潮流(コラム)

きょうの潮流 2023年9月23日(土)
 いまや社会に定着した感があるオンライン署名。インターネットを使った署名集めは、誰でもどこからでも無料で立ち上げられ、住む場所を問わずさまざまな人たちとつながれます▼社会や政治を変えるためにそれを利用する動きも若者を中心にひろがっています。これまで国内最多のオンライン署名は「東京五輪反対」の46万ですが、いまそれを上回る50万の声を募ろうというとりくみが進められています▼「STOP!インボイス」。岸田政権が来月から強行しようとしている消費税の新たな増税の仕組みに反対する署名です。主催の「インボイス制度を考えるフリーランスの会」は、官邸前行動の25日までに目標を達成して岸田首相や鈴木財務相に届けたいといいます▼同会の発起人でライターの小泉なつみさんは、強い者をより強くし、弱い者をさらに弱くする税制がインボイス制度だと訴えます。「この国らしさをかたちづくる文化と産業を破壊し、私たちに分断と増税、混乱を招く希代の悪法」▼いままで免税されてきた零細企業や個人事業主、フリーランスで働く人たちにとっては死活にかかわる問題。署名の呼びかけにも多様な働き方を否定するものだと▼岸田首相は国連で多様性や人間の尊厳を強調しました。いくら言葉を飾ったところで、国内で真逆なことをしていては恥ずかしい姿をさらすだけです。多種多様な人々がつながった反対の声。インボイスには「送り状」の意味もあります。中止のそれをいま首相に送りつけたい。


きょうの潮流 2023年9月22日(金)
 サザンオールスターズの新曲が今週から配信されています。「Relay(リレー)~杜(もり)の詩(うた)」。公開されたミュージックビデオでは桑田佳祐さんがモノクロの世界で森の中を歩き、ビルの谷間にたたずんでいます▼木々や街に息づく人びとに語りかけるようなバラード。大切な場所への思いや未来への憂いが伝わってきます。神宮外苑の再開発見直しを訴えた坂本龍一さんの遺志を受け継いだ曲。桑田さん自身が明らかにしています▼内苑とともに先人が100年先をみすえてつくった都会のオアシス。そこに根づく3000本もの樹木が伐採される計画があらわになるにつれ、市民や著名人が次々と反対の声をあげてきました▼伐採中止を求めた市民団体の声明には作家の浅田次郎さんや歌手の加藤登紀子さん、俳優の秋吉久美子さんらが名を連ね、作家の村上春樹さんも再開発に強く反対。漫画家のちばてつやさんは「社会には目先の経済や、人間の都合に左右されず、大切にして守るべき大事なものがある」と▼ユネスコの諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)も事業者や東京都に対し、計画撤回と決定の見直しを要請しています。小池都知事は樹木の具体的な保全策を示すよう事業者に求めましたが、計画そのものを白紙にすべきではないのか▼市民や共産党都議団が追及してきた貴重な森の破壊。反対の声の「リレー」は大きなこだまとなって社会に響いています。先の歌で桑田さんが最後に「意志を継(つ)ないで」と呼びかけたように。


きょうの潮流 2023年9月21日(木)
 世界遺産のハロン湾や古都ホイアン、ダナンといった海辺のリゾート地。首都ハノイやホーチミンの都市めぐり。ベトナムは日本でも人気の観光地です▼コロナ禍前、日本からの訪問者が多かった国・地域の中でベトナムは上位に入っていました。逆にベトナムからも技能実習生や働き手が多く来日しています。厚労省によると、昨年10月時点の外国人労働者の数は約182万人で過去最多となりましたが、そのうち4分の1超がベトナム人でした▼日本とベトナムが外交関係を樹立してからきょうで50年。ベトナム戦争で米軍が撤退した年に結ばれて以来、人的交流をはじめ両国の関係は広い分野で発展してきました。節目の今年はさまざまな催しが開かれています▼先の大戦で日本はベトナムを占領し、ぼう大な餓死者を出した加害の歴史があります。その後もベトナムは南北が分断され、ベトナム戦争へ。そのとき米軍が大量散布した枯れ葉剤による人体や環境への影響は現在も続いています▼「明日の侵略者を抑止するために、われわれは今日のむき出しの侵略に立ち向かわなければならない」。国連総会でそう訴えたバイデン米大統領。ウクライナへの軍事侵攻をやめないロシアに対し、国際社会の連帯が必要なのは言をまちません▼同時に米国や日本にも侵略の歴史はあり、今も他国を軍事拠点とする米軍の戦略は世界を圧迫しています。自主独立の国としてアジアの平和をめざしていく道にこそ、日本とベトナムの未来があるはずです。


きょうの潮流 2023年9月20日(水)
 きょうから、秋のお彼岸です。暑さ寒さも彼岸までといいますが、真夏のような日照りが収まる気配はありません。厳しい残暑に体力や気力を削られる日々が続きます▼今年の夏の暑さはとびぬけていました。平均気温は平年に比べ1・76度も高く、各地で過去最高気温を記録。気象庁が統計をとり始めた125年間で最も高くなりました。日本近海の海面水温も過去最高でした▼日本に限らず6月~8月の地球の気温は、記録の残る1880年以降で最も暑かったそうです。高温だけでなく大雨や嵐、干ばつや熱波と異常気象は世界の至る所で。地球温暖化による森林火災の悪化も深刻で、最近は1年で東京都の約40倍にあたる面積が焼失しているといいます▼「気温の高まりは、行動の高まりを要求している」。国連のグテレス事務総長は、各国の首脳らに気候危機への熱意ある対策を改めて呼びかけました。一刻の猶予もならない、と▼持続可能な開発目標(SDGs)や気候問題を話し合う国連総会が始まりました。真剣なとりくみを急いでと、声を上げる世界や日本の若者たちの姿を本紙が伝えています。「気候危機は人類文明に対する真の脅威。21世紀の主要課題だ」。とどまることを知らない資本主義の欲望への糾弾です▼暑さ寒さも彼岸までの言い習わしには、つらいことや困難があってもいつかは終わる、乗り越えられるという意味もあります。それはただ過ぎ去るのを待つのではなく、人々の行動によってこそ実現するはずです。


きょうの潮流 2023年9月19日(火)
 壁画で有名な高松塚古墳など古墳群や宮跡などが密集し、田園地域が残る奈良県明日香村と橿原市。シリーズ「農と食 現場から」の企画で訪ねました▼近鉄吉野線沿いでは「古代ロマンの息吹感じられる、日本の原風景がここにある」など「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の世界遺産登録をめざすキャンペーンが▼案内役は日本共産党明日香村議で、奈良県農民連会長の森本吉秀さんです。「“インスタ映え”する人気の観光スポットがあちこちにあります」。県農民連事務所近くの高台には、牽牛子塚(けんごしづか)古墳・越塚御門(こしつかごもん)古墳があり、周りの田んぼで稲穂が金色に輝き、秋の風情を感じさせます▼「ここは私が長年、無農薬で化学肥料を使わずに有機栽培しています」と森本さん。イノシシやシカの獣害対策のため細い電線で囲った場所もあります。田畑を維持・管理する森本さんら農業者の務めです▼最古の歌集『万葉集』で詠まれた“天の香具山”の麓・橿原市下八釣(しもやつり)町では、農薬や化学肥料を使わない有機農産物の学校給食活用を通じて地域農業を再生させる取り組みが始まっています。半農半Xの市民や女性も参加する「かしはらオーガニック」です。代表の山尾吉史さんは危機感を込めて話します。「農業の担い手が高齢化して、耕作放棄地が増えています。手をこまねいていられない」と▼古代ロマンに欠かせない田園風景を残すというなら行政が行うべきは農業振興です。遅くない将来、古くからの田園風景が消滅しないために。


きょうの潮流 2023年9月18日(月)
 職場で神経をすり減らし、家庭でも問題を抱える息子。地域の仲間と一緒にボランティア活動に励み、恋にもときめく母。山田洋次監督の新作「こんにちは、母さん」は下町を舞台にした親子の物語です▼3世代の家族をみつめながら親子の情愛を描きました。そこには現代社会を生きる人びとの悲哀とともに、老いてゆく人間の孤独や不安も映しとられています。自分や家族の老後を考えさせられるように▼きょうは敬老の日です。厚労省の発表によると100歳以上の高齢者が全国で9万2千人をこえ、53年連続で最多を更新しました。2012年に5万人をこえて以降、およそ10年で倍近くに。なかには世界最高齢の薬剤師としてギネスの世界記録に認定された女性もいます▼人生100年時代の幕開け。しかし一方で高齢者を「老害」とみなし、長生きを負い目のように感じさせる風潮もあります。介護難民や孤独死を生みだしている政府の冷たい「切り捨て政策」があるからです▼実際、高齢者をとりまく状況は厳しい。職もなく年金は少ない。医療や介護の負担は増すばかりで将来不安を訴える声も多い。日本は先進国のなかでも高齢者の貧困率が高く、老いることが貧しくなることに直結しています(『「人生百年時代」の困難はどこにあるか』)▼先の映画では、異なる価値観や考え方をもった世代が交流しながら、それぞれが新しい生き方を模索していきます。老いとは、生きがいを感じられる人生とは。その意味を問い直すように。


きょうの潮流 2023年9月17日(日)
 漫画家の中沢啓治さんが広島で被爆した自身の体験を込めた『はだしのゲン』。ゲンの目の前で父と姉、弟が亡くなっていく場面は強烈でした▼24の言語に翻訳されています。ほとんどがボランティアの手によるといいます。中国語に訳したのが、名古屋市在住の坂東弘美さんです。2008年から7年余りをかけて。その逸話がこの夏、NHKEテレ「こころの時代」で伝えられました▼きっかけは、日中戦争に出征した父親の話です。沈黙していた父が73歳のとき、小学生の孫と坂東さん宛てに手紙を書いてくれました。3カ月間で便箋343枚に及びました。中国で何をしてきたか。「隠れていた婦女子を見つけ銃剣で刺殺…」▼優しい父がどういう顔をして殺したのだろう。坂東さんは中国に渡る決意をします。北京の中国国際放送で働いているときに、タイ語の『はだしのゲン』に出合います。民族差別や中国への加害の歴史も描いているのを知って、中国語に翻訳しようと決めます▼引き込まれた登場人物は、ゲンの父親。ゲンに「しっかり生きろ」「麦のように」と言い続け、戦争は間違っていると主張して特高警察に連行されてしまいます。やがて坂東さんは気づきます。自分の父が黙ったままではなく、戦争の真相を伝えようとしたことに▼番組の最後に坂東さんは「仕方がなかったですまされることか」と力を込めました。足元に目を向ければ岸田政権が進める大軍拡。いま改めて、戦争の足音を何としても拒否しなくては、の思いが。


