だけのもので聞くことさえもしないことは、たびたびあらわになってきました▼インボイス反対のオンライン署名。国内最多の50万をこす声を集めたにもかかわらず、首相は受け取りを拒み、自民党も訪問を断ったそうです。よくこれで「聞く力」などといえたものです。それとも反対する人たちは声を聞くべき国民とみなされていないのか▼万博をはじめとする巨大開発、物価高騰で生活が苦しくなる中での増税や大軍拡。それに対して中止や見直しを求める、いまの政治に疑問や不安を感じている多数の人びと。その声を無視して対策を打ち出しても、たくさんの願いとかけ離れていくだけです▼「いつも必死にインタビューしてきた」。本紙日曜版で阿川さんが語っています。それは相手と誠実にむきあってきた証しでもあるでしょう。いっけん誠実そうに見せかけ、じつは裏腹の誰かさんとは違って。


きょうの潮流 2023年9月26日(火)
 忙しいのは覚悟で教員になったけれど、どうして、こんなにしんどいのだろう…▼教員不足が社会問題となりその大きな要因は長時間労働にあるといわれています。毎年実態調査を続ける長野県教職員組合のデータでも、過労死ラインといわれる月80時間以上の超過勤務はここ10年ほど常態化。「3年以内に辞めるつもり」という青年教員は4%にも。教員を続けること自体が、たたかいです▼現場から粘り強く声をあげ続けた結果、多忙化を招いていたさまざまな業務は少しずつ削減されてきました。長時間労働解消を、との支援の輪も広がっています。教育研究者有志が署名を呼びかけ、過労死裁判を経て弁護士会が立ち上がり、「こんなにひどい実態だったとは」と保護者も心を寄せています▼なぜ、こんなにつらいのか。あるベテラン教員は、教育行政による大掛かりな教職員コントロールがあると話します。教育内容や方法を、そろえるように求められる「スタンダード」。“標準”とは名ばかりで、下回ることがはばかられる年間授業時間数。子どもの生活にまで土足で入り込み「こうすれば点数が高くなる」と、指導を枠にはめこむ全国いっせい学力テスト―▼なぜこんなことに、とやりがいを感じられない業務に忙殺される日々。その積み重ねが超過勤務数に表れ、心と体を痛め続けています▼STOP!学校の長時間労働。それは国をあげて進められてきた教育支配を打ち破り、新たな地平を生み出すたたかいなのかもしれません。


きょうの潮流 2023年9月25日(月)
 東京・練馬区の牧野記念庭園のあちらこちらにスエコザサが植栽されています。植物学者の牧野富太郎が妻・壽衛(すえ)への思いを込めて名付けたことが知られています▼NHKの連続テレビ小説「らんまん」も最終週。サブタイトルは「スエコザサ」です。富太郎をモデルに創造の世界を広げてきました。時代の制約をものともせず、植物研究に没頭して自由闊達(かったつ)だった主人公の万太郎。その生き方はまさに「天真らんまん」です。妻の寿恵子は万太郎の“冒険”に伴走します▼ドラマには、興味深いエピソードがちりばめられています。たとえばイチジクの一種、オーギョーチの命名のいきさつ。1896年、万太郎は調査で台湾へ。国の利益のための調査ではなく、ありのままの台湾の植物を見て来たいと▼見つけた新種に台湾の言葉で学名をつけます。当時、台湾は日本の統治下にあり、日本語を共通語として押し付けていました。国に逆らう気かと警告されますが、万太郎は意に介しません▼神社の森の植物が失われていくことに心痛めて、国が推し進める神社合祀(ごうし)令に反対する姿も印象的に描かれました。戦争へと向かう時代。作者の長田育恵さんが本紙のインタビューで語っていた「万太郎の思想」を垣間見る思いです▼植物を「この子」と呼び、「雑草いう草はないき」「草花に優劣はない」を信条に、誰にも平等に接した万太郎。数々の印象深い言葉を刻んだ物語の行く末は…。長田さんがキーワードは「継承」という、その顛末(てんまつ)に注目です。


きょうの潮流 2023年9月24日(日)
 地球温暖化が災害を伴う豪雨や猛暑など異常気象に大きく影響を与えています。世界の平均気温は産業革命前と比べすでに1・1度上昇。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、さらなる上昇で10年に1度とか50年に1度発生する極端な高温や降雨、干ばつの発生頻度が多くなると▼温暖化によって異常気象がどの程度変化したのかを調べた研究が、相次いで発表されています。コンピューター内で人間活動によって温暖化した状態と、温暖化していない状態を仮想的に作り出し、それぞれ多数の計算をして比較。異常気象の発生確率の変化を取り出す研究です▼今年の7月下旬から8月上旬にかけての記録的高温は統計開始以来1位でした。気象庁などの研究チームによると、温暖化の影響がなければ、発生し得ない現象だったといいます▼発達した雨雲が連なる線状降水帯も6月から7月上旬に相次いで発生しました。その総数も、温暖化によって約1・5倍増加し、九州地方の増加が顕著だったと評価しています▼日本での線状降水帯の発生頻度の将来を予測した研究では、産業革命前と比べ2度上昇した場合、1・3倍になり、4度上昇した場合、1・6倍になるとしました▼科学の警告は無視できません。国連の「気候野心サミット」で岸田文雄首相は、国連が準備した発言リストに載らず、発言できませんでした。対策に逆行する姿を世界にさらした形です。いつまで石炭火力に固執するのか、政策転換が待ったなしです。


きょうの潮流 2023年9月23日(土)
 いまや社会に定着した感があるオンライン署名。インターネットを使った署名集めは、誰でもどこからでも無料で立ち上げられ、住む場所を問わずさまざまな人たちとつながれます▼社会や政治を変えるためにそれを利用する動きも若者を中心にひろがっています。これまで国内最多のオンライン署名は「東京五輪反対」の46万ですが、いまそれを上回る50万の声を募ろうというとりくみが進められています▼「STOP!インボイス」。岸田政権が来月から強行しようとしている消費税の新たな増税の仕組みに反対する署名です。主催の「インボイス制度を考えるフリーランスの会」は、官邸前行動の25日までに目標を達成して岸田首相や鈴木財務相に届けたいといいます▼同会の発起人でライターの小泉なつみさんは、強い者をより強くし、弱い者をさらに弱くする税制がインボイス制度だと訴えます。「この国らしさをかたちづくる文化と産業を破壊し、私たちに分断と増税、混乱を招く希代の悪法」▼いままで免税されてきた零細企業や個人事業主、フリーランスで働く人たちにとっては死活にかかわる問題。署名の呼びかけにも多様な働き方を否定するものだと▼岸田首相は国連で多様性や人間の尊厳を強調しました。いくら言葉を飾ったところで、国内で真逆なことをしていては恥ずかしい姿をさらすだけです。多種多様な人々がつながった反対の声。インボイスには「送り状」の意味もあります。中止のそれをいま首相に送りつけたい。


きょうの潮流 2023年9月22日(金)
 サザンオールスターズの新曲が今週から配信されています。「Relay(リレー)~杜(もり)の詩(うた)」。公開されたミュージックビデオでは桑田佳祐さんがモノクロの世界で森の中を歩き、ビルの谷間にたたずんでいます▼木々や街に息づく人びとに語りかけるようなバラード。大切な場所への思いや未来への憂いが伝わってきます。神宮外苑の再開発見直しを訴えた坂本龍一さんの遺志を受け継いだ曲。桑田さん自身が明らかにしています▼内苑とともに先人が100年先をみすえてつくった都会のオアシス。そこに根づく3000本もの樹木が伐採される計画があらわになるにつれ、市民や著名人が次々と反対の声をあげてきました▼伐採中止を求めた市民団体の声明には作家の浅田次郎さんや歌手の加藤登紀子さん、俳優の秋吉久美子さんらが名を連ね、作家の村上春樹さんも再開発に強く反対。漫画家のちばてつやさんは「社会には目先の経済や、人間の都合に左右されず、大切にして守るべき大事なものがある」と▼ユネスコの諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)も事業者や東京都に対し、計画撤回と決定の見直しを要請しています。小池都知事は樹木の具体的な保全策を示すよう事業者に求めましたが、計画そのものを白紙にすべきではないのか▼市民や共産党都議団が追及してきた貴重な森の破壊。反対の声の「リレー」は大きなこだまとなって社会に響いています。先の歌で桑田さんが最後に「意志を継(つ)ないで」と呼びかけたように。


きょうの潮流 2023年9月21日(木)
 世界遺産のハロン湾や古都ホイアン、ダナンといった海辺のリゾート地。首都ハノイやホーチミンの都市めぐり。ベトナムは日本でも人気の観光地です▼コロナ禍前、日本からの訪問者が多かった国・地域の中でベトナムは上位に入っていました。逆にベトナムからも技能実習生や働き手が多く来日しています。厚労省によると、昨年10月時点の外国人労働者の数は約182万人で過去最多となりましたが、そのうち4分の1超がベトナム人でした▼日本とベトナムが外交関係を樹立してからきょうで50年。ベトナム戦争で米軍が撤退した年に結ばれて以来、人的交流をはじめ両国の関係は広い分野で発展してきました。節目の今年はさまざまな催しが開かれています▼先の大戦で日本はベトナムを占領し、ぼう大な餓死者を出した加害の歴史があります。その後もベトナムは南北が分断され、ベトナム戦争へ。そのとき米軍が大量散布した枯れ葉剤による人体や環境への影響は現在も続いています▼「明日の侵略者を抑止するために、われわれは今日のむき出しの侵略に立ち向かわなければならない」。国連総会でそう訴えたバイデン米大統領。ウクライナへの軍事侵攻をやめないロシアに対し、国際社会の連帯が必要なのは言をまちません▼同時に米国や日本にも侵略の歴史はあり、今も他国を軍事拠点とする米軍の戦略は世界を圧迫しています。自主独立の国としてアジアの平和をめざしていく道にこそ、日本とベトナムの未来があるはずです。


