大幅な賃上げ実現 アメリカの労働運動

しんぶん赤旗日曜版2023年11月12日掲載記事 経済これって何 ※記事pdf

20231112日曜版

経済 これって何  しんぶん赤旗日曜版2023年11月12日号

米ゼネラル・モーターズ(GM)の工場でストライキに参加する労働者=10月30日、テネシー州スプリングヒル(ロイター)

 米国の労働運動が新たな広がりを見せ、ストライキで労働者の生活を改善しようとする動きが活発になっています。
 ゼネラルーモーターズ (GM)、フォードーモーター、ステランティス (旧クライスラー)のビッグ3に対して、9月15日から史上初の同時ストに突入していた全米自動車労組(UAW)が、10月30日までに3社と暫定合意に達しました。
 UAWによると一般労働者の賃上げ率は3社共通して直ちに11%、今後4年半で25%、初任給は約7割増、「搾取されてきた」派遣社員は150%以上の賃上げを勝ち取りました。バイデン大統領は「素睛らしい」と称賛しています。
 これに先立つ5月2日、全米脚本家組合(WGA)は、動画配信サービス普及の中で作品の視聴回数に応じた再使用料の支払いを訴え、制作チームへの脚本家の配置義務やAI(人工知能)に仕事を奪われないための保護策を求めてストライキに入りました。7月には全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)もストに参加しました。
 WGAは9月24日、全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に対し、12.5%の賃上げ、ネット配信での視聴率に基づいた手当の支給、AI規制政策などの暫定合意を勝ち取りました。
 労働運動の活発化の背景には、コロナ禍で深刻になったインフレ(物価高騰)がいまだ収まらず、国民生活を圧迫していることがあります。米連邦準備制度理事会(FRB)は金利を引き上げて物価の鎮静化を図っていますが、インフレはなかなか収まりません。
 しかも、このインフレ期に、大企業の最高経営責任者(CEO)の報酬は物価上昇率を超えて大幅に上昇しています。米民間シンクタンクの経済政策研究所の9月の報告によると、22年の米大企業350社のCEOの平均報酬は、一般労働者の賃金の344倍になりました。一般労働者の賃金も名目では上昇していますが、物価上昇率を差し引いた実質賃金はマイナスです。
 バイデン政権は発足以来、「労働組合こそ、戦後米国の経済的繁栄の基盤となってきた」という姿勢を崩していません。
 22年4月に公表された米大統領経済報告で、バイデン大統領は次のように言います。
  「労働組合がなければ、労働者は、より高い賃金、より良い労働条件、家族の将来的保障、そして、職場における声を確保する交渉力をしばしば欠落させることになる。しかしながら、われわれは、ほぼこの70年にわたって労働者の力が減退してきたことをみてきた。労働者が組織化によって再び力を獲得する方法を見つけ出すことによって、常に米国経済のバックボーンである米国の労働力を、強化する道を見つけねばならない理由がそこにある」
 バイデン政権の労働組合運動を応援する経済政策も、労働運動活発化の背景にあることは間違いないといえます。
 萩原仲次郎(はぎわら・しんじろう 横浜国立大学名誉教授)