きょうの潮流 2023年9月16日(土)
 「地球沸騰化の時代が到来した」―グテレス国連事務総長がこう警告したのは7月末でした。その言葉を何度も思い出したこの夏。大規模な山火事や洪水など、極端な気象による被害が世界各地で起きました▼米ハワイ州マウイ島では、猛火が街を襲い100人超の犠牲者を出しました。米史上最悪の山火事の一つに。あれから1カ月が過ぎ、同州知事は10月には渡航制限を解除し、マウイ島への観光客の立ち入りを再開すると発表しました▼ハワイを英国人クック船長が「発見」したのは18世紀末。白人の到来と同時に成立したハワイ王朝(1795~1892年)の首都が今回被災したラハイナでした▼「太平洋のベニス」とも呼ばれた水の都が、1世紀半で山火事が頻発する土地に。気候変動による干ばつに加え、植民地主義の遺産が指摘されています。資本家が土地をサトウキビやパイナップルの大規模農園に変え、日本人らの移民が入植。作り替えられた土地は今では遊休地になり、その枯れ草が猛火の「燃料」に▼プランテーションで儲(もう)けた企業は、リゾート施設やゴルフ場をつくり、今も水資源を独占し、地元住民は深刻な水不足に陥っていました。焼き出された人々に対し、開発業者は土地の買い取りを持ち掛けているといいます▼儲けを狙う「惨事便乗型資本主義」の姿がここでも。街の再建には「気候正義」が必要です。気候変動で被害を受ける弱者が保護される正義を。各地で災害が続く今、地元住民が置き去りにされてはなりません。


きょうの潮流 2023年9月15日(金)
 「そもそも日本の総理に自分で本当に国家の命運にかかわることを決めているという厳しい危機意識がない」。そう語るのは元内閣官房副長官補の兼原信克氏です(『官邸官僚が本音で語る権力の使い方』)▼日本で諜報(ちょうほう)が軽視されてきた理由に挙げたもの。今後は海外でのスパイ活動を強化すべきだとも。とても同意できるものではありませんが、「国家の命運」を決めている自覚が岸田文雄首相にあるのかという点では、うなずける部分があります▼たとえば先月の日米韓首脳会談。中国や北朝鮮を念頭に3カ国軍による共同訓練の毎年実施などで合意しました。米戦略に沿って新たな軍事的枠組みをつくる動きに米国内でも「単なる軍事協力の拡大は、地域の安全保障環境を悪化させるだけだ」(オンライン誌『レスポンシブル・ステイトクラフト』8月18日)との声があがりました▼政権を支える自民党の麻生太郎副総裁は台湾で「たたかう覚悟」と発言。米国言いなりで、真剣に国の平和を考える力を失い、戦争突入を当然視するまでに至った言動の軽さに恐ろしさを感じます▼元副総理で2005年に亡くなった後藤田正晴氏は「自主自立のものの考え方でアジアに目を向けないと、アメリカ一辺倒ではこの国は危なくなるよ」と語ったことがあります(『後藤田正晴 語り遺したいこと』)▼「日米安保条約を平和友好条約に切り換える、そのための議論を始める時期にさしかかっているのではないか」とも。首相に聞かせたい言葉です。


きょうの潮流 2023年9月14日(木)
 赤旗記者の先輩から徳島特産のすだちが送られてきました。毎年この時期に届くうれしい贈り物。さわやかな香りと酸味に季節のめぐりを感じます▼うんざりするほど猛暑と大雨に明け暮れた今年の夏。まだ暑い日がつづきますが、秋の気配はゆっくりと近づいています。朝晩の空気や花々の移り変わりようにも変化してゆく季節のきざしがみてとれます▼さて、こちらはどうか。支持率の低迷にあえぐ岸田首相が施した内閣改造と党役員人事です。「日本はまさに正念場にある」と意気込んでとりくんだものの、政権の骨格は維持したまま。これまでの政治姿勢に変わりはないと宣言したような顔ぶれです▼マイナンバーをめぐって大混乱と不安を引き起こした河野太郎デジタル担当相は続投。軍拡の予算づくりを進めてきた鈴木俊一財務相や原発推進で汚染水の海洋放出でも漁業者の思いをふみにじってきた西村康稔経産相も留任させています▼11人の初入閣、5人の女性閣僚をいくら強調しても、国民の声とむきあわなければ何のための人事か。これでは各派閥に気を配っただけの「刷新」ではないか。統一協会との癒着の反省もどこ吹く風です。これで政権浮揚とは厚かましい▼すだちは料理や飲み物の味を引き立てますが、本体がまずくてはそれも及びません。目先は変えても国民の期待にはこたえられない岸田政権。問われているのは政治の中身です。共産党の小池書記局長は「いま必要なのは内閣改造ではなく政治の改造」。その通り。


きょうの潮流 2023年9月13日(水)
 わら半紙につづられていた文章は貴重な歴史の証言でした。「僕の前で朝鮮人が一人皆にたけやりで殺されました」「朝鮮人が川戸の水の中へ毒をいれるといったのでしんぱいしました」▼身の毛がよだつ光景の数々の描写。関東大震災時の朝鮮人虐殺を目の当たりにした子どもたちの作文が横浜市の中央図書館に保存されています。不安のなかで耳にする流言を信じておびえ、朝鮮人を憎む心境が読みとれます▼震災直後から朝鮮人暴動のデマが流され、軍隊や警察、自警団による集団虐殺の事実はあまたの証言や公的な記録に刻まれています。検察は114件を立件。殺人などの罪で600人以上が起訴され、ほとんどが有罪になっています(『関東大震災と民衆犯罪』)▼しかし、犯行の多くは野放しに。戒厳令下の軍や警察の大量殺りくはどれも適当とされ、処分された者もいませんでした。先頭に立った彼らの蛮行は民衆を扇動し、見本をみせたとの指摘もあります▼いま話題の映画「福田村事件」は薬売り行商の一行が自警団に朝鮮人と疑われ、9人が殺害された痛ましい事件を題材にとったものです。100年前の犠牲者について現在の千葉県野田市は初めて弔意を表明しました▼いまだにまともな調査もせず、記録がないと虐殺の事実を否定する岸田政権。過去を省みない姿勢は歴史の偽造そのものであり、いまもヘイトクライムとなって現れています。人権が大きく前進する時代にあっての逆行は、この国の未来をふさぐだけです。


きょうの潮流 2023年9月12日(火)
 家でテレビを見ていた時のことです。番組は、ある高校にプリントシール機を設置し、生徒が好きな相手を誘って一緒に写真を撮る―という内容でした▼女子生徒から男子生徒、男子生徒から女子生徒へと緊張しながら声をかけます。するとわが子が「女子から女子、男子から男子っていうパターンがあってもいいのにね」と一言。私にはなかった発想に、ハッとさせられました▼ドラマなどで同性愛が肯定的に描かれたり、多彩な性的指向(恋愛の対象となる性別)を耳にしたりと性の多様性にふれる機会が増えました。「当たり前」と思っていたことを考え直す機会も増えたと感じます▼この夏開かれた全国保育団体合同研究集会「乳幼児期の性と保育」の分科会では、保育園での工夫が報告されました。たとえば壁が低く丸見えだったトイレを改善したり、部屋に仕切りを置いて着替える場所を作ったり。乳幼児だから平気だと考えず自分の体を守れるように配慮する。子どもは「自分が大切にされている」と感じ、他者を大切にする気持ちにつながっていくのだと▼絵本を使った性教育で、だれを好きになってもいいこと、家族のかたちは多様でパパがいなくてもママが2人いても、いろいろあって当たり前だと伝えているという話も▼性について学び考えることは、多様な生き方や人権を尊重することにつながります。つくられた「普通」と、そのもとで続いてきた制度や慣習。仕方ないとあきらめず、多彩な選択肢をつくっていく時です。


きょうの潮流 2023年9月10日(日)
 戦争や権力の恐ろしさが伝わった。抑圧された人びとの痛みとともに、連帯する人間の強さが心に響いた―。初めて接する若者や懐かしさを覚えながら味わう姿も▼没後40年となる山本薩夫監督の作品を特集した東京のラピュタ阿佐ヶ谷。早々と満席になる回もあり、根強い人気がうかがえます。16日までの最終週には、松川事件を素材にした喜劇「にっぽん泥棒物語」や、徳島ラジオ商殺し事件を描いた「証人の椅子」が上映されます▼「映画は真実を伝える眼であり、政治や社会の不正を批判し、本当に大衆の幸福を願うものでありたい」(『私の映画人生』)。現実の社会を芯に据えつつ、娯楽性をもちあわせた数々の名作はそうした信念のもとで生み出されました▼弾圧のなかで暗い青春時代を過ごし、戦争にもかりだされ、天皇制軍隊でみじめな屈辱を受けた経験。そういうものの復活を断じて許しておくわけにはいかないとメガホンを握り続けました▼戦争の本質を覆い隠し賛美に走る日本映画に警鐘を鳴らし、平和と民主主義を守ることに生涯をかけた山本監督。そこには「目に暗い絶望の色を浮かべ途方にくれていたかつての時代に、もう一度戻るようなことがあってはならない」との思いが込められていました▼岸田政権のもと再び軍拡の道へふみだそうとしている昨今、山本作品の値打ちは今も。反戦を一生のテーマにと決めたとき、彼はもう一つの決意を。それは、戦前から反戦平和の旗を掲げ続けた日本共産党への入党でした。