きょうの潮流 2023年9月20日(水)
 きょうから、秋のお彼岸です。暑さ寒さも彼岸までといいますが、真夏のような日照りが収まる気配はありません。厳しい残暑に体力や気力を削られる日々が続きます▼今年の夏の暑さはとびぬけていました。平均気温は平年に比べ1・76度も高く、各地で過去最高気温を記録。気象庁が統計をとり始めた125年間で最も高くなりました。日本近海の海面水温も過去最高でした▼日本に限らず6月~8月の地球の気温は、記録の残る1880年以降で最も暑かったそうです。高温だけでなく大雨や嵐、干ばつや熱波と異常気象は世界の至る所で。地球温暖化による森林火災の悪化も深刻で、最近は1年で東京都の約40倍にあたる面積が焼失しているといいます▼「気温の高まりは、行動の高まりを要求している」。国連のグテレス事務総長は、各国の首脳らに気候危機への熱意ある対策を改めて呼びかけました。一刻の猶予もならない、と▼持続可能な開発目標(SDGs)や気候問題を話し合う国連総会が始まりました。真剣なとりくみを急いでと、声を上げる世界や日本の若者たちの姿を本紙が伝えています。「気候危機は人類文明に対する真の脅威。21世紀の主要課題だ」。とどまることを知らない資本主義の欲望への糾弾です▼暑さ寒さも彼岸までの言い習わしには、つらいことや困難があってもいつかは終わる、乗り越えられるという意味もあります。それはただ過ぎ去るのを待つのではなく、人々の行動によってこそ実現するはずです。


きょうの潮流 2023年9月19日(火)
 壁画で有名な高松塚古墳など古墳群や宮跡などが密集し、田園地域が残る奈良県明日香村と橿原市。シリーズ「農と食 現場から」の企画で訪ねました▼近鉄吉野線沿いでは「古代ロマンの息吹感じられる、日本の原風景がここにある」など「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の世界遺産登録をめざすキャンペーンが▼案内役は日本共産党明日香村議で、奈良県農民連会長の森本吉秀さんです。「“インスタ映え”する人気の観光スポットがあちこちにあります」。県農民連事務所近くの高台には、牽牛子塚(けんごしづか)古墳・越塚御門(こしつかごもん)古墳があり、周りの田んぼで稲穂が金色に輝き、秋の風情を感じさせます▼「ここは私が長年、無農薬で化学肥料を使わずに有機栽培しています」と森本さん。イノシシやシカの獣害対策のため細い電線で囲った場所もあります。田畑を維持・管理する森本さんら農業者の務めです▼最古の歌集『万葉集』で詠まれた“天の香具山”の麓・橿原市下八釣(しもやつり)町では、農薬や化学肥料を使わない有機農産物の学校給食活用を通じて地域農業を再生させる取り組みが始まっています。半農半Xの市民や女性も参加する「かしはらオーガニック」です。代表の山尾吉史さんは危機感を込めて話します。「農業の担い手が高齢化して、耕作放棄地が増えています。手をこまねいていられない」と▼古代ロマンに欠かせない田園風景を残すというなら行政が行うべきは農業振興です。遅くない将来、古くからの田園風景が消滅しないために。


きょうの潮流 2023年9月18日(月)
 職場で神経をすり減らし、家庭でも問題を抱える息子。地域の仲間と一緒にボランティア活動に励み、恋にもときめく母。山田洋次監督の新作「こんにちは、母さん」は下町を舞台にした親子の物語です▼3世代の家族をみつめながら親子の情愛を描きました。そこには現代社会を生きる人びとの悲哀とともに、老いてゆく人間の孤独や不安も映しとられています。自分や家族の老後を考えさせられるように▼きょうは敬老の日です。厚労省の発表によると100歳以上の高齢者が全国で9万2千人をこえ、53年連続で最多を更新しました。2012年に5万人をこえて以降、およそ10年で倍近くに。なかには世界最高齢の薬剤師としてギネスの世界記録に認定された女性もいます▼人生100年時代の幕開け。しかし一方で高齢者を「老害」とみなし、長生きを負い目のように感じさせる風潮もあります。介護難民や孤独死を生みだしている政府の冷たい「切り捨て政策」があるからです▼実際、高齢者をとりまく状況は厳しい。職もなく年金は少ない。医療や介護の負担は増すばかりで将来不安を訴える声も多い。日本は先進国のなかでも高齢者の貧困率が高く、老いることが貧しくなることに直結しています(『「人生百年時代」の困難はどこにあるか』)▼先の映画では、異なる価値観や考え方をもった世代が交流しながら、それぞれが新しい生き方を模索していきます。老いとは、生きがいを感じられる人生とは。その意味を問い直すように。


きょうの潮流 2023年9月17日(日)
 漫画家の中沢啓治さんが広島で被爆した自身の体験を込めた『はだしのゲン』。ゲンの目の前で父と姉、弟が亡くなっていく場面は強烈でした▼24の言語に翻訳されています。ほとんどがボランティアの手によるといいます。中国語に訳したのが、名古屋市在住の坂東弘美さんです。2008年から7年余りをかけて。その逸話がこの夏、NHKEテレ「こころの時代」で伝えられました▼きっかけは、日中戦争に出征した父親の話です。沈黙していた父が73歳のとき、小学生の孫と坂東さん宛てに手紙を書いてくれました。3カ月間で便箋343枚に及びました。中国で何をしてきたか。「隠れていた婦女子を見つけ銃剣で刺殺…」▼優しい父がどういう顔をして殺したのだろう。坂東さんは中国に渡る決意をします。北京の中国国際放送で働いているときに、タイ語の『はだしのゲン』に出合います。民族差別や中国への加害の歴史も描いているのを知って、中国語に翻訳しようと決めます▼引き込まれた登場人物は、ゲンの父親。ゲンに「しっかり生きろ」「麦のように」と言い続け、戦争は間違っていると主張して特高警察に連行されてしまいます。やがて坂東さんは気づきます。自分の父が黙ったままではなく、戦争の真相を伝えようとしたことに▼番組の最後に坂東さんは「仕方がなかったですまされることか」と力を込めました。足元に目を向ければ岸田政権が進める大軍拡。いま改めて、戦争の足音を何としても拒否しなくては、の思いが。


きょうの潮流 2023年9月16日(土)
 「地球沸騰化の時代が到来した」―グテレス国連事務総長がこう警告したのは7月末でした。その言葉を何度も思い出したこの夏。大規模な山火事や洪水など、極端な気象による被害が世界各地で起きました▼米ハワイ州マウイ島では、猛火が街を襲い100人超の犠牲者を出しました。米史上最悪の山火事の一つに。あれから1カ月が過ぎ、同州知事は10月には渡航制限を解除し、マウイ島への観光客の立ち入りを再開すると発表しました▼ハワイを英国人クック船長が「発見」したのは18世紀末。白人の到来と同時に成立したハワイ王朝(1795~1892年)の首都が今回被災したラハイナでした▼「太平洋のベニス」とも呼ばれた水の都が、1世紀半で山火事が頻発する土地に。気候変動による干ばつに加え、植民地主義の遺産が指摘されています。資本家が土地をサトウキビやパイナップルの大規模農園に変え、日本人らの移民が入植。作り替えられた土地は今では遊休地になり、その枯れ草が猛火の「燃料」に▼プランテーションで儲(もう)けた企業は、リゾート施設やゴルフ場をつくり、今も水資源を独占し、地元住民は深刻な水不足に陥っていました。焼き出された人々に対し、開発業者は土地の買い取りを持ち掛けているといいます▼儲けを狙う「惨事便乗型資本主義」の姿がここでも。街の再建には「気候正義」が必要です。気候変動で被害を受ける弱者が保護される正義を。各地で災害が続く今、地元住民が置き去りにされてはなりません。


きょうの潮流 2023年9月15日(金)
 「そもそも日本の総理に自分で本当に国家の命運にかかわることを決めているという厳しい危機意識がない」。そう語るのは元内閣官房副長官補の兼原信克氏です(『官邸官僚が本音で語る権力の使い方』)▼日本で諜報(ちょうほう)が軽視されてきた理由に挙げたもの。今後は海外でのスパイ活動を強化すべきだとも。とても同意できるものではありませんが、「国家の命運」を決めている自覚が岸田文雄首相にあるのかという点では、うなずける部分があります▼たとえば先月の日米韓首脳会談。中国や北朝鮮を念頭に3カ国軍による共同訓練の毎年実施などで合意しました。米戦略に沿って新たな軍事的枠組みをつくる動きに米国内でも「単なる軍事協力の拡大は、地域の安全保障環境を悪化させるだけだ」(オンライン誌『レスポンシブル・ステイトクラフト』8月18日)との声があがりました▼政権を支える自民党の麻生太郎副総裁は台湾で「たたかう覚悟」と発言。米国言いなりで、真剣に国の平和を考える力を失い、戦争突入を当然視するまでに至った言動の軽さに恐ろしさを感じます▼元副総理で2005年に亡くなった後藤田正晴氏は「自主自立のものの考え方でアジアに目を向けないと、アメリカ一辺倒ではこの国は危なくなるよ」と語ったことがあります(『後藤田正晴 語り遺したいこと』)▼「日米安保条約を平和友好条約に切り換える、そのための議論を始める時期にさしかかっているのではないか」とも。首相に聞かせたい言葉です。


きょうの潮流 2023年9月14日(木)
 赤旗記者の先輩から徳島特産のすだちが送られてきました。毎年この時期に届くうれしい贈り物。さわやかな香りと酸味に季節のめぐりを感じます▼うんざりするほど猛暑と大雨に明け暮れた今年の夏。まだ暑い日がつづきますが、秋の気配はゆっくりと近づいています。朝晩の空気や花々の移り変わりようにも変化してゆく季節のきざしがみてとれます▼さて、こちらはどうか。支持率の低迷にあえぐ岸田首相が施した内閣改造と党役員人事です。「日本はまさに正念場にある」と意気込んでとりくんだものの、政権の骨格は維持したまま。これまでの政治姿勢に変わりはないと宣言したような顔ぶれです▼マイナンバーをめぐって大混乱と不安を引き起こした河野太郎デジタル担当相は続投。軍拡の予算づくりを進めてきた鈴木俊一財務相や原発推進で汚染水の海洋放出でも漁業者の思いをふみにじってきた西村康稔経産相も留任させています▼11人の初入閣、5人の女性閣僚をいくら強調しても、国民の声とむきあわなければ何のための人事か。これでは各派閥に気を配っただけの「刷新」ではないか。統一協会との癒着の反省もどこ吹く風です。これで政権浮揚とは厚かましい▼すだちは料理や飲み物の味を引き立てますが、本体がまずくてはそれも及びません。目先は変えても国民の期待にはこたえられない岸田政権。問われているのは政治の中身です。共産党の小池書記局長は「いま必要なのは内閣改造ではなく政治の改造」。その通り。


