不法な入植・封鎖 逆効果

※しんぶん赤旗2023年11月26日(日)掲載 ガザ危機と日本外交 有識者に聞く ※記事pdf

しんぶん赤旗20231126

ガザ危機と日本外交 有識者に聞く

しんぶん赤旗2023年11月26日(日)
法政大学名誉教授(中東現代史)  奈良本英佑さん

不法な入植・封鎖 逆効果

ならもと・えいすけ 1941年生まれ。法政大学名誉教授。元毎日新聞記者。専門は中東現代史。主な著書は「君はパレスチナを知っているか」「パレスチナの歴史」など

 ガザ地区へのイスラエルの大規模な攻撃が極めて悲惨な状況をひき起こしています。きっかけとなったのは、ハマスのイスラエルへの奇襲攻撃です。しかし、事態を引き起こした背景には、パレスチナ自治区(占領地)の置かれた過酷な状況があります。

  合意の精神無視

 イスラエル・パレスチナ問題の節目の一つ、がオスロ合意(1993年)です。そこで、占領地にパレスチナ自治区をつくることが合意されました。限定的な自治から始め、次第に自治を拡大していく。最終的にどうするかは、交渉で決めることになっていました。終着点は、合意には書かれていませんでした。ポイントは交渉で決めるというところです。軍事的な解決などありえませんでした。イスラエルが今後攻撃によってガザ地区を支配することになれば、それはすでに空文化していたオスロ合意の破棄に等しくなります。
 イスラエルは、当初から合意の精神に反することを行っていました。占領地での入植地の建設を止めなかったのです。これが、非常に大きなつまずきの出発点だと思います。
 実は自治区と言っても、当初の「限定的な自治」はそのままで、警察権と行政権がイスラエルにある地域が相当な面積を占めています。イスラエルは、その地域を中心に、いろんな理由をつけて、軍事基地をつくり、イスラエル人の居住地もつくっていきました。国際法でも認められていないことです。パレスチナの人々が激しく反発したことは当然です。

  牢獄よりも悪い

 一方、ガザ地区では2005年にイスラエル軍は完全に撤退しました。入植地も撤去しました。西岸地区とは状況が違います。しかし、2007年以降、イスラエルおよび欧米諸国が、ガザ地区を支配していたハマスによる「テロ」を理由にガザ地区を封鎖しました。燃料と電気、水、食料品などの流入が極度に絞られてしまっています。
 “天井なき牢獄(ろうごく)”と言われていますが、牢獄より悪い状況です。若者の失業率は、約60%と言われています。ガザ内には仕事がすくなく、「出稼ぎ」にも行けない。ハマスから、「うちの兵隊にならないか」と誘われたら入ってしまう。
 イスラエルとしては、ハマスは「テロリスト」であり、勢力を封じ込めないといけない。できれば、ハマスの政権をつぶしたいという思惑があったと思います。結局は逆効果だったと言えます。
 ハマスによる市民を巻き込んだ攻撃や市民を人質とすることは、決して許されません。一方、今回の事態の背景に、イスラエルがパレスチナ人の命と人権をないがしろにしてきた長い歴史があったことは知っておくべきです。    (若林明)