きょうの潮流 2023年9月9日(土)
 48年ぶりに自力で五輪の出場権をかちとったバスケットボール男子の熱気が残るなか、ラグビー男子の第10回ワールドカップ・フランス大会が開幕しました。ラグビーの和名は「闘球」。体を激しくぶつけ合うさまは、まさにたたかうスポーツです▼ラグビー日本代表といえば2019年の流行語大賞にも輝いた「ONE TEAM(ワンチーム)」が思い浮かびます。この言葉は語感から集団主義を指すととらえがちですが、個性と多様性のうえに成り立つチームの一体感が真意です▼それは当事者のコメントから伝わってきます。受賞に際して堀江翔太選手は「どういうふうにワンチームにするかが大事。中身の部分をしっかり考えていただければ」と語りました。受賞理由もその意味を重くかみしめます。「世界に広がりつつある排外的な空気に対する明確なカウンター(反抗)メッセージ」「近い将来、移民を受け入れざるを得ない日本の在り方を示唆する」と▼今大会の日本代表をみても、オセアニアや南太平洋など半数近くが外国籍。朝鮮学校出身者の選手も初めて選出されました▼この球技に息づく「ノーサイド精神」にも通じます。試合が終われば両者を隔てた壁が消え、熱くたたかい抜いた両チームが一つになります▼ラグビーボールのようにどこへ弾むのか一見読めない社会の先行き。しかし、時代は個人と多様性尊重の方向へ力強く向かっています。その推進力となる大会に。日本代表はあすの夜、初戦のチリ戦をむかえます。


きょうの潮流 2023年9月8日(金)
 岩手県知事選挙で5選を決めた達増(たっそ)拓也知事は、選挙戦の中で地方政治をすすめる基本精神として、憲法13条の「幸福追求権の保障」を掲げました▼「幸福追求」は、県内で多くの犠牲者を出した大震災津波と深くかかわっています。被災者の医療費の免除を11年間続けました。子ども医療費の窓口負担をなくす施策は、共産党の斉藤信県議の提案を受け入れたと知事の妻・達増陽子さんが明かしました▼「民主主義の原点、共同体の原点に立ち返り、復旧復興を進めていかなくてはならない」。何が人間にとって一番大事か。被災者に寄り添い復興を進めると、深く掘り下げ、思い定めたといいます▼岩手県が掲げてきたスローガン「希望郷いわて」の内容を膨らますため、4年前の県民計画から「幸福」の言葉を入れました。「幸福を守り、育て一人ひとりの幸福を増やす」。教育や健康・余暇など各政策分野に幸福指標を設けました▼震災後のまちづくりでは、「ショック・ドクトリン」といわれる、公共を破壊する新自由主義的なものを取り入れるやり方に断固反対を表明しました。そして、県民一人ひとりに寄り添う達増知事の哲学が、全国トップクラスの子育て支援を生み出しています▼岩手県が生んだ童話作家の宮沢賢治の言葉にある「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」。7年前の講演会で「この言葉が広く共有されている岩手ならではの幸福像を描くことができればと思っています」と語っていました。


きょうの潮流 2023年9月7日(木)
 「パフォーマンスにしか見えない」。地元で暮らす住民からこんな声が。先ごろ小池百合子東京都知事が新宿区歌舞伎町シネシティ広場にいる「トー横キッズ」の視察に来た時のことです。当事者に言葉をかけることもなく、数分で切り上げました▼「トー横キッズ」。歌舞伎町界隈(かいわい)に集まる、家での虐待や貧困で居場所を失った10代の少年少女たち。コロナ禍で家族が自宅にいる時間が増え、SNSで居場所を共有しやすくなり増加しました▼現場は深刻です。広場や路上の少女に、性搾取を目的に群がるおとなたち。少年はそのあっせんや万引き、詐欺まがいの違法行為に。薬物の過剰摂取や自傷行為、自殺未遂も頻繁▼おとなへの不信感が強い子どもたち。「否定からではなく、受け入れることから始めよう」と昨年来、支援活動を続ける日本駆け込み寺代表理事の玄秀盛さん。子どもたちの抱える問題は貧困や虐待などにつながっており、「一部だけに焦点を当てるのでなく、全体を見渡し正しく認識すること」と本紙に語ります▼行政の役割も問われます。現地を何度も訪れている共産党の沢田あゆみ新宿区議は、「子どもたちが安心してすごせるよう保護、支援と、自立のための環境をつくること」を区に迫ります。「ここまで放置してきた責任は誰にあるのか。行政が果たすべき役割がある」と▼若者たちがSNSで共有するメッセージに込めたものはなにか。その深層に耳を傾け、見せかけではない取り組みこそが求められています。


きょうの潮流 2023年9月6日(水)
 「辺野古新基地建設を阻止してもらいたいという県民の意思が変わってしまうわけではない」。沖縄県の訴えを退けた最高裁判決に、玉城デニー知事はこうきっぱりと▼新基地工事の着工後に発覚した、埋め立て区域に広がる軟弱地盤。一番深いところで水面下90メートルに及び、「さしずめマヨネーズ状態」とも称されるほど。沖縄防衛局は地盤改良のため設計変更を県に申請しましたが、県はこれを不承認に▼軟弱地盤の力学的試験をやらなくていいのか、ジュゴンの生育や海底面の環境への影響はどうか。県が問うたのは、承認要件に関わる専門的技術的視点からのものです。最高裁はその判断もしないまま、国の指示は「適法」だと▼弁論を開いて県の主張を聞くこともなく、国の求めるよう設計変更を認めよと迫る。そのありように民主主義・法治主義の危機の声が。地元紙・琉球新報は「『法の番人』としての気概さえ感じられない」「法治国家ならば、沖縄の民意に正面から向き合え」と▼デニー知事が岸田政権丸抱えの候補に大差をつけて再選したのは、わずか1年前。「新基地建設のノー、県民の思いは1ミリもぶれていない」と。それでも「唯一の解決策」とくり返してきた政府のいかに傲慢(ごうまん)か。それが、世界一危険と米国自身も認める普天間基地の閉鎖撤去を妨げてきました▼28年前、少女暴行事件を契機に開かれた県民総決起大会。「軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」。会場を震わせた女子高校生の訴えは今もなお。

きょうの潮流 2023年9月5日(火)
 「えっ、うそ」。はじめて見る数字でした。「208円」。レギュラーガソリン1リットル当たりの値段表示です▼大阪の高速道路のサービスエリア。思わずスマートフォンでパチリ。1リットル当たりハイオク219円、軽油187円でした。経済産業省が8月30日に発表したレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格(28日現在)は185円60銭。過去最高値を約15年ぶりに更新しました▼8月分の電気料金の請求書が届いて、これまたびっくり。前月と比べ5000円近く高くなっていました。猛暑続きで扇風機だけではしのげず、エアコンによる冷房は欠かせませんでした。ただこの請求額をみると「電気代が怖くて冷房が使えない」という人の気持ちがよくわかります。自宅で熱中症になる比率は高く、まさに命にかかわります▼こちらも額の大きさにびっくり。ケタ違いです。カジノ誘致と一体の大阪・関西万博の会場建設費は当初の1・5倍の1850億円に膨れ上がり、交通アクセスなどインフラ整備費は4000億円も上振れし総額7500億円。地盤沈下対策費はいくらになるかわかりません▼もっと大きな数字があります。大企業の内部留保はどんどん増え過去最高の511兆円(2022年度)。大阪労連の調べによると在阪大企業の内部留保は約47兆円(21年度)▼物価高騰対策は急務です。経済の活性化というなら、カジノ・万博頼みではなく、消費税の減税や内部留保を活用した中小企業支援による賃上げこそが即効薬です。


きょうの潮流 2023年9月4日(月)
 いまから100年前に1冊の本が世に出ました。「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました」という序で始まる『アイヌ神謡集』です▼1923年8月に刊行された同書は、アイヌの間で伝承されてきた叙事詩、カムイユカラ13編を日本語訳付きで収録しています。戦後、岩波文庫として再刊され、このほど補訂新版が発行されました▼この本を残したのは、現在の北海道登別市に生まれたアイヌの女性、知里幸恵です。冒頭に置かれた叙事詩の「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」という美しいフレーズが、読む人を先住民族アイヌの世界観の中に引き込みます▼心臓が悪かった彼女は、タイプで打ち直された原稿の校正を終えた夜に、発作を起こし亡くなったといいます。19歳という短い生涯でした。『神謡集』の出版は彼女の死から1年後です▼明治以降、日本政府による強制移住や同化政策によって先住民族であるアイヌはそれまでの暮らしや文化を奪われました。「研究目的」として墓地から遺骨を持ち出すことまで行われました。その中で自らの民族の文化に誇りを持って『神謡集』を残した知里幸恵の思いは引き継がれ、アイヌ文化やアイヌ語を守ろうという努力が若い世代も含めて続いています▼いまもアイヌに対する差別と偏見はなくなっていません。国としての謝罪はいまだなく、しばしば政治家による差別発言も。先住民としてのアイヌの権利と尊厳を守る施策が求められています。


きょうの潮流 2023年9月3日(日)
 「いまここから川にとびこんだら、どうなるんだろう」。絵本『橋の上で』で、自死を考えていた少年は出会った男性にこういわれます。「耳をぎゅうっとふさいでごらん」▼昨年の児童生徒の自殺は514人と過去最多でした。10代の死因第1位です。夏休み明けの9月に増加するといわれます。どうしたら止められるのか―。多くの人々が心を砕き、発信してきました▼自死をやめた人の物語がそれを抑止する「パパゲーノ効果」という仮説があります。タレントの中川翔子さんは10代のころ、「死にたい」と思い続けましたが、ネコをなでることで死に向かう気持ちが変わることもあったと▼厚労省は「ゲートキーパー(命の門番)になろう」とホームページで呼びかけます。その役割は「変化に気づく」「じっくりと耳を傾ける」「支援先につなげる」「温かく見守る」の四つ。「死にたい」「消えたい」などのネガティブな気持ちを含め、話を否定しないことが大切、と。「つらかったんだね」「よかったら聞かせて」と苦しい思いを聞く―。耳の傾け方がサイトで丁寧に書かれています▼教師がゲートキーパーになることで、一人でも多くの子どもを救える可能性が高まります。とはいえ1クラス40人近くの子どもたちを見て、多忙を極める教師たちにとって、子どもの悩みに気づくことは、ハードルが高い▼少人数学級にして、教師を増やすこと。過度な競争教育をやめること。命を守るためにも、子どもの心を大切にする社会が不可欠です。