きょうの潮流 2023年9月13日(水)
 わら半紙につづられていた文章は貴重な歴史の証言でした。「僕の前で朝鮮人が一人皆にたけやりで殺されました」「朝鮮人が川戸の水の中へ毒をいれるといったのでしんぱいしました」▼身の毛がよだつ光景の数々の描写。関東大震災時の朝鮮人虐殺を目の当たりにした子どもたちの作文が横浜市の中央図書館に保存されています。不安のなかで耳にする流言を信じておびえ、朝鮮人を憎む心境が読みとれます▼震災直後から朝鮮人暴動のデマが流され、軍隊や警察、自警団による集団虐殺の事実はあまたの証言や公的な記録に刻まれています。検察は114件を立件。殺人などの罪で600人以上が起訴され、ほとんどが有罪になっています(『関東大震災と民衆犯罪』)▼しかし、犯行の多くは野放しに。戒厳令下の軍や警察の大量殺りくはどれも適当とされ、処分された者もいませんでした。先頭に立った彼らの蛮行は民衆を扇動し、見本をみせたとの指摘もあります▼いま話題の映画「福田村事件」は薬売り行商の一行が自警団に朝鮮人と疑われ、9人が殺害された痛ましい事件を題材にとったものです。100年前の犠牲者について現在の千葉県野田市は初めて弔意を表明しました▼いまだにまともな調査もせず、記録がないと虐殺の事実を否定する岸田政権。過去を省みない姿勢は歴史の偽造そのものであり、いまもヘイトクライムとなって現れています。人権が大きく前進する時代にあっての逆行は、この国の未来をふさぐだけです。


きょうの潮流 2023年9月12日(火)
 家でテレビを見ていた時のことです。番組は、ある高校にプリントシール機を設置し、生徒が好きな相手を誘って一緒に写真を撮る―という内容でした▼女子生徒から男子生徒、男子生徒から女子生徒へと緊張しながら声をかけます。するとわが子が「女子から女子、男子から男子っていうパターンがあってもいいのにね」と一言。私にはなかった発想に、ハッとさせられました▼ドラマなどで同性愛が肯定的に描かれたり、多彩な性的指向(恋愛の対象となる性別)を耳にしたりと性の多様性にふれる機会が増えました。「当たり前」と思っていたことを考え直す機会も増えたと感じます▼この夏開かれた全国保育団体合同研究集会「乳幼児期の性と保育」の分科会では、保育園での工夫が報告されました。たとえば壁が低く丸見えだったトイレを改善したり、部屋に仕切りを置いて着替える場所を作ったり。乳幼児だから平気だと考えず自分の体を守れるように配慮する。子どもは「自分が大切にされている」と感じ、他者を大切にする気持ちにつながっていくのだと▼絵本を使った性教育で、だれを好きになってもいいこと、家族のかたちは多様でパパがいなくてもママが2人いても、いろいろあって当たり前だと伝えているという話も▼性について学び考えることは、多様な生き方や人権を尊重することにつながります。つくられた「普通」と、そのもとで続いてきた制度や慣習。仕方ないとあきらめず、多彩な選択肢をつくっていく時です。


きょうの潮流 2023年9月10日(日)
 戦争や権力の恐ろしさが伝わった。抑圧された人びとの痛みとともに、連帯する人間の強さが心に響いた―。初めて接する若者や懐かしさを覚えながら味わう姿も▼没後40年となる山本薩夫監督の作品を特集した東京のラピュタ阿佐ヶ谷。早々と満席になる回もあり、根強い人気がうかがえます。16日までの最終週には、松川事件を素材にした喜劇「にっぽん泥棒物語」や、徳島ラジオ商殺し事件を描いた「証人の椅子」が上映されます▼「映画は真実を伝える眼であり、政治や社会の不正を批判し、本当に大衆の幸福を願うものでありたい」(『私の映画人生』)。現実の社会を芯に据えつつ、娯楽性をもちあわせた数々の名作はそうした信念のもとで生み出されました▼弾圧のなかで暗い青春時代を過ごし、戦争にもかりだされ、天皇制軍隊でみじめな屈辱を受けた経験。そういうものの復活を断じて許しておくわけにはいかないとメガホンを握り続けました▼戦争の本質を覆い隠し賛美に走る日本映画に警鐘を鳴らし、平和と民主主義を守ることに生涯をかけた山本監督。そこには「目に暗い絶望の色を浮かべ途方にくれていたかつての時代に、もう一度戻るようなことがあってはならない」との思いが込められていました▼岸田政権のもと再び軍拡の道へふみだそうとしている昨今、山本作品の値打ちは今も。反戦を一生のテーマにと決めたとき、彼はもう一つの決意を。それは、戦前から反戦平和の旗を掲げ続けた日本共産党への入党でした。


きょうの潮流 2023年9月9日(土)
 48年ぶりに自力で五輪の出場権をかちとったバスケットボール男子の熱気が残るなか、ラグビー男子の第10回ワールドカップ・フランス大会が開幕しました。ラグビーの和名は「闘球」。体を激しくぶつけ合うさまは、まさにたたかうスポーツです▼ラグビー日本代表といえば2019年の流行語大賞にも輝いた「ONE TEAM(ワンチーム)」が思い浮かびます。この言葉は語感から集団主義を指すととらえがちですが、個性と多様性のうえに成り立つチームの一体感が真意です▼それは当事者のコメントから伝わってきます。受賞に際して堀江翔太選手は「どういうふうにワンチームにするかが大事。中身の部分をしっかり考えていただければ」と語りました。受賞理由もその意味を重くかみしめます。「世界に広がりつつある排外的な空気に対する明確なカウンター(反抗)メッセージ」「近い将来、移民を受け入れざるを得ない日本の在り方を示唆する」と▼今大会の日本代表をみても、オセアニアや南太平洋など半数近くが外国籍。朝鮮学校出身者の選手も初めて選出されました▼この球技に息づく「ノーサイド精神」にも通じます。試合が終われば両者を隔てた壁が消え、熱くたたかい抜いた両チームが一つになります▼ラグビーボールのようにどこへ弾むのか一見読めない社会の先行き。しかし、時代は個人と多様性尊重の方向へ力強く向かっています。その推進力となる大会に。日本代表はあすの夜、初戦のチリ戦をむかえます。


きょうの潮流 2023年9月8日(金)
 岩手県知事選挙で5選を決めた達増(たっそ)拓也知事は、選挙戦の中で地方政治をすすめる基本精神として、憲法13条の「幸福追求権の保障」を掲げました▼「幸福追求」は、県内で多くの犠牲者を出した大震災津波と深くかかわっています。被災者の医療費の免除を11年間続けました。子ども医療費の窓口負担をなくす施策は、共産党の斉藤信県議の提案を受け入れたと知事の妻・達増陽子さんが明かしました▼「民主主義の原点、共同体の原点に立ち返り、復旧復興を進めていかなくてはならない」。何が人間にとって一番大事か。被災者に寄り添い復興を進めると、深く掘り下げ、思い定めたといいます▼岩手県が掲げてきたスローガン「希望郷いわて」の内容を膨らますため、4年前の県民計画から「幸福」の言葉を入れました。「幸福を守り、育て一人ひとりの幸福を増やす」。教育や健康・余暇など各政策分野に幸福指標を設けました▼震災後のまちづくりでは、「ショック・ドクトリン」といわれる、公共を破壊する新自由主義的なものを取り入れるやり方に断固反対を表明しました。そして、県民一人ひとりに寄り添う達増知事の哲学が、全国トップクラスの子育て支援を生み出しています▼岩手県が生んだ童話作家の宮沢賢治の言葉にある「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」。7年前の講演会で「この言葉が広く共有されている岩手ならではの幸福像を描くことができればと思っています」と語っていました。


きょうの潮流 2023年9月7日(木)
 「パフォーマンスにしか見えない」。地元で暮らす住民からこんな声が。先ごろ小池百合子東京都知事が新宿区歌舞伎町シネシティ広場にいる「トー横キッズ」の視察に来た時のことです。当事者に言葉をかけることもなく、数分で切り上げました▼「トー横キッズ」。歌舞伎町界隈(かいわい)に集まる、家での虐待や貧困で居場所を失った10代の少年少女たち。コロナ禍で家族が自宅にいる時間が増え、SNSで居場所を共有しやすくなり増加しました▼現場は深刻です。広場や路上の少女に、性搾取を目的に群がるおとなたち。少年はそのあっせんや万引き、詐欺まがいの違法行為に。薬物の過剰摂取や自傷行為、自殺未遂も頻繁▼おとなへの不信感が強い子どもたち。「否定からではなく、受け入れることから始めよう」と昨年来、支援活動を続ける日本駆け込み寺代表理事の玄秀盛さん。子どもたちの抱える問題は貧困や虐待などにつながっており、「一部だけに焦点を当てるのでなく、全体を見渡し正しく認識すること」と本紙に語ります▼行政の役割も問われます。現地を何度も訪れている共産党の沢田あゆみ新宿区議は、「子どもたちが安心してすごせるよう保護、支援と、自立のための環境をつくること」を区に迫ります。「ここまで放置してきた責任は誰にあるのか。行政が果たすべき役割がある」と▼若者たちがSNSで共有するメッセージに込めたものはなにか。その深層に耳を傾け、見せかけではない取り組みこそが求められています。


きょうの潮流 2023年9月6日(水)
 「辺野古新基地建設を阻止してもらいたいという県民の意思が変わってしまうわけではない」。沖縄県の訴えを退けた最高裁判決に、玉城デニー知事はこうきっぱりと▼新基地工事の着工後に発覚した、埋め立て区域に広がる軟弱地盤。一番深いところで水面下90メートルに及び、「さしずめマヨネーズ状態」とも称されるほど。沖縄防衛局は地盤改良のため設計変更を県に申請しましたが、県はこれを不承認に▼軟弱地盤の力学的試験をやらなくていいのか、ジュゴンの生育や海底面の環境への影響はどうか。県が問うたのは、承認要件に関わる専門的技術的視点からのものです。最高裁はその判断もしないまま、国の指示は「適法」だと▼弁論を開いて県の主張を聞くこともなく、国の求めるよう設計変更を認めよと迫る。そのありように民主主義・法治主義の危機の声が。地元紙・琉球新報は「『法の番人』としての気概さえ感じられない」「法治国家ならば、沖縄の民意に正面から向き合え」と▼デニー知事が岸田政権丸抱えの候補に大差をつけて再選したのは、わずか1年前。「新基地建設のノー、県民の思いは1ミリもぶれていない」と。それでも「唯一の解決策」とくり返してきた政府のいかに傲慢(ごうまん)か。それが、世界一危険と米国自身も認める普天間基地の閉鎖撤去を妨げてきました▼28年前、少女暴行事件を契機に開かれた県民総決起大会。「軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」。会場を震わせた女子高校生の訴えは今もなお。