きょうの潮流 2023年9月2日(土)
 この国の財政は、確実におかしくなっている。31日締め切りの2024年度概算要求を見て、そう感じずにはいられません。防衛省の概算要求が7・7兆円で過去最大。前年度から1兆円近く増え、他省庁と比べて突出しています。2年前からだと、実に2兆円以上の増加です▼これだけではありません。文部科学省(宇宙軍拡)、国土交通省(空港・港湾の軍事利用)、外務省(他国軍の支援)、総務省(軍事目的の情報通信研究)といった省庁も軍事関連経費を要求しています▼まるで「戦時国家」のような予算編成。新たな「国家総動員体制」と言える異常な動きの背景にあるのは、言うまでもなく、軍事費を「5年以内に2倍化する」という岸田政権の対米公約です▼とはいえ、国民は物価高に苦しみ景気は低迷。30年以上、成長が止まっているこの国の経済が上向く兆しはまるで見えないのに、どこにそんな財源があるのか▼政府・与党は先の通常国会で、医療機関の積立金など「税外収入」を充てるための軍拡財源確保法を強行したのに続き、政府保有のNTT株を売却し、軍事費に充てることを検討しています。もはや何でもありです▼しかし、5年以内に「2倍化」を達成したとして、それで終わりではありません。年間10兆円、11兆円という規模の軍事支出を何十年も続けることになります。一時しのぎの財源確保で賄えるはずはありません。大増税・社会保障削減という破滅的事態の前に、引き返すのは今しかありません。


きょうの潮流 2023年9月1日(金)
 天地も覆さんばかりの凄(すさ)まじき大音響。烈風は瞬時にして横浜全市を焦土と化し数万の生霊と幾十億の財貨を奪った。余は幾多の迫害、飢餓、疲労と闘いつつ、累々たる死体の山を越え、撮影を完成した―▼震災直後のありさまを記録したカメラマンの語りです。その映像は11時59分を指した高島駅の時計から始まり、立ち上る猛煙や廃虚と化した街、避難する人々の姿をとらえています▼いま神奈川県立歴史博物館の関東大震災展で流されています。巨大地震と、それに伴う火災や土砂災害、津波によって未曽有の被害をもたらした震災から100年。実相と教訓をくみ取ろうとさまざまな催しが開かれています▼関東大震災は復興と都市計画づくりの原点といわれます。しかし災害に強い都市づくりは国の怠慢によって現在も課題を残して。「壊滅的な被害を生んだ原因は街づくりの大失敗」。本紙日曜版でそう指摘した専門家は、いまの政府や東京都のやり方に警鐘を鳴らしています▼忘れてならないのは、混乱と人心の不安のなかで起きた軍隊や警察、自警団による朝鮮人や中国人の虐殺です。新宿にある高麗博物館では数々の資料や証言を示しながら、隠されてきた実態を赤裸々に暴いています▼いまだに調べもせず、虐殺の事実さえ認めない日本政府。1世紀前の教訓からみえてくる国のあり方や責任はここにも。「過去をふり返りながら、現在に努力し、将来に希望を持つための契機となれば」。展示を企画したある学芸員の思いです。


きょうの潮流 2023年8月31日(木)
 これは非常に大きな転換点だ。「当事者の会」のひとりは、性加害の事実を認めたことはすべての起点になるとして、改めて謝罪と救済を求めました▼1950年代から2010年代半ばまでの長期にわたり、所属タレントに対して性加害をくり返していたジャニー喜多川氏。「再発防止特別チーム」は、それを事実として認定し、ジャニーズ事務所の解体的な出直しに言及しました▼数百人が被害にあったとの証言も。原因はジャニー氏の異常な性的嗜好(しこう)にくわえ、姉で経営を担ったメリー喜多川氏による放置と隠蔽(いんぺい)、事務所の不作為。そして圧倒的な権力支配が招いた被害の潜在化にあった。特別チームの報告書はそう指摘しました▼生殺与奪を一手に握る絶対的な権力者。その強い立場を利用した性虐待を、被害にあった未成年者たちは拒むこともできなければ、相談や告発をすることも極めて困難であったと▼ジャニー氏による性加害は芸能界の関係者には広く知られていたといいます。セクハラやパワハラが起こりやすいといわれてきたエンタメ業界。メディアや広告業界を含めた土壌からの改善が求められています▼「笑顔と感動の輪を、世界に」。いまもジャニーズ事務所のホームページにはこんな言葉がおどっています。いびつな権力構造がいまだはびこる芸能界のなかで、人権に重きを置いた組織として生まれ変われるか。特別チームの座長を務めた林真琴弁護士はこう呼びかけました。「先頭に立って変えていくことを期待する」


きょうの潮流 2023年8月30日(水)
 演劇の甲子園とよばれる、全国高校総合文化祭(総文祭)の演劇部門。今夏の鹿児島大会で徳島県立城東高校の「21人いる!」が最優秀賞に輝きました。しのびよる戦争の暴力をじんわりと描いた出色の出来でした▼狭い地下室で活動している高校演劇部が舞台。男子上級生が一人、また一人と、命がけの「ボランティア」に指名されていきます。外では警報や爆発音が響き、ある日、女子部員も爆発に巻き込まれ…▼戦争という言葉はひと言も出さずに、地上で何が起きているかを感じ取らせる巧みな演出です。生き残った女子生徒は「死ぬならお花畑がいい」と語ります▼「誰も理不尽に巻き込まれない平和な世界というと、『頭の中、お花畑』と言われるやん。それでもいい。私はお花畑で死にたい」。後輩は答えます。「死なないで、お花畑で生きてほしい」と。目頭が熱くなる場面です▼戦争体験のない高校生たち。演出で出演もした3年生の浅野碧巴(あおとも)さんは「過去の経験を参考にしたというより、私たちがこれから経験するかもしれないこととして意識した」と語っていました。二度と戦争を経験することのないよう、あえて想像して見せた舞台でした▼城東高校は旧徳島高等女学校で、卒業生には作家の瀬戸内寂聴さんがいます。晩年まで戦争反対を訴え、車いすで国会前行動に参加した瀬戸内さん。後輩たちの快挙に目を細めていることでしょう。総文祭の優秀校による東京公演の模様は10月以降、ネット上でも配信される予定です。


きょうの潮流 2023年8月29日(火)
 あたしはもう黙らない―。突然の退去を突きつけられたシングルマザーたちが公営住宅を占拠。訴えたのは、人としての尊厳でした▼ブレイディみかこさんの新著『リスペクト―R・E・S・P・E・C・T』はロンドン五輪後に起きた実際の住民運動がモデルです。地域の再開発のもと、もとから住んでいた貧しい人たちが追い出される。そんな理不尽なやり方に対し女性たちが連帯して立ち上がります▼草の根の運動は多くの支持を集め、行政を追いつめていきます。いまやロンドンに限らず「都市の高級化」によって土地や建物が資本家に買い占められ、住む場所さえ奪われていく人々。格差の拡大はあらゆる分野であつれきを生んでいます▼英国上位企業の経営者の報酬が労働者の賃金の118倍にも。本紙国際面に載っていました。物価高で多くが苦しむなか、異常なまでの格差。労組の全国組織は「すべての人の生活水準を引き上げる経済が必要」だと▼貧しいということは、単にお金がないということだけではない。それが理由で、ほかの多くのものまで奪われてしまっている。何かを教わる機会や新しい環境にであうチャンス、自分に対する自信とか…。本の主人公が貧困への思いを▼「この国の政治が人々のために資産を使い、人々の尊厳を守るようになるまで、あたしたちが黙ることはありません」。パンと薔薇(ばら)をもとめ、人生の当事者になると宣言する彼女たち。たゆまぬ運動と団結が社会を変えていくと呼びかけるように。


きょうの潮流 2023年8月28日(月)
 性暴力の被害者・加害者を生まないとして文部科学省がすすめる「生命(いのち)の安全教育」。小学生向けの教材には水着で隠れる部分は人に見せたり触らせたりしないようにとあります▼「障害のある人の中には、自分の性器にふれることを肯定的にとらえていない人がいる」と河村あゆみさんは話します。大切なところだから触ってはいけないと教えられ、生理のケアが適切にできず性器のかぶれが生理痛だと勘違いしていた女性もいたと▼「性教育のネグレクト(放棄)はからだのケアまで止めてしまう」。河村さんは、障害のある青年たちが人間関係や性の多様性などを包括的性教育の観点から学びあう会にかかわっています▼青年たちの多くはふれ合いの機会がほとんどありません。ふれて心地よいところ、いやなところを知らず、自身のからだの主人公になれていないといいます▼オンラインで学びあうとき、知的障害者の恋愛・結婚・子育て、体の仕組みなどをテーマにしたテレビ番組などの動画を使います。河村さんら支援者が大切にするのは、障害のある仲間から発せられる疑問やつぶやき。次につなげます。「女性もセルフプレジャー(自慰)するの?」。ある男性の仲間の疑問に答えようと取り組んだときは、スタッフは悩みながらも力が入ったとか▼自分自身のからだや心の快を理解し、自身の良さを知る。そうしてこそ、お互いを尊重する豊かな関係性を築けるように。人権を大切にする包括的性教育の推進こそが、求められます。


きょうの潮流 2023年8月27日(日)
 「学校給食の無償化は、1%の財源で可能ってホント?」。こんな疑問から、島根県の中学校事務職員は県内の各市町を調査しました。どこでも一般会計予算の1%未満で実現できるとわかり「1人からでも始められる」と仲間たちに調査を呼びかけています▼本紙の調べでは、小中学校給食の無償化は全都道府県に広がっています。新型コロナ感染症対応による国の地方創生臨時交付金など期間限定も含め、今年度実施または年度内実施予定は491自治体です▼「なるべく早い時期に」「来年度から実施」という自治体、物価高騰分や半額補助、「第3子以降無償」など無償化への足掛かりとなる施策も各地で。少子化対策が主な目的だった無償化は今、「義務教育は無償」「食は基本的人権」という大きなうねりとなっています▼9月から無償となる愛知県安城市では食物アレルギーや宗教上の理由で給食を食べられなかったり、長期欠席だったりする場合でも給食費相当分を補助。「隠れ教育費」研究室の福嶋尚子さんや栁澤靖明さんらが呼びかけ人となり、国にリーダーシップを求めるネット署名「『#給食費無償』を全国へ!」も進んでいます▼無償なら食事の中身は問わなくてもいい、というわけにはいきません。地産地消、安全で豊かな給食を。そんな取り組みにも力を注ぐおとなたちの姿は、子どもたちの希望となることでしょう▼子どもにとってもおとなにとっても、昼ご飯の時間が楽しい、安らげるひとときになりますように。


きょうの潮流 2023年8月26日(土)
 困っている人のためになりたい。希望と使命感を抱いて入った自衛隊。それは、すぐに打ち砕かれました。性加害と、それを隠ぺいしようとする男社会の巨大な組織によって▼複数の男性隊員からうけたセクハラをめぐり、自衛隊とたたかう覚悟を決めた五ノ井里奈さん。この間の経緯や何度も折れそうになった心のゆらぎが『声をあげて』につづられています▼その場にいながら、何もなかったとしらを切る隊員たち。味方だと思っていた女性幹部の手のひら返し。まじめに調べない警務隊に居眠りする書記。信頼していた組織への失意から延長コードを首に巻き付けたことも…▼立ち上がったのは閉ざされた組織の中で自分のようにつらい思いをしてほしくなかったから。実際、埋もれた声は多々あります。このほど公表された防衛省・自衛隊のハラスメント調査では、被害の申し出があったものだけで1325件。そのうちの6割超が内部の相談員や相談窓口を利用していませんでした▼理由は、改善が期待できない、相談できる雰囲気や環境ではない、信用できない。勇気をふるって口を開いてもまともに対応されなかったり逆に脅されたり。防衛省が設けた有識者会議でさえ、組織としての意識改革の必要性を求めています▼いまも身を削りながらの裁判がつづく五ノ井さん。本来の自分はよく笑い、面白そうなことに挑戦することが好きだといいます。「わたしは性犯罪の被害者としてではなく、ありのままの自分で生きていきたい」と。


きょうの潮流 2023年8月25日(金)
 甲子園にすがすがしい風が吹きました。髪をなびかせ笑顔で躍動する選手たち。大舞台で楽しげにプレーする姿がそこにありました▼夏の全国高校野球大会。優勝した慶応は「エンジョイ・ベースボール」を掲げました。めざしたのは選手の自主性を育て選手自身が考える野球。森林貴彦監督は「うちが優勝することで高校野球の新たな可能性とか多様性とかを示せればいいなと」▼変化のきざしは以前からありました。20年ほど前に神奈川県の強豪私立高を取材したときのこと。長時間の練習をやめて合理的なトレーニングを導入。選手と話しあい、自発性を促す指導を心がけていました。県内では有志の監督同士が集まり、指導方針や練習法を研究しあうとりくみも▼慶応の前監督だった上田誠さんもその1人でした。長年続く高校野球の慣習に疑問をもち、それが今のエンジョイ・ベースボールにつながりました▼決勝で敗れた仙台育英もさわやかな印象を残しました。須江航(わたる)監督は「人生は敗者復活戦」で、負けたときに人間の価値が出ると。そして相手の優勝インタビューに拍手を送り続けた選手をたたえ、それが誇りだと胸を張りました▼教育の一環として位置づけられながら、体罰や丸刈りの強制、頭ごなしのスパルタ指導がいまだ絶えない高校野球。学校の宣伝のために有力選手を集め、選手を駒のように扱う勝利至上の考え方も根強い。しかし、変化の風は確実に起きています。部活動が成長の場として選手が主役となるためにも。


きょうの潮流 2023年8月24日(木)
 春はシラウオ、夏はアワビやカツオ、秋はヒラメ、サンマ、冬はアンコウにメヒカリ。1年を通してこの海で水揚げされる魚介類は、滋味に富むことから「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれます▼福島県沖に広がる、親潮と黒潮がぶつかりあう潮目の海。質のいい魚がたくさん取れるという豊かな漁場です。築地の水産関係者に聞いた調査では、ほとんどが「常磐ものはおいしい」と答えていました▼その海からの恵みは漁師や水産業者の努力によって食卓に届けられてきました。ところが、きょうにもそこに原発事故によって発生した汚染水が放出されようとしています。多くの漁業関係者や国内外の反対の声に背をむけて▼12年前の事故によって操業は自粛させられ、水揚げも低迷。漁業に携わる人も減っていきました。歯を食いしばり徐々にでも回復をめざす日々がつづくさなかの岸田政権の一方的な決定。しかも、関係者の理解なしには行わないと断言した約束までほごにして▼長きにわたる汚染水の海洋放出は漁業だけでなく、農業や観光業にも影響を及ぼします。風評被害はさらに広まり、すでに仕入れ業者や飲食店などからは慎重にならざるをえないとの声も。近隣諸国でも抗議や輸入停止の動きが起きています▼「あまりにも身勝手だ」「撤回せよ」と怒る現場。原発の安全神話をふりまき、事故後も不誠実な対応をくり返してきた政府と東電。「今後、数十年の長期にわたろうとも全責任をもって対応する」。そんな首相の言葉を信じられるか。

きょうの潮流 2023年8月23日(水)
 ミンミンゼミやアブラゼミがやかましく鳴いています。家の外壁には、数えるとセミの抜け殻が20個近くも。地面には人差し指が入るくらいの円い穴がいくつも開いています。地中で成長したセミの終齢幼虫が地上にはい出す脱出口です▼フランスの昆虫学者ファーブルは穴の周りに盛り土がないことの謎解きを「昆虫記」に書いています。観察と巧妙な実験から、穴の中で幼虫は小便をまき、土を湿らせ泥にして、漆喰(しっくい)のように壁に押し付けていると。穴から現れる幼虫が泥だらけなのもそのせいだと説明しています▼今年はファーブル生誕200年です。生涯をかけて「昆虫記」全10巻を著しました。原題とは違う「昆虫記」という訳は、無政府主義者の大杉栄による命名だといいます(『ファーブル昆虫記 誰も知らなかった楽しみ方』)▼大杉は第1巻を1922年に翻訳しています。「訳者の序」に、動物の糞(ふん)を食物とする糞虫の生活が描かれたファーブルの英訳書を獄中で読んだ感想を書いています。「其の徹底的糞虫さ加減!」等々と▼ファーブルに関するさまざまな批評家の言葉も紹介し“哲学者のように考え、美術家のように見、そして詩人のように感じ、かつ書く”といった批評家の言葉が「一番気に入った」。そして、続巻翻訳の計画を記しました▼しかし、それはかないませんでした。翌年の関東大震災の混乱に乗じ、大杉は妻の伊藤野枝、幼い甥(おい)とともに憲兵に殺害されたからです。いまも読み継がれる本をめぐる歴史です。


きょうの潮流 2023年8月22日(火)
 暗い海に投げ出され何日もいかだで漂流したこと。ようやく生還したのもつかの間、目の前で戦争が始まり、山の奥へ奥へと逃げまわった日々…▼先月末に88歳で亡くなった平良啓子(たいら・けいこ)さんは「対馬丸」と沖縄戦の生き証人でした。1944年8月22日、国の疎開方針によって沖縄から長崎に向かっていた船が米潜水艦の魚雷をうけて沈没。乗船していた当時9歳の啓子さんは6日間も海を漂い、流れ着いた無人島で助けられました▼半年後、故郷に帰りましたが、こんどは地上戦に巻き込まれ、避難生活を余儀なくされました。幼い心と体に刻み込まれた命の大切さ。自身が皇民化教育を徹底されたことから、戦後は平和をつくる教育をめざして小学校教諭を長く務めました▼語り部として県の内外を飛び回り、改憲や辺野古の米軍基地建設にも反対の声をあげてきました。つらい記憶をたどり、命あるかぎり語り継ぐと奮い立たせてきたのは、二度と戦争を起こさせないという固い意志でした▼軍拡や軍事的枠組みづくりへと、日本の政権がふたたび戦争への道に踏み出そうとしているいま、いやというほど悲惨な体験をあじわった平良さんらの訴えは、さらに重くひびきます▼およそ1500人が犠牲となった対馬丸の撃沈から、きょうで79年。平良さんは生前、大勢の子どもたちの遺影を前にすると、一人ひとりから呼びかけられているような気がすると話していました。あなたは生きている。平和のためにがんばっているの? 語れ、語れと。


きょうの潮流 2023年8月21日(月)
 首長竜フタバスズキリュウの骨格。世界最古といわれる旧石器時代の落とし穴。樹齢1600年の屋久杉。落下から1世紀余の時をこえて登録された越谷隕石(いんせき)…▼日本列島の生い立ちや自然が手に取るようにわかる展示物に、子どもたちが群がっていました。なかには夏休みの研究にと熱心に写真やメモをとる姿も。東京・上野にある国立科学博物館は家族連れでにぎわっていました▼その科博がインターネットで寄付を募るクラウドファンディングを始めたことが話題になりました。コロナ禍での来場者減に光熱費や資材の高騰が重なり財政がひっ迫していると。500万点をこえる文化財を保管するためにも一定の資金は欠かせません▼目標額は1億円でしたが、すでに7億円ほどが集まっています。それにしても情けないのは学術研究への国の支援のあり方です。軍事費にはけた違いの巨額をつぎ込み、多くの国民が反対する五輪や万博に湯水のごとく税金を投入する。一方で各地の文化施設は悲鳴をあげています▼これでよく文化国家などといえたものです。岸田首相は文化の振興に力を入れるといいますが、根幹の業務にさえ支障が出ているのに手をこまねくだけ。国が果たすべき役割を放棄するのか▼多種多様な動植物の標本や色とりどりの鉱物、刻まれた地質―。地球から与えられた宝物を守り、歴史をひもといていく博物館には科学の目を育てる大事な任務も。過去と未来をつなぐ活動を引き継いでいく責任が政府にはあるはずです。