きょうの潮流 2023年9月5日(火)
 「えっ、うそ」。はじめて見る数字でした。「208円」。レギュラーガソリン1リットル当たりの値段表示です▼大阪の高速道路のサービスエリア。思わずスマートフォンでパチリ。1リットル当たりハイオク219円、軽油187円でした。経済産業省が8月30日に発表したレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格(28日現在)は185円60銭。過去最高値を約15年ぶりに更新しました▼8月分の電気料金の請求書が届いて、これまたびっくり。前月と比べ5000円近く高くなっていました。猛暑続きで扇風機だけではしのげず、エアコンによる冷房は欠かせませんでした。ただこの請求額をみると「電気代が怖くて冷房が使えない」という人の気持ちがよくわかります。自宅で熱中症になる比率は高く、まさに命にかかわります▼こちらも額の大きさにびっくり。ケタ違いです。カジノ誘致と一体の大阪・関西万博の会場建設費は当初の1・5倍の1850億円に膨れ上がり、交通アクセスなどインフラ整備費は4000億円も上振れし総額7500億円。地盤沈下対策費はいくらになるかわかりません▼もっと大きな数字があります。大企業の内部留保はどんどん増え過去最高の511兆円(2022年度)。大阪労連の調べによると在阪大企業の内部留保は約47兆円(21年度)▼物価高騰対策は急務です。経済の活性化というなら、カジノ・万博頼みではなく、消費税の減税や内部留保を活用した中小企業支援による賃上げこそが即効薬です。


きょうの潮流 2023年9月4日(月)
 いまから100年前に1冊の本が世に出ました。「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました」という序で始まる『アイヌ神謡集』です▼1923年8月に刊行された同書は、アイヌの間で伝承されてきた叙事詩、カムイユカラ13編を日本語訳付きで収録しています。戦後、岩波文庫として再刊され、このほど補訂新版が発行されました▼この本を残したのは、現在の北海道登別市に生まれたアイヌの女性、知里幸恵です。冒頭に置かれた叙事詩の「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」という美しいフレーズが、読む人を先住民族アイヌの世界観の中に引き込みます▼心臓が悪かった彼女は、タイプで打ち直された原稿の校正を終えた夜に、発作を起こし亡くなったといいます。19歳という短い生涯でした。『神謡集』の出版は彼女の死から1年後です▼明治以降、日本政府による強制移住や同化政策によって先住民族であるアイヌはそれまでの暮らしや文化を奪われました。「研究目的」として墓地から遺骨を持ち出すことまで行われました。その中で自らの民族の文化に誇りを持って『神謡集』を残した知里幸恵の思いは引き継がれ、アイヌ文化やアイヌ語を守ろうという努力が若い世代も含めて続いています▼いまもアイヌに対する差別と偏見はなくなっていません。国としての謝罪はいまだなく、しばしば政治家による差別発言も。先住民としてのアイヌの権利と尊厳を守る施策が求められています。


きょうの潮流 2023年9月3日(日)
 「いまここから川にとびこんだら、どうなるんだろう」。絵本『橋の上で』で、自死を考えていた少年は出会った男性にこういわれます。「耳をぎゅうっとふさいでごらん」▼昨年の児童生徒の自殺は514人と過去最多でした。10代の死因第1位です。夏休み明けの9月に増加するといわれます。どうしたら止められるのか―。多くの人々が心を砕き、発信してきました▼自死をやめた人の物語がそれを抑止する「パパゲーノ効果」という仮説があります。タレントの中川翔子さんは10代のころ、「死にたい」と思い続けましたが、ネコをなでることで死に向かう気持ちが変わることもあったと▼厚労省は「ゲートキーパー(命の門番)になろう」とホームページで呼びかけます。その役割は「変化に気づく」「じっくりと耳を傾ける」「支援先につなげる」「温かく見守る」の四つ。「死にたい」「消えたい」などのネガティブな気持ちを含め、話を否定しないことが大切、と。「つらかったんだね」「よかったら聞かせて」と苦しい思いを聞く―。耳の傾け方がサイトで丁寧に書かれています▼教師がゲートキーパーになることで、一人でも多くの子どもを救える可能性が高まります。とはいえ1クラス40人近くの子どもたちを見て、多忙を極める教師たちにとって、子どもの悩みに気づくことは、ハードルが高い▼少人数学級にして、教師を増やすこと。過度な競争教育をやめること。命を守るためにも、子どもの心を大切にする社会が不可欠です。


きょうの潮流 2023年9月2日(土)
 この国の財政は、確実におかしくなっている。31日締め切りの2024年度概算要求を見て、そう感じずにはいられません。防衛省の概算要求が7・7兆円で過去最大。前年度から1兆円近く増え、他省庁と比べて突出しています。2年前からだと、実に2兆円以上の増加です▼これだけではありません。文部科学省(宇宙軍拡)、国土交通省(空港・港湾の軍事利用)、外務省(他国軍の支援)、総務省(軍事目的の情報通信研究)といった省庁も軍事関連経費を要求しています▼まるで「戦時国家」のような予算編成。新たな「国家総動員体制」と言える異常な動きの背景にあるのは、言うまでもなく、軍事費を「5年以内に2倍化する」という岸田政権の対米公約です▼とはいえ、国民は物価高に苦しみ景気は低迷。30年以上、成長が止まっているこの国の経済が上向く兆しはまるで見えないのに、どこにそんな財源があるのか▼政府・与党は先の通常国会で、医療機関の積立金など「税外収入」を充てるための軍拡財源確保法を強行したのに続き、政府保有のNTT株を売却し、軍事費に充てることを検討しています。もはや何でもありです▼しかし、5年以内に「2倍化」を達成したとして、それで終わりではありません。年間10兆円、11兆円という規模の軍事支出を何十年も続けることになります。一時しのぎの財源確保で賄えるはずはありません。大増税・社会保障削減という破滅的事態の前に、引き返すのは今しかありません。


きょうの潮流 2023年9月1日(金)
 天地も覆さんばかりの凄(すさ)まじき大音響。烈風は瞬時にして横浜全市を焦土と化し数万の生霊と幾十億の財貨を奪った。余は幾多の迫害、飢餓、疲労と闘いつつ、累々たる死体の山を越え、撮影を完成した―▼震災直後のありさまを記録したカメラマンの語りです。その映像は11時59分を指した高島駅の時計から始まり、立ち上る猛煙や廃虚と化した街、避難する人々の姿をとらえています▼いま神奈川県立歴史博物館の関東大震災展で流されています。巨大地震と、それに伴う火災や土砂災害、津波によって未曽有の被害をもたらした震災から100年。実相と教訓をくみ取ろうとさまざまな催しが開かれています▼関東大震災は復興と都市計画づくりの原点といわれます。しかし災害に強い都市づくりは国の怠慢によって現在も課題を残して。「壊滅的な被害を生んだ原因は街づくりの大失敗」。本紙日曜版でそう指摘した専門家は、いまの政府や東京都のやり方に警鐘を鳴らしています▼忘れてならないのは、混乱と人心の不安のなかで起きた軍隊や警察、自警団による朝鮮人や中国人の虐殺です。新宿にある高麗博物館では数々の資料や証言を示しながら、隠されてきた実態を赤裸々に暴いています▼いまだに調べもせず、虐殺の事実さえ認めない日本政府。1世紀前の教訓からみえてくる国のあり方や責任はここにも。「過去をふり返りながら、現在に努力し、将来に希望を持つための契機となれば」。展示を企画したある学芸員の思いです。


きょうの潮流 2023年8月31日(木)
 これは非常に大きな転換点だ。「当事者の会」のひとりは、性加害の事実を認めたことはすべての起点になるとして、改めて謝罪と救済を求めました▼1950年代から2010年代半ばまでの長期にわたり、所属タレントに対して性加害をくり返していたジャニー喜多川氏。「再発防止特別チーム」は、それを事実として認定し、ジャニーズ事務所の解体的な出直しに言及しました▼数百人が被害にあったとの証言も。原因はジャニー氏の異常な性的嗜好(しこう)にくわえ、姉で経営を担ったメリー喜多川氏による放置と隠蔽(いんぺい)、事務所の不作為。そして圧倒的な権力支配が招いた被害の潜在化にあった。特別チームの報告書はそう指摘しました▼生殺与奪を一手に握る絶対的な権力者。その強い立場を利用した性虐待を、被害にあった未成年者たちは拒むこともできなければ、相談や告発をすることも極めて困難であったと▼ジャニー氏による性加害は芸能界の関係者には広く知られていたといいます。セクハラやパワハラが起こりやすいといわれてきたエンタメ業界。メディアや広告業界を含めた土壌からの改善が求められています▼「笑顔と感動の輪を、世界に」。いまもジャニーズ事務所のホームページにはこんな言葉がおどっています。いびつな権力構造がいまだはびこる芸能界のなかで、人権に重きを置いた組織として生まれ変われるか。特別チームの座長を務めた林真琴弁護士はこう呼びかけました。「先頭に立って変えていくことを期待する」


きょうの潮流 2023年8月30日(水)
 演劇の甲子園とよばれる、全国高校総合文化祭(総文祭)の演劇部門。今夏の鹿児島大会で徳島県立城東高校の「21人いる!」が最優秀賞に輝きました。しのびよる戦争の暴力をじんわりと描いた出色の出来でした▼狭い地下室で活動している高校演劇部が舞台。男子上級生が一人、また一人と、命がけの「ボランティア」に指名されていきます。外では警報や爆発音が響き、ある日、女子部員も爆発に巻き込まれ…▼戦争という言葉はひと言も出さずに、地上で何が起きているかを感じ取らせる巧みな演出です。生き残った女子生徒は「死ぬならお花畑がいい」と語ります▼「誰も理不尽に巻き込まれない平和な世界というと、『頭の中、お花畑』と言われるやん。それでもいい。私はお花畑で死にたい」。後輩は答えます。「死なないで、お花畑で生きてほしい」と。目頭が熱くなる場面です▼戦争体験のない高校生たち。演出で出演もした3年生の浅野碧巴(あおとも)さんは「過去の経験を参考にしたというより、私たちがこれから経験するかもしれないこととして意識した」と語っていました。二度と戦争を経験することのないよう、あえて想像して見せた舞台でした▼城東高校は旧徳島高等女学校で、卒業生には作家の瀬戸内寂聴さんがいます。晩年まで戦争反対を訴え、車いすで国会前行動に参加した瀬戸内さん。後輩たちの快挙に目を細めていることでしょう。総文祭の優秀校による東京公演の模様は10月以降、ネット上でも配信される予定です。