きょうの潮流 2023年8月20日(日)
 きょう決勝戦が行われるサッカーの女子ワールドカップ(W杯)。そのまばゆい舞台の裏には、祖国を追われ、自由をなくし、試合もままならない“もう一つのたたかい”があります。W杯出場はできなかったものの、開催地オーストラリアに身を寄せるアフガニスタン女子代表のそれです▼2年前の8月、イスラム組織タリバンの政権掌握がきっかけです。以前に同政権が行った弾圧を懸念し、選手たちはすぐに出国。さまざまな協力を得て豪州にたどりつきました。現在は働きつつ、受け入れ先のクラブでサッカーを続けています▼この間、タリバン政権は50あまりの布告、命令で女性を家に閉じ込める施策を強行。女子が教育を受けられるのは小学校まで。中学、高校、大学からは締め出されています▼働く場も制限され、先ごろは女性の社交の場でもある美容院の閉鎖が決まりました。「肌を露出するから」とスポーツはできず、なぜか公園にも入れない。同国は「女性にとって監獄のような場所」と。国連は非難決議を上げ、国際刑事裁判所も動いています▼代表選手はある問題に直面しています。本国のサッカー連盟が政権の意をくみ、彼女らを代表と認めず、国際サッカー連盟も追認していること▼代表としてプレーすることは、本国で苦しむ無数の女性の生きる希望となるはず。これは同国の異常な性差別の現実を世界にさらし、良識の声で包囲する力にもなる。スポーツの枠を超え、自由と平等を求める気高いたたかいでもあります。


きょうの潮流 2023年8月19日(土)
 眼下に広がる穏やかな瀬戸内の海。緑あふれる山々。そんな自然に抱かれた町が揺れています。扱いに困った「ゴミ」を押しつけられようとして▼山口県の最南端にある人口2千人ほどの上関(かみのせき)町。これまで中国電力による原発建設をめぐって町は分断されてきました。さらに、原発で出た使用済み核燃料を一時的に保管する「中間貯蔵施設」づくりも推しすすめられています▼きのうの臨時町議会で建設に向けた調査を容認すると町長が表明。中国電力にも伝えたといいます。役場には反対する町民らが集まり、次つぎと抗議の声を。一部の人間だけで決めるな、核のゴミを持ち込むなと▼「トイレなきマンション」と例えられる原発。使うかぎり増え続ける高レベルの放射性廃棄物をどうするか。その問題が解決されないまま稼働させてきた国の無責任さが付けとなって、上関町をはじめ地方や過疎地に回されようとしています。財源や高齢化対策をエサにして▼原発が国内で使われ始めてからおよそ60年。再処理工場はゆきづまり、核のゴミの最終処分場も決まらない。夢の計画とうたっていた核燃料サイクルそのものが完全に破綻しています。それでもなお岸田政権は原発に依存し、見通しのない「サイクル」に固執しています▼日本は再生可能エネルギーの潜在量が電力量の7倍もあるという再エネの資源大国です。自民党政治が打つ手もなく不安と矛盾を拡大してきた原発推進。それを転換することが、多くの国民の願いでもあるはずです。


きょうの潮流 2023年8月18日(金)
 8月もお盆を過ぎたころから、そわそわしてきた思い出はありませんか。長かった夏休みもあと2週間余り。宿題の山が日に日に大きくなるような…▼そんな宿題事情を揺るがす事態が起きています。自然な文章をつくるという対話型の生成AI(人工知能)が急速に普及したためです。文科省は先月、学校でのAI活用法や留意点をガイドラインにまとめました。生成物をそのまま自分の作品として提出することは不適切、または不正行為に当たるなどと▼感想文や自由研究をAIに丸投げするかのような使い方にクギをさしたものです。何度か親やきょうだいの手を借りて、提出期限ぎりぎりに宿題を仕上げた経験のあるわが身からすれば、複雑な思いもありますが…▼もっともAIで作成した文章はすぐにばれるそうです。そこには、本来その子がもっている個性も癖も感じられないといいます。さらに落とし穴も▼以前、本紙コラムの「朝の風」にこんなことが書かれていました。小林多喜二についてAIに聞いてみたところ、代表作として「蟹工船」とともに「人間失格」と出てきて驚いたと。今回試したら、やっぱり間違ったままの文章が表示されていました。気づかなければ、と思うとぞっとします▼生成AIはウソをつく―。利用の流れが止められないなら、AIに振り回されるのでなく、どう活用するかをよく考えてみる。まずは親たちと一緒になってAIが誤る様子を体験してみては、と専門家。これも夏の宿題になりそうです。


きょうの潮流 2023年8月17日(木)
 思わず姿勢を正してテレビの画面に見入りました。NHKの「アナウンサーたちの戦争」(14日)。実録ドラマです。太平洋戦争中、NHKの前身、日本放送協会でアナウンサーたちが何を考え、どう動いたか▼主人公は、森田剛ふんする和田信賢アナウンサー。取材して原稿を書き、自らの言葉でラジオのマイクに向かっていました。その和田が時代の大きな波にのみ込まれていきます。1941年12月8日、日本軍の真珠湾攻撃の大本営発表を担当。「もっと勢いを」と軍艦マーチのレコードをかけることに▼43年、雨の出陣学徒壮行会では、前もって聞いていた学生たちの「死にたくない」「生きたい」という心情が、和田の頭をよぎり、実況できなくなります。戦意高揚をあおったラジオによる「電波戦」。国内だけではなく、南方占領地にも及び、現地で謀略放送を流していました▼放送は国の監督下に置かれ、情報統制が敷かれていました。しかし、アナウンサーたちが国の言いなりになっただけでなく、自分たちの意思で加担していった姿が描かれてもいます▼制作陣は、二度と過ちを繰り返さないようにと願って臨んだに違いありません。国民を戦争へと駆り立てた責任に、これまで口をつぐんできたNHKが、初めてその反省を込めた形です▼いま、主要メディアは岸田政権が進める大軍拡に目をつぶっていないか。沈黙も、「電波戦」と同じです。ドラマは、「新しい戦前」といわれる現在にジャーナリズムの役割を問いかけます。


きょうの潮流 2023年8月16日(水)
 先月、第169回芥川賞を受賞した市川沙央(さおう)『ハンチバック』が話題です。記者も己の無知と浅慮を痛烈に思い知らされました▼先天性の筋疾患で人工呼吸器と電動車椅子を使って生活する著者が、等身大の女性・釈華(しゃか)を主人公に健常者中心社会の偽善と欺瞞(ぎまん)を暴き出していきます▼まず胸を突かれたのは〈読書文化の特権性〉の指摘です。目が見えること、本が持てること、ページをめくれること、姿勢を保てること、書店に買いに行けること等、健常性を要求する紙の本を当たり前のように享受する人々へ容赦ない視線を向けます▼外出も困難で読むことと書くことが生きる証しでもある釈華。〈紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰(つぶ)れていく気がする〉〈本に苦しむせむし(ハンチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像もしたことがないのだろう〉と嘆息し、紙の匂いや感触をめでて電子書籍をおとしめる〈本好き〉たちの独善性を批判します▼生きるために壊れていく身体を抱え〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢〉と言い放つ釈華の痛みと悲しみも衝撃でした。この言葉を、女性障害者の性と生殖の権利を奪う社会への身を切るような異議申し立てと読めば、命の選別を是とするこの国の種々相が浮かび上がります▼作中、障害者運動を担った女性たちの実名も記されます。「プロテストソングがあるならプロテストノベルがあってもいい」と語る著者。本作が営々と受け継がれてきた悲願の一つの結実にも思えました。


きょうの潮流 2023年8月15日(火)
 その木は焼け跡に立っていました。大地に根をひろげ200年以上も生き続け、うっそうと葉が茂る。いくつもの幹や枝が絡みあい、空へとのびていました▼沖縄の伊江島でニーバンガズィマールと呼ばれる、ガジュマルの木です。78年前の沖縄戦をたたかった日本兵2人が、敗戦を知らずに2年間も身を隠した大木としても知られてきました▼島民のほぼ半数が命を落とした地上戦。それを物語る木には戦後多くの人びとが訪れ、平和学習の場にもなってきました。生き延びた兵士の体験は児童文学作家の真鍋和子さんが『ぬちどぅたから』にまとめ、井上ひさしさんが生前書いた「木の上の兵隊」という演劇にも▼不戦の象徴となってきたそのガジュマルが先の台風で倒れてしまいました。管理してきた宮城孝雄さんは「ショックだったが、なんとか復活させたい」と。根は残っていて関係者や村は専門家と相談しながら復元したいといいます▼「どんなことがあっても、もう二度と戦争は起こさないでください。人間にとって、これ以上の不愉快、不幸はないという、あらゆることを体験しましたから…」。樹上でくらした佐次田秀順(さしだ・しゅうじゅん)さんの言葉を真鍋さんが伝えています▼いまも伊江島をはじめ沖縄には米軍基地が居座り、米国の対中軍事戦略の最前線とされています。政権の中枢を担う人物が台湾にたたかう覚悟を迫る異常さも。佐次田さんは木から降りても平和を求め続けました。命を救ってくれたガジュマルに誓った終戦の思いを胸に。