きょうの潮流 2023年8月29日(火)
 あたしはもう黙らない―。突然の退去を突きつけられたシングルマザーたちが公営住宅を占拠。訴えたのは、人としての尊厳でした▼ブレイディみかこさんの新著『リスペクト―R・E・S・P・E・C・T』はロンドン五輪後に起きた実際の住民運動がモデルです。地域の再開発のもと、もとから住んでいた貧しい人たちが追い出される。そんな理不尽なやり方に対し女性たちが連帯して立ち上がります▼草の根の運動は多くの支持を集め、行政を追いつめていきます。いまやロンドンに限らず「都市の高級化」によって土地や建物が資本家に買い占められ、住む場所さえ奪われていく人々。格差の拡大はあらゆる分野であつれきを生んでいます▼英国上位企業の経営者の報酬が労働者の賃金の118倍にも。本紙国際面に載っていました。物価高で多くが苦しむなか、異常なまでの格差。労組の全国組織は「すべての人の生活水準を引き上げる経済が必要」だと▼貧しいということは、単にお金がないということだけではない。それが理由で、ほかの多くのものまで奪われてしまっている。何かを教わる機会や新しい環境にであうチャンス、自分に対する自信とか…。本の主人公が貧困への思いを▼「この国の政治が人々のために資産を使い、人々の尊厳を守るようになるまで、あたしたちが黙ることはありません」。パンと薔薇(ばら)をもとめ、人生の当事者になると宣言する彼女たち。たゆまぬ運動と団結が社会を変えていくと呼びかけるように。


きょうの潮流 2023年8月28日(月)
 性暴力の被害者・加害者を生まないとして文部科学省がすすめる「生命(いのち)の安全教育」。小学生向けの教材には水着で隠れる部分は人に見せたり触らせたりしないようにとあります▼「障害のある人の中には、自分の性器にふれることを肯定的にとらえていない人がいる」と河村あゆみさんは話します。大切なところだから触ってはいけないと教えられ、生理のケアが適切にできず性器のかぶれが生理痛だと勘違いしていた女性もいたと▼「性教育のネグレクト(放棄)はからだのケアまで止めてしまう」。河村さんは、障害のある青年たちが人間関係や性の多様性などを包括的性教育の観点から学びあう会にかかわっています▼青年たちの多くはふれ合いの機会がほとんどありません。ふれて心地よいところ、いやなところを知らず、自身のからだの主人公になれていないといいます▼オンラインで学びあうとき、知的障害者の恋愛・結婚・子育て、体の仕組みなどをテーマにしたテレビ番組などの動画を使います。河村さんら支援者が大切にするのは、障害のある仲間から発せられる疑問やつぶやき。次につなげます。「女性もセルフプレジャー(自慰)するの?」。ある男性の仲間の疑問に答えようと取り組んだときは、スタッフは悩みながらも力が入ったとか▼自分自身のからだや心の快を理解し、自身の良さを知る。そうしてこそ、お互いを尊重する豊かな関係性を築けるように。人権を大切にする包括的性教育の推進こそが、求められます。


きょうの潮流 2023年8月27日(日)
 「学校給食の無償化は、1%の財源で可能ってホント?」。こんな疑問から、島根県の中学校事務職員は県内の各市町を調査しました。どこでも一般会計予算の1%未満で実現できるとわかり「1人からでも始められる」と仲間たちに調査を呼びかけています▼本紙の調べでは、小中学校給食の無償化は全都道府県に広がっています。新型コロナ感染症対応による国の地方創生臨時交付金など期間限定も含め、今年度実施または年度内実施予定は491自治体です▼「なるべく早い時期に」「来年度から実施」という自治体、物価高騰分や半額補助、「第3子以降無償」など無償化への足掛かりとなる施策も各地で。少子化対策が主な目的だった無償化は今、「義務教育は無償」「食は基本的人権」という大きなうねりとなっています▼9月から無償となる愛知県安城市では食物アレルギーや宗教上の理由で給食を食べられなかったり、長期欠席だったりする場合でも給食費相当分を補助。「隠れ教育費」研究室の福嶋尚子さんや栁澤靖明さんらが呼びかけ人となり、国にリーダーシップを求めるネット署名「『#給食費無償』を全国へ!」も進んでいます▼無償なら食事の中身は問わなくてもいい、というわけにはいきません。地産地消、安全で豊かな給食を。そんな取り組みにも力を注ぐおとなたちの姿は、子どもたちの希望となることでしょう▼子どもにとってもおとなにとっても、昼ご飯の時間が楽しい、安らげるひとときになりますように。


きょうの潮流 2023年8月26日(土)
 困っている人のためになりたい。希望と使命感を抱いて入った自衛隊。それは、すぐに打ち砕かれました。性加害と、それを隠ぺいしようとする男社会の巨大な組織によって▼複数の男性隊員からうけたセクハラをめぐり、自衛隊とたたかう覚悟を決めた五ノ井里奈さん。この間の経緯や何度も折れそうになった心のゆらぎが『声をあげて』につづられています▼その場にいながら、何もなかったとしらを切る隊員たち。味方だと思っていた女性幹部の手のひら返し。まじめに調べない警務隊に居眠りする書記。信頼していた組織への失意から延長コードを首に巻き付けたことも…▼立ち上がったのは閉ざされた組織の中で自分のようにつらい思いをしてほしくなかったから。実際、埋もれた声は多々あります。このほど公表された防衛省・自衛隊のハラスメント調査では、被害の申し出があったものだけで1325件。そのうちの6割超が内部の相談員や相談窓口を利用していませんでした▼理由は、改善が期待できない、相談できる雰囲気や環境ではない、信用できない。勇気をふるって口を開いてもまともに対応されなかったり逆に脅されたり。防衛省が設けた有識者会議でさえ、組織としての意識改革の必要性を求めています▼いまも身を削りながらの裁判がつづく五ノ井さん。本来の自分はよく笑い、面白そうなことに挑戦することが好きだといいます。「わたしは性犯罪の被害者としてではなく、ありのままの自分で生きていきたい」と。


きょうの潮流 2023年8月25日(金)
 甲子園にすがすがしい風が吹きました。髪をなびかせ笑顔で躍動する選手たち。大舞台で楽しげにプレーする姿がそこにありました▼夏の全国高校野球大会。優勝した慶応は「エンジョイ・ベースボール」を掲げました。めざしたのは選手の自主性を育て選手自身が考える野球。森林貴彦監督は「うちが優勝することで高校野球の新たな可能性とか多様性とかを示せればいいなと」▼変化のきざしは以前からありました。20年ほど前に神奈川県の強豪私立高を取材したときのこと。長時間の練習をやめて合理的なトレーニングを導入。選手と話しあい、自発性を促す指導を心がけていました。県内では有志の監督同士が集まり、指導方針や練習法を研究しあうとりくみも▼慶応の前監督だった上田誠さんもその1人でした。長年続く高校野球の慣習に疑問をもち、それが今のエンジョイ・ベースボールにつながりました▼決勝で敗れた仙台育英もさわやかな印象を残しました。須江航(わたる)監督は「人生は敗者復活戦」で、負けたときに人間の価値が出ると。そして相手の優勝インタビューに拍手を送り続けた選手をたたえ、それが誇りだと胸を張りました▼教育の一環として位置づけられながら、体罰や丸刈りの強制、頭ごなしのスパルタ指導がいまだ絶えない高校野球。学校の宣伝のために有力選手を集め、選手を駒のように扱う勝利至上の考え方も根強い。しかし、変化の風は確実に起きています。部活動が成長の場として選手が主役となるためにも。


きょうの潮流 2023年8月24日(木)
 春はシラウオ、夏はアワビやカツオ、秋はヒラメ、サンマ、冬はアンコウにメヒカリ。1年を通してこの海で水揚げされる魚介類は、滋味に富むことから「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれます▼福島県沖に広がる、親潮と黒潮がぶつかりあう潮目の海。質のいい魚がたくさん取れるという豊かな漁場です。築地の水産関係者に聞いた調査では、ほとんどが「常磐ものはおいしい」と答えていました▼その海からの恵みは漁師や水産業者の努力によって食卓に届けられてきました。ところが、きょうにもそこに原発事故によって発生した汚染水が放出されようとしています。多くの漁業関係者や国内外の反対の声に背をむけて▼12年前の事故によって操業は自粛させられ、水揚げも低迷。漁業に携わる人も減っていきました。歯を食いしばり徐々にでも回復をめざす日々がつづくさなかの岸田政権の一方的な決定。しかも、関係者の理解なしには行わないと断言した約束までほごにして▼長きにわたる汚染水の海洋放出は漁業だけでなく、農業や観光業にも影響を及ぼします。風評被害はさらに広まり、すでに仕入れ業者や飲食店などからは慎重にならざるをえないとの声も。近隣諸国でも抗議や輸入停止の動きが起きています▼「あまりにも身勝手だ」「撤回せよ」と怒る現場。原発の安全神話をふりまき、事故後も不誠実な対応をくり返してきた政府と東電。「今後、数十年の長期にわたろうとも全責任をもって対応する」。そんな首相の言葉を信じられるか。

きょうの潮流 2023年8月23日(水)
 ミンミンゼミやアブラゼミがやかましく鳴いています。家の外壁には、数えるとセミの抜け殻が20個近くも。地面には人差し指が入るくらいの円い穴がいくつも開いています。地中で成長したセミの終齢幼虫が地上にはい出す脱出口です▼フランスの昆虫学者ファーブルは穴の周りに盛り土がないことの謎解きを「昆虫記」に書いています。観察と巧妙な実験から、穴の中で幼虫は小便をまき、土を湿らせ泥にして、漆喰(しっくい)のように壁に押し付けていると。穴から現れる幼虫が泥だらけなのもそのせいだと説明しています▼今年はファーブル生誕200年です。生涯をかけて「昆虫記」全10巻を著しました。原題とは違う「昆虫記」という訳は、無政府主義者の大杉栄による命名だといいます(『ファーブル昆虫記 誰も知らなかった楽しみ方』)▼大杉は第1巻を1922年に翻訳しています。「訳者の序」に、動物の糞(ふん)を食物とする糞虫の生活が描かれたファーブルの英訳書を獄中で読んだ感想を書いています。「其の徹底的糞虫さ加減!」等々と▼ファーブルに関するさまざまな批評家の言葉も紹介し“哲学者のように考え、美術家のように見、そして詩人のように感じ、かつ書く”といった批評家の言葉が「一番気に入った」。そして、続巻翻訳の計画を記しました▼しかし、それはかないませんでした。翌年の関東大震災の混乱に乗じ、大杉は妻の伊藤野枝、幼い甥(おい)とともに憲兵に殺害されたからです。いまも読み継がれる本をめぐる歴史です。


きょうの潮流 2023年8月22日(火)
 暗い海に投げ出され何日もいかだで漂流したこと。ようやく生還したのもつかの間、目の前で戦争が始まり、山の奥へ奥へと逃げまわった日々…▼先月末に88歳で亡くなった平良啓子(たいら・けいこ)さんは「対馬丸」と沖縄戦の生き証人でした。1944年8月22日、国の疎開方針によって沖縄から長崎に向かっていた船が米潜水艦の魚雷をうけて沈没。乗船していた当時9歳の啓子さんは6日間も海を漂い、流れ着いた無人島で助けられました▼半年後、故郷に帰りましたが、こんどは地上戦に巻き込まれ、避難生活を余儀なくされました。幼い心と体に刻み込まれた命の大切さ。自身が皇民化教育を徹底されたことから、戦後は平和をつくる教育をめざして小学校教諭を長く務めました▼語り部として県の内外を飛び回り、改憲や辺野古の米軍基地建設にも反対の声をあげてきました。つらい記憶をたどり、命あるかぎり語り継ぐと奮い立たせてきたのは、二度と戦争を起こさせないという固い意志でした▼軍拡や軍事的枠組みづくりへと、日本の政権がふたたび戦争への道に踏み出そうとしているいま、いやというほど悲惨な体験をあじわった平良さんらの訴えは、さらに重くひびきます▼およそ1500人が犠牲となった対馬丸の撃沈から、きょうで79年。平良さんは生前、大勢の子どもたちの遺影を前にすると、一人ひとりから呼びかけられているような気がすると話していました。あなたは生きている。平和のためにがんばっているの? 語れ、語れと。


きょうの潮流 2023年8月21日(月)
 首長竜フタバスズキリュウの骨格。世界最古といわれる旧石器時代の落とし穴。樹齢1600年の屋久杉。落下から1世紀余の時をこえて登録された越谷隕石(いんせき)…▼日本列島の生い立ちや自然が手に取るようにわかる展示物に、子どもたちが群がっていました。なかには夏休みの研究にと熱心に写真やメモをとる姿も。東京・上野にある国立科学博物館は家族連れでにぎわっていました▼その科博がインターネットで寄付を募るクラウドファンディングを始めたことが話題になりました。コロナ禍での来場者減に光熱費や資材の高騰が重なり財政がひっ迫していると。500万点をこえる文化財を保管するためにも一定の資金は欠かせません▼目標額は1億円でしたが、すでに7億円ほどが集まっています。それにしても情けないのは学術研究への国の支援のあり方です。軍事費にはけた違いの巨額をつぎ込み、多くの国民が反対する五輪や万博に湯水のごとく税金を投入する。一方で各地の文化施設は悲鳴をあげています▼これでよく文化国家などといえたものです。岸田首相は文化の振興に力を入れるといいますが、根幹の業務にさえ支障が出ているのに手をこまねくだけ。国が果たすべき役割を放棄するのか▼多種多様な動植物の標本や色とりどりの鉱物、刻まれた地質―。地球から与えられた宝物を守り、歴史をひもといていく博物館には科学の目を育てる大事な任務も。過去と未来をつなぐ活動を引き継いでいく責任が政府にはあるはずです。


きょうの潮流 2023年8月20日(日)
 きょう決勝戦が行われるサッカーの女子ワールドカップ(W杯)。そのまばゆい舞台の裏には、祖国を追われ、自由をなくし、試合もままならない“もう一つのたたかい”があります。W杯出場はできなかったものの、開催地オーストラリアに身を寄せるアフガニスタン女子代表のそれです▼2年前の8月、イスラム組織タリバンの政権掌握がきっかけです。以前に同政権が行った弾圧を懸念し、選手たちはすぐに出国。さまざまな協力を得て豪州にたどりつきました。現在は働きつつ、受け入れ先のクラブでサッカーを続けています▼この間、タリバン政権は50あまりの布告、命令で女性を家に閉じ込める施策を強行。女子が教育を受けられるのは小学校まで。中学、高校、大学からは締め出されています▼働く場も制限され、先ごろは女性の社交の場でもある美容院の閉鎖が決まりました。「肌を露出するから」とスポーツはできず、なぜか公園にも入れない。同国は「女性にとって監獄のような場所」と。国連は非難決議を上げ、国際刑事裁判所も動いています▼代表選手はある問題に直面しています。本国のサッカー連盟が政権の意をくみ、彼女らを代表と認めず、国際サッカー連盟も追認していること▼代表としてプレーすることは、本国で苦しむ無数の女性の生きる希望となるはず。これは同国の異常な性差別の現実を世界にさらし、良識の声で包囲する力にもなる。スポーツの枠を超え、自由と平等を求める気高いたたかいでもあります。


きょうの潮流 2023年8月19日(土)
 眼下に広がる穏やかな瀬戸内の海。緑あふれる山々。そんな自然に抱かれた町が揺れています。扱いに困った「ゴミ」を押しつけられようとして▼山口県の最南端にある人口2千人ほどの上関(かみのせき)町。これまで中国電力による原発建設をめぐって町は分断されてきました。さらに、原発で出た使用済み核燃料を一時的に保管する「中間貯蔵施設」づくりも推しすすめられています▼きのうの臨時町議会で建設に向けた調査を容認すると町長が表明。中国電力にも伝えたといいます。役場には反対する町民らが集まり、次つぎと抗議の声を。一部の人間だけで決めるな、核のゴミを持ち込むなと▼「トイレなきマンション」と例えられる原発。使うかぎり増え続ける高レベルの放射性廃棄物をどうするか。その問題が解決されないまま稼働させてきた国の無責任さが付けとなって、上関町をはじめ地方や過疎地に回されようとしています。財源や高齢化対策をエサにして▼原発が国内で使われ始めてからおよそ60年。再処理工場はゆきづまり、核のゴミの最終処分場も決まらない。夢の計画とうたっていた核燃料サイクルそのものが完全に破綻しています。それでもなお岸田政権は原発に依存し、見通しのない「サイクル」に固執しています▼日本は再生可能エネルギーの潜在量が電力量の7倍もあるという再エネの資源大国です。自民党政治が打つ手もなく不安と矛盾を拡大してきた原発推進。それを転換することが、多くの国民の願いでもあるはずです。


きょうの潮流 2023年8月18日(金)
 8月もお盆を過ぎたころから、そわそわしてきた思い出はありませんか。長かった夏休みもあと2週間余り。宿題の山が日に日に大きくなるような…▼そんな宿題事情を揺るがす事態が起きています。自然な文章をつくるという対話型の生成AI(人工知能)が急速に普及したためです。文科省は先月、学校でのAI活用法や留意点をガイドラインにまとめました。生成物をそのまま自分の作品として提出することは不適切、または不正行為に当たるなどと▼感想文や自由研究をAIに丸投げするかのような使い方にクギをさしたものです。何度か親やきょうだいの手を借りて、提出期限ぎりぎりに宿題を仕上げた経験のあるわが身からすれば、複雑な思いもありますが…▼もっともAIで作成した文章はすぐにばれるそうです。そこには、本来その子がもっている個性も癖も感じられないといいます。さらに落とし穴も▼以前、本紙コラムの「朝の風」にこんなことが書かれていました。小林多喜二についてAIに聞いてみたところ、代表作として「蟹工船」とともに「人間失格」と出てきて驚いたと。今回試したら、やっぱり間違ったままの文章が表示されていました。気づかなければ、と思うとぞっとします▼生成AIはウソをつく―。利用の流れが止められないなら、AIに振り回されるのでなく、どう活用するかをよく考えてみる。まずは親たちと一緒になってAIが誤る様子を体験してみては、と専門家。これも夏の宿題になりそうです。


きょうの潮流 2023年8月17日(木)
 思わず姿勢を正してテレビの画面に見入りました。NHKの「アナウンサーたちの戦争」(14日)。実録ドラマです。太平洋戦争中、NHKの前身、日本放送協会でアナウンサーたちが何を考え、どう動いたか▼主人公は、森田剛ふんする和田信賢アナウンサー。取材して原稿を書き、自らの言葉でラジオのマイクに向かっていました。その和田が時代の大きな波にのみ込まれていきます。1941年12月8日、日本軍の真珠湾攻撃の大本営発表を担当。「もっと勢いを」と軍艦マーチのレコードをかけることに▼43年、雨の出陣学徒壮行会では、前もって聞いていた学生たちの「死にたくない」「生きたい」という心情が、和田の頭をよぎり、実況できなくなります。戦意高揚をあおったラジオによる「電波戦」。国内だけではなく、南方占領地にも及び、現地で謀略放送を流していました▼放送は国の監督下に置かれ、情報統制が敷かれていました。しかし、アナウンサーたちが国の言いなりになっただけでなく、自分たちの意思で加担していった姿が描かれてもいます▼制作陣は、二度と過ちを繰り返さないようにと願って臨んだに違いありません。国民を戦争へと駆り立てた責任に、これまで口をつぐんできたNHKが、初めてその反省を込めた形です▼いま、主要メディアは岸田政権が進める大軍拡に目をつぶっていないか。沈黙も、「電波戦」と同じです。ドラマは、「新しい戦前」といわれる現在にジャーナリズムの役割を問いかけます。


きょうの潮流 2023年8月16日(水)
 先月、第169回芥川賞を受賞した市川沙央(さおう)『ハンチバック』が話題です。記者も己の無知と浅慮を痛烈に思い知らされました▼先天性の筋疾患で人工呼吸器と電動車椅子を使って生活する著者が、等身大の女性・釈華(しゃか)を主人公に健常者中心社会の偽善と欺瞞(ぎまん)を暴き出していきます▼まず胸を突かれたのは〈読書文化の特権性〉の指摘です。目が見えること、本が持てること、ページをめくれること、姿勢を保てること、書店に買いに行けること等、健常性を要求する紙の本を当たり前のように享受する人々へ容赦ない視線を向けます▼外出も困難で読むことと書くことが生きる証しでもある釈華。〈紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰(つぶ)れていく気がする〉〈本に苦しむせむし(ハンチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像もしたことがないのだろう〉と嘆息し、紙の匂いや感触をめでて電子書籍をおとしめる〈本好き〉たちの独善性を批判します▼生きるために壊れていく身体を抱え〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢〉と言い放つ釈華の痛みと悲しみも衝撃でした。この言葉を、女性障害者の性と生殖の権利を奪う社会への身を切るような異議申し立てと読めば、命の選別を是とするこの国の種々相が浮かび上がります▼作中、障害者運動を担った女性たちの実名も記されます。「プロテストソングがあるならプロテストノベルがあってもいい」と語る著者。本作が営々と受け継がれてきた悲願の一つの結実にも思えました。