きょうの潮流 2023年8月13日(日)
 戦前、日本軍が侵略して中国東北部に建国した、かいらい国家「満州国」を舞台に人体実験や細菌兵器の実戦使用をした731部隊(関東軍防疫給水部)と100部隊(関東軍軍馬防疫廠〈しょう〉)。その二つの部隊の関東軍司令部作成の「職員表」が、戦後78年のこの夏、初めて見つかりました▼731部隊の実態は、生存者の証言や研究者の努力で、その全体像の解明は進みました。他方、100部隊はハバロフスク軍事裁判での供述などがあるだけ。傷病軍馬の治療防疫の「研究機関」の内実は闇の中でした▼職員表は、明治学院大学国際平和研究所の松野誠也研究員が「昭和十五年軍備改変に拠(よ)る編成(編制改正)詳報(其二)」という文書から発見。「国立公文書館に通い、粘り強く地道な資料調査を繰り返すなかでようやく見つけた」貴重な1次資料です▼赤い字で「軍事機密」の印がある「軍馬防疫廠将校高等文官職員表」には、階級別に36人の氏名が。「獣中尉」の「逆瀬川貞幹(さかせがわ・さだもと)」ら戦後大学の獣医学部教授になった人物も多数います▼どんな論文を書いたか。回想録があれば何を語り、なぜ語らないのか。闇の部隊が担った軍事的役割を探る地道な研究・検証はこれからです▼岸田政権による学問・研究に軍事を持ち込む戦前回帰の動きが強まるなか、松野氏は危機感を強めて話します。「歴史研究者の使命とは歴史の真実、とくに悲惨な戦争の実態や加害の歴史の真実を明らかにすること。その過ちを繰り返さない土台をつくることです」


きょうの潮流 2023年8月12日(土)
 いま大阪で懸念されていること。「空飛ぶ車」ならぬ「空飛ぶパビリオンにならないか」▼2025年4月から10月まで大阪市此花区・夢洲(ゆめしま)で開催が予定されている大阪・関西万博。人手不足、資材高騰、残業規制の強化などでパビリオンの建設が遅れ開幕に黄信号がともっています。自前で建てる60カ国のうち建設業者が決まっているのは6カ国にすぎません▼開幕に間に合わせるためさまざまな案が取りざたされています。そのひとつがパビリオンを「プレハブ工法」にする案です。工期も短く建設費も安くなるというわけです。「大丈夫なのか」と不安の声が一気にあがりました。思いだされるのは18年の台風21号▼強風で夢洲の積み上げられたコンテナが飛び散乱しました。近くの咲洲(さきしま)の駐車場では多くの車が舞いあがり横転。取材した記者にコンテナ関係者は「あの重いコンテナが」と絶句し車の持ち主は「笑うしかない」とあぜん。夢洲がいかに災害に弱いかを印象付けました▼なかでも怒りを呼んでいるのは残業規制の緩和です。日本国際博覧会協会が、政府に対し時間外労働の上限規制を万博工事に適用しないよう要望したと報じられました。20年東京オリンピック・パラリンピックでも新国立競技場の建設工事の遅れを取り戻すために作業員が過酷な長時間労働を強いられ、過労死や過労自死の被害が起きました▼大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」のはず。いのちと人権を軽んじる姿勢は、開催理念にも反します。


きょうの潮流 2023年8月11日(金)
 富士五湖を眼下に、樹林のなかを走り、富士山五合目に至る富士スバルライン。周囲の山並みがひろがる絶景のドライブウエーとして人気です▼いまそこに路面電車を走らせる計画が進められています。山梨県が導入を図ってきた「富士山登山鉄道構想」です。今年6月に事業化を検討する予算が初めて計上されましたが、地元をはじめ反対の声は多い▼「世界遺産で山岳信仰のある富士山を、地元としてこれ以上手をつけることなく、今の状態で守るべき使命がある」。吉田口登山道のある富士吉田市の堀内茂市長が、共産党県議団との懇談で訴えています▼鉄道建設の課題や危険性も指摘されていることから「現実を知らない計画だ。富士山を稼ぐ道具にしてほしくない」とも。もともと財界と一体となって推進してきた計画で、検討委員会には経団連の名誉会長を筆頭に各企業の代表らがずらりと並んでいます▼1400億円もの整備費が見積もられている登山鉄道については党県議団も「海外富裕層の呼び込みが目的で、環境保全の点からも一貫して反対してきた」。県は名目の一つに環境負荷の低減をあげますが、電気バスの利用で十分対応できると。いまでさえ登山者の急増が問題となるなか、さらなる開発や呼び込みが環境悪化に拍車をかけることは必至です▼富士山に限らず、開発や災害で傷ついた各地の山々。山国日本にありながら山の環境や保全に寄せる人びとの関心は薄い。山に親しみ、山の恩恵に感謝する。きょうは山の日。


きょうの潮流 2023年8月10日(木)
 炎天下のソウルで1人デモが行われています。1923年9月1日の関東大震災時に起きた朝鮮人や中国人、社会主義者らの虐殺から1世紀。韓国でも真相究明を求める声が高まっています▼デモを主宰するのは市民の会「独立」。8月の1カ月間、メンバーが交代でプラカードを手に街頭に立ち、日韓政府に虐殺の実相を明らかにするよう求めています。李萬烈(イ・マンヨル)理事長は「事実を明らかにすることは、恨みを深化させることではない。許しと和解で解決していく契機に」と呼びかけました▼「独立」のメンバーは7月に来日し、虐殺の事実を記憶し続ける日本の市民と交流しました。荒川沿いで起きた虐殺の実態を掘り起こしてきた団体「ほうせんか」、74年から追悼式典を続けてきた日朝協会の人たちです▼墨田区の横網町公園にある追悼碑の前では、日朝協会東京都連の宮川泰彦会長が、都知事が追悼文の送付を拒否している問題を紹介。「100周年は終わりではなく、たたかいの始まりだ」と語る宮川氏の言葉を、参加者は深く胸に刻みました▼「独立」は帰国後、SNSにこうつづりました。「記憶を伝承したのは、在日朝鮮人と良心的な日本市民の連帯だった」「共感と連帯を通じ、平和をつくることに参加する」▼日本では8月から9月にかけ、追悼式や国会前のキャンドル集会などが計画されています。テーマは「歴史に向き合い、国家の責任を問い、再発を許さない共生社会への第一歩を!」。日韓の市民が共に歩む節目の年に。


きょうの潮流 2023年8月9日(水)
 仲むつまじい家族の写真や日記、柱時計や食器…。そこにあったのは、それぞれのくらしであり、夢や希望を抱いたかけがえのない人生でした▼ある一家が買ったピアノ。家族の一員のような存在で、奏でる音は幸せの象徴だったといいます。しかしあの日、爆風によってガラス片が突き刺さり、傾いてしまいました。修復して使ってきましたが、平和のために役立ててほしいと寄贈しました▼いま長崎の原爆資料館で収蔵資料展が開かれています。きのこ雲の下にあった生活と、それを残してきた人びとの思いにふれることで、被爆の実相を「自分ごと」としてとらえてほしいと。「もの言わぬ語り部」の重要性を訴え、いまも被爆資料収集の協力を呼びかけています▼被爆証言をほりおこす活動も続けられています。半世紀以上も前から被爆者や市民による証言、告発をすすめてきた「長崎の証言の会」。地道な聞き取りで被爆の実態を発掘。刊行してきた証言集は36集を重ね、若い書き手も加わっています▼「原爆の被害にはその影響とともに時間的なひろがりもある。それを記録して残すことが核兵器の恐ろしさを伝えることになる」。今年から同会の代表委員となった長崎総合科学大名誉教授の大矢正人さんは活動の意義を▼きょう、長崎原爆の日。ふたたび戦争を身近に感じ、軍拡が迫るなか、反戦反核の運動を継続してきた人たちは口をそろえます。いまほど草の根の力が必要なときはない。平和を守り抜くために力を合わせましょう。


きょうの潮流 2023年8月8日(火)
 先月100回を迎えて終了した本紙文化面の連載「ねんてん先生の文学のある日々」。惜しむ声や感謝の言葉が寄せられる中、ねんてん先生こと俳人の坪内稔典さんは79歳にして新たに「窓の会」を結成しました▼「句会、歌会、詩の朗読会、読書会、フリートーク、何でもあり。俳句を核に現代的な問題に広く関わりたい」。従来の結社にありがちな上下関係や閉鎖性を廃し、会員の呼称も同人ではなく「常連」。一人ひとりの自由を尊重します▼会の主要な活動の一つが各地で開催する「ことばカフェ」です。2日、池袋で開かれた第1回「ことばカフェ東京」に参加しました▼北海道から福岡までの約60人が集い、まずはねんてん先生と俳人の池田澄子さんが対談。池田さんといえば〈じゃんけんで負けて蛍に生まれたの〉が有名ですが、一句でも覚えてもらえるのはすごいことだとねんてん先生。あの子規も数万詠んだ句のうち知られているのは〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉のみ、と笑いを誘いました▼続いて句会ライブです。全員の投句を読み一人2句ずつ選句。選んだ人の数が句の点数に。10点を得た第一席は〈遠花火先生の手に醤油(しょうゆ)さし〉いたまきし、8点の次席は〈おそろいの浴衣おそろいの腎臓〉牧野冴。喚起される情景を語り合い、作者の意図を聞くのも楽しい▼言葉が思考と感受性を耕し、人をつなぐことを実感したひとときでした。最後に、いつもお守りにしているねんてん先生の句を。〈がんばるわなんて言うなよ草の花〉