きょうの潮流 2023年8月15日(火)
 その木は焼け跡に立っていました。大地に根をひろげ200年以上も生き続け、うっそうと葉が茂る。いくつもの幹や枝が絡みあい、空へとのびていました▼沖縄の伊江島でニーバンガズィマールと呼ばれる、ガジュマルの木です。78年前の沖縄戦をたたかった日本兵2人が、敗戦を知らずに2年間も身を隠した大木としても知られてきました▼島民のほぼ半数が命を落とした地上戦。それを物語る木には戦後多くの人びとが訪れ、平和学習の場にもなってきました。生き延びた兵士の体験は児童文学作家の真鍋和子さんが『ぬちどぅたから』にまとめ、井上ひさしさんが生前書いた「木の上の兵隊」という演劇にも▼不戦の象徴となってきたそのガジュマルが先の台風で倒れてしまいました。管理してきた宮城孝雄さんは「ショックだったが、なんとか復活させたい」と。根は残っていて関係者や村は専門家と相談しながら復元したいといいます▼「どんなことがあっても、もう二度と戦争は起こさないでください。人間にとって、これ以上の不愉快、不幸はないという、あらゆることを体験しましたから…」。樹上でくらした佐次田秀順(さしだ・しゅうじゅん)さんの言葉を真鍋さんが伝えています▼いまも伊江島をはじめ沖縄には米軍基地が居座り、米国の対中軍事戦略の最前線とされています。政権の中枢を担う人物が台湾にたたかう覚悟を迫る異常さも。佐次田さんは木から降りても平和を求め続けました。命を救ってくれたガジュマルに誓った終戦の思いを胸に。


きょうの潮流 2023年8月13日(日)
 戦前、日本軍が侵略して中国東北部に建国した、かいらい国家「満州国」を舞台に人体実験や細菌兵器の実戦使用をした731部隊(関東軍防疫給水部)と100部隊(関東軍軍馬防疫廠〈しょう〉)。その二つの部隊の関東軍司令部作成の「職員表」が、戦後78年のこの夏、初めて見つかりました▼731部隊の実態は、生存者の証言や研究者の努力で、その全体像の解明は進みました。他方、100部隊はハバロフスク軍事裁判での供述などがあるだけ。傷病軍馬の治療防疫の「研究機関」の内実は闇の中でした▼職員表は、明治学院大学国際平和研究所の松野誠也研究員が「昭和十五年軍備改変に拠(よ)る編成(編制改正)詳報(其二)」という文書から発見。「国立公文書館に通い、粘り強く地道な資料調査を繰り返すなかでようやく見つけた」貴重な1次資料です▼赤い字で「軍事機密」の印がある「軍馬防疫廠将校高等文官職員表」には、階級別に36人の氏名が。「獣中尉」の「逆瀬川貞幹(さかせがわ・さだもと)」ら戦後大学の獣医学部教授になった人物も多数います▼どんな論文を書いたか。回想録があれば何を語り、なぜ語らないのか。闇の部隊が担った軍事的役割を探る地道な研究・検証はこれからです▼岸田政権による学問・研究に軍事を持ち込む戦前回帰の動きが強まるなか、松野氏は危機感を強めて話します。「歴史研究者の使命とは歴史の真実、とくに悲惨な戦争の実態や加害の歴史の真実を明らかにすること。その過ちを繰り返さない土台をつくることです」


きょうの潮流 2023年8月12日(土)
 いま大阪で懸念されていること。「空飛ぶ車」ならぬ「空飛ぶパビリオンにならないか」▼2025年4月から10月まで大阪市此花区・夢洲(ゆめしま)で開催が予定されている大阪・関西万博。人手不足、資材高騰、残業規制の強化などでパビリオンの建設が遅れ開幕に黄信号がともっています。自前で建てる60カ国のうち建設業者が決まっているのは6カ国にすぎません▼開幕に間に合わせるためさまざまな案が取りざたされています。そのひとつがパビリオンを「プレハブ工法」にする案です。工期も短く建設費も安くなるというわけです。「大丈夫なのか」と不安の声が一気にあがりました。思いだされるのは18年の台風21号▼強風で夢洲の積み上げられたコンテナが飛び散乱しました。近くの咲洲(さきしま)の駐車場では多くの車が舞いあがり横転。取材した記者にコンテナ関係者は「あの重いコンテナが」と絶句し車の持ち主は「笑うしかない」とあぜん。夢洲がいかに災害に弱いかを印象付けました▼なかでも怒りを呼んでいるのは残業規制の緩和です。日本国際博覧会協会が、政府に対し時間外労働の上限規制を万博工事に適用しないよう要望したと報じられました。20年東京オリンピック・パラリンピックでも新国立競技場の建設工事の遅れを取り戻すために作業員が過酷な長時間労働を強いられ、過労死や過労自死の被害が起きました▼大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」のはず。いのちと人権を軽んじる姿勢は、開催理念にも反します。


きょうの潮流 2023年8月11日(金)
 富士五湖を眼下に、樹林のなかを走り、富士山五合目に至る富士スバルライン。周囲の山並みがひろがる絶景のドライブウエーとして人気です▼いまそこに路面電車を走らせる計画が進められています。山梨県が導入を図ってきた「富士山登山鉄道構想」です。今年6月に事業化を検討する予算が初めて計上されましたが、地元をはじめ反対の声は多い▼「世界遺産で山岳信仰のある富士山を、地元としてこれ以上手をつけることなく、今の状態で守るべき使命がある」。吉田口登山道のある富士吉田市の堀内茂市長が、共産党県議団との懇談で訴えています▼鉄道建設の課題や危険性も指摘されていることから「現実を知らない計画だ。富士山を稼ぐ道具にしてほしくない」とも。もともと財界と一体となって推進してきた計画で、検討委員会には経団連の名誉会長を筆頭に各企業の代表らがずらりと並んでいます▼1400億円もの整備費が見積もられている登山鉄道については党県議団も「海外富裕層の呼び込みが目的で、環境保全の点からも一貫して反対してきた」。県は名目の一つに環境負荷の低減をあげますが、電気バスの利用で十分対応できると。いまでさえ登山者の急増が問題となるなか、さらなる開発や呼び込みが環境悪化に拍車をかけることは必至です▼富士山に限らず、開発や災害で傷ついた各地の山々。山国日本にありながら山の環境や保全に寄せる人びとの関心は薄い。山に親しみ、山の恩恵に感謝する。きょうは山の日。


きょうの潮流 2023年8月10日(木)
 炎天下のソウルで1人デモが行われています。1923年9月1日の関東大震災時に起きた朝鮮人や中国人、社会主義者らの虐殺から1世紀。韓国でも真相究明を求める声が高まっています▼デモを主宰するのは市民の会「独立」。8月の1カ月間、メンバーが交代でプラカードを手に街頭に立ち、日韓政府に虐殺の実相を明らかにするよう求めています。李萬烈(イ・マンヨル)理事長は「事実を明らかにすることは、恨みを深化させることではない。許しと和解で解決していく契機に」と呼びかけました▼「独立」のメンバーは7月に来日し、虐殺の事実を記憶し続ける日本の市民と交流しました。荒川沿いで起きた虐殺の実態を掘り起こしてきた団体「ほうせんか」、74年から追悼式典を続けてきた日朝協会の人たちです▼墨田区の横網町公園にある追悼碑の前では、日朝協会東京都連の宮川泰彦会長が、都知事が追悼文の送付を拒否している問題を紹介。「100周年は終わりではなく、たたかいの始まりだ」と語る宮川氏の言葉を、参加者は深く胸に刻みました▼「独立」は帰国後、SNSにこうつづりました。「記憶を伝承したのは、在日朝鮮人と良心的な日本市民の連帯だった」「共感と連帯を通じ、平和をつくることに参加する」▼日本では8月から9月にかけ、追悼式や国会前のキャンドル集会などが計画されています。テーマは「歴史に向き合い、国家の責任を問い、再発を許さない共生社会への第一歩を!」。日韓の市民が共に歩む節目の年に。


きょうの潮流 2023年8月9日(水)
 仲むつまじい家族の写真や日記、柱時計や食器…。そこにあったのは、それぞれのくらしであり、夢や希望を抱いたかけがえのない人生でした▼ある一家が買ったピアノ。家族の一員のような存在で、奏でる音は幸せの象徴だったといいます。しかしあの日、爆風によってガラス片が突き刺さり、傾いてしまいました。修復して使ってきましたが、平和のために役立ててほしいと寄贈しました▼いま長崎の原爆資料館で収蔵資料展が開かれています。きのこ雲の下にあった生活と、それを残してきた人びとの思いにふれることで、被爆の実相を「自分ごと」としてとらえてほしいと。「もの言わぬ語り部」の重要性を訴え、いまも被爆資料収集の協力を呼びかけています▼被爆証言をほりおこす活動も続けられています。半世紀以上も前から被爆者や市民による証言、告発をすすめてきた「長崎の証言の会」。地道な聞き取りで被爆の実態を発掘。刊行してきた証言集は36集を重ね、若い書き手も加わっています▼「原爆の被害にはその影響とともに時間的なひろがりもある。それを記録して残すことが核兵器の恐ろしさを伝えることになる」。今年から同会の代表委員となった長崎総合科学大名誉教授の大矢正人さんは活動の意義を▼きょう、長崎原爆の日。ふたたび戦争を身近に感じ、軍拡が迫るなか、反戦反核の運動を継続してきた人たちは口をそろえます。いまほど草の根の力が必要なときはない。平和を守り抜くために力を合わせましょう。


きょうの潮流 2023年8月8日(火)
 先月100回を迎えて終了した本紙文化面の連載「ねんてん先生の文学のある日々」。惜しむ声や感謝の言葉が寄せられる中、ねんてん先生こと俳人の坪内稔典さんは79歳にして新たに「窓の会」を結成しました▼「句会、歌会、詩の朗読会、読書会、フリートーク、何でもあり。俳句を核に現代的な問題に広く関わりたい」。従来の結社にありがちな上下関係や閉鎖性を廃し、会員の呼称も同人ではなく「常連」。一人ひとりの自由を尊重します▼会の主要な活動の一つが各地で開催する「ことばカフェ」です。2日、池袋で開かれた第1回「ことばカフェ東京」に参加しました▼北海道から福岡までの約60人が集い、まずはねんてん先生と俳人の池田澄子さんが対談。池田さんといえば〈じゃんけんで負けて蛍に生まれたの〉が有名ですが、一句でも覚えてもらえるのはすごいことだとねんてん先生。あの子規も数万詠んだ句のうち知られているのは〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉のみ、と笑いを誘いました▼続いて句会ライブです。全員の投句を読み一人2句ずつ選句。選んだ人の数が句の点数に。10点を得た第一席は〈遠花火先生の手に醤油(しょうゆ)さし〉いたまきし、8点の次席は〈おそろいの浴衣おそろいの腎臓〉牧野冴。喚起される情景を語り合い、作者の意図を聞くのも楽しい▼言葉が思考と感受性を耕し、人をつなぐことを実感したひとときでした。最後に、いつもお守りにしているねんてん先生の句を。〈がんばるわなんて言うなよ草の花〉


きょうの潮流 2023年8月7日(月)
 追悼の祈りとセミの鳴き声。今年もまた原爆ドームの周りにさまざまな国や地域から人びとが集まりました。各集会や催し、交流や署名。平和をもとめる息吹に満ちた被爆地の姿です▼その思いに政府はこたえているのか。平和記念式典で広島の首長は核兵器廃絶の最大の障害となっている核抑止論をそろって批判しました。しかし岸田首相は、そのことにまったくふれず、具体的な行動も示しませんでした▼先のG7広島サミットでも世界の首脳を被爆地に集めながら、核兵器の役割を認め、核抑止論を公然と内外に示す恥ずべき姿をあらわに。それを手柄のように話した岸田首相に怒りがひろがりました▼このサミットを改めて検証した広島ホームテレビ制作の「原爆資料館 閉ざされた40分」。完全非公開とされた視察のなかで首脳たちが何を見て、何を感じたのか。番組は関係者らに迫りましたが、被爆者をはじめ失望や疑問の声が相次ぎました▼原爆が落とされた場所で、78年たった今も核なき世界へと動き出せない日本政府と核に固執する国々。G7首脳と面会した被爆者の小倉桂子さんは「広島から、新しい核のない世界に向かって一歩をふみだしてほしい」と。それは多くの願いでもあるはず▼待ち焦がれるような気持ちを共有し、平和のための行動を一人ひとりが心に刻む被爆地。原爆の日、広島市の小学生が読み上げた「平和への誓い」は変化を恐れる勢力に訴えかけるように響きました。「みなさんにとって『平和』とは何ですか」


きょうの潮流 2023年8月6日(日)
 色鮮やかな折り鶴の周りに人びとが集います。家族連れや学生、外国人の姿も。戦争の悲しみのない世を希求しながら▼広島の平和記念公園にたつ「原爆の子の像」。モデルとなった佐々木禎子さんのことを将来に語り継ぐための後継者づくりが始まっています。これまで同級生だった川野登美子さんらが中心となってきた証言活動。語り部の育成には被爆の風化と後退する平和教育への危機感があります▼いま平和記念資料館では「被爆体験伝承講話」が毎日開かれています。被爆者の体験や被爆の実相、そして自身の平和への思いを伝承者としてわかりやすく説き聞かせます▼被爆者が高齢化していくことから広島市が養成、2015年から活動を開始しました。いまでは20代をふくめ200人ほどが伝承者に。その数は年々増えているといいます▼一方で平和教育を教育の原点としてきた広島市の教材から「はだしのゲン」が消されました。理由や経緯は不明瞭ですが、「日本会議」や自民党の議員が参加する団体から削除を求める声が上がっていました。これには現場の教員や被爆者団体から批判が相次いでいます。なんのための平和教育かと▼ロシアが再三、核兵器を使うと脅し、米国では映画をめぐって原爆をやゆする画像がSNSで拡散。核なき世界の歩みに逆行する動きがあるなか、きょう78回目の8月6日をむかえます。伝承者は呼びかけます。「次の世代によりよい世界を渡さなければ。私たちの活動は平和への種まきなんです」


きょうの潮流 2023年8月5日(土)
 「涼しいエアコンの中で観戦している人には分からないのでしょう」。6日に開幕する全国高校野球選手権の試合開始時間をめぐる、青山学院大駅伝部の原晋監督のツイートです。3日の抽選会を見ながら、やはり、分からなかったようだと落胆しました▼4試合が組まれている日は午前8時に始まり、日中も試合が途切れません。決勝戦はおそらく1日で気温が最も高い時間帯の午後2時に開始。すべて例年通りで、近年の酷暑は何ら考慮されていません▼選手以上に過酷なのが観客です。「銀傘」と呼ばれる屋根に覆われているのは内野席まで。各校の応援団が座るアルプス席はさえぎるものがありません。銀傘はかつてアルプス席までありましたが、戦時中の1943年、金属供出のため取り外されました▼環境省の熱中症予防指針を見ても、31度以上は「激しい運動は中止」です。長期予報を見ると、甲子園球場周辺は35度前後まで上がる日が多い。せめて、早朝やナイターの時間帯中心にすべきです▼高校生たちに、命の危険さえ感じられる時間帯での全力プレーを求めているのは、それを美談として描いてきたメディアなどおとなたちです。灼熱(しゃくねつ)地獄で行われる高校野球を放送する傍ら、テロップで熱中症予防を呼びかけるNHKには、不条理さえ覚えます▼世界最高峰にまで到達した日本の野球ですが、競技人口は減少しています。暑さに耐えることを美徳とする「甲子園神話」にいつまでとらわれているのか。もはや脱却すべき時です。


きょうの潮流 2023年8月4日(金)
 「語り合い」というという言葉を、何度も何度もかみしめた「保育合研」でした▼保育者や保護者、研究者、学生らがつどう第55回全国保育団体合同研究集会。福島県郡山市で3日間、オンラインで全国と結びながら、語り合い、つながり合いました▼保育者と保護者との間で、思いがすれ違うこともしばしばです。良かれと思って、子どもの体調のことを細かく伝える保育者。ところが働き詰めの保護者は、自分を責められたような気がして「保育園が怖い」「話をしたくない」とつい心を閉ざしてしまった話も▼保育者にも余裕がありません。どんなに時間をかけても追いつかない業務量。人手は相変わらず、足りないままです。「私たちの大変さを知ってほしい」という思いは、保護者にとっても保育者にとっても切実です。安心して自分の大変さを言葉にできる場が大切なこと。おとな同士のつながりをつくるのが保育園の役割であることを改めて確かめ合いました▼全体会で、名城大学の蓑輪明子さんは「子どものケアが優先される社会へ」と、ケア中心の政策への転換を呼びかけました。すべての人が他者を配慮して支え合う。その関係を結べる場が保育園です。大阪大谷大学の長瀬美子さんは「多様な他者と出会い、いろいろな人がいることを学べる場」と。人が人として生きていくために、保育園の役割はやはり大きい▼保育者を孤立させない。保護者も孤立させない。おとな同士、やっとつないだ手を離さないよう今できることを。


きょうの潮流 2023年8月3日(木)
 信仰とは、戦争とは人間の善悪とは―。第2次大戦前に米国に留学した日本人の神学生を主人公に、人びとの心の変化を描いた戯曲「善人たち」。遠藤周作の未発表作品です▼きょうから劇団民藝が初演します。1970年代後半に書かれたそうですが、現在に通じる問題も背景に。差別や格差をえぐりだしながら、憎しみの感情はどこから生まれてくるのか、ほんとうの人間愛とは何かを問いかけてきます▼「善人たち」を含む3本の戯曲は2年前に長崎市の遠藤周作文学館で見つかりました。いまそこで、生誕100年の企画展「100歳の遠藤周作に出会う」が催されています。生涯や作品をたどることで遠藤文学の魅力を次の世代につなごうと▼文学館がたたずむ外海(そとめ)の地域はキリシタンの里と呼ばれ、小説『沈黙』の舞台となった場所です。戦争中に育った遠藤は「自分の生き方や思想・信念を暴力によって歪(ゆが)められざるをえなかった人間の気持」を小説のスタート地点としました(『沈黙の声』)▼「母親が私に着せてくれた洋服」と表現したキリスト教との葛藤。魂の救済や弱者に目をむけながら、人間の悲しみや苦しみによりそい、生きることに思い悩む人びとへの救いを追い求めました▼「小説家は迷いに迷っている人間なんです。暗闇の中で迷いながら、手探りで少しずつでも人生の謎に迫っていきたいと小説を書いているのです」(『人生の踏絵』)。展示された言葉から、背負い続けた作家の苦悩と味わい深さが伝わってきます。


きょうの潮流 2023年8月2日(水)
 宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」は賛否が分かれる映画です。冒険活劇にわくわくした、映像美に圧倒されたという絶賛から期待外れ、既視感のある場面が多いという否定派まで感想はさまざま▼主人公の少年眞人(まひと)は戦争中、空襲で母を亡くします。軍需工場主の父は、母の妹ナツコと再婚し、一家は地方へ疎開。ある日、姿を消したナツコを捜して、眞人が謎の塔へ入っていくと、そこは時空を超えた異世界でした。眞人はナツコを救い出すことができるか…▼眞人は塔の主から、世界の均衡を保つ役割を継いでほしいといわれます。「悪意に染まっていない石」を使えば、「奪い合い殺し合う」世界を変えることができると▼しかし「悪意」は眞人自身にもあります。どうするのか―。ここで映画の題名の元となった吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』を思い起こしました。友達を裏切った自責の念に苦しむコペル君に、おじさんはパスカルの言葉を送ります▼「人間は、自分自身をあわれなものだと認めることによってその偉大さがあらわれるほど、それほど偉大である」「王位を奪われた国王以外に、誰が、国王でないことを不幸に感じる者があろう」。過ちを知る人間は、それを正せるのだと▼宮崎監督は漫画版『風の谷のナウシカ』のラストで、単純な「清浄な世界」を否定し「清浄と汚濁こそ生命だ」と書きました。みずからの汚濁と悪意を引き受けてこそ未来がある。10年ぶりの新作に込めた監督のメッセージです。

きょうの潮流 2023年8月1日(火)
 月が替わっても変わらないのが物価高。8月も1000品目以上の食品が値上げされ、今年の値上げ品目数はとうとう3万をこえました。すでに昨年1年間の数を上回っています▼これだけ続くと買い控えも値上げ疲れも限界に。消費者物価指数が22カ月連続で上昇する一方で、実質賃金は14カ月連続の減少。そこに猛暑や大雨も加わり、くらしの苦難は耐えがたいほどになっています▼そんななかフランスに「研修中」という自民党女性局のふるまいが批判を浴びています。エッフェル塔前でポーズをとった写真や、宮殿内の記念撮影を次々とSNSに投稿。参加者全員がエッフェル塔を背景に「自民党女性局」と赤文字で大きく記された横断幕を手にする画像も▼これには「どう見ても観光旅行」「世間と感覚がズレている」と非難する声が殺到。参加者の投稿によれば一行は国会議員を含む38人。旅費については「党からの支出と相応の自己負担」で賄っているといいます。政党助成金は税金なのに…▼海外視察をめぐっては、香川県議会をはじめ、あまりの高額な旅費がたびたび問題になっています。ほんとうにそれが必要なのか、視察や研修の中身はどうなっているのか―。厳しい目が向けられるなか、無反省さが際立ちます▼先日、岸田首相は「今年の夏は改めて政権発足の原点に戻り、現場の声、さまざまな声を聞く取り組みを進めている」と。ならばまず、国民が苦しんでいる姿を足元からしっかりと見るように指導してもらいたい。

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