きょうの潮流 2023年8月7日(月)
 追悼の祈りとセミの鳴き声。今年もまた原爆ドームの周りにさまざまな国や地域から人びとが集まりました。各集会や催し、交流や署名。平和をもとめる息吹に満ちた被爆地の姿です▼その思いに政府はこたえているのか。平和記念式典で広島の首長は核兵器廃絶の最大の障害となっている核抑止論をそろって批判しました。しかし岸田首相は、そのことにまったくふれず、具体的な行動も示しませんでした▼先のG7広島サミットでも世界の首脳を被爆地に集めながら、核兵器の役割を認め、核抑止論を公然と内外に示す恥ずべき姿をあらわに。それを手柄のように話した岸田首相に怒りがひろがりました▼このサミットを改めて検証した広島ホームテレビ制作の「原爆資料館 閉ざされた40分」。完全非公開とされた視察のなかで首脳たちが何を見て、何を感じたのか。番組は関係者らに迫りましたが、被爆者をはじめ失望や疑問の声が相次ぎました▼原爆が落とされた場所で、78年たった今も核なき世界へと動き出せない日本政府と核に固執する国々。G7首脳と面会した被爆者の小倉桂子さんは「広島から、新しい核のない世界に向かって一歩をふみだしてほしい」と。それは多くの願いでもあるはず▼待ち焦がれるような気持ちを共有し、平和のための行動を一人ひとりが心に刻む被爆地。原爆の日、広島市の小学生が読み上げた「平和への誓い」は変化を恐れる勢力に訴えかけるように響きました。「みなさんにとって『平和』とは何ですか」


きょうの潮流 2023年8月6日(日)
 色鮮やかな折り鶴の周りに人びとが集います。家族連れや学生、外国人の姿も。戦争の悲しみのない世を希求しながら▼広島の平和記念公園にたつ「原爆の子の像」。モデルとなった佐々木禎子さんのことを将来に語り継ぐための後継者づくりが始まっています。これまで同級生だった川野登美子さんらが中心となってきた証言活動。語り部の育成には被爆の風化と後退する平和教育への危機感があります▼いま平和記念資料館では「被爆体験伝承講話」が毎日開かれています。被爆者の体験や被爆の実相、そして自身の平和への思いを伝承者としてわかりやすく説き聞かせます▼被爆者が高齢化していくことから広島市が養成、2015年から活動を開始しました。いまでは20代をふくめ200人ほどが伝承者に。その数は年々増えているといいます▼一方で平和教育を教育の原点としてきた広島市の教材から「はだしのゲン」が消されました。理由や経緯は不明瞭ですが、「日本会議」や自民党の議員が参加する団体から削除を求める声が上がっていました。これには現場の教員や被爆者団体から批判が相次いでいます。なんのための平和教育かと▼ロシアが再三、核兵器を使うと脅し、米国では映画をめぐって原爆をやゆする画像がSNSで拡散。核なき世界の歩みに逆行する動きがあるなか、きょう78回目の8月6日をむかえます。伝承者は呼びかけます。「次の世代によりよい世界を渡さなければ。私たちの活動は平和への種まきなんです」


きょうの潮流 2023年8月5日(土)
 「涼しいエアコンの中で観戦している人には分からないのでしょう」。6日に開幕する全国高校野球選手権の試合開始時間をめぐる、青山学院大駅伝部の原晋監督のツイートです。3日の抽選会を見ながら、やはり、分からなかったようだと落胆しました▼4試合が組まれている日は午前8時に始まり、日中も試合が途切れません。決勝戦はおそらく1日で気温が最も高い時間帯の午後2時に開始。すべて例年通りで、近年の酷暑は何ら考慮されていません▼選手以上に過酷なのが観客です。「銀傘」と呼ばれる屋根に覆われているのは内野席まで。各校の応援団が座るアルプス席はさえぎるものがありません。銀傘はかつてアルプス席までありましたが、戦時中の1943年、金属供出のため取り外されました▼環境省の熱中症予防指針を見ても、31度以上は「激しい運動は中止」です。長期予報を見ると、甲子園球場周辺は35度前後まで上がる日が多い。せめて、早朝やナイターの時間帯中心にすべきです▼高校生たちに、命の危険さえ感じられる時間帯での全力プレーを求めているのは、それを美談として描いてきたメディアなどおとなたちです。灼熱(しゃくねつ)地獄で行われる高校野球を放送する傍ら、テロップで熱中症予防を呼びかけるNHKには、不条理さえ覚えます▼世界最高峰にまで到達した日本の野球ですが、競技人口は減少しています。暑さに耐えることを美徳とする「甲子園神話」にいつまでとらわれているのか。もはや脱却すべき時です。


きょうの潮流 2023年8月4日(金)
 「語り合い」というという言葉を、何度も何度もかみしめた「保育合研」でした▼保育者や保護者、研究者、学生らがつどう第55回全国保育団体合同研究集会。福島県郡山市で3日間、オンラインで全国と結びながら、語り合い、つながり合いました▼保育者と保護者との間で、思いがすれ違うこともしばしばです。良かれと思って、子どもの体調のことを細かく伝える保育者。ところが働き詰めの保護者は、自分を責められたような気がして「保育園が怖い」「話をしたくない」とつい心を閉ざしてしまった話も▼保育者にも余裕がありません。どんなに時間をかけても追いつかない業務量。人手は相変わらず、足りないままです。「私たちの大変さを知ってほしい」という思いは、保護者にとっても保育者にとっても切実です。安心して自分の大変さを言葉にできる場が大切なこと。おとな同士のつながりをつくるのが保育園の役割であることを改めて確かめ合いました▼全体会で、名城大学の蓑輪明子さんは「子どものケアが優先される社会へ」と、ケア中心の政策への転換を呼びかけました。すべての人が他者を配慮して支え合う。その関係を結べる場が保育園です。大阪大谷大学の長瀬美子さんは「多様な他者と出会い、いろいろな人がいることを学べる場」と。人が人として生きていくために、保育園の役割はやはり大きい▼保育者を孤立させない。保護者も孤立させない。おとな同士、やっとつないだ手を離さないよう今できることを。


きょうの潮流 2023年8月3日(木)
 信仰とは、戦争とは人間の善悪とは―。第2次大戦前に米国に留学した日本人の神学生を主人公に、人びとの心の変化を描いた戯曲「善人たち」。遠藤周作の未発表作品です▼きょうから劇団民藝が初演します。1970年代後半に書かれたそうですが、現在に通じる問題も背景に。差別や格差をえぐりだしながら、憎しみの感情はどこから生まれてくるのか、ほんとうの人間愛とは何かを問いかけてきます▼「善人たち」を含む3本の戯曲は2年前に長崎市の遠藤周作文学館で見つかりました。いまそこで、生誕100年の企画展「100歳の遠藤周作に出会う」が催されています。生涯や作品をたどることで遠藤文学の魅力を次の世代につなごうと▼文学館がたたずむ外海(そとめ)の地域はキリシタンの里と呼ばれ、小説『沈黙』の舞台となった場所です。戦争中に育った遠藤は「自分の生き方や思想・信念を暴力によって歪(ゆが)められざるをえなかった人間の気持」を小説のスタート地点としました(『沈黙の声』)▼「母親が私に着せてくれた洋服」と表現したキリスト教との葛藤。魂の救済や弱者に目をむけながら、人間の悲しみや苦しみによりそい、生きることに思い悩む人びとへの救いを追い求めました▼「小説家は迷いに迷っている人間なんです。暗闇の中で迷いながら、手探りで少しずつでも人生の謎に迫っていきたいと小説を書いているのです」(『人生の踏絵』)。展示された言葉から、背負い続けた作家の苦悩と味わい深さが伝わってきます。


きょうの潮流 2023年8月2日(水)
 宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」は賛否が分かれる映画です。冒険活劇にわくわくした、映像美に圧倒されたという絶賛から期待外れ、既視感のある場面が多いという否定派まで感想はさまざま▼主人公の少年眞人(まひと)は戦争中、空襲で母を亡くします。軍需工場主の父は、母の妹ナツコと再婚し、一家は地方へ疎開。ある日、姿を消したナツコを捜して、眞人が謎の塔へ入っていくと、そこは時空を超えた異世界でした。眞人はナツコを救い出すことができるか…▼眞人は塔の主から、世界の均衡を保つ役割を継いでほしいといわれます。「悪意に染まっていない石」を使えば、「奪い合い殺し合う」世界を変えることができると▼しかし「悪意」は眞人自身にもあります。どうするのか―。ここで映画の題名の元となった吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』を思い起こしました。友達を裏切った自責の念に苦しむコペル君に、おじさんはパスカルの言葉を送ります▼「人間は、自分自身をあわれなものだと認めることによってその偉大さがあらわれるほど、それほど偉大である」「王位を奪われた国王以外に、誰が、国王でないことを不幸に感じる者があろう」。過ちを知る人間は、それを正せるのだと▼宮崎監督は漫画版『風の谷のナウシカ』のラストで、単純な「清浄な世界」を否定し「清浄と汚濁こそ生命だ」と書きました。みずからの汚濁と悪意を引き受けてこそ未来がある。10年ぶりの新作に込めた監督のメッセージです。

きょうの潮流 2023年8月1日(火)
 月が替わっても変わらないのが物価高。8月も1000品目以上の食品が値上げされ、今年の値上げ品目数はとうとう3万をこえました。すでに昨年1年間の数を上回っています▼これだけ続くと買い控えも値上げ疲れも限界に。消費者物価指数が22カ月連続で上昇する一方で、実質賃金は14カ月連続の減少。そこに猛暑や大雨も加わり、くらしの苦難は耐えがたいほどになっています▼そんななかフランスに「研修中」という自民党女性局のふるまいが批判を浴びています。エッフェル塔前でポーズをとった写真や、宮殿内の記念撮影を次々とSNSに投稿。参加者全員がエッフェル塔を背景に「自民党女性局」と赤文字で大きく記された横断幕を手にする画像も▼これには「どう見ても観光旅行」「世間と感覚がズレている」と非難する声が殺到。参加者の投稿によれば一行は国会議員を含む38人。旅費については「党からの支出と相応の自己負担」で賄っているといいます。政党助成金は税金なのに…▼海外視察をめぐっては、香川県議会をはじめ、あまりの高額な旅費がたびたび問題になっています。ほんとうにそれが必要なのか、視察や研修の中身はどうなっているのか―。厳しい目が向けられるなか、無反省さが際立ちます▼先日、岸田首相は「今年の夏は改めて政権発足の原点に戻り、現場の声、さまざまな声を聞く取り組みを進めている」と。ならばまず、国民が苦しんでいる姿を足元からしっかりと見るように指導してもらいたい